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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1139061
審判番号 不服2004-3425  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-06-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-02-19 
確定日 2006-06-29 
事件の表示 平成 8年特許願第318239号「非水溶剤系上塗り塗料用硬化性樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 6月16日出願公開、特開平10-158573〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年11月28日の出願であって、拒絶理由通知に対し平成15年10月31日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、平成16年1月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年2月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年3月18日付けで手続補正がなされ、その後、当審の審尋に対し平成17年11月25日付けで回答書が提出され、平成18年3月16日付けで上申書が提出されたものである。

2.平成16年3月18日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年3月18日付けの手続補正を却下する。
[理由]
平成16年3月18日付けの手続補正は、特許法第17条の2第1項第4号の規定によりされた補正であり、平成15年10月31日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1における「アルミニウムキレート化合物(C)0.1〜20重量部を含有する」を「アルミニウムキレート化合物(C)0.5〜10重量部を含有する」と補正することを含むものである。
上記補正は、補正前の明細書の段落【0081】の「アルミニウムキレート化合物(C)の使用量は、アクリル系共重合体(A)100部に対して0.1〜20部、好ましくは0.5〜10部、さらに好ましくは1〜5部である。」の記載に基づいて、アルミニウムキレート化合物(C)の配合量を「0.1〜20重量部」から「0.5〜10重量部」にその数値範囲を減縮するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)補正後の請求項1に係る発明
補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。」は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。
「【請求項1】 一般式(I):
【化1】


(式中、R1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基、aは0〜2の整数を示す)で表わされる炭素原子に結合した反応性シリル基を含有するアクリル系共重合体(A)100重量部に対して、一般式(II):
【化2】


(式中、R3は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基、R4は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基、bは0または1を示す)で表わされるシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物(B)2〜70重量部、およびアルミニウムキレート化合物(C)0.5〜10重量部を含有することを特徴とする非水溶剤系上塗り塗料用硬化性樹脂組成物。」

(2)引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-292041号公報(以下、「引用例1」という。)及び特開昭60-67553号公報(以下、「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。

引用例1
ア:「【請求項1】 一般式(I):【化1】


(式中、R1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基、aは0〜2の整数を示す)で表わされるアルコキシシリル基およびアルコール性水酸基を含有するアクリル系共重合体(A)100重量部に対して、一般式(II):
【化2】


(式中、R3は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基、R4は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基または炭素数1〜10のアルコキシル基、bは0または1を示す)で表わされるシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物(B)2〜70重量部と、硬化触媒(C)0.1〜20重量部とを混合してなる上塗り塗料用硬化性樹脂組成物。・・・【請求項4】 硬化触媒(C)が、有機カルボン酸類または有機リン酸エステル類と有機アミン類との併用系硬化触媒、または有機金属系硬化触媒である請求項1、2または3記載の上塗り塗料用硬化性樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1〜4)
イ:発明が解決しようとする課題として、「本発明者らは、・・・アルコール性水酸基および特定のアルコキシシリル基を含有するアクリル系共重合体、シリコン化合物および硬化触媒を特定の配合割合で混合した樹脂組成物が加熱での硬化性を有し、該樹脂組成物から、従来のアクリルシリコン樹脂からなる塗料と同様にすぐれた耐候性を有するとともに、さらにすぐれた耐汚染性をも同時に有する塗膜を形成することができることをようやく見出し、本発明を完成するにいたった。」(段落【0005】)
ウ:「前記成分(A)は、たとえば重合性二重結合およびアルコキシシリル基を含有するモノマー(以下、モノマー(A-1)という)、重合性二重結合およびアルコール性水酸基を含有するモノマー(以下モノマー(A-2)および(メタ)アクリル酸および(または)その誘導体(以下、モノマー(A-3)という)を含有する重合成分を重合することによって製造することができる。」(段落【0022】)
エ:「前記アルコール性水酸基含有ビニル重合体化合物(A-2)としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、・・・N-メチロール(メタ)アクリルアミド、・・・水酸基含有ビニル化合物とε-カプロラクトンとの反応によってえられるε-カプロラクトン変性ヒドロキシアルキルビニル系モノマーでは、Placcel FA-1・・・Placcel FA-4、・・・Placcel FM-1・・・Placcel FM-4・・・(ダイセル化学工業(株)製)などがあげられる。」(段落【0045】)
オ:「本発明に用いられる前記一般式(II)で表わされるシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物(B)(以下、成分(B)という)は、えられる硬化性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の耐汚染性および該塗膜と被塗物との密着性を向上せしめる成分である。」(段落【0057】)
カ:「本発明において、前記成分(B)は単独でまたは2種以上を混合して用いることができるが、前記(A)成分との相溶性、えられる樹脂組成物の硬化性および該樹脂組成物を用いて形成された塗膜の硬度にすぐれるという点からMSI51やESI40などの前記縮合物が好ましい。」(段落【0064】)
キ:「有機金属系硬化触媒としては、たとえばジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、・・・などの有機錫化合物;更にはチタン酸塩、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムなどの有機アルミニウム化合物;テトラブチルジルコネート、・・・のような有機ジルコニウム化合物がある。」(段落【0069】)
ク:「前記成分(A)、成分(B)および成分(C)の配合割合は、成分(A)100部(重量部、以下同様)に対して、成分(B)が2〜70部、好ましくは5〜60部、成分(C)が0.1〜20部、好ましくは0.1〜10部となるように調整することが望ましい。」(段落【0076】)
ケ:「また前記成分(C)の配合量が0.1部未満であるばあいには、えられる樹脂組成物の硬化性が低下するようになり、また20部をこえるばあいには、樹脂組成物を用いて形成された塗膜の表面光沢などの外観性が低下するようになる。」(段落【0078】)
コ:「製造例1(成分(A)-1の製造)・・・キシレン16部、酢酸ブチル9部、2-エチルヘキシルアルコール17部を仕込み、・・・110℃に昇温したのち、PlaccelFM-4 17部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン15部、メチルメタクリレート26部、n-ブチルアクリレート20部、アクリルアミド1.2部、スチレン20部および2,2´-アゾビスイソブチロニトリル0.8部からなる混合物(a)を・・・混合物の滴下終了後、2,2´-アゾビスイソブチロニトリル0.08部をトルエン5部に溶解したものを、・・・滴下したのち、110℃で2時間熟成してから冷却し、樹脂溶液にキシレンを加えて樹脂固形分濃度が50%の成分(A)-1をえた。えられた成分(A)-1の数平均分子量は20,000、Tgは20℃であった。」(段落【0087】〜【0088】)
サ:「実施例1〜7および比較例1
製造例でえられた表1記載の成分(A)の樹脂固形分100部に対して表1記載の成分(B)を表1記載量配合した樹脂溶液に、顔料として全樹脂固形分の40%の酸化チタン・・・を添加し、・・・2時間分散させ、固形分濃度が60%の白エナメルをえた。 つぎにえられた白エナメルに、表1記載の成分(C)を表1記載量添加して、さらにシンナーを添加して撹拌機を用いて5分間撹拌し、固形分濃度が45%の樹脂組成物をえた。」(段落【0091】〜【0092】)
シ:12頁上欄の表1に、成分(B)がMSI51、EISI40(実施例2、3、5)であり、成分(C)がジブチル錫ビスブチルマレート(実施例2、実施例6)、テトラブチルジルコネート(実施例3)、2-エチルへキサン酸、ジメチルラウリルアミンおよびジブチル錫ビスブチルマレート(実施例5)である上塗り塗料用硬化性樹脂組成物が記載されている。
ス:発明の効果として、「本発明の上塗り塗料用硬化性樹脂組成物は、加熱硬化条件でえられる塗膜の光沢および表面状態がきわめて良好であり、すぐれた耐候性を有するとともに、さらにすぐれた耐汚染性をも同時に有する塗膜を形成することができる。」(段落【0104】)

引用例4
セ:「下記一般式で示される化合物を3重量%以上含有する重合体に、架橋反応硬化剤として、水酸基およびアルコキシ基を有さないアルミニウムキレート化合物を配合してなることを特徴とする硬化性組成物。


(一般式において、R1は水素またはメチル基、R2は炭素数1〜5の炭化水素基、R3は炭素数1〜10の炭化水素基、R4はOR3および(または)炭素数1〜6の炭化水素基である。)」(特許請求の範囲)
ソ:「アルコキシシラン重合体を用いた塗料はすでに公知であって、該塗料を塗装し、硬化反応によって塗膜を形成させている。この硬化反応機構は、アルコキシシラン含有重合体中のアルコキシアクリルシランにもとづくアルコキシ基が空気中の水分によって加水分解し、それによって生成したシラノール基が縮合してシロキサン結合を形成して硬化するものとされている。ところが、上記加水分解の速度は、無触媒下では極めて遅いので、それを促進するために酸触媒(例えば塩酸、パラトルエンスルホン酸など)、塩基性触媒(例えばジメチルアミノエタノールなど)または金属アルコキシド(例えばチタン、ジルコニウム、アルミニウムなどのアルコキシド)などの化合物が配合されていた。しかしながら、このような化合物を用いても硬化性、貯蔵安定性、塗膜性能などが不十分であり、これらの改良が強く望まれているのである。
すなわち、酸触媒および塩基性触媒では、いずれも塗膜の硬化性不十分であり、しかも形成した塗膜の耐薬品性ならびに耐水性なども劣っているのである。また、金属アルコキシドを用いると、アルコキシシラン含有重合体の硬化反応速度が早すぎて貯蔵安定性が悪いので、該金属アルコキシドを混合してから使用(塗装)するまでの時間(可使時間、ポットライフ)が短かく、塗装作業の管理が困難となり、しかも該金属アルコキシドは高価で、その多くは有彩色であるために淡色仕上げに適さず、かつ塗膜の平滑性なども劣化するのである。
そこで本発明者等は、このような状況に鑑み、アルコキシシラン含有重合体の硬化性、貯蔵安定性、塗膜性能などを改良するために鋭意研究を行なった結果、硬化剤として、特定のアルミニウムキレート化合物を使用することによって、前記した種々の欠陥を解消できることを見い出し本発明を完成するに至ったのである。」(1頁右下欄下から7行〜2頁右上欄10行)
タ:「本発明において用いるアルミニウムキレート化合物はその分子中に水酸基およびアルコキシ基を有さないことが必要である。なぜならば、水酸基、アルコキシ基が含まれていると前記アルコキシシラン含有重合体の硬化反応速度が早すぎて、これらを混合してから使用するまでの時間が短かく、塗装の管理が困難となるので好ましくなく、しかも形成した塗面の平滑性が劣化するのである。
すなわち、本発明において用いるアルミニウムキレート化合物は、酸素を配位原子とする2配位座を有する配位子(キレート化剤)をアルミニウムに配位させてなり、・・・該配位子としては、・・・具体的には、例えばアセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチルなどのジケトン類、ケトエステル類などがあげられ、・・・これらのアルミニウムキレート化合物は容易に製造することができ、たとえばアセト酢酸エチルを配位子とする場合について説明すると、アルミニウムイソプロピレートとアセト酢酸エチルとを反応させることにより得られる。」(3頁右上欄8行〜同頁左下欄13行)
チ:「本発明において、アルミニウムキレート化合物の配合比率は、固形分比にもとづいて、アルコキシシラン含有重合体100重量部あたり、0.1〜100重量部、好ましくは10〜50重量部の範囲が適している。0.1重量部より少なくなると塗膜の硬化性が不十分となり、100重量部より多くなると未反応のアルミニウムキレート化合物が塗膜中に残存し、ゲル分率(硬化性)を低下せしめるおそれがある。」(3頁左下欄16行〜同頁右下欄4行)
ツ:「本発明の該組成物を塗装してなる塗膜の架橋反応硬化機構は十分に解明されていないが、まず、アルコキシシラン含有重合体中のアルコキシアクリルシランにもとづくアルコキシシランが空気中の水分と反応(加水分解)してシラノール基を発生する。この際、アルミニウムキレート化合物はこの加水分解反応を促進するための触媒として作用するものと思われる。次いで、該シラノール基とアルミニウムキレート化合物とが反応して、-Si-O-Al-O-Si-結合を生成して該アルコキシシラン含有重合体が架橋硬化するものと推察される。この硬化反応は可逆反応であるが、該反応によって副生するアルミニウムキレート化合物のキレート化剤が塗膜から揮散するに伴って硬化反応がすみやかに進行するのである。」(4頁左上欄5〜19行)
テ:「実施例1・・・アルミニウムトリス(アセチルアセテート)を30重量部配合し、・・・実施例2・・・ アルミニウムトリス(アセチルアセトン)を50重量部配合し、・・・実施例3・・・ アルミニウムトリス(メチルアセトアセテート)を10重量部配合し・・・比較例1・・・ ジメチルアミノエタノール5重量部に・・・比較例2・・・エチルアセテートアルミニウムジイソプロピレートに・・・比較例3・・・パラトルエンスルホン酸5重量部に代えた以外は実施例1と同様に行なった。」(4頁右上欄9行〜同頁右下欄9行)
ト:5頁上欄の表-1に、実施例及び比較例で得た組成物に関する性能試験結果として、貯蔵安定性について、実施例1〜3が異常なし、比較例1が異常なし、比較例2、3がゲル化、ゲル分率について、実施例1〜3が95〜97、比較例1が21、比較例2が98、比較例3が51、塗面状態について、実施例1〜3が良好、比較例1が良好、比較例2、3がちぢみ発生、耐水性について、実施例1〜3が異常なし、比較例1、3がフクレ白化、比較例2がフクレ、であることが記載されている。
ナ:「貯蔵安定性:各成分を均一に混合した組成物を容器に注入し、密閉して、30℃で48時間貯蔵した後の状態を調べた。」(5頁左下欄1〜3行)

(3)対比・判断
引用例1には、すぐれた耐候性を有するとともに、耐汚染性をも同時に有する塗膜を形成することができる、一般式(I)で表される反応性シリル基およびアルコール性水酸基を含有するアクリル系共重合体(A)100重量部に対して、一般式(II)で表される特定のシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物(B)2〜70重量部、及び硬化触媒(C)として有機金属系硬化触媒0.1〜20重量部を含有する上塗り塗料用硬化性樹脂組成物に係る発明が記載されている(ア、イ、ス参照)。
ここで、本願補正発明1と引用例1に記載された発明とを対比すると、引用例1の成分(A)のアクリル系共重合体のアルコキシシリル基を表す一般式(I)及びそのR1、R2、aの定義(ア参照)は、本願補正発明1の成分(A)のアクリル系共重合体の炭素原子に結合した反応性シリル基を表す一般式(I)及びそのR1、R2、aの定義と全く同じものであり、成分(A)のアクリル系共重合体を構成するアルコキシシリル基、すなわち反応性シリル基に差異はない。
また、引用例1の成分(B)のシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物を表す一般式(II)及びそのR3 、bの定義(ア参照)は、本願補正発明1の成分(B)のシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物を表す一般式(II)及びそのR3 、bの定義と全く同じものであり、引用例1のR4の定義(ア参照)も本願補正発明1のR4の定義を全て含むものであるから、引用例1の成分(B)のシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物は本願補正発明1の成分(B)のシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物と実質的な差異はない。
さらに、本願補正発明1の成分(C)のアルミニウムキレート化合物は
「本発明において架橋反応硬化剤として用いるアルミニウムキレート化合物(C)」(段落【0078】参照)と記載され、引用例1の有機金属系硬化触媒は硬化性重合体の硬化反応に寄与する成分であるから、本願補正発明1の成分(C)も引用例1の成分(C)も、硬化性重合体の硬化反応に寄与する薬剤という点で同じである。そして、その上記成分(A)、(B)及び(C)の配合割合においてみると、本願補正発明1は成分(B)は成分(A)100重量部に対し2〜70重量部で、成分(C)は0.5〜10重量部であるのに対し、引用例1に記載された発明の成分(B)は成分(A)100重量部に対し2〜70重量部で、成分(C)は0.1〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部である(ク参照)から、引用例1に記載された発明の成分(C)の数値範囲は、補正後の請求項1に係る発明の成分(C)の数値範囲と重複しており、成分(A)、(B)及び(C)の配合割合においても両者に差異はない。

してみると、両者は、「一般式(I)で表される炭素原子に結合した反応性シリル基を含有するアクリル系共重合体(A)100重量部に対して、一般式(II)で表されるシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物(B)2〜70重量部、および硬化性重合体の硬化反応に寄与する薬剤(C)0.5〜10重量部を含有する上塗り塗料用硬化性樹脂組成物。」である点で一致するものの、
(i)一般式(I)で表される炭素原子に結合した反応性シリル基を含有するアクリル系共重合体(A)について、引用例1に記載された発明が該アクリル系共重合体に更にアルコール性水酸基を含有するのに対し、本願補正発明1にはそのような特定がなされていない点
(ii)成分(C)について、本願補正発明1がアルミニウムキレート化合物であるのに対し、引用例1に記載された発明が有機金属系硬化触媒である点
(iii)上塗り塗料用硬化性樹脂組成物について、本願補正発明1が非水溶剤系であるのに対し、引用例1に記載された発明にはそのような特定がなされていない点
で、相違する。

これらの相違点について検討する。
(i)について
引用例1には、成分(A)のアクリル系共重合体について、重合性二重結合およびアルコキシシリル基を含有するモノマーと重合性二重結合およびアルコール性水酸基を含有するモノマーを含有する重合成分を重合することによって製造すると記載され(ウ参照)、その重合性二重結合およびアルコール性水酸基を含有するモノマー(A-2)として、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、・・・N-メチロール(メタ)アクリルアミド、水酸基含有ビニル化合物とε-カプロラクトンとの反応によってえられるε-カプロラクトン変性ヒドロキシアルキルビニル系モノマーであるPlaccel FA-4、Placcel FM-1、Placcel FM-4(ダイセル化学工業(株)製)などが具体的に挙げられており(エ参照)、そして、具体例として、実施例にPlaccel FM-4を用いた例が記載されている(コ参照)。
一方、本願補正発明1のアクリル系共重合体(A)についてみると、その製法について、「アクリル系共重合体(A)は、たとえば重合性2重結合および炭素原子に結合した反応性シリル基を含有する単量体(以下、モノマー(A-1)という)、(メタ)アクリル酸および(または)その誘導体(以下、モノマー(A-2)という)ならびに必要により用いられるその他の単量体を含有するものを重合することによって製造することができる。」(段落【0031】参照)、モノマー(A-2)の具体例として、「たとえばメチル(メタ)アクリレート、・・・2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、・・・Placcel FA-4、Placcel FM-1、・・・Placcel FM-4・・・(以上、ダイセル化学工業(株)製)、・・・などがあげられる。」(段落【0054】参照)と記載され、実施例3〜5で用いているアクリル系共重合体(A)-2の製造例として、「製造例2(アクリル系共重合体(A)-2の製造)・・・スチレン5部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン12部、メチルメタクリレート50部、n-ブチルアクリレート27部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート5部、アクリルアミド1部、キシレン18部および2,2′-アゾビスイソブチロニトリル1部からなる混合物を・・・110℃で2時間熟成してから冷却し、樹脂溶液にキシレンを加えて樹脂固形分濃度が50%のアクリル系共重合体(A)-2をえた。」(段落【0093】〜【0094】参照)と記載されている。
上記の記載からみれば、本願補正発明1における、重合性2重結合および炭素原子に結合した反応性シリル基を含有する単量体と重合させる(メタ)アクリル酸及および(または)その誘導体(モノマー(A-2))の単量体として、引用例1の重合性二重結合およびアルコール性水酸基を含有するモノマー(A-2)と同じもの、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、Placcel FM-4(ダイセル化学工業(株)製)等が例示され、実施例としても具体的に例示されているのであるから、本願補正発明1のアクリル系共重合体(A)には、重合性二重結合およびアルコキシシリル基を含有するモノマーと重合性二重結合およびアルコール性水酸基を含有するモノマー等を含有する重合成分を重合して得られたアクリル系共重合体(A)、つまり、引用例1の一般式(I)で表される炭素原子に結合した反応性シリル基を含有するアルコキシシリル基及びアルコール性水酸基を含有するアクリル系共重合体(A)が包含されるものであるから、両者の成分(A)のアクリル系共重合体には実質的な差異があるものとは認められない。

(iii)について
引用例1の製造例においては、溶剤としてキシレン、酢酸ブチル、2-エチルヘキシルアルコール、トルエン、シンナーを使用しており、水を使用していない樹脂溶液として得ているものである(コ、サ参照)から、引用例1の上塗り塗料用硬化性樹脂組成物は非水溶剤系であると認められるので、この点にも両者に実質的な差異があるものとはいえない。

(ii)について
本願補正発明1の成分(C)のアルミニウムキレート化合物について、
「本発明において架橋反応硬化剤として用いるアルミニウムキレート化合物(C)は、それ自体公知のものであるが、中でも、有機アルミニウムをキレート化剤で処理することによりえられるものが好適であり、該有機アルミニウムとしては、具体的にはたとえばアルミニウムイソプロピレート・・・などがあげられる。前記有機アルミニウムと反応せしめられるキレート化剤としては、たとえば・・・アセト酢酸エステル(例:アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルなど)、・・・ジケトン類(例:アセチルアセトンなど)・・・、ジカルボン酸またはそのエステル(例:マレイン酸、マロン酸エチルなど)・・・などがあげられ、・・・本発明において有利に用いられるアルミニウムキレート化合物(C)としては、具体的にはたとえばつぎのものをあげることができる。すなわち、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、・・・トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム、トリス(エチルアセトナト)アルミニウム、・・・トリス(iso-プロピレート)アルミニウム、・・・などである。」(段落【0078】〜【0080】参照)と記載され、実施例1〜6にはアルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)が記載されている。
上記の記載からみれば、アルミニウムキレート化合物は有機アルミニウムをキレート化剤で処理することにより得られるもので、実施例においてはアルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)(アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)の誤記である)が具体的に使用されている。

一方、引用例1に記載された発明の成分(C)の有機金属系硬化触媒として具体的には、ジブチル錫ジマレートなどの有機錫化合物、チタン酸塩、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムなどの有機アルミニウム化合物、テトラブチルジルコネートのような有機ジルコニウム化合物が挙げられている(キ参照)。
そして、引用例4には、反応性シリル基を含有するアクリル系共重合体に架橋反応硬化剤として、水酸基およびアルコキシ基を有さないアルミニウムキレート化合物を配合してなる硬化性組成物が記載され(セ参照)、塗膜の架橋反応硬化について、アルコキシシラン含有重合体中のアルコキシアクリルシランに基づくアルコキシシランが空気中の水分と反応(加水分解)してシラノール基を発生する際にアルミニウムキレート化合物がこの加水分解反応を促進するための触媒として作用することが記載されており(ツ参照)、アルミニウムキレート化合物は架橋反応硬化剤とも硬化触媒としても認識されているものであるから、その表現上、架橋反応硬化剤と硬化触媒との差異があるけれども、両者の表現上の差異に格別の技術意義のあるものではない。
してみると、引用例1のトリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムは本願補正発明1のアルミニウムキレート化合物そのものであるから、引用例1に有機金属系硬化触媒として具体的に例示されている中から、アルコキシシラン含有重合体に硬化反応性を付与することを目的として、単にトリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを選んで使用し、上塗り塗料用硬化性樹脂組成物とする程度のことに格別の困難性は認められない。

(4)本願補正発明1の効果について
次に、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを選んで使用したことに基づいて奏される効果が予測し得ないほどの顕著なものであるか検討する。
本願補正発明1の効果は明細書の段落【0113】に記載されているように「本発明の組成物は、耐候性および耐汚染性にすぐれ、かつ、硬化性が良好でポットライフが長いという好ましい特性を有する」と認められる。
(4-1)耐候性について
引用例1には、発明の効果として段落【0104】に「本発明の上塗り塗料用硬化性樹脂組成物は、加熱硬化条件でえられる塗膜の光沢および表面状態がきわめて良好であり、すぐれた耐候性を有するとともに、さらにすぐれた耐汚染性をも同時に有する塗膜を形成することができる。」(ス参照)と記載され、引用例1の上塗り塗料用硬化性樹脂組成物は優れた耐候性を有する塗膜を形成することができるものであるから、本願補正発明1の上塗り塗料用硬化性樹脂組成物の耐候性の効果が引用例1から予測し得るものであり、格別優れるものではない。
(4-2)耐汚染性について
引用例1には、成分(B)は形成される塗膜の耐汚染性を向上せしめる成分であることが記載され(オ参照)、また、発明の効果として、優れた耐汚染性をも同時に有する塗膜を形成することができると記載されており、本願補正発明1の上塗り塗料用硬化性樹脂組成物の耐汚染性の効果が引用例1から予測し得るものであり、格別優れるものではない。
(4-3)硬化性について
引用例1には、成分(B)として、得られる樹脂組成物の硬化性及び形成された塗膜の硬度に優れるという点からMSI51やESI40などの前記縮合物が好ましい(カ参照)と記載され、具体的に実施例においても使用されており、該MSI51やESI40は、本願補正発明1においても成分(B)として実施例において使用されているものであるから、本願補正発明1の上塗り塗料用硬化性樹脂組成物の硬化性の効果が引用例1から予測し得るものであり、格別優れるものではない。
(4-4)ポットライフについて
引用例4には、反応性シリル基を有するアクリル系重合体を用いた塗料の塗膜の形成は、アルコキシシランに由来するアルコキシ基が空気中の水分によって加水分解し、それによって生成したシラノール基が縮合してシロキサン結合を形成して硬化反応するものであるが、従来使用されているような酸触媒や塩基性触媒では硬化性が不十分であり、また金属アルコキシドを用いると、ポットライフが短く塗膜の平滑性等も劣化するので、水酸基およびアルコキシ基を含まないアルミニウムキレート化合物を用いることにより、硬化性、貯蔵安定性(ポットライフ)、塗膜性能等を改良することができると記載されている(ソ参照)。
そして、引用例1は、反応性シリル基を有するアクリル系共重合体に加えてシリコン化合物(B)が含まれているものではあるが、アルコキシシランに由来するアルコキシ基が空気中の水分によって加水分解しそれによって生成したシラノール基が縮合してシロキサン結合を形成する反応により硬化が進む点において、引用例1と引用例4とは全く同じであるから、引用例1においても、引用例1に記載されているアルミニウムキレート化合物を使用した場合には、引用例4と同様に硬化性、塗膜の平滑性等の特性の改良とともに、ポットライフ(貯蔵安定性)特性が改良された優れた上塗り塗料用硬化性樹脂組成物が得られることは当業者であれば容易に予測し得るものである。

また、本願補正発明1と引用例4におけるポットライフについてみると、引用例4のポットライフ(貯蔵安定性)は、容器に注入し、密閉して、30℃で48時間貯蔵した後の状態を調べて評価しており(ナ参照)、密閉系での安定性であるのに対して、本願補正発明1のポットライフは、「(ポットライフ)えられた塗料を23℃、55%RH恒温室に開放系で放置し、流動性がなくなるまでの時間を調べた。」(段落【0111】参照)ものであるから、開放系での安定性であり、ポットライフの程度をどのように測定して評価したかという点で両者は異なっている。
しかし、引用例4には、金属アルコキシドを用いると、アルコキシシラン含有重合体の硬化反応速度が早すぎて貯蔵安定性が悪いので、該金属アルコキシドを混合してから使用(塗装)するまでの時間(可使時間、ポットライフ)が短かく、塗装作業の管理が困難となると記載され(ソ参照)、またアルミニウムキレート化合物はその分子中に水酸基およびアルコキシ基を有さないことが必要であり、水酸基、アルコキシ基が含まれていると前記アルコキシシラン含有重合体の硬化反応速度が早すぎて、これらを混合してから使用するまでの時間が短かく、塗装の管理が困難となるので好ましくなく、しかも形成した塗面の平滑性が劣化すると記載されている(タ参照)ように、ポットライフとは、硬化剤(硬化触媒)を塗料に混合してから使用(塗装)するまでの時間(可使時間)のことで、アルコキシシラン含有重合体の硬化反応速度が早すぎると、ポットライフも短くなるものである。その塗膜の架橋反応硬化機構は、まず、アルコキシシラン含有重合体中のアルコキシアクリルシランにもとづくアルコキシシランが空気中の水分と反応(加水分解)してシラノール基を発生し、次いで、該シラノール基とアルミニウムキレート化合物とが反応して、-Si-O-Al-O-Si-結合を生成して該アルコキシシラン含有重合体が架橋硬化するものと推察されると記載されており(ツ参照)、密閉系のポツトライフと開放系で放置したポツトライフとでは、空気中の水分量と温度において差異があるものの、両者のポットライフに関与する硬化反応はアルコキシシランが空気中の水分と反応(加水分解)することに基づくものであることからみれば、両者には一応の関連性があるものと考えるのが普通である。
しかも、本願明細書には、本願補正発明1のアルミニウムキレート化合物を用いた場合の開放系ポットライフの効果が、他の架橋反応硬化剤、硬化触媒を用いた場合の密閉系のポットライフの効果及び開放系ポットライフの効果と比較して、密閉系のポットライフの効果からは予測し得ないほどに格別優れていることを示す実験データも示されておらず、また、開放系での安定性と密閉系での安定性とに関係が全くないとする特段の事情もないので、本願補正発明1の開放系でのポットライフの効果が引用例4の密閉系でのポットライフの効果から予測し得ないものとはいえない。

してみれば、本願補正発明1でトリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウムを選んで使用したことに基づいて奏される効果が引用例1及び引用例4の記載事項から予測し得ないほどの格別顕著なものであるとはいえず、本願補正発明1は引用例1及び引用例4の記載事項から容易に発明し得るものと認められる。

(5)請求人の主張
(5-1)請求人は、「引用例1のたとえば実施例2に記載の組成物((A)成分100部、(B)成分30部、硬化触媒であるジブチル錫ビスブチルマレート0.25部を使用した組成物)と使用する硬化触媒が有機スズ系触媒である点で同じ組成物である、本願比較例4に記載の組成物((A)成分100部、(B)成分10部、硬化触媒であるジブチルスズジラウレート2部を使用した組成物)の評価結果は、外観性および耐水性が△、ゲル分率が79%、ポットライフが2時間というように、本願発明1の組成物の評価結果よりも大きく劣ります。また、接触角が72°、耐汚染性が-2.0と、本願発明1の組成物の評価結果よりも劣ります。」(平成16年4月23日付手続補正書(方式)7頁3〜10行参照)と主張している。
しかしながら、引用例4において、実施例1〜3の水酸基およびアルコキシ基を含まないアルミニウムキレート化合物を用いるもの(貯蔵安定性:異常なし、ゲル分率:95〜96、塗面状態:良好、耐水性:異常なし(ト 参照))と比較例2のエチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート(金属アルコキシド)を用いた例(貯蔵安定性:ゲル化、ゲル分率:98、塗面状態:ちぢみ発生、耐水性:フクレ(ト参照))と比較してみると、ゲル分率(硬化性)は共に優れ同程度であるが、貯蔵安定性(ポットライフ)、塗面状態(外観性)、耐水性において改善されることが記載されており、アルミニウムキレート化合物を用いるもの方が貯蔵安定性(ポットライフ)、ゲル分率(硬化性)、塗面状態(外観性)、耐水性において優れているものであるから、本願補正発明1がアルミニウムキレート化合物を使用することにより、貯蔵安定性(ポットライフ)、塗面状態(外観性)、耐水性等において格別の予期し得ない効果が奏されたものと認めることはできない。
しかも、本願の比較例4に記載の硬化触媒(硬化剤)であるジブチルスズジラウレートは引用例4でいう金属アルコキシドであって、アルコキシ基が含まれているものであり、金属アルコキシドにおける金属が錫とアルミニュウムと異なるだけであるから、引用例4と同様に、アルコキシ基が含まれているとアルコキシシラン含有重合体の硬化反応速度が早すぎてポットライフが短く、塗膜の平滑性等も劣化するものと推測されるのに対し、引用例1の実施例2に記載の硬化触媒(硬化剤)のジブチル錫ビスブチルマレートは、水酸基、アルコキシ基が含まれていない金属キレート化合物であり、硬化反応速度が早すぎてポットライフが短く、塗膜の平滑性等を劣化させるとされるアルコキシ基を含有しないものであるから、アルコキシ基を含むジブチルスズジラウレートと硬化反応速度及びポットライフ等が同等であるものとはいえないものである。
してみると、ジブチルスズジラウレートを使用した本願の比較例4を引用例1の発明の実施例2に代用して比較検討した結果をもって、直ちに、ジブチル錫ビスブチルマレートを使用した引用例1の実施例2のものより本願補正発明1が予期しえないほどの優れた効果を奏されるものとはいえない。
以上のことからみて、本願補正発明1は引用例1及び引用例4から予測し得ない効果が奏されるものともいえず、請求人のこの点の主張は採用できない。

(5-2)請求人は、本願補正発明1において、成分(C)のアルミニウムキレート化合物の配合量を0.1〜20重量部から0.5〜10重量部に減縮して、「単にアルミニウムキレート化合物によってポットライフが改善されることが記載されており、さらに実施例においてはアルミニウムキレート化合物にかえて、ジメチルアミノエタノールを用いた場合にもポットライフが良好であることが記載されているような引用例4の記載から、ジブチルスズジラウリレートに代えてアルミニウムキレート化合物を特定量用いることで、硬度を維持したまま、外観性、ポットライフを向上させようとは当業者であっても容易に想到できることではありません。」(回答書5頁7〜13行)と、さらに、「引用例4の3頁左下欄18行〜同頁右下欄4行には、アルミニウムキレート化合物の添加量は、0.1〜100重量部であることが記載されていますが、10、30、50重量部が添加された実施例が示されているのみであります。したがって、引用例4においては、アルミニウムキレート化合物を10重量部以上添加することが意図されているものと考えられます。」(回答書5頁下から6〜2行)と主張している。
しかしながら、引用例4の比較例1にはジメチルアミノエタノールを用いた場合にもゲル化せず貯蔵安定性(ポットライフ)が良好であることが記載されてはいるが、ゲル分率(硬化性)は21と悪い(ト参照)こと、また、引用例4には、酸触媒および塩基性触媒では、いずれも塗膜の硬化性不十分であり、しかも形成した塗膜の耐薬品性ならびに耐水性なども劣っていると記載されている(ソ参照)ことからすれば、外観性、ポットライフを向上させようとすれば、硬化性等が悪いジメチルアミノエタノールではなく、ポットライフを含めそれらの欠陥を解消できるアルミニウムキレート化合物を選択して用いる程度のことは当業者であれば容易に想到し得るものである。
また、引用例1には「成分(C)の配合量が0.1部未満であるばあいには、えられる樹脂組成物の硬化性が低下するようになり、また20部をこえるばあいには、樹脂組成物を用いて形成された塗膜の表面光沢などの外観性が低下するようになる」と記載され(ケ参照)ており、成分(C)の配合量は、硬化性、塗膜の表面(外観性)に関与するものであるので、硬化剤(硬化触媒)が少なければ硬化性が遅く、硬化剤(硬化触媒)が多くなれば塗膜表面の外観性が悪くなるものと解される。さらに、硬化反応速度が早すぎると、ポットライフも短くなるので、ポットライフは硬化反応速度に関連があり、しかも、一般的には、この硬化反応速度は硬化剤(硬化触媒)の量にも関連があるものといえるから、ポツトライフを長く、塗膜の表面の外観性を良好するためには、当然、硬化剤(硬化触媒)を少なく使用するものと解される。
そして、硬化剤(硬化触媒)の使用量は、要望される目的物の硬化性、ポットライフや外観性等の特性を考慮して、硬化剤(硬化触媒)の種類やその硬化性能、更に成分(A)、(B)の種類及びその配合量等に応じて最適な範囲を実験的に選択するものであることからみても、成分(C)の硬化剤(硬化触媒)の使用割合を、引用例1に記載の成分(C)の割合0.1〜20部、好ましくは0.1〜10部の範囲内で、更にその範囲を限定することは当業者が容易になしえるものである。
引用例4においては、アルミニウムキレート化合物の添加量は、0.1〜100重量部と記載されており(チ参照)、10重量部以上添加する実施例に限定して、使用量が10重量部以上と限定されていると判断することはできない。
また、開放系での安定性と密閉貯蔵安定性のポットライフに関与する硬化性樹脂の硬化反応はアルコキシシランが空気中の水分と反応(加水分解)することに基づくものであることからみれば、開放系の方が密閉系のものより空気中の水分が絶えず補給されるので、塗料用硬化性樹脂組成物の近傍での水分の量は密閉系よりも開放系の方が多いと考えられ、密閉系よりも開放系の方が硬化反応し易いものであると推測されることからも、硬化剤(硬化触媒)の使用量においても開放系のポットライフを長くするには密閉系の場合より使用量をより少なくしてみることも容易に想定し得るものといえる。
してみれば、請求人のこの点の主張は採用できない。

なお、硬化剤(硬化触媒)の使用量を少なくすれば、ポットライフと外観性は向上するが、硬化性が悪くなり、硬化剤の使用量を多くすると、硬化性は良くなるが、ポットライフと外観性は低下することが、塗料用硬化性樹脂組成物においてよく知られているものであることは、たとえば、特開平7-33993号公報[「有機スズ化合物を単独で用いた場合、ポットライフや外観性と、硬化性とのバランスが悪く、実用上の問題が多い。すなわち、有機スズ化合物の使用量を少なくすれば、ポットライフと外観性は向上するが、硬化性が悪くなり、一方、有機スズ化合物の使用量を多くすると、硬化性は問題ないが、ポットライフと外観性は極端に低下する」(段落【0005】参照)]と、また、特開昭62-95358号公報[[従来の技術]2液型アクリルウレタン樹脂塗料は、・・・主剤と硬化剤の二液は混合後、空温でも徐々に反応し、粘度が徐々に高くなって遂には塗装不能となるという不具合がある。そして混合時からこの塗装不能となる時間を一般に可使時間(以下ポットライフという)といい、・・・ポットライフと塗膜の反応速度とは、負の相関関係があり、ポットライフを長くすると反応速度は小さくなって硬化に時間がかかったり高温が必要となり、反応速度を大きくして硬化を速くしようとするとポットライフが短くなるという不具合がある。」(1頁右下欄15行〜2頁左上欄12行参照)及び「オクチル酸錫は、アクリルポリオール固形分100重量部に対して錫成分が0.005〜0.5重量部となるように配合される。配合量が0.005重量部より少ない場合は触媒としての効果がほとんど発揮できず、0.5重量部より多くなるとポットライフが短くなる。」(4頁右上欄5〜10行参照)]の記載からもわかる。

(6)むすび
以上のとおり、引用例1及び引用例4に記載された発明から、上記相違点(i)〜(iii)を導くことが容易でないとすることはできず、かつ、本願補正発明1の効果が当業者の予測の域を超えて優れているものであると
することもできないから、本願補正発明1は、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1及び引用例4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。
よって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明

平成16年3月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜8に係る発明(以下、「本願発明1〜8」という。)は、平成15年10月31日付け手続補正により補正された明細書からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1は以下のものである。
「【請求項1】 一般式(I):
【化1】


(式中、R1は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、R2は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基、aは0〜2の整数を示す)で表わされる炭素原子に結合した反応性シリル基を含有するアクリル系共重合体(A)100重量部に対して、一般式(II):
【化2】


(式中、R3は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基、R4は炭素数1〜10のアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれた1価の炭化水素基、bは0または1を示す)で表わされるシリコン化合物および(または)その部分加水分解縮合物(B)2〜70重量部、およびアルミニウムキレート化合物(C)0.1〜20重量部を含有することを特徴とする非水溶剤系上塗り塗料用硬化性樹脂組成物。」

(2)引用例に記載された事項

原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-292041号公報(「引用例1」)及び特開昭60-67553号公報(「引用例4」)の記載事項は、上記2.(2)ア〜ナに示したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明1は、上記したとおりであって、本願補正発明1との相違は、成分(C)の含有量において、本願補正発明1が「0.5〜10重量部」であるのに対し、本願発明1が「0.1〜20重量部」である点で異なるので、上記2.(1)で示した本願補正発明1を包含するものであるところ、本願補正発明1が、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1及び引用例4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記2.(3)〜(6)に示したとおりであるから、これらを包含する本願発明1も、同様の理由により、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1及び引用例4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願発明2〜8を検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-25 
結審通知日 2006-05-02 
審決日 2006-05-15 
出願番号 特願平8-318239
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C09D)
P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 浩子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 井上 彌一
天野 宏樹
発明の名称 非水溶剤系上塗り塗料用硬化性樹脂組成物  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 佐木 啓二  

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