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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G10H
管理番号 1138954
審判番号 不服2004-26376  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-09-11 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-12-27 
確定日 2006-07-18 
事件の表示 平成 9年特許願第 60113号「電子楽器」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月11日出願公開、特開平10-240247、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は平成9年2月28日の出願であって、平成16年11月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成17年1月14日付けで手続補正がなされたものである。
また、平成17年2月9日に審査官により前置報告がなされたので、当審において平成18年3月3日付けで審尋したところ、平成18年4月26日に請求人より回答書が提出された。

2.平成17年1月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)について
(1)本件補正の補正事項
本件補正は、下記(ア)ないし(ウ)の補正事項を含む。

(ア)特許請求の範囲の請求項1につき、
「【請求項1】 楽音制御乃至発音制御を行う演算処理装置と、該演算処理装置のプログラムを記憶するプログラムメモリと、波形データを記憶するデータメモリと、該データメモリに記憶された波形データに基づき楽音を発生し、且つ前記演算処理装置により制御される楽音発生回路とを有すると共に、前記演算処理装置とプログラムメモリとを同一素子上に集積すると共に、前記データメモリに波形データの他、前記演算処理装置をして前記楽音発生回路より発生される楽音を制御する音色パラメータ乃至自動伴奏パターンデータを一緒に記憶せしめて、前記楽音発生回路及び演算処理装置と回路的に接続せしめたことを特徴とする電子楽器。」であったところ、
「【請求項1】 楽音制御乃至発音制御を行う演算処理装置と、該演算処理装置の動作プログラムを記憶する小容量のプログラムメモリと、波形データを予め記憶する、該プログラムメモリに比して大容量のデータメモリと、該データメモリに記憶された波形データに基づき楽音を発生し、且つ前記演算処理装置により制御される楽音発生回路とを有すると共に、前記演算処理装置とプログラムメモリとを専用バスで接続し同一素子上に集積すると共に、前記データメモリに波形データの他、前記演算処理装置をして前記楽音発生回路より発生される楽音を制御する音色パラメータ乃至自動伴奏パターンデータを一緒に記憶せしめて、前記楽音発生回路及び演算処理装置と回路的に接続せしめたことを特徴とする電子楽器。」とする。
(イ)発明の詳細な説明の段落【0006】の記載につき、
「【課題を解決するための手段】
そのため本発明に係る電子楽器の構成は、楽音制御乃至発音制御を行う演算処理装置と、該演算処理装置のプログラムを記憶するプログラムメモリと、波形データを記憶するデータメモリと、該データメモリに記憶された波形データに基づき楽音を発生し、且つ前記演算処理装置により制御される楽音発生回路とを有すると共に、前記演算処理装置とプログラムメモリとを同一素子上に集積すると共に、前記データメモリに波形データの他、前記演算処理装置をして前記楽音発生回路より発生される楽音を制御する音色パラメータ乃至自動伴奏パターンデータを一緒に記憶せしめて、前記楽音発生回路及び演算処理装置と回路的に接続せしめたことを基本的特徴としている。」であったところ、
「【課題を解決するための手段】
そのため本発明に係る電子楽器の構成は、楽音制御乃至発音制御を行う演算処理装置と、該演算処理装置の動作プログラムを記憶する小容量のプログラムメモリと、波形データを予め記憶する、該プログラムメモリに比して大容量のデータメモリと、該データメモリに記憶された波形データに基づき楽音を発生し、且つ前記演算処理装置により制御される楽音発生回路とを有すると共に、前記演算処理装置とプログラムメモリとを専用バスで接続し同一素子上に集積すると共に、前記データメモリに波形データの他、前記演算処理装置をして前記楽音発生回路より発生される楽音を制御する音色パラメータ乃至自動伴奏パターンデータを一緒に記憶せしめて、前記楽音発生回路及び演算処理装置と回路的に接続せしめたことを基本的特徴としている。」とする。
(ウ)発明の詳細な説明の段落【0013】の記載につき、
「上記ROM-D5に記憶された音色パラメータや自動伴奏パターンデータは、演算処理装置3へのアクセスが許可された場合に、データ読みだし要求に従って、メモリアドレス制御回路12を介してROM-D5から演算処理装置3側へ読み出されることになる(CA・・・・CPUに関わるアドレス)。図3は、上記ROM-D5のアクセスタイミングを示すタイミング図である。図中WA[N]は、楽音発生回路10の出力するアドレスを示しており(そのうちNはチャンネル番号)、ROM-D5に入力されるアドレス信号を示している。本構成では、演算処理装置3の動作プログラム読み出しは、素子1の内部専用バスを使って随時行われており、演算処理速度の飛躍的向上が期待できることになる。また図3のCAで示された演算処理装置3へのアクセスが許可される期間中は、演算処理装置3によるROM-D5への上記音色パラメータや自動伴奏パターンデータの読み出しを要求するときだけに使用される(不要であればCAは出力されない)ことになる。これに対し、図5に示した従来の回路構成のものでは、CAの間に動作プログラムの読み込みを行ってから、音色パラメータや自動伴奏パターンデータの読み出しを行っており、該CAはほぼ毎回使用されることになる。そのため演算処理速度は本構成と比べてどうしても遅くなる。」であったところ、
「上記ROM-D5に記憶された音色パラメータや自動伴奏パターンデータは、演算処理装置3へのアクセスが許可された場合に、データ読みだし要求に従って、メモリアドレス制御回路12を介してROM-D5から演算処理装置3側へ読み出されることになる(CA・・・・CPUに関わるアドレス)。図3は、上記ROM-D5のアクセスタイミングを示すタイミング図である。図中WA[N]は、楽音発生回路10の出力するアドレスを示しており(そのうちNはチャンネル番号)、ROM-D5に入力されるアドレス信号を示している。本構成では、演算処理装置3の動作プログラム読み出しは、素子1の内部専用バスを使って随時行われており、演算処理速度の飛躍的向上が期待できることになる。また図3のCAで示された演算処理装置3からのアクセスが許可される期間中は、演算処理装置3によるROM-D5への上記音色パラメータや自動伴奏パターンデータの読み出しを要求するときだけに使用される(不要であればCAは出力されない)ことになる。これに対し、図5に示した従来の回路構成のものでは、CAの間に動作プログラムの読み込みを行ってから、音色パラメータや自動伴奏パターンデータの読み出しを行っており、該CAはほぼ毎回使用されることになる。そのため演算処理速度は本構成と比べてどうしても遅くなる。」とする。
(2)特許法第17条の2第3項
上記補正事項(ア)(イ)は、願書に最初に添付した明細書の段落【0008】、段落【0011】などに記載されており、願書に最初に添付した明細書又は図面の範囲内においてする補正である。
また、上記補正事項(ウ)は、願書に最初に添付した明細書の段落【0013】内の他の記載との整合を図ったもので、願書に最初に添付した明細書又は図面の範囲内においてする補正である。
よって、本件補正は特許法第17条の2第3項に掲げる要件を充足する。
(2)特許法第17条の2第4項
上記補正事項(ア)は、「プログラムメモリ」に「小容量の」という限定を付し、「データメモリ」に「(波形データを)予め(記憶する)、該プログラムメモリに比して大容量の」という限定を付し、「前記演算処理装置とプログラムメモリ」の関係に「専用バスで接続し」という限定を付したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。
上記補正事項(イ)は、上記補正事項(ア)に対応させて、発明の詳細な説明を補正するもので、明りょうでない記載の釈明に該当する。
上記補正事項(ウ)は、段落【0013】内の他の記載との整合を図ったもので、誤記の訂正に該当する。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第4項に掲げる要件を充足する。
(3)特許法第17条の2第5項
そこで、本件補正による請求項1記載の発明(以下「本願補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるのか、以下検討する。)
(一)本願補正発明
本件補正によれば、本願補正発明は、
「楽音制御乃至発音制御を行う演算処理装置と、該演算処理装置の動作プログラムを記憶する小容量のプログラムメモリと、波形データを予め記憶する、該プログラムメモリに比して大容量のデータメモリと、該データメモリに記憶された波形データに基づき楽音を発生し、且つ前記演算処理装置により制御される楽音発生回路とを有すると共に、前記演算処理装置とプログラムメモリとを専用バスで接続し同一素子上に集積すると共に、前記データメモリに波形データの他、前記演算処理装置をして前記楽音発生回路より発生される楽音を制御する音色パラメータ乃至自動伴奏パターンデータを一緒に記憶せしめて、前記楽音発生回路及び演算処理装置と回路的に接続せしめたことを特徴とする電子楽器。」
である。
(二)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-321745号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に以下の記載がある。
(ア)「本発明は、デジタル音源からのオーディオデータを入力して必要なデータ処理を施した後にアナログ信号に変換してラインアウトするオーディオデータ処理装置に関し、特に、パイプライン化されたロジック回路を使用して多チャネルのデジタル処理を時分割で行うようにしたオーディオデータ処理装置に関する。
近年、コンピュータ等のマルチメディア機器と呼ばれる機器では異なる複数のデジタル音源からのオーディオデータを再生できることが要求されており、これらの複数のデジタル音源からのオーディオデータをミキシングして出力する必要がある。特にコンピュータに要求されるデジタル音源は、異なる流れで設計された複数のデジタル音源があり、これらの全ての音源に対処できるデータ処理装置が要求される。」(段落【0001】、段落【0002】)
(イ)「図2の実施形態にあっては、データ処理部10に対する入力チャネルCH1としては、PCM音源モジュール22を接続している。ウェーブテーブルメモリ20を使った複数チャネル同時発生のPCM音源モジュール22は、CPU12の指示に従って音源出力を行う。データ処理部10の入力チャネルCH2にはFM音源モジュール24が接続される。FM音源モジュール24はCPU12の制御に基づき、効果音、楽器音を模したFM方式による複数チャネル同時発生の音源出力を行う。」(段落【0040】)
(ウ)「データ処理部10の入力チャネルCH5には、AUX入力端子35が接続される。AUX接続端子35からはビデオ、CDなどのディジタルオーディオ信号等化入力される。データ処理部10のチャネルCH6は入力用のチャネルと出力用のチャネルをもち、それぞれFIFO40,42を介してバスインタフェースモジュール38と接続し、バスインタフェースモジュール38をバス18に接続している。バス18はメインメモリ14とDMAコントローラ16に接続され、DMAコントローラ16の制御によりメインメモリ14との間でデジタルオーディオデータのデータ転送を行うようにしている。」(段落【0042】)
(エ)「データ処理部10の内部には入力チャネルCH1〜CH6からのデジタルオーディオデータの補間、音量調整、フィルタリング、ミキサ等の処理に必要な各種のパラメータを予め記憶したデータメモリ48が設けられる。またデータメモリ48は、処理の途中でデータを一時記憶して次の処理に引き渡すデータバッファとしても使用される。」(段落【0044】)
また、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-137665号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に以下の記載がある。
(オ)「図1には、この発明が適用されたバッファメモリBUFMを含むマイクロコンピュータの一実施例のブロック図が示されている。同図をもとに、まずこの実施例のバッファメモリBUFMが搭載されるマイクロコンピュータの構成及び動作の概要について説明する。なお、図1の各ブロックは、特に制限されないが、所定のセルベース集積回路にそれぞれモジュールとして搭載され、マイクロコンピュータは、これらのモジュールを組み合わせることにより構成される。図1の各ブロックを構成する回路素子は、公知の半導体集積回路の製造技術により、単結晶シリコンのような1個の半導体基板上に形成される。
図1において、この実施例のマイクロコンピュータは、ストアドプログラム方式の中央処理装置CPUと、内部バスIBUSを介して中央処理装置CPUに結合されるリードオンリーメモリROM,ランダムアクセスメモリRAM,ダイレクトメモリアクセスコントローラDMAC,パラレルインタフェース部PIF,シリアルインタフェース部SIF及びバッファメモリBUFMとを備える。このうち、中央処理装置CPUは、リードオンリーメモリROMに格納された制御プログラムに従ってステップ動作し、マイクロコンピュータの各部を制御・統轄する。また、リードオンリーメモリROMは、マスクROM又はEPROM(Erasable and Programmable ROM)等からなり、中央処理装置CPUのステップ動作に必要な制御プログラムや固定データ等を格納する。さらに、ランダムアクセスメモリRAMは、通常のスタティック型RAM等からなり、中央処理装置CPUの演算結果やパラレルインタフェース部PIF又はシリアルインタフェース部SIFを介して外部のパラレル入出力装置PIO又はシリアル入出力装置SIOに入出力されるデータを一時的に格納する。」(段落【0008】、段落【0009】)
また、原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-325584号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面と共に以下の記載がある。
(カ)「同図において、本実施例のゲーム装置は、ゲーム装置本体1と、ゲームプレイを制御するためのコントローラ2と、ゲームプログラム、演奏データ(キーコード、ベロシティ、音色等の楽音パラメータや楽音信号に各種効果を付与するためのエフェクト選択データ等)、および、後述する基本波形(周期波形)を生成するためのデータ(周期波形の形状を選択するための周期波形選択データや周期波形を発生するための周期波形パラメータ等)等を記憶するROMから成るゲーム装置本体1に着脱自在なゲームカートリッジ3と、ゲームプレイを表示するディスプレイ4と、ゲーム装置本体1により生成された楽音信号を音響に変換するためのスピーカ等のサウンドシステム5とにより構成されている。」(段落【0011】)
また、平成17年2月9日付けの前置報告には、新たに特開平8-335084号公報(以下、「引用文献4」という)が上記引用文献2と共に引用されている。引用文献4には、図面と共に以下の記載がある。
(キ)「次に図面を参照してこの発明の一実施例について説明する。
A.実施例の構成図1は、本発明の実施例によるミュージックシステムの構成を示すブロック図である。図において、ミュージックシステムは、ホストコンピュータ10と外部接続されたサウンドボード20とから構成されている。ホストコンピュータ10は、楽音の波形データが格納されているウエーブテーブル11、楽音合成プログラムが格納されているプログラムメモリ12、操作部13、表示部14、ハードディスク15、ホストキャッシュメモリ16、およびCPU17を備えている。上記ウエーブテーブル11およびプログラムメモリ12は、WT(ウエーブテーブル)音源を構成している。ウエーブテーブル11は、大容量(例えば、1Mバイト)の半導体メモリであり、複数の波形データが格納されている。なお、ウエーブメモリ11は、一般に外部記憶装置として利用されているフロッピーディスク、ハードディスク、CD-ROM等であってもよい。
操作部13は、演奏データの編集、データの入力、動作の指示等を行うキーボード、および演奏の動作モードや音色を選択するパネルスイッチからなる。また、表示部14は、CPU17の制御に基づいて、動作状況や各種情報を表示する。ハードディスク15には、MIDIデータ等の演奏データが格納されている。なお、ハードディスク15に代えて、あるいは並行して、フロッピーディスク等の外部記憶装置を用いてもよい。また、ホストキャッシュメモリ16は、発音チャンネル数毎に、波形データの1ブロック分(例えば、1kバイト)のデータを格納するだけの容量を有しており、サウンドボードへ送出する際のバッファとして用いられる。なお、この詳細については後述する。
CPU17は、プログラムメモリ12に格納されている楽音合成プログラムに従って、当該ホストコンピュータ10で楽音を合成するか、あるいはサウンドボードで楽音を合成するかを決める。このとき、当該ホストコンピュータ10で合成する場合には、演奏データに基づいて、ウエーブテーブル11から波形データを読み出し、該波形データにエンベロープ等を付与するなどして楽音を合成した後、サウンドボード20へ送出する。また、サウンドボード20で合成する場合には、ウエーブテーブル11からブロック単位で読み出した波形データを、一旦、上記ホストキャッシュメモリ16に格納し、サウンドボードからの転送要求があった時点でサウンドボード20へ送出する。サウンドボード20へ送出した後には、次ブロックの波形データが格納される。」(段落【0016】ないし段落【0018】)

(三)対比・検討
(三の一)引用文献1に記載の発明との対比
そこで、本願補正発明と引用文献1記載の発明(以下、「引用文献1発明」という。)とを対比する。
まず、記載(ア)より、引用文献1発明は、「オーディオデータ処理装置」に係る発明であるといえる。
そうすると、「電子楽器」に係る発明である本願補正発明と相違が認められるが、電子的に音を発生する装置であるという限度では技術分野の共通性または近接性を有するといえる。
記載(イ)より、PCM音源モジュール22はCPU12の指示に従って音源出力を行う。また、ウェーブテーブルメモリ20は、PCM音源モジュール22が上記音源出力を行う際に使用される。
そうすると、引用文献1発明のCPU12もPCM音源モジュール22に指示を与え音源出力を行うから、本願補正発明の「楽音制御乃至発音制御を行う演算処理装置」に相当するといえる。
また、ウェーブテーブルメモリ20にどのようなデータが格納されているのか明らかではないが、「ウェーブ」の字義から波形データを含むものと解することも可能である。
また、PCM音源モジュール22は、CPU12により制御され音を発生するので、本願補正発明の「楽音発生回路」に対応する事項であると解することも可能である。
しかしながら、少なくとも引用文献1発明には、「該演算処理装置の動作プログラムを記憶する小容量のプログラムメモリ」が存在しない。
また、上記「プログラムメモリ」が存在しない故に、「前記演算処理装置とプログラムメモリとを専用バスで接続し同一素子上に集積する」事項も引用文献1発明には存在しない。
また、ウェーブテーブルメモリ20に波形データが予め格納されるとして、ウェーブテーブルメモリ20が本願補正発明の「データメモリ」に対応するとしても、引用文献1発明では、ウェーブテーブルメモリ20に「前記演算処理装置をして前記楽音発生回路より発生される楽音を制御する音色パラメータ乃至自動伴奏パターンデータを一緒に記憶せしめ」てはいない。
ところで、記載(エ)より、データメモリ48には、入力チャネルCH1〜CH6からのデジタルオーディオデータの補間、音量調整、フィルタリング、ミキサ等の処理に必要な各種のパラメータが予め記憶される。
しかし、これらのパラメータは、PCM音源モジュール22(楽音発生回路)より発生される楽音を制御するためのものではない。
また、引用文献1には、上記各事項が開示されていないため、結局のところ、引用文献1には、「前記演算処理装置とプログラムメモリとを専用バスで接続し同一素子上に集積すると共に、前記データメモリに波形データの他、前記演算処理装置をして前記楽音発生回路より発生される楽音を制御する音色パラメータ乃至自動伴奏パターンデータを一緒に記憶せしめて、前記楽音発生回路及び演算処理装置と回路的に接続せしめた」点が開示ないし示唆されていない。
なお、記載(ウ)より、CPU12とPCM音源モジュール22等の要素とは、バス18で接続されているが、図2より明らかなように、バス18にはメインメモリ14、DMAコントローラ16、FM音源モジュール24等が接続されており、バス18は汎用のものであると解される。
そして、引用文献1には、CPU12と(プログラムメモリとを)接続する「専用バス」をあえて設けることについての動機付けは見出せない。
次に、引用文献2には、記載(オ)より、CPUと制御プログラムが格納されたROMとを内部バスIBUSで接続し、これらを1個の半導体基板上に形成することが開示されている。
そこで、原査定は次のように論じている。
「演算処理装置の処理速度の低下を防ぐことは、一般的な課題であり、先の拒絶理由の引用発明1も、このような課題を有しているものと考えられる。更に、引用発明2に記載された構成は周知の構成であって、このように構成することで、演算処理装置の処理速度の低下を防ぐことができることは、当業者にとって自明である。したがって、引用発明1においても、引用発明2に記載されているような、周知の技術を採用することは、当業者が容易に成し得たものであるから、出願人の意見は採用されない。」(以上、原査定より引用)

演算処理装置の処理速度の低下を防止することが一般的な課題であり、引用文献1に接した当業者が想起しうるものであること、引用文献2に記載された上記事項が周知のものであること、そのような周知事項を採用すれば演算処理装置の処理速度防止に寄与することは当業者に自明であること、がすべて肯定できるとしても、上記したように、引用文献1には、CPU12と(プログラムメモリとを)接続する「専用バス」をあえて設けることについての動機付けがない。
すなわち、記載(ア)より、引用文献1発明は、コンピュータ装置に対して用いられる「オーディオデータ処理装置」に係る発明であるところ、上記のように動作プログラムが格納されたプログラムメモリとCPUとを専用バスで接続し、同一素子上に集積すると、コンピュータ装置としては用途が限定されたものとなり、汎用性が失われることになる。
そうすると、引用文献1に、コンピュータ装置としての汎用性を失わしめてでも、CPU(演算処理装置)の処理速度の低下を防止すべきとする趣旨が読み取れない限り、原査定の論理は採用できない。
また、引用文献3には、記載(カ)より、ROM3に格納されるものは、ゲームプログラム、演奏データ、基本波形を生成するためのデータ、等であり、これらのデータを予め一緒に記憶するデータメモリが開示されているといえるが、引用文献1、引用文献2に加え、引用文献3の上記事項を採用しても、本願補正発明には至らない。
以上より、本願補正発明を引用文献1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(三の二)引用文献4に記載の発明との対比
平成17年2月9日付けの前置報告は、引用文献4及び引用文献2に記載された発明に基づいて本願補正発明は当業者が容易に想到し得たものである、と論じている。
そこで、引用文献4に記載の発明(以下、「引用文献4発明」という)と本願補正発明とを対比する。
記載(キ)によれば、引用文献4発明は、少なくとも下記(a)ないし(e)の事項を含む。

(a)パーソナルコンピュータ10は、CPU17、プログラムメモリ12、ウエーブテーブル11、ハードディスク15を備え、パーソナルコンピュータ10とサウンドボード20は外部接続されており、パーソナルコンピュータ10とサウンドボード20とを合わせてミュージックシステムと呼んでいる。
(b)ウエーブテーブル11は大容量の半導体メモリであり、ウエーブテーブル11には、複数の波形データが格納されている。
(c)ハードディスク15には、MIDIデータ等の演奏データが格納されている。
(d)プログラムメモリ12には、楽音合成プログラムが格納されている。
(e)CPU17は、楽音合成プログラムに従って、ホストコンピュータ10で楽音を合成するか、サウンドボード20で楽音を合成するかを決め、ホストコンピュータ10で合成する場合には、演奏データに基づいて、ウエーブテーブル11から波形データを読み出し、該波形データにエンベロープ等を付与するなどして楽音を合成した後、サウンドボード20へ送出する。

引用文献4発明は本願補正発明と同様の「電子楽器」であるとは直ちにいえないが、引用文献4発明は前記ミュージックシステムを含み、当該ミュージックシステムは電子的に音を合成乃至発生するという限度で本願補正発明の「電子楽器」と機能が共通であり、採用する技術手段も類似するといえるから、両者は技術分野上の共通性ないし近接性を有するといえる。
また、引用文献4発明では、CPU17は楽音合成プログラムに従い楽音の合成を行うので、CPU17は本願補正発明の「楽音制御乃至発音制御を行う演算処理装置」に相当する。
上記楽音合成プログラムは、CPU17(演算処理装置)を動作させているので、本願補正発明の「動作プログラム」に相当し、引用文献4発明のプログラムメモリ12は、本願補正発明の「該演算処理装置の動作プログラムを記憶するプログラムメモリ」に相当する。
もっとも、当該プログラムメモリが小容量か否かは明らかではない。
引用文献4発明では、ウエーブテーブル11は波形データを含み、当該波形データはウエーブテーブル11に予め格納されたものと解されるから、引用文献4発明のウエーブテーブル11は本願補正発明の「波形データを予め記憶する、大容量のデータメモリ」に相当する。
もっとも、ウエーブテーブル11が、プログラムメモリ12に比して大容量のデータメモリといえるかは明らかではない。
引用文献4発明では、演奏データに基づいて、ウエーブテーブル11から波形データを読み出し、該波形データにエンベロープ等を付与するなどして楽音を合成した後、サウンドボード20へ送出するが、これらの動作はCPU17(演算処理装置)により制御されるのは自明であるから、本願補正発明の「該データメモリに記憶された波形データに基づき楽音を発生し、且つ前記演算処理装置により制御される楽音発生回路とを有する」に相当する事項が存在するといえる。
記載(キ)より、引用文献4発明では操作部13による音色の選択が可能であり、また、波形データにエンベロープ等を付与するなどして楽音を合成
するものであるから、音色パラメータというべきデータをいずれかに格納していることは明らかである。そして、このような楽音の合成はCPU17(演算処理装置)により制御されることは明らかである。
すなわち、引用文献4発明でも、本願補正発明の「波形データの他、前記演算処理装置をして前記楽音発生回路より発生される楽音を制御する音色パラメータ」に相当するデータを保有していることは明らかである。
もっとも、当該音色パラメータが引用文献4発明ではいずれに格納されるのか明らかではない。
また、引用文献4発明では、ウエーブテーブル11とCPU17等とは回路的に接続されていることは、明示はなくとも自明である。
ところで、図1は引用文献4発明のミュージックシステムのブロック図とされており、ウエーブテーブル11とCPU17の間に矢印が描写されているが、この矢印が専用バスを表しているか否かは説明がなく、明らかではない。
そうすると、引用文献4発明と本願補正発明とでは、
「楽音制御乃至発音制御を行う演算処理装置と、該演算処理装置の動作プログラムを記憶するプログラムメモリと、波形データを予め記憶する、大容量のデータメモリと、該データメモリに記憶された波形データに基づき楽音を発生し、且つ前記演算処理装置により制御される楽音発生回路とを有すると共に、波形データの他、前記演算処理装置をして前記楽音発生回路より発生される楽音を制御する音色パラメータを記憶せしめて、(データメモリに)前記楽音発生回路及び演算処理装置と回路的に接続せしめた」電子的に楽音を発生する装置。
である点で一致し、以下の各点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明のプログラムメモリが「小容量」であり、且つデータメモリが「プログラムメモリに比して大容量」であるのに対し、引用文献4発明では、データメモリが大容量である点
(相違点2)
本願補正発明が「前記演算処理装置とプログラムメモリとを専用バスで接続し同一素子上に集積する」のに対し、引用文献4発明では、CPU17(演算処理装置)とプログラムメモリ12(プログラムメモリ)とが専用バスで接続されるのか明らかではなく、更に両者を同一素子上に集積することは明示されていない点
(相違点3)
本願補正発明が「前記データメモリに波形データの他、前記演算処理装置をして前記楽音発生回路より発生される楽音を制御する音色パラメータ乃至自動伴奏パターンデータを一緒に記憶せしめ」たのに対し、引用文献4発明では、音色パラメータがいずれに格納されるのか明らかではない点
そこで、上記各相違点につき検討する。
引用文献4発明では、プログラムメモリ12が小容量のものか否か明示がないが、ウエーブテーブル11としてあえて大容量の半導体メモリを採用していることを考慮すると、引用文献4発明においてもプログラムメモリを小容量のものとし、且つデータメモリが「プログラムメモリに比して大容量」のものとすることは、当業者が適宜になし得た程度の事項といえる。(以上、相違点1について)
また、引用文献4発明では、音色パラメータがいずれの要素に格納されるのか明らかではないが、引用文献4発明においては、ウエーブテーブル11(データメモリ)として大容量の半導体メモリが採用されているから、音色パラメータを波形データと一緒にウエーブテーブル11(データメモリ)にこれを格納することは、当業者であれば容易に想到しうることといえる。(以上、相違点3について)
しかしながら、引用文献4発明のミュージックシステムは、パーソナルコンピュータ10にサウンドボード20を外部接続したシステムであり、パーソナルコンピュータ10はコンピュータとしての基本的構成及び機能を維持した状態で動作することを前提とするものというべきである。
そうすると、引用文献2に開示の、CPUとROM(プログラムメモリ)とを内部バスで接続し同一素子上に集積する事項が周知であるとしても、このような事項を引用文献4発明に採用すれば、パーソナルコンピュータ10のコンピュータとしての基本的構成に変更が生じることになり、また機能上も汎用性を失うこととなる。そして、コンピュータとしての基本的構成を変更し、機能上の汎用性を喪失してもなお、引用文献2に記載の周知技術を引用文献4発明に採用すべき動機が引用文献4中には見出せない。
このことは、本願補正発明が「電子楽器」に係る発明であり、電子楽器の演算処理装置には機能上の汎用性が要求されないことの帰結であり、上記相違点2に係る本願補正発明のように構成することは、引用文献4発明を前提とする限り当業者といえども、容易に着想を得ることができない、というべきである。

そして、本願補正発明は、請求項1に記載された事項を採用したから、明細書記載の効果を奏するに至ったものであり、引用文献4、引用文献2に記載された発明からは予測できる範囲内のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用文献4及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

更に、引用文献1乃至4を総合しても、本願補正発明に至ることはできない。
そして、その他に本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。

3.本願発明
以上のとおり、本件補正は、適法になされた補正であり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものとする理由を発見しない。
そうすると、本願に係る発明は、平成17年1月14日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものとなり、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という)は、2.で検討したように、特許を受けることができないとする理由を発見しない。
請求項2乃至4は請求項1の従属請求項であり、同様に特許を受けることができないとする理由を発見しない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、原査定の拒絶の理由によって特許を受けることができないとすることはできず、またその他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2006-06-26 
出願番号 特願平9-60113
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G10H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 間宮 嘉誉小宮 慎司  
特許庁審判長 原 光明
特許庁審判官 堀井 啓明
松永 隆志
発明の名称 電子楽器  
代理人 佐藤 英世  

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