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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B21D 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) B21D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B21D |
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管理番号 | 1139398 |
異議申立番号 | 異議2003-72333 |
総通号数 | 80 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2002-04-09 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-09-16 |
確定日 | 2006-07-05 |
異議申立件数 | 3 |
事件の表示 | 特許第3389562号「車輌用衝突補強材の製造方法」の請求項1〜4に係る発明についての特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3389562号の請求項1〜4に係る発明についての特許を取り消す。 |
理由 |
第1.手続の経緯 1.本件特許第3389562号の請求項1〜4に係る発明についての出願は、平成12年10月18日(優先権主張平成12年7月28日)に特許出願され、平成15年1月17日にそれらの発明について、特許権の設定登録がなされた。 2.平成15年9月16日に申立人三井加奈子により、平成15年9月22日に申立人松村陽一により、平成15年9月24日に申立人内田泰史により、それぞれ本件の全請求項に係る発明についての特許に対する特許異議の申立てがなされた。 3.平成16年8月9日付けで取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年10月18日に特許異議意見書の提出及び訂正請求がなされた。 4.平成16年11月30日付けで訂正拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成17年1月31日に意見書及び手続補正書の提出がなされた。 第2.訂正の適否について 1.訂正請求に対する補正の適否について (1)補正の内容 特許権者が平成17年1月31日に行った訂正請求についての補正の内容は、以下のとおりである。 (イ)設定登録の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載を、 「引張強度が500〜600MPaの範囲内にある高張力鋼であって、0.18〜0.25wt%の炭素、0.15〜0.35wt%の珪素、1.15〜1.40wt%のマンガン、0.15〜0.25wt%のクロム、0.01〜0.03wt%のチタン、0.0005〜0.0025wt%のホウ素、0.03%以下のリン、0.01wt%以下のイオウを少なくとも含有してなる(不可避的不純物として含まれる量を超える量のアルミニウムを含まない)鉄系材料からなる板材である金属材を、摂氏850度以上であってその金属材の融点未満の温度に加熱する加熱工程と、摂氏850度以上の高温状態にある金属材に対し、所望形状を付与すべく相対的に低温のプレス型を用いてプレス加工を施す焼き入れ・プレス工程とを備えてなることを特徴とする車輌用衝突補強材の製造方法。」と訂正することを、 「引張強度が500〜600MPaの範囲内にある高張力鋼であって、0.18〜0.25wt%の炭素、0.15〜0.35wt%の珪素、1.15〜1.40wt%のマンガン、0.15〜0.25wt%のクロム、0.01〜0.03wt%のチタン、0.0005〜0.0025wt%のホウ素、0.03%以下のリン、0.01wt%以下のイオウを 含有し、不可避的不純物として含まれる量を超える量のアルミニウムを含まない鉄系材料からなる板材である金属材を、摂氏850度以上であってその金属材の融点未満の温度に加熱する加熱工程と、摂氏850度以上の高温状態にある金属材に対し、所望形状を付与すべく相対的に低温のプレス型を用いてプレス加工を施す焼き入れ・プレス工程とを備えてなることを特徴とする車輌用衝突補強材の製造方法。」と訂正することに補正する。 (ロ)本件特許明細書の段落【0008】の記載を、 「・・・0.18〜0.25wt%の炭素、0.15〜0.35wt%の珪素、1.15〜1.40wt%のマンガン、0.15〜0.25wt%のクロム、0.01〜0.03wt%のチタン、0.0005〜0.0025wt%のホウ素、0.03%以下のリン、0.01wt%以下のイオウを少なくとも含有してなる(不可避的不純物として含まれる量を超える量のアルミニウムを含まない)鉄系材料・・・」と訂正することを、 「・・・0.18〜0.25wt%の炭素、0.15〜0.35wt%の珪素、1.15〜1.40wt%のマンガン、0.15〜0.25wt%のクロム、0.01〜0.03wt%のチタン、0.0005〜0.0025wt%のホウ素、0.03%以下のリン、0.01wt%以下のイオウを 含有し、不可避的不純物として含まれる量を超える量のアルミニウムを含まない鉄系材料・・・」と訂正することに補正する。 なお、下線は補正箇所を明示するために当審で付したものであり、上記(イ)の補正箇所と(ロ)の補正箇所は同一である。 (2)当審の判断 上記(イ)及び(ロ)の補正によって、訂正後の記載内容に実質上の差違は生じないから、当該訂正請求に対する補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合する。 2.訂正の内容 上記1.のとおり訂正請求についての補正は認められるから、特許権者の求める訂正の内容は、以下のとおりのものである。 (1)訂正事項1 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び段落【0008】に記載される、 「0.18〜0.25wt%の炭素、0.15〜0.35wt%の珪素、1.15〜1.40wt%のマンガン、0.15〜0.25wt%のクロムおよび0.01〜0.03wt%のチタン を少なくとも含有してなる鉄系材料」を、 「0.18〜0.25wt%の炭素、0.15〜0.35wt%の珪素、1.15〜1.40wt%のマンガン、0.15〜0.25wt%のクロム、0.01〜0.03wt%のチタン、0.0005〜0.0025wt%のホウ素、0.03%以下のリン、0.01wt%以下のイオウを 含有し、不可避的不純物として含まれる量を超える量のアルミニウムを含まない鉄系材料」に訂正する。 (2)訂正事項2 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び段落【0008】に記載される「 プレス工程」を「焼き入れ・プレス工程」と訂正する。 なお、下線は訂正箇所を明示するために当審で付したものである。 3.訂正事項1についての判断 上記訂正事項1のうち、鉄系材料が「0.01〜0.03wt%のチタン、0.0005〜0.0025wt%のホウ素、0.03%以下のリン、0.01wt%以下のイオウ」を含有することは、本件特許明細書の段落【0031】の【表1】に記載された事項である。 しかしながら、鉄系材料が「不可避的不純物として含まれる量を超える量のアルミニウムを含まない」との事項は、本件特許明細書には記載されておらず、また、自明でもない。 したがって、上記訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものではなく、新規事項の追加に該当する。 なお、この点について、特許権者は、 (イ)鉄系材料が「不可避的不純物として含まれる量を超える量のアルミニウムを含まない」との事項を追加する補正は、「請求項に係る発明が、先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該重なりのみを除く補正」、すなわち、「除くクレーム」とする補正に相当するものであって、審査基準で「例外的に、当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取扱」われるべきものであること、 (ロ)本件特許明細書の【表1】を参照すると、主要添加元素から微量添加元素まで詳細に記載されており、したがって、上記【表1】に記載のない「不可避的不純物として含まれる量を超える量のアルミニウム」を含まないことは明らかであること、 (ハ)本件特許明細書の段落【0007】には、「本発明の目的は、プレス加工によっても必要な強度を付与することができると共に、遅れ破壊やスプリングバックといった問題を生じない車輌用衝突補強材の製造方法を提供することにある。」と記載され、当該記載から、本件訂正発明が、焼き入れ性(焼き入れ後の強度)を低下させるアルミニウムを添加しないことを特徴とすることは裏付けられていることから、鉄系材料が「不可避的不純物として含まれる量を超える量のアルミニウムを含まない」との事項は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであるか、そうでないとしても、範囲内のものであると取扱われるべきものである、旨主張する(平成17年1月31日付け意見書第4頁12行〜第5頁5行)。 そこで、上記主張について検討するに、 (イ)審査基準には、「除くクレーム」とする補正が、例外的に、当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取り扱うものは、「(i)請求項に係る発明が、先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該重なりのみを除く補正。(ii)・・・」と記載されている。 そうすると、上記審査基準の「例外的に」との記載、また、「新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合」と、「第29条第1項第3号」、「第29条の2」、「第39条」以外の条文が含まれていないことからみて、審査基準が、本件特許の請求項1に係る発明のように、特許法第29条第1項第3号だけでなく、同条第2項の適用が問題になる場合にまで、上記運用を適用するとは示していない。 (ロ)本件特許明細書の【表1】に添加元素がすべて掲載されているとする根拠がなく、また、例えば、当審の通知した取消しの理由で刊行物1として挙げた、英国特許第1490535号明細書の表1には、モリブデン、銅、ニッケルが示されていないが、第1頁51行には「0.05〜0.5%のモリブデン」を、また、同頁68行〜70行には、「それぞれ0.2%までの銅およびニッケル」を含み得ることが記載されていることからみて、本件特許明細書の【表1】にアルミニウムが記載されていないことが、直ちに、アルミニウムを含まないことを意味するとは解し難い。 (ハ)下記「第3」の項で示すように、アルミニウムを含有する刊行物1記載の発明で、加熱工程及び焼き入れ・プレス工程を経た金属材の強度が向上していることからみて、アルミニウムが焼き入れ性(焼き入れ後の強度)を低下させるものであるとしても、「プレス加工によっても必要な強度を付与することができると共に、遅れ破壊やスプリングバックといった問題を生じない車輌用衝突補強材の製造方法を提供する」との本件発明の目的が、必ずしも、「アルミニウムを含有しない」ことにつながるとは言えない。 (ニ)本件特許明細書には、アルミニウムについてまったく言及されていない。 したがって、特許権者の上記主張は採用できない。 4.むすび 以上のとおりであるから、訂正事項1についての新規事項の有無以外の他の訂正要件について検討するまでもなく、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。 第3.特許異議の申立てについて 1.本件発明 上記訂正は認められないから、本件特許の請求項1〜4に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】引張強度が500〜600MPaの範囲内にある高張力鋼であって、0.18〜0.25wt%の炭素、0.15〜0.35wt%の珪素、1.15〜1.40wt%のマンガン、0.15〜0.25wt%のクロムおよび0.01〜0.03wt%のチタンを少なくとも含有してなる鉄系材料からなる板材である金属材を、摂氏850度以上であってその金属材の融点未満の温度に加熱する加熱工程と、 摂氏850度以上の高温状態にある金属材に対し、所望形状を付与すべく相対的に低温のプレス型を用いてプレス加工を施すプレス工程と を備えてなることを特徴とする車輌用衝突補強材の製造方法。(以下、「本件発明1」という。) 【請求項2】前記加熱工程における金属材の加熱温度が摂氏850〜1050度であることを特徴とする請求項1に記載の車輌用衝突補強材の製造方法。(以下、「本件発明2」という。) 【請求項3】前記車輌用衝突補強材はドアインパクトビームであり、前記プレス工程では、ドアインパクトビームの本体部とブラケット部とを一体化した形状が前記金属材に対し付与されることを特徴とする請求項1又は2に記載の車輌用衝突補強材の製造方法。(以下、「本件発明3」という。) 【請求項4】前記車輌用衝突補強材はセンターピラー部材であり、 そのセンターピラー部材の一部に強度調節のためのブランキングを施すブランキング工程を更に備えてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の車輌用衝突補強材の製造方法。(以下、「本件発明4」という。) 2.刊行物記載の発明及び周知技術 当審が平成16年8月9日付けで通知した取消しの理由に引用され、本件特許出願の優先権主張の日前に国内又は外国で頒布された刊行物である刊行物1(英国特許第1490535号明細書:申立人三井加奈子の提出した甲第1号証、申立人内田泰史の提出した甲第1号証、申立人松村陽一の提出した甲第1号証)、刊行物2(米国特許第5916389号明細書:申立人三井加奈子の提出した甲第3号証、申立人内田泰史の提出した甲第2号証、申立人松村陽一の提出した甲第2号証)、刊行物3(特開平8-216684号公報:申立人三井加奈子の提出した甲第2号証)、刊行物4(特開平4-260815号公報:申立人内田泰史の提出した甲第3号証)、刊行物5(特開2000-177631号公報:申立人三井加奈子の提出した甲第5号証)及び刊行物6(特開平7-61368号公報:申立人内田泰史の提出した甲第4号証)には、以下の事項が記載されている。 (1)刊行物1 (イ)第1頁23行〜34行 「本発明は、硬化した鋼製品を製造する方法を提供し、かかる方法において、硬化性鋼のブランクが硬化温度まで加熱された後に、かなりの変形と同時に急速な冷却を受けることによりブランクが所望する最終形状に成形される成形装置に載置されるため、ブランクを成形装置に残したままで、マルテンサイトおよび/またはベイナイト構造が得られ、ブランクのひずみを防止するためのゲージとして機能する。」 (ロ)第1頁40行〜70行 「出発原料として使用される鋼は、ホウ素合金炭素鋼または炭素マンガン鋼であることが望ましい。焼戻し工程を不要にできる所望の硬度と靱性の組み合わせを得るには、重量で0.4%未満の炭素と、鋼生産方法に左右されるが全体から見て重要ではない量のケイ素と、0.5〜2.0%のマンガンと、最高0.05%のリンおよび最高0.05%の硫黄と、0.1〜0.5%のクロムおよび/または0.05〜0.5%のモリブデンと、0.1%までのチタンと、0.0005〜0.01%までのホウ素と、合計で0.1%までのアルミニウムと、おそらくは重要ではない少量の銅およびニッケル(おそらくは含有量がそれぞれ0.2%まで)とを含有する鋼が使用される。 鋼は、0.25%以下(望ましくは0.15〜0.25%)の炭素と、鋼生産方法に左右されるが全体から見て重要ではない量のケイ素と、0.5〜1.5%(望ましくは0.7〜1.5%)のマンガンと、最高0.03%のリンおよび細工0.04%の硫黄と、0.1〜0.3%のクロムおよび/または0.05〜0.5%のモリブデンと、0.02〜0.1%(望ましくは0.02〜0.05%)のチタンと、0.0005〜0.007%(望ましくは0.0005〜0.005%)のホウ素と、0.03〜0.1%(望ましくは0.03〜0.07%)のアルミニウムと、おそらくは重要ではない少量の銅およびニッケル(おそらくは含有量がそれぞれ0.2%まで)とを含有することが望ましい。」 (ハ)第1頁71行〜75行 「鋼は、硬化温度まで、つまり鋼がオーステナイト状態となるAc3を上回る温度まで加熱される。鋼は、775℃と1000℃との間の温度まで加熱されることが望ましい。」 (ニ)第1頁76行〜79行 「成形作業は、プレス作業であることが望ましい・・・。」 (ホ)第2頁11行〜27行 「成形および冷却作業は、微粒子状の、マルテンサイトおよび/またはベイナイト構造が得られるように、急速に実施されることが理想的である。必要な急速性は、鋼の分析に、つまり連続冷却変態グラフ(CCTグラフ)によって異なる。急速冷却は、プレスされたブランクを成形装置に残したまま、変形が完了した後も継続することが望ましい。プレス品の冷却は、成形装置の一部を冷却することにより間接的に、および/またはプレスされたブランクを何らかの冷却媒体と直接に接触させることにより直接的に実施される。単数または複数の工具は冷却作業中にゲージとして機能するため、得られた最終製品は高い寸法精度を持つ。」 (ヘ)第2頁28行〜43行 「好適な鋼を使用することにより、強度の高い肉薄のベアリングシートまたはシェル構造を製造することが可能である。高い強度と優れた靱性とを兼備することにより、エネルギー吸収(つまり衝撃吸収)細部構造の製造も可能となる。硬化された(焼戻しされていない)シート構造は、特に輸送車両において衝突時の衝撃を吸収することが期待できる部分に使用されることを対象としており、主としてバンパ用に、また、他のボデー細部構造に使用されることを対象としている。大きな衝撃にさらされる、またはさらされる危険のある車両部分は、上に明記された好適な鋼を用いることで、本発明により有利に製造するべきであると概して言うことができる。」 (ト)第2頁90行〜第3頁9行 「実施例 表1は、本発明により硬化品に成形された、様々な壁厚を持つ6種類の異なる鋼の分析結果を強度値と硬度により示すものである。以下の値を機械的性質の指針値として最終的に提示することができる。 熱間圧延または冷間圧延および焼なまし状態 ・・・δBkp/mm2・・・ 50〜60 (・・・δB=極限引張強さ・・・) 硬化状態:以下の指針値は、寸法と硬化媒体とに若干基づいて得られる。 ・・・δBkp/mm2・・・ 150〜170」 (チ)表1の様々な壁厚を持つ6種類の異なる鋼の分析結果から、 「炭素含有量が0.19〜0.24%、珪素含有量が0.23〜0.39%、マンガン含有量が0.77〜0.95%、リン含有量が0.016〜0.030%、硫黄含有量が0.016〜0.024%、クロム含有量が0.154〜0.207%、チタン含有量が0.030〜0.043%、ホウ素含有量が0.0029〜0.0050%、アルミニウム含有量が0.040〜0.139%である」ことが看取できる。 以上の記載事項からみて、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。 「熱間圧延または冷間圧延および焼なまし状態では極限引張強度が50〜60kp/mm2(当審注:491〜589MPa)の鋼であって、0.45wt%未満(望ましくは0.15〜0.25wt%、実施例では0.19〜0.24wt%)の炭素、ごく少量(実施例では0.23〜0.39wt%)の珪素、0.5〜2.0wt%(望ましくは0.7〜1.5wt%、実施例では0.77〜0.95wt%)のマンガン、0.1〜0.5wt%(望ましくは0.1〜0.3wt%、実施例では0.154〜0.207wt%)のクロム、0.1wt%以下(望ましくは0.02〜0.05wt%、実施例では0.030〜0.043wt%)のチタン、0.05wt%以下(望ましくは0.03wt%以下、実施例では0.016〜0.030wt%)のリン、0.05wt%以下(望ましくは0.04wt%以下、実施例では0.016〜0.024)のイオウ、0.05〜0.5wt%のモリブデン、0.0005〜0.01wt%(望ましくは0.0005〜0.005wt%、実施例では0.0029〜0.0050wt%)のホウ素、0.1wt%以下(望ましくは0.03〜0.07wt%、実施例では0.040〜0.139wt%)のアルミニウム、0.2wt%までの銅及びニッケルを含有してなる肉薄の鋼材を、摂氏775〜1000度に加熱する加熱工程と、 摂氏775〜1000度の高温状態にある鋼材に対し、実質的な変形及び同時的な急速冷却を受けるプレス加工を施すプレス工程とを備えてなる 硬化状態で極限引張強度が150〜170kp/mm2(当審注:1472〜1668MPa)の車輌用衝突補強材の製造方法。」 (2)周知技術1 (2-1)刊行物2の第2欄26〜47行 「図1に図示された薄鋼板の完成品11は、・・・製品11は例えば自動車ドアのセーフティバーであってもよい。 図2には、プレス成形機の一対の冷却工具(16,17)の対応部分に製品11の一部がクランプされた状態が図示されている。サイズ通りに切断された平坦な板はAC3つまりオーステナイト範囲を越える温度まで、炉で加熱される。加熱された板は、一対の工具16,17の間で移動し、工具16,17は板をクランプして急速成型作業で板を成型する。成型は、成型作業中に鋼が硬化しないように、急速に行われるべきである。・・・GB-1490535-Aに記載されるように、冷却は鋼が適当なマルテンサイト構造を持つように急速であるべきで、鋼の分析、構造、組成は望ましくは上記文献に記すようなものであるべきである。」 (2-2)刊行物3 (イ)段落【0013】 「・・・図1の(A)に示すように、本発明によるガードビーム1は薄鋼板から打抜きなどによって切り出されたブランク材を後述するようにして成形加工するだけで得られるものである。成形加工により仕上げられたガードビーム1はその両端部に末広がりの形状をなすパーム部2を有し、パーム部2間のビーム部3はその断面が(B)および(C)に示すように折曲げ加工されている。」 (ロ)段落【0016】〜【0018】 「【0016】ついで、図2に従い、図1に示したようなガードビーム1の成形手順の一例について説明する。 【0017】まず、図2の(A)に示すように第1雄型7A,第1雌型7Bの間にガードビーム1全体を展開した形状のブランク材を位置決めして、これを中心線100対称のコの字型1Aにプレス加工する。次にこの加工材1Aを(B)に示すように第2雄型7Cおよび第2雌型7DによりほぼW次型1Bにプレス加工する。(C),(D)および(E)は続いて行う曲げ工程であり、(C)の曲げ工程で、まず、押し型7Eにより(A)の工程で得られた湾曲部1AAの折曲角を更に鋭角とすべく押し曲げ加工した上、(D)の曲げ工程で押し型7Fを用いて支柱板部4となる両端部を内側に押込むようにする。(E)の曲げ工程は平板型7Gと押し型7Hとにより更に支柱板部4となる両端部をほぼ対峙すると形状する最終曲げ工程である。 【0018】かくして(A)〜(E)の工程を経て得られた加工材1Cを(F)のプレス工程で仕上げ状態のビーム部3断面に仕上げるもので、・・・」 (ハ)段落【0021】 「なお、両側のパーム部2をドアのインナーパネル31等に取付けるにあったては、従来のようにパーム部端部2Aとインナーパネル31とを複数のスポットウエルドで溶着するか、あるいは、パーム部2に設けたボルト孔2Bを利用してインナーパネル31にボルト締めするか更には双方を併用することも可能である。」 (2-3)刊行物4の段落【0013】 「図1(A)に示される如く、このフロントサイドドア用インパクトビーム20は、一枚の平板状の高張力鋼板からなる帯金をプレス加工して形成したものであって、円形断面とされた管状のビーム部22と、このビーム部22の長手方向両端部に形成された平板状のブラケツト部24、26とで構成されている。・・・」 上記(2-1)〜(2-3)の記載事項及び刊行物2〜4の図面の記載からみて、本件特許出願の優先権主張の日前に、車両用衝突補強材の技術分野において、次の技術(以下、「周知技術1」という。)が周知であったと認められる。 「プレス工程で、ドアインパクトビームの本体部とブラケット部とを一体化した形状が金属材に対し付与されること。」 (3)周知技術2 (3-1)刊行物5 (イ)段落【0031】 「一方センタピラー20は、センタピラーアウタ21、センタピラーインナ25及びリンフォースセンタピラー26を有している。」 (ロ)段落【0055】 「更に、リンフォースセンタピラー26には、組付けた状態でサイドシルアウタ11に形成されたセンタピラー結合部15の上端縁15a近傍の前面部28及び後面部29、即ち上記第1実施の形態の切欠部31に対応する部位に各々強度調整用の孔部32を穿設することによって断面形状が急激に変化して剛性が急激に変化する脆弱部Aが形成され、この孔部32は、上下方向に長い長孔に形成されている。」 (3-2)刊行物6の段落【0018】 「センタピラーインナパネル29に設けられた開口39(図3参照)は、センタピラアウタパネル27に装着される図示省略のヒンジの取付作業孔である。41は軽減孔のように、重量軽減とともに脆弱性を助長するための孔であり、センタピラーアウタパネル27,同インナパネル29のいずれに、あるいは両方に、脆弱部P1,P2のいずれにもあるいはどちらにも設けたり、設けなかったりするものである。」 上記(3-1)〜(3-2)の記載事項及び刊行物5、6の図面の記載からみて、本件特許出願の優先権主張の日前に、車両用衝突補強材の技術分野において、次の技術(以下、「周知技術2」という。)が周知であったと認められる。 「センターピラー部材の一部に強度調節のためのブランキングを施すブランキング工程を備えること。」 3.本件発明1について 本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「熱間圧延または冷間圧延および焼なまし状態では極限引張強度が50〜60kp/mm2(当審注:491〜589MPa)の鋼」は、成形にかける前の粗材の状態の鋼であり、また、その引張強度からみて高張力鋼と言い得るものであるから、前者の「引張強度が500〜600MPaの範囲内にある高張力鋼」に相当する。 後者の「0.45wt%未満(望ましくは0.15〜0.25wt%、実施例では0.19〜0.24wt%)の炭素、ごく少量(実施例では0.23〜0.39wt%)の珪素、0.5〜2.0wt%(望ましくは0.7〜1.5wt%、実施例では0.77〜0.95wt%)のマンガン、0.1〜0.5wt%(望ましくは0.1〜0.3wt%、実施例では0.154〜0.207wt%)のクロム、0.1wt%以下(望ましくは0.02〜0.05wt%、実施例では0.030〜0.043wt%)のチタン、0.05wt%以下(望ましくは0.03wt%以下、実施例では0.016〜0.030wt%)のリン、0.05wt%以下(望ましくは0.04wt%以下、実施例では0.016〜0.024)のイオウ、0.05〜0.5wt%のモリブデン、0.0005〜0.01wt%(望ましくは0.0005〜0.005wt%、実施例では0.0029〜0.0050wt%)のホウ素、0.1wt%以下(望ましくは0.03〜0.07wt%、実施例では0.040〜0.139wt%)のアルミニウム、0.2wt%までの銅及びニッケルを含有してなる肉薄の鋼材」は、含有元素の種類及び含有量が共通することから、前者の「0.18〜0.25wt%の炭素、0.15〜0.35wt%の珪素、1.15〜1.40wt%のマンガン、0.15〜0.25wt%のクロムおよび0.01〜0.03wt%のチタンを少なくとも含有してなる鉄系材料からなる板材である金属材」に相当する。 そして、後者の「摂氏775〜1000度に加熱する加熱工程」が前者の「摂氏850度以上であってその金属材の融点未満の温度に加熱する加熱工程」に、後者の「摂氏775〜1000度の高温状態にある鋼材に対し、実質的な変形及び同時的な急速冷却を受けるプレス加工を施すプレス工程」が前者の「摂氏850度以上の高温状態にある金属材に対し、所望形状を付与すべく相対的に低温のプレス型を用いてプレス加工を施すプレス工程」に、それぞれ相当することは明らかである。 そうすると、刊行物1記載の発明は、本件発明1の発明特定事項をことごとく備えており、したがって、本件発明1は刊行物1記載の発明である。 なお、この点に関し、特許権者は、上記「第2.3.」のなお書きの項で示すように、本件発明1は、鉄系材料が実質上アルミニウムを含有しないのに対して、刊行物1記載の発明は、鉄系材料がアルミニウムを含有する点で相違する旨主張する。 特許権者の上記主張を、仮に認めるとしても、アルミニウムは、特許権者も認めるように(平成17年1月31日付け意見書第5頁4行〜5行)、焼き入れ後の強度を低下させることからみて、鉄系材料からなる金属材に、加熱工程と、実質的な変形及び同時的な急速冷却を受けるプレス加工を施すプレス工程すなわち焼き入れを兼ねたプレス工程とを施して、高い強度と優れた靱性とを兼備させようとする刊行物1記載の発明において、鉄系材料として、焼き入れ後の強度低下の原因となり得るアルミニウムを含有しないものとすることは、当業者が容易になし得ることと言うべきである。そうすると、本件発明1は、刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると言わざるを得ない。 4.本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項に加えて、「加熱工程における金属材の加熱温度が摂氏850〜1050度であること」を、その発明特定事項とするものである。 ところで、刊行物1記載の発明は、加熱工程における加熱温度を「摂氏775〜1000度」とするものであり、本件発明2の上記追加された発明特定事項を具備する。 そうすると、本件発明2も刊行物1記載の発明である。 また、上記3.のなお書きは、本件発明2についても適用されることは言うまでもない。 5.本件発明3について 本件発明3は、本件発明1又は2の発明特定事項に加えて、「車輌用衝突補強材はドアインパクトビームであり、プレス工程では、ドアインパクトビームの本体部とブラケット部とを一体化した形状が金属材に対し付与されること」を、その発明特定事項とするものである。 ところで、「プレス工程で、ドアインパクトビームの本体部とブラケット部とを一体化した形状が金属材に対し付与されること」は、上記2.(2)の「周知技術1」の項に示したように、本件出願の優先権主張の日前に周知の技術である。 そうすると、刊行物1記載の発明において、車輌用衝突補強材をその一種であるドアインパクトビームとすること、また、その際に上記周知技術1を適用して、本件発明3とすることは、当業者が容易になし得ることである。 そして、本件発明3の作用効果は、刊行物1記載の発明及び上記周知技術1から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。 したがって、本件発明3は、刊行物1記載の発明及び上記周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.本件発明4について 本件発明4は、本件発明1又は2の発明特定事項に加えて、「車輌用衝突補強材はセンターピラー部材であり、そのセンターピラー部材の一部に強度調節のためのブランキングを施すブランキング工程を更に備えてなること」を、その発明特定事項とするものである。 ところで、「センターピラー部材の一部に強度調節のためのブランキングを施すブランキング工程を備えること」は、上記2.(3)の「周知技術2」の項に示したように、本件出願の優先権主張の日前に周知の技術である。 そうすると、刊行物1記載の発明において、車輌用衝突補強材をその一種であるセンターピラー部材とすること、また、その際に上記周知技術2を適用して、本件発明4とすることは、当業者が容易になし得ることである。 そして、本件発明4の作用効果は、刊行物1記載の発明及び上記周知技術2から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。 したがって、本件発明4は、刊行物1記載の発明及び上記周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 7.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1、2についての特許は、特許法第29条第1項第3号(又は同条第2項)の規定に違反してなされたものであり、また、本件発明3、4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、いずれの特許も特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2005-06-21 |
出願番号 | 特願2000-318197(P2000-318197) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZB
(B21D)
P 1 651・ 113- ZB (B21D) P 1 651・ 841- ZB (B21D) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 小松 竜一 |
特許庁審判長 |
西川 恵雄 |
特許庁審判官 |
鈴木 孝幸 岡野 卓也 |
登録日 | 2003-01-17 |
登録番号 | 特許第3389562号(P3389562) |
権利者 | アイシン高丘株式会社 |
発明の名称 | 車輌用衝突補強材の製造方法 |
代理人 | 加藤 朝道 |
代理人 | 服部 素明 |