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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61F
管理番号 1140284
審判番号 不服2003-18642  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-10-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-24 
確定日 2006-07-20 
事件の表示 特願2000-103669号「膝関節症治療用品」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月16日出願公開、特開2001-286499号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成12年 4月 5日 特許出願
平成15年 8月22日 拒絶査定(発送:平成15年 8月26日)
平成15年 9月24日 審判請求
平成15年10月10日 手続補正

第2 平成15年10月10日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年10月10日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,次のように補正された。
「変形性膝関節症などの膝関節症を治療するためのものであって,所定長さを有する伸縮帯と,前記伸縮帯の長手方向中央部に設けられた弾性体とを備え,前記弾性体は,前記伸縮帯に対して着脱自在に設けられ,これにより当該弾性体は交換可能となり,かつ前記弾性体は,前記伸縮帯の一端側に向かうに従って次第に厚みが大きくなる断面略三角形状の部分を有し,前記弾性体を足裏の内側寄りまたは外側寄りに当てがった状態で,前記伸縮帯における一方の端片を手で持って当該端片を足首の前側から後側に向けて移し,また他方の端片も同様,足首の前側から後側に向けて移して両端片を足首の前側で交差させ,足首の後側におけるアキレス腱に相当する箇所で互いの端片を止着することによって足首を前記伸縮帯の巻き付けにより固定するように構成したことを特徴とする膝関節症治療用品。」(下線は補正箇所を示す。以下,同様。)

2.補正の目的の適否
上記補正は,請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記弾性体を足裏の内側寄りまたは外側寄りに当てがった状態で,足首を前記伸縮帯の巻き付けにより固定することができるように構成したこと」を「前記弾性体を足裏の内側寄りまたは外側寄りに当てがった状態で,前記伸縮帯における一方の端片を手で持って当該端片を足首の前側から後側に向けて移し,また他方の端片も同様,足首の前側から後側に向けて移して両端片を足首の前側で交差させ,足首の後側におけるアキレス腱に相当する箇所で互いの端片を止着することによって足首を前記伸縮帯の巻き付けにより固定するように構成したこと」とすることで,伸縮帯の巻き付けについて「前記伸縮帯における一方の端片を手で持って当該端片を足首の前側から後側に向けて移し,また他方の端片も同様,足首の前側から後側に向けて移して両端片を足首の前側で交差させ,足首の後側におけるアキレス腱に相当する箇所で互いの端片を止着することによって」という限定を付加するとともに,「固定することができるように構成する」という希望的事項を「固定するよう構成する」という断定的事項に限定するものであり,新規事項を追加するものではなく,かつ,補正後の請求項1に記載された発明は,補正前の請求項1に記載された発明と,発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので,本件補正は,特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)引用例及びその記載事項
ア.原査定の拒絶の理由に引用された実願昭57-151604号(実開昭59-55509号)のマイクロフィルム(以下,「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。
(ア)「本考案は,O脚,X脚,扁平足,変形性膝関節症,中足骨痛症,外反母趾などの下肢疾患の保存的治療や矯正・補高,美容を目的とする補高,スポーツのための足底の矯正傾斜などに用いられる足底板の改良に関するものである。」(第2ページ第3-7行)
(イ)「この足底板(1)は,O脚の保存的治療等に用いられる外側楔足底板(左足用)の1例で,足底板(1)の上面部は足底部(第4図符号(31))に合つた起伏形状をしており,所期の治療目的を達すべく足底板全体は左側(11)を厚くした楔状をなしている。そしてシリコーンゴム,ポリウレタンエラストマー等の常温下でゴム状弾性を示すエラストマーで一体的に形成されている。」(第4ページ第13-20行)
(ウ)「第5図(a)の如き保持具(4)を用いて,足底板(1)を足部(3)に装着させるようにしてもよい。この保持具(4)は,例えば足底板(1)を出し入れする開口部(41)を有する袋体(42)の両側部に帯状体(43)・(43)を取り付け,この帯状体(43)・(43)の端部に連結部(44)・(44)を設けたものである。そして,第5図(b)の如く,袋体(42)内に足底板(1)を収納した状態でこの袋体(42)を足底に当て,帯状体(43)・(43)を足の甲部(32)で連結し,安定的に固定させる。袋体(42)や帯状体(43)の素材は,柔軟で肌ざわりがよく,嵩張らず,軽量で強度と通気性に優れた点から繊維製品が好ましい。この内特に帯状体(43)については,袋体(42)を足底部(31)にピツタリ沿わすために伸縮性に優れた素材,例えば編物とか,伸縮性糸(ストレツチヤーン,ゴム糸,スパンデツクス(登録商標:当審挿入)糸等)を用いた編織布を全体又は一部に用いるのが特に好ましい。一方袋体(42)は,足底板(1)を出し入れするために伸縮性は必要であるが,保形性及び足底部や履物との摩擦力も必要である。」(第6ページ第4行-第7頁第2行)
(エ)「第5図(a)は保持具の1例を示す斜視図」(第17頁第5-6行)
(オ)第5図(a)には,保持具において,所定の長さを有する帯状体(43)及び当該帯状体(43)の長手方向中央部に足底板(1)が設けられた点が図示されている。

上記記載事項「第2[理由]3.(1)(ウ)」によれば,「足底板(1)を出し入れする開口部(41)を有する袋体(42)の両側部に帯状体(43)・(43)を取り付け」とあることから,足底板(1)は帯状体(43)・(43)に対して着脱自在に設けられており,技術常識からみて,当該足底板(1)は交換可能であることが明らかである。
してみれば,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「変形性膝関節症などの下肢疾患の保存的治療などのために用いられるものであって,所定の長さを有する伸縮性に優れた素材でできた帯状体(43)と,前記帯状体(43)の長手方向中央部に設けられたゴム状弾性を示す足底板(1)とを備え,前記足底板(1)は,前記帯状体(43)に対して着脱自在に設けられ,これにより当該足底板(1)は交換可能となり,かつ前記足底板(1)は楔状をなしており,帯状体(43)の端部には連結部(44)を設けている保持具。」

イ.同じく,原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-184944号公報(以下,「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。
(ア)「該足底板3は,ゴム質弾性材で足外側ほど高くなるよう楔形状に形成されている。」(段落【0006】)
(イ)「【図4】布袋に内包された足底板を一体的に設けた変形性関節症の保存療法用靴下の要部断面図である。」(第4欄第39-40行)
(ウ)図4には,足底板3は,足外側に向かうに従って次第に厚みが大きくなる断面略三角形状となる部分を有する点が図示されている。

してみれば,引用例2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「変形性関節症の治療のための足底板3において,当該足底板3は,弾性体であり,かつ,足外側に向かうに従って次第に厚みが大きくなる断面略三角形状となる部分を有する足底板3。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明1を対比するに,後者の「変形性膝関節症などの下肢疾患の保存的治療などのために用いられるもの」は,その機能及び作用からみて,前者の「変形性膝関節症などの膝関節症を治療するためのもの」に,以下同様に,後者の「伸縮性に優れた素材でできた帯状体(43)」は前者の「伸縮帯」に,後者の「ゴム状弾性を示す足底板(1)」は前者の「弾性体」に,後者の「保持具」は前者の「膝関節症治療用品」に,それぞれ相当する。
してみれば,本願補正発明と引用発明1とは,「変形性膝関節症などの膝関節症を治療するためのものであって,所定長さを有する伸縮帯と,前記伸縮帯の長手方向中央部に設けられた弾性体とを備え,前記弾性体は,前記伸縮帯に対して着脱自在に設けられ,これにより当該弾性体は交換可能となる膝関節治療用品。」である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)
弾性体について,本願補正発明においては「前記伸縮帯の一端側に向かうに従って次第に厚みが大きくなる断面略三角形状の部分を有」するのに対して,引用発明1においては「楔状」なしているものの,そのような構成を有するか明らかでない点。
(相違点2)
本願補正発明においては,「前記弾性体を足裏の内側寄りまたは外側寄りに当てがった状態で,前記伸縮帯における一方の端片を手で持って当該端片を足首の前側から後側に向けて移し,また他方の端片も同様,足首の前側から後側に向けて移して両端片を足首の前側で交差させ,足首の後側におけるアキレス腱に相当する箇所で互いの端片を止着することによって足首を前記伸縮帯の巻き付けにより固定するように構成した」のに対して,引用発明1においてはそのような構成でない点。

(3)判断
ア.相違点1について
引用発明2の,変形性関節症の治療のための足底板は足外側(本願補正発明の「伸縮体の一端側」に相当。)に向かうにしたがって次第に厚みが大きくなる断面略三角形状となる部分を有するようになっており,これを同様の変形性膝関節症の治療のために用いる引用発明1の楔状の足底板(1)に適用する程度のことは,当業者が容易になし得ることである。
よって,引用発明1及び2に基づいて,上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得ることである。

イ.相違点2について
本願補正発明の発明特定事項である「前記弾性体を足裏の内側寄りまたは外側寄りに当てがった状態で,前記伸縮帯における一方の端片を手で持って当該端片を足首の前側から後側に向けて移し,また他方の端片も同様,足首の前側から後側に向けて移して両端片を足首の前側で交差させ,足首の後側におけるアキレス腱に相当する箇所で互いの端片を止着することによって足首を前記伸縮帯の巻き付けにより固定するように構成した」は,あくまでも膝関節症治療用品の使用方法により本願補正発明を特定するものであるが,物の発明としてこの発明特定事項を判断するに,技術常識からみて,伸縮体の端部に止着手段を備えるとともに,伸縮体の所定長さがこの使用方法に適する程度に充分長いというものである。
ここで検討すると,まず,引用発明1は「連結部」を設けており,これは本願補正発明の上記止着手段に相当する。
そして,足の治療のため足に施療子等を押し当てるものにおいて,当該施療子等を設けたベルトを足首に巻き付けることができるよう充分長いものとすることは,従来周知の事項である(実願昭59-31981号(実開昭60-144414号)のマイクロフィルム(第4-5図),実願平2-82501(実開平4-40618号)のマイクロフィルム(第4図)を参照。)ので,引用発明1の「帯状体(43)」の所定長さを足首に巻き付けることができるよう充分に長いものとすることは,当業者が必要に応じて設定することのできる単なる設計事項に過ぎない。
よって,引用発明1及び従来周知の事項に基づき,上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得ることである。

なお,仮に,上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項が方法の発明であったとすれば,人間を治療する方法に該当し,「産業上利用することができる発明」に該当しないため,本願補正発明は特許法第29条柱書の規定により特許を受けることができなものとなることは云うまでもないが,引用発明1の保持具の帯状体(43)を足首に巻き付けることで,ある程度足首が固定されることは技術常識からみて明らかであり,また,上記足首に巻き付ける際に,前記伸縮帯における一方の端片を手で持って当該端片を足首の前側から後側に向けて移し,また他方の端片も同様,足首の前側から後側に向けて移して両端片を足首の前側で交差させることは従来周知の事項(上記従来周知の事項として掲げた文献と同じ。)であり,さらに,連結手段の連結を,足首の後側であるアキレス腱部で行うようにするか,足首の前側で行うようにするかは,患者の足や足首の大きさによって適宜変更される単なる選択的事項に過ぎない。

上記相違点によって,本願補正発明が奏する作用,効果も,引用発明1,2及び従来周知の事項から予測される範囲のものであって,格別なものとは認められない。

(4)むすび
以上のとおり,本願補正発明は,引用発明1,2及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって,本件補正は,平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明についての判断
1.本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,出願当初の明細書の,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。
「変形性膝関節症などの膝関節症を治療するためのものであって,所定長さを有する伸縮帯と,前記伸縮帯の長手方向中央部に設けられた弾性体とを備え,前記弾性体は,前記伸縮帯に対して着脱自在に設けられ,これにより当該弾性体は交換可能となり,かつ前記弾性体は,前記伸縮帯の一端側に向かうに従って次第に厚みが大きくなる断面略三角形状の部分を有し,前記弾性体を足裏の内側寄りまたは外側寄りに当てがった状態で,足首を前記伸縮帯の巻き付けにより固定することができるように構成したことを特徴とする膝関節症治療用品。」

2.引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例,及び,その記載事項は,前記「第2[理由]3.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,前記「第2[理由]1.」及び同「2.」で検討した本願補正発明から,伸縮帯の巻き付けについての限定事項である「前記伸縮帯における一方の端片を手で持って当該端片を足首の前側から後側に向けて移し,また他方の端片も同様,足首の前側から後側に向けて移して両端片を足首の前側で交差させ,足首の後側におけるアキレス腱に相当する箇所で互いの端片を止着することによって」という発明特定事項を省き,「固定するよう構成する」という断定的事項を「固定することができるように構成する」という希望的事項として限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに,他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第2[理由]3.(2),(3)」で検討したとおり,引用発明1,2及び従来周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様に,引用発明1,2及び従来周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明1,2及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-12 
結審通知日 2006-05-16 
審決日 2006-06-02 
出願番号 特願2000-103669(P2000-103669)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61F)
P 1 8・ 121- Z (A61F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新井 克夫  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 北川 清伸
芦原 康裕
発明の名称 膝関節症治療用品  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 蔦田 正人  

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