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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1140106
審判番号 不服2004-19715  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-01-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-24 
確定日 2006-07-12 
事件の表示 特願2003-196660「磁気ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月 8日出願公開、特開2004- 6016〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年12月19日(優先権主張平成9年4月25日)に出願した特願平9-350593の一部を平成15年7月14日に新たな特許出願としたものであって、平成16年6月28日付けで手続補正がなされ、その後平成16年8月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年9月24日に審判が請求されるとともに、平成16年10月25日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成16年10月25日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成16年10月25日付け手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前の
(a) 「【請求項1】 ウェハの上に形成された下部磁極と、
前記下部磁極の上に形成された非磁性ギャップ層と、
前記非磁性ギャップ層の上に形成されて先端が細いポールティップを有する上部磁極と、
前記ポールティップの側面の直下から横方向に形成され、且つ前記ポールティップと同じ幅を有する領域を挟む2つの凹部と、
前記凹部を充填するとともに、前記上部磁極及び前記下部磁極を覆う非磁性絶縁材よりなる保護層と、
前記上部磁極と前記下部磁極の間で非磁性絶縁層によって挟まれたコイルとを有し、
前記凹部は、前記ポールティップの側面寄りの部分で最も深いことを特徴とする磁気ヘッド。」を、
(b) 「【請求項1】 ウェハの上に形成された下部磁極と、
前記下部磁極の上に形成された非磁性ギャップ層と、
前記非磁性ギャップ層の上に形成されて先端が細いポールティップを有する上部磁極と、
ウェハ状態で集束イオンビームを照射して前記ポールティップの側面の直下から横方向に形成され、且つ前記ポールティップと同じ幅を有する領域を挟む2つの凹部と、
前記凹部を充填するとともに、前記上部磁極及び前記下部磁極を覆う非磁性絶縁材よりなる保護層と、
前記上部磁極と前記下部磁極の間で非磁性絶縁層によって挟まれたコイルとを有し、
前記凹部は、前記ポールティップの側面寄りの部分で最も深いことを特徴とする磁気ヘッド。」
と補正するものである。
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明の「凹部」の「形成」について、「ウェハ状態で集束イオンビームを照射して」との限定を付加するものである。補正後の請求項1に記載された発明は、「ウェハ状態で集束イオンビームを照射して」凹部を形成することにより、磁気抵抗効果素子の接地を容易にして磁気抵抗効果素子の破壊を容易に防止するという新たな課題を追加するものであって、補正の前後で発明の解決しようとする課題が同一であるといえないから、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項のいずれをも目的としていない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合しないから、特許法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2.
なお、本件補正が、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものとしたとき、補正後における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「補正後の発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下検討する。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-349026号公報号公報(以下「引用例1」という。)には、「薄膜磁気ヘッド」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア) 「【請求項1】 基体上に磁気抵抗効果型再生ヘッド、誘導型記録ヘッドの順に積層した分離型ヘッドにおいて、上記磁気抵抗効果型再生ヘッドの上部シール部材を誘導型記録ヘッドの下部磁極とし、下部磁極にはそのトラック幅を、上部磁極のトラック幅と実質的に同一寸法に規制する切り欠け部を設けたことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。」(なお、「上部シール部材」は「上部シールド部材」の誤記である。)
(イ) 「【0005】【作用】下部磁極は、再生ヘッドの磁気シールド材を兼ねているが、上部磁極の幅と実質的に同一寸法のトラック幅を切り欠けによって形成することができる。切り欠き部のトラック方向幅Wは、記録時の書きにじみを少なくする為に、記録ヘッドのギャップ長さ(Gl)と同じか、それよりも長いものとすることが好ましい。切り欠き部の膜厚方向深さdは磁気シールド効果を減じない程度まで深くすることは可能である。この深さdは、好ましくは、下部磁極膜厚Gの1/40〜1/2程度である。
【0006】【実施例】図1は、第1の実施例を説明するための薄膜磁気ヘッドの斜視部分断面図である。スライダーとなる基体1上に磁気抵抗効果型再生ヘッド、その上に誘導型記録ヘッドを積層してある。磁気抵抗効果型ヘッドは磁気シールド層2及び3(3は、記録ヘッドの下部磁極を兼ねる)の間に磁気抵抗効果膜4を積層し、両端を電極5で接続して、電極の間隔を再生ヘッドのトラック幅としている。この上に記録ヘッドの下部磁極6、上部磁極7およびこれらの間にギャップ層8とコイル9を設ける。ここでシールド層および記録磁極はパーマロイなどの軟磁性膜であればよく、他のCo系や、Fe系の軟磁性膜であってもかまわない。(後略)」
(ウ) 「【0009】上部磁極のトリミングは、レジストマスクを利用して、IBE(ion beam etching)やFIB(foused(なお、focusedの誤記である。) ion beam)等を用いて行い、同時に上部シールド板を兼ねる下部磁極に切り欠けを設けるエッチングを行う。図2には別の実施例の上部磁極27、下部磁極28の断面図を示して有る。同図は、磁気ディスク面から見たヘッドの断面図である。下部磁極は、再生ヘッドの磁気シールド材を兼ねているが、上部磁極の幅と実質的に同一寸法のトラック幅を切り欠けによって形成することができる。(後略)」
(エ) 「【0010】【発明の効果】本発明により、工程を複雑にすることなく、上部磁極のトリミングに依って上部磁極の中心線と再生ヘッドの中心線のズレ量(オフセンターf)を上部磁極形成後に、精度良く得ることができる。また、記録用上下磁極幅がほぼ同一になる事により記録時の書きにじみによる実質的な書き込みトラック幅の増加をおさえる事ができる。(後略)」
(オ) 薄膜磁気ヘッドの斜視部分断面図である図1には、下部磁極6と上部磁極7との間にコイル9が配置されていること、上部磁極7は、先端部(媒体対向面近傍)が細くトラック幅寸法であり、媒体対向面から離れたコイル近傍では先端部より幅広であることが示されている。
(カ) 図2には、下部磁極に、上部磁極の先端部の幅と同一寸法のトラック幅を、2つの切り欠け部によって形成することが図示され、切り欠け部は、上部磁極の先端部の幅側面の直下から横方向に形成されていることが図示されている。
(キ) 図1乃至図3は、絶縁層または絶縁材等が省略されている。

(2)対比
補正後の発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
上記2で摘示した記載事項、特に(ア)(イ)(ウ)(オ)(カ)(下線部参照)によれば、引用例1には、
「基体上に順に積層したヘッドにおいて、誘導型記録ヘッドの下部磁極にはそのトラック幅を、上部磁極のトラック幅と実質的に同一寸法に規制する2つの切り欠け部を設けた薄膜磁気ヘッドであって、
記録ヘッドの下部磁極と上部磁極の間にギャップ層とコイルを設け、
上部磁極は、先端部が細くトラック幅寸法であり、
切り欠け部は、上部磁極の先端部の幅側面の直下から横方向に形成され、
上部磁極のトリミングは、FIB(focused ion beam)を用いて行い、同時に下部磁極に切り欠け部を設けた磁気ヘッド。」
の発明が記載されている。

引用例1に記載された発明の「基体」「ギャップ層」「切り欠け部」「FIB(focused ion beam)」は、補正後の発明の「ウェハ」「非磁性ギャップ層」「凹部」「集束イオンビーム」に相当している。
引用例1に記載された「上部磁極」は、「先端部が細くトラック幅寸法」であるから、上記「先端部」は、補正後の発明の「ポールティップ」に相当している。
引用例1に記載された発明の「切り欠け部」は、上部磁極のトリミングをFIBを用いて行い、同時に下部磁極に切り欠け部のエッチングを行うことにより形成されたものであり、切り欠け部は、上部磁極の先端部の幅側面の直下から横方向に形成され(上記(カ)参照)ているから、補正後の発明の「集束イオンビームを照射してポールティップの側面の直下から横方向に形成され、且つ前記ポールティップと同じ幅を有する領域を挟む2つの凹部」に相当する構成を備えている。
引用例1に記載された発明の「コイル」は、パーマロイ金属等の上部磁極と下部磁極の間に配置されているので、絶縁層を介して配置されていることが明らかであるから、補正後の発明の「上部磁極と下部磁極の間で非磁性絶縁層によって挟まれたコイル」に相当する構成を備えている。
よって、補正後の発明と引用例1に記載された発明は、
「ウェハの上に形成された下部磁極と、
前記下部磁極の上に形成された非磁性ギャップ層と、
前記非磁性ギャップ層の上に形成されて先端が細いポールティップを有する上部磁極と、
集束イオンビームを照射して前記ポールティップの側面の直下から横方向に形成され、且つ前記ポールティップと同じ幅を有する領域を挟む2つの凹部と、
前記上部磁極と前記下部磁極の間で非磁性絶縁層によって挟まれたコイルとを有する磁気ヘッド。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1) 補正後の発明では、「ウェハ状態で集束イオンビームを照射して」と特定されているのに対して、引用例1には、どの状態で照射するか記載されていない点。
(相違点2) 補正後の発明では、「凹部を充填するとともに、上部磁極及び下部磁極を覆う非磁性絶縁材よりなる保護層」を有すると特定されているのに対して、引用例1に記載された発明では、保護層について特定されていない点。
(相違点3) 補正後の発明では、「凹部は、ポールティップの側面寄りの部分で最も深い」と特定されているのに対して、引用例1に記載された発明では、そのように特定されていない点。

(3)判断
(相違点1について)
引用例1の磁気ヘッドは、スライダーとなる基体上に層状に下部磁極・上部磁極の薄膜を順次形成し、上部磁極のトリミングを、集束イオンビームを用いて、上部磁極の上部から照射して、同時に下部磁極に切り欠け部を設けるものである。磁気ヘッドの製造方法において、ウェハ上に下部磁極・上部磁極を順次形成し、磁極の加工等を行った後に、ウェハを切断して各スライダーを作成することが、技術常識であって、かつ引用例1の集束イオンビームの照射は上部磁極の上部から照射するものであるから、引用例1の集束イオンビームの照射をウェハ状態で行うことは、当業者が最も普通になし得ることである。
また、補正後の発明は、「物」の発明であるから、凹部形成のための集束イオンビームの照射をどの状態で行うと特定をしても、「物」としては引用例1に記載されたものと何ら相違するものでもない。
(相違点2について)
引用例1には絶縁層や保護層について明記はないが、薄膜磁気ヘッドの誘導型磁気ヘッドの素子部分全体を覆うように非磁性絶縁材により保護層を設けることは、常套手段であるから、引用例1に記載された発明において、凹部を充填するとともに、上部磁極及び下部磁極を覆う非磁性絶縁材よりなる保護層を備えることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
(相違点3について)
引用例1に記載された発明は、下部磁極の幅を、上部磁極のポールティップのトラック幅と同一寸法とすることにより、記録磁界による書きにじみを防止しようとするものであるから、下部磁極の幅を規制する切り欠け部が、下部磁極の幅を規制する機能を十分果たすように形成することが必要であって、下部磁極の幅が、下部磁極の深くまで、大きくなることなく下部磁極の幅であることが望まれることは明らかであって、例えば、原審で引用された特開平7-262519号公報(段落12、30等参照)にも記載されている。 よって、引用例1に記載された発明において、下部磁極のトラック幅を規制するよう、ポールティップの側面寄りの部分で、十分に溝を深くし、その他の部分で溝を深くする必要がないことは、当業者が容易に想到しうることである。
なお、請求人は、「ポールティップの側面寄りの部分で最も深い」と特定したことにより、凹部はポールティップの側面から横方向に離れると浅くなり、即ち、下部磁極は、ポールティップの側面から横方向に離れると厚くなり、磁気シールドとしての機能が低下しない効果を主張しているが、補正後の発明は、磁気ヘッドが磁気抵抗効果素子を備えることや、下部磁極が磁気シールドの機能を有することを特定するものでないので、上記主張は採用することができない。また、引用例1に記載された下部磁極は、切り欠け部以外では、厚いのであるから、請求人の主張する効果は設計上の微差にすぎない。

そして、上記相違点を総合的に検討しても、補正後の発明の効果は、引用例1に記載された発明及び周知の事項から当業者であれば予測される範囲内であるので、上記相違点は、当業者が容易に想到し得たものである。

(4)むすび
以上のとおり、補正後の発明は、上記引用例1に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成16年10月25日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年6月28日付け手続補正書によって補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】上記「第2の1の(a)」のとおり。」

1.引用例
原審の拒絶の理由に引用された引用例1の記載事項は、上記「第2の2」に記載されたとおりである。

2.対比判断
本願発明は、上記「第2」で検討した補正後の発明から、「凹部」の「形成」についての限定事項である「ウェハ状態で集束イオンビームを照射して」という構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正後の発明が、上記「第2の2(2)、(3)」に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-23 
結審通知日 2006-04-18 
審決日 2006-05-08 
出願番号 特願2003-196660(P2003-196660)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 豊石坂 博明  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 相馬 多美子
川上 美秀
発明の名称 磁気ヘッド  
代理人 岡本 啓三  

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