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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1140206
審判番号 不服2005-8109  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-01-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-02 
確定日 2006-07-18 
事件の表示 平成9年特許願第152452号「リニアガイド装置及びボールねじ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年1月6日出願公開、特開平11-2243〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本件出願は、平成9年6月10日の出願であって、その請求項1及び2に係る発明は、平成18年4月24日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1の記載は以下のとおりである。
(なお、平成17年6月1日付け手続補正は、当審において、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により別途決定をもって却下された。)

「【請求項1】
転動体の転動を介してスライダが案内レールに沿って移動し、前記スライド(審決註:「スライダ」の誤記と認める。)の端部に潤滑剤供給体を備えるリニアガイド装置であって、
該潤滑剤供給体として、潤滑剤を含有した合成樹脂から構成され、潤滑を必要とする複数の部材に適用されて、この部材に対して前記合成樹脂から徐々に滲出して来る潤滑剤を供給するように構成され、前記潤滑剤がFDA(米国食品医薬品局)の基準に適合した流動パラフィン、または流動パラフィンを基油とし増ちょう剤をアルミニウム石けんとしたグリースからなるとともに、前記合成樹脂がポリオレフィン系合成樹脂からなる潤滑剤供給体を使用してなり、前記潤滑剤供給体中の前記潤滑剤の含有量が50〜80重量%であり、前記ポリオレフィン系合成樹脂がFDAの基準に適合した酸化防止剤及び紫外線吸収剤の少なくとも一方を0.001〜0.05重量%含有するFDAの基準に適合したポリオレフィン系合成樹脂であり、
前記スライダの内部に、FDAの基準に適合した流動パラフィンを基油とし、増ちょう剤がアルミニウム石けんであるグリースが充填されていることを特徴とする、
リニアガイド装置。」

2.引用刊行物
これに対し、当審において、平成18年2月23日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である次の刊行物A〜Gには、概略以下の技術的事項が記載されている。

刊行物A:特開平6-346919号公報
刊行物B:特開平2-209995号公報
刊行物C:特開平7-173480号公報
刊行物D:特開昭63-57661号公報
刊行物E:特開平8-117245号公報
刊行物F:特開平9-14452号公報
刊行物G:実願平5-33341号(実開平7-4952号)のCD-ROM

(2-1)刊行物A
「リニアガイドのシール装置」に関し、図面とともに次の記載がある。
[A-イ]「【産業上の利用分野】本発明は、工作機械,産業機械等に用いられるリニアガイドのシール装置の改良に関する。」(2頁1欄19〜21行、段落【0001】)
[A-ロ]「【課題を解決するための手段】上記の目的を達成する本発明は、軸方向の転動体転動溝を有する案内レールと、その案内レールの転動体転動溝に対向する転動体転動溝を有しかつこの溝に平行な転動体戻り通路及びこの通路と前記溝とを連通させる湾曲路を有し前記対向する転動体転動溝内を転動する多数の転動体の転動により前記案内レールに案内されて相対移動するスライダよりなるリニアガイドの前記スライダに取付けられ、スライダ内面と案内レールの外面との間に介在されるリニアガイドのシール装置に係り、前記シール装置は潤滑剤含有のゴム又は合成樹脂により形成したシールリップ部を有し、そのシールリップ部が前記案内レールの外面と接触して前記スライダ内面と前記案内レールの外面との間のすきまの開口をシールするように構成したことを特徴とする。」(2頁2欄45行〜3頁3欄8行、段落【0008】)
[A-ハ]「【発明の効果】以上説明したように、本発明のリニアガイドのシール装置は、潤滑剤含有のゴム又は合成樹脂により形成したシールリップ部を有し、そのシールリップ部が案内レールの外面と接触してスライダ内面と案内レールの外面との間のすきまの開口をシールするように構成したため、常時連続的に潤滑剤含有のシール本体から潤滑剤がシール部位に供給されて、その結果、たとえ木片や鋳物粉等のゴミが振りかかるような環境下で使用しても、格別に摩耗が促進されることがなく低摩擦が維持できて良好な作動性及び防塵性が確保できるという効果を奏する。」(4頁5欄39行〜6欄7行、段落【0023】)
[A-ニ]「また、従来のグリース封入のリニアガイド装置ではグリースの一部しか有効に使えないのに対して、本発明の潤滑剤含有のシール装置の場合は含有する殆ど全部の潤滑剤が使えて長期にわたり補給せずに済むという効果がある。」(4頁6欄8〜12行、段落【0024】)

上記摘記事項から、刊行物Aには、転動体の転動を介してスライダが案内レースに沿って移動し、スライダの端部にサイドシールを備えるリニアガイド装置が記載され、そのサイドシールのシールリップ部は、潤滑剤を含有した樹脂からなり、潤滑を必要とする複数の部材に対し、該樹脂から徐々に滲出して来る潤滑剤を供給するように構成されているものと認められる。
以上からみて、刊行物Aには次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

[引用発明]
転動体の転動を介してスライダが案内レースに沿って移動し、スライダの端部にサイドシールを備えるリニアガイド装置であって、該サイドシールのシールリップ部は、潤滑剤を含有した合成樹脂から構成され、潤滑を必要とする複数の部材に適用されて、この部材に対して前記合成樹脂から徐々に滲出して来る潤滑剤を供給するように構成されてなるリニアガイド装置

(2-2)刊行物B
「食品加工機械用潤滑油組成物」に関し、次の記載がある。
[B-イ]「食品加工機械は、人間の口に入る食物を製造したり、植物の味に関与する機械であるという点から、その安全性および衛生性には十分注意を払わなければならない。
従って、従来、食品加工機械の軸受、歯車、滑り案内面、油圧系統等に使用する潤滑油としては、その安全性の点から、動植物油や流動パラフィンが用いられてきた。」(2頁上段左欄7〜14行)
[B-ロ]「本発明は、(I)一般式(略)で表される飽和脂肪酸グリセリドを基油とし、これに必須成分として、
(II)炭素数12〜22の脂肪酸を組成物全量を基準として0.001〜5重量%配合してなる食品加工機械用潤滑油組成物を提供するものである。」(2頁上段右欄20行〜下段左欄12行)
[B-ハ]「他の添加剤を配合する場合は、人体に対して無毒性のものを用いる必要があり」(3頁上段右欄18行〜19行)
[B-ニ]「これら添加剤は単独で添加してもよく、また数種類併用して添加しても良い。添加量も任意である」(3頁下段左欄13〜15行)

(2-3)刊行物C
「潤滑油組成物」に関し、次の記載がある。
[C-イ]「従来から農産物、畜産物、水産物等の原材料を食品に加工する場合6、種々の食品加工機械が利用されており例えば、農産物加工では製粉機械、醸造機械、製パン機械、製菓機械など、畜産物加工では牛乳加工機械、乳製品製造機械など、水産物加工では魚肉加工機械などがあり、その他食品添加物、医薬品の製造機械など食品、医薬品製造に際し幅広く種々の機械が利用されている。従来これらの加工機械には潤滑油として、鉱物油や流動パラフィンなどの鉱物系油、牛脂、豚脂等の動物系油脂などが用いられている。」(2頁1欄21〜30行、段落【0002】)

(2-4)刊行物D
「シリンジ用ガスケツト」に関し、次の記載がある。
[D-イ]「本発明は、上記した従来の提案で示されるエラストマー成形材料では困難であつた問題点を解決すべくなされたものであつて、………(中略)………特定の構造を有する水添ブロツク共重合体を使用した特定の成分からなる熱可塑性エラストマー材料によつて充分に達成され、ゴム弾性と摺動特性、さらには安全性に優れたシリンジ用ガスケツトであることを見い出しなされたものである。
すなわち、本発明は、
(a)………(中略)………水添ブロツク共重合体 100重量部
(b)パラフイン系オイル 30〜200重量部
(c)ポリオレフイン系樹脂および/またはポリスチレン樹脂 10〜200重量部
から成る熱可塑性エラストマー材料で成形したシリンジ用ガスケツトを提供するものである。」(2頁下段左欄4行〜右欄9行)
[D-ロ]「ここで供するパラフイン系オイルは流動パラフインと呼ばれるものが使用でき、石油の潤滑油留分に含まれる芳香族炭化水素やイオウ化合物等の不純物を無水硫酸や発煙硫酸で取除き、精製された飽和炭化水素からなる無色透明、無味、無臭のオイルであり、日本薬局方(J.P.)食品添加物規格、化粧品原料基準および紫外吸光度試験(260〜350nm)等に合格した流動パラフインが使用できる。
また本発明では(b)成分として、上述した流動パラフインのほかに、FDA(米国食品医療品局)で許可されている石油系の軟化剤も有用できる。」(4頁下段左欄7〜18行)
[D-ハ]「上記に挙げた本発明に供することの(a)〜(c)成分のほかに、必要に応じて本発明のシリンジ用ガスケツトの成分として添加可能なものは、酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、着色剤、シリコーンオイル等を挙げることができる。」(5頁下段左欄7〜12行)

(2-5)刊行物E
「歯科用ハンドピース」に関し、図面とともに次の記載がある。
[E-イ]「【産業上の利用分野】本発明は歯科用ハンドピースに関し、特に、内蔵した潤滑剤を自動供給する軸受機構を備えることにより、毎分30万回転以上の高速回転と100℃を越える殺菌消毒温度にしばしばさらされる工具回転軸の長期間にわたる安定した作動を可能にする歯科用ハンドピースに関する。」(2頁1欄13〜18行、段落【0001】)
[E-ロ]「【課題を解決するための手段】上記の目的を達成する本発明は、………(中略)………歯科用ハンドピースに係り、前記軸受は、耐熱性を有する潤滑剤供給材を軸受内部に有し、該潤滑剤供給材から供給される潤滑剤で潤滑される外輪,内輪及び多数の転動体を少なくとも備えていることを特徴とするものである。」(2頁2欄3〜12行、段落【0006】)
[E-ハ]「本発明にいうところの「耐熱性を有する潤滑剤供給材」とは、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)その他のいわゆる自己潤滑性材料、耐熱性耐油性の樹脂組成物の成形体に潤滑剤を含浸させた含油樹脂材、ポリα-オレフィン系などのポリマに潤滑剤を混合してなる混合物としての潤滑油含有ポリマ材を包含するものである。」(3頁4欄18〜24行、段落【0018】)
[E-ニ]「歯科用ハンドピースは口中に入れて使用されることから、人体に害の無いことが重要であり、この見地から鉱油を最高度に精製した流動パラフィン等が推奨できる。」(5頁7欄12〜15行、段落【0032】)
[E-ホ]「(3)ポリマに潤滑剤を混合してなる潤滑油含有ポリマ材について:本発明にかかる軸受に使用する潤滑油含有ポリマ材は、その使用態様に二種類ある。一つは潤滑油含有ポリマ材を保持器の成形材料とするもの、他は潤滑油含有ポリマ材を軸受内部空間に充填する充填物とするものである。
このような態様で本発明にかかる転がり軸受に使用する潤滑油含有ポリマ材は、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブチレン,ポリメチルペンテン等のポリα-オレフィン系ポリマの群から選定したポリマに、潤滑剤としてポリα-オレフィン油のようなパラフィン系炭化水素油,たとえば流動パラフィン,ナフテン系炭化水素油,鉱油,ジアルキルジフェニールエーテル油のようなエーテル油,フタル酸エステル,トリメリット酸エステルのようなエステル油等のいずれかを混合してなる混合物である。
上記ポリマの群は、分子構造は同じでその平均分子量が異なっており、1×103 〜5×106 の範囲に及んでいる。その中で、平均分子量1×103 〜1×106 という比較的低分子量のものと、1×106 〜5×106 という超高分子量のものとを単独若しくは必要に応じて混合して用いる。」(5頁8欄7〜28行、段落【0035】〜【0037】)
[E-ヘ]「上記潤滑油の代わりに、それらの潤滑油を基油とするグリースを使用することができる。その場合、基油潤滑油にリチウム石けん等の公知の金属石けん類を適量添加して調合される。」(6頁9欄32〜35行、段落【0042】)
[E-ト]実施例における試験用の材質として、次が記載されている。
「潤滑含有ポリ:超高分子ポリエチレン(PE)10重量%,PE60重量%
マ材 :,ガラス繊維20重量%,ポリ-α-オレフィン油10重量%を混合した混合物を保持器に成形したもの。」(7頁12欄23〜27行、段落【0055】)
[E-チ]「表2から明らかなように、保持器の潤滑油量が増加するに従い軸受寿命が長くなっている。」(7頁12欄44〜45行、段落【0058】)
上記摘記事項から、潤滑剤供給材は、潤滑油含有ポリマからなり、該潤滑剤供給材から供給される潤滑剤で外輪、内輪及び多数の転動体を潤滑するものであること([E-ロ])、潤滑剤が流動パラフィン([E-ホ])を使用することができること、潤滑油含有ポリマ中の潤滑油の含有量は、ポリ-α-オレフィン油で10重量%の例が示されていること、等が看取できる。

(2-6)刊行物F
「オイルシールリップの潤滑構造」に関し、図面とともに次の記載がある。
[F-イ]「軸とこれを包囲する外周部材との間に介装されたオイルシールのリップを潤滑するための構造において、
環状の潤滑剤含有プラスチック成形体を、その内周面が前記軸のオイルシール近傍部分に接触する状態で前記外周部材に固定するか、または、前記軸のオイルシール近傍部分に固定したことを特徴とするオイルシールリップの潤滑構造。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
[F-ロ]「前記潤滑剤含有プラスチック成形体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系ポリマーから選定されたポリマーに、潤滑剤として、ポリα-オレフィン油のようなパラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、鉱油、ジアルキルジフェニルエーテルのようなエーテル油、フタル酸エステルおよびトリメリット酸エステルのようなエステル油等のいずれかを混合して加熱溶融した後、所定の型に注入して加圧しながら冷却固化させて成形したものであり、例えば圧縮成形や射出成形により製造される。」(2頁2欄14〜24行、段落【0007】)
[F-ハ]「この潤滑剤含有プラスチック成形体の前記ポリマーと潤滑剤との存在比は、前記ポリマー:潤滑剤=20〜90重量%:80〜10重量%であることが好ましい。前記ポリマーの含有量が20重量%未満であると、成形体としての強度が得られない。また、前記ポリマーの含有量が90重量%を超える(潤滑剤の含有量が10重量%未満となる)と、潤滑剤の供給量が不足する。」(2頁2欄50行〜3頁3欄7行、段落【0011】)

上記摘記事項及び図面の記載から、刊行物Fにはシールリップを備えるオイルシール装置が記載され、該シールリップへの潤滑剤の供給用の部材が、潤滑剤を含有した樹脂からなり、潤滑を必要とする複数の部材に対し、該樹脂から徐々に滲出して来る潤滑剤を供給するように構成されており、合成樹脂としてポリオレフィン系ポリマーが例示されていることが看取できる。

(2-7)刊行物G
「含油ポリマ潤滑ボールねじ」に関し、図面とともに次の記載がある。
[G-イ]「外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸に遊嵌される内周面に前記ねじ軸のねじ溝に対応するねじ溝を有するボールねじナットと、前記両ねじ溝間の螺旋状空間内を転動する多数のボールとを具えたボールねじにおいて、
前記ボールねじナットの内部に前記ねじ軸のねじ溝面と摺接する潤滑油含有ポリマ部材を取り付けたことを特徴とする含油ポリマ潤滑ボールねじ。」(【実用新案登録請求の範囲】【請求項1】)
[G-ロ]「【作用】
本考案の含油ポリマ潤滑ボールねじは、潤滑油含有ポリマ部材から潤滑油が経時的に徐々に滲み出してねじ軸のねじ溝面に均一にくまなく供給され、長期間にわたり安定した潤滑が行われる。
また、潤滑油含有ポリマ部材をシール部材としても兼用することにより、ボールねじ内部が外部から遮断されるから、水中や腐食性ガス雰囲気などの悪環境下でも長期間にわたり円滑な潤滑作用を維持する。」(5頁18〜24行、段落【0008】)
[G-ハ]「本考案のボールねじに使用される潤滑油含有ポリマ部材は、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブチレン,ポリメチルペンテン等の基本的に同じ化学構造を有するポリα-オレフィン系ポリマーの群から選定したポリマに、潤滑油としてポリα-オレフィン油のようなパラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、鉱油、ジアルキルジフェニルエーテル油のようなエーテル油、フタル酸エステル・トリメリット酸エステルのようなエステル油等の何れかを混合して加熱溶融した後、所定の型に注入して加圧しながら冷却固化させて成形したものであり、予め酸化防止剤,錆止め剤,摩耗防止剤,あわ消し剤,極圧剤等の各種の添加剤を加えたものでもよい。」(5頁25行〜6頁5行、段落【0009】)

上記摘記事項及び図面の記載から、刊行物Gには潤滑剤を供給する含油ポリマ部材を備えるボールねじが記載され、該含油ポリマ部材は、潤滑剤を含有した樹脂からなり、潤滑を必要とする複数の部材に対し、該樹脂から徐々に滲出して来る潤滑剤を供給するように構成されており、合成樹脂としてポリオレフィン系ポリマーが例示されていることが看取できる。

3.対比
請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と上記引用発明とを対比すると、後者の「シールリップ部」は前者の「潤滑剤供給体」に相当し、サイドシールがスライダの端部に位置することは明らかであるから、本願発明の用語に倣うと、両者は、次の一致点及び相違点(相違点1〜4)を有する。

[一致点]
転動体の転動を介してスライダが案内レールに沿って移動し、前記スライダの端部に潤滑剤供給体を備えるリニアガイド装置であって、該潤滑剤供給体として、潤滑剤を含有した合成樹脂から構成され、潤滑を必要とする複数の部材に適用されて、この部材に対して前記合成樹脂から徐々に滲出して来る潤滑剤を供給するように構成されてなるリニアガイド装置

[相違点1]
本願発明においては、潤滑剤が「FDA(米国食品医薬品局)の基準に適合した流動パラフィン、または流動パラフィンを基油とし増ちょう剤をアルミニウム石けんとしたグリースからなる」ものであるのに対し、引用発明の潤滑剤は不明である点
[相違点2]
本願発明においては、潤滑剤供給体を構成する合成樹脂が、「ポリオレフィン系合成樹脂」であり、「前記ポリオレフィン系合成樹脂がFDAの基準に適合した酸化防止剤及び紫外線吸収剤の少なくとも一方を0.001〜0.05重量%含有するFDAの基準に適合したポリオレフィン系合成樹脂」であるのに対し、引用発明の潤滑剤供給体に相当するシールリップ部を構成する合成樹脂がどのようなものを使用するか不明である点
[相違点3]
本願発明においては、「潤滑剤供給体中の前記潤滑剤の含有量が50〜80重量%」であるのに対し、引用発明においては、流動パラフィンを使用した場合の含有量は不明であり、ポリ-α-オレフィン油の例で10重量%が示されているに留まる点
[相違点4]
本願発明においては、「スライダの内部に、FDAの基準に適合した流動パラフィンを基油とし、増ちょう剤がアルミニウム石けんであるグリースが充填されている」のに対し、引用発明はその点の構成を備えていない点

4.当審の判断
(4-1)まず、上記相違点1について検討すると、食品製造機械や、医療用機器等に用いられる潤滑剤は、安全性等を考慮して、その種類が選択されるものであって、その観点から、従来より流動パラフィンが汎用されており(刊行物B〜Dの上記摘記事項参照)、用途に応じて、日本薬局方や食品添加物規格等の各種規格に適合したものが採用されているものである(刊行物D)。
そして、そのような規格の一つとして、FDAも周知といえるもの(刊行物D参照)であってみれば、安全性を考慮すべき機器に使用する潤滑剤を、FDAの基準に適合したものとするようなことは、当業者が必要に応じて適宜採択し得ることと認められる。
また、流動パラフィンに代えて、流動パラフィンを基油とし金属石けん類を添加して調合されたグリースを潤滑剤とすることも、刊行物E(摘記事項[E-ヘ])に示されるように、必要に応じて採用されることにすぎず、またアルミニウム石けんは、金属石けんとしてリチウム石けんと同様に周知のものにすぎず、増ちょう剤としても、リチウム石けんと同様汎用されている(例えば、特開平4-253794号公報の3頁3欄4〜7行参照)。
したがって、引用発明において相違点1に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(4-2)次に上記相違点2について検討するに、潤滑性が要求される樹脂組成物に用いられる合成樹脂としてポリオレフィン系合成樹脂を採用することは周知の技術的事項である(刊行物D〜Gの各摘記事項参照)。
そして、各種樹脂組成物においては、目的とする成形物の使用態様に応じて、酸化防止剤や紫外線吸収剤などの添加剤が適宜加えられるものであって、潤滑性樹脂組成物であっても特別なことではない(刊行物Dの上記摘記事項[D-ハ]参照。刊行物B及びCにおいても、「炭素数12〜22の脂肪酸」は酸化安定性のために配合されるものである。)
また、食品加工機械などに用いるために、潤滑剤に安全性が求められ、安全性に関する所定の基準を満たす潤滑剤を用いるのであれば、添加剤についても、同様に安全性が求められるものであり、潤滑剤と同様にFDAの基準に適合したものを用いることは当業者が容易になし得ることにすぎない(上記摘記事項[B-ハ])。
なお、添加剤の配合量は必要に応じて適宜採択されるものであって(上記摘記事項[B-ニ])、本願明細書の記載の限りにおいては、本願発明で特定する数値範囲に臨界的意義があるものとも認め難い。刊行物B及びCにおける上記脂肪酸の配合量も「0.001%〜5重量」と、本願発明で特定する配合量の範囲に入るものである。
したがって、引用発明において相違点2に係る本願発明の構成を採用することは当業者が必要に応じて容易に想到し得ることとするのが相当である。

(4-3)相違点3について検討すると、樹脂組成物の各成分の配合割合は目的に応じて当業者が適宜採択し得るものであって、潤滑剤含有合成樹脂における潤滑剤の含有量についても、特別な事情があるものとは認められない。
刊行物Eに記載された潤滑剤供給体においては、実施例で採用している含有量は比較的小さい数値となっているが、潤滑剤の含有量が増加するに従い軸受寿命が長くなっている(摘記事項[E-チ])。刊行物Eにおいて含有量が少なめであるのは、潤滑剤供給体が保持器に成形されているため、その構造から効率の良い含有量を採用しているものと解される。
しかしながら、潤滑剤供給体なのであるから、含有量が多いほど長期間に効果があることは明らかであり、適用箇所の構造が許す限り、含有量を増やすことは当業者であれば容易に想到し得ることといえる。
例えば、刊行物Fの摘記事項[F-ハ]や刊行物Gの摘記事項[G-ニ]に示されるように、潤滑剤含有合成樹脂における潤滑剤の割合を50〜80重量%と比較的多めとすることも必要に応じて採用されている。
そして、刊行物A記載のリニアガイド装置の潤滑剤供給体において、その構造からみて、潤滑剤の含有量を多くすることが不可能であるとは認められない。
してみると、リニアガイド装置における潤滑剤供給体の潤滑剤含有量を多目に設定すること、その具体的数値範囲を想定することが、当業者にとって格別困難なこととはいえない。
したがって、引用発明において相違点3に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が必要に応じて容易に想到し得ることである。

(4-4)さらに、相違点4について検討するに、本願明細書にはスライダ内部にグリースが充填されていることの作用効果は記載されていない。単に、充填されていて良い旨の記載があるのみである。
そもそも、潤滑剤含有ポリマーが潤滑剤供給体として採用されるようになったのは、従来の封入型のものではグリースの一部しか有効に使えなかったことを改善するためのものと解され(刊行物Aの上記摘記事項[A-ニ]参照)、引用発明においても、スライダ内部に予めグリースを存在させることを妨げるものではない。
加えて、予め充填するグリースを、潤滑剤供給体に含有せしめる潤滑剤又はグリースと同種のものを採用することは当然の選択にすぎない。
したがって、引用発明において相違点4に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が必要に応じて容易に想到し得ることである。

(4-5)したがって、本願発明は、刊行物A〜Gに記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物A〜Gに記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1に係る発明(本願発明)が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-24 
結審通知日 2006-05-25 
審決日 2006-06-06 
出願番号 特願平9-152452
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤田 和英関口 勇  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 亀丸 広司
藤村 泰智
発明の名称 リニアガイド装置及びボールねじ装置  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 田中 克郎  
代理人 大賀 眞司  
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