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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H
管理番号 1138747
審判番号 不服2003-21683  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-11-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-06 
確定日 2006-06-23 
事件の表示 平成11年特許願第109474号「自動変速機の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月 2日出願公開、特開2000-304128〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明1
本願は、平成11年4月16日の出願であって、その請求項1及び請求項2に係る発明は、平成15年9月5日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】予め設定された制御開始条件が成立したときに、所定変速段を達成する特定の摩擦係合要素を所定のスリップ状態に制御するスリップ状態制御手段と、
運転者の発進意志に基づいて所定の制御解除条件が成立したときに、前記摩擦係合要素を係合状態に復帰させる係合制御手段と、
前記係合制御手段による係合状態への復帰中において、エンジントルクの増加が判定されたときに、前記摩擦係合要素に対する係合力を増加補正する係合力増加手段と、
自動変速機のライン圧の増減を検出するライン圧検出手段と、
前記自動変速機のライン圧の増加に応じて前記係合力増加手段による係合力の増加補正を抑制する過補正防止手段と
を備えたことを特徴とする自動変速機の制御装置。」

2.刊行物に記載された発明
(刊行物1)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-72416号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「自動変速機の制御装置」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「ステップS1 自動変速機制御装置41(図1)は第1クラッチ解放制御処理を行う。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ステップS2 インニュートラル制御処理を行い、ニュートラル制御状態を形成する。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ステップS3 自動変速機制御装置41の加圧手段105は第1クラッチ係合制御処理を行う。」(第6頁10欄44行〜第7頁11欄17行)
(イ)「ステップS1-2 ニュートラル制御の開始条件が成立するのを待機する。同時に図示しない第1タイマの計時を開始する。
この場合、前記クラッチ入力側回転数NC1がほぼ0になったこと、図示しないアクセルペダルが解放されていてスロットル開度θが所定値以下であること、油温センサ46(図2)によって検出された油温が所定値以上であること、図示しないブレーキペダルが踏み込まれていてブレーキスイッチ48がオンであることの各条件のすべてが満たされると、開始条件が成立したと判断される。」(第7頁11欄38行〜48行)
(ウ)「ステップS1-11 C-1油圧PC1を、次の式に示すように、設定時間TDOWNが経過するごとに設定圧PTHDOWNずつ低く(スイープダウン)する。
PTH=PTH-PTHDOWNステップS1-12 第1クラッチC1の解放状態が形成された後、速度比e(=NC1/NE )が定数e1 より大きくなるまでステップS1-11による減圧を継続し、速度比eが定数e1 より大きくなると、ステップS1-11の減圧を停止して処理を終了し、」(第7頁12欄48行〜第8頁13欄6行)
(エ)「ステップS2-14 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ このようにして、C-1油圧PC1を設定圧ΔPDOWNだけ低くした後、早めに設定圧ΔPUPだけ高くすることができるので、第1クラッチC1を常に引きずり領域からスリップ領域に移行する直前の状態に維持することができる。」(第11頁19欄36行〜20欄13行)
(オ)「ステップS3-2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ したがって、運転者が発進操作を行って、車両の停止状態から発進状態への移行が検出されると、前記参照C-1油圧PC1m に定数PC1S が加算されて油圧サーボC-1に供給される油圧が高くされ、第1クラッチC1は半係合状態にされる。続いて、油圧サーボC-1に供給される油圧が更に高くされ、第1クラッチC1は完全係合状態にされる。」(第12頁21欄25行〜41行)
(カ)「この場合、前記定数PC1S 、圧力PB 及び設定圧ΔPB の設定値はスロットル開度θ等の入力トルクTT に対応した変数に基づいて設定される。」(第12頁22欄23行〜25行)

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明)
「ニュートラル制御の開始条件が成立したときに、第1クラッチの油圧サーボへの供給油圧を速度比e(=NC1/NE )が定数e1 より大きくなるまで減圧し、第1クラッチを引きずり領域からスリップ領域に移行する直前の状態に維持する手段と、運転者が発進操作を行って、車両の停止状態から発進状態への移行が検出されると、上記供給油圧を高めて第1クラッチを半係合状態を経由して完全係合状態にする手段と、該係合状態への復帰時に上記供給油圧の算出に用いる定数を入力トルクに対応した変数に基づいて設定する手段とを備えた自動変速機の制御装置。」

(刊行物2)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-184880号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「自動変速機の制御装置」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(キ)「しかしながら、停止前シフトやN-D/N-Rシフトにおいては図7におけるエンジン回転速度が低い領域での変速であるため、変速のためのライン圧が急激かつ不安定に変動する。また停止前シフト中に運転者のスロットル踏み込みによる再加速が行われた場合にはエンジン回転速度が上昇するためオイルポンプの吐出量が増加し、ライン圧が急激かつ不安定に変動する。それゆえ上記シフトのようにエンジン回転速度の低い領域でのシフトにおいては、エンジン回転速度によってデューティ駆動制御に対する補正を行うと、大きな誤差が生じシフトショックにつながるという問題点があった。
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、油圧制御装置内に取り付けられた圧力センサにより検出された油圧制御装置内のライン圧を制御装置に取り込み、取り込んだライン圧に応じてソレノイドバルブへのデューティ駆動制御に補正を行うことによって、ライン圧の変化に対するデューティ駆動制御への補正の精度を向上させることを目的とする。」(第2頁2欄10行〜28行)
(ク)「図6はこの発明の実施の形態1におけるN-D/N-Rおよび停止前シフト制御サブルーチンのフローチャートである。ステップS200では予めROM607に設定されたマップから図5のステップS105で演算した変速機出力軸トルクなどエンジンの負荷度に応じて、ソレノイドバルブへのデューティ駆動制御におけるデューティベース値D0を読み取る。ステップS201では予めROM607に設定されたマップから図5のステップS102で読み込んだ油圧制御装置3内のライン圧によりステップS200で読み取ったデューティベース値に対する補正係数を読み取る。ステップS202ではステップS200で読み取ったデューティベース値に、ステップS201で読み取った補正係数を掛け合わせて、ソレノイドバルブを駆動する出力デューティDを演算する。」(第7頁12欄31行〜45行)

3.対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「ニュートラル制御の開始条件が成立したとき」は本願発明1の「予め設定された制御開始条件が成立したとき」に相当し、以下同様に「第1クラッチ」は「所定変速段を達成する特定の摩擦係合要素」に、「運転者が発進操作を行って、車両の停止状態から発進状態への移行が検出されると」は「運転者の発進意志に基づいて所定の制御解除条件が成立したとき」に、「上記供給油圧を高めて第1クラッチを半係合状態を経由して完全係合状態にする手段」は「前記摩擦係合要素に対する係合力を増加補正する係合力増加手段」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「油圧サーボへの供給油圧を速度比e(=NC1/NE )が定数e1 より大きくなるまで減圧し、第1クラッチを引きずり領域からスリップ領域に移行する直前の状態に維持する手段」は図7からも明かなように要するにニュートラル制御手段を表すものであって、本願発明1の「所定のスリップ状態に制御するスリップ状態制御手段」に相当している。
そして、引用発明のように第1クラッチの油圧サーボへの供給油圧の算出に用いる定数を入力トルクに対応した変数に基づいて設定すれば、図10からも明かなように第1クラッチに対する係合力をエンジントルクの増加に応じて増加補正することになるから、引用発明の「上記供給油圧の算出に用いる定数を入力トルクに対応した変数に基づいて設定する手段」は本願発明1の「エンジントルクの増加が判定されたときに、前記摩擦係合要素に対する係合力を増加補正する係合力増加手段」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明とは、本願発明1の用語を用いて記載すると下記の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「予め設定された制御開始条件が成立したときに、所定変速段を達成する特定の摩擦係合要素を所定のスリップ状態に制御するスリップ状態制御手段と、
運転者の発進意志に基づいて所定の制御解除条件が成立したときに、前記摩擦係合要素を係合状態に復帰させる係合制御手段と、
前記係合制御手段による係合状態への復帰中において、エンジントルクの増加が判定されたときに、前記摩擦係合要素に対する係合力を増加補正する係合力増加手段と
を備えた自動変速機の制御装置。」である点。
(相違点)
本願発明1は、「自動変速機のライン圧の増減を検出するライン圧検出手段と、前記自動変速機のライン圧の増加に応じて前記係合力増加手段による係合力の増加補正を抑制する過補正防止手段」を備えるのに対し、引用発明ではそのような構成を備えていない点。

以下、上記相違点について検討する。
刊行物2には上記摘記事項(ク)からみて、「油圧制御装置内のライン圧を読み込み、そのライン圧に応じた補正係数をデューティベース値に掛け合わせてソレノイドバルブを駆動する出力デューティDを演算する」点が記載されている。
ここで刊行物2に記載された発明は例えばN-Dシフト時の制御であるが、N-Dシフト時とニュートラル制御から係合状態への復帰時とは、所定変速段を達成する特定の摩擦係合要素を係合させる点については共通するものであって、刊行物2に記載された上記技術事項を引用発明のニュートラル制御から係合状態への復帰時に適用する点に格別の困難性はない。
そしてライン圧が増加すれば係合力が意図せず増加してしまうことは当業者が普通に認識する事項であるから、刊行物2に記載された上記技術事項を引用発明に適用すれば、上記意図しない係合力の増加を相殺するために結果としてエンジントルク増加に伴う係合力増加手段による係合力の増加補正を抑制することになることは当業者であれば容易に理解する事項である。
してみると、引用発明に刊行物2に記載された技術事項を適用して相違点に係る本願発明1の構成に想到することは当業者が容易になし得たことである。

また、本願発明1の効果を検討しても、引用発明及び刊行物2に記載された発明から、当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別のものとはいえない。

なお、審判請求人は請求の理由において、「本願請求項1に係る発明の困難性は、摩擦係合要素の係合力の増加補正とライン圧の影響との因果関係に着目したことにある。即ち、ニュートラル制御が解除されて車両が発進する際には、エンジン回転速度が必ずライン圧の変動領域(エンジン回転速度に略比例してライン圧が増加する領域)を横切ることになるため、エンジントルクに基づいて摩擦係合要素の係合力が増加補正されていると過補正を引き起こしてしまう。この現象を認識して始めて本願請求項1に係る発明を想到することができる。」と主張している。
しかしながら、刊行物2の上記摘記事項(キ)には、エンジン低回転領域におけるライン圧の変動の問題が記載されており、その解決手段であるライン圧の変化に応じたデューティ駆動制御の補正を引用発明に適用する上で格別の困難性がないこと、及び引用発明に刊行物2に記載された技術事項を適用すれば結果としてエンジントルク増加に伴う係合力増加手段による係合力の増加補正を抑制することになることが当業者であれば容易に理解する事項であることは上記したとおりであるから、審判請求人の主張は採用できない。

4.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-20 
結審通知日 2006-04-26 
審決日 2006-05-09 
出願番号 特願平11-109474
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 村本 佳史
藤村 泰智
発明の名称 自動変速機の制御装置  
代理人 長門 侃二  

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