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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04H
管理番号 1140458
審判番号 無効2005-80176  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-11-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-06-07 
確定日 2006-08-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第2517833号発明「蔵型収納付き建物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2517833号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成5年5月19日 出願
平成8年5月17日 特許登録
平成17年6月7日 本件無効審判請求
平成17年8月22日 答弁書

第2.当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、本件の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)の特許を無効とする理由として次のように主張するとともに下記甲第1号証〜甲第3号証を提出した。
無効理由:本件発明1は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件発明1、2は甲第1〜3号証記載の発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、これらの特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

甲第1号証:「ディテール 96」、株式会社 彰国社、昭和63年4月1日発行、(1988-4 春季号)、p84-85
甲第2号証:「ディテール 81」、株式会社 彰国社、昭和59年7月1日発行、(1984-7 夏季号)、p103-110
甲第3号証:「住宅建築」、(株)建築資料研究社、昭和58年7月1日発行、第100号(1983 7)、p90-121

2.被請求人の主張
被請求人は、答弁書において、本件発明1、2について、甲第1,2号証の構成要件とは、その基本的な点で相違しており、特許請求の範囲の文言をそのまま比較することに意味がないものであるから、本件発明1、2が甲各号証に記載されたものでもなく、更に、これらの記載から容易に想到しうるものと言えないことが明らかであるから、請求人の主張は理由がない旨を主張している。

第3.本件発明
本件発明1、2は、特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】上下階に亘って複数の室を配置した建物において、天井高に差を設けた室を下階に配置し、前記天井高の差に応じて室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置し、高床面室の床面から屋根裏までの空間を蔵型収納空間としたことを特徴とする蔵型収納付き建物。
【請求項2】低床面室に面して前記高床面室の出入口を設け、該出入口に至る階段を前記低床面室に設けたことを特徴とする請求項1に記載の蔵型収納付き建物。」

第4.無効理由の検討
1.甲号各証に記載された事項
甲第1号証(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載等がある。
(1)85頁右下5〜7行「2階に上がる1段目のステップに腰をかけ、反対側の造り付けのベンチと暖炉を挟んで向かいあえるコーナーを捻出し居間とした。」
(2)84頁の配置・1階平面図及び矩計図、85頁玄関・居間平面詳細図、B-B断面図をみると、「1階に居間が配置され、居間の隣に、アトリエが配置され、アトリエの床面は、居間の床面よりも低い位置(360mm)に形成されている。アトリエの天井(天井高は4000mm)は、居間の天井(天井高は2340mm)よりも高い位置に天井を形成してある。居間の上階に床面の高さが等しい2階ホール、及び寝室を配置し、アトリエの上階に屋根裏部屋を配置してある。2階ホール・寝室の床面が、居間の天井の位置に応じた位置(居間天井高+450mm)にある。屋根裏部屋の床面が、アトリエの天井の位置に応じた位置(アトリエ天井高+360mm)にある。屋根裏部屋の床面は、2階ホール・寝室の天井高の中間より若干低い位置で、2階ホール・寝室の床面より高い位置にある。屋根裏部屋の床面から屋根裏までの空間を屋根裏部屋とした建物である。」が記載されている。
そして、建物全体からみると、居間とアトリエは下階であること、及び2階ホール、寝室、屋根裏部屋が上階であることは当業者に自明な事項である。
上記記載、図面及び当業者の技術常識によれば、刊行物1には以下の発明が記載されているものと認める。
「下階に居間、アトリエを、上階に2階ホール・寝室、屋根裏部屋を配置した建物において、天井高に差を設けた居間と、アトリエと、を下階に配置し、アトリエの床の高さが居間よりも低い位置に形成され、居間の天井の位置に応じた2階ホール・寝室の床面と、居間の天井よりも高い位置に形成したアトリエの天井の位置に応じた屋根裏部屋の床面とが形成され、屋根裏部屋の床面は、2階ホール・寝室の天井高の中間より若干低い位置で、2階ホール・寝室の床面よりも高く形成され、床面に高低差を設けた2階ホール・寝室、屋根裏部屋を上階に配置し、屋根裏部屋の床面から屋根裏までの空間を屋根裏部屋とした建物。」

甲第2号証(以下、「刊行物2」という。)には、以下の記載等がある。
102頁の模式的斜視図、104頁の「地階、1階平面」、「1階、2階平面」、「2階平面」、105頁の「矩計詳細」、107頁の「子供室 平面詳細」、「子供室 北展開」、右下の写真をみると、「西側及び東側がそれぞれ3層構造で、西側の3層構造が東側の3層構造よりも半階分上方にスキップしたスキップフロア型建物が記載さている。第2層の東側に、居間・台所を配置し、同じく第2層の西側に寝室を配置し、第3層の東側に、子供室を配置し、同じく第3層の西側に、納戸を配置し、高床面室となっている納戸の出入口を、低床面室である子供室に面して設け、該出入口に至る昇降手段となるハシゴを低床面室と高床面室の間に設けた建物。」が記載されている。

2.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明の「下階に居間、アトリエを、上階に寝室、屋根裏部屋を配置した」は本件発明1の「上下階に亘って複数の室を配置した」に、相当し、以下同様に、「居間」、「アトリエ」、「寝室」、「屋根裏部屋」は夫々「室」に、「屋根裏部屋」は「高床面室」に相当するから、両者は、
「上下階に亘って複数の室を配置した建物において、天井高に差を設けた室を下階に配置し、室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置した建物。」の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]本件発明1は、上階の室間の床面の高低差が下階の室の天井高の差に応じたものであるのに対し、刊行物1記載の発明は、そのような構成になっていない点。
[相違点2]本件発明1は、高床面室の床面から屋根裏までの空間を蔵型収納空間としたのに対して、刊行物1記載の発明は、その点について不明である点。
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
本件発明1のように、天井高の差に応じて室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置するか、刊行物1記載の発明のように、下階の天井の位置に応じて上階の床面を形成し、室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置するかについて、その相違するところに、格別な技術的意義はないから、刊行物1記載の発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、単なる設計事項にすぎない。
[相違点2]について
屋根裏部屋を、物品の収納空間として用いることは、例示するまでもなく従来周知の事項であるから、刊行物1記載の発明の屋根裏部屋を、物品の収納空間として用いることは、当業者であれば当然になしうる程度のことであり、また、刊行物1記載の発明の屋根裏部屋の床面は、2階ホール・寝室の天井高の中間より若干低い位置で、2階ホール・寝室の床面よりも高く形成され、床面に高低差を設けたものであるから、蔵のような大型の収納空間となりうることは当業者にとって明らかであり、刊行物1記載の発明の屋根裏部屋を蔵型収納空間とし、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得るものである。
そして、本件発明1の有する作用効果も、刊行物1記載の発明から予測し得る程度のものである。
したがって、本件発明1は、刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)本件発明2について
本件発明2と刊行物1記載の発明を対比すると、上記「2.(1)本件発明1について」で検討した外に、以下の点で相違する。
[相違点3]本件発明2は、低床面室に面して前記高床面室の出入口を設け、該出入口に至る階段を前記低床面室に設けたのに対し、刊行物1記載の発明は、その点について不明である点。
上記[相違点3]について検討する。
刊行物2記載の発明には、高床面室となっている納戸の出入口を、低床面室である子供室に面して設け、該出入口に昇降手段となるハシゴを低床面室と高床面室の間に設けた点が記載されている。
そうすると、刊行物1記載の発明において、低床面室に面して高床面室の出入口を設け、該出入口に至る昇降手段を低床面室に設ける点を適用することは、刊行物1、2記載の発明が共に、床面に高低差を設けた室を配置した建物であるから、困難性はなく、昇降手段として階段を用いることは、例を挙げるまでもなく周知の技術にすぎないから、相違点3に係る本件発明2の構成とすることは当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。
したがって、本件発明2は、刊行物1、2記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

被請求人は、答弁書(5頁ハ-2)において、「刊行物1記載の発明は、そもそもその高低差を設けるための基準点が相違している。本件発明は、基礎となる下階床面が同一面であるから、その文言のみを比較しても無意味であることが明らかである。」旨主張している。しかしながら、下階の天井の位置が上階の床面の位置に影響する点では、本件発明も刊行物1記載の発明も共通するものである以上、本件発明のように、「天井高」を基準とするか、「天井の位置」を基準とするかに、技術的な意義はなく、また、天井と床間の間の高さが若干異なるとしても単なる設計事項にすぎないから、上記主張は採用できない。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判費用は、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-08 
結審通知日 2005-09-16 
審決日 2005-09-29 
出願番号 特願平5-117124
審決分類 P 1 113・ 121- Z (E04H)
最終処分 成立  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 南澤 弘明
▲高▼橋 祐介
登録日 1996-05-17 
登録番号 特許第2517833号(P2517833)
発明の名称 蔵型収納付き建物  
代理人 羽鳥 修  

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