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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06F
管理番号 1138830
審判番号 不服2003-16657  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-09-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-28 
確定日 2006-06-21 
事件の表示 特願2000- 56188号「高電位による洗濯機」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月 4日出願公開、特開2001-239087号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年3月1日の出願であって、平成15年7月28日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年8月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成15年9月26日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成15年9月26日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年9月26日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「枠(2)の内部に電気的に絶縁して支持され、導電性の材質からなる洗浄槽(1)と、
洗浄槽(1)内に設けられた垂直方向のシャフト(6)に、上下に間隔をおいて取り付けられ水の対流を生じさせる複数の振動羽根(5)を備えた振動攪拌機(4)と、
洗浄槽(1)内の水に大地に対して電気的に絶縁して高電圧を印加する高圧変圧器(3)と、
洗浄槽(1)の上面を覆う開閉可能な絶縁材質の蓋(11)であって、開放時には電源が自動的に切断される蓋(11)と、
洗浄槽(1)内の洗濯物を投入する領域と振動攪拌機(4)を設けた領域との間に配置され多数の小孔を備えた区分壁(7)とからなり、
洗剤を使用せず、洗剤のゆすぎを不要としたことを特徴とする高電位による洗濯機。」

2.補正の目的
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「振動羽根」に「水の対流を生じさせる」との限定を付加すると共に、「洗浄槽」に「洗浄槽(1)の上面を覆う開閉可能な絶縁材質の蓋(11)であって、開放時には電源が自動的に切断される蓋(11)」との限定を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないので、上記補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開平9-9915号公報(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア.「【課題を解決するための手段】本発明は・・・高圧交流静電位発生装置から導電線で結線された絶縁ゴムで包接された電子放射電極板を洗濯機の本体の壁または撹拌用モーターのケーシングに取り付け、高圧交流静電位発生装置から発生する高圧交流静電位をその電子放射電極板に印加しながら洗濯を行う方法を提供する。」(【0004】)
イ.「洗濯機の本体に高圧交流静電位を印加しながら洗濯を行うことによって、被洗濯衣料が陰電荷の▲-▼にイオン化される。と同時に汚れも▲-▼にイオン化され、お互いに反発力を生じ汚れを剥離させる剥離力として作用する。一方▲-▼にイオン化された汚れは水の浸透性を手助けし、汚れの水和反応を促進し、溶解性を高め、衣料から汚れを剥離するように作用する。また高圧交流静電位を印加した洗濯用水はより小さな水分子集団の構造水となり、より浸透性のよい洗濯用水に転化する。・・・使用する水、洗剤量および洗濯時間などを大幅に削減することができる。」(【0006】)
ウ.「【作用】本発明の高能率電子洗浄法の作用は・・・イオン化作用、浸透作用・・・によって効能率の洗濯効果を発揮するものである。」(【0007】)
エ.「【実施例】・・・本発明の実施例を図面 1)、2)に基いて説明する。第1図に示す電気洗濯機本体*4内に内蔵してある高圧交流静電位発生装置*1から導電線*5で結線された絶縁ゴムで包接された電子放射電極*2を洗濯機本体*4又は撹拌モーター*3に取り付け、この電極に高圧交流静電位50サイクル1200V印加しながら洗濯を行った。」(上記の*付数字は丸付き数字である。)(【0008】)
オ.「【発明の効果】本発明の高能率電子洗濯法においては、・・・水の浸透性を高め、汚れの溶解性を増大させ、かつ静電反撥力の作用によって汚れを取りやすくするなど、すぐれた洗浄効果を発揮する。・・・また洗剤の使用量を30〜50%節減できると共に、洗濯に使用する水の使用量も節減できる。特にすすぎ水が少なくてすむので洗濯に要する時間の短縮につながることがわかった。」(【0010】)
カ.「【図面の簡単な説明】
【図1】洗濯機本体が金属性の場合の電子洗濯法を採用した電子洗濯機」
との記載が認められる。また、洗濯用水に高圧交流静電位を印加して使用する洗濯機であることから、洗濯用水は大地に対して絶縁されているものと認められる。
これらの記載によれば、引用例1には、
「金属製の洗濯機本体と、撹拌モーターと、洗濯機本体に絶縁ゴムで包接された電子放射電極板を取り付け、この電極板に高圧交流静電位発生装置から発生する高圧交流静電位を印加して洗濯用水に大地に対して電気的に絶縁して高圧交流静電位を印加する電子洗濯機」の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されていると認めることができる。
そして、この引用発明1は洗濯用水に高圧交流静電位を印加することにより、水の浸透性を高め、汚れを陰電荷にイオン化して汚れの溶解性を増大させ、すぐれた洗浄効果を発揮する。そのため洗剤の使用量を30〜50%節減できると共に、すすぎ水が少なくてすむものである。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-290号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に、
キ.「【課題を解決するための手段】本発明は、・・・洗濯液(8)の渦流撹拌の代りに駆動装置(1)に連結された主軸(2)に固定されている振動板(3)を洗濯槽(4)内に設けて振動板(3)を振動させて、洗濯液(8)に振動波を発生せしめて、被洗濯物(7)を、お互に絡ませることなく、洗濯できる構造としたものである。
さらに、被洗濯物(7)と振動板(3)とが直接接触するのを避けるため、仕切り(6)を設けた構造や、籠(14)に被洗濯物(7)を入れる構造としたものである。」(【0004】)
ク.「【実施例】・・・図1は本発明による洗濯機の平面断面図、図2は側面断面図である。振動波発生機(15)は駆動装置(1)と主軸(2)および主軸(2)に固定された複数の振動板(3)とより成り、洗濯槽(4)に固定された架台(5)の上に固定されている。・・・また、金網状の如き多孔物体の仕切り(6)にて主軸(2)および振動板(3)が被洗濯物(7)に直接接触しない様に主軸(2)および振動板(3)を覆うように架台(5)に固定して吊り下げられている。この洗濯槽(4)内に被洗濯物(7)および、洗濯液(8)を入れて、振動板(3)を振動させると洗濯液(8)中で図1および図2に矢印で示すように振動波が発生し、伝播して行く。」(【0006】)
ケ.「【発明の効果】本発明は洗濯機で被洗濯物を洗濯する場合に被洗濯物が互に絡み合う不都合を解消するという効果を生ずる。したがって、洗濯による被洗濯物の傷みも少なくなるという効果が生ずる。」(【0007】)
コ.第2図には、洗濯槽(4)に垂直方向に主軸(2)を設け、かつ、主軸(2)に上下方向に間隔をおいて振動板(3)が取り付けられていることが図示されている。
これらの記載と図面の記載を総合すれば、引用例2には、
「洗濯槽(4)内に設けられた垂直方向の主軸(2)に、上下に間隔をおいて取り付けられた水に振動波の伝播を生じさせる複数の振動板(3)を備えた振動波発生機(15)と、洗濯槽(4)内の洗濯物を入れる領域と振動波発生機(15)を設けた領域との間に配置され金網状の如き多孔物体の仕切り(6)を備えた振動波式洗濯機」の発明(以下、「引用発明2」という。)が開示されていると認めることができる。

(2)対比
そこで、本願補正発明と引用発明1を対比すると、機能、構造からみて、引用発明1の「洗濯機本体」が本願補正発明の「洗浄槽(1)」に相当し、以下同様に「高圧交流静電位発生装置」が「高圧変圧器(3)」に、「洗濯用水」が「洗浄槽内の水」に、「電子洗濯機」が「高電位による洗濯機」にそれぞれ相当し、金属は導電性を有するから、両者は、
「導電性の材質からなる洗浄槽と、洗浄槽内の水に大地に対して電気的に絶縁して高電圧を印可する高圧変圧器からなる高電位による洗濯機」の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
(相違点1)
本願補正発明は洗浄槽が枠の内部に電気的に絶縁して支持されているのに対し、引用発明1はその点が明らかでない点。
(相違点2)
本願補正発明は洗浄槽(1)内に設けられた垂直方向のシャフト(6)に、上下に間隔をおいて取り付けられ水の対流を生じさせる複数の振動羽根(5)を備えた振動攪拌機(4)と、洗浄槽(1)内の洗濯物を投入する領域と振動攪拌機(4)を設けた領域との間に配置され多数の小孔を備えた区分壁(7)を備えた洗濯作動機構により洗濯を行うのに対し、引用発明1は撹拌モーターを用いた洗濯作動機構により洗濯を行う点。
(相違点3)
本願補正発明は洗浄槽(1)の上面を覆う開閉可能な絶縁材質の蓋(11)であって、開放時には電源が自動的に切断される蓋(11)を有するのに対し、引用発明1はその点が明らかでない点。
(相違点4)
本願補正発明は洗剤を使用せず、洗剤のゆすぎを不要とした洗濯機であるのに対し、引用発明1は洗剤の使用量を節減できると共に、すすぎ水が少なくてすむ洗濯機である点。

(3)相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
引用発明1は導電性の材質からなる洗浄槽に高電位を印加して使用するものであるから(前記(1)イの「洗濯機の本体に高圧交流静電位を印加しながら洗濯を行うことによって」を参照。)、導電性の材質を高電位に保つためには絶縁して支持しなければならず、相違点1のように洗濯機枠に対して洗浄槽を電気的に絶縁して支持することは当業者が設計事項として容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
引用発明2の「主軸(2)」が本願補正発明の「シャフト(6)」に相当し、以下同様に「振動波の伝播」が「対流」に、「振動板(3)」が「振動羽根(5)」に、「振動波発生機(15)」が「振動撹拌機(4)」に、「被洗濯物を入れる領域」が「洗濯物を投入する領域」に、「金網状の如き多孔物体の仕切り(6)」が「多数の小孔を備えた区分壁(7)」にそれぞれ相当するものであるので、引用発明2には、「洗浄槽内に設けられた垂直方向のシャフトに、上下に間隔をおいて取り付けられ水の対流を生じさせる複数の振動羽根を備えた振動攪拌機と、洗浄槽内の洗濯物を投入する領域と振動攪拌機を設けた領域との間に配置され多数の小孔を備えた区分壁を備えた洗濯作動機構」の発明が記載されていると認められる。そして、両発明が共に洗濯機に関するものであり、かつ、引用発明2の洗濯作動機構を引用発明1に適用することに阻害要因があるものとも認められないことから、引用発明1に記載された撹拌モーターからなる洗濯作動機構に代えて、引用発明2の洗濯作動機構を適用して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点3について)
まず、引用発明1も洗濯機であるから、当然洗浄槽の蓋を具備するものであり、この蓋は洗浄槽を高電位にして使用することから、安全のために絶縁材質のもので形成されているものと認められ、この点は実質的な相違点ではない。次に、本願補正発明は、安全のため、蓋を開けたときに電源を切るようにしたものであるが、この点については洗濯機の分野において安全のために蓋の開閉に伴って電源を切断することは周知技術(例えば、特開昭48-64761号公報参照。)であって、相違点3のようにすることは周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点4について)
本願補正発明において洗剤を使用しないで汚れを洗い流せるのは、洗浄槽内の水に高電位を印加することにより水が繊維に浸透しやすくなり、またイオンが発生し油成分を溶解するためである。ところで、引用発明1は洗濯用水に高圧交流静電位を印加することにより、水の浸透性を高め、汚れを陰電荷にイオン化して汚れの溶解性を増大させるものであって、両発明の汚れの洗い流し方に差異がないことから、引用発明1においても汚れの程度によっては洗剤を使用しない使い方も可能であり、相違点4のように洗剤を使用しないことは当業者が容易に想到し得たことである。なお、洗剤を使用しなければ洗剤のゆすぎが不要となることは明らかである。

そして、本願補正発明の作用効果は引用発明1及び引用発明2並びに周知技術から予測される範囲のものにすぎない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
したがって、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成15年9月26日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年1月17日付けの手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「枠(2)の内部に電気的に絶縁して支持され、導電性の材質からなる洗浄槽(1)と、
洗浄槽(1)内に設けられた垂直方向のシャフト(6)に、上下に間隔をおいて取り付けられた複数の振動羽根(5)を備えた振動攪拌機(4)と、
洗浄槽(1)内の水に大地に対して電気的に絶縁して高電圧を印加する高圧変圧器(3)と、
洗浄槽(1)内の洗濯物を投入する領域と振動攪拌機(4)を設けた領域との間に配置され多数の小孔を備えた区分壁(7)とからなり、
洗剤を使用せず、洗剤のゆすぎを不要としたことを特徴とする高電位による洗濯機。」

1.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1及び引用例2の記載事項は、前記「第2 3(1)」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、前記「第2 1」で検討した本願補正発明から、「振動羽根」の限定事項である「水の対流を生じさせる」との発明特定事項を省き、「洗浄槽」の限定事項である「洗浄槽(1)の上面を覆う開閉可能な絶縁材質の蓋(11)であって、開放時には電源が自動的に切断される蓋(11)」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3(3)」に記載したとおり、引用発明1及び引用発明2並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-19 
結審通知日 2006-04-24 
審決日 2006-05-09 
出願番号 特願2000-56188(P2000-56188)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D06F)
P 1 8・ 575- Z (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大橋 康史中川 隆司佐伯 義文  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 柳 五三
森川 元嗣
発明の名称 高電位による洗濯機  
代理人 小沢 慶之輔  
代理人 小塚 勉  

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