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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1140085
審判番号 不服2004-10717  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-09-11 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-21 
確定日 2006-07-14 
事件の表示 平成 9年特許願第 39552号「単層磁性膜垂直磁化媒体用記録ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 9月11日出願公開、特開平10-241117〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成9年2月24日の出願であって、平成16年3月11日付けで手続補正がなされ、その後平成16年4月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年5月21日に審判請求がなされたものである。
本願の請求項1乃至7に係る発明は、上記平成16年3月11日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、それぞれ本願特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する単層磁性膜を備えた磁気媒体用記録ヘッドであって、
前記媒体の移動方向に対して上流側に設けられた、前記媒体に対向する先端を有するリーディングポールと;
前記リーディングポールの先端との間に微小ギャップを画成し前記媒体に対向する先端と、前記リーディングポールと接触した後端部とを有し、前記媒体の移動方向に対して下流側に設けられたトレーリングポールと;
前記リーディングポールと前記トレーリングポールとの接触部を中心に巻回されたコイルとを具備し;
前記トレーリングポールの先端と前記媒体との間の距離は前記リーディングポールの先端と前記媒体との間の距離よりも所定長さ以上大きいことを特徴とする記録ヘッド。」

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された特開昭63-29311号公報(以下「引用例1」という。)には、「垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドおよびその製造方法」に関して次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)
(ア) 「(1)記録媒体に対する記録再生を行なう主磁極と、この主磁極と閉磁路を構成する補助磁極とを有し、上記主磁極はさらに、記録媒体側の端部を先端薄膜部と、後部厚膜部とからなっている垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドにおいて、上記主磁極の補助磁極との対向面を平担面として形成したことを特徴とする垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド。」(特許請求の範囲の請求項1、公報1頁左下欄6行〜12行)
(イ) 「第3図は従来の垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドの構造を示すものである。主磁極11は、垂直磁気記録媒体10との対向部を先端薄膜部11aとしており、この主磁極11上に、コイル12および絶縁層13を挟んで補助磁極14が形成されている。コイル12は、先端薄膜部11aの後方に中心を有し、補助磁極14は、主磁極11と閉磁気回路を構成する。15は保護膜で、これらの各層は、基板16上に薄膜形成技術によって形成される。」(公報1頁右下欄12行〜2頁左上欄2行)
(ウ) 「また主磁極11と補助磁極14の間隔b、および補助磁極14先端の主磁極11先端からの後退量dもまた、再生効率を上げるためには、ある小さい寸法にしなければならない。すなわち第5図(a)は、この間隔bと再生効率E(間隔bが8μmときの効率を1とする相対値)の関係を示し、同様に同図(c)は後退量dと再生効率E(後退量dが8μmときの効率を1とする相対値)の関係を示している。」(公報2頁左上欄15行〜右上欄3行)
(エ) 「第1図は、本発明による薄膜磁気ヘッドの実施例を示すものである。本発明の特徴は上述のように、主磁極21の形状にあり、これ以外の部分は、従来例と同一である。同一部分には同一符号を付してある。
主磁極21は、その補助磁極14との対向面21cが平担面とされ、基板16側に、先端薄膜部21aと後部厚膜部21bの段差が形成されている。このように、補助磁極14との対向部21cを平坦面とすると、補助磁極14と主磁極11との間隔bを小さくすることと、先端薄膜部21aの長さcを小さくすることとの間に、加工上の影響がなくなり、薄膜形成技術による極限迄、このb、c寸法を小さく形成し、再生効率を高めることができる。」(公報2頁右下欄6行〜3頁左上欄1行)

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
引用例1には、上記2(ア)(イ)(ウ)(エ)(下線部参照)に摘示した記載事項によれば、
「記録媒体に対する記録再生を行なう主磁極と、この主磁極と閉磁路を構成する補助磁極とを有し、上記主磁極はさらに、記録媒体側の端部を先端薄膜部と、後部厚膜部とからなっている垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドであって、
主磁極上に、コイルおよび絶縁層を挟んで補助磁極が形成され、コイルは、先端薄膜部の後方に中心を有し、
主磁極と補助磁極の間隔が小さく形成され、補助磁極先端が主磁極先端から後退量dで後退している垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド。」
の発明が記載されている。

引用例1に記載された発明の「記録媒体」は、垂直磁気記録用であるから、本願発明の「磁気媒体」に相当し、「膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する」磁性膜を備えている。
引用例1に記載された発明の「垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド」は、本願発明の「膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する」「磁性膜を備えた磁気媒体用の記録ヘッド」に相当している。
引用例1に記載された発明の「主磁極と補助磁極の間隔」は小さく形成されているから、本願発明の、「微少ギャップ」に相当している。
引用例1に記載された発明において、主磁極と補助磁極とで閉磁路を構成し、「主磁極上に、コイルおよび絶縁層を挟んで補助磁極が形成され、コイルは、先端薄膜部の後方に中心を有し」ているから、主磁極と補助磁極との接触部を中心にコイルが巻回されていることが明らかである。
引用例1に記載された発明は、「補助磁極先端が主磁極先端から後退量dで後退している」から、「補助磁極の先端と媒体との間の距離」は「主磁極の先端と媒体との間の距離」よりも後退量d大きいことであり、「所定長さ以上大きい」ともいえる。
引用例1に記載された発明の「磁極」は、本願発明の「ポール」に相当するから、引用例1に記載された発明の「主磁極」「補助磁極」は、それぞれ「一方のポール」「他方のポール」ということができる。
してみると、本願発明と引用例1に記載された発明は、
「膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する磁性膜を備えた磁気媒体用記録ヘッドであって、
前記媒体に対向する先端を有する一方のポールと、
前記一方のポールの先端との間に微小ギャップを画成し前記媒体に対向する先端と、前記一方のポールと接触した後端部とを有する他方のポールと、
前記一方のポールと前記他方のポールとの接触部を中心に巻回されたコイルとを具備し、
前記他方のポールの先端と前記媒体との間の距離は前記他方のポールの先端と前記媒体との間の距離よりも所定長さ以上大きい記録ヘッド。」
である点で一致しており、以下の点で相違している。

(相違点1) 「膜面に対して垂直方向に磁化容易軸を有する磁性膜を備えた磁気媒体」の磁性膜について、本願発明では、「単層磁性膜」と特定しているのに対し、引用例1に記載された発明では、そのような特定がない点。
(相違点2) 本願発明では、「一方のポール」が「媒体の移動方向に対して上流側に設けられたリーディングポール」であり、「他方のポール」が「媒体の移動方向に対して下流側に設けられたトレーリングポール」であり、「トレーリングポールの先端と媒体との間の距離」は「リーディングポールの先端と媒体との間の距離」よりも所定長さ以上大きいと特定されているのに対し、引用例1に記載された発明では、どちらのポールが媒体の移動方向に対して上流側に設けられたリーディングポールであり、残りのポールが媒体の移動方向に対して下流側に設けられたトレーリングポールであるか特定されていない点。

(2)相違点についての判断
(相違点1について)
垂直磁気記録用媒体の構造として、基板上に軟磁性下地層と垂直磁化膜を積層した2層膜媒体と、基板上に軟磁性下地層を設けずに垂直磁化膜を設けた単層磁性膜媒体とは、周知である。引用例1に記載された磁気ヘッドが、いずれの媒体の記録再生にも用い得ることは当業者にとって明らかであるから、引用例1に記載された発明の記録ヘッドを、単層磁性膜の磁気媒体用と特定することは当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)
引用例1に記載された発明は、薄膜形成技術によって、基板の上に主磁極が形成され、主磁極上に、コイル及び絶縁層を挟んで補助磁極が形成され、さらに保護膜が形成されて、薄膜磁気ヘッドが構成されている。引用例1には、上記主磁極と上記補助磁極のいずれがリーディング側であるか記載がなく、引用例1に記載された発明の磁気ヘッドで磁気媒体の記録を行う際、いずれもリーディング側に配置しうるものである。
そして、ディスク用の磁気ヘッドでは、スライダを構成する基板上に、薄膜磁気ヘッドが形成され、基板(スライダ)に近い磁極が、リーディングポールであり、基板(スライダ)に遠い保護膜側の磁極がトレーリングポールであることが普通である。必要とあれば、例えば、原審の引用例である特開平4-90101号公報(第1、7、8図)等参照されたい。
してみると、引用例1に記載された発明の磁気ヘッドにおいて、基板に近い磁極である主磁極をリーディングポール、基板に遠い保護膜側の補助磁極をトレーリングポールとして、媒体への記録再生を行うものと理解するもしくは、記録再生を行うよう配置することは、当業者が容易に想到しうることである。

上記相違点1及び2を総合的に検討しても、本願発明の効果は、引用例1に記載された発明から当業者であれば予測される範囲内であり、格別顕著なものではない。
なお、請求人は、極めてシャープな記録磁界の垂直方向磁界成分分布を得ることができる効果を、主張している。しかしながら、本願発明の効果はその後退量の大小によっては当該効果を奏さないことがあることは明らかである。また、補助磁極がトレーリングポールとして配置されることが予測できる引用例1に記載された発明の垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッド自体が、微少ギャップ及び補助磁極が後退しているのであるから、上記の磁界成分分布は、当業者が容易に得ることができる範囲内のものであるといえる。よって、請求人の主張は採用できない。

4 むすび
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-25 
結審通知日 2006-05-09 
審決日 2006-05-24 
出願番号 特願平9-39552
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 豊  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 片岡 栄一
吉村 伊佐雄
発明の名称 単層磁性膜垂直磁化媒体用記録ヘッド  
代理人 松本 昂  

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