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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A22C
管理番号 1139892
審判番号 無効2005-80267  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-04-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-09-06 
確定日 2006-05-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3650095号発明「スープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3650095号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第3650095号に係る発明についての出願は、平成14年10月2日に特許出願されたものであって、平成17年2月25日にその発明について特許の設定登録がなされた。
これに対し、平成17年9月6日に請求人有限会社丸善マテリアル本舗より無効審判の請求がなされ、平成17年11月29日に被請求人株式会社直江津油脂より答弁書の提出とともに訂正請求がなされ、その後平成17年12月28日に請求人より弁駁書が提出された。そして、被請求人が訂正請求を行ったことに起因して、審判請求書が上記弁駁書により実質的に補正されたので、平成18年2月15日に被請求人より再度の答弁書(第2回)の提出がなされた。なお、平成17年11月29日付け訂正請求書は、平成18年3月9日付け手続補正書により補正された。

2 訂正請求について
2-1 訂正請求の内容
本件訂正請求の趣旨は、平成18年3月9日付け手続補正書で補正された平成17年11月29日付け訂正請求における特許第3650095号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、訂正事項は以下のとおりである。

2-1-1 訂正事項a
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の【請求項1】に記載の
「豚骨,鶏ガラなどの動物骨材を脱血処理した後凍結処理し、この凍結処理した動物骨材を圧縮処理して塊状体とし、この塊状体を通水性を有する素材で形成した収納体に収納することを特徴とするスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法。」を
「豚骨,鶏ガラなどの動物骨材を脱血処理した後、動物骨材の骨髄成分が凍結するように凍結処理し、この凍結処理した動物骨材を圧縮処理して塊状体とし、この塊状体を、持ち運び用の紐体を付設した収納体であって、不しょく布で形成することで通水性を有し且つ塊状体から発生するあくを漏出させない収納体に収納することを特徴とするスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法。」
と訂正する。
2-1-2 訂正事項b
願書に添付した明細書の段落番号【0013】に記載の
「豚骨,鶏ガラなどの動物骨材1を脱血処理した後凍結処理し、この凍結処理した動物骨材1を圧縮処理して塊状体2とし、この塊状体2を通水性を有する素材で形成した収納体3に収納することを特徴とするスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法に係るものである。」を
「豚骨,鶏ガラなどの動物骨材1を脱血処理した後、動物骨材1の骨髄成分が凍結するように凍結処理し、この凍結処理した動物骨材1を圧縮処理して塊状体2とし、この塊状体2を、持ち運び用の紐体3Bを付設した収納体3であって、不しょく布で形成することで通水性を有し且つ塊状体2から発生するあくを漏出させない収納体3に収納することを特徴とするスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法に係るものである。」
と訂正する。
2-1-3 訂正事項c
願書に添付した明細書の段落番号【0052】に記載の
「【発明の効果】
本発明は上述のようにするから、豚骨や鶏ガラを予め脱血処理することで非常に衛生的であり、また、豚骨や鶏ガラなどの動物骨材を凍結処理した後圧縮処理することで、この動物骨材から骨髄などのだしの素となる成分を飛び散らせることなく圧縮処理して簡単にコンパクトな塊状体にすることができ、これにより、保管性,運搬性に秀れ、よって、保管コスト,運搬コストを安く抑えることができ、更に、圧縮処理の際に動物骨材に無数のひびを形成できることで、従来に比して効率良くだしを取ることができ、しかもだしを取った後に寸胴等から動物骨材を手を汚すことなく一気に全て取り除くこともできる実用性,作業性に秀れた画期的なスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法となる。」を、
「【発明の効果】
本発明は上述のようにするから、豚骨や鶏ガラを予め脱血処理することで非常に衛生的であり、また、豚骨や鶏ガラなどの動物骨材を凍結処理した後圧縮処理することで、この動物骨材から骨髄などのだしの素となる成分を飛び散らせることなく圧縮処理して簡単にコンパクトな塊状体にすることができ、これにより、保管性,運搬性に秀れ、よって、保管コスト,運搬コストを安く抑えることができ、更に、圧縮処理の際に動物骨材に無数のひびを形成できることで、従来に比して効率良くだしを取ることができ、しかもだしを取った後に寸胴等から動物骨材を手を汚すことなく一気に全て取り除くこともでき、その上、不しょく布で収納体を構成したから、収納体内に収納した塊状体から発生するあくを収納体内にとどめておくことができ、スープを作る際に煩わしい作業とされるあくを取る作業を省くことができる実用性,作業性に秀れた画期的なスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法となる。」に訂正する。

2-2 訂正の目的の存否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
2-2-1 訂正事項aに関して
訂正事項aは、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された、ア)「豚骨,鶏ガラなどの動物骨材を脱血処理した後凍結処理し」を「豚骨,鶏ガラなどの動物骨材を脱血処理した後、動物骨材の骨髄成分が凍結するように凍結処理し」と限定し、イ)「この塊状体を通水性を有する素材で形成した収納体に収納する」を「この塊状体を、持ち運び用の紐体を付設した収納体であって、不しょく布で形成することで通水性を有し且つ塊状体から発生するあくを漏出させない収納体に収納する」と限定するものであり、それぞれ特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項aのア)「豚骨,鶏ガラなどの動物骨材を脱血処理した後、動物骨材の骨髄成分が凍結するように凍結処理し」については、願書に添付した明細書の段落番号【0032】に記載されており、訂正事項aのイ)「この塊状体を、持ち運び用の紐体を付設した収納体であって、不しょく布で形成することで通水性を有し且つ塊状体から発生するあくを漏出させない収納体に収納する」については、願書に添付した明細書の段落番号【0037】、【0038】及び【0039】に記載されており、それぞれ願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
2-2-2 訂正事項b、cに関して
訂正事項b、cは、訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正内容と明細書における詳細な説明における対応する箇所の記載を訂正するものであり、これは明りょうでない記載の釈明を目的としており、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

2-3 むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、本件訂正は、特許法第134条の2ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

3 本件特許発明
上記のとおり訂正は認められるので、本件特許3650095号の請求項1に係る発明は、その訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「豚骨,鶏ガラなどの動物骨材を脱血処理した後、動物骨材の骨髄成分が凍結するように凍結処理し、この凍結処理した動物骨材を圧縮処理して塊状体とし、この塊状体を、持ち運び用の紐体を付設した収納体であって、不しょく布で形成することで通水性を有し且つ塊状体から発生するあくを漏出させない収納体に収納することを特徴とするスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法。」(以下、「本件特許発明」という。)

4 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書において甲第1号証、甲第2号証を提出するとともに、弁駁書において、甲第4号証〜甲第7号証を提出して、本件特許発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されており、同法第123条第1項第2号によって無効とすべきである。
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:特許第3030177号公報
甲第2号証:特開平1-98462号公報
甲第4号証:平成17年3月22日に被請求人が提出した特願2003-10086号に係る手続補正書
甲第5号証:特許第2559256号公報
甲第6号証:登録実用新案第3069985号公報
甲第7号証:特開平5-41967号公報
なお、甲第3号証は特許第3650095号公報であって、本件特許公報である。

5 被請求人の主張
被請求人は、甲第1号証、甲第2号証並びに甲第5号証〜甲第7号証は、いずれも本件特許発明の構成要件の一部が開示されているにすぎず、本件特許発明の重要な作用・効果は全く達成できないので、請求人が主張する無効理由には理由がない。

6 当審の判断
6-1 引用文献記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(a)「豚、牛、鶏等のがらに、洗浄、脱血、凍結または焼成、計量の前処理を施し、これをプレスして砕くことで流出する骨髄液により所定の形状および大きさに固結成形された定量固結体を真空包装したことを特徴とする食品調味料。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(b)「【発明の属する技術分野】本発明は、ラーメン等各種食材のスープをとるのに用いる食品調味料、所謂ス一プ用がらパックに関する。」(段落番号【0001】)
(c)「…鶏骨、豚骨、豚足、牛骨等の動物のがらを、前処理として工場設備における釜等の沸騰している湯の中に所要時間浸け、骨髄内等に含まれている血を抜き取る。…」(段落番号【0016】)
(d)「脱血したがらを、例えば1トン、2トン等、大量に工場設備の冷蔵庫や冷凍庫に入れ、-25℃前後で凍結させる。」(段落番号【0017】)
(e)「このようにして計量した定量がら1を図1に例示した如く、プレス2の型2a内に入れ、例えば200気圧程度の油圧ポンプ(図示せず)によってプレスヘッド2bを型2aに下方から押し込み、定量がら1を徐々に加圧する。…」(段落番号【0019】)
(f)「所定の形状及び大きさに固結された定量固結体1bは、図2に示したように、ポリエチレン等の半透明フイルムや茶色のフイルム3により、公知の真空包装手段によって真空包装する。」(段落番号【0022】)
以上の記載を総合すると、甲第1号証には、
「鶏骨、豚骨、豚足、牛骨等の動物のがらの骨髄内等に含まれる血を抜き取り後、脱血したがらを-25℃前後で凍結させ、凍結された定量がらを加圧して所定の形状及び大きさに固結成形して定量固結体とし、この定量固結体を真空包装するスープ用の動物のがらの製造方法。」の発明が記載されているものと認める。
同じく、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(g)「畜骨、鶏骨、魚骨のうち一種または二種以上が混合された原料素材が小片に粉砕された状態で適宜の塊状に圧縮成型され、且つこの原料が透水性包装体で覆われて成る調理用だし素材。」(特許請求の範囲第1項)
(h)「本発明は中華料理、その他各種の料理を調理するにあたって用いられるだし素材並びにその製造方法に関するものである。」(第1頁右欄第4行〜第6行)
(i)「このように塊状に成型した原料素材A1は、例えばネット等の透水性包装体5によってその塊状を維持するように包装する。」(第3頁上左欄第14行〜第16行)
(j)「尚この通水性包装体5の上方には、だし取り途中において容易にだし素材Aを引き上げることができるように適宜吊り下げ紐等を一部引き出しておくことが望ましい。」(第3頁上右欄第1行〜第5行)
以上の記載を総合すると、甲第2号証には、「塊状に成型した鶏骨等のだしの原料素材を透水性包装体に収納し、この透水性包装体の上方に、だし取り途中において、だしの原料素材を引き上げることができる吊り下げ紐を設ける」技術的事項が記載されているものと認める。
同じく、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(k)「【産業上の利用分野】本発明は動物性スープダシに関し、特に下処理したスープ原料を粉砕して凍結した後、袋内に封入しておき、使用に際して血抜きやアク取り等の面倒といわれる作業を不要とする袋詰めスープダシに関するものである。」(段落番号【0001】)
(l)「…ダシ成分の抽出に伴って粉砕骨からアクや汚れ等も滲出するが、これらは不織布製の袋体内に封入されたままとなり、清汁(スープ)と一緒に袋体の外に滲出することがないので、良質なダシ成分のみを得ることができる。」(段落番号【0005】)
以上の記載を総合すると、甲第7号証には、「動物性スープダシに関し、下処理したスープ原料を粉砕して凍結した後、袋内に封入して、ダシの抽出に当たり、あくを不織布製の袋体内に封入されたままとする」技術的事項が記載されているものと認める。

6-2 対比・判断
本件特許発明と甲第1号証に記載の発明を対比する。
後者の「鶏骨、豚骨、豚足、牛骨等の動物のがらの骨髄内等に含まれる血を抜き取り後」は、前者の「豚骨,鶏ガラなどの動物骨材を脱血処理した後」に相当する。
また、後者の「定量固結体」は、加圧されて所定の形状及び大きさに固結成形されるので、前者の「塊状体」に相当することから、後者の「脱血したがらを-25℃前後で凍結させ、凍結された定量がらを加圧して所定の形状及び大きさに固結成形して定量固結体とし」は、前者の「この凍結処理した動物骨材を圧縮処理して塊状体とし」に相当する。さらに後者の「スープ用の動物のがらの製造方法」は、前者の「スープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法」に相当する。
してみると、両者は、本件特許発明の表記にならえば、
「豚骨,鶏ガラなどの動物骨材を脱血処理した後、凍結処理し、この凍結処理した動物骨材を圧縮処理して塊状体とするスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違している。
〈相違点1〉
凍結処理に関し、本件特許発明では、「動物骨材の骨髄成分が凍結するように凍結処理し」ているのに対し、甲第1号証に記載の発明では、動物骨材の骨髄成分が凍結するとの明記がない点。
〈相違点2〉
本件特許発明では、「塊状体を、持ち運び用の紐体を付設した収納体であって、不しょく布で形成することで通水性を有し且つ塊状体から発生するあくを漏出させない収納体に収納する」としているのに対し、甲第1号証に記載の発明では、塊状体を真空包装するのであって、本件特許発明のような構成を具備しない点。

6-3 相違点の検討
〈相違点1〉に対して
上記(c)及び(d)の記載によれば、骨髄を含む脱血したがらを、冷蔵庫、冷凍庫に入れて、-25℃前後で凍結させるのであるが、骨髄はだしの成分として重要であるので、その流れ出しを防止しなければならないことを考慮すると、前記がらの凍結に際し、骨髄をも凍結処理することは、当業者が容易に想到し得るものである。
そうすると、上記相違点1に係る事項は、格別なものではない。
なお、被請求人は、平成18年2月15日付け答弁書(第2回)において、甲第1号証に関して、「確かに、脱血したがらを-25℃前後で凍結させるという記載はあるが、この凍結によってがらの骨髄成分が凍結するか否かについては言及がない上に、がら全体を凍結処理するという記載すらもないことから、がらの表面だけを凍結させて凍結処理を完了させている可能性も否定できず、よって、本発明と同等の凍結処理がなされているとは断定できない。」(第4頁第15行〜第19行)と主張している。
しかしながら、上記した如く、甲第1号証に記載のものにおいて、骨髄をも凍結処理することは、当業者が容易に想到し得るものであるから、被請求人の上記主張は採用しない。
〈相違点2〉に対して
上気した如く、甲第2号証には「塊状に成型した鶏骨等のだしの原料素材を透水性包装体に収納し、この透水性包装体の上方に、だし取り途中において、だしの原料素材を引き上げることができる吊り下げ紐を設ける」技術的事項が記載されているものと認める。
ここで、甲第2号証に記載の「塊状に成型した鶏骨等のだしの原料素材」は、本件特許発明の「動物骨材を圧縮処理した塊状体」に相当する。そして、上記(j)の記載によれば、甲第2号証に記載の「吊り下げ紐」は、だし取り途中において容易にだし素材Aを引き上げることができるようなものであるから、持ち運び用の紐体とみることができるので、甲第2号証に記載の「吊り下げ紐を設けた包装体」は、上記相違点2に係る事項の「持ち運び用の紐体を付設した収納体」であるといえる。
また、上記した如く、甲第7号証には、「動物性スープダシに関し、下処理したスープ原料を粉砕して凍結した後、袋内に封入して、ダシの抽出に当たり、あくを不織布製の袋体内に封入されたままとする」技術的事項が記載されているものと認める。
ここで、甲第7号証に記載の「不織布製の袋体」はその袋体内にアクを封入するもので、しかも、動物性スープダシを抽出するのであるから、通水性を有することは明らかであるので、甲第7号証に記載の「不織布製の袋体」は、上記相違点2に係る事項の「不しょく布で形成することで通水性を有し且つ塊状体から発生するあくを収納する収納体」であるといえる。
してみると、上記相違点2に係る事項は、甲第2号証及び甲第7号証に示唆されているものと認める。
したがって、甲第1号証、第2号証及び甲第7号証に記載のものは、ともに動物性スープだしに関する技術であって、甲第1号証のものに甲第2号証及び甲第7号証に記載のものを適用することを妨げる特段の事情も見受けられない以上、甲第1号証に記載のものに甲第2号証及び甲第7号証に記載のものを適用して、上記相違点2に係る事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものと認める。
そして、本件特許発明の効果は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第7号証に記載されたものから、当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものとはいえない。
よって、本件特許発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明ができたものであると認める。

7 まとめ
以上により、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
スープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】豚骨,鶏ガラなどの動物骨材を脱血処理した後、動物骨材の骨髄成分が凍結するように凍結処理し、この凍結処理した動物骨材を圧縮処理して塊状体とし、この塊状体を、持ち運び用の紐体を付設した収納体であって、不しょく布で形成することで通水性を有し且つ塊状体から発生するあくを漏出させない収納体に収納することを特徴とするスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラーメンなどのスープのだしを取る際に使用するスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
例えば、ラーメンのスープのだしを取る場合には、だしを取る素材として豚骨や鶏ガラなどの動物骨材が主に使用されている。
【0003】
ところで、この動物骨材は形状や大きさが不揃いのため、非常にかさばる。
【0004】
そのため、この動物骨材を例えば冷凍庫で保管すると収納スペースをとってしまい、保管コストがかかってしまうという問題点がある。
【0005】
また、動物骨材をラーメン店などへ運搬する際にも、動物骨材がかさばるために運搬コストがかかってしまう問題点もある。
【0006】
また、スープを作った後は、動物骨材は寸胴の中でばらけてしまっているため、動物骨材を捨てる際に重い寸胴を持ち上げてひっくり返すなどして動物骨材を一気にゴミ箱に捨てるか、すくい取り用の網などを用いて寸胴から動物骨材を何回にも亙って一々すくい取って捨てなければならず、非常に手間がかかる問題点もある。
【0007】
また、本発明者が実験したところによると、豚骨や鶏ガラなどの動物骨材をプレス機で単に圧縮すると、動物骨材が圧力により砕け、この動物骨材内から骨髄などのだしの素となる成分が動物骨材外へ飛び散ってしまい、うまく塊状体にすることができず、また、だしを取るために必要な骨髄などの成分を動物骨材と共にうまくコンパクトな塊状体にすることができない。
【0008】
即ち、動物骨材を圧縮処理して塊状にするには、圧縮力を微妙に調整制御したり、長時間をかけたりする等様々な条件を揃える必要があり、非常に手間がかかる。
【0009】
従って、単に動物骨材を圧縮処理するプレス工程では簡単に塊状にすることはできない。また、前述したように、圧縮処理の際には動物骨材から骨髄などの成分が飛び散ってしまうことから、動物骨材をなんとか塊状にできたとしてもこの塊状体はだしを取るのに必要な骨髄などの成分をあまり含まない利用価値の低い塊状体となってしまうなどの問題点がある。
【0010】
更に、圧縮処理した際に骨髄などの成分が飛び散ることでプレス機が汚れてしまうため、圧縮処理を行う度にプレス機を小まめに洗浄して汚れを落とさなければならず、よって、非常に手間がかかり作業性に劣るという問題点もある。
【0011】
そこで、本発明は、上述の種々の問題点を解決するために鋭意研究,検討を重ねた末これを解決したもので、豚骨や鶏ガラを予め脱血処理することで非常に衛生的であり、また、圧縮処理の際、豚骨や鶏ガラなどの動物骨材をこの動物骨材に含まれる骨髄などのだしの素となる成分を飛び散らせることなく圧縮処理して簡単にコンパクトな塊状体にすることができ、これにより、保管性,運搬性に秀れ、よって、保管コスト,運搬コストを安く抑えることができ、更に、圧縮処理の際に動物骨材に無数のひびを形成できることで、従来に比して効率良くだしを取ることができ、しかも、だしを取った後に寸胴等から、動物骨材を手を汚すことなく一気に全て取り除くことができる実用性,作業性に秀れた画期的なスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法を提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0013】
豚骨,鶏ガラなどの動物骨材1を脱血処理した後、動物骨材1の骨髄成分が凍結するように凍結処理し、この凍結処理した動物骨材1を圧縮処理して塊状体2とし、この塊状体2を、持ち運び用の紐体3Bを付設した収納体3であって、不しょく布で形成することで通水性を有し且つ塊状体2から発生するあくを漏出させない収納体3に収納することを特徴とするスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法に係るものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
好適と考える本発明の実施の形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいてその作用効果を示して簡単に説明する。
【0015】
本発明は、豚骨,鶏ガラなどの動物骨材1を脱血処理した後凍結処理し、この凍結処理した動物骨材1を圧縮処理することで、動物骨材1をこの動物骨材1同志に隙間がほとんど生じない塊状体2にできることとなる。
【0016】
従って、動物骨材1を従来に比して非常にコンパクトな状態にできるため、動物骨材1を冷凍庫などに収納スペースをとることなく保管でき、よって、従来に比して保管コストを安く抑えられることになる。
【0017】
また、動物骨材1を塊状にコンパクト化したため、従来に比して運搬コストを安く抑えることができる。
【0018】
また、本発明は、前記動物骨材1を圧縮処理する前に凍結処理することで圧縮処理により動物骨材1に例えばひびが入ったりしても動物骨材1内の骨髄などの成分が動物骨材1外へ飛び散ったりすることがなく(これは前記凍結処理により動物骨材1内の骨髄などの成分が凍結するためと考えられる)、よって、動物骨材1を確実且つ簡単にコンパクトな塊状体2にできることとなる。
【0019】
また、圧縮処理の際に動物骨材1から骨髄などの成分が飛び散らないため、形成された塊状体2は骨髄などの成分も共に圧縮された利用価値の高い塊状体2となる。
【0020】
更に、動物骨材1を圧縮処理した際に動物骨材1から骨髄などの成分が飛び散らないため、従来のように動物骨材1などを圧縮処理するためのプレス機等が必要以上に汚れることがなく、これにより、圧縮処理する度にプレス機を小まめに洗浄する手間を省くことができ、よって、一層秀れた作業性を発揮できることとなる。
【0021】
また、凍結処理した動物骨材1は、骨髄などの成分が飛び散ることなく簡単に塊状体にできるため、既存のプレス機を用いて一層簡単に動物骨材1を塊状体2にできることとなる。
【0022】
また、この圧縮処理の際に、塊状体2を構成する動物骨材1には圧力によって無数のひびが形成され、これにより、だしを取る際にこの無数のひびからだしの素となる骨髄などの成分が染み出すため、だしを短時間で効率良く取れる塊状体2を形成できることとなる。
【0023】
即ち、従来は、だしを取る前に動物骨材1を一つ一つ叩くなどしてひびを入れたり割ったりし、だしを取り易くしていたが、前記圧縮処理により、この煩わしい作業を行う手間を省くことができる上、従来に比してより細かいひびをより多数形成できるため、一層秀れた作業性,実用性を発揮できることとなる。
【0024】
また、塊状体2を、通水性を有する素材で形成した収納体3に収納するため、この収納体3を寸胴などに入れて煮込むことでこの収納体3を介して塊状体2(動物骨材1)から染み出す骨髄などの成分によってだしを取ることができ、使用後は、寸胴から収納体3を取り除くことで動物骨材1を寸胴から一気に全て取り除くことができることとなる。
【0025】
これにより、従来のように、寸胴から動物骨材1を取り除くために、寸胴をひっくり返したり、すくい取り用の網などで動物骨材1を寸胴から何回にも亙って一々すくい取って捨てる手間が省けるため、一層秀れた作業性を発揮することができる。また、例えば収納体3を、この収納体3内に収納した塊状体2から発生するあくをこの収納体3内にとどめ得る素材で形成することで、スープを形成する際のあくを取る手間を省けることとなる。
【0026】
【実施例】
図面は本発明の一実施例を図示したものであり、以下に説明する。
【0027】
本実施例は、ラーメンのスープのだしを取る際に使用するスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法に係るものである。
【0028】
本実施例は、だしを取るための素材となる動物骨材1として豚骨,鶏ガラを採用している。尚、本実施例では動物骨材1として豚骨,鶏ガラを採用したが、スープのだしを取り得るものであれば適宜採用しても良い。
【0029】
先ず、動物骨材1を脱血処理する。
【0030】
この脱血処理は、動物骨材1を所定時間水炊きすることで行う。これにより、使用者は、既に脱血処理済みの動物骨材1を使用してだしを取ることができるため、脱血処理を行うための手間を省くことができ、また、その費用を節約することができる。また、後述する塊状体2は、既に脱血処理した動物骨材1を使用して形成されることとなるため、非常に衛生的となる。
【0031】
続いて、脱血処理した動物骨材1を凍結処理する。
【0032】
この凍結処理は、動物骨材1内の骨髄などの成分が完全に凍結するように行うと良い。
【0033】
続いて、凍結処理した動物骨材1をプレス機によって圧縮処理し、円盤状の塊状体2を得る。
【0034】
この際の圧力は、動物骨材1が粉砕されることがなく、また、動物骨材1を円盤状の塊状体2にできる程度の圧力に設定する。
【0035】
尚、本実施例では、図1,図2に示すように、塊状体2を円盤状としたが、だしを確実且つ良好に取り得る形状であれば、適宜採用しても良く、例えば球状に形成しても良いし、角部を有する塊状に形成しても良い。
【0036】
また、圧縮処理方法に関しては、動物骨材1を予め所定の大きさの塊に仮り固めしたものをプレス機に導入して圧縮処理し、所望の形状(例えば円盤状)の塊状体2にしても良いし、凍結処理した動物骨材1をばらばらの状態でプレス機内に導入(集積)して一気に圧縮処理し、所望の形状(例えば円盤状)の塊状体2にしても良い。
【0037】
続いて、圧縮処理により得た塊状体2を通水性を有する素材(例えば不しょく布)で形成された収納体3に収納し冷凍パック保存する。
【0038】
本実施例の収納体3は、図3に示すように、袋体3Aと、この袋体3Aに付設され袋体3を持ち運びするための紐体3Bとにより形成されたものを採用している。
【0039】
これにより、袋体3Aに塊状体2を入れて口を閉じ、紐体3Bを持って寸胴内にいれて煮込むことで、言わば紅茶のティーパックのようにしてスープのだしを取ることができ、使用後は、紐体3Bを持って寸胴から袋体3Aを取り出せることで、手を汚すことなく動物骨材1を全て一気に捨てることができる。また、袋体3Aの素材として、袋体3A内に収納した塊状体2から出るあくを袋体3A外に漏出させない素材を採用することで、スープを作る際において非常に煩わしい作業とされるあくを取る作業を省くことができ、よって、秀れた作業性を発揮することができる。尚、収納体3に収納された塊状体2と一緒に入れた野菜等からあくが出た場合には、このあくを取り除かなければならないが、スープを作る際に最も多くのあくを出すと考えられる豚骨や鶏ガラのあくを収納体3内にとどめておけることで、あくを取る作業を極めて簡易化することができ、よって、秀れた作業性を発揮することができる。
【0040】
本実施例は上述のようにすることで、スープのだしを取るための素材である動物骨材1をコンパクトな塊状体2にすることができ、よって、秀れた保管性,運搬性を発揮して保管コスト,運搬コストを安く抑えることができる。
【0041】
また、圧縮処理を行う前に予め動物骨材1を凍結処理することで、動物骨材1内の骨髄などの成分を動物骨材1外へ飛び散らせることなく簡単に塊状体2にすることができる。
【0042】
また、動物骨材1内の骨髄などの成分を動物骨材1外へ飛び散らせることなく塊状体2にできることで、たしの素となる骨髄などの成分を動物骨材1内にとどめた利用価値,商品価値の高い塊状体2を形成することができる。
【0043】
また、圧縮処理の際に、動物骨材1に無数のひびが形成されるため、動物骨材1を叩いてひびを入れたり割ったりする手間を省けるため調理時間を節約することができ、しかも、スープのだしを短時間で効率良く取ることができる塊状体2を製造することができる。
【0044】
また、本実施例は、豚骨,鶏ガラを洗ったり脱血する必要がないので、使用者はこれら前処理の手間を省くことができ、時間及び処理費用を節約することができる。
【0045】
また、調理時間を短縮できることで、光熱費を節約することができる。
【0046】
また、本実施例では、前述したように、新鮮な豚骨,鶏ガラを脱血処理して圧縮処理等した後に直ぐにそのまま冷凍パック保存するため、非常に衛生的となる。特に動物骨材1が痛み易い夏場の暑い季節には最適となる。
【0047】
また、前述のように塊状体2は紐体3Bを付設した通水性のある袋体3Aに入れてあるため、スープを作った後の始末も楽に行うことができる。
【0048】
また、本実施例では、豚骨,鶏ガラを脱血処理し圧縮処理するだけで形成できるため、豚骨や鶏ガラ本来の風味を出すことができる。
【0049】
また、本実施例は、火加減によって清湯,白湯のどちらも製造することができる。
【0050】
また、本実施例は、動物骨材1を圧縮処理して形成した塊状体2を使用するため、一回のスープとしての得量も、従来のように動物骨材1をばらばらの状態で使用した場合に比して多く取ることができる。
【0051】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【0052】
【発明の効果】
本発明は上述のようにするから、豚骨や鶏ガラを予め脱血処理することで非常に衛生的であり、また、豚骨や鶏ガラなどの動物骨材を凍結処理した後圧縮処理することで、この動物骨材から骨髄などのだしの素となる成分を飛び散らせることなく圧縮処理して簡単にコンパクトな塊状体にすることができ、これにより、保管性,運搬性に秀れ、よって、保管コスト,運搬コストを安く抑えることができ、更に、圧縮処理の際に動物骨材に無数のひびを形成できることで、従来に比して効率良くだしを取ることができ、しかもだしを取った後に寸胴等から動物骨材を手を汚すことなく一気に全て取り除くこともでき、その上、不しょく布で収納体を構成したから、収納体内に収納した塊状体から発生するあくを収納体内にとどめておくことができ、スープを作る際に煩わしい作業とされるあくを取る作業を省くことができる実用性,作業性に秀れた画期的なスープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本実施例の塊状体を示す斜視図である。
【図2】
本実施例の塊状体を示す説明平面図及び説明断面図である。
【図3】
本実施例の使用状態を示す説明図である。
【符号の説明】
1 動物骨材
2 塊状体
3 収納体
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-03-29 
結審通知日 2006-03-31 
審決日 2006-04-13 
出願番号 特願2002-290111(P2002-290111)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A22C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松下 聡  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 宮崎 敏長
溝渕 良一
登録日 2005-02-25 
登録番号 特許第3650095号(P3650095)
発明の名称 スープだし取り用の動物骨材ブロックの製造方法  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 吉井 剛  
代理人 吉井 剛  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 平田 功  

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