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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1139938
審判番号 不服2004-822  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-13 
確定日 2006-07-10 
事件の表示 特願2000-206193「ワイヤレスサスペンションブランクの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月25日出願公開、特開2002- 25213〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成12年7月7日に出願されたもので、平成18年4月24日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載されたとおりのものと認めるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次に記載されたとおりである。
「バネ特性を発現させる金属層の上に電気的な絶縁層を介して導電性層が積層された3層構成の積層体を用いてワイヤレスサスペンションブランクを製造する方法であって、前記絶縁層が両方ともポリイミド樹脂であるコア絶縁層とその両面に積層された接着剤層から形成され、その絶縁層の各層をアルカリ溶液でエッチングした場合のエッチングレートの大きいものと小さいものとの比が4:1乃至1:1の範囲にある積層体を用いており、前記金属層と導電性層をそれぞれフォトエッチング法により加工する工程と、前記絶縁層を加工するためのレジスト画像を形成し、当該レジスト画像に従ってアルカリ溶液を使用したウェットエッチングにより絶縁層を加工する工程を含むことを特徴とするワイヤレスサスペンションブランクの製造方法。」

2.引用例
(1)これに対して、当審における拒絶の理由に引用した特開2000-123512号公報(平成12年4月28日公開、以下「引用例1」という。)には、磁気ヘッドサスペンション及びその製造方法について、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。
「【請求項6】 ステンレス基板層、高耐熱性ポリイミド層の両面に熱圧着性ポリイミド層を有する両面熱圧着性多層押出ポリイミドフィルムおよび金属箔層を積層して積層板とし、この銅箔のエッチングを行い、続いてポリイミド層のエッチングを行って回路パタ-ン形成する磁気ヘッド用サスペンションの製造方法。」(【特許請求の範囲】)
「【0008】この発明におけるステンレス基板としては、従来から磁気ヘッドサスペンション装置に使用されるステンレス製の基板が挙げられ、鉄、ニッケル、クロムなどの成分比については特に限定されない。そしてステンレス基板の厚みは20-100μm、好ましくは20-50μmの範囲内である。また、ステンレス基板は、その表面を有機溶剤洗浄処理あるいは酸処理したものがポリイミドとの接着力向上の点から好ましい。」
「【0022】この発明において、高耐熱性(基体層)ポリイミド層の厚さは5〜25μmであることが好ましい。5μm未満では作成した両面熱圧着性多層押出ポリイミドフィルムの機械的強度、寸法安定性に問題が生じやすい。また25μmより厚くなると溶媒の除去、イミド化に難点が生じやすい。また、この発明において、熱圧着性芳香族ポリイミド層の厚さは各々2-15μmが好ましい。2μm未満では接着性能が低下し、15μmを超えても使用可能であるがとくに効果はなく、むしろ磁気ヘッドサスペンションの耐熱性が低下する傾向にある。また、高耐熱性の芳香族ポリイミド層の厚さは全体の多層フィルムの約10%以上で約90%以下、特に約15%以上で90%以下であることが好ましい。この割合より小さいと作成した多層フィルムの取り扱いが難しく、この割合より大きいと得られる磁気ヘッドサスペンションフレキシブル金属箔積層体の接着強度が小さくなる傾向にある。」
「【0024】この発明において使用される回路用の金属箔としては、銅、アルミニウム、鉄、金などの金属箔あるいはこれら金属の合金箔など各種金属箔が挙げられるが、好適には圧延銅箔、電解銅箔などがあげられる。金属箔として、表面粗度の小さい、好適にはRzが7μm以下、特にRaが5μm以下、特に0.5-5μmであるものが好ましい。このような金属箔、例えば銅箔はVLP、LP(またはHTE)として知られている。金属箔の厚さは特に制限はないが、取り扱い可能な範囲であれば薄いものが好ましく、通常5〜35μm、特に5-20μmであることが好ましい。厚みが大きくなりすぎるとエッチングに時間が掛かりすぎ実用性に乏しく、厚みが小さすぎると金属箔に断線などが起こりやすくなるので長期耐久性に問題が生じる。この金属箔をエッチングして回路を形成するにはそれ自体公知の方法を適用すればよい。
【0025】この発明における磁気ヘッド用のサスペンションの第1層であるステンレス基材と第3層である銅箔などの金属箔とを第2層である両面熱圧着性多層押出ポリイミドフィルムを介して貼り合わせて積層板とする装置は熱プレスのようなバッチ式のものであってもよく、熱ロ-ルのような連続式の貼り合わせ装置であってもよい。この貼り合わせを行う条件としては、バッチ式の場合には温度が280-330℃、圧力が1-100kg/cm2 、1秒-30分であることが好ましく、連続式の場合には温度が280-300℃、線圧力が2-50kg/cmであり、送り速度が0.1-5m/分であることが好ましい。」
「【0027】この発明における磁気ヘッド用のサスペンションを製造するに際して、両面熱圧着性多層押出ポリイミドフィルム層のパタ-ン形成にはポリイミド樹脂をエッチングすることが必要である。このエッチング方法はケミカルエッチングでもよくドライエッチングであってもよい。
【0028】前記のケミカルエッチングに使用するエッチング液としてはそれ自体公知のもの、例えば抱水ヒドラジン、水酸化カリウムのような金属水酸化物、エチレンジアミンやジエチレントリアミンなどの脂肪族ポリアミンなどのアルカリ性有機化合物であってエッチング時の温度で液状のものを使用することができる。このケミカルエッチングの温度は10-80℃、好ましくは20-60℃の範囲で行うことが好ましい。10℃未満の温度ではエッチング速度が小さく、80℃を越えると安全性に過大な配慮が必要となり装置が高価になる。また、前記のドライエッチングとしてはプラズマエッチング、反応性イオンエッチング、イオンビ-ムエッチング(スパッタエッチング)、エキシマレ-ザ-照射などを挙げることができる。」
「【0036】実施例1
ダブルベルトプレスに、熱圧着性多層ポリイミドフィルム-1を約150℃に予熱して連続的に供給し、その両側から厚み12μmの圧延銅箔(ジャパンエナ-ジ-株式会社製、G-BSH)および厚み25μmの表面酸処理したステンレス板(SUS304)を連続的に供給し、加熱ゾーンの温度(最高加熱温度)381℃、冷却ゾーンの温度(最低冷却温度)117℃)で、連続的に加圧下に熱圧着-冷却して積層して、積層体(幅:約510mm、以下同じ)のロ-ル巻状物を得た。得られた積層体(ロ-ル巻状物)の外観(銅箔面)は良好であった。次いで、積層体の銅箔をライン/スペ-スが0.1mm/0.1mmおよび0.1mm/0.2mmのパタ-ンになるようにレジストでマスクし、塩化第2鉄水溶液でエッチングした。所望のパタ-ンにエッチングされた銅箔をマスクとして用い、ポリイミド樹脂層を60℃に加熱したエッチング液(抱水ヒドラジンに水酸化カリウムを重量比で70:30溶かした溶液)中でエッチングした。ポリイミド層のエッチングに要した時間は25分間であった。デジタルマイクロスコ-プで観察するとラインとラインとの間、即ち銅マスクがかかっていない部分のポリイミド層はすっかり分解して消失していた。次いで、得られた回路形成した積層体を使用し、フォトファブリケ-ション法による表面保護層の形成、ステンレス層へのフォトエッチング処理(ステンレス基板のエッチング条件:室温、37重量%の塩化第2鉄水溶液、60分間)および曲げ加工を施して、磁気ヘッドサスペンションを得ることができた。」
「【0041】
【発明の効果】この発明の磁気ヘッドサスペンションは、第1層のステンレス基板層と第3層の金属箔製回路層とを第2層の両面熱圧着性多層押出ポリイミド層を介して熱圧着されているので、接着性が優れ、低アウトガス性や低イオンコンタミネ-ション性に優れたワイヤレスのサスペンションを得ることができる。
【0042】また、この発明によれば、ポリイミド樹脂層が耐熱性を有しており、ポリイミド層の外形加工をエッチング処理で行うことができるうえ、さらに接着剤層を介さないので製造工程を簡略化することができ、高密度への対応が可能となる。」

上記の特許請求の範囲の記載及び【0036】の実施例1の記載を参照すると、引用例1には、磁気ヘッド用サスペンションの製造方法について、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。
「ステンレス層、高耐熱性ポリイミド層の両面に熱圧着性ポリイミド層を有する両面熱圧着性多層押出ポリイミド層および金属箔層を積層して積層板とし、
前記金属箔層のエッチングを行い、続いて前記両面熱圧着性多層押出ポリイミド層のエッチングを行って回路パタ-ン形成する磁気ヘッド用サスペンションの製造方法において、
前記金属箔層をラインとスペースのパターンになるようにレジストでマスクし、塩化第2鉄水溶液でエッチングし、
前記両面熱圧着性多層押出ポリイミド層を、所望のパターンにエッチングされた前記金属箔をマスクとして、抱水ヒドラジンに水酸化カリウムを溶かしたエッチング溶液でエッチングし、
前記ステンレス層へのフォトエッチング処理を施す磁気ヘッド用サスペンションの製造方法。」

(2)同じく、当審における拒絶の理由に引用した特開2000-54164号公報(平成12年2月22日公開、以下「引用例2」という。)には、磁気ヘッドサスペンションの製造方法について、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。
「【0002】
【従来の技術】従来、ポリイミドのような耐熱性および絶縁性樹脂フィルムの加工方法としては、濃厚なアルカリ水溶液やヒドラジン等の有機アルカリ溶液によりケミカルエッチングする方法や、炭酸ガス、エキシマレーザ、YAGレーザ等を用いて加工する方法、あるいはプラズマエッチングによる加工方法が知られており、TABやプリント基板の製造等種々の用途に用いられているが、ポリイミドの基本骨格の種類によってはケミカルエッチングし難いものがあり、さらには、エッチング液を構成するヒドラジン等の有機アルカリ化合物は人体に有害であり取扱いが困難であるという問題がある。また、レーザによる加工は一度の加工エリアがレーザ径の範囲内であるため、大面積の一括加工にはあまり用いられない。プラズマエッチングによるポリイミドの加工例としては、半導体製造の分野でLSIのパッシベーション膜の加工等があげられる。プラズマエッチング法は、大面積の一括加工が可能な上、ポリイミド基本骨格の種類によらずエッチングすることができる。また、ヒドラジンなどの人体に有害な薬品を使用しないため、作業安全性の面で優れる。」
「【0017】
【実施例】(実施例)以下、実施例を磁気ヘッドサスペンションの製造方法を例として絶縁材料の加工を図1に基づいて説明する。磁気ヘッドサスペンションの基材として、厚さ20μmのバネ材であるステンレス材(SUS)11上に絶縁性フィルム12として厚さ18μmのポリイミドフィルムを中間層にし、導電性の金属基材として厚さ16μmの銅箔をラミネートして積層した。ステンレス材に対するポリイミドフィルムのラミネートおよびポリイミドフィルムに対する銅箔のラミネートにはポリイミド系ワニスの接着剤を使用した(図1(a))。
【0018】次に、図1(b)のように、SUS11上と銅箔11上の両面にアクリル系のドライフィルムレジスト14(旭化成株式会社製「AQ-5038」)、厚み;75μmを100°Cの条件で加熱、加圧してラミネートした後、露光、現像してレジストパターンを形成した。露光はg線を使用し露光量で60mJ/cm2とした。なお、レジストの現像は1wt%の炭酸ソーダ(Na2 CO3 )水溶液、液温30°C、スプレー現像で行った。
【0019】その後、SUS11と銅箔11を一般的な塩化鉄からなるエッチング液で片面ラッピング法を利用し片面ずつエッチングを行った。両面をエッチングした後、水酸化ナトリウム(NaOH)からなる剥離液で、ドライフィルムレジスト14を剥離して、両面の金属がパターニングされたサスペンション基材が得られた(図1(d))。続いて、感光性の微粒子分散樹脂レジスト15をスピンコート法でパターニングされた銅箔とSUS上の両面に乾燥後の厚さが40μmになるように塗布して成膜した。なお、微粒子分散樹脂レジストには、富士フィルムオーリン株式会社のブラックレジストとして知られている微粒子分散樹脂を使用した。このレジストは、アクリル系の樹脂に微粒子として酸化金属またはカーボンを分散したものである。露光は、i,g,hの3線の合計で露光量が1000mJ/cm2 となるようにし、現像は、25°C、0.2規定のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)をスプレーして行った。これにより図1(e)図示のレジストパターンが得られた。なお、この場合の現像は、0.2規定程度の水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウムであってもよい。
【0020】次に、ポリイミドフィルムをドライエッチングするため、基材を装置に導入してドライエッチングを行った。この場合、平行平板型RIEを使用し、圧力60Pa、パワー0.5W/cm2 、時間30分の条件で行った。なお、エッチングガスは酸素を主成分とし、添加ガスとしてCF4 を20%、窒素を5%添加して使用し、流量は300sccmとした。この場合、ガス流量が多いほどエッチングレートは早くなる傾向を示すが、一定量以上加えても飽和するのでエッチング装置の排気能力に合わせるほうがよい。エッチング後の状態は、図1(f)のようになった。」

(3)同じく、当審における拒絶の理由に引用した特開平8-180353号公報(以下、「引用例3」という。)には、ディスク駆動サスペンションアセンブリのための積層構造体の製造方法について、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。
「【0020】本発明による積層構造体を製造する第1工程は、図3に示されているような多層合わせシート10を提供することである。シート10は、第1層50、中間の第2層90及び第3層70の3層を備えている。層を多くしたシートから図示されていない他の積層構造体を製造することもできる。
【0021】第1層50は、約63.5マイクロメートル厚さで、他の実施例では一般的に20〜90マイクロメートルである。図面では、第1層50の部品には50〜69の参照番号が付けられている。第1層50は、降伏強さが1.14ギガパスカル、引っ張り強さが1.31ギガパスカルのステンレス鋼の金属ばね材からなるシートである。他のばね材を用いることもできる。ばね材とは、HSAの使用中に加えられる最大負荷を受けても塑性変形(降伏)しないものである。
【0022】第2層90は、エポキシ、接着剤、及び誘電体または絶縁材からなる薄い25マイクロメートル厚さのシートである。第2層90は、第1層50と第3層70とを結合すると共に絶縁する。第2層90は、第1層50及び第3層70と比較して積層構造体全体に与えるばね特性が最小である。第2層90は、他の実施例では一般的に5〜60マイクロメートルにすることができる。
【0023】図7〜図9に示されている他の実施例は、熱可塑性ポリイミドを用いている。第2層90の理想的な素材は、良好な電気特性を備えている、すなわち誘電率が低く、誘電抵抗が高く、絶縁耐力が高い。変位すなわち位置ずれ(層同士の横位置ずれ)を防止し、時間及び温度サイクルでの機械的安定性を確保するため、第2層90は、弾性係数が高く、温度係数が第1層50及び第3層70とほぼ一致することが最適である。さらに別の実施例では、第2層90が接着剤として機能しないで、別の接着層を追加して第1層50及び第3層70に取り付ける。第2層90の部品には90〜99の参照番号が付けられている。
【0024】第3層70は、厚さが約25マイクロメートルであり、他の実施例では一般的に厚さを10〜90マイクロメートルにすることができる。第3層70の部品には70〜89の参照番号が付けられている。本実施例の第3層70は、降伏強さが約1.24ギガパスカル、引っ張り強さが約1.31ギガパスカルの導電性金属ばね材であるベリリウム銅UNSC17200 (BeCu)のシートである。他の実施例では、他の導電性ばね材が用いられる。さらに別の実施例は、第3層70をばね層として用いないで、非ばね導電材を用いている。
【0025】積層構造体を製造する第2工程では、2つの外側の金属層、すなわち第1層50及び第3層70を成形、パターン化して、所望の積層構造体用の部品を形成する。成形は、化学エッチングまたは他の放電加工(EDM)等の公知の方法によって行うことができる。第1層50及び第3層70は共に、塩化第二鉄等の共通のエッチ液を用いて様々な連続または不連続パターンに化学エッチングすることができる。」
「【0030】積層構造体を製造する第3工程では、第2層90がプラズマエッチングされる。第2層90は、化学エッチングまたはレーザカット等の他の公知の方法を用いて成形することもできる。第2層90のエッチング中、第1層50及び第3層70が金属エッチングマスクとして機能することができる。」

(4)同じく、当審における拒絶の理由に引用した特開平6-164084号公報(以下「引用例4」という。)には、積層されたポリイミド系配線基板およびそのエッチング方法について、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。
「【0010】銅箔を積層したポリイミドフイルムは、各種の方法によって製造されているが、たとえばキャスティング法による製造では、両面積層フイルムを一度に製造することはできないので、片面に銅箔を積層したポリイミドフイルムを接着特性に優れたポリイミドで貼り合わせて積層することが行われている。このために、図1に両面銅箔積層ポリイミドフイルム1の断面図を示すように、銅箔2を両面に有し、内部のポリイミドフイルムは複数の層3から構成されており、各層のポリイミドフイルムは異なる特性を有している。そして、これらの多層フイルムはエッチング特性も異なるために、エッチングにおいて各層のエッチング速度の相違によってサイドエッチング等が大きく進行し、穴形状が好ましくない穴が形成されることが原因であることが判明した。」
「【0012】本発明の銅箔積層ポリイミドフイルムおよびエッチング方法は、銅箔に設けた穴をマスクにしてバイア孔やスルー孔を形成する場合に適用することができるが、ポリイミドフイルム上に形成したレジスト等をマスクによってエッチングをしても良い。」

(5)同じく、当審における拒絶の理由に引用した特開平7-45579号公報(以下「引用例5」という。)には、ポリイミド樹脂が積層形成された有機膜の加工方法について、次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。
「【0005】本発明のさらに他の目的は、一種類のエッチング液でスルホール及びパターンを加工することにより、エッチング速度が異なる少なくとも二層以上積層された有機膜の組合せによりスルホール及びパターンの最上層における寸法と最下層における寸法を同一の寸法で加工することを可能とするものである。」
「【0019】
【実施例】
実施例1
以下、本発明の実施例1を図1を参照して説明する。
【0020】基板上にポリイミドB3よりエッチング速度が速い遅いポリイミドA2を下層に5μm、ポリイミドB3を上層に5μmで二層に積層し、さらにポリイミドB3上にホトレジスト4を2μm成膜した(図1a)。
【0021】次に、ホトレジスト4に直径30μmの孔部をパターニングした(図1b)。
【0022】さらに、エッチング液を用いてポリイミドB3,A2をエッチングした(図1c)。
【0023】最後にレジスト剥離液を用いて、ホトレジスト4を除去してポリイミドB3の上面部直径40μm、ポリイミドA2の基板面部直径形状30μmのポリイミドA2、B3のスルホールパターンを得た(図1d)。」
「【0029】実施例3
以下、本発明の実施例3を図3を参照して説明する。
【0030】基板上にポリイミドB3よりエッチング速度が速いポリイミドA2を下層に5μm、ポリイミドB3を上層に5μmで二層に積層し、さらにポリイミドB3よりエッチング速度が遅いポリイミドC5をポリイミドB3の上層に5μmで三層に積層し、さらにポリイミドC5上にホトレジスト4を2μm成膜した(図3a)。 次に、ホトレジスト4に直径30μmの孔部をパターニングした(図3b)。
【0031】さらに、エッチング液を用いてポリイミドC5,B3,A2をエッチングした(図3c)。
【0032】最後にレジスト剥離液を用いて、ホトレジスト4を除去してポリイミドC5の上面部直径40μm、ポリイミドA2の基板面部直径形状30μmのポリイミドA2,B3,C5のスルホールパターンを得た(図3d)。」
「【0033】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明によれば、一種のエッチング液に対して、エッチング速度が異なる少なくとも二層以上積層された有機膜を、一種のエッチング液でスルホール及びパターンを加工することを採用することにより、所望の形状,寸法のスルホール及びパターンが得られる加工方法を提供することができる。
【0034】また、本発明によれば、有機膜の加工方法では低コストであるエッチングにより微細加工,加工形状制御を実現する加工方法を提供することができる。」


3.対比
本願発明と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「ステンレス層」は、従来から磁気ヘッドサスペンション装置に使用されるもの(引用例1の【0008】参照)で、バネ性を有する金属である(引用例3の【0021】参照)から、本願発明のバネ特性を発現させる「金属層」に相当する。
引用例1発明の、高耐熱性ポリイミド層の両面に熱圧着性ポリイミド層を有する「両面熱圧着性多層押出ポリイミド層」は、本願発明の、電気的な「絶縁層」に相当し、引用例1発明の、「両面熱圧着性多層押出ポリイミ層」のうち「高耐熱性ポリイミド層」は基体層である(引用例1の【0022】参照)から、本願発明の「絶縁層」のうち、「コア絶縁層」に相当し、引用例1発明の「両面熱圧着性多層押出ポリイミド層」のうち「熱圧着性ポリイミド層」は、「高耐熱性ポリイミド層」の両面に形成された接着性能を備えた層(引用例1の【0022】参照)であるから、本願発明の「接着剤層」に相当する。 そうすると、引用例1発明の「高耐熱性ポリイミド層の両面に熱圧着性ポリイミド層を有する両面熱圧着性多層押出ポリイミド層」は、本願発明の「絶縁層が両方ともポリイミド樹脂であるコア絶縁層とその両面に積層された接着剤層から形成され」た構成に相当する。
引用例1発明の「金属箔層」は、導電性を有した回路用のものである(引用例1の【0024】参照)から、本願発明の「導電性層」に相当する。
引用例1発明の「ステンレス層、高耐熱性ポリイミド層の両面に熱圧着性ポリイミド層を有する両面熱圧着性多層押出ポリイミド層および金属箔層を積層して積層板とし」たものは、それぞれ第1層、第2層、第3層と積層された積層板を構成する(引用例1の【0025】【0041】参照)から、本願発明の「バネ特性を発現させる金属層の上に電気的な絶縁層を介して導電性層が積層された3層構成の積層体」の構成に相当する。

引用例1発明の「抱水ヒドラジンに水酸化カリウムを溶かしたエッチング溶液」は、アルカリ溶液であるから、「両面熱圧着性多層押出ポリイミド層を、抱水ヒドラジンに水酸化カリウムを溶かしたエッチング溶液でエッチングし」は、「両面熱圧着性多層押出ポリイミド層」をアルカリ溶液を使用してウェットエッチングして加工した工程のことであるから、本願発明の「絶縁層」を「アルカリ溶液を使用したウェットエッチングにより絶縁層を加工する工程」に相当する。
引用例1発明の、「金属箔層をラインとスペースのパターンになるようにレジストでマスクし、塩化第2鉄水溶液でエッチングし」、「ステンレス層にフォトエッチング処理を施す」ことは、本願発明の「金属層と導電性層をそれぞれ」「エッチング法により加工する工程」に相当する。
引用例1発明の「磁気ヘッド用サスペンションの製造方法」は、磁気ヘッド用サスペンションにおいて、金属箔で形成される回路はワイヤレスであるから、本願発明の「ワイヤレスサスペンションブランクを製造する方法」に相当する。
引用例1発明「磁気ヘッド用サスペンションの製造方法」は、「両面熱圧着性多層押出ポリイミド層を、抱水ヒドラジンに水酸化カリウム溶かしたエッチング溶液でエッチングし」と、「ステンレス層にフォトエッチング処理を施す」ことを含んでいるから、本願発明の、工程の順序を特定していない、「金属層と導電性層をそれぞれ」「エッチング法により加工する工程」と、「絶縁層」を「アルカリ溶液を使用したウェットエッチングにより絶縁層を加工する工程」とを含む「ワイヤレスサスペンションブランクを製造する方法」に相当する。

したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「バネ特性を発現させる金属層の上に電気的な絶縁層を介して導電性層が積層された3層構成の積層体を用いてワイヤレスサスペンションブランクを製造する方法であって、
前記絶縁層が両方ともポリイミド樹脂であるコア絶縁層とその両面に積層された接着剤層から形成される積層体を用いており、
前記金属層と導電性層をそれぞれエッチング法により加工する工程と、
前記絶縁層をアルカリ溶液を使用したウェットエッチングにより絶縁層を加工する工程を含むワイヤレスサスペンションブランクの製造方法。」

<相違点>
(1)絶縁層が、本願発明では、「各層をアルカリ溶液でエッチングした場合のエッチングレートの大きいものと小さいものとの比が4:1乃至1:1の範囲にある」と特定するのに対して、引用例1発明では、このように特定されていない点。
(2)金属層と導電性層をそれぞれエッチング法により加工する工程が、本願発明では、「フォトエッチング法」と特定されているのに対して、引用例1発明には、金属層についてはフォトエッチング処理と特定されているが、導電性層については、このようには特定されていない点。
(3)絶縁層の加工が、本願発明では、「加工するためのレジスト画像を形成し、当該レジスト画像に従って」加工するのに対して、引用例1発明では、このように加工されない点。

4.当審の判断
上記各相違点について検討する。
相違点(1)について
引用例2の【0002】には、ポリイミドの基本骨格の種類によってはケミカルエッチングし難いものがあることが記載されている。積層されたポリイミド樹脂がウェットエッチングされた場合、材料のエッチングレートの差により、積層形成されたエッチング面が不均一形状となることが、引用例4に記載されている。引用例5の【0005】には、エッチング速度の異なる2層以上積層されたポリイミドを、同一寸法になるようにエッチング液によりエッチングすることが記載されている。
してみれば、積層されたポリイミド層をウェットエッチングする技術において、積層されたエッチング面が均一形状となることが望ましいこと、及び、均一形状にするために、ポリイミド各層のエッチングレートの大小関係を考慮して、ポリイミド各層を選定し、エッチングの加工形状を制御することが、出願当時、周知であるといえる。ここで、引用例4,5は、エッチングレートが異なることを特徴としているが、その大小の比が大きく異なることが好ましいというものでなく、エッチングレートが同じである場合を、前提の従来技術とし、均一形状にエッチングされる程度のエッチングレートの大小関係が選定されることを示唆するものである。
したがって、引用例1発明において、両面熱圧着性多層押出ポリイミド層をアルカリ溶液のエッチング処理をする際に、両面熱圧着性多層押出ポリイミド層の加工された積層面のエッチング形状が不均一にならないように、エッチング速度の適するポリイミド層を選択し、エッチングレートの大きいものと小さいものとの比が4:1乃至1:1の範囲に設定することは、当業者が適宜になし得たことと認められる。

相違点(2)について
引用例2の磁気ヘッドサスペンションの製造方法の【0018】【0019】には、ステンレス材(SUS)と銅箔層にアクリル系のドライフィルムレジスト(旭化成株式会社製「AQ-5038」)をラミネートした後、露光・現像してパターニングし、ステンレス材(SUS)と銅箔をエッチング液でエッチングする加工する工程が記載されている。
本願の発明の詳細な説明における、金属層と導電性層のフォトエッチング法による加工は、次に記載されたとおりである。
「【0027】上記の積層体に対し、銅合金箔の上面とSUSの下面の両方の面にアクリル系のドライフィルムレジスト(旭化成株式会社製「AQ-5038」)をラミネートした後、両方のドライフィルムレジストをそれぞれ所定のフォトマスクパターンに従って露光・現像してパターニングした。露光はg線により露光量30〜60mJ/cm2 で行い、現像は30℃、1wt%Na2 CO3 でスプレー現像した。
【0028】次いで、SUS側をマスクし、塩化第二鉄溶液を使用して銅箔をエッチングした後、水酸化ナトリウムからなる剥離液でドライフィルムレジストを剥離した。続いて、銅箔側をマスクし、塩化第二鉄溶液を使用してSUSの片面をエッチングした後、水酸化ナトリウムからなる剥離液でドライフィルムレジストを剥離した。これにより、ポリイミドフィルムの一方の面に銅箔がパターニングされるとともに、他方の面にSUSがパターニングされた3層の積層体が得られた。」
してみれば、引用例2におけるステンレス材と銅箔層を加工する工程は、本願発明におけるフォトエッチング法に相当するものであることは明らかであり、引用例2には、ステンレス材と銅箔層をフォトエッチング法により加工する工程が記載されている。
引用例1発明において、金属箔層をレジストでマスクしてエッチング加工しており、上記レジストは、露光・現像してパターニングされて得ることが慣用技術といえ、上記引用例2にも記載されているとおりである。
したがって、引用例1発明において、金属箔層とステンレス層をそれぞれをフォトエッチング法により加工する工程とすることは、当業者が格別の工夫することなく容易になし得たことと認められる。

相違点(3)について
引用例4の【0012】には、銅箔積層ポリイミドフイルムのエッチング方法において、銅箔に設けた穴をマスクにする例と、ポリイミドフイルム上に形成したレジスト等をマスクによってエッチングしてもよいことが記載されえている。引用例5には、ホトレジストを成膜してパターニングし、エッチング液を用いたエッチングにより、ポリイミド樹脂の積層膜を所望の形状に加工することが記載されている。
してみれば、引用例1発明における、両面熱圧着性多層押出ポリイミド層をアルカリ溶液を使用したウェットエッチングにより加工する工程において、引用例4,5に記載されているように、両面熱圧着性多層形成押出ポリイミド層を所望形状に加工するため、加工するためのレジスト画像を形成し、当該レジスト画像に従ってアルカリ溶液でエッチング加工するように構成することは、当業者が容易になし得たことと認められる。

結局、前記各相違点は、格別なものではなく、また、前記各相違点を総合的に検討しても奏される効果は当業者が当然に予測できる範囲内のものと認められる。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例1乃至5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-18 
結審通知日 2006-05-18 
審決日 2006-05-31 
出願番号 特願2000-206193(P2000-206193)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 重幸  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 相馬 多美子
川上 美秀
発明の名称 ワイヤレスサスペンションブランクの製造方法  
代理人 土井 育郎  

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