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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1138979
審判番号 不服2001-16553  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-09-17 
確定日 2006-05-29 
事件の表示 平成 3年特許願第183772号「免疫グロブリン部分との融合タンパク質、その調製および使用」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年 9月24日出願公開、特開平 5-247094〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 〔1〕本願は、平成3年6月28日(優先権主張、1990年6月28日、DE)に出願された特願平3-183772号に係る特許出願であって、本件の請求項1乃至10に係る発明は、平成15年4月25日付で手続補正された明細書の請求項1乃至10の記載により特定されており、そのうちの請求項1には下記のように記載されている。(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」ともいう。)
「二つのDNA部分配列を含んでなるポリヌクレオチドによってコードされる組換えタンパク質であって、第1の部分配列が膜結合ヒト腫瘍壊死因子(TNF)レセプタータンパク質の細胞外ドメインをコードし、第2の部分配列がヒト免疫グロブリン重鎖の不変領域の第1ドメイン以外の全てのドメインをコードし、膜結合TNFレセプタータンパク質の細胞外ドメインのカルボキシ末端が、ヒト免疫グロブリン重鎖の不変領域のアミノ末端に結合されている、組換えタンパク質。」

なお、以下、「膜結合ヒト腫瘍壊死因子(TNF)レセプタータンパク質」を「ヒトTNF-R」といい、「ヒト免疫グロブリン重鎖」を「ヒトIg重鎖」、その「不変領域の第1ドメイン」を「CH1」という。

〔2〕当審における平成14年10月22日付拒絶理由通知では、(1)本件各請求項に係る発明が下記刊行物1乃至5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないこと、及び(2)本件明細書中には、ヒトTNF-Rの細胞外ドメインを含む組換えタンパク質を用いた場合について当業者が容易に実施できるように記載されておらず開示も不十分であるから、本願は特許法第36条第4項及び第5項の規定に違反していることを指摘した。
これに対し請求人は、意見書を提出すると共に上記手続補正をし、当審ではさらに、平成17年3月30日付で、本件出願をもとの出願とする特願2001-319607号に係る審判2003-4387号とあわせて、ファクシミリにより請求人に対して審尋した。
<引用文献>
刊行物1:特開平3-502283号公報
刊行物2:Trends Biochem.Sci.,Vol.10(1985),p.347-349
刊行物3:Nature,Vol.312(1984),p.604-608
刊行物4:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.85(1988),p.8057-8061
刊行物5:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.87(March l990),p.2047-2051
(ただし、上記刊行物1は国際出願に係る出願であり、国際公開番号のWO89/06690の誤記である。当該WO89/06690は、原審の拒絶理由通知で引用文献1として提示した文献なので、以下、引用文献1という。)

〔3〕当審の判断:
1.特許法第29条第2項違反について:
上記引用文献1には、CD4の細胞外ドメインと、CH1領域が除かれたIg不変領域とからなる組換え融合タンパク質が製造されたことと共に、当該融合タンパク質にはすべてのCD4エピトープが保存され、HIVエンベロープタンパク質との間の特異的な高親和性も保たれていると同時に、Ig不変領域の補体結合活性も維持されていることが確認されている。確かに、CD4はIgファミリーに属しており、CD4細胞外領域全体を用いた場合には、もともとIgとの融合タンパク質での立体構造上のゆがみの影響が少ないことが積極的に期待できるものであるが、そもそも2種類のタンパク質それぞれの特性を生かした組換え融合タンパク質を製造することは従来から広く行われていることであり、引用文献1にも、Ig不変領域(CH1を除く場合も含まれる)と融合タンパク質を作製するCD4由来タンパク質としてはHIVgp120結合活性のみに着目し、「HIVgp120に結合するフラグメント」のみでもよいことが記載されている。
また、刊行物4及び5においては、neuプロトオンコジーン及びエクオリンを用いてIg由来タンパク質との組換え融合タンパク質を製造しているが、これらタンパク質がいずれもIgファミリーに属していないことからも、Igファミリーに属さないことがIg由来タンパク質との融合タンパク質製造の阻害要因とはならないことは明らかである。
そうしてみると、「Ig性タンパク質」であるか否かにかかわらず、「ヒトIg重鎖の不変領域のCH1以外の全てのドメイン」との組換え融合タンパク質を製造しようと思いつくこと自体は、当業者にとってはむしろ自然な発想であって、「ヒトTNF-Rの細胞外ドメイン」は、請求人自身も認めるようにその配列が本件優先日前にすでに公知であった(例えばCell,61,361-370(1990)、Science248,1019-1023(1990)等)のだから、当業者が引用文献1の手法を適用して「ヒトIg重鎖の不変領域のCH1以外の全てのドメイン」との組換え融合タンパク質を製造しようと想起することに何らの困難性は見いだせない。
そして、本件明細書中には、「ヒトTNF-Rの細胞外ドメイン」を用いた組換え融合タンパク質についての実施例など具体的な記載がないので、「ヒトIg重鎖の不変領域のCH1以外のすべてのドメイン」との融合タンパク質製造のための相手タンパク質として「ヒトTNF-Rの細胞外ドメイン」を選択した場合の特有の効果は主張できないから、その効果を格別のものとすることもできない。
そうであるから、本件発明は引用文献1及び刊行物4、5を組み合わせることで当業者が容易に発明をすることができたものであり、他の請求項に係る発明も同様である。
したがって、本件請求項1乃至10に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.特許法第36条第4項及び第5項違反について:
本件明細書中には、「ヒトTNF-Rの細胞外ドメイン」については、「ヒトIg重鎖の不変領域のCH1以外のすべてのドメイン」と組換え融合タンパク質を製造した実施例どころか、「Ig不変領域」のうちでも「ヒトIg重鎖の不変領域のCH1以外のすべてのドメイン」と結合することなど具体的な組み合わせ的記載すらなく、単に「Ig不変領域」のアミノ末端に結合できるヒトタンパク質例として羅列列挙されている中の1例としてその名称があがっているに留まる。
ところで、上記1.で述べたように、通常の「組換え融合タンパク質」としてそれぞれの特性をある程度保持した融合タンパク質が提供できること自体は、本件優先日当時の技術常識から見て充分に推定できるものではあるから、当合議体は、両者の組換え融合タンパク質についても当業者が容易に想到できるとする上記判断が妥当であると考えている。
しかしながら、審判請求人が主張するように、仮に「非Ig性タンパク質」の場合には、「ヒトIg不変領域(除くCH1)」と共に組換え融合タンパク質を製造しようとしても、通常は立体構造上のゆがみが無視できない、という前提に立てば、「非Ig性タンパク質」である「ヒトTNF-Rの細胞外ドメイン」を用いた場合に、果たして両タンパク質の機能が損なわれることのない組換え融合タンパク質を作製できるか否かが不明であることになる。そして、明細書にはそのような立体構造上のゆがみをどのように補正すればよいかという具体的工夫が記載されているわけでもない。
そうであれば、本件明細書中には当該融合タンパク質に関する実施例がない以上、そのような発明については本件明細書中に開示されていないとするべきである。
したがって、本願は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない。

〔4〕まとめ:
以上述べたとおりであるから、本願は、いずれにしても拒絶されることになる。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-12-21 
結審通知日 2006-01-04 
審決日 2006-01-17 
出願番号 特願平3-183772
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07K)
P 1 8・ 531- WZ (C07K)
P 1 8・ 534- WZ (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 六笠 紀子鵜飼 健  
特許庁審判長 佐伯 裕子
特許庁審判官 種村 慈樹
河野 直樹
発明の名称 免疫グロブリン部分との融合タンパク質、その調製および使用  
代理人 佐藤 一雄  
代理人 中村 行孝  
代理人 中村 行孝  
代理人 佐藤 一雄  

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