• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1139352
審判番号 不服2003-12163  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-10-01 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-30 
確定日 2006-07-04 
事件の表示 平成 8年特許願第 14191号「コンピュータの3Dレンダリングシステムに関する改良」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年10月 1日出願公開、特開平 8-255262〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成8年1月30日(パリ条約による優先権主張1995年1月31日、英国)に出願されたものであって、平成15年3月26日付けで拒絶の査定がされ、これに対し平成15年6月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、その後平成15年7月30日に手続補正がなされたものである。

2.平成15年7月30日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年7月30日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
平成15年7月30日付けの手続補正により、特許請求の範囲の請求項1〜10は、
「【請求項1】スクリーン上に表示するために三次元像を陰影付けする方法において、像の各オブジェクトを一組の無限面として定め、各面についてデータを供給し、表示の各画素領域に対し各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて発生し、その画素領域において面が見えるかどうか決定し、一組の面により表されたオブジェクトを光ボリュームとして指定し、表示の各画素領域に対し光ボリュームの各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて決定し、そしてその画素領域において見えるオブジェクト面及び光ボリュームの最も近い前方を向いた面と最も遠い逆を向いた面に対するその位置に基づいてその画素領域を陰影付けするという段階を備えたことを特徴とする陰影付け方法。
【請求項2】表示スクリーンに投影される各オブジェクトに対し境界ボリュームを決定し、表示スクリーンを複数のサブ領域に細分化する段階を備え、サブ領域のサイズは、スクリーンの各領域における像の複雑さに基づいており、上記各面の深さ値を発生する段階は、各サブ領域の各面に対して行われる請求項1に記載の陰影付け方法。
【請求項3】1つのサブ領域のピクセルのグループに対する深さ値の決定と他のサブ領域のピクセルのグループに対する深さ値の決定とをインターリーブする段階を備えた請求項2に記載の陰影付け方法。
【請求項4】上記ピクセルのグループは、サブ領域におけるピクセルの線より成る請求項3に記載の陰影付け方法。
【請求項5】像のあまり複雑でない部分におけるサブ領域からのピクセルのグループを、像のより複雑な部分におけるサブ領域からのピクセルのグループとインターリーブする請求項3又は4に記載の陰影付け方法。
【請求項6】スクリーン上に表示するために三次元像を陰影付けする装置において、像の各オブジェクトを表す一組の無限面を定めるデータを供給する手段(42)と、表示の各画素領域に対し各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて発生する手段(44、46、48)と、その画素領域において面が見えるかどうか決定する手段(40)と、一組の面により表されたオブジェクトを光ボリュームとして指定する手段と、表示の各画素領域に対し光ボリュームの各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基いて決定する手段と、その画素領域において見えるオブジェクト面及び光ボリュームの最も近い前方を向いた面と最も遠い逆を向いた面に対するその位置に基づいてその画素領域を陰影付けする手段とを備えたことを特徴とする陰影付け装置。
【請求項7】表示スクリーンに投影される各オブジェクトに対し境界ボリュームを決定する手段と、表示スクリーンを複数のサブ領域に細分化する手段であって、サブ領域のサイズがスクリーンの各領域における像の複雑さに基づくようにする手段とを備え、上記深さ値を発生する手段は、各サブ領域の各ピクセルに対し各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて発生する請求項6に記載の陰影付け装置。
【請求項8】1つのサブ領域のピクセルのグループに対する面の深さの値の決定と他のサブ領域のピクセルのグループに対する面の深さの値の決定とをインターリーブする手段を備えた請求項7に記載の陰影付け装置。
【請求項9】上記ピクセルのグループは、サブ領域におけるピクセルの線より成る請求項8に記載の陰影付け装置。
【請求項10】像のあまり複雑でない部分におけるサブ領域のピクセルのグループを、像のより複雑な部分におけるサブ領域のピクセルのグループとインターリーブする請求項8又は9に記載の陰影付け装置。」
と補正された。

(2)補正の適否
前記平成15年7月30日付けの手続補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「補正後の発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】スクリーン上に表示するために三次元像を陰影付けする方法において、像の各オブジェクトを一組の無限面として定め、各面についてデータを供給し、表示の各画素領域に対し各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて発生し、その画素領域において面が見えるかどうか決定し、一組の面により表されたオブジェクトを光ボリュームとして指定し、表示の各画素領域に対し光ボリュームの各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて決定し、そしてその画素領域において見えるオブジェクト面及び光ボリュームの最も近い前方を向いた面と最も遠い逆を向いた面に対するその位置に基づいてその画素領域を陰影付けするという段階を備えたことを特徴とする陰影付け方法。」

補正後の発明の記載内容をみるに、補正後の発明には、次の記載すなわち、
「オブジェクト面及び光ボリュームの最も近い前方を向いた面と最も遠い逆を向いた面に対するその位置に基づいて」
が新たに附加されており、この記載は、「オブジェクト面及び光ボリュームに対するその位置」を限定する補正であって、発明を特定するために必要な事項を限定的に減縮する補正を行ったものである。
しかしながら、この記載事項は、出願当初の明細書の詳細な説明の欄にその記載がなく、かつ補正前の請求項1に記載された発明にも記載のない事項である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条の規定により読み替えて準用される同法第53条第1項の規定により、平成15年7月30日付けの手続補正は、却下すべきものである。

3.本願発明について
平成15年7月30日付けの手続補正は、前記のとおり却下されるから、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年7月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】スクリーン上に表示するために三次元像を陰影付けする方法において、
像の各オブジェクトを表す無限面のグループを定めるデータを供給し、
表示の各画素領域に対し各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて発生し、
その画素領域において面が見えるかどうか決定し、
面のグループにより表されたオブジェクトを光ボリュームとして指定し、
表示の各画素領域に対し光ボリュームの各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて決定し、
そしてその画素領域において見えるオブジェクト面及び光ボリュームに対するその位置に基づいてその画素領域を陰影付けするという段階を備えたことを特徴とする陰影付け方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-73479号(平成2年3月13日出願公開。以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の記載がある。

(ア)「A、産業上の利用分野
この発明は、3次元グラフイツクス表示おいて、Zバツフア法(スキヤンライン・Zバツフア法を含む)の隠面消去ハ-ドウエアを流用して高速に物体の影を描くことができる図形処理装置に関し、とくに簡易な構成で影の有無を判定できるようにしたものである。
B、従来技術 従来の影付けの技術は大きく分けて、シヤドウ・マツピング、レイ・トレ-シングおよびシヤドウ・ポリゴンの3種類の方法に分けられる。シヤドウ・ポリゴンの方法は後述するように本質的には隠面消去法の変形であり、他の2つの手法と異なり、スキヤンライン法やZバツフア法によリバ-ドウエア化および高速化が図れる。この発明はシヤドウ・ポリゴン法を改善するものであり、従来技術としてこのシヤドウ・ポリゴン法について説明する。
まずオリジナルのシヤドウ・ポリゴンの方法を説明し、つぎに、シヤドウ・ポリゴンの方法をZバツフア法と組合せて使えるように改良したBrotmanおよびBadlerのアルゴリズムについて説明する。
(1)オリジナルの方法
シヤドウ・ポリゴンの方法ではシヤドウ・ボリユ-ムと呼ばれる影付けのための仮想の物体(領域)を用いる。シヤドウ・ボリユ-ムというのは光源と物体とによつて生じる影空間(内側ではその物体の影になる空間)のことである(第23図)。高速描画で通常なされているように、すべての物体をポリゴンで表した場合、シヤドウ・ボリユ-ムは半無限の多面体で表現され、その側面もすべてポリゴン(半無限)で表現される。そしてこの側面のことをシヤドウ・ポリゴン(影ポリゴン)と呼ぶ。このシヤドウ・ポリゴンをもともとある物体のポリゴンと同時に陰面消去して、影の部分を見つけようとするのがシヤドウ・ポリゴンの方法である。
第24B図のような視点および光源のもとで、A、Bの2つの物体を考える。影は第24A図のようにできる。物体AはSl、S2というシヤドウ・ポリゴンと面AOA1.A1A2で囲まれたシヤドウ・ボリユ-ムとを作る。視線とシヤドウ・ポリゴンとが交差するとき、視線はシヤドウ・ボリユ-ムを出入りしている。スキヤンライン法などによつて、各ピクセル内部にあるシヤドウ・ポリゴンを物体の表面まで順に調べていくこと(一種の陰面消去)により、影付けを行うことができる。
第24B図で点aの方向のポリゴンを調べると、最初にあるのが点aの乗つたポリゴンBOB2であるので、点aは影の外にあるとわかる。点bの方向には最初にシヤドウ・ポリゴンS1があり、次にあるのが点bの乗つたポリゴンBOB2であるので、点bはシヤドウ・ボリユ-ムの中にあることがわかる。点cの場合は途中にシヤドウ・ポリゴンS1とS2とがあり、視線はSlで一度シヤドウ・ボリユ-ムに入るが、S2によつてシヤドウ・ボリユ-ムから抜ける。点cは結局シヤドウ・ボリユ-ムの外にあることがわかる。
実際には第25図のように、視点がすでにシヤドウ・ボリユ-ムの中にあつたり、複数のシヤドウ・ボリユ-ムが重なつていたりする場合もある。そこで、シヤドウ・レベルというものを考え、シヤドウ・ボリユ-ムと視線との交差毎に1ずつ増減させ、シヤドウ・レベルが0の点だけ影の外と判定する。
このシヤドウ・ポリゴンの方法の最大の問題点はシヤドウ・ポリゴンのデ-タをポリゴン・デ-タに加えるため扱うポリゴン数が増加し、元の物体は小きくても半無限のシヤドウ・ポリゴンは画面上で大きな面積を占めるため、1つのピクセルにかかわるポリゴンの数が大幅に増大することである。
(2)BrotmanおよびBadlerのアルゴリズム
(1)で説明した方法をZバツフア法(スキヤンライン・Zバツフア法を含む)と共に用いるには少し工夫が必要である。この問題を解決したBrotmanおよびBadlerのアルゴリズムについて説明する。詳しくは論文 L.S.Brotman and N.I.Badler,”Generating Soft Shadows with a Depth Buffer A1gorithm”,IEEE Computer Graphics and Applications,october 1984,pp.5-12.を参照されたい。
基本的にはZバツフア(デプス・バツフア)を修正して、デプス値の他に影付けの際に必要になる情報も格納することにして、以下のように描画する。
1)情景内のすべての物体を通常のポリゴン展開方法(ポリゴン・デ-タをピクセル毎のデ-タに展開する方法)で2バツフアに書き込む。
2)シヤドウ・ボリユ-ムを計算し、同じ展開方法でバツフアに書き込む。しかしその際に直接画像のデ-タは変化させず、ピクセル内のデ-タ構造(バツフア)の中の様々なカウンタの値を更新する。
3)影による影響を考慮して(バツフアのカウンタの値を参照して)、輝度値を計算する。
第26図にこの手法で使つている修正きれた(拡張された)Zバツフアを示す。第26図に沿つて修正されたZバツフアの説明を行う。2次元の配列の各セルが画面上の各ピクセルに相当しており、各セルは5つの要素からなるレコ-ドの構造を持つている。その内の1つはもちろんデプス値(DEPT)で、他に物体の記述へのポインタ(OBJPTR)、そのピクセルでの法線ベクタ(NORMAL)、影表現のための2つのポインタ(Sr、Sb)が格納される。物体へのポインタと垂線ベクタは輝度値がポリゴン展開時に計算されないため記憶しておく必要がある。物体へのポインタは該当するピクセルで見えているポリゴンの記述を指し示しており、各ポリゴンに対して1つの記述レコ-ドが用いられる。その記述レコ-ドにはポリゴンの色(COLOR)、発光度(TRANSMITTANCE)、光沢(GLOSSINESS)、反射率(REFLECTANCE)といつた輝度計算に必要なポリゴンの属性デ-タが入つている。バツフアの法線ベクタはそのピクセルを占めるポリゴンのその点における法線ベクタで、通常ポリゴン展開時に補完された値として計算される。
ある点が影になっているかどうか決定するために、その点を取り囲むシヤドウ・ボリユ-ムについての情報を管理する必要がある(第27図参照)。Sfポインタは表側のシヤドウ・ポリゴン(FSP:外向の法線ベクタが視点に向かうベクタと鋭角をなすシヤドウ・ポリゴン)が記述されたレコ-ドのリストをざす(第26図参照)。同様にsbポインタは裏側のシヤドウ・ポリゴン(BSP:外向の法線ベクタが視点に向かうベクタと鋭角をなさないシヤドウ・ポリゴン)が記述されたレコ-ドのリストを指す。各Sfまたはsbのリスト内に1つの光源において多くて1つのレコ-ドが存在する。つまり、ある光源についてそのピクセルを占めるポリゴンが自己陰面になつていれば、その光源についてのレコ-ドは必要ない。しかし、メモリ容量としては各ピクセルについて光源の数だけのレコ-ドを格納するのに十分な量を用意する必要がある。このレコ-ドには光源の識別子(LIGHT-SOURCE I.D.)と影かどうか判定するためのフラグやカウンタが入れられている。
そのフラグやカウンタである第26図中のPOINT-SOURCE LEVEL、0BJECT LEVEL、DARKNESS LEVELの使われ方、つまり影かどうかの判定方法について解説する。
普通の物体を構成するポリゴンのバツフアへの展開(Zバツフア法に従つて、ピクセル毎にデプス値、法線ベクタ、物体へのポインタをセツトする)が済んだら、゛シヤドウ・ポリゴンをバツフアへ展開する。シヤドウ・ポリゴンのバツフアへの展開に際しては、拡張されたZバツフアのSfまたはsbのポインタが指すレコ-ドの内の該当する(そのシヤドウ・ポリゴンを生成した光源に相当する)レコ-ドのみを操作する。シヤドウ・ポリゴンの展開はシヤドウ・ボリユ-ム単位で行われる。あるピクセル上の点(普通のポリゴンの展開でセツトされた点)が表側のシヤドウ・ポリゴンの後ろにあればSfリストの該当するレコ-ドのPOIHT-SOURCE LEVELを1にセツトする。点が裏側のシヤドウ・ポリゴンの手前にあればsbリストの該当するレコ-ドのPOINT-SOURCE LEVELを1にセツトする。もし、レコ-ドがリスト内にないときは、新たにそのシヤドウ・ボリユ-ムを生成した光源に対するレコ-ドをリストに追加して前記の操作を行なう。
1つのシヤドウ・ボリユ-ムについてのすべてのシヤドウ・ポリゴンの展開が済むたびに、各ピクセルのsf、sbのリストについて、該当するレコ-ドが存在し、かつ、2つのPOINT-SOURCE LEVELが共に1であるか調べる。この条件を満たす点はそのシヤドウ・ボリユ-ム内に含まれ、影になつていることが確定する。
光源が単純な点光源のときはこのことだけ判明すれば十分である。つまり、影の部分であることが確定したという情報を記憶するためにDARKNESS LEVELにでも1をセツトしておけばよい(もちろん、POTNT-SOURCE LEVELとDARNESS LEVELはシヤドウ・ポリゴンの展開を始める前に0にリセツトされている)。
BrotmanおよびBadlerの論文では広がりを持つ光源を扱い、半影も描画できるように工夫がなされている。通常よくやられているように、広がりを持つ光源は複数個の同等な点光源で近似して扱う。それぞれの点光源についてシヤドウ・ボリユ-ムを生成する。同一光源に属している点光源について、ある点を影にしている点光源の数と影にしていない点光源の数の比で半影の度合が決定される。そのためSfリストのレコ-ド内には、ある光源に属しその点を影にしている点光源の数をカウントするカウンタ0BJECT LEVELが設けられている。前述のようにある点があるシヤドウ・ボリユ-ムについて影であると確定したら0BJECT LEVELをカウント・アツプする。ただし、この際に彼等のアルゴリズムでは、シヤドウ・ボリユ-ムの元になる物体の外形ポリゴン(第27図の物体シルエツトポリゴンOSPに相当)毎にシヤドウ・ボリユ-ムの処理を行つている。物体の外形ポリゴン毎に0BJECT LEVELの集計をとり、最大の0BJECT LEVELをそのピクセルのDARKNESS LEVELとしている。そうすることで、同一の点光源と異なる外形ポリゴンによつて生成きれる複数のシヤドウ・ボリユ-ムに関して、それらの重なり部分で影のダブル・カウントが起こるのを防いでいる。結局、
1)物体の外形ポリゴンが替わる度に0BJECT LEVELを0にリセツトする。
2)その物体の外形ポリゴンから生成されるすべてのシヤドウ・ボリユ-ムについて前述の方法で影判定を行なう。影である点についてはそのピクセルのSfリスト内の該当するレコ-ドの0BJECT LEVELを1だけカウント・アツプする。
3)その物体の外形ポリゴンから生成されるすべてのシヤドウ・ボリユ-ムについて処理が済んだら、現在のDARKHESS LEVELと0BJECT LEVELの内の値の大きい方でDARKNESS LEVELを更新する。
という手順で広がりを持つ光源を近似するための点光源をサポ-トしている。
以上で述べた影判定が終了したら、各ピクセルについて、そのピクセルを占めるポリゴンの属性と法線ベクタ、光源毎にその点が影になつているかどうか(光源が広がりを持つていれば、どの程度影になつているか)といつた情報が判る。これらの情報を用いてピクセル毎に輝度値を計算する。
つぎにこのアルゴリズムの問題点について述べる。
1)最大の問題点はシヤドウ・ボリユ-ムを生成するもとになる物として凸の外形ポリゴンしか使えないことである。凸でない外形ポリゴンが作るシヤドウ・ボリユ-ムを許すと、表側のシヤドウ・ポリゴンより後ろにあつて、裏側のシヤドウ・ポリゴンよりも手前にある(つまリ、前述の影判定の条件を満たしている)が、光が当たる点が存在するため矛盾が生じる。高速描画では通常、描画時に三角形または細かい凸ポリゴンに物体を細分割して表示しているので、このアルゴリズムでは実際上この細分割されたポリゴンからシヤドウ・ボリユ-ムひいてはシヤドウ・ポリゴンを生成することになり、取り扱うポリゴンの数が数倍に増えてしまう。
2)シヤドウ・ボリユ-ム毎に各ピクセルで影の条件を満たしているかどうかチエツクする必要があるが、彼等のアルゴリズムにはこのチエツク法が示されてない。正直にバツフアの全空間を調べたのでは、余程特殊なハ-ドウエアがなくてはたいへん効率が悪い。
3)アルゴリズムの問題点というよりは品質と高速性、品質と記憶容量のトレ-ド・オフの問題であるが、この方法では単一点光源のみでも普通のZバツフアの10倍程度の容量のバツフアが必要である。輝度計算も画面上の1つ1つのピクセルについて色々な情報を参照しなから複雑な計算を行なつている。インタ-ラクテイブまたはリアルタイムの表示用には品質重視の程度が強過ぎる。非常に高品質な映像が要求される時はレイ・トレ-シング等を時間を掛けて行なえばよくアニメ-シヨン、デ-タ作成や設計の際のプレビユ-には高速性が欠かせない。なお同様の先行文献として特開昭61-133483号がある。これは上述のものと本質的に同じである。
C.発明が解決しようとする問題点
この発明は以上の点を考慮してなされたものであり、凹物体の影を直接判定することができ、その結果凹物体を凸物体に分割して判別するという煩雑ざのない影付は手法を提供することを目的としている。 また影の判定自体を極めて簡易に行える影付は手法を提供することを目的としている。 ざらに複数の点光源(1つの広がりのある光源も含む。)による影を簡易に生成できる影付け手法を提供することを目的としている。 さらに量子化の手法を採用することにより、若干の品質の劣化のもとで格段の処理の高速化が図れる影付け手法を提供することを目的としている。
D.問題点を解決する手段
この発明は以上の目的を達成するために、視線と、所定のシヤドウボリユ-ムに属するシヤドウポリゴンとの交差の回数の偶奇性を用いて画面上に見えている点が影の中にあるかどうかを判定するようにしている。
この原理は以下のとおりである。
第2図(8)に凸の外形ポリゴンがつくるシヤドウ・ボリユ-ム、図第2図(b)に凸でない外形ポリゴンがつくるシヤドウ・ボリユ-ムの例を示す。ただし、図は所定のスキヤンラインと視点とがつくる平面上で描いてある。今後もこの描き方を断わりなく用いることがある。第2図からも判るように、凸または凸でない外形ポリゴンからつくられた1つのシヤドウ・ボリユ-ムでは光の直進性より、第2図(b)のように影の部分が、ある平面内で2つ以上になつてもその部分はお互に重なることはない。つまり、第3図のようには決してならない。そこで、第2図の場合、影になる点が存在する部分というのは視線がシヤドウ・ポリゴンと奇数回文わる部分になつていることがわがる。
ところで実際には第4図のように視点がシヤドウ・ボリユ-ムの中にあるときもある。このときは奇数回交わる部分が光が当たつており、偶数回の部分が影になつている。
視線とシヤドウ・ポリゴンとの交差の回数の偶奇性と、視点がシヤドウ・ボリユ-ム内にあるかどうかとに基づいて影かどうか決定するのが、この発明の影判定の基本アイデアである。
さらにこの発明では複数の光源を扱う場合に、光源単位で各ピクセル位置の影判別を独立して実行し、その後各ピクセル位置ごとに影と判別された回数を求め、これに応じて影の濃さを決定するようにしている。この場合影判別回数をカウントするカウンタは一種類で済み、構成が簡単になる。すでに述べたように、従前ではシヤドウ・ボリユ-ム単位でいくつの光源が当該ピクセル位置に影を落としているかを決め、そののち最も多い回数をそのピクセル位置の影の濃ざとしていたので、二種類のカウンタ(記憶領域)が必要であつた。
またこの発明では光源どうしが離れてそれぞれの個性を考慮しなくてはならない場合に、すなわち各光源の角度とポリゴンの法線ベクタとに基づいて影の濃さが変化する場合に、法線ベクタをクラス分けして量子化するようにしている。このようにすることにより高速な計算が可能になる。
さらにこの発明ではシヤドウ・ボリユ-ムを処理する際に処理範囲を規定する情報を設けるようにして、不必要な計算を回避するようにしている。」(第3頁上右欄第5行〜第7頁上右欄第10行)
なお、下線は、審決において附された。以下、同様。

(イ)「El.システムの概要
以下この発明の一実施例について説明しよう。
第5図はこの実施例の図形処理装置を全体として示すものであり、この第5図において図形処理装置はポリゴン分割されたサ-フエス・モデルを処理してピクセル・デ-タを生成し、このピクセル・デ-タを画面に表示させるものである。この図形処理装置の基本的な機能は隠面消去、グ-ロ-・シエ-デイングおよび影付けである。
ホスト・コンピユ-タ1上ではグラフイツクス・アプリケ-シヨンが実行され、変換部2にワ-ルド座標表示のポリゴン・デ-タ、すなわちポリゴンの各頂点の座標および色情報と、同様のシヤドウ・ポリゴン・デ-タが供給されている。変換部2は通常のポリゴンおよびシヤドウ・ポリゴンのワ-ルド座標を透視変形、スケ-ル変形し、画面上の座標および奥行(デプス)デ-タに変換する。スパン・デ-タ生成部3はDDA(デジタル・デファレンシヤル・アナライザ)等の手法で変換ポリゴン・デ-タからそのポリゴンが掛かつているスキヤンラインごとのスパン・デ-タを生成している。
スパン・デ-タは第7図に示すようなものである。なお図ではスキヤンライン・Zバ-ツフア法およびグ-ロ-・シエ-デイングに用いるデ-夕のみを説明の便宜上示しである。まずこれらについて説明する。
まず、表記法を説明する。今後とくに断わらない限り、スパン・デ-タに関する部分はこの表記法を用いるものとする。直交座標系(スクリ-ン座標系)においては、便宜的に座標軸の向きを通常のスキヤンライン走査方向、つまりX座標値は左から右へ増加し、y座標値は上から下に増加するものとする。xn,yn をそれぞれn番目の頂点の画面(スクリ-ン)上のx,y座標とし、znをn番目の頂点のデプス値とし、inをn番目の頂点の輝度の値とする(第6図)。もちろん、カラ-がサポ-トされているときは、一つの点あたりの輝度値の数は、例えば赤、縁、青につきそれぞれ-つずつというように、複数になる。ここでは、説明を簡単にするため一点あたりの輝度値は一つとする。
グ-ロ-・シエ-デイングでは、画面上のポリゴンの各頂点で指定されたデプス値や輝度のデ-タを画面上で線形に補完して描画する。この際ほとんどのシステムで、まずスパン・デ-タをスキヤンライン毎に作成し、それからスパン・デ-タをスキヤンライン方向に展開する(多くのエンジニアリング・ワ-クステ-シヨンでは、このスパンデ-タの展開をハ-ドウエアで実行している)。ここで、スパン・デ-タというのは描こうとしているポリゴンのうち特定のスキヤンラインに掛かつている部分を表現するデ-タで、通常以下のようなデ-タを含んでいる(第7図)。
(XL,XR,ZL,dZ,IL,dI)
XL,XRはスパンの両端のx座標を表わし、今は便宜上それぞれ左端、右端とする。ZL, ILはそれぞれXLにおけるデプス値、輝度値を表わす。dZ,dIはXL側からXR側へスキヤンライン上で、1ピクセルずれたときのデプス値、輝度値の変化量(差分:線形補完なので定数)を表わす。よって、スパンデ-タの展開はXLからXRに向かつて、デプス値と輝度値にそれぞれdZ,dIをピクセル毎に加算することによつて行われる。コンスタント・シエ-デイングの場合は、同一のポリゴン内では輝度一定で色づけを行なうので、上記の説明からdIについての記述を削除したものとなつている。
この実施例では以上のデ-タのほかに属性デ-タATTRを用いスパン・デ-タをつぎのようにしている。
(ATTR,XL,XR,ZL,dZ,IL,dI)
属性デ-タはシヤドウ・ポリゴンと普通のポリゴンを区別したり、影付け処理のためのものであり、つぎの4つの値を採る。
OP:シヤドウ・ポリゴンでない普通のポリゴンのスパン(Ordinary Polygon)
SP:シヤドウ・ポリゴンのスパン(EV.IFでない)(Shadow Polygon)
EV:1つのシヤドウ・ボリユ-ム内の最後のシヤドウ・ポリゴンのスパン(End span in a Volume)
IF:シヤドウ・ポリゴンのスパンの一種で影判定フラグを反転する動作を伴う(Invert Flag)
なおEVは上述のとおり影判定をシヤドウボリユ-ム単位で行う必要から設けたものである。すなわちシヤドウ・ボリユ-ムごとに各ピクセル位置においてシヤドウ・ポリゴンと視線との交差の回数の偶奇性より、ピクセル位置を占めている点が影になつているがどうかの判定を下ださなくてはならない。そのため、1つのシヤドウ・ボリユ-ムに属するシヤドウ・ポリゴン毎にスパン・デ-タの処理を行なう。その際、各シヤドウ・ボリユ-ムの終りをEVで表わすのである。
またIFは視点の位置に関するものである。すなわち、影判定フラグで偶奇性を調べることにし、シヤドウ・ポリゴンと視線が交差する度にこのフラグを反転する。しかし、第4図を参照して説明したように、視点がシヤドウ・ボリユ-ムの中に含まれていると、影判定の際の偶奇性が逆転する。このため、視点がシヤドウ・ボリユ-ム内に含まれるときはそのシヤドウ・ボリユ-ムのスパン・デ-タの1つにIFの属性を持たせて、影判定フラグを反転させることにする。シヤドウ・ボリユ-ム内に視点が含まれているがどうかは、たとえばそのシヤドウ・ボリユ-ムをつくる元になつた外形ポリゴンまたは立体と視点を一緒に、光源を仮の視点として陰面消去すれば判る。本来の視点が可視であればシヤドウ・ボリユ-ム外にあるし、不可視ならシヤドウ・ボリユ-ムに含まれる。
第5図の説明に戻る。
ピクセル変換部4はスパン・デ-タから隠面消去、グ-ロ-・シエ-デイングおよび影付けの施されたピクセル・デ-タを生成するものである。このピクセル変換部4においてはスパン・デ-タ生成部3からのポリゴンごとのスパン・デ-タを第8図に示すようにスキヤンライン単位でまとめて表示リスト・メモリにストアする。なお第8図でLはスキヤンライン、Sはスパンを示す。また図は誇張されている。このようにストアするのは後段のバイブライン型プロセツサ6がスキヤンライン単位で全ポリゴンのスパン・デ-タを受け取り、ピクセル・デ-タを生成するからである。バイブライン型プロセツサ6からのピクセル・デ-タはフレ-ム・バツフア7にストアされ、CRT(陰極線管)8へと供給される。
バイブライン型プロセツサ6の主たる機能は第1図に示すとおりである。具体的な構成は後述する。
なおこのプロセツサ6においては、所定のスキヤンライン上のスパン・デ-タをピクセル毎のデ-タに展開する処理を行うとき、スパン・デ-タを処理する順番が問題になる。その順序は、
1)まず普通のポリゴンのスパン・デ-タをすべて処理する。
2)つぎにシヤドウ・ポリゴンのスパン・デ-タをシヤドウ・ボリユ-ム毎に処理する
となる。第11図はこのような順序による処理における入力例を示す。
第1図において、スキヤンラインごとに処理が実行される。1スキヤンラインにおける処理はつぎのようである。まず通常のポリゴン、すなわち物体を表示するためのポリゴンに関するスパン・デ-タが隠面消去部9およびシエ-デイング部10に供給される。隠面消去部9は当該スパン・デ-タに基づいて当該スキヤンラインの各ピクセル位置の奥行デ-タ2を展開し、Zバツフア11の奥行デ-タz'と比較する(第9図(a))。Zバツフア11には先行するポリゴンの奥行デ-タがストアされている。ただし今回が当該スキヤンの初めてのデ-タの場合には初期値たとえば背景奥行位地がストアされている。隠面消去部9は各ピクセル位置で手前側の奥行デ-タを残すようになつている。第9図(a)の例では入力デ-タzのうち丸印のものがZバツフア・デ-タz'より手前側となつており、この結果第9図(B)に示すようにZバツフア11の内容が変更される。
他方シエ-デイング部10はスパン・デ-タに基づいてシエ-デイングの施されたピクセル値Iを生成する。この際シエ-デイング部10は隠面消去部9の処理を反映させてピクセル値バツフア12のデ-タI'を更新する。すなわちスパン・デ-タに基づいて生成された新たなピクセル値Iのうち、その奥行デ-タzが新たにZバツフア11に書き込まれることになつたものをピクセル値バツフア12に書き込むようにしている(第9図(b))。このような処理を当該スキヤンラインに掛かつているすべてのポリゴンのスパン・デ-タについて実行することにより当該スキヤンラインについて最も手前にあるデ-タのみが表示されることになる。
当該スキヤンラインのすべての通常のポリゴンについて隠面消去およびグ-ロ-・シエ-デイングの処理が終了したらシヤドウ・ポリゴンを処理する。すなわち疑似隠面消去部13に各シヤドウ・ポリゴンのスパン・デ-タが順次供給される。疑似隠面消去部13はスパン・デ-タからシヤドウ・ポリゴンの奥行デ-タzを展開し、各ピクセル位置で上述隠面消去後の確定したZバツフア11の奥行デ-タz'と比較を行う。この場合当該ピクセル位置でZバツフア11の奥行デ-タz'の方がシヤドウ・ポリゴンの奥行デ-タ2より奥にあれば視線がシヤドウ・ポリゴンを横切つたことになる。他方Zバ・ソフア11の奥行デ-タz'が手前であれば横切つていない。そして横切つたときには暫定影判定フラグ・バツフア14を反転させ、他方横切らないとき暫定影判定フラグ・バツフア14をそのままとする。第10図の例では丸印が視線の交差に対応する。その結果斜線部分が反転される。なお第10図(b)ではATTRがIFの場合すなわち視点がシヤドウ・ポリゴン内にある場合であり、反転の態様が他と異なつている。また第10図(C)ではATTRがEVであり、暫定影判定フラグ・デ-タは最終影判定フラグ・バツフア15に転送される。擬似隠面消去部13の機能は実質的には隠面消去部9のそれと同一であり、隠面消去部9で兼用される。
当該スキヤンラインについて全てのシヤドウ・ポリゴンのスパン・デ-タが処理されると確定した最終影判定フラグ・デ-タが変更部16に供給され入力ピクセル値を変更して影付けを行う。 以上の処理は他のスキヤンラインについても実行される。
なおこの実施例では凸でない外形ポリゴンを凸に細分割してシヤドウ・ボリユ-ムをつくる必要がないのは明らかである。ざらにこの実施例ではシヤドウ・ポリゴンのより上位のデ-タを採用して処理を高速化できる。
すなわち最近のグラフイツクス・システムでは高速描画の際でも、モデルのつくり易さのためにポリゴン・デ-タのみではなく、もつと上位の形状デ-タ(ポリゴンがどういう立体を構成するかを示すデ-タ)も保持している。この形状デ-タを使用してシヤドウ・ボリユ-ムをつくることにより、シヤドウ・ボリユ-ムの数を大幅に減らすことができる。
例えば第12図のような形状があるときに、この形状に対して唯一つのシヤドウ・ボリユ-ムを用意するだけでよく、第13図で示される位置に光源があるときは、シヤドウ・ポリゴンの数は9枚で済む。つまり、第12図の辺AB,AM,EF,EG,FO,GL,MO,KL,BIについてシヤドウ・ポリゴンをつくればよい。
ただし、ここで辺BI、辺KLからつくられるシヤドウ・ポリゴンについては注意が必要である。例えば、辺BIからつくられるシヤドウ・ポリゴンを通常のように光源から点Bを通る半直線の点B以遠と光源から点工を通る半直線の点I以遠と辺BIで囲まれるポリゴンとする訳にはいかない。この実施例の影判定法では同一のシヤドウ・ボリユ-ム内でシヤドウ・ポリゴン同志が交わることは許されないのであるが、辺BIからこのようにして作つたシヤドウ・ポリゴンは辺KLから作つたシヤドウ・ポリゴンと交わつてしまう。
従つて、辺BIと光源を含む平面と辺KLの交点Tを求め第14図のように辺BIについてのシヤドウ・ポリゴンを作る。辺KLについては線分TLを使つてシヤドウ・ポリゴンを作る立体のどの辺を使つてシヤドウ・ポリゴンを作ればいいかということや、先程の辺BIのような取扱いをする必要がある辺を見つけることや、その辺から作るシヤドウ・ポリゴンが他のどの辺と交わるかを見つけることはその立体に対して光源から陰面消去することによつて可能である。この陰面消去は立体を構成しているポリゴンのみで実行すればよいので計算量は少ない。
このように、各立体(形状)毎にシヤドウ・ボリユ-ムとそれを構成するシヤドウ・ポリゴンを作ることが可能であり、大幅にシヤドウ・ポリゴンの数を減らすことができる。この発明の影判定法ではシヤドウ・ポリゴン同志が交わらなければ、複数のシヤドウ・ボリユ-ムも一度に取り扱うことができる(シヤドウ・ボリユ-ム単位で影判定をしなくて済む)。そのため、前段の考え方をさらに進めて、複数の立体について光源から陰面消去して最良のシヤドウ・ポリゴンの組(複数のシヤドウ・ボリユ-ム分できる)を求めることもできる。ただし、シヤドウ・ポリゴン同志の交りをなくす操作(辺BTについてのシヤドウ・ポリゴンを作ることに相当)が複雑になる。
またこの実施例では影判定に視線とシヤドウ・ポリゴンの交差の数の偶奇性を用いている。このため、1つのシヤドウ・ボリユ-ムに属するシヤドウ・ポリゴンのつなぎめの所が問題になる。第15図の状況でAB,BCに対する(XL,XR)を(X1,X2),(X2,X3)としてスパン・デ-タを作ると、X2つまり点Bで交差をダブル・カウントしてしまい、点Bを通る視線上の点はたとえ領域ABCDEF内にあつても、影とは判定されない。それどころか、領域外を影と判定するようなことも起こりうる。
そこで、シヤドウ・ポリゴンのスパンデ-タを作る時には、辺を共有するシヤドウ・ポリゴンについてはスパンの範囲(XL,XR)が重ならないようにスパンデ-タを生成する。具体的には、スパンの二端点をXl,Xrとすると、シヤドウ・ポリゴンは総て(Xl,Xr-1) (または(Xl+1,Xr))としてスパンの範囲を指定すると不都合がなくなる。よつて、先程の例では(X1,X2-1),(X2,X3-1)と指定する。
またこの実施例では残留光レベル(上記のRBし)が0でないとき、ハイライト効果を含めたグ-ロ-・シエ-デイングを扱えない。何故なら、影の部分にまでハイライト効果が残つてしまうからである。また、厳密な意味では上記のRBLで残留光を表しているとは言いがたい。しかし、これは記憶容量(またはハ-ドウエア量)とのトレ-ド・オフに過ぎず、ハイライト効果と拡散光による輝度値(IB)と残留光による輝度値(RB)に分けてピクセル毎に保持しておけば、FSF(最終シヤドウフラグ)=0ならIB+RB を輝度値とし、FSF=1ならRBのみをピクセルの輝度値とすればよい。また同様に、シエ-デイング法がグ-ロ-・シエ-デイングでは不満で、ハ-ドウエア量もしくは計算型が増えることを厭わなければ、複雑なシエ-デイング法も使用可能である。」(第7頁上右欄第12行〜第11頁上左欄第8行)

(ウ)「E2.パイブライン型プロセツサの詳細
つぎにパイブライン型プロセツサ6について詳細に説明する。
第16図はパイブライン型プロセツサ6を全体として示すものであり、1つのスキヤンラインに掛かつている通常のポリゴンおよびシヤドウ・ポリゴンのスパン・デ-タが順次人力されるようになつている。スパン・デ-タは第11図に示すように初めに通常のポリゴン、つぎにシヤドウ・ポリゴンの順に入力されて処理される。シヤドウ・ポリゴンの処理が終わるとピクセル値Iおよび最終影判定フラグFSFが順次出力される。プロセツサ6内部には1スキヤンライン分のピクセルの数(この例では1024個)だけのプロセツシング・エレメントPEが連鎖上に並んでいる。プロセツシング・エレメントPEはそれぞれ固有の数値10を有している。スパン・デ-タの入力側から0、1、2、3・・・1023という値になつている。個々のプロセツシング・エレメントPEは1スキヤンライン分のピクセルの各々に対応している。プロセツシング・エレメントPEは直前のプロセツシング・エレメントPEからスパン・デ-タを受け取つて必要なら内部状態を変更し、またスパン・デ-タも変更し、次段のプロセツシング・エレメントPEに引キ渡す。
第12図はプロセツシング・エレメントPEの詳細を示す。この図においてプロセツシング・エレメントPEは範囲判別部17、Zバッファ部18、影付け部19およびシエ-デイング・ピクセル値バツフア20からなつている。範囲判別部17にはスパンの左右限界値XLおよびXRが入力きれている。範囲判別部17は自己のIDがXLとXRとの間にあるとぎにイネ-ブル信号EN1を24971部18に供給する。この信号EN1は影付け部19およびシエ-デイング・ピクセル値バツフア20にも供給されている。したがつてプロセツシング・エレメントPEは自己に関連したスパン・デ-タにしか動作しない。
Zバッファ部18は対応するピクセル位置の奥行デ-タをストアするようになつている。またこのZバッファ部18にはスパン・デ-タのうちZおよびdZが入力され当該ピクセル位置の奥行デ-夕を算出している(Z+dZ)。スパン・デ-タが通常のポリゴンに関するものである場合には、算出した奥行デ-タがストア奥行デ-タより大きいときにデ-タの更新を行う。同時にシエ-デイング・ピクセル値バツフア20にピクセル値の更新イネ-ブル信号EN3を供給する。他方シヤドウポリゴンの場合にはこのようなときには暫定影判定フラグTSFを反転させるイネ-ブル信号EN2を影付け部19に供給する。これはシヤドウ・ポリゴンを視線が交差したことに対応する。
影付け部19にはスパンデ-タのうちATTRが入力されている。ATTRがIFのときには暫定影判定フラグTSFを反転させる。これは視点がシヤドウ・ボリユ-ム内にあることに対応する。またATTRがEVのときには暫定影判定フラグTSFの内容を最終影判定フラグFSFに転送する。
シエ-デイング・ピクセル値バツフア20にはスパン・デ-タのうちIおよびdIが供給されている。シエ-デイング・ピクセル値バツフア20はIおよびdIに基づいてグ-ロ-・シエ-デイングを行い、イネ-ブル信号EN3に応じてバツフアに書き込みを行う。
1スキヤンライン分のすべての通常のポリゴンおよびシヤドウ・ポリゴンの処理が終了したら影付け部19およびシエ-デイング・ピクセル値バツフア20からそれぞれピクセル値および最終影判定フラグが送出される。
第18図は以上の処理を示すフロ-チヤ-トである。なおこのフロ-チヤ-トの内容は図から明らかであるから詳細な説明は省略する。」(第11頁上左欄第9行〜第12頁上左欄第1行)

(エ)「E4.複数の点光源
普通のスパン・デ-タを展開する際に光源毎に輝度値をバツフア上に展開するか、スパン・デ-タ展開時には輝度値を展開せず法線ベクタとポリゴンの識別子をピクセル毎に展開しておき後から1ピクセルずつ輝度値を計算するか、のどちらかの方法を用いれば上述の手法の自然な拡張で複数の光源もサポ-トできる。しかし、前者の方法だとピクセル毎に光源の数だけの輝度値を記憶しておくバツフアが必要だし、後者の方法だと1ピクセル毎の計算を行う際いろいろな情報を参照する必要がありハ-ドウエア化しても手間が掛かる。もちろん将来的にはLSIの集積度が上がりスピ-ドも速くなり、この2つの方法も高速に実行できるようになると思われる。
ここでは、この2つの方法を修正して足し合わせた輝度計算の近似計算法を導入して、ピクセル当たりのハ-ドウエアの増加と高速性のトレ-ド・オフを取つた手法を説明する。輝度値の計算と光源を複数化したための処理以外は記述の手法を用いる。
まず、輝度計算法について述べる。ここでは光源と物体がかなり離れているという仮定(1つの光源からの光の方向は一定という仮定)を採用する。これが認められない状況では、各ピクセル上の放線ベクタとその他の情報から丹念に1ピクセルずつ輝度計算を行うか、光源から各ピクセルへの方向ベクタもスパン・デ-タ展開時に求め記憶しておくようなことを行わなくてはならず、計算量やハ-ドウエア量が大きくなる。ここでは仮定が満たされる状況のみを考える。
この例においても法線ベクタが判れば、その点への各光源からの寄与が判ることを利用して輝度値を求めることにする。ただし、スパン・デ-タ展開と影判定の終了後、輝度値を法線ベクタから計算する(BrotmanおよびBadlerのアルゴリズムではこれに相当することを行つている)のではない。影なしとして全部の光源の寄与を合算した輝度値とポリゴンの法線ベクタを共にスパン・デ-タの要素とし、スパン・デ-タを展開する。その後、ピクセル毎に法線ベクタと影についての情報を使つて輝度値を修正する。このままだと、法線ベクタのみから計算するのとあまり手間が変わらない。そこで法線ベクタといってもクラス分けして少し粗めに量子化されたものを用いて、そのクラスを示すインデックスとどの光線から影になっているかの情報で輝度値をどの程度修正する(割り引く)かの割合の入ったテーブルを引くことにする。テーブルから得た値とピクセルに保持されていた輝度値を掛けたものを修正された輝度値とする。
法線ベクタのクラス分けをもう少し具体的に例を挙げて説明する。例えば、第20図のような立方体を考え、各面をN×N等分しておく(図では4×4等分)。立方体の中心とN×N等分された四角形のつくる四角錐を考え、立方体の中心をベクタの始点とした時どの四角錐に含まれるかでクラス分けを行うことができる。この例だと1から6×N×Nまでの整数で番号(インデツクス)付けされる。Nを大ぎく取れば取るだけ輝度計算の近似は良くなるが、サポ-トする光源の数をMとすると、6×2M×N×Nの大きざをもつ修正の割合を記憶するテ-ブルが必要になる。しかし、最終的な輝度値も離散な値で良いので必要以上に細分化する必要はない。例えば、N=16,M=4、テ-ブルに記憶される値が4バイトの数値とすると、96Kバイトのテーブルとなる。
この方式において、サポ-トする光源数をM個とした時、各ピクセルについてM個の光源のどれについて影になつているかを記憶するM個のフラグが必要である。また、法線のクラス分けインデツクスを12ビツトの数値とすると、前出の2つのフラグDSF、FSFを加えてピクセル当たりの記憶量の増加は影付けをしないときにくらべてM+12+2ビツトで済む。各ピクセルにおける法線ベクタのクラス分けインデツクスをNID(Normal Index in Direction)とし、点光源に対するフラグの配列をLM[n](Light Mask:LM[0..M-1])と表記することにする。また、単にLMと書くときはLM[0]からLM[M-1]までをMビツトの符号なし整数とみなしていることにする。輝度値を修正するためのテ-ブルをBT[n,m](Bright Table:BT[0..6×N×N-1,0..2M-1])とし、このテ-ブルは法線の方向と影にする光源の組合せと光源の光の方向から前もって値を計算し設定しておく。
この複数個の点光源による影を生成する手法におけるスパン・デ-タの処理の順序はほぼ上述の広がりを持つ光源の手法と同じで、点光源毎にシヤドウ・ボリユ-ムを処理する。ただし、今回は点光源を区別する必要があるので、各点光源の終りのスパン・デ-タを示すELの属性値の代りにELn(nは0からM-1までの整数で点光源の識別番号)を用いることとする(第21図参照)。
使用するスパン・デ-タはポリゴンの法線ベクタに対するクラス分けのインデツクス(NID)を含む以下のような形式のものである。
(ATTR,XL,XR,ZL,dZ,IL,dI,NID)
もちろん、スパン・デ-タをピクセル・デ-タに展開するときには法線ベクタを補完しながら展開し、後からピクセルごとにインデツクスを求めることもできる(こちらの方が画像の品質は良いが計算量が増える)。シヤドウ・ポリゴンではスパン・デ-タのうち法線ベクタと輝度に関する項は使用されない(意味をもたない)。普通のポリゴンのスパン・デ-タの輝度に関する項は総ての点光源の影を考慮にいれない寄与の和が用いられている。」(第12頁上右欄第15行〜第13頁下右欄第3行)

(オ)「E5.複数の広がりを持つ光源
複数の広がりを持つ光源に対する影を含む画像の生成でも、この実施例の影判定法や影判定フラグのチエツク法や光源ごとにシヤドウ・ボリユ-ムを処理する方式はそのまま使用可能である。
E6.ダミ-のスパン・デ-タ
以上の実施例ではスキヤンライン上のすべてのピクセルで上記の処理が実行きれる。パイプライン(またはシストリツク・アレイ)型でスキヤンライン上の全てのピクセルに対応する処理機構をもつているようなハ-ドウエアには以上の手法が最適である。しかし、ソフトウエアで実行する時やスキヤンライン上の全てのピクセルに対応する処理機構がない時は、TSFのチエツクをすべてのピクセルについて行うのは効率的でない。
そこで、そういう場合に効率を上げる方法を述べる。このような場合には、通常スパン・デ-タのXL,XRで囲まれるピクセルのみが操作対象になる。この操作方式で、第11図のスパン・データ列を用いて処理を行うと、シャドウ・ボリューム毎に影のチェックを行うときに対象となるシャドウ・ボリュームに関連しているのにチェックされないピクセルができる可能性がある。このため、EVの属性はやめ、シヤドウ・ボリユ-ム毎のチエツクのためのダミ-のスパン・デ-タを各シヤドウ・ボリユ-ムに属するスパンデ-タの最後に加える(第22図参照)。CHという属性でこのダミ-のスパン・デ-タは区別され、もちろんデプス値や輝度値に関するスパン・デ-タの要素は意味をもたない。CHの属性をもつスパン・デ-タのXL,XRとしては、それぞれ、そのスパンデ-タが属するシヤドウ・ボリユ-ムのシヤドウ・ポリゴンのスパン・デ-タのXLの内の最小値、XRの内の最大値が採用される。」(第13頁下右欄第4行〜第14頁上左欄第17行)
以上の記載からみて、引用例1には、次のような発明が記載されているものと認められる。

「物体を規定する物体ポリゴンを表示装置の画面上に表示するピクセル・デ-タおよびこのピクセル・デ-タに関連する奥行デ-タを生成する物体表示用デ-タ生成手段と、
各ピクセル位置について最も奥行の短いピクセル・デ-タを選択して取り出すピクセル・デ-タ選択手段と、
物体ポリゴンが光源からの光線を遮ることによつて生じる影空間を規定する影ポリゴンを生成する手段と、
各ピクセル位置について視点の奥行位置とそのピクセル位置に対して選択されたピクセル・デ-タの奥行位置との間に、影空間ごとに、その影空間を規定する各影ポリゴンが存在するかどうかを判断し、その間に存在する影ポリゴンの個数の偶奇を判別する偶奇判別手段と、
視点が上記偶奇判別に関連する影空間内にあるかどうかを判別する視点位置評価手段と、
偶奇判別手段および視点位置評価手段のそれぞれの判別結果に基づいて、視点が上記偶奇判別に関連する影空間内にあり、かつ偶奇判別が偶数のときに、または視点が上記偶奇判別に関連する影空間外にあり、かつ偶奇判別が奇数のときにピクセル位置に影があると判別する影判別手段と、
この影判別手段の判別結果に基づいてピクセル・デ-タ選択手段からのピクセル・デ-タを調節してこのピクセル・デ-タに影を反映させるピクセル・デ-タ調整手段と、
調整されたピクセル・デ-タを表示装置へ出力するピクセル・デ-タ出力手段とを有する図形処理装置。」

(4)対比
本願発明と引用例1に記載された発明を対比すると、引用例1には、
(i)「A、産業上の利用分野
この発明は、3次元グラフイツクス表示おいて、Zバツフア法(スキヤンライン・Zバツフア法を含む)の隠面消去ハ-ドウエアを流用して高速に物体の影を描くことができる図形処理装置に関し、とくに簡易な構成で影の有無を判定できるようにしたものである。」(第3頁上右欄第5〜11行)
(ii)「第5図はこの実施例の図形処理装置を全体として示すものであり、この第5図において図形処理装置はポリゴン分割されたサ-フエス・モデルを処理してピクセル・デ-タを生成し、このピクセル・デ-タを画面に表示させるものである。この図形処理装置の基本的な機能は隠面消去、グ-ロ-・シエ-デイングおよび影付けである。」(第7頁上右欄第14〜20行)
との記載がなされており、これらの記載からみるに、引用例1に記載された発明は、三次元像を陰影付けしてスクリーンに表示するためのものであるから、本願発明と引用例1に記載された発明とは、
「スクリーン上に表示するために三次元像を陰影付けする」
点において差異はない。

次に、無限面上の領域、すなわち平面上に位置する点P(x,y,z)全体の集合は、式
ax+by+cz+d=0
で表され、無限面(平面)は、式中の係数データ(a,b,c,d)が定まれば一義的に決定することは初等数学上の自明事項である。また、複数(例えばn個)の無限面で囲まれる領域は、各平面の係数データを(a1,b1,c1,d1),(a2,b2,c2,d2),……,(an,bn,cn,dn)とする時、次の連立不等式
a1x+b1y+c1z+d1≦0
a2x+b2y+c2z+d2≦0
…………………
anx+bny+cnz+dn≦0
で表されることも、初等数学における一般常識である。そして、引用例1には、
(iii)「高速描画で通常なされているように、すべての物体をポリゴンで表した場合、シヤドウ・ボリユ-ムは半無限の多面体で表現され、その側面もすべてポリゴン(半無限)で表現される。」(第3頁下左欄第13〜17行)
との記載がなされており、この記載からみるに、引用例1に記載された発明は、像のオブジェクトであるボリュームを、複数の無限面により囲まれた領域として表しており、各無限面を定めるデータをシステムに供給していることは明らかであるから、したがって、本願発明と引用例1に記載された発明とは、
「像の各オブジェクトを表す無限面のグループを定めるデータを供給している」
点で差異はない。

引用例1には、視点から複数の対象物体が見えるとき、各々の対象物体について、デプス値すなわち奥行きデータを発生することが記載されており、そして該デプス値は、通常、スクリーン(像平面)からオブジェクトを表す画素領域までの距離に基づいて発生するものであることは、明らかである。そして、審判請求人は、平成14年7月8日付けの意見書で、
(iv)「1つの像平面からのオブジェクト及び面に対する深さ値を発生するする思想は、三次元コンピュータグラフィックの分野では周知のものであります。」(意見書第2頁第19〜20行)
と述べ、更に平成15年3月3日付けの意見書においても、
(v)『(8)なお、拒絶理由1について、「像平面からその面までの距離」とは「深さ値」のことであり、従って、「表示各画素領域に対し各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて発生する」及び「表示の各画素領域に対し光ボリュームの各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて決定する」とは、それぞれ、「表示各画素領域に対し各面の深さ値を発生する」及び「表示の各画素領域に対し光ボリュームの各面の深さ値を決定する」の意味であります。これらの表現は、「深さ値」の定義を請求項に加えただけに過ぎません。』(意見書第3頁第2〜8行)
と述べているから、本願発明と引用例1に記載された発明とは、
「表示の各画素領域に対し各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて発生し、その画素領域において面が見えるかどうか決定して」
いる点で差異はない。

引用例1には、視点から対象となる画素領域が直接見えるか又は前方に位置する物体の裏側にあって直接見えないかに応じて隠面処理すること、すなわち、視点から出発し、視点に対し裏面を向けた面上の対象画素領域は除外しつつ、初めて遭遇した視点に対し表面を向けた面上の対象画素領域を選択しその画素領域を表示することが記載されており、しかもこの隠面処理の手法は当業者には周知な技術事項であるから、本願発明と引用例1に記載された発明とは、
「その画素領域において面が見えるかどうか決定して」
いる点で差異はない。

先に述べたように、引用例1には、ボリュームを複数の平面により囲まれた領域として指定し、ボリュームを形成する各面上の画素領域に対し、デプス値(奥行きデータ)を、スクリーンからその面までの距離に基づいて決定することが記載されているから、本願発明と引用例1に記載された発明とは、
「面のグループにより表されたオブジェクトをボリュームとして指定し、表示の各画素領域に対しボリュームの各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて決定して」
いる点で差異はない。

引用例1には、隠面処理を実行することにより、視点に一番近くかつ視点に対して表面を向いたオブジェクトの面上の画素領域を選択し、その画素領域がシャドウ・ボリュームのどこに位置するかに基づいて該画素領域に対して種々の濃度レベルで陰影付けする(第3,第4図及び関連説明参照)ことが記載されているから、本願発明と引用例1に記載された発明とは、
「その画素領域において見えるオブジェクト面及びボリュームに対するその位置に基づいてその画素領域を陰影付けする」
点で差異はない。

そうすると、本願発明と引用例1に記載された発明とは、
(一致点)
「スクリーン上に表示するために三次元像を陰影付けする方法において、像の各オブジェクトを表す無限面のグループを定めるデータを供給し、表示の各画素領域に対し各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて発生し、その画素領域において面が見えるかどうか決定し、面のグループにより表されたオブジェクトをボリュームとして指定し、表示の各画素領域に対しボリュームの各面の深さ値を像平面からその面までの距離に基づいて決定し、そしてその画素領域において見えるオブジェクト面及びボリュームに対するその位置に基づいてその画素領域を陰影付けするという段階を備えた陰影付け」
である点において一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明が、画素領域において見えるオブジェクト面及び光ボリュームに対するその位置に基づいてその画素領域を陰影付けしているのに対し、引用例1に記載された発明は、視点から見えるオブジェクトの面上の画素領域が影ボリュームの何処に位置するかに応じてその画素領域を陰影付けしている点。

(相違点2)
本願発明のカテゴリが「方法発明」であるのに対して、引用例1に記載された発明のカテゴリが「装置発明」である点。

(5)判断
(相違点1について)
(a)本願発明は、図1に示される円錐体積4を光ボリュームと定義している(明細書段落【0010】参照)。この定義に従えば、光ボリュームとは、光源2と平面6上に設けられた円の縁とを結んでできる境界面により囲まれる円錐領域のことである。そして、引用例1に記載された発明においても、本願発明の光ボリュームに相当するものは明瞭に開示されており、それは光源と外形ポリゴンの縁を結んでできる多角錐領域のことである(第2図〜第4図参照)。
(b)本願発明において定義される光ボリュームの技術的意義を考えるに、光ボリュームは、光源から射出された光線束(光線の集合)のことであり、それ単独では陰影処理上の技術的意味を有しない。また、光学的障害物体の前方に位置する光ボリューム内の空間部分も陰影処理上の技術的意味を有しない。すなわち、光源から射出された光線は、障害物体にあたり反射又は透過することにより始めて、障害物体の後方に位置する複数の対象物体または空間(引用例1のシャドウ・ボリューム又はシャドウ・ポリゴンに相当)に影を形成するのであり、光線の集合体にすぎない光ボリュームそれ自体に影は形成されず、また障害物体の前方に位置する光ボリューム内の空間部分にも影は形成されないからである。
(c)本願明細書の詳細な説明の欄には、光ボリューム内に置かれた物体に光線が照射された時、(i)この障害物体の背後に位置する対象物体に、光ボリュームとの位置関係と絡んでどのような影が生じるのか、(ii)また対象物体に生じた影が、やはり光ボリュームとの位置関係と絡んで視点からどのように見えるのか、(iii)そして、視点から見える影を、やはり光ボリュームとの位置関係と絡めてどのようにコンピュータグラフィックス的に表現するのかについての具体的記載がない。
以上(a)〜(c)に示される事項に鑑みると、本願発明で使用する陰影付け処理及び隠面処理は、引用例1に記載されている如くの当業者には良く知られている処理方法であると解さざるを得ない。また、光ボリュームについても、概念上、陰ボリュームを単に拡張した程度のものであり、それに確たる技術的意義があるとは解することはできず、光ボリュームと影ボリュームとの間に、明瞭な構成的差異を見いだすことはできない。
したがって、本願発明の如く構成することは、引用例1に記載された発明及び周知技術とに基づいて当業者が適宜なし得ることであると認めざるを得ない。

(相違点2について)
発明の名称を装置から方法に書き換えて発明のカテゴリを変更し、本願発明の如く「方法発明」とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

なお、陰影づけ処理及び隠面処理は、引用例1の他に、原審が拒絶の理由に引用した次の文献
1.特開平4-195377号公報
2.特開平6-150016号公報
3.特開平6-274648号公報
4.特開平6-076074号公報
5.鷺島敬之ほか,「並列処理シリーズ14 並列処理回路」,コロナ社,1991年8月15日,pp.38-49,pp.57-66,pp.97-112
にも、その旨の記載があるとおり、当業者には、周知な技術事項である。
また、陰影付け処理及び隠面処理等の画像処理を、パイプライン処理または並列処理することにより、高速化することも、引用例1の他に、原審が拒絶の理由に引用した次の文献
6.特開平5-342366号公報
7.特開平6-223198号公報
8.鷺島敬之ほか、「並列処理シリーズ14 並列処理回路」,コロナ社,1991年8月15日,pp.1-252
9.阿部毅ほか,“並列グラフィックスアルゴリズムのサーベイ”,情報処理学会研究報告,情報処理学会,1994年5月20日,Vol.94,No.41(94-CG-68),pp.9-16
にも、その旨の記載があるとおり、当業者には周知な技術事項である。

(6)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-30 
結審通知日 2006-02-06 
審決日 2006-02-17 
出願番号 特願平8-14191
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 536- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 脇岡 剛  
特許庁審判長 関川 正志
特許庁審判官 大野 弘
岡本 俊威
発明の名称 コンピュータの3Dレンダリングシステムに関する改良  
代理人 小川 信夫  
代理人 村社 厚夫  
代理人 中村 稔  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 今城 俊夫  
代理人 大塚 文昭  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ