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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C11D |
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管理番号 | 1138965 |
審判番号 | 不服2002-6019 |
総通号数 | 80 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-02-16 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-04-08 |
確定日 | 2006-06-28 |
事件の表示 | 平成9年特許願第524289号「硬質表面洗浄組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成9年7月10日国際公開、WO97/24425、平成11年2月16日国内公表、特表平11-501978〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯及び本願発明 本件特許は、1995年12月29日を国際出願日とする出願(国際出願番号 PCT/US95/17044)であって、その請求項1〜18に係る発明は、平成13年6月21日付け手続補正書により補正された明細書からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜18に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「1.含カルボキシレートポリマーと、二価の対イオンと、組成物全体の0.1〜50重量%の界面活性剤とを含んでなる液体組成物を硬質表面に塗布するものであり、 前記二価の対イオンが非複合塩の形態としてまたは一成分として、前記含カルボキシレートポリマーに添加されてなるものであり、 前記含カルボキシレートポリマーと前記二価の対イオンのモル比が12:1〜1:32であり、 前記含カルボキシレートポリマーが、セルロース誘導体、ポリアクリレート、無水マレイン酸及び/又はアクリル酸のポリマー及びコポリマー、又はそれらの混合物であり、 前記液体組成物が6〜13のpHを持つ水性の液体組成物である、硬質表面を洗浄する方法。 2.前記液体組成物を水で希釈した後に前記表面に塗布するものである、請求項1に記載の方法。 3.前記液体組成物を塗布した後で前記表面を濯がない、請求項1又は2に記載の方法。 4.前記液体組成物が6.5〜12のpHを持つものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。 5.前記含カルボキシレートポリマーが、カルボキシメチルセルロース、もしくは平均分子量が2,000〜1,000,000の酸形態のアクリル酸をベースとするポリマー、もしくはアクリレートモノマーとマレエートモノマーの比が30:1〜1:1であるアクリル/マレインをベースとするコポリマー、もしくはそれらの混合物である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。 6.前記二価の対イオンがカルシウム、亜鉛、カドミウム、ニッケル、銅、コバルト、ジルコニウム、クロミウム、マグネシウム、もしくはそれらの混合物、の塩である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。 7.前記含カルボキシレートポリマーと前記二価の対イオンのモル比が8:1〜1:16であるように存在している、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。 8.前記液体組成物が、香料、キレート化剤、ビルダー、浴剤、緩衝剤、殺菌剤、ヒドロトロープ、着色剤、もしくはそれらの混合物からなる群から選ばれる任意の成分をさらに含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。 9.前記界面活性剤が、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、双性イオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びそれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。 10.前記液体組成物が、前記界面活性剤もしくはそれらの混合物を、組成物全体の0.1〜20%で含んでなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。 11.含カルボキシレートポリマーと、二価の対イオンと、組成物全体の0.1〜50重量%の界面活性剤とを含んでなる、液体硬質表面洗浄組成物であって、前記二価の対イオンが非複合塩の形態としてまたは一成分として、前記含カルボキシレートポリマーに添加されてなるものであり、 前記含カルボキシレートポリマーと前記二価の対イオンのモル比が12:1〜1:32であり、 前記含カルボキシレートポリマーが、セルロース誘導体、ポリアクリレート、無水マレイン酸及び/又はアクリル酸のポリマー及びコポリマー、又はそれらの混合物であり、 前記組成物が6〜13のpHを持つ水性の液体組成物であり、かつ、蛋白質分解酵素、もしくは澱粉分解酵素、及びポリヒドロキシ脂肪酸アミドを含んでいないものである、組成物。 12.前記組成物が6.5〜12のpHを持つものである、請求項11に記載の組成物。 13.前記含カルボキシレートポリマーが、カルボキシメチルセルロース、もしくは平均分子量が2,000〜1,000,000の酸形態のアクリル酸をベースとするポリマー、もしくはアクリレートモノマーとマレエートモノマーの比が30:1〜1:1であるアクリル/マレインをベースとするコポリマー、もしくはそれらの混合物である、請求項11または12に記載の組成物。 14.前記二価の対イオンがカルシウム、亜鉛、カドミウム、ニッケル、銅、コバルト、ジルコニウム、クロミウム、マグネシウム、もしくはそれらの混合物、の塩である、請求項11〜13のいずれか一項に記載の組成物。 15.前記含カルボキシレートポリマーと前記二価の対イオンのモル比が8:1〜1:16であるように存在している、請求項11〜14のいずれか一項に記載の組成物。 16.前記組成物が更に、香料、キレート化剤、ビルダー、浴剤、緩衝剤、殺菌剤、ヒドロトロープ、着色剤、もしくはそれらの混合物からなる群から選ばれる任意の成分を含んでなる、請求項11〜15のいずれか一項に記載の組成物。 17.前記界面活性剤が、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、双性イオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びそれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項11〜16のいずれか一項に記載の組成物。 18.前記組成物が、前記界面活性剤もしくはそれらの混合物を、組成物全体の0.1〜20%で含んでなる、請求項11〜17のいずれか一項に記載の組成物。」 2 当審が通知した拒絶理由の概要 当審が通知した平成17年9月16日付け拒絶理由の概要は、本件出願は明細書の記載に不備があるから、特許法第36条第6項第2号及び同条第4項に規定する要件を満たしていないというものであり、その拒絶理由通知書において、第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない理由として、 (A)本願特許請求の範囲の請求項1及び請求項11において、「含カルボキシレートポリマーが、セルロース誘導体、ポリアクリレート、無水マレイン酸及び/又はアクリル酸のポリマー及びコポリマー、又はそれらの混合物」とある記載について、その示す化合物の範囲が不明確である点(以下、「理由A」という。)を指摘し、 (B)特許請求の範囲の請求項5及び請求項13における、「酸形態のアクリル酸をベースとするポリマー」及び「アクリル/マレインをベースとするコポリマー」の示す化合物の範囲が不明確である点(以下、「理由B」という。)を指摘している。 3 当審の判断 (1)理由Aについて 請求項1における硬質表面を洗浄する方法に用いる液体組成物及び請求項11における組成物の成分である「含カルボキシレートポリマー」について、「含カルボキシレートポリマーが、セルロース誘導体、ポリアクリレート、無水マレイン酸及び/又はアクリル酸のポリマー及びコポリマー、又はそれらの混合物であり」と請求項1、11において特定されている。 ところで、「含カルボキシレートポリマー」の「カルボキシレート」(carboxylate)及び「ポリアクリレート」の「・・・ate」は、有機化学命名法によると、カルボン酸エステル又はカルボン酸塩を意味するものである(有機化学・生化学命名法規則C-84.1及び規則C-461.1、規則C-463参照(「有機化学・生化学命名法 上」(南江堂、1988年9月15日改訂第2版発行)105頁、151〜152頁、「化学便覧 基礎編 第五版」(丸善、平成16年2月20日発行)I-91頁、表3.13参照。審判請求人も、平成17年12月20日付け意見書において、「これら用語(審決注.「ポリアクリレート」及び「含カルボキシレートポリマー」の「レート(late)」を指す。)は一般的にエステルと酸塩のいずれをも意味するものとして使用されることは明らかです。」と主張している。)から、命名法どおりの意味であれば、「含カルボキシレートポリマー」はカルボン酸エステル基又はカルボン酸塩基を含有するポリマーとなる。 ここで、請求項1、11は、「含カルボキシレートポリマー」が(1)「セルロース誘導体」、(2)「ポリアクリレート」、(3)「無水マレイン酸及び/又はアクリル酸のポリマー及びコポリマー」又は(4)「それらの混合物」であると特定されているので、上記(1)〜(4)の物質名が表す化合物の範囲を考え、それと「含カルボキシレートポリマー」の関係を検討する。 まず、(1)のセルロース誘導体は、カルボン酸又はその誘導体に限っても、カルボキシメチルセルロースのようなカルボン酸誘導体、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩のようなカルボン酸塩誘導体、酢酸セルロースのようなカルボン酸エステル誘導体が知られているから、「セルロース誘導体」は、その「誘導体」という用語のみからでは、カルボン酸、カルボン酸エステル及びカルボン酸塩のうちいずれまで含むものか明らかとなるものではない。その意味する範囲は、「含カルボキシレートポリマー」がそれらのうちいずれを意味するものかによって明らかになるもので、「セルロース誘導体」という語自体から「含カルボキシレートポリマー」の意味する範囲を推測することはできない。 次に、(2)「ポリアクリレート」は「含カルボキシレートポリマー」のカルボキシレートと同じように「・・・ate」(・・・エート)を語尾とする化合物名であるから、命名法が定義する意味では、カルボン酸エステルすなわちポリアクリル酸エステル、又はカルボン酸塩すなわちポリアクリル酸塩を意味するものであり、それは「含カルボキシレート」に対応するものである。 その次の(3)「無水マレイン酸及び/又はアクリル酸のポリマー及びコポリマー」は、カルボン酸無水物基をもつ無水マレイン酸ポリマー、カルボン酸基(カルボキシル基)をもつアクリル酸ポリマー又は無水マレイン酸及び/又はアクリル酸をコモノマーとするコポリマー(共重合体)であるから、カルボン酸無水物基又はカルボン酸基を官能基としてもつもので、明らかにカルボン酸塩又はカルボン酸エステルのポリマー及びコポリマーを含むものではない(審判請求人も平成17年12月20日付け意見書において、無水マレイン酸は、無水マレイン酸の半エステルとは明らかに異なった化合物であり、無水マレイン酸の半エステルをモノマー原料の一部として製造されたポリマーは、「無水マレイン酸及び/又はアクリル酸のポリマー及びコポリマー」に包含されるものではない旨主張している。)。 そうすると、「含カルボキシレートポリマー」の命名法による解釈と異なる意味のものとして使用されていることとなる。 そして、この(3)の意味の相違からみると、「含カルボキシレートポリマー」の意味するものは、命名法によるところのカルボン酸塩基又はカルボン酸エステル基をもつポリマーというものではない。そうすると、「セルロース誘導体」の意味するものの範囲が命名法によるところのカルボン酸塩基又はカルボン酸エステル基をもつものに限られないこととなり、「ポリアクリレート」についても同じことがいえるので、「含カルボキシレートポリマー」を受けている上記(1)の「セルロース誘導体」、上記(2)の「ポリアクリレート」の意味する内容が不明確となっている。 発明の詳細な説明の記載を参酌することにより、それらの点が明確となるかどうかについて、更に検討する。 明細書には、「含カルボキシレートポリマー」、「セルロース誘導体」、「ポリアクリレート」に関して以下の記載がある。 (a)「『含カルボキシレートポリマー』とは、本発明に於いては、カルボキシレート官能基を少なくとも一つ含むモノマー単位を少なくとも一つ含むポリマー、もしくはコポリマーを意味する。ポリアクリレートを含むポリカルボン酸のホモポリマー、又はそれらの塩、並びに無水マレイン酸及び/又はアクリル酸等のポリマーやコポリマー、又はそれらの混合物のような、当業者に知られているあらゆる含カルボキシレートポリマーを、本発明に従って用いることができる。実際、このような含カルボキシレートポリマーは、適切な不飽和モノマー、好ましくは酸形態の不飽和モノマーを、重合、もしくは共重合させることにより得ることができる。好適な高分子状ポリカルボキシレートを形成させる為に重合させることのできる不飽和モノマー酸には、アクリル酸、マレイン酸(もしくは無水マレイン酸)、フマル酸、イタコン酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、及びメチレンマロン酸が含まれる。本発明に於ける高分子状ポリカルボキシレート中には、ビニルメチルエーテル、スチレン、エチレン等のカルボキシレート基を含んでいないモノマーセグメントが存在しているのが好適である。」(明細書7頁2〜16行) (b)「特に好適な高分子状カルボキシレートは、アクリル酸から得ることができる。本発明に於いて有用なこのようなアクリル酸をベースとしたポリマーは、重合させたアクリル酸の水溶性の塩である。酸形態のこのようなポリマーの平均分子量は、・・・である。このようなアクリル酸ポリマーの水溶性の塩には、例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩、及び置換アンモニウム塩を含めることができる。この種の溶解性ポリマーは、公知の物質である。この種のポリアクリレートの洗剤組成物への使用は、例えば、・・・に開示されている。」(明細書7頁17行〜8頁1行) (c)「アクリル/マレインをベースとするコポリマーも、好ましい含カルボキシレートポリマーとして用いることができる。このような物質には、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマーの水溶性の塩が含まれる。酸形態のこのようなコポリマーの平均分子量は・・・である。このようなコポリマー中のアクリレートとマレエートとの成分比は、通常約・・・である。このようなアクリル酸/マレイン酸コポリマーの水溶性の塩には、例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩、及び置換アンモニウム塩を含めることができる。この種の溶解性のアクリレート/マレエートコポリマーは・・・公知の物質である。」(明細書8頁2〜13行) (d)「本発明に用いるのに適したその他の含カルボキシレートポリマーには、カルボキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体が含まれる。例えば、カルボキシメチルセルロースは、ナトリウム、カリウム、アミン、もしくは置換アミンのような通常のカチオンとの塩として用いることができる。」(明細書8頁16〜19行) (e)「例 以下の組成物を、以下に記載した成分を以下に記載した割合で混合することにより調製した。・・・ 該含カルボキシレートポリマーとカルシウムイオンのモル比は、例1〜3では、2.1:1〜1.2:1である。 *マレイン酸-アクリル酸コポリマー(分子量=70,000) **ポリカルボキシレートコポリマー(分子量=50,000) ***ローム・アンド・ハースにより市販されている含ポリアクリレートエマルジョン 該含カルボキシレートポリマーと該二価イオンのモル比は、実施例5〜8では4.2:1〜2.4:1であり、実施例6と7では2.1:1〜1.2:1であり、実施例9では6.3:1〜3.6〜1であり、実施例10では1.1:1〜1:1.7であり、また実施例11では3.5:1〜2.1:1である。 *マレイン酸-アクリル酸コポリマー(分子量=70,000)」(明細書18頁下から2行〜20頁最下行) 摘記aには、まず、「『含カルボキシレートポリマー』とは、本発明に於いては、カルボキシレート官能基を少なくとも一つ含むモノマー単位を少なくとも一つ含むポリマー、もしくはコポリマーを意味する。」とある(「摘記a-1」という。)が、摘記a-1は「ポリマー」の内容を説明するものであって、「カルボキシレート」の意味を説明するものではないから、この記載によって「含カルボキシレートポリマー」の意味する内容が明確になるものではない。 摘記a-1の次に、「ポリアクリレートを含むポリカルボン酸のホモポリマー、又はそれらの塩、並びに無水マレイン酸及び/又はアクリル酸等のポリマーやコポリマー、又はそれらの混合物のような、当業者に知られているあらゆる含カルボキシレートポリマーを、本発明に従って用いることができる。」(「摘記a-2」という。)とあり、この記載によると、「含カルボキシレートポリマー」には、(1)ポリカルボン酸のホモポリマー、(2)ポリカルボン酸のホモポリマーの塩、(3)無水マレイン酸及び/又はアクリル酸等のポリマー、(4)無水マレイン酸及び/又はアクリル酸等のコポリマー、が含まれるものと解される。「ポリアクリレートを含む」は、摘記a-2中にポリアクリル酸エステルが含まれていないので、(2)のポリカルボン酸のホモポリマーの塩の例示をしているものと一応解される。 この摘記a-2の箇所では、(1)はカルボン酸基をもつものであり、(2)はカルボン酸塩基をもつものであり、(3)はカルボン酸無水物基及び/又はカルボン酸基をもつものであるから、ここでも、請求項の記載と同じように、「含カルボキシレートポリマー」には、カルボン酸塩基やカルボン酸エステル基以外のカルボン酸基やカルボン酸無水物基を含むものとされていることとなり、さらに、カルボン酸エステル基をもつものについては言及されておらず、この箇所の記載によって請求項1、11の前記不明確な記載が解消するものではない。 また、摘記a-2では「ポリアクリレート」は、「ポリカルボン酸のホモポリマー、又はそれらの塩、並びに無水マレイン酸及び/又はアクリル酸等のポリマーやコポリマー、又はそれらの混合物」に含まれるとされており、その記載からは、「ポリアクリレート」の意味する内容がポリアクリル酸塩あるいはポリアクリル酸エステルのみを意味するものか、更にそれ以外のものも含むものかどうかについて明確になるものではない。 また、摘記a中、摘記a-2以降の部分では、新たに「高分子状ポリカルボキシレート」という用語が使われ、その用語と「含カルボキシレートポリマー」の関係が明らかにされていないが、文章の流れからみて、「含カルボキシレートポリマー」を意味するものと解されるものであり、それを形成させるために重合させることのできる不飽和モノマー酸としてアクリル酸等が例示されているから、「含カルボキシレートポリマー」にはアクリル酸等の重合体、すなわち、ポリアクリル酸等が含まれるものとされており、やはり、摘記a-1,摘記a-2と同様に、「含カルボキシレートポリマー」について、不明確な記載を解消するものではない。さらに、摘記a-2以降の部分では「ポリアクリレート」の内容について手がかりになる記載はない。 摘記bでは、「高分子状ポリカルボキシレート」について説明されており、「高分子状ポリカルボキシレート」が「含カルボキシレートポリマー」だとしても、それがアクリル酸から得ることができると、原料化合物を示すのに止まり、「高分子状ポリカルボキシレート」がポリカルボン酸塩あるいはポリカルボン酸エステルのみを意味するものか、更にそれ以外のものも含むものかどうかについて明確になるものではない。「ポリアクリレート」の内容についても手がかりになる記載はない。 摘記cでは、「アクリル/マレインをベースとするコポリマー」が「含カルボキシレートポリマー」として用いることができることが示されているが、「アクリル/マレインをベースとするコポリマー」自体、その意味する内容が不明確であることは、後述する「理由Bについて」で明らかにするとおりであり、さらに、それが「含カルボキシレートポリマー」として用いることができるとするだけのものであるから、その記載によって「含カルボキシレートポリマー」がポリカルボン酸塩あるいはポリカルボン酸エステルのみを意味するものか、更にそれ以外のものも含むものかどうかについて明確になるものではない。また、「ポリアクリレート」の内容についても手がかりになる記載はない。 摘記dでは、「含カルボキシレートポリマー」として「カルボキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体」が含まれるものとされ、それは例示に過ぎないが、カルボン酸基をもつものが含まれているとされ、一方、「カルボキシメチルセルロースは、ナトリウム、カリウム、アミン、もしくは置換アミンのような通常のカチオンとの塩として用いることができる。」とされ、ここでは、カルボン酸塩基をもつものを用いることがカルボン酸基をもつものを用いることの態様として挙げられている。 この摘記dの記載によっても、請求項1、11における不明確な記載が解消されるものではない。 摘記eは、組成物の例が表として記載されており、表中、「含カルボキシレートポリマー」の例に該当するものとして考えられるのは、(1)「ソカラン(商品名)CP5」、(2)「ソカラン(商品名)CP7」、(3)「カルボキシメチルセルロース」、(4)「プリマール(商品名)B924」の4種のものであるが、表の下欄の注記として、(1)は「マレイン酸-アクリル酸コポリマー(分子量=70,000)」、(2)は「ポリカルボキシレートコポリマー(分子量=50,000)」、(4)は「ローム・アンド・ハースにより市販されている含ポリアクリレートエマルジョン」とされており、(1)はカルボン酸基をもつものであり、(2)はポリカルボキシレートとされているから、カルボン酸塩又はカルボン酸エステル基をもつものであり、(4)はポリアクリル酸塩又はポリアクリル酸エステル(を含む)もののエマルジョンとされている。 摘記eの記載によっても、請求項1、11における不明確な記載が解消されるものではない。 以上、摘記a〜摘記eを参酌しても、請求項1、11における前記不明確な記載が解消されるものではない。 (2)理由Bについて アクリル酸、マレイン酸という用語はカルボン酸を表す慣用名として広く使用され、IUPAC有機化学命名法においても許容されている慣用名であるが、「アクリル」及び「マレイン」という用語は、そのような有機化学命名法で定義されているものでも許容されているものでもなく、許容されているカルボン酸の慣用名の語幹部分(本願の場合、「アクリル」及び「マレイン」)を独立して使うことも一般的なものとは認められない。 よって、「アクリル」と称した場合に、それがアクリル酸を意味するのか、あるいはアクリル酸塩、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド等のカルボン酸誘導体を意味するのかは明らかではなく、「マレイン」についても同様である。 そこで、請求項5、13の「アクリレートモノマーとマレエートモノマーの比が30:1〜1:1であるアクリル/マレインをベースとするコポリマー」の示す化合物の範囲を検討すると、「・・・エート」が本願明細書においてカルボン酸塩又はカルボン酸エステルのみを意味するかどうか不明であることは前述したとおりであるのに加えて、「アクリル/マレイン」も意味するところが不明であるから、請求項5、13の記載において「アクリル/マレインをベースとするコポリマー」の示す化合物の範囲が不明確である。 さらに、発明の詳細な説明の記載を参酌することによりその点が明確になるかどうか検討する。 前記摘記eによると、「ソカラン(商品名)CP5」はマレイン酸-アクリル酸コポリマーとされており、それが「アクリル/マレインをベースとするコポリマー」の例示であろうと認められるが、それは、単に例示するだけであって、「アクリル/マレインをベースとするコポリマー」の定義とはなっていないから、摘記eによっては請求項5、13における不明確さを解消することはできない。 前記摘記cにおいても、「アクリル/マレインをベースとするコポリマー」に「アクリル酸とマレイン酸とのコポリマーの水溶性の塩」が含まれるというだけで、「アクリル/マレインをベースとするコポリマー」の定義とはなっていないから、摘記cによっても請求項5、13における不明確さを解消することはできない。また、明細書の他の記載によっても、請求項5、13における不明確さを解消することはできない。 4 むすび 以上のとおり、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないから、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-02-01 |
結審通知日 | 2006-02-03 |
審決日 | 2006-02-16 |
出願番号 | 特願平9-524289 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C11D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岩瀬 眞紀子、河野 直樹 |
特許庁審判長 |
脇村 善一 |
特許庁審判官 |
鈴木 紀子 井上 彌一 |
発明の名称 | 硬質表面洗浄組成物 |
代理人 | 横田 修孝 |
代理人 | 紺野 昭男 |
代理人 | 吉武 賢次 |
代理人 | 堅田 健史 |
代理人 | 中村 行孝 |