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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1140568
審判番号 不服2004-734  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-12-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-08 
確定日 2006-07-27 
事件の表示 特願2000-388019「ヒートシンク材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月 7日出願公開、特開2001-339022〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成12年12月21日(優先権主張平成11年12月24日、平成12年3月22日)の出願であって、平成14年10月17日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成15年1月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年1月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月5日付けで手続補正がなされ、さらに、前置審査において同年6月30日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である同年9月6日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明

本願請求項1〜31に係る発明は、平成16年9月6日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜31に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1、3、7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明3」、「本願発明7」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
カーボン又はグラファイトと、金属とを含み、
前記カーボン又はグラファイトを焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体に前記金属が含浸されて構成され、
直交する3軸方向の平均又はいずれかの軸方向の熱伝導率が180W/mK以上であって、かつ、
熱膨張率が1×10-6/℃〜10×10-6/℃であると共に、
前記金属に、界面の濡れ性改善のための元素が添加されている
ことを特徴とするヒートシンク材。」
「【請求項3】
カーボン又はグラファイトと、金属とを含み、
前記カーボン又はグラファイトを焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体に前記金属が含浸されて構成され、
直交する3軸方向の平均又はいずれかの軸方向の熱伝導率が180W/mK以上であって、かつ、
熱膨張率が1×10-6/℃〜10×10-6/℃であると共に、
前記金属に、前記カーボン又はグラファイトとの反応性を向上させるための元素が添加されている
ことを特徴とするヒートシンク材。」
「【請求項7】
カーボン又はグラファイトと、金属とを含み、
前記カーボン又はグラファイトを焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体に前記金属が含浸されて構成され、
直交する3軸方向の平均又はいずれかの軸方向の熱伝導率が180W/mK以上であって、かつ、
熱膨張率が1×10-6/℃〜10×10-6/℃であると共に、
前記金属に、融点を低減させるための元素が添加されている
ことを特徴とするヒートシンク材。」

3.前置審査における拒絶の理由の概要

前置審査における拒絶の理由は、本願請求項1、3、7に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-37258号公報、及び特開昭62-207832号公報に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

4.引用刊行物の記載事項

前置審査における拒絶の理由に引用された特開平8-37258号公報(以下、「引用刊行物1」という。)、及び特開昭62-207832号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)引用刊行物1:特開平8-37258号公報
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 炭素繊維の予備成形物を炭素マトリックスで部分的に高密化して高密度炭素複合体となし、次いでこの高密度炭素複合体に炭素複合体の熱膨脹率を増大することができる少なくとも一つの材料を浸透させることにより作製される炭素-炭素複合体。
・・・
【請求項14】 高密度炭素複合体が、少なくとも約2000℃に加熱されて熱伝導性が改善されている、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項15】 炭素繊維の予備成形物を炭素マトリックスで部分的に高密化して約1.0〜約1.8g/ccの密度を有する高密度炭素複合体となし、次いでこの高密度炭素複合体にアルミニウム、銅、銀並びにそれらの混合物および合金からなる群より選択される金属の約5容量%〜約60容量%を浸透させることにより作製される炭素-炭素複合体。
・・・・
【請求項17】 高密度炭素複合体が、少なくとも約2000℃に加熱されて熱伝導性が改善されている、請求項15に記載の炭素複合体。
【請求項18】 電子基板に接合された少なくとも一つの電子デバイスと、その電子基板に接合された炭素-炭素複合体を含んでなる装置であって、前記炭素-炭素複合体が、炭素繊維の予備成形物を炭素マトリックスで部分的に高密化して高密度炭素複合体となし、次いでこの高密度炭素複合体に炭素複合体の熱膨脹率を増大することができる少なくとも一つの材料を浸透してなる、装置。」
(1b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】良好な熱伝導性を有する熱スプレダーおよび/またはヒートシンクとしての材料を入手すること、そしてチップとチップ基板との熱伝導率が近接した材料を入手することが望まれている。本発明は、このような材料を提供することを目的とする。」
(1c)「【0007】前述したように、本発明は、炭素繊維の予備成形物を炭素マトリックスで部分的に高密化し、次いでこの高密度炭素複合体に高密度炭素複合体の熱膨脹率を増大することができる材料を浸透させることによって作製する炭素-炭素複合体に関する。その高密度炭素複合体の密度は、約0.75〜約1.8、また、約1.0〜約1.7、また、約1.1〜約1.6g/ccである。この高密度炭素-炭素複合体は、その炭素を黒鉛化するために加熱される。黒鉛化は、炭素複合体の熱伝導性を改善する。その温度は、典型的には約2000℃〜約4000℃、また、約2300℃〜約3500℃、また、約2500℃〜約3100℃である。この黒鉛化は、約0.5〜約5時間かけて達成される。
【0008】前述したように、炭素-炭素複合体は、炭素繊維の予備成形物を炭素マトリックスで高密化することによって作製される。炭素繊維の予備成形物は、加熱によって炭素または黒鉛になしうるいかなる繊維から作製してもよい。繊維は、PAN(ポリアクリロニトリル)繊維、予備酸化されたアクリロニトリル樹脂繊維、ピッチ繊維、CVD炭素繊維、熱分解天然繊維、例えば熱分解綿繊維、およびそれらの混合物を含む。この繊維は、当業者に周知の方法で炭素繊維の予備成形物となすために配列される。その予備成形物は、織成物または不織布であってよい。予備成形物は、ブレード繊維、典型的にはストレートブレード繊維から形成されてもよい。ブレード繊維は、Morris,Jr外に発行された米国特許第5,217,770号に記載されている。炭素繊維の予備成形物は、1D(一次元)、2D(二次元)、ニードルド2D、または3D(三次元)であってよい。
【0009】炭素繊維の予備成形物は、炭素マトリックスの存在で高密化される。炭素マトリックスは、黒鉛に変えられる炭素源を供給する。炭素マトリックスは、化学的気相浸透法(CVI)によって、またはピッチ含浸法によって炭素繊維の予備成形物に導入される。炭素マトリックスは、CVI炭素、熱分解性炭素源、例えばメタンもしくはピッチ、またはそれらの混合物を含む。
【0010】部分的に高密化した炭素複合体は、その後、高密度炭素複合体の熱膨脹率を増大させることでができる一以上の材料で浸透される。この材料は、炭素複合体における空隙をうめる。この空隙は連続しているのが好ましい。・・・・
【0012】一つの実施態様において、高密度炭素複合体の熱膨脹率を上げることができる材料は、金属および金属の合金を含む。特定の例では、アルミニウム、アルミニウム-シリコン(40%)合金、銅、銅(40%)-タングステン合金、銅-モリブデン(15%)合金、モリブデン、銀、ニッケル、および鉄-タングステン合金を含む。一つの実施態様では、この金属は、アルミニウム、銅、銀、並びにそれらの混合物および合金を含む。例えば、金属または金属合金は、最初に炭素複合体の表面を真空に引いてこの複合体を脱ガスすることによって、炭素析出物中に浸透されるようにしてもよい。この金属または金属合金は、次いでその溶融点もしくはその近くまで加熱されて、圧力下で炭素複合体中に浸透される。」
(1d)「【0014】(実施例):ニードルドPAN炭素繊維の予備成形物を、CVD法によって以下に示される密度になるまで処理し、次いでその炭素マトリックスが黒鉛となるまで3000℃に加熱した。この高密度炭素複合体に、カリフォルニア州キャッツワースのAmercom Inc.になる圧力浸透法と信じられている処理法を用いて、アルミニウムか銅のいずれかを浸透させた。熱膨脹率および熱伝導率を測定し、以下に示す。
【0015】熱膨脹率は、DuPont Chemical Company製のDMA機器における膨脹計で測定した。熱伝導率は、レーザパルス熱放散計により測定した。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

(1e)「【0020】上記炭素-炭素複合体は、アルミナPWB、つまり印刷配線板の表面にハンダ付けされた熱スプレッダとして、薄膜多重チップモジュール用の基板として、高出力電子コンピュータチップ用のヒートシンクとして、およびインバール/コバール金属の代替品として用いることができる。」
(2)引用刊行物2:特開昭62-207832号公報
(2a)「[発明の目的]
半導体用の熱応力緩和材として従来の銅-炭素繊維複合材と同等の特性を有し、しかも従来材よりも容易に製造することが可能な銅-炭素基材複合材およびその製造法を提供することを目的とする。」(第2頁右上欄第2〜7行)
(2b)「[発明の概要]
本出願に係る第1発明は、炭素質又は黒鉛質のブロック状炭素基材(以後は単に炭素基材と称す)の気孔に、P又はMgを1種以上0.001〜1.0wt%含有した銅を2〜40vol%含浸させたことを特徴とする半導体用銅-炭素複合材料である。
・・・
まず本発明に係る半導体用複合材料について説明する。本複合材料においてブロック状炭素基材を用いる理由は、炭素繊維と比較して安価であること、および銅-炭素繊維複合材の場合半導体用として熱膨張係数を満足させるために炭素繊維を複雑な配向にする必要があるのに対して、ブロック状炭素基材の場合その必要はなく、製造方法が容易であることなどの優れた点を有しているからである。
次に炭素基材中に含浸させる銅にPまたはMgを1種以上0.01〜l.0wt%添加させる理由はPまたはMgにより溶銅を脱酸するためであり、脱酸を行なわない場合はガスによる気孔を複合材中に生じるからである。
ここで添加量を0.001〜1.0wt%とするのは、0.001wt%未満では脱酸の効果が少なく、1.0wt%を超えると、脱酸の効果がそれ以上上がらないうえ、Mgの場合には溶銅の流動性が低下し、溶銅の含浸不良を引き起すからである。
なお黒鉛中に含浸され凝固した銅の結晶粒を微細化するためにZrを0.001〜0.1wt%含有させても良い。この場合結晶粒微細化により複合材料の機械的強度が向上する。また固溶強化および析出強化により複合材の機械的強度を向上させる目的でSn、Ni、Zn、Al、Si、Fe、Co、Ti、Crを0.001〜1wt%の範囲で含有させても良い。
複合材料中の銅の充填率を2〜40vol%とするのは2vol%未満では熱伝導率が半導体用として不充分であり、40vol%を超えると熱膨張係数が半導体用として大きくなりすぎるためである。
また、炭素基材中に銅を含浸させた後、複合材料中に残存する独立した気孔のうち、複合材料表面に存在するものについては、使用に際し複合材に銅などのめっき処理を行なうことにより何ら問題とはならず、また複合材内部に残存する独立した気孔についても半導体用複合材として必要な特性(熱膨張係数、熱伝導率など)に悪影響をおよぼすことはない。(第2頁右上欄第8行〜第3頁左上欄第10行)
(2c)「[実施例]
・・・
得られた銅-炭素複合材料の特性を従来例と比較して表1に示す。表1の1〜3は実施例を示し、4、5は銅の充填率が本発明範囲外である比較例である。比較例4では銅の充填率が2%以下であるため熱伝導率が半導体用としては不充分であることが分かる。また比較例5では銅の充填率が40%以上であるため熱膨張係数が半導体用としては大きくなりすぎていることが分かる。
実施例1、2、3は従来例より優れた熱伝導性を有し、熱膨張係数も従来例と同等の低い値を有していることが分る。炭素中の銅の分布状態も均一であり、半導体用の熱応力緩和材として充分性能を満足するものである。」(第3頁左下欄第13行〜第4頁左上欄第3行)

5.当審の判断

(1)本願発明1、3、7と引用発明との対比
上記摘記事項(1d)の表2に列記された「Cu-4」の実施例、(1b)、(1e)に示されたヒートシンクとしての用途に着目しながら、(1a)〜(1e)を総合すると、上記引用刊行物1には、次の事項が記載されているといえる。
「ニードルドPAN炭素繊維の予備成形物を、CVD法によって炭素マトリックスを導入することにより高密化し、その炭素マトリックスが黒鉛となるまで3000℃に加熱して作製された高密度炭素複合体に、銅を浸透させ、X、Y、Z方向の熱伝導率がそれぞれ280、271、290watt/m,Kであって、かつ、X、Y、Z方向の熱膨張率が2.45、2.97、3.43ppm/Kであるヒートシンク材。」(以下、「引用発明」という。)
そこで、本願発明1、3、7と引用発明とを対比すると、引用発明における「ニードルドPAN炭素繊維の予備成形物を、CVD法によって炭素マトリックスを導入することにより高密化し、その炭素マトリックスが黒鉛となるまで3000℃に加熱して作製された高密度炭素複合体」は、本願発明1、3、7における「カーボン又はグラファイトを焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体」に相当するものであるから、
本願発明1、3、7と引用発明とは、それぞれ
「カーボン又はグラファイトと、金属とを含み、
前記カーボン又はグラファイトを焼成してネットワーク化することによって得られる多孔質焼結体に前記金属が含浸されて構成され、
直交する3軸方向の平均又はいずれかの軸方向の熱伝導率が180W/mK以上であって、かつ、
熱膨張率が1×10-6/℃〜10×10-6/℃であるヒートシンク材。」
である点で一致し、次の点で相違している。
相違点:金属への添加元素として、本願発明1においては、界面の濡れ性改善のための元素が、本願発明3においては、カーボン又はグラファイトとの反応性を向上させるための元素が、さらに、本願発明7においては、融点を低減させるための元素が、それぞれ添加されているのに対して、引用発明は、このような添加元素について明示していない点。

(2)相違点の検討
引用刊行物2には、「炭素基材中に含浸させる銅にPまたはMgを1種以上0.01〜l.0wt%添加させる理由はPまたはMgにより溶銅を脱酸するためであり、脱酸を行なわない場合はガスによる気孔を複合材中に生じるからである。・・・黒鉛中に含浸され凝固した銅の結晶粒を微細化するためにZrを0.001〜0.1wt%含有させても良い。この場合結晶粒微細化により複合材料の機械的強度が向上する。また固溶強化および析出強化により複合材の機械的強度を向上させる目的でSn、Ni、Zn、Al、Si、Fe、Co、Ti、Crを0.001〜1wt%の範囲で含有させても良い。」と記載されているから(摘記事項(2b))、炭素基材に含浸される銅にP、Mgを添加すると複合材中に発生するガスによる気孔を抑制することができ、またZr、Sn、Ni、Zn、Al、Si、Fe、Co、Ti、Crを添加すると複合材の機械的強度が向上することが理解できる。
一方、一般にヒートシンク材に所望される特性としては、熱伝導性などに加えて、機械的強度が挙げられること(要すれば、特開平9-312364号公報の段落【0022】〜【0024】、特開平10-60570号公報の段落【0111】、特開平7-153878号公報の段落【0008】、特開平8-250630号公報の段落【0004】を参照)を勘案すると、引用発明に係るヒートシンク材においても、機械的強度に対する要求が内在するものと解するのが相当である。加えて、ヒートシンク材中にガスによる気孔が存在すれば、少なからず熱伝導性が低下することも容易に予測されるところであるから、このような気孔を抑制することは、引用発明に係るヒートシンク材においても同様に要求される事項というべきである。
さらに、引用刊行物1には銅合金を用いてもよいことが開示されているから(摘記事項(1a)、(1c))、引用発明は、銅に所望の元素を添加することを排除するものではないし、引用刊行物2に記載された半導体用の応力緩和材は、半導体の放熱構造用部材という点では半導体用のヒートシンク材と類似の技術分野に属し、該ヒートシンク材と同等の熱伝導及び熱膨張特性が所望されるものである(なお、摘記事項(2c)に示される表1の実施例3は、本願発明1、3、7において規定される熱伝導率及び熱膨張率を満足するものである)。
これらの点を考え合わせると、引用発明において、所定の熱膨張率及び熱伝導率を確保しながら、これに内在する上記要求を動機付けとし、銅にP、Mg、Zr、Sn、Ni、Zn、Al、Si、Fe、Co、Ti、Crといった元素を添加することは当業者にとって容易なことといえ、これを阻害する要因も特段見当たらない。
そして、Ti等の活性金属やSiは、炭素材料と反応して炭化物を形成しやすいこと、ひいては炭素材料と金属との濡れ性を改善する作用があることは技術常識であることに照らせば(要すれば、特開平8-59376号公報の段落【0011】、特公昭52-822号公報の第4欄第16〜30行参照)、上記のような引用発明の銅への添加元素のうち、Ti、Zrといった活性金属やSiは、炭素(カーボン)との反応性を向上させるための元素、ひいては界面の濡れ性改善のための元素として機能すると考えるのが妥当である。また、同様に銅に添加される、P、Mg、Sn、Zn等の元素は、その状態図(要すれば、「金属臨時増刊号 実用二元合金状態図集」、平成4年10月10日発行、アグネ、第135、140、148、152頁等を参照)から明らかなとおり、融点を低減させるための元素として作用するものである。
してみれば、本願発明1、3、7における添加元素が目的とする、界面の濡れ性改善、カーボン又はグラファイトとの反応性向上、融点低減といった作用は、前記のように引用発明から想到されるヒートシンク材における添加元素が既に具備するところというべきであり、さらに、本願発明1、3、7において添加元素によりもたらされる作用効果(明細書の段落【0071】〜【0073】などを参照)も当業者が容易に予測し得る程度のものと認められる。
このように、引用発明から想到されるヒートシンク材は、取りも直さず本願発明1、3、7に係るヒートシンク材に相当するものということができるから、本願発明1、3、7は、引用発明、引用刊行物2に記載された技術、及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、濡れ性に着目して考えてみると、炭素材料や多孔質焼結体は、銅との濡れ性が悪いことはよく知られており、従来から慣用の手法として、銅にTi、Si等の元素を添加することにより、この濡れ性の改善を図っている(要すれば、特開平8-59376号公報の段落【0011】、特公昭52-822号公報の第4欄第16〜30行、特開平11-29379号公報の段落【0024】、【0025】参照)。
してみると、引用発明において、高密度炭素複合体と銅との濡れ性に配慮することは当業者として当然のことといえ、該濡れ性を改善する手段として、上記慣用の手法を採用することにも格別の創意は認められない。加えて、上記Ti、Siといった元素は、炭素(カーボン)との反応性を向上させるための元素であるとともに、状態図からみてその添加量が少量の場合には、融点低減作用をも奏するものである。
そして、濡れ性改善等により得られる本願明細書記載の作用効果も格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明1、3、7は、引用発明及び慣用の手法に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび

以上のとおり、本願の請求項1、3、7に係る発明は、引用発明、引用刊行物2に記載された技術、技術常識、及び慣用の手法に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-26 
結審通知日 2006-05-30 
審決日 2006-06-14 
出願番号 特願2000-388019(P2000-388019)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正加藤 浩一  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 日比野 隆治
市川 裕司
発明の名称 ヒートシンク材及びその製造方法  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 宮寺 利幸  

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