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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1138975
審判番号 不服2003-11203  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-08-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-18 
確定日 2006-06-27 
事件の表示 特願2000-368896「熱硬化性はんだ付け用フラックスおよびはんだ付け方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月14日出願公開、特開2001-219294〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成12年12月4日の出願(優先日:平成11年12月3日 日本)であって、平成15年5月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成15年6月18日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると共に、平成15年7月17日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成15年7月17日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年7月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容と本願補正発明1、5及び6について
本件手続補正の内容の一つは、特許請求の範囲をその限定的減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として補正するものであるところ、補正された請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】ロジンおよびカルボン酸無水物より選ばれた1種もしくは2種の有機酸0.1〜50質量%、溶剤5〜40質量%、ならびに熱硬化性樹脂および硬化剤を合計60〜95質量%含有する、該熱硬化性樹脂により該部品を固着する機能を発揮する、小型電子部品のはんだ付け用フラックス。」(以下、「本願補正発明1」という)
また、補正された請求項5及び6の記載は、次のとおりである。
「【請求項5】さらにチキソ剤を0.1〜10質量%含有する請求項1ないし4のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項6】請求項1ないし5のいずれかに記載のフラックスと融点150℃以上のはんだ合金の粉末との混練物であるはんだペースト。」
してみると、請求項5に係る発明は、請求項1を引用する場合を全文記載形式で表現すると、「ロジンおよびカルボン酸無水物より選ばれた1種もしくは2種の有機酸0.1〜50質量%、溶剤5〜40質量%、チキソ剤0.1〜10質量%ならびに熱硬化性樹脂および硬化剤を合計60〜95質量%含有する、該熱硬化性樹脂により該部品を固着する機能を発揮する、小型電子部品のはんだ付け用フラックス。」(以下、「本願補正発明5」という)であると云える。
また、請求項6に係る発明は、請求項1を引用する場合を全文記載形式で表現すると、「ロジンおよびカルボン酸無水物より選ばれた1種もしくは2種の有機酸0.1〜50質量%、溶剤5〜40質量%、ならびに熱硬化性樹脂および硬化剤を合計60〜95質量%含有する、該熱硬化性樹脂により該部品を固着する機能を発揮する、小型電子部品のはんだ付け用フラックスと融点150℃以上のはんだ合金の粉末との混練物であるはんだペースト。」(以下、「本願補正発明6」という)であると云える。

2.当審の判断
本件手続補正の上記内容は、次の理由により、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものである。
(独立特許要件違反について)
(1)引用例の記載事項
原査定の理由で引用された引用例1及び2には、それぞれ次の事項が記載されている。
(a)引用例1:特開昭59-85394号公報
(a1)「本発明は液状フラックスと粉末はんだを混和して得られるクリーム状はんだ、特に電子機器のはんだ付けに用いるクリームはんだに関する。」(第1頁左下欄第14〜16行)
(a2)「本発明は前述クリームはんだをチップ部品のはんだ付けとして用いる混載プリント基板のはんだ付け方法において、クリームはんだをリフローした後、はんだ付け部にはんだを覆うようにして残るフラックス残渣に接着効果を付与し、フラックス残渣でチップ部品とプリント基板を固定して、後工程で該チップ部品のはんだ付け部が溶融はんだに接触してもチップ部品が剥れることなく所定の位置に留まっていられるようにしたことを技術思想としたものである。」(第2頁右上欄第11〜20行)
(a3)「本発明者は、エポキシ系接着剤は加熱することにより硬化し、また紫外線硬化型接着剤は紫外線の照射で硬化することに着目して本発明を完成させた。」(第2頁左下欄第1〜4行)
(a4)「実施例1 重合ロジン6.8重量%、イソプロピルアミンHBr0.2重量%、ブチルセロソルブ3.0重量%、一液性エポキシ系接着剤10.0重量%、Pb-60Snはんだ粉80.0重量%
上記組成のクリームはんだをプリント基板裏面のランド間に塗布し、該塗布部にチップ部品を搭載して遠赤外線の電気炉で120℃、20秒間予備加熱を行い、その後近赤外線を用いた加熱装置で210℃、5秒間加熱してクリームはんだのリフローを行った。そして該プリント基板を電気炉で150℃、10分間加熱処理を行なってフラックス残渣を硬化させた。」(第2頁左下欄第9行〜右下欄第2行)

(b)引用例2:特開平10-34383号公報
(b1)「重量%で、55ないし65%の範囲内のエポキシ組成体と、0ないし15%の範囲内のジカルボン酸と、9ないし11%の範囲内の多官能価アルコ-ルと、3ないし5%の範囲内の硬化剤とを含む1成分エポキシ系フラックス配合物と、そして重合体系はんだペ-ストの全重量%の80ないし95%の範囲内のはんだ金属と、を含む重合体系はんだペ-スト組成物。」(【請求項18】)
(b2)「【従来の技術】電子部品を接合および相互接続させるための標準な方法は、フラックスの存在下において錫鉛(Sn-Pb)系共晶はんだ用合金を用いてはんだ付けする方法である。・・・従来のはんだ付け方法の問題点は、・・・さらにはんだ及びはんだ用フラックスが環境に与える影響とに存在する。
従来の錫鉛はんだのリフロ-に必要なリフロ-温度は、セ氏200度か、それ以上の高温である。これらの高温によって、繊細な回路部品は損傷を受ける可能性があり、そのため当該高温に備えて、回路部品を取り付けるためのプリント回路基板(以下、PCBと言う)を比較的に高価な耐熱材で作る必要がある。」(段落【0002】、【0003】)
(b3)「本発明の好ましい実施例において、重合体配合物は、重合性モノマ-と、2塩基性有機酸と、ポリアルコ-ル(ポリオ-ル)と、そして硬化剤とを含む。さらに、当該配合物は、望ましくは、キレ-ト化剤と、脱泡剤と、チキソトロ-プと、そして界面活性剤とを含む。上記モノマ-は、エポキシか、または、エポキシ混合物であり、そして、上記2塩基性有機酸は、ジカルボン酸である。ジカルボン酸は、上記エポキシと反応して架橋反応を促進させる一方、一次フラックス剤として働く。」(段落【0012】)
(b4)「上記キレ-ト化剤は、金属イオンを取り除くことによって、当該組成物の可使時間とゲル化時間を伸ばす。当該金属イオンは、上記酸の働きによって形成され、堆着可能な場合、有機2塩基酸とエポキシとの共重合を促進させる。当該キレ-ト化剤は又、硬化工程の時に重合体フイルムと溶融金属表面との接着作用を、フラックス処理の際に形成されるキレ-ト化金属イオンによって、促進させる。上記脱泡剤は、金属を溶融する際に生じる空気やガスの泡を除去し、それによって、空隙や「ポップコ-ン現象」による影響を減らす。必要な場合には、界面活性剤を用いることによって、溶融金属表面の「濡れ」性を改善する。さらに、チキソトロ-プを用いることによって上記フラックスの粘度を変え、垂れ下がりや固化の程度を減少させ、それによって、上記組成物を微細ピッチの印刷に適したものにする。」(段落【0013】)
(b5)「上記はんだ組成物に使用される金属粉の特性については・・・その他のほとんどの用途においては、セ氏183度の温度で融ける従来の錫-鉛系共晶合金(63Sn37Pb:以下、SnPbと言う)が用いられる。」(段落【0014】)
(b6)「はんだ接合部を、重合体フイルムでカプセル状に包むことによって、当該物質をダイ接着用接着剤として使用することが出来る。当該はんだ組成物は、上記落下テストに合格することができ、そして、交通用や、航空宇宙用や、軍用などの多くの用途において要求される高温多湿の環境下で安定した状態を保つことができる導電性の接合部を提供する。」(段落【0015】)
(b7)「多官能性アルコ-ル類は、上記のようにフラックス作用の促進効果を有し、さらに、ジカルボン酸類が存在する場合には、当該酸類に対する良好な不揮発性(高沸点)の溶剤としても働く。・・・2官能性アルコ-ル類(ジオ-ル類)は、妥当な架橋能力と妥当な低粘度とを与えるが、多数の低粘度のトリオ-ル類もまた使用可能である。」(段落【0034】)
(b8)「アミン類は、化学的反応性化合物の極めて大きな群を構成し、エポキシ類に対する硬化剤として働くことができる。第一および第二アミン類は、エポキシと直接的に架橋する。一方、第三アミン類は、触媒として働いて、エポキシ類と、水素供与分子類との間の架橋反応を促進させる。」(段落【0035】)
(b9)「要するに、上記重合体フラックス組成物の好ましい実施例は、下記の成分を下記に表示された重量%の範囲で含有する。
エポキシ:55〜65%
酸:0〜15%
ジオ-ル:9〜11%
アミン:3〜5%
キレ-ト:4〜6%
脱泡剤:0.5〜1%
界面活性剤:0.5〜1.5%
チキソトロ-プ:1〜5%」(段落【0039】)

(2)対比・判断
(i)本願補正発明1について
引用例2の(b9)には、重合体フラックス組成物の実施例として重量%で「エポキシ:55〜65%、酸:0〜15%、ジオ-ル:9〜11%、アミン:3〜5%、キレ-ト:4〜6%、脱泡剤:0.5〜1%、界面活性剤:0.5〜1.5%、チキソトロ-プ:1〜5%」が記載されているところ、上記重合体フラックス組成物は、上記(b2)に記載される従来の電子部品のはんだ付けにおける問題点を解決しようとするものであるから、上記重合体フラックス組成物は、「電子部品のはんだ付け用重合体フラックス組成物」であることが明らかである。すると、引用例2には、「エポキシ:55〜65重量%、酸:0〜15重量%、ジオ-ル:9〜11重量%、アミン:3〜5重量%、キレ-ト:4〜6重量%、脱泡剤:0.5〜1重量%、界面活性剤:0.5〜1.5重量%、チキソトロ-プ:1〜5重量%含有する、電子部品のはんだ付け用重合体フラックス組成物」が記載されていると云える。
そして、上記(b6)の「はんだ接合部を、重合体フイルムでカプセル状に包むことによって、当該物質をダイ接着用接着剤として使用することが出来る。」の記載によると、上記重合体フラックス組成物のエポキシは、電子部品を固着していることは明らかであり、上記「酸」は、上記(b3)によると、「有機酸」であり、上記「ジオール」は、上記(b7)によると、「溶剤」であり、上記「アミン」は、上記(b8)によると、「硬化剤」であるから、これら引用例2に記載された事項を、本願補正発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用例2には、「有機酸0〜15重量%、溶剤9〜11重量%、エポキシ55〜65重量%、硬化剤3〜5重量%、キレ-ト4〜6重量%、脱泡剤0.5〜1重量%、界面活性剤0.5〜1.5重量%、チキソトロ-プ1〜5重量%含有する、該エポキシは電子部品を固着する機能を発揮する、電子部品のはんだ付け用重合体フラックス組成物」の発明(以下、「引用例2-1発明」という。)が記載されていると云える。
そこで、本願補正発明1と、引用例2-1発明とを対比すると、引用例2-1発明の「重量%」は、本願補正発明1の「質量%」に置き換えて良いことは明らかであり、引用例2-1発明の「エポキシ」は、本願補正発明1の「熱硬化性樹脂」の一種であることは明らかであり、引用例2-1発明の「電子部品」は、上記(b2)に記載されるようにプリント回路基板にはんだ付けされる小型のものであることは明らかであるから、本願補正発明1の「小型電子部品」に相当し、引用例2-1発明の「重合体フラックス組成物」は、本願補正発明1の「フラックス」に相当し、また、引用例2-1発明は「エポキシ」と「硬化剤」の合計において本願補正発明1と重複するから、本願補正発明1と引用例2-1発明は、「有機酸0.1〜15質量%、溶剤9〜11質量%、熱硬化性樹脂および硬化剤を合計60〜70質量%含有する、該熱硬化性樹脂は電子部品を固着する機能を発揮する、小型電子部品のはんだ付け用フラックス」である点で一致し、以下の3点で相違する。
(イ)相違点1:本願補正発明1は、有機酸がロジンおよびカルボン酸無水物より選ばれた1種もしくは2種であるのに対し、引用例2-1発明は、有機酸の種類が明らかでない点。
(ロ)相違点2:本願補正発明1は、キレ-ト、脱泡剤、界面活性剤、チキソトロ-プを含有するとまでは特定されていないのに対し、引用例2-1発明は、キレ-ト4〜6重量%、脱泡剤0.5〜1重量%、界面活性剤0.5〜1.5重量%、チキソトロ-プ1〜5重量%含有している点。
(ハ)相違点3:本願補正発明1は、熱硬化性樹脂「により」部品を固着する機能を発揮するのに対し、引用例2-1発明は、熱硬化性樹脂が部品を固着する機能を発揮しているものの、熱硬化性樹脂「により」部品を固着する機能を発揮するのか明らかでない点。
次に、上記相違点について検討する。
(イ)相違点1について
はんだフラックス成分の有機酸としてのロジン、又はカルボン酸無水物は、例えば、引用例1(記載事項(a4))、特開平10-85984号公報(特許請求の範囲、段落【0016】)、特開平9-52195号公報(特許請求の範囲、段落【0015】、【0016】)に記載されるように周知であるから、引用例2-1発明の有機酸をロジン、又はカルボン酸無水物とすることは当業者が容易に想到することができたものと云える。

(ロ)相違点2について
本願補正発明1は、明細書段落【0040】の「本発明のフラックスは、フラックスに従来より配合されている、チキソ剤、活性剤といった添加剤を含有していてもよい。」の記載によれば、従来より配合されている添加剤を含有しても良いとされており、キレ-ト、脱泡剤、界面活性剤、チキソトロ-プは、上記でいうところの「従来より配合されている添加剤」に相当すると云えるから、本願補正発明1は、これらキレ-ト、脱泡剤、界面活性剤、チキソトロ-プの存在を許容すると解するのが相当であり、この限りにおいて、相違点2は実質的な相違点となるものではない。
仮に、本願補正発明1が、これらキレ-ト、脱泡剤、界面活性剤、チキソトロ-プを含まないとしても、上記(b3)の「本発明の好ましい実施例において、重合体配合物は、重合性モノマ-と、2塩基性有機酸と、ポリアルコ-ル(ポリオ-ル)と、そして硬化剤とを含む。さらに、当該配合物は、望ましくは、キレ-ト化剤と、脱泡剤と、チキソトロ-プと、そして界面活性剤とを含む。」の記載によれば、引用例2-1発明は、キレ-ト、脱泡剤、界面活性剤、チキソトロ-プを含有することは望ましいものの、フラックスがこれらを含まなくても良いことは明らかであるから、引用例2-1発明の、キレ-ト、脱泡剤、界面活性剤、チキソトロ-プの添加を省略することは当業者が容易に想到することができたものと云える。

(ハ)相違点3について
本願補正発明1は、熱硬化性樹脂「により」部品を固着するのに対し、引用例2-1発明は、熱硬化性樹脂が部品を固着するものの、熱硬化性樹脂「により」部品を固着するのか明らかでないが、本願明細書段落【0018】の「このフラックスは・・・フラックス中の熱硬化性樹脂が硬化し、はんだ付けの接合に熱硬化性樹脂による接合が加わって、固着力が増加し、小型電子部品のはんだ付けの場合にも、はんだ付け操作だけで充分な接合強度を与えることができる。」の記載によると、本願補正発明1も、熱硬化性樹脂による接合の他に、はんだ付けの接合も行われ、熱硬化性樹脂だけで部品を固着しているわけではないから、引用例2-1発明と相違するところがなく、上記相違点3は、実質的な相違点となるものではないと云える。
してみると、本願補正発明1は、引用例2-1に記載された発明及び上記周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると云える。

(ii)本願補正発明5について
本願補正発明5は、本願補正発明1に「チキソ剤」を0.1〜10質量%さらに含有するものである。一方、引用例2-1発明は、「チキソトロ-プ」を1〜5重量%含有するが、この「チキソトロ-プ」とは、引用例2の段落【0037】で「チキソトロピー剤」と言い換えていることからして、「チキソ剤」と云えるものであるから、引用例2-1発明は、「チキソ剤」を本願補正発明5と重複する範囲で含有していると云える。
してみると、本願補正発明5と、引用例2-1発明との相違点は、上記(i)「本願補正発明1について」で記載した相違点1〜3であり、その判断も上記のとおりであるから、本願補正発明5は、引用例2-1に記載された発明及び上記周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると云える。

(iii)本願補正発明6について
(iii-1)引用例2との対比・判断
引用例2には、上記(b1)によると、フラックス配合物とはんだ金属とを含むはんだペースト組成物が記載され、フラックス配合物とは、上記(i)「本願補正発明1について」で「引用例2-1発明」として記載した通りであり、上記「はんだ金属」とは、上記(b5)によると、「融点150℃以上のはんだ合金の粉末」であるから、引用例2には、「有機酸0〜15重量%、溶剤9〜11重量%、エポキシ55〜65重量%、硬化剤3〜5重量%、キレ-ト4〜6重量%、脱泡剤0.5〜1重量%、界面活性剤0.5〜1.5重量%、チキソトロ-プ1〜5重量%含有する、該エポキシは電子部品を固着する機能を発揮する、電子部品のはんだ付け用重合体フラックス組成物と融点150℃以上のはんだ合金の粉末とを含むはんだペースト組成物」の発明(以下、「引用例2-2発明」という。)が記載されていると云える。
そこで、本願補正発明6と、引用例2-2発明とを対比すると、引用例2-2発明の「はんだペースト組成物」は、本願補正発明6の「混練物であるはんだペースト」に相当するから、その相違点は、上記(i)「本願補正発明1について」で記載した相違点1〜3であり、その判断も上記のとおりである。
してみると、本願補正発明6は、引用例2-2に記載された発明及び上記周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると云える。

(iii-2)引用例1との対比・判断
引用例1の上記(a4)には、「重合ロジン6.8重量%、イソプロピルアミンHBr0.2重量%、ブチルセロソルブ3.0重量%、一液性エポキシ系接着剤10.0重量%、Pb-60Snはんだ粉80.0重量%のクリームはんだ」をチップ部品のはんだ付けに用いることが記載されているから、引用例1には、「重合ロジン6.8重量%、イソプロピルアミンHBr0.2重量%、ブチルセロソルブ3.0重量%、一液性エポキシ系接着剤10.0重量%、Pb-60Snはんだ粉80.0重量%のチップ部品のはんだ付け用クリームはんだ」が記載されていると云える。
そして、上記(a2)の「混載プリント基板のはんだ付け方法において、クリームはんだをリフローした後、はんだ付け部にはんだを覆うようにして残るフラックス残渣に接着効果を付与し、フラックス残渣でチップ部品とプリント基板を固定して、後工程で該チップのはんだ付け部が溶融はんだに接触してもチップ部品が剥れることなく所定の位置に留まっていられるようにした」の記載によると、上記クリームはんだの一液性エポキシ系接着剤は、チップ部品を固着していることは明らかであるから、これら引用例1に記載された事項を、本願補正発明6の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、「重合ロジン6.8重量%、イソプロピルアミンHBr0.2重量%、ブチルセロソルブ3.0重量%、一液性エポキシ系接着剤10.0重量%、Pb-60Snはんだ粉80.0重量%、該一液性エポキシ系接着剤はチップ部品を固着している、チップ部品のはんだ付け用クリームはんだ」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると云える。
そこで、本願補正発明6と、引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「重量%」は、本願補正発明6の「質量%」に置き換えて良いことは明らかであり、引用例1発明の「重合ロジン」は、本願明細書段落【0033】〜【0034】に、有機酸であるロジンの具体例として挙げられているように、本願補正発明6の「ロジン」に相当し、引用例1発明の「ブチルセロソルブ」は、周知の溶剤であるから、本願補正発明6の「溶剤」に相当し、引用例1発明の「一液性エポキシ系接着剤」は、上記(a3)によると加熱処理して硬化させているから、本願補正発明6の「熱硬化性樹脂」の一種であり、引用例1発明の「Pb-60Snはんだ粉」は、本願明細書段落【0045】の記載によると、組成の近似する63%Sn-37%Pbの融点が183℃であるから、本願補正発明6の「融点150℃以上のはんだ合金粉末」に相当し、引用例1発明の「チップ部品」は、本願明細書の段落【0021】に小型電子部品の例として、フリップチップ、CSP(Chip Size Package)等の半導体パッケージ、ならびに他の小型チップ部品が記載されているから、本願補正発明6の「小型電子部品」に相当し、引用例1発明の「クリームはんだ」は、本願補正発明6の「混練物であるはんだペースト」に相当する。
また、上記(a1)によると、引用例1発明のクリームはんだは、液状フラックスと粉末はんだからなるが、引用例1発明の液状フラックスの成分を液状フラックスの重量を基準に量比を記載すると、「重合ロジン34.0質量%、イソプロピルアミンHBr1.0質量%、ブチルセロソルブ15.0質量%、一液性エポキシ系接着剤50.0質量%」であるから、本願補正発明6と引用例1発明は、「ロジン34.0質量%、溶剤15.0質量%、熱硬化性樹脂と、融点150℃以上のはんだ合金粉末、該熱硬化性樹脂は小型電子部品を固着する混練物であるはんだペースト」である点で一致し、以下の3点で相違する。
(イ)相違点1:本願補正発明6は、熱硬化性樹脂および硬化剤を合計60〜95質量%含有しているのに対し、引用例1発明は、熱硬化性樹脂を50.0質量%含み、硬化剤を含んでいるのか明らかでない点。
(ロ)相違点2:本願補正発明6は、イソプロピルアミンHBrを含有するとまでは特定されていないのに対し、引用例1発明は、イソプロピルアミンHBrを1.0質量%含有している点。
(ハ)相違点3:本願補正発明6は、熱硬化性樹脂「により」部品を固着する機能を発揮するのに対し、引用例1発明は、熱硬化性樹脂が部品を固着する機能を発揮しているものの、熱硬化性樹脂「により」部品を固着する機能を発揮するのか明らかでない点。
次に、上記相違点について検討する。
(イ)相違点1について
本願補正発明6は、熱硬化性樹脂をおよび硬化剤を含有するのに対し、引用例1発明は、硬化剤を含有するのか明らかでないが、上記(a3)によると、引用例1発明の熱硬化性樹脂は加熱により硬化されるものであるから、硬化剤を含有していると云える。さらに、本願補正発明6が、熱硬化性樹脂および硬化剤を合計60〜95質量%含有している技術的意味は、本願明細書の段落【0025】〜【0027】の記載によると固着作用を発揮するものであると云える。一方、引用例1発明が「エポキシ樹脂を50質量%」含有している技術的意味は、上記(a2)の記載によれば、本願補正発明6と同様に固着作用を発揮するものであり、両者は、樹脂を添加するねらいが共通するから、引用例1発明のエポキシ樹脂の含有量をより多くし、「60〜95質量%」とすることは当業者が容易に想到することができたと云える。

(ロ)相違点2について
本願明細書段落【0041】の「活性剤はフラックスのはんだ付け性を向上させるために添加される。・・・本発明のフラックスにおいて活性剤として使用することが好ましいのは、アミンのハロゲン化水素酸塩であり・・・」の記載によれば、本願補正発明6は、引用例1発明のイソプロピルアミンHBrに相当するアミンのハロゲン化水素酸塩を含有しても良いのであるから、上記相違点2は、実質的な相違点となるものではないと云える。

(ハ)相違点3について
上記(i)「本願補正発明1について」(ハ)「相違点3について」に記載したように、本願補正発明6も、熱硬化性樹脂による接合の他に、はんだ付けの接合も行われ、熱硬化性樹脂だけで部品を固着しているわけではないから、引用例1発明と相違するところがなく、上記相違点3は、実質的な相違点となるものではないと云える。
してみると、本願補正発明6は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると云える。

(3)小括
以上のように、本願補正発明1及び本願補正発明5は、引用例2-1に記載された発明及び上記周知事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願補正発明6は、引用例2-2に記載された発明及び上記周知事項、又は引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると云えるから、本願補正発明1、5及び6は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
したがって、本件手続補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明についての審決
1.本願発明1、5及び6について
平成15年7月17日付けの手続補正は、上記のとおり却下すべきものであるから、本願の請求項1〜9に係る発明は、平成14年12月24日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】ロジンおよびカルボン酸無水物より選ばれた1種もしくは2種の有機酸0.1〜50質量%、溶剤5〜40質量%、ならびに熱硬化性樹脂および硬化剤を合計60〜95質量%含有する、部品をはんだ付けする際に、該熱硬化性樹脂により該部品を固着する機能を発揮する、はんだ付け用フラックス。」(以下、「本願発明1」という)
また、請求項5及び6の記載は、以下のとおりである。
「【請求項5】さらにチキソ剤を0.1〜10質量%含有する請求項1ないし4のいずれかに記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項6】請求項1ないし5のいずれかに記載のフラックスと融点150℃以上のはんだ合金の粉末との混練物であるはんだペースト。」
してみると、請求項5に係る発明は、請求項1を引用する場合を全文記載形式で表現すると、「ロジンおよびカルボン酸無水物より選ばれた1種もしくは2種の有機酸0.1〜50質量%、溶剤5〜40質量%、チキソ剤0.1〜10質量%ならびに熱硬化性樹脂および硬化剤を合計60〜95質量%含有する、部品をはんだ付けする際に、該熱硬化性樹脂により該部品を固着する機能を発揮する、はんだ付け用フラックス。」(以下、「本願発明5」という)であると云える。
また、請求項6に係る発明は、請求項1を引用する場合を全文記載形式で表現すると、「ロジンおよびカルボン酸無水物より選ばれた1種もしくは2種の有機酸0.1〜50質量%、溶剤5〜40質量%、ならびに熱硬化性樹脂および硬化剤を合計60〜95質量%含有する、部品をはんだ付けする際に、該熱硬化性樹脂により該部品を固着する機能を発揮する、はんだ付け用フラックスと融点150℃以上のはんだ合金の粉末との混練物であるはんだペースト。」(以下、「本願発明6」という)であると云える。

2.引用例と引用例発明
原査定の理由で引用された引用例1及び2の記載事項は、上記「II.2(1)」で記載したとおりであり、引用例1発明、引用例2-1発明及び引用例2-2発明も、前示のとおりである。

3.対比・判断
(i)本願発明1について
本願発明1は、本願補正発明1の内容と対比すると、1点目は、本願補正発明1の「該熱硬化性樹脂により該部品を固着する機能を発揮する」という特定事項が、「部品をはんだ付けする際に、該熱硬化性樹脂により該部品を固着する機能を発揮する」というものであるが、本願発明1は、「部品をはんだ付けする際に」と記載されるものの、部品をはんだ付けする際のみならず、部品をはんだ付けした後も、熱硬化性樹脂は部品を固着する機能を発揮するものであるから、実質的に本願補正発明1と同様である。
また、2点目は、本願補正発明1の「小型電子部品のはんだ付け用フラックス」という特定事項が、「はんだ付け用フラックス」というものであるから、本願発明1は、本願補正発明1の「小型電子部品の」という特定事項がない内容のものである。
そうすると、本願発明1も、上記引用例2-1発明と対比すると、その相違点は、本願補正発明1との相違点1〜3であり、これらの点は、上記「II.2.(2)(i)」で言及したとおりであるから、本願発明1も、本願補正発明1と同様に、引用例2-1発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(ii)本願発明5について
本願発明5は、引用する請求項1の特定事項以外は補正されておらず、請求項1の特定事項の補正については上記(i)「本願発明1について」に記載したとおりであるから、本願発明5も、上記引用発明2-1発明と対比すると、その相違点は、本願補正発明5との相違点1〜3であり、これらの点は、上記「II.2.(2)(i)」で言及したとおりであるから、本願発明5も、本願補正発明5と同様に、引用例2-1発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

(iii)本願発明6について
本願発明6は、引用する請求項1の特定事項以外は補正されておらず、請求項1の特定事項の補正については上記(i)「本願発明1について」に記載したとおりであるから、本願発明6も、上記引用発明2-2発明と対比すると、その相違点は、本願補正発明6との相違点1〜3であり、これらの点は、上記「II.2.(2)(i)」で言及したとおりであるから、本願発明6も、本願補正発明6と同様に、引用例2-2発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
また、本願発明6を、上記引用例1発明と対比すると、その相違点は、本願補正発明6との相違点1〜3であり、これらの点は、上記「II.2.(2)(iii-2)」で言及したとおりであるから、本願発明6も、本願補正発明6と同様に、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

IV.むすび
したがって、少なくとも本願発明1、5及び6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その余の発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-30 
結審通知日 2005-04-05 
審決日 2005-04-28 
出願番号 特願2000-368896(P2000-368896)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B23K)
P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 原 賢一
綿谷 晶廣
発明の名称 熱硬化性はんだ付け用フラックスおよびはんだ付け方法  
代理人 広瀬 章一  
代理人 広瀬 章一  

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