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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B43L
管理番号 1140873
審判番号 不服2003-16672  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-28 
確定日 2006-08-04 
事件の表示 特願2000-122452「電子黒板および電子黒板の表示制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月30日出願公開、特開2001- 26195〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、出願日が平成8年2月9日である特願平8-23540号の一部を平成12年4月24日に新たな出願としたものであって、平成15年7月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月28日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月29日付けで明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
なお、平成15年6月30日付け手続補正書は平成15年7月17日付けで補正却下されている。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年9月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容及び目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲を
「【請求項1】 表示部と、
手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段と、
前記表示部に表示する罫線の属性をタッチ操作式入力手段により指定する操作入力部と、
前記操作入力部により指定された属性に基づいて罫線を生成し、前記表示部に表示させる表示加工部とを備えたことを特徴とする電子黒板。
【請求項2】 前記タッチセンサ部は、前記表示部の上に配置された、透明なタッチセンサ部であることを特徴とする請求項1記載の電子黒板。
【請求項3】 前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを認識する認識部を備え、
前記表示手段は、前記認識部によって認識された文字や図形のデータに対応する活字イメージを前記表示部に表示させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電子黒板。
【請求項4】 表示部と、
手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部とを備えた電子黒板の表示制御装置において、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段と、
前記表示部に表示する罫線の属性をタッチ操作式入力手段により指定する操作入力部と、
前記操作入力部により指定された属性に基づいて罫線を生成し、前記表示部に表示させる表示加工部とを備えたことを特徴とする電子黒板の表示制御装置。
【請求項5】 前記タッチセンサ部は、前記表示部の上に配置された、透明なタッチセンサ部であることを特徴とする請求項4記載の電子黒板の表示制御装置。
【請求項6】 前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを認識する認識部を備え、
前記表示手段は、前記認識部によって認識された文字や図形のデータに対応する活字イメージを前記表示部に表示させることを特徴とする請求項4または請求項5記載の電子黒板の表示制御装置。」から、
本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】 電子黒板において、
手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された大型表示部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記大型表示部に表示させる表示手段と、
前記大型表示部に表示する罫線の属性をペンにより指定される当該電子黒板のオペパネ部と、
前記オペパネ部により指定された属性に基づいて罫線を生成し、前記大型表示部に表示させる表示加工部と
を備えたことを特徴とする電子黒板。
【請求項2】 前記タッチセンサ部は、前記大型表示部の上に配置された、透明なタッチセンサ部であることを特徴とする請求項1記載の電子黒板。
【請求項3】 前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを認識する認識部を備え、
前記表示手段は、前記認識部によって認識された文字や図形のデータに対応する活字イメージを前記大型表示部に表示させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電子黒板。
【請求項4】 手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された大型表示部を備えた電子黒板の表示制御装置において、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記大型表示部に表示させる表示手段と、
前記大型表示部に表示する罫線の属性をペンにより指定される当該電子黒板のオペパネ部と、
前記オペパネ部により指定された属性に基づいて罫線を生成し、前記大型表示部に表示させる表示加工部と
を備えたことを特徴とする電子黒板の表示制御装置。
【請求項5】 前記タッチセンサ部は、前記大型表示部の上に配置された、透明なタッチセンサ部であることを特徴とする請求項4記載の電子黒板の表示制御装置。
【請求項6】 前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを認識する認識部を備え、
前記表示手段は、前記認識部によって認識された文字や図形のデータに対応する活字イメージを前記大型表示部に表示させることを特徴とする請求項4または請求項5記載の電子黒板の表示制御装置。」
に補正するものであって、本件補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであると認められる。

2.補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された次の通りのものと認める。
「電子黒板において、
手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された大型表示部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記大型表示部に表示させる表示手段と、
前記大型表示部に表示する罫線の属性をペンにより指定される当該電子黒板のオペパネ部と、
前記オペパネ部により指定された属性に基づいて罫線を生成し、前記大型表示部に表示させる表示加工部とを備えた電子黒板。」

3.補正発明の独立特許要件の判断
以下、補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうかを検討する。

3-1.引用例記載の発明
3-1-1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である平成5年12月14日に頒布された「特開平5-330289号公報 」(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が図示とともに記載されている。

発明の名称:「電子黒板装置」
ア.特許請求の範囲
「【請求項1】 筆記具と、
筆記面の背後に埋め込まれ、前記筆記具によって筆記面において書かれる文字等の軌跡を検出する多数のセンサと、
このセンサが検出した軌跡を座標データ列から成る画像データとして記憶する第1の記憶手段と、
この第1の記憶手段に記憶された画像データに基づき筆記面に書かれた文字および図形を認識すると共に、特定の軌跡に関する画像データが予め定めた複数の編集コマンドのうちいずれに相当するかを認識する認識手段と、
認識された文字、図形、編集コマンドを記憶する第2の記憶手段と、
この第2の記憶手段に記憶された編集コマンドに従って前記認識された文字、図形を編集するコマンド実行手段と、
編集された文字、図形を電子黒板の筆記面に投射表示すると共に、筆記面の下部に縮小して投射表示する投射表示手段とを設け、
縮小投射表示領域および非縮小投射表示領域において書かれる文字、図形、編集コマンドを逐次認識し、筆記面の表示内容を逐次更新する
ことを特徴とする電子黒板装置。
【請求項2】 第1の記憶手段に対し、スキャナやファクシミリ等の画像データ読み取り手段で読み取った画像データを選択的に記憶させる切り替え手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の電子黒板装置。
【請求項3】 文字、図形、編集コマンド等を表す入力音声を認識し、その認識した文字、図形、編集コマンド等のデータを前記第2の記憶手段に記憶させる音声認識手段を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の電子黒板装置。
【請求項4】 第1の記憶手段または第2の記憶手段の記憶データを他の電子黒板装置との間で送受する通信手段を設けたことを特徴とする請求項1または2または3記載の電子黒板装置。
【請求項5】 第1の記憶手段または第2の記憶手段の記憶データをテレビ会議システムの送受データに付加して相手側の電子黒板装置との間で送受する通信手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし4記載のいずれかの電子黒板装置。
【請求項6】 縮小表示領域のセンサは非縮小領域のセンサより高密度で配設されていることを特徴とする請求項1ないし5記載のいずれかの電子黒板装置。」

イ.段落【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は板面上に書かれた文字、図形等を認識し、その認識結果を板面上に投射表示する電子黒板装置に関するものである。」

ウ.段落【0002】
「【従来の技術】複数の人が集まって打ち合わせを行う場合、あらかじめ用意した資料やその場で黒板等に書いた情報を参加者で議論し内容を検証し問題があれば修正するといった一連の作業を繰り返し、合意に達した内容や中間結果を記録し配布することが一般に行われている。」

エ.段落【0003】〜【0009】
これら段落には、電子黒板における従来の技術が紹介されており、電子黒板には、筆記具を用いて電子黒板上に書いた文字や図形等を表す軌跡を、電子黒板に埋め込まれたセンサーにより座標認識して取り込み、電子黒板のディスプレイ上の対応する座標位置に当該軌跡を文字や図形として表示するもの、前記軌跡を文字や図形として認識処理して、その認識結果を電子黒板のディスプレイ上に表示するもの、また、タブレット上にスタイラスペンにて手書き入力した文字や図形を認識し、その認識結果をタブレットと一体化した液晶等の表示装置に表示するもの等が存在することが記載されている。
(ただし、【0005】では、認識結果は記録紙に記録されることとなっている。)

オ.段落【0020】〜【0030】
図1と図2を参照して、一実施例の詳細が説明されている。
これら段落の記載によれば、実施例は、大別すると、電子黒板1、データ処理装置2、データ格納装置3、表示装置4より構成されていると記載されている。
電子黒板1は、筆記面1aの背後に多数のセンサをマトリクス状に配置した構造となっており、筆記具1bによって筆記面1aに書かれる文字等の軌跡を前記センサによって検出するように構成されており、特定の軌跡に関する画像データが予め定めた複数の編集コマンドのうちいずれに相当するかが画像データ認識部23で認識され、認識された文字、図形、編集コマンドは認識データ記憶部24に記憶され、この認識データ記憶部24に記憶された編集コマンドに従って前記認識された文字、図形を編集する認識コマンド実行部25、編集された文字、図形は画像メモリ27を介して表示装置4に供給され、表示装置4によって電子黒板1の筆記面1aに投射表示されると共に、筆記面1aの下部に縮小して投射表示させる記憶データ表示部26とから構成されており、図2に示されるように、筆記面1aは、縮小表示領域1cおよび非縮小表示領域1dを備えており、これら縮小表示領域1cおよび非縮小表示領域1dにおいて書かれる文字、図形、編集コマンドを逐次認識し、筆記面1aの表示内容が逐次更新されることが記載されている。

前記イ〜エ記載からは、従来より複数の人が集まって打ち合わせを行う際に、黒板等に書いた情報を参加者で議論し内容を検証し問題があれば修正するといった一連の作業を繰り返し、合意に達した内容や中間結果を記録し配布することが一般に行われていること、そして、打ち合わせ業務の容易化を図り得るものとして電子黒板が用いられていることが把握できる。
そして、前記ア及びオ記載によれば、当該文献に係る発明、特に一実施例においては、筆記面1aの背後に多数のセンサをマトリクス状に配置した構造の電子黒板1aを備え、筆記具1bによって筆記面1aに書かれる文字等の軌跡を前記センサによって検出するものとされている。

よって、これらの記載を参照するに、引用文献1には、次の発明が記載されている。
「電子黒板において、
筆記具1bにより書かれた文字等の軌跡を検出する筆記面1aの背後にマトリクス状に配置した多数のセンサが配置された電子黒板1と、
前記センサで検出された文字等の軌跡を表示装置4により電子黒板1に表示する表示装置4と、
前記筆記具1bによって前記電子黒板1の筆記面1aに書かれる文字、図形等の軌跡は前記センサによって検出され、画像データ認識され、認識された文字、図形等に編集コマンドが含まれている場合には、前記認識された文字、図形等を編集する認識コマンド実行部25と、
を備えた電子黒板。」(以下、「引用発明」という。)

3-1-2 同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である平成4年1月16日に頒布された「特開平4-10994号公報 」(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が図示とともに記載されている。

カ.特許請求の範囲
「1.複数の人が共通に見ることができる共通表示装置と、
上記共通表示装置に表示された情報および該情報の編集方法を指示する手段を有する1つ以上の手元端末と、
上記共通表示装置および上記手元端末を接続する接続手段とを備え、
上記共通表示装置は、上記手元端末から指示された情報を、上記手元端末から指示された編集方法に従って編集する手段を有することを特徴とする手元黒板システム。
2.手元で情報を入力する手段および出力する手段を有する1つ以上の手元端末と、
上記手元端末に共通の共通表示装置と、
上記手元端末および上記共通表示装置を接続する手段とを備え、
上記共通表示装置は、指示された情報を指示された編集方法に従って編集する手段を有し、
上記手元端末は、指示された情報を指示された編集方法に従って編集する手段と、上記共通表示装置の編集手段および自身の編集手段が編集すべき情報および編集方法を指示する手段とを有することを特徴とする手元黒板システム。」

キ.「[従来の技術]
従来、会議では、検討事項や意見等を黒板に書き出しながら討論を進める一方で、誰かが黒板に書かれた内容を書き写すなどして、議事録を作成していた。
また、黒板に書かれた内容のハードコピーをとることができる電子黒板が製品化されている。
これは、ホワイトボードと、その表面を走査して、該ホワイトボードに書き込まれた内容を電子的に読み取るスキャナと、読み取った内容を印刷するプリンタとから構成されている。そしてホワイトボード上にマーカペンで書き出した内容を必要とする場合には、スキャナおよびプリンタによりハードコピーを取ることで、書き写す手間を省くことができる。
一方検討事項や意見等を書き込む手段として、電子黒板で用いられるようなインクのマーカーペンではなく、タッチ入力装置により、電子的に手書き情報を入力して、この手書き情報をディスプレイに表示することができる電子会議システムが、特開昭61-9073号公報に記載されている。
このシステムは、大型のディスプレイと、会議机の適所に設置された複数のディスプレイと、各ディスプレイに取り付けられたデータ入力装置と、該データ入力装置から入力された手書き情報を各ディスプレイ間で転送する処理装置とを備え、上記黒板の動作を、ほとんど電子的に行なうことができる。」(2頁右上欄8行〜左下欄15行)

ク.「本発明の目的は、共通に表示された情報を、手元から自由に編集可能とすることにより、上記煩雑な作業を解消して、会議の進行を容易に行なうことを可能とする手元黒板システムを提供することにある。」(2頁右下欄11〜15行)

ケ.「第4図(a)において、本実施例の手元黒板システムは、会議の出席者全員が共通にみることができる共通表示板401と、これを制御する主処理装置402と、出席者が手元から意見やアイデア等を入力できる手元黒板413と、これを制御する副処理装置408と、主処理装置402と副処理装置408とを接続して情報を転送する伝送線407と、手元黒板413から手書き情報を入力するための入力ペン416とから構成されている。
なお、第4図(a)では、手元黒板413から手書き情報417を入力しているところを示している。また、このとき、共通表示板401にも、手書き情報417と同じ手書き情報417'が表示されている。」(4頁右上欄4〜17行)

コ.「第2図(a)および第2図(b)を用いて、本実施例における情報の属性変更方法を説明する。
第2図(a)は、ユーザが行なう属性変更の手順を示している。
手書き情報の属性を変更する場合には、ステップ201において、属性変更を行なうか否かを選択する。属性変更を行なわない場合には、そのまま、終了する。
属性変更を行なう場合には、ステップ202で、共通表示板に表示されている手書き情報の中から、属性変更を行ないたい情報を、手元黒板から指示する。次に、ステップ203で、変更する属性、すなわち、「線種」、「太さ」、「色」を、手元黒板から選択する。
選択した属性が「線種」であるならば、ステップ205で、手元黒板から所望の線種を選択し、ステップ210に進む。
選択した属性が「太さ」であるならば、ステップ207で、手元黒板から所望の太さを選択し、ステップ210に進む。
選択した属性が「色」であるならば、ステップ209で、手元黒板から所望の色を選択し、ステップ210に進む。
ステップ210では、ステップ202で指示された手書き情報を、ステップ203で選択された属性に変更し、属性変更を終了する。」(6頁左下欄1行〜右下欄6行)

サ.「次に、第5図(a)〜第5図(c)を用いて、本実施例における手元黒板の表示画面構成の概略について説明する。
第5図(a)〜第5図(c)は、手元黒板の表示画面構成例を示す図である。
第5図(a)において、手元黒板501の表示画面は、手書き入力エリア502と、メニューエリア503とから構成されている。さらに、これらを包括するように、図示せぬデジタイザが配置されている。手書き入力エリア502は、入力ペン507から入力した手書き情報に対して、その軌跡を表示して、入力表示一体タブレットを実現するものである。また、メニューエリア503は、手元黒板システムの各機能を実行するための選択メニューを表示し、入力ペン507で実行したい機能名の位置を指示することにより、該機能が実行されるソフトキーの機能を有している。」(7頁左下欄1〜17行)

シ.「第4図(a)は本実施例の手元黒板システムの外観の斜視図、・・・、第5図(a)〜第5図(c)は本実施例における手元黒板の表示画面構成例を示す説明図」(13頁左下欄14〜17行)

前記カ、キ記載から、当該文献に係る発明が電子黒板に関するものであることが把握できる。
そして、前記ク〜シ記載からは、当該文献に係る電子黒板システムには、手元黒板413が設けられ、この手元黒板413に入力ペン416で入力した手書き情報が、会議の出席者全員が共通にみることができる共通表示板401に表示されると共に、この手元黒板413の構成例に係る第5図(a)では、手元黒板501の表示画面には、手書き入力エリア502と、メニューエリア503とが設けられており、メニューエリアにおいて、手元黒板システムの各機能を実行するための選択メニューを表示し、入力ペン507で実行したい機能名の位置を指示することにより、該機能が実行されるように構成されている。
また、前記コ記載においては、手書き情報の属性が適宜変更できることが記載されているとともに、当該属性変更を行う情報として、「線種」、「太さ」、「色」が上げられている。

3-2.補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「筆記具1bにより書かれた文字等の軌跡を検出する筆記面1aの背後にマトリクス状に配置した多数のセンサが配置された電子黒板1」は、手書きされた文字や図形を読み取る機能を備えるものであり、補正発明の「手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された大型表示部」に相当する。
また、引用発明の「前記センサで検出された文字等の軌跡を表示装置4により電子黒板1に表示する表示装置4」は、センサにより読み取られた文字や図形を電子黒板1に表示するものであるから、補正発明の「前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記大型表示部に表示させる表示手段」に相当する。

してみれば、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「電子黒板において、
手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された表示部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段とを備えたことを特徴とする電子黒板。」


<相違点1>
表示部を、補正発明は、「大型表示部」とするのに対し、
引用発明にはかかる特定がない点。

<相違点2>
補正発明では、「前記大型表示部に表示する罫線の属性をペンにより指定される当該電子黒板のオペパネ部と、
前記オペパネ部により指定された属性に基づいて罫線を生成し、前記大型表示部に表示させる表示加工部とを備え」るとされるのに対して、
引用発明にはかかる特定がない点。

3-3.相違点の判断及び補正発明の進歩性の判断
(1) 相違点1について
前記ウ記載或いはキ記載にみられるように、従来から電子黒板は、多人数での打ち合わせ或いは会議において用いられるものであって、多人数が同時に見ることができるためには、ある程度の大きさを必要とされることは自明なことである。
この点、相違点1に係るように「大型表示部」と規定したとしても、何に比較して大きいのか、また、どのくらい大きいかが明確に特定されているものとはいえない。
してみれば、相違点1に係る「大型表示部」は、電子黒板として用いるに必要とされる大きさを規定したに過ぎないものといえる。
よって、当該相違点1は、当業者が電子黒板の用途を考慮して適宜なし得た設計事項に属するものでしかない。

(2) 相違点2について
引用発明を認定した引用文献1においては、前記オ記載にみられるように、筆記具1bによって筆記面1aに書かれる文字等の軌跡が、特定の軌跡である場合には、編集コマンドであることが認識され、これに基づき、認識された文字、図形を編集する認識コマンド実行部25を有している。
すると、引用文献1に記載された電子黒板は、その表示部において、編集コマンドを指定できるものといえる。
そして、認識された文字、図形等を編集する認識コマンド実行部25は、電子黒板に表示する表示内容を加工する表示加工部をなすものといえる。
しかしながら、引用文献1では、表示部に表示する罫線の属性を指定することに関しての記載は存在しない。

ところで、引用文献2に記載される電子黒板においては、前記ケ記載にあるように、会議の出席者全員が共通に見ることのできる共通表示板401を備えており、補正発明にいう「大型表示部」を備えているものといえる。
そして、前記コ記載にあるように、出席者の手元に存在する手元黒板から、手書き入力した情報の属性が変更可能とされており、罫線を対象とするものではないものの、手書き入力した情報について「線種」、「太さ」、「色」を、当該手元黒板から選択して変更することが可能とされており、電子黒板の大型表示部である共通表示板401に一体とされたものではない操作部として、手元黒板が機能しているものである。
してみれば、電子黒板において、コマンドを電子黒板の大型表示部以外の別部材として、操作部を設けること自体は、引用文献2に記載されている。

ここで、補正発明の「オペパネ部」について考察するに、補正前の「操作入力部」が具体的に減縮補正されたものであること、一般に操作パネルはオペレーション・パネルとも称されるものであることに鑑みれば、操作パネルを構成する部材であると推察される。
この点、図1のシステム構成図を用いた本願明細書の段落【0008】〜【0016】によれば、大型表示部1、表示手段2、タッチセンサ部3と同じ位置付けでオペパネ部4が示されており、電子黒板に一体化されていることが窺える。
更に、本願明細書の段落【0018】には、「図1は、本発明のシステム構成図を示す。図1において、オペパネ部4は、各種操作指示などを入力したりするものである。」と記載されているものの、当該「オペパネ部」の具体的構成について、それ以上の詳細は明らかにされていない。
よって、補正発明の「オペパネ部」が電子黒板と一体とされた操作用のパネルなのか、電子黒板の「大型表示部」自体の一角を「オペパネ部」としているのか等について、それ以上のことを把握することはできない。
しかし、例えば、講演会に大型表示部を備える電子黒板を用いることを想定した場合、講演者は電子黒板の近傍において講演するわけであり、講演者の便宜を考慮すれば、大型表示部を備える電子黒板側に操作パネルを備えた方が好ましいことは、当業者であれば当然に想到し得ることであり、引用文献2に記載される手元黒板を参考に、電子黒板側に操作パネル、すなわち「オペパネ部」を備えるようにすることは、当業者が容易に想到可能なことである。
また、補正発明の「オペパネ部」が電子黒板とは別部材であるとするならば、操作パネルである点において、引用文献2における手元黒板と何ら差異がないこととなる。

さらに、補正発明の「オペパネ部」では、大型表示部に表示する罫線の属性をペンにより指定することが可能とされているが、前記のように引用文献2においては、罫線を特定するものではないものの、手書き入力した情報について、入力された情報の「線種」、「太さ」、「色」を変更可能とされており、電子黒板に表示する線を必要に応じて、適宜のものに変更し得るようにすることは、既に公知である。
そして、本願明細書の段落【0019】に、補正発明の電子黒板が「ワープロ部5」を備えているとされるように、平成8年当時にあっては、ワープロ或いは文書作成機において様々な線種の罫線が利用可能であることは周知のこと(特開平6-274484号公報、特開平6-139238号公報、特開平5-143583号公報等参照)であって、電子黒板での手書き入力において、罫線を必要とすれば、これらワープロ或いは文書作成機の機能を採用することは、当業者が必要に応じて容易になし得たことである。
また、ワープロ或いは文書作成機の機能において、指定された属性に基づいて罫線を生成し、表示部に表示させる表示加工部を備えていることは明らかといえる。
してみるに、相違点2に係る構成を採用することは、当業者であれば格別の困難なくなし得た程度のことであって、それに基づく作用効果も当業者であれば容易に推察可能なことと認められる。

(4) 補正発明の進歩性の判断
相違点1、相違点2に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を寄せ集めて採用したことにより格別の作用効果が生じるとも認めることができない。
したがって、補正発明は、引用発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-4.まとめ
以上のとおり、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[補正の却下の決定のむすび]
本件補正前の請求項1を限定的に減縮した補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成14年8月19日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「表示部と、
手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段と、
前記表示部に表示する罫線の属性をタッチ操作式入力手段により指定する操作入力部と、
前記操作入力部により指定された属性に基づいて罫線を生成し、前記表示部に表示させる表示加工部とを備えたことを特徴とする電子黒板。」

2.本願発明と引用発明との対比
本願発明は、前記補正発明と比較すると、前記補正発明における「電子黒板において、手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された大型表示部と」を「表示部と、手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部と」とし、
前記補正発明における「大型表示部」から「大型」なる限定を外し、「ペンにより指定される当該電子黒板のオペパネ部」を「タッチ操作式入力手段により指定する操作入力部」としたものである。
ここで、補正発明において「大型表示部」に「タッチセンサ部」が配置されていることが明記されているのに対して、本願発明においては、「表示部」と「タッチセンサ部」が、電子黒板に備えられているとされるのみで、特段に両者の配置関係が明記されていないものとなっている。
しかし、本願明細書に記載される実施例を参照するに、「表示部」に「タッチセンサ部」が配置されているもの以外を上げているところはなく、両者の配置関係が異なるものを想定する必要はない。
よって、引用発明の「筆記具1bにより書かれた文字等の軌跡を検出する筆記面1aの背後にマトリクス状に配置した多数のセンサが配置された電子黒板1」は、手書きされた文字や図形を読み取る機能を備えるものであり、本願発明の「表示部」と「手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部」に相当する。
また、引用発明の「前記センサで検出された文字等の軌跡を表示装置4により電子黒板1に表示する表示装置4」は、センサにより読み取られた文字や図形を電子黒板1に表示するものであるから、本願発明の「前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段」に相当する。
そして、前記「第2 補正の却下の決定」における「3-2.補正発明と引用発明との対比」で抽出した「表示部」に係る相違点1は存在しない。

してみれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された表示部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段とを備えたことを特徴とする電子黒板。」


<相違点3>
本願発明では、「前記大型表示部に表示する罫線の属性を当該電子黒板のタッチ式操作式入力手段により指定する操作入力部と、
前記操作入力部により指定された属性に基づいて罫線を生成し、前記表示部に表示させる表示加工部とを備え」るとされるのに対して、
引用発明にはかかる特定がない点。

3.相違点の判断及び本願発明の進歩性の判断
(1) 相違点3について
前記「第2 補正の却下の決定」における「3-3.相違点の判断及び補正発明の進歩性の判断」の「(2)相違点2について」で検討したように、引用発明を認定した引用文献1における電子黒板では、電子黒板の表示部において、編集コマンドを指定できるものといえる。
そして、認識された文字、図形等を編集する認識コマンド実行部25は、電子黒板に表示する表示内容を加工する表示加工部をなすものの、表示部に表示する罫線の属性を指定することに関しての記載は存在しない。

しかしながら、前記で検討したように、引用文献2に記載される手元黒板を参考に、電子黒板側に操作パネルを備えるようにすることは、当業者が容易に想到可能なことである。
また、本願発明の「操作入力部」が電子黒板とは別部材であるとするならば、操作パネルである点において、引用文献2における手元黒板と何ら差異がないこととなる。

さらに、本願発明の「操作入力部」では、表示部に表示する罫線の属性をペンにより指定することが可能とされているが、前記のように引用文献2においては、罫線を特定するものではないものの、手書き入力した情報について、入力された情報の「線種」、「太さ」、「色」を変更可能とされており、電子黒板に表示する線を必要に応じて、適宜のものに変更し得るようにすることは、既に公知である。
そして、前記のように、平成8年当時にあっては、ワープロ或いは文書作成機において様々な線種の罫線が利用可能であることは周知のことであって、電子黒板での手書き入力において、罫線を必要とすれば、これらワープロ或いは文書作成機の機能を採用することは、当業者が必要に応じて容易になし得たことである。
また、ワープロ或いは文書作成機の機能において、指定された属性に基づいて罫線を生成し、表示部に表示させる表示加工部を備えていることは明らかといえる。
してみるに、相違点3に係る構成を採用することは、当業者であれば格別の困難なくなし得た程度のことであって、それに基づく作用効果も当業者であれば容易に推察可能なことと認められる。

(2) 本願発明の進歩性の判断
相違点3に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これを採用したことにより格別の作用効果が生じるとも認めることができない。
したがって、本願発明は、引用文献1及び引用文献2の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-23 
結審通知日 2006-05-30 
審決日 2006-06-15 
出願番号 特願2000-122452(P2000-122452)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B43L)
P 1 8・ 575- Z (B43L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 尚  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 國田 正久
藤本 義仁
発明の名称 電子黒板および電子黒板の表示制御装置  
代理人 岡田 守弘  

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