ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 判定 権利のもの 属さない(申立て成立) A61G |
---|---|
管理番号 | 1139400 |
判定請求番号 | 判定2006-60004 |
総通号数 | 80 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2001-06-05 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2006-02-01 |
確定日 | 2006-07-04 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3559211号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「車椅子」は、特許第3559211号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
1.請求の趣旨 本件判定請求の趣旨は,イ号図面及びその説明書に示されるリクライニング車椅子が,特許第3559211号に係る特許発明(以下,「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない,との判定を求めるものである。 2.本件特許発明 本件特許発明は,特許明細書の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり,発明特定事項ごとに分説すると,次のとおりのものである。 A 本体フレームと, B 該本体フレームに取り付けられたシートフレームとを備えており, C 該シートフレームが着座部と背座部とを有しており, D 上記着座部がその中間部から前の前部着座部と中間部から後の後部着座部とからなり, E 後部着座部が背座部と一体で,側面視で前部着座部と同一方向に延びる状態から,前部着座部に対して下方に傾動しうるように構成されてなる車椅子。 3.イ号物件 これに対し,イ号図面及びその説明書に示されるリクライニング車椅子 (以下,「イ号物件」という。)の構成は,分説すると,次のとおりのものと認める。 a 本体フレームと, b 該本体フレームに取り付けられたシートフレームとを備えており, c 該シートフレームが着座部と背座部とを有しており, d 上記着座部がその中間部から前の前部着座部と中間部から後の後部着座部とからなり, e 後部着座部が,背座部に対して傾動しうるようにヒンジ結合されるとともに背座部の下端がスライドレールに支持され,側面視で前部着座部と同一方向に延びる状態から,前部着座部に対して下方に傾動しうるとともに,背座部も傾動し,背座部は傾動するに従って後部着座部と背座部の間の角度が大きくなるように構成されてなる車椅子。 4.対比・判断 (1)イ号物件の構成が本件特許発明の各構成要件を充足するか否かについて 本件特許発明とイ号物件を対比するに,イ号物件の構成要件aないしdは本件特許発明の発明特定事項AないしDと文言上一致するので,イ号物件は本件特許発明の発明特定事項AないしDを充足することは明らかである。 次に,イ号物件の構成要件eが本件特許発明の発明特定事項Eを充足するかについて検討する。 まず,本件特許発明の発明特定事項Eは,後部着座部が「背座部と一体 で」傾動しうることを発明特定事項の一部としており,その技術的意義について検討する。 本件特許明細書(甲第1号証)の発明の詳細な説明及び図面には,次の事項が記載されている。 ア.「従来の車椅子51では背座フレーム56のみを後方に傾倒させるリクライニング型式である。したがって,自己の姿勢を自力で保持することが困難な使用者にとっては,背座フレーム56を後方に傾倒させると身体がシート上を前方に(足の方向に)滑ってしまう場合がある。また,通常の使用者であっても身体とシート面との摩擦が少なければ滑ってしまう。」(段落【0005】) イ.「本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり,リクライン(後方に傾倒)したときでも使用者の身体が前方に滑りにくく,身体を安定させ得るリクライニング式の車椅子を提供することを目的としている。また,リクラインさせない状態でも使用者の身体を比較的安定した状態に保てる車椅子を提供することを目的としている。(段落【0007】) ウ.「使用者の姿勢を,股関節を境にした上半身と下半身との角度を変えてリクライニングすることができる。その際,後部着座部から背座部とともに後方に傾斜することができる。したがって,使用者の臀部が傾斜した後部着座部にうまく落ち込むので,上半身と下半身との角度が拡大しても身体が前方に滑り出ることが防止される。」(段落【0009】) エ.「着座部6は前部着座部6aと後部着座部6bとから構成され,後部着座部6bは前部着座部6aに対してボルト止めやピン止め(図2中,符号Pで示す)によって複数段に傾斜させられるようにされている(図2中,矢印Bで示す)。本実施形態では三段に傾斜せられる。すなわち,背座部7の角度変更は着座部6の中間部からなされることになる。」(段落【001 7】) オ.「上記構成により,背座部7と後部着座部6bとが一体で後方に傾斜させられるので,使用者は股関節を境にして上半身と下半身との角度を変えることができる。しかも,前部着座部6aは動かないので,使用者はその臀部が後部着座部6bと背座部7とのつなぎ目に落ち込み,身体が前方に滑ってしまうことがない。」(段落【0018】) カ.「背座部7は上記後部着座部6bに対して前方に折りたたまれる(図2中,矢印Cで示す)ように,後部着座部6bの後端近傍のブラケット10に枢支されている。このブラケット10には背座部7を後部着座部6bに対してほぼ直角となる使用位置に固定するロックバー11が配設されている。」(段落【0019】) キ.図2には,後部着座部6bと背座部7が一体で後方に傾動する際,それぞれがともに矢印Bで示す角度だけ傾動することが図示されている。 上記記載事項ア.ないしオ.によれば,本件特許発明は,着座部6を前部着座部6aと後部着座部6bに分け,前部着座部6aを固定し,後部着座部6bと背座部7とを一体で後方に傾斜させることで,リクラインの際にたとえ使用者の上半身と下半身との角度(背座部7と前部着座部6aとの角度)が大きくなったとしても,使用者の身体が前方に滑り出ることを防止するというものである。 そして,上記記載事項エ.及びオ.によれば,後部着座部6bと背座部7とを一体で後方に傾斜させるために,「背座部7の角度変更は着座部6の中間部からなされる」としており,このことから明らかなように,背座部7の角度変更は,前部着座部6aに対する後部着座部6bの傾動によりなされるものであり,後部着座部6bに対する背座部7の傾動によりなされるものと云うことはできない。また,本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面のその他の記載等をみても,リクラインの際に後部着座部6bが背座部7に対して傾動し得ることについての開示は一切ない。 さらに,上記記載事項カ.の「ブラケット10には背座部7を後部着座部6bに対してほぼ直角となる使用位置に固定するロックバー11が配設されている」こと,上記図示事項キ.の「後部着座部6bと背座部7が一体で後方に傾斜する際,それぞれがともに矢印Bで示す角度だけ傾動すること」からみても,後部着座部6bと背座部7とは固定された状態で傾動するものであることは明らかである。 してみれば,本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の全体からみ て,後部着座部が「背座部と一体で」傾動しうることの技術的意義は,後部着座部6bと背座部7とが固定された状態で傾動しうることにあることは明らかである。 一方,イ号物件の構成要件eにおいては,後部着座部が,背座部に対して傾動しうるようにヒンジ結合されるとともに背座部の下端がスライドレールに支持され,側面視で前部着座部と同一方向に延びる状態から,前部着座部に対して下方に傾動しうるとともに,背座部も傾動し,背座部は傾動するに従って後部着座部と背座部の間の角度が大きくなるように構成されているから,後部着座部が前部着座部に対して下方に傾動する際に後部着座部と背座部が固定された状態であるとはいえない。 したがって,イ号物件の構成要件eは本件特許発明の発明特定事項Eを充足しない。 (2)上記相違点に係る部分が均等であるか否かについて 上記相違点に係る本件発明の発明特定事項Eとイ号物件の構成要件eとの置換容易性(第3の要件)について,さらに検討する(最高裁平成6年 (オ)第1083号(平成10年2月24日判決言渡)・民集52巻1号113頁参照)。 被請求人が請求人に対し送付した平成17年10月14日付け通知書(甲第3号証)には,「貴社商品の製造販売の中止」「貴社カタログ「NEW LINEUP NEWS 2005-2006」」との記載,平成17年12月16日付け回答書(甲第5号証)には「貴社がご指摘の車椅子につきましては展示したのみで,未だ1台も販売を致しておりません。」との記載があることから,平成17年10月14日以前に請求人はイ号物件の展示等の実施をしたものと推認される。 前部座部と後部座部とが傾動し得る車椅子において,イ号物件の構成要件eの「後部着座部が,背座部に対して傾動しうるようにヒンジ結合されるとともに背座部の下端がスライドレールに支持され,側面視で前部着座部と同一方向に延びる状態から,前部着座部に対して下方に傾動しうるとともに,背座部も傾動し,背座部は傾動するに従って後部着座部と背座部の間の角度が大きくなるように」することは,本判定手続きにおいて提出された技術水準に係る全証拠(本件特許発明に係わる先行技術として請求人が提出した特表平5-508331号公報(甲第7号証),特開平8-257061号公報(甲第8号証),特開昭64-85649号公報(甲第9号証))からみて,イ号物件の実施の時点(平成17年10月14日以前)で公知の技術であったとは云えないので,上記相違点に係る本件特許発明の発明特定事項Eをイ号物件の構成要件eと置き換えることは,当業者が容易に想到し得えたことではない。 したがって,その他の要件を判断するまでもなく,上記相違点に係る部分は均等であるとは云えない。 5.むすび 以上のとおりであるから,イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2006-06-22 |
出願番号 | 特願平11-337862 |
審決分類 |
P
1
2・
081-
ZA
(A61G)
|
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
阿部 寛 |
特許庁審判官 |
北川 清伸 芦原 康裕 |
登録日 | 2004-05-28 |
登録番号 | 特許第3559211号(P3559211) |
発明の名称 | 車椅子 |
代理人 | 中村 繁元 |
代理人 | 西尾 務 |
代理人 | 廣江 武典 |
代理人 | 高荒 新一 |
代理人 | 西谷 俊男 |
代理人 | 角田 嘉宏 |
代理人 | 古川 安航 |
代理人 | 武川 隆宣 |