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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580289 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A23L
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  A23L
審判 一部無効 2項進歩性  A23L
審判 一部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A23L
審判 一部無効 特許請求の範囲の実質的変更  A23L
管理番号 1140120
審判番号 無効2005-80235  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-01-08 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-07-29 
確定日 2006-07-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第2920434号発明「カルシウム及び食物繊維含有飲食物とその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2920434号の請求項1、3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第2920434号に係る発明(請求項1〜4に係る発明)についての出願は、平成3年6月20日に出願され、平成11年4月30日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。

2.請求人は、本件特許発明のうち、請求項1及び請求項3に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明3」、またそれらを総称して「本件発明」という。)について無効審判を請求し、それらの発明は、特許法第29条第1項第3号に該当する、或いは特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証を提出している。

3.これに対して、被請求人は、平成17年10月18日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。当該訂正の内容は、本件特許発明の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、以下訂正事項(1)〜(7)のとおりのものである。

訂正事項(1):
「【請求項1】食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を含有することを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物。
【請求項2】食物繊維1重量部、カルシウム-マルチトール付加物0.1〜10重量部を含有することを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物。
【請求項3】食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を配合して調製することを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物の製造方法。
【請求項4】食物繊維1重量部、カルシウム-マルチトール付加物0.1〜10重量部を配合して調製することを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物の製造方法。」

「【請求項1】飲食物(ただし、豆乳及びグルコマンナンを使用した食品、プルラン或いはデキストリンを有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤、又はミルクチョコレートの場合を除く)に、食物繊維、カルシウム及びマルチトールを添加配合し、食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を含有するようにしたことを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物。
【請求項2】食物繊維1重量部、カルシウム-マルチトール付加物0.1〜10重量部を含有することを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物。
【請求項3】飲食物(ただし、豆乳及びグルコマンナンを使用した食品、プルラン或いはデキストリンを有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤、又はミルクチョコレートの場合を除く)に、食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を添加配合して調製することを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物の製造方法。
【請求項4】食物繊維1重量部、カルシウム-マルチトール付加物0.1〜10重量部を配合して調製することを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物の製造方法。」
に訂正する。

訂正事項(2):
「【0021】即ち、本発明は、第1に、食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を含有する、カルシウム及び食物繊維含有飲食物である。」

「【0021】即ち、本発明は、第1に、 飲食物(ただし、豆乳及びグルコマンナンを使用した食品、プルラン或いはデキストリンを有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤、又はミルクチョコレートの場合を除く)に、食物繊維、カルシウム及びマルチトールを添加配合し、食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を含有するようにした、カルシウム及び食物繊維含有飲食物である。」
と訂正する。

訂正事項(3):
「【0023】第3、食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を配合して調製する、カルシウム及び食物繊維含有飲食物の製造方法である。」

「【0023】第3、飲食物(ただし、豆乳及びグルコマンナンを使用した食品、プルラン或いはデキストリンを有効成分とするビフィズス菌増殖促進剤、又はミルクチョコレートの場合を除く)に、食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を添加配合して調製する、カルシウム及び食物繊維含有飲食物の製造方法である。」
と訂正する。

訂正事項(4):
「【0025】本発明を実施するにあたり、調製する飲食物の種類や形態等には特に制約は無く、その中に食物繊維及びカルシウム及びマルチトールを所定の割合で含有していれば、発明の意図する効果を得ることができるが、従来からある処方の加工食品に各々の不足成分を補うことによっても、従来食品を本発明の効果が得られるよう改善することが可能である。」

「【0025】本発明を実施するにあたり、調製する飲食物の種類や形態等には特に制約は無く、その中に食物繊維及びカルシウム及びマルチトールを所定の割合で含有していれば、発明の意図する効果を得ることができるが、本発明は、従来からある処方の加工食品に、食物繊維及びカルシウム及びマルチトールを添加配合して、従来食品を本発明の効果が得られるよう改善する場合を対象とする。」
と訂正する。

訂正事項(5):
「【0026】本発明に用いることのできる食物繊維は、天然、人工の別無く、食用に供することの可能な種類、品質、形態を有していれば採用可能であり、例え、野菜等の天然の食品であって純粋な食物繊維でなくとも、その中に食物繊維を含有していれば良い。」

「【0026】本発明において、飲食品への添加配合に用いることのできる食物繊維は、天然、人工の別無く、食物繊維として添加配合して、食用に供することの可能な種類、品質、形態を有していれば採用可能である。」
と訂正する。

訂正事項(6):
「【0027】具体的な例を挙げれば、小麦ふすま、粉末セルロース、ビール粕、リンゴ粕、おから、ココナッツ窄油残渣、各種海藻及びその多糖類、コーンファイバー、各種ガム類、こんにゃくマンナン、各種ペクチン、ヘミセルロース、リグニン、ポリデキストロース、豆等の穀物類、野菜類等がある。」

「【0027】具体的な例を挙げれば、小麦ふすま、粉末セルロース、ビール粕、リンゴ粕、おから、ココナッツ窄油残渣、各種海藻及びその多糖類、コーンファイバー、各種ガム類、ヘミセルロース、リグニン、ポリデキストロース等がある。」
と訂正する。

訂正事項(7):
「【0028】本発明に用いることのできるカルシウムは、食用に供することの可能な天然物または、食品添加物に指定されている種類、形態、品質を備えていればよいが、具体的に例を挙げれば、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、L-グルタミン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、燐酸一水素カルシウム、燐酸二水素カルシウム、燐酸三カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ピロ燐酸二水素カルシウム、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、5’-リボヌクレオチドカルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、硫酸カルシウム等がある。」

「【0028】本発明において、添加配合に用いることのできるカルシウムは、食用に供することの可能な天然物または、食品添加物に指定されている種類、形態、品質を備えていればよいが、具体的に例を挙げれば、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、L-グルタミン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、燐酸一水素カルシウム、燐酸二水素カルシウム、燐酸三カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ピロ燐酸二水素カルシウム、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、5’-リボヌクレオチドカルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、硫酸カルシウム等がある。本発明において添加するカルシウムとして、豆乳は対象としない。」
と訂正する。

4.当審では、平成17年12月14日付けで、 上記訂正について、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものではなく、訂正の目的が適法なものではなく、また、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、「特許法第134条の2第1項、及び同条第5項の規定において準用する特許法第126条第3項又は第4項の規定に適合しない。」との訂正拒絶理由を通知した。
これに対して、被請求人は、平成18年1月16日付けで、上記訂正は、適法なものであり、当該訂正は認められるべき旨の意見書を提出した。

第2 訂正の可否に対する判断
1.これらの訂正事項について検討する。
(a)訂正事項(1)〜(3)について
(a-1)いわゆる「除くクレーム」とする部分について
これについての訂正拒絶理由の概要は、この訂正は、先行技術との重なり部分のみを除くものではなく、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内においてするものとはいえない、というものである。
「特許・実用新案 審査基準 第III部 第I節 新規事項 4.2(4)」には、
「除くクレーム」への補正は、そのような「除くクレーム」が、特許明細書又は図面に記載された事項の範囲内でなければ認められないが、「請求項に係る発明が、先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号第29条の2又は第39条)を失うおそれがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該重なりのみを除く補正」は、「例外的に、当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取り扱う」こと、及び
そのような扱いをする理由は、「たまたま先行技術と重複するために新規性等を欠くことになる発明について、このような補正を認めないとすると、発明の適正な保護が図れない。」というものであること、
が記載されている。そして、この基準は、補正に関するものではあるが、訂正も補正と同様に、明細書等に記載された事項の範囲内においてされることを要件とするものであり、その点についての判断は、補正と訂正とで変わるものではないことは明らかである。
そこで、本訂正事項が、このような例外的に訂正が認められる場合に該当するか否かについて検討する。

本訂正後の請求項1及び3に記載された「添加」は、「ある物に何かをつけ加えること。そえ加えること。」(株式会社岩波書店 広辞苑第五版)を意味するものであるから、特に請求項3の記載をみれば明らかなように、この除かれる各種食品は、食物繊維、カルシウム及びマルチトール(以下、単に「3成分」ということがある)を添加する対象の食品、すなわち原料に相当する食品から除かれるものであって、3成分を添加した後の食品、すなわち目的生産物に相当する食品から除かれるものではない。そして、例えば、出発材料から除かれている食品のうちの「豆乳及びグルコマンナンを使用した食品」についてみれば、豆乳及びグルコマンナンの双方を使用した食品は除かれているものの、豆乳のみを使用した食品は除かれていないのであるから、グルコマンナンを含まない豆乳を原料として、それに食物繊維としてのグルコマンナンとカルシウム及びマルチトールを添加配合し、最終的に3成分の重量比を本件発明の重量比とした食品が含まれているものと解さざるを得ない。そして、後述の通り、甲第1号証にはこのような食品が記載されているものと認められる。
すなわち、この訂正は、先行技術との重なりのみを除くものではなく、新規事項の例外として扱われるような「除くクレーム」に該当するものとはいえない。したがって、この訂正は、願書に添付された明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえない。

被請求人は、意見書において、「甲第1号証の刊行物には、『豆乳及びグルコマンナンを使用した食品』の場合しか記載されてなく、また、審判長殿は、『グルコマンナンを含まない豆乳を原料として、それに食物繊維としてのグルコマンナンとカルシウム及びマルチトールを添加配合する場合は除かれていないと解さざるを得ない。』と認定されていますが、甲第1号証の刊行物には、そのような場合については記載されていませんから、審判長殿の上記認定は妥当なものではないと思料致します。すなわち、甲第1号証の刊行物に記載された食品のカルシウムは、豆乳の成分として含有されるもので、甲第1号証の刊行物には、別途、カルシウムを添加する場合については記載されていません。」と主張する。
しかし、甲第1号証の刊行物に記載された実施例は、豆乳を原料とした食品の製造工程において、「第三リン酸カルシウム」を添加するものであり、豆乳の成分として以外に、別途、カルシウムを添加する場合について記載されている。
また、1つの刊行物に記載された事項からは、1つの発明しか認定できないというものではなく、その把握の仕方により、種々の発明が把握しうるものであり、そのような発明については新規性が失われることは明らかである。そして、甲第1号証には、豆乳に、マルチトールを加え、食物繊維であるグルコマンナン(及びペクチン)を加え、カルシウムとして第三リン酸カルシウムを加えて、カルシウム及び食物繊維含有食品を得ることが記載されているものと認められる。また、該飲食物中の、3成分の重量比は、後述する通り、本件発明で特定する重量比(以下、「本件重量比」という)の範囲内に含まれるものと認められる。すなわち、甲第1号証には、豆乳を原料として、食物繊維、カルシウム及びマルチトールを添加配合して得た、3成分が本件重量比となる飲食物が記載されているものと認められる。
したがって、被請求人のこの点についての主張は、これを採用することができない。

(a-2)請求項3に関する部分について
これについての訂正拒絶理由の概要は、3成分の重量比が、訂正前は、添加後の飲食品についての特定であったのに対し、訂正後は、原料の食品に添加する成分についての特定になっており、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内においてするものではないし、特許請求の範囲を実質的に変更するものである、というものである。
被請求人は、意見書において、「訂正前の請求項3の記載をみれば明らかなように『食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を添加配合して調製する』と明示しているわけでありますから、訂正前のものにおいても『請求項3において特定されている3成分の重量比は、原料の飲食物に添加配合するものの重量比』を特定しているものであることは明らか」であると主張する。
しかし、訂正前の請求項3の記載は「添加配合して」ではなく「配合して」というものであり、この点で、被請求人の主張は事実に基づかないものである。
また、訂正前の請求項1の記載によれば、請求項1に係る発明は、原料飲食物中に既に含有されている3成分をも含めた、目的生産物である飲食物中の重量比を特定しているものであることは明らかである。請求項3に係る製法の発明も、その目的は、請求項1に係る飲食物自体の発明と同じであり、しかも、請求項1に係る発明の実施例と、請求項3に係る発明の実施例とが、明確に峻別されて発明の詳細な説明に記載されているわけでもないから、特に請求項1に係る発明とは、3成分の重量比の意味するところが異なると解することは不自然である。
とすると、訂正前の請求項3の「…重量部を配合して調整する…飲食物の製造方法」の意味としては、原料の飲食物中に含まれる各成分をも含めてそれらを配合する(すなわち、結果として得られる飲食物における3成分の重量比を特定範囲のものとする)との意味と解するのが自然である。
さらに、本件特許明細書に、「本発明者等は、前記課題の解決のために鋭意研究を重ねた結果、所定量のマルチトールをカルシウムと共に配合することによってカルシウムの吸収率が改善されることを確認し、所定量のマルチトールを食物繊維及びカルシウムと共に配合して食品を調製することにより、食物繊維によるカルシウム吸収阻害を防ぐことができることを見出し、また、カルシウム・マルチトール付加物を使用することによって同様の効果を得られることを見出し、従来の食品よりも著しくカルシウムの体内への吸収性が改善され、且つ食物繊維を摂取できる飲食物を調製することに成功して本発明を完成するに至った。」(【0020】)とあるように、本件発明は、飲食した時の食物繊維によるカルシウム吸収阻害を防ぐために3成分を特定の量比としているものと認められるから、その目的を達成するためには、当然その重量比は、飲食する食品に関するものであると解するのが自然である。そうでなければ、例えば、原料の飲食物中に既に食物繊維が多く含まれている場合には、添加する成分中の3成分の重量比が本件重量比であっても、カルシウム吸収阻害をもたらす食物繊維の量と比較して、マルチトールの量が少なく、十分なカルシウム吸収阻害防止効果が奏されないであろうことは容易に予測しうるところである。
以上のことから、訂正前の請求項3に係る発明は、最終的に得られる飲食物中の3成分の比を特定していると解するのが自然である。
とすると、この訂正事項により、訂正後の請求項3に係る発明は、原料の飲食品に対して添加する成分中の3成分を特定するものとなり、最終的に得られる飲食物中の3成分の比は、この重量比の範囲外であってもよいことになる。そして、このような事項については、願書に添付した明細書には記載されておらず、その記載から自明な事項であるとも認められないし、また、この訂正により特許請求の範囲が実質的に変更されることにもなる。

(b)訂正事項(5)及び(6)について
これについての訂正拒絶理由の概要は、本訂正により、本発明に用いることのできる食物繊維の例示から、野菜類や豆等の穀物類が削除されているが、特許請求の範囲において、野菜類や豆等の穀物類について除外する旨の訂正はされておらず、また、訂正後の本件発明において、添加する食物繊維として、野菜類や豆等の穀物類が含まれているのか否かも不明である(例えば、野菜類が食物繊維の摂取源として周知のものであること、何ら加工を施していない「各種海藻」については食物繊維の例示から削除されていないこと、及び、カルシウムについては実施例5のように脱脂粉乳というカルシウムが主成分とはいえないものもその例として用いられていること、等を考慮すれば、野菜類や豆等の穀物類については依然として、本件発明において添加する食物繊維からは除外されていないとも解される)から、明瞭でない記載の釈明を目的とするものとはいえない、というものである。
被請求人は、意見書において、「上記請求項1及び3における訂正から明らかなように、食物繊維は添加配合するものに限定されました。したがって、野菜類や豆等の穀物類に本来含有されている場合は除外されましたので、訂正事項(5)及び(6)の点の訂正は係る訂正に整合させたものであります。」と主張している。
しかし、訂正後の請求項1に係る発明は、「…食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を含有するようにしたことを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物」との記載から明らかなように、3成分の重量比は、最終的に得られる飲食物について特定したものである。
また、請求項1及び3の訂正により「本来含有されている場合は除外されました」との主張が仮に事実であるとしても、本訂正事項によっても、食物繊維を本来含有している各種海藻については削除されていないから、本訂正事項は請求項の訂正に対応するためのものとはいえない。
したがって、この訂正は、被請求人の主張するような、特許請求の範囲の訂正と発明の詳細な説明の記載との整合を取るための、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとは認められない

(c)訂正事項(7)について
これについての訂正拒絶理由の概要は、本訂正事項は、添加するカルシウムから豆乳を除くものであるが、訂正事項(1)の特許請求の範囲の訂正においては、添加するカルシウムから豆乳を除く旨の訂正はされていないから、不明瞭な記載の釈明を目的とするものとはいえない、というものである。
被請求人は、意見書において、「上記請求項1及び3における訂正から明らかなように、カルシウムは添加配合するものに限定されました。したがって、豆乳のように食品に本来含有されている場合は除外されましたので、訂正事項(7)の点の訂正はかかる訂正に整合させたものであります。」と主張している。
しかし、訂正後の請求項1の、「…食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を含有するようにしたことを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物」との記載から明らかなように、最終製品の飲食物について本件重量比で特定しているものであり、カルシウムが食品に本来含有されている場合は除外されているとはいえない。
また、本訂正事項は、カルシウム源から「豆乳」のみを除くものであって、実施例5に記載されたような脱脂粉乳のようなカルシウムを含む食品すべてが除かれているわけではない(逆にこのように「豆乳」を除くことにより、他のカルシウムを含む食品が含まれることが明確化したともいえる。)。
したがって、この訂正は、被請求人の主張するような、特許請求の範囲の訂正と発明の詳細な説明の記載との整合を取るための、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとは認められない(なお、カルシウム源から豆乳が除かれることは、特許明細書には記載がなく、その記載から自明な事項であるとも認められないから、新規事項を追加する訂正であるともいえる。)。

2.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合せず、同条同項ただし書き各号のいずれにも該当せず、また、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合しないから、本件訂正は認められない。 (なお、平成17年12月14日付け訂正拒絶理由通知中の、「特許法第134条の2第1項、及び同条第5項の規定において準用する特許法第126条第3項又は第4項」については、法改正時の経過措置を踏まえると正確ではないが、条項の番号が異なっても実体的要件としては変わるところはない。)

3.付記
なお、被請求人は、平成18年1月16日付け意見書において、
「【請求項1】飲食物に、小麦ふすま、粉末セルロース、ビール粕、リンゴ粕、おから、ココナッツ窄油残渣、各種海藻及びその多糖類、コーンファイバー、各種ガム類、ヘミセルロース、リグニン、ポリデキストロース、豆などの穀物類、コーンファイバー、セルロースパウダー、ポリデキストロース、ゼラチンから成る群から選ばれる1種または2種以上の混合物の食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を含有するようにしたことを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物。
【請求項3】飲食物に、小麦ふすま、粉末セルロース、ビール粕、リンゴ粕、おから、ココナッツ窄油残渣、各種海藻及びその多糖類、コーンファイバー、各種ガム類、ヘミセルロース、リグニン、ポリデキストロース、豆などの穀物類、コーンファイバー、セルロースパウダー、ポリデキストロース、ゼラチンから成る群から選ばれる1種または2種以上の混合物の食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を添加配合して調製することを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物の製造方法。」との訂正案を記載して訂正の機会の付与を要請している。
そこで、念のためこの訂正案の内容について検討すると、以下の通りである。
請求項1については、3成分の組成比が、訂正前は、最終製品である飲食物についての特定であったのに対し、訂正後は、記載が不明確ではあるが、添加する成分についての特定とも解しうるものとなっており、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内においてするものではないし、特許請求の範囲を実質的に変更するものである。
また、請求項3についても、前記1.(a-2)で指摘したと同様に、3成分の重量比が、訂正前は、添加後の飲食品についての特定であったのに対し、訂正後は、添加する成分についての特定になっており、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内においてするものではないし、特許請求の範囲を実質的に変更するものである。
さらに、食物繊維として例示されている「ゼラチン」については、食物繊維に該当するものとは認められず、また、特許明細書における、食物繊維の例示(【0027】)中には、「ゼラチン」は挙げられていない。したがって、この記載については、特許明細書中に記載された事項の範囲内での訂正とは認められない(なお、「コーンファイバー」及び「ポリデキストロース」の記載が重複しており、不明瞭でもある)。
したがって、訂正案は、適法な訂正とは認められない。

第3 本件特許発明の認定
上記のとおり本件訂正は認められないから、請求人が無効であると主張している本件特許発明1及び3は、特許された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を含有することを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物。」
及び
「【請求項3】食物繊維1重量部、カルシウム0.01〜1重量部及びマルチトール0.2〜20重量部を配合して調製することを特徴とする、カルシウム及び食物繊維含有飲食物の製造方法。」

第4 請求人の主張
1.無効の理由及び証拠方法
請求人は、本件発明1及び3は、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとし、具体的には以下のように主張している。

(無効理由1)本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(無効理由2)本件発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(無効理由3)本件発明は、甲第3号証に記載された発明(ミルクチョコレートに関するもの)であるか、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
(無効理由4)本件発明は、甲第3号証に記載された発明(「野菜600」に関するもの)及び甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

また、請求人の提出した甲各号証は、以下の通りである。
甲第1号証 : 特開昭55-77870号公報
甲第2号証 : 特開平2-289520号公報
甲第3号証 : 「新甘味料技術資料集」第198〜213頁、第1インターナショナル株式会社、昭和62年12月15日発行
甲第4号証 : 「五訂食品成分表2003」第54〜55頁、第224〜225頁、女子栄養大学出版部、平成15年1月発行
甲第5号証 : 日本栄養・食糧学会発行「第45回 日本栄養・食糧学会総会講演要旨集(平成3年4月10日発行)」第218頁、第3E-19P
甲第6号証 : 「丸善 食品総合辞典」第241頁、第960頁、丸善株式会社、平成10年3月25日発行
甲第7号証 : 判決要旨(平成4年(行ケ)第104号、平成5年(行ケ)第202号、平成7年(行ケ)第18号)

第5 被請求人の主張
一方、被請求人は、無効理由1〜3については、前記の平成18年10月18日付けの訂正請求が認められることを前提として、また、無効理由4については、本件発明の構成効果が容易に想到しうるという請求人の主張には論理的に飛躍があるとし、いずれについても失当である旨主張している。

第6 甲第1号証〜甲第6号証の記載
請求人の提出した甲第1〜6号証には、以下の記載がある。

(1)甲第1号証
(1-a)「ブリックス示度8〜12に調整した豆乳にマルチトールを主とした糖質を20〜30重量%加えて含糖豆乳となし、この含糖豆乳を攪拌しながら粉末状グルコマンナンをその含量が1.0〜2.0重量%になるように添附して均一に分散懸濁させたのち、30〜60分間熟成させ、別途有機酸添加法により調整した含糖豆乳を前記熟成したグルコマンナン入れ含糖豆乳100重量部に対し25〜35重量部の割合で混合することを特徴とする豆乳及びグルコマンナンを使用した食品の製造法。」(特許請求の範囲)
(1-b)「4 実施例 (1)ブリックス示度10に調整した、豆乳29Kgを用意し、これを40℃〜50℃に加温し、還元麦芽糖水飴(マルチトール75%)10Kg及び果糖1Kgを混合し溶解する。この含糖豆乳を高速攪拌混合機(ハイパー)に移し、精整されたグルコマンナン粉末750gを徐々に混合し、充分均一に分散、懸濁させる。(2)……………(3)別に果糖2Kgへ、ペクチン100g、カラゲーナン120g、蔗糖エステル80g及び第三リン酸カルシウム500gの粉体を混合し、これをブリックス示度10に調整し、60℃〜65℃に加温した豆乳10Kgの中へ徐々に混入し、撹拌溶解せしめる。これはグルコマンナン入り含糖豆乳への混合に用いる。(4)……(5)………(6)仕上りたる製品は60℃以上の高温時に充填機にて、カップ詰シールを行い、直ちに85℃〜90℃の熱湯中にて殺菌を行うがカップ詰内容量100gの場合殺菌時間は約30分である。(7)製品の糖度は約20%、PHは4.6〜4.8となり、製品の収量は仕込量の92〜93%で47Kg〜48Kgである。」(第2頁右下欄第2行~第3頁左上欄第20行)

(2)甲第2号証
(2-a)「ブルランまたはデキストランを有効成分として含有せしめたビフィズス菌増殖促進剤。」(特許請求の範囲)
(2-b)「実施例8 経口摂取用ビフィズス菌増殖促進剤 ブルラン(分子量約100、000)30重量部、無水結晶マルチトール(林原商事株式会社販売、登録商標マビット)18重量部、0.1W/W%ビフィズス菌含有マルトース粉末2重量部、第三リン酸カルシウム1重量部、シュガーエステル1重量部および粉末香料適量を均一に混合した後、常法に従って、1錠約400mgになるように打錠機にて打錠し、錠剤タイプのビフィズス菌増殖促進剤を得た。本剤を、成人1日当り、約1乃至4 0錠、望ましくは、約2乃至20錠摂取することにより、ビフィズス菌増殖促進効果、食物繊維効果を発揮する。」(第6頁左下欄第8行~第19行)
(2-c)「また、本発明で使用されるブルラン、デキストランは無毒、無害で安全性も高く、既に工業的に大量生産されていることから、本発明のビフィズス菌増殖促進剤は、その工業生産にきわめて有利な条件を備えており、医薬品、健康食品、飼料などの分野における工業的意義はきわめて大きい。」(第7頁右下欄第1行~第6行)

(3)甲第3号証
(3-a)「マルチトールは、商品名がアマルティ…として販売されている。」(200頁6〜8行)
(3-b)「11.2.3.6 栄養補助食品(表11.9) (1)ビタミン類の安定化効果。(2)ミネラルの吸収促進効果が期待できる。(3)錠剤、顆粒剤の賦形剤として、成型し易く、低吸湿性であることから品質保持にも有効である。」(212頁1〜5行)
(3-c)「粉末マルチを使用した栄養補助食品の例」と題して、商品名「野菜6 0 0」について、その成分が 「野菜パウダー、アマルティ、カキ殻パウダー、ビタミンC, B1, B2, B6, D, E」であること(211頁の表11.9)
(3-d)「最後にマルチトールを使用した食品の配合例を、いくつかご紹介する(表11.11、11.12、11.13、11.14)。」(212頁下から7〜5行)
(3-e)「シュガーレスチョコレート」と題し、「ミルクチョコレート配合例(%)」として、「アマルティ40、カカオマス20、ココアバター20、全脂粉乳20、レシチン0.3〜0.5、香料少量」(213頁の表11.11)

(4)甲第4号証
(4-a)「4-豆類」と題し、「豆乳」の「可食部100 g当たり」の成分として、「カルシウム15mg」及び「食物繊維、総量0.2 g」が含まれていること(第54〜55頁)
(4-b)「15-菓子類」と題し、「ミルクチョコレート」の「可食部100 g当たり」の成分として、「カルシウム240mg」及び「食物繊維総量3.9g」が含まれていること(第224〜225頁)

(5)甲第5号証
「カルシウムの腸管吸収に及ぼすマルチトール摂取の影響」と題し、
(5-a)「そこで、本研究では、小腸の二糖類水解酵素によって分解されにくい二糖アルコールであるマルチトールを摂取した場合に、Caの腸管吸収にどのような影響を及ぼすかを検討した。」(6〜8行)、
(5-b)「[方法] 6週齢の Wistar 系雄ラットに、いずれも0.44%のCaを含む(1)対照食、(2)マルチトール(10%)食、あるいは(3)ラクトース(10%)食を自由摂取させて2週間飼育した後、ラットを5日間代謝ケージにて飼育し、尿・ふんを採取して、この5日間のCa出納を測定した。 [結果と考察] Ca出納期間5日間の各群の食餌摂取量は同様であり、Ca摂取量に差異はなかった。ふんの乾重量にも差はみられなかったが、ふん中Ca排泄量は、マルチトール群では他の群に比べて有意に少なく、見かけのCa吸収率とCa保持率は、マルチトール摂取によって有意に増大していた。………従って、マルチトールのように小腸で消化・吸収される速度の遅い糖アルコールは小腸下部に到達して、Caの腸管吸収を高めるように作用するものと推察される。」(9〜20行)

(6)甲第6号証
(6-a)「カルシウム含有食品[food containing calcium] 健康食品の一つ。カルシウム含有原料として、牛骨、魚骨、かに甲羅、かき(牡蛎)殻、真珠貝殻、卵殻、海藻……」(第241頁の「カルシウム含有食品」の項)
(6-b)「プルラン[Pullulan] …通常の消化酵素には耐性であるが、腸内細菌によって発酵される水溶性食物繊維。……」(第960頁の「プルラン」の項)

第7 無効理由1について
甲第1号証には、その実施例(前記記載事項(1-b))において、豆乳39Kg、マルチトール7500g、グルコマンナン750g、カラゲーナン120g(なお請求人はこれを食物繊維に含めていないが、難消化性の硫酸多糖であり、一般的には食物繊維の一種とされている)、ペクチン100g、第三リン酸カルシウム500gを含む食品が記載されているものと認められる。
そこで、甲第1号証に記載された食品における3成分の含有量について以下検討する。
(1)カルシウムの含有量
豆乳中には、100g当たりカルシウムが15mg含まれている(甲第4号証の前記記載事項(4-a)を参照)から、豆乳39Kg中には、5.85gのカルシウムが含まれている。
また、リン酸第三カルシウムの分子量は310であり、そこに3原子含まれているカルシウムの分子量は40×3=120であるから、リン酸第三カルシウム中に占めるカルシウム量は39%である。とするとリン酸第三カルシウム500g中に含まれるカルシウム量は、195gである。
したがって、甲第1号証に記載された食品中には、カルシウムが5.85+195=200.85g含まれている。
(2)食物繊維の含有量
豆乳中には、100g当たり食物繊維が0.2g含まれている(甲第4号証の前記記載事項(4-a)を参照)から、豆乳39Kg中には、78gのカルシウムが含まれている。
そして、グルコマンナン、ペクチン、カラゲーナンはいずれも食物繊維に該当するから、甲第1号証に記載された食品中には、78+750+120+100=1048gの食物繊維が含まれている。
(3)3成分の重量比
以上の通り、甲第1号証に記載された食品中には、カルシウムが200.85g、食物繊維が1048g、マルチトールが7500g含まれているものと認められる。したがって、食物繊維を1重量部とした場合、カルシウムは0.19重量部、マルチトール7.2重量部になる。
(4)対比・判断
以上のように、甲第1号証には、3成分の比が本件の請求項1において特定された重量比の範囲に包含されるカルシウム及び食物繊維含有食品が記載されているから、本件発明1は、特許法第29条1項3号に該当し、本件発明1に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
また、甲第1号証に記載された食品は、本件発明3において特定された重量比の範囲に包含される3成分の量を含む各種食品素材を配合した結果得られたものであるから、本件発明3についても同様である。

第8 無効理由2について
甲第2号証には、実施例8として、プルラン30重量部、マルチトール18重量部、第三リン酸カルシウム1重量部を含む錠剤タイプのビフィズス菌増殖促進剤が記載されている。ここで、プルランは食物繊維に該当する(甲第6号証の前記記載事項(4-b)を参照)。
また、甲第2号証記載の「錠剤タイプのビフィズス菌増殖促進剤」は、前記記載事項(2-c)からも明らかなように、健康食品、すなわち食品にも相当するものである。
そこで、甲第2号証に記載された食品における3成分の含有量について検討すると、第三リン酸カルシウム中に占めるカルシウム量は、上記「第7 無効理由1について」で述べたように39%であるから、甲第2号証に記載された食品は、食物繊維1重量部に対して、カルシウムを0.013重量部、マルチトールを0.6重量部含むものである。
以上のように、甲第2号証には、3成分の比が本件の請求項1において特定された重量比の範囲に包含されるカルシウム及び食物繊維含有食品が記載されているから、本件発明1は、特許法第29条1項3号に該当し、本件発明1に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
また、甲第2号証に記載された食品は、本件発明3において特定された重量比の範囲に包含される3成分の量を含む各種食品素材を配合した結果得られたものであるから、本件発明3についても同様である。

第9 無効理由3について
甲第3号証には、前記記載事項(3-a)、(3-d)及び(3-e)の記載からみて、甘味成分としてマルチトールを40%を含むミルクチョコレートが記載されている。
ミルクチョコレートは、一般に、可食部100g当たりカルシウム240mg及び食物繊維を3.9g含むものであるから(甲第4号証の前記記載事項(4-b)を参照)、甲第3号証には、食物繊維1重量部当たり、カルシウムを0.06重量部、マルチトールを10.3重量部含有する食品が記載されているものと認められる。
以上のように、甲第3号証には、3成分の比が本件の請求項1において特定された重量比の範囲に包含されるカルシウム及び食物繊維含有食品(ミルクチョコレート)が記載されているから、本件発明1は、特許法第29条1項3号に該当し、本件発明1に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
また、甲第3号証に記載された食品は、本件発明3において特定された重量比の範囲に包含される3成分の量を含む各種食品素材を配合した結果得られたものであるから、本件発明3についても同様である。

第10 無効理由4について
甲第3号証には、前記記載事項(3-a)〜(3-c)の記載からみて、野菜パウダー、マルチトール、及びカキ殻パウダーを主成分とする「野菜600」と証する栄養補助食品が記載されている。ここで、食品分野において、野菜は食物繊維源として、カキ殻パウダーはカルシウム源として、いずれも周知である(例えば、甲第6号証の前記記載事項(6-a)を参照)から、甲第3号証には、食物繊維、カルシウム及びマルチトールを配合して調整した、カルシウム及び食物繊維含有食品が記載されているものと認められる。
本件発明1と甲第3号証に記載された発明(引用発明)とを比較すると、両者は、食物繊維、カルシウム及びマルチトールを含有する、カルシウム及び食物繊維含有飲食物である点で一致し、3成分の重量比が、本件発明1では、それぞれ1重量部、0.01〜1重量部、及び0.2〜20重量部に特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がされていない点で相違している。
そこでこの相違点について検討する。
本件特許明細書の段落【0006】や【0008】にも記載されているように、食物繊維の好ましい摂取量が30g/一日であること、及びカルシウムの標準所要量が600mg/一日であることは、周知である。この両者の一日あたり摂取量の重量比は、食物繊維1重量部に対して、カルシウムが0.02重量部というものであり、栄養補給を目的とする食品等において、栄養成分の重量比を各成分の必要摂取量の比と同等のものとすることは、当業者であれば当然考慮することであるから、引用発明の食品において食物繊維とカルシウムの重量比をこの程度のものとすることは、当業者が容易に想到しうることに過ぎない。
また、甲第3号証の前記記載事項(3-b)からみて、引用発明のマルチトールが、カルシウム等のミネラルの吸収促進効果をも期待して使用されているものであることは明らかである。また、甲第5号証にも、マルチトールがカルシウム吸収促進効果を有することが記載されている。したがって、引用発明のようなカルシウムとマルチトールとを含む飲食物において、マルチトールのカルシウムの吸収促進効果が発揮できるように、その含有量を最適化し、本件発明において特定されているような範囲のものとすることは、当業者にとっては通常の創作能力の発揮に過ぎない。
そして、3成分の重量比を、本件発明1のように特定することにより奏される効果は、甲第3号証及び甲第5号証から予測しうる程度のカルシウム吸収促進効果を超えて顕著なものということもできない。
したがって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明1の食品は、本件発明3において特定された3成分の重量比となるように各種食品素材を配合することにより得られることは明らかであるから、本件発明3についても同様である。
被請求人は、平成17年10月18日付け答弁書において、甲3号証の記載から本件発明1及び3の構成、効果が容易に想到しうるという主張には飛躍がありすぎて、論理的に無理があり、失当であることは明らかである旨主張するが、単に無理があるとのみ主張するだけであって、その具体的根拠を示していないから、この主張は採用できない。

第11 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び3は、甲第1〜3号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し(無効理由1〜3)、また、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定に違反する(無効理由4)から、本件の請求項1及び3に係る発明の特許は、特許法29条の規定に違反してなされたものであって、同法123条1項2号に該当し無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-11 
結審通知日 2006-05-16 
審決日 2006-05-29 
出願番号 特願平3-174712
審決分類 P 1 123・ 841- ZB (A23L)
P 1 123・ 853- ZB (A23L)
P 1 123・ 855- ZB (A23L)
P 1 123・ 121- ZB (A23L)
P 1 123・ 113- ZB (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上條 肇  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 河野 直樹
鈴木 恵理子
登録日 1999-04-30 
登録番号 特許第2920434号(P2920434)
発明の名称 カルシウム及び食物繊維含有飲食物とその製造方法  
代理人 小林 茂雄  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 小澤 誠次  

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