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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D |
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管理番号 | 1141166 |
審判番号 | 不服2003-19691 |
総通号数 | 81 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1997-05-13 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-10-08 |
確定日 | 2006-08-11 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第302214号「摩擦式継手の摩擦板」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月13日出願公開、特開平 9-126257〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯の概要・本願発明 本願は、平成7年10月27日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年5月10日(受付日)付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】一方が有機系摩擦材料、金属あるいは非金属材料製の摩擦要素と、他方が有機系摩擦材料、金属、非金属材料あるいは有機系摩擦材料製の摩擦要素とを選択的に押圧・接触させることにより、保持機能、制動機能または加減速機能を発揮させる乾式の摩擦式継手の摩擦板において; 前記摩擦板は、その表面に内外周面を貫通する歪んだ扇形の凹部を刻み、心部から外周に向かって渦状に広がる突起部を形成するか、または、多数の所定形状の小突起が分散して形成されるか、または、その表面上の直径が内環円周によって分断された線分を含み、また含まず、これに平行で外周から内周の環まで貫通する複数の突起と、これらの突起に平行で外環円周に対する複数の弦を構成する複数の突起を分散させて形成されており、前記一方が前記他方に押圧されたとき、前記一方の摩擦要素は前記他方と圧接状態になる摩擦部分と非接触部分とから成り、前記摩擦板は複数個の凸状断面を有し、前記摩擦部分と前記非接触部分との面積を合計した前記摩擦板の全面積に対する前記摩擦部分の面積率を60%以下、好適には10%以下となるように構成され、発生トルクの経時的変動率が小さく、安定したトルクを得ることが可能にされていることを特徴とする乾式の摩擦式継手の摩擦板。」 なお、平成15年11月7日(受付日)付けの手続補正は、当審において平成18年2月21日(起案日)付けで却下されている。 2.引用刊行物の記載事項 当審において平成18年3月9日(起案日)付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭50-166012号(実開昭52-77366号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、摩擦による動力の伝達あるいは制動装置に関して、下記の事項ア〜ウが図面とともに記載されている。 ア;「以下この考案の一実施例を図とともに説明すると、第1図〜第2図において、(1)は一般に工業用ミシンなどに用いられているクラッチ付電動機、(2)はこの電動機の固定子鉄心、(3)は回転子鉄心、(4)は回動軸、(5)はこの回転軸端部に固定されはずみ車の役割を果たす高熱伝導金属性回転板、(6)はこの回転板に対向し伝導軸(7)に固定された円板でその表裏両面に摩擦材(81)(82)が添設されている。(9)は上記摩擦材(81)に対向して設けられたブレーキ片、(10)は操作レバーで、伝導軸(7)をその軸方向に摺動させて円板(6)を回転板(5)あるいはブレーキ片(9)に接触させて、伝導軸(7)に動力を伝えたり制動したりする。 このような装置において円板の摩擦材(82)の摩擦面を種々の形状に加工して実際に使用してみると表1のような結果が得られた。すなわち、 (A)は従来通りのもので見掛け上全面接触し鳴き音の発生するものである。 (B)は従来から摩擦粉除去のためしばしば行なわれているものと同様に放射状にいくつかの溝を設け上記Aのものに比してその接触面積が80〜90%となるようにしたもので鳴き防止効果はなかった。この他表1には記していないが螺旋状溝、格子状溝など種々の形状(同面積比)のものも使用してみたが効果はなかった。 (C)(D)は溝巾を大きくし接触面積を約40〜60%にしたもので、2、3のものは偶然的に鳴きが発生しなかったがほとんどの場合その効果はなかった。 (E)(F)は溝巾をさらに大きくし接触面を3ヵ所および2ヶ所、等間隔に設けその接触面を約40%に減少させたものであり、いくつかの使用例でいづれも鳴きが発生せず良好な結果が得られた。」(第2頁7行〜第3頁20行) イ;「以上は摩擦材(82)を加工して行なったもので鳴き防止効果のある(E)あるいは(F)を採用するといずれも摩擦材(82)の摩耗寿命が大巾に減少する。そのため摩擦材(82)の代りに金属性の回転板(5)に、例えば第2図に示すように、2つの突出した接触部(51)(52)(突出量0.5mm程度)を設けたものを使用してみたが上記と同様の効果が得られた。」(第4頁1行〜7行) ウ;「以上のようにこの考案は、対向する摩擦円板と回転板のどちらか一方に3前後の少数の突出した接触部を等間隔に配設し、かつこれらの接触部の総面積が全対向面積の約40%以下となるようにしたものであり、極めて簡単で安価な手段で鳴き発生を完全に防止することができる。 なお、回転板を熱伝導の良好な金属性のものとしこの回転板に突出した接触部を形成すれば摩擦材の寿命を縮めることなく鳴き防止効果が得られる。」(第4頁13行〜第5頁2行) 3.対比・判断 刊行物1に記載された上記記載事項ア〜ウからみて、刊行物1に記載された発明の動力伝達制動装置も、一方が表裏両面に摩擦材81,82が添設された円板6と、他方が高熱伝導金属性回転板5とを選択的に摺動させて接触させることにより動力伝達機能を発揮させるように構成されており、円板6の摩擦材82又は回転板5のどちらか一方には少数の突出した接触部をこれらの接触部の総面積が全対向面積の約40%以下となるように構成されているものである。 なお、刊行物1に記載された発明の円板6及び摩擦材81,82に使用する材料については格別限定がないものであるが、本願発明と同様に有機系摩擦材料、金属或いは非金属の材料製の適宜な摩擦材料が採用されていることは、当業者であれば自明の事項といえるものである。 そこで、本願発明の用語を使用して本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「一方が有機系摩擦材料、金属あるいは非金属材料製の摩擦要素と、他方が金属製の摩擦要素とを選択的に押圧・接触させることにより、制動機能または加減速機能を発揮させる乾式の摩擦式継手の摩擦板において、前記一方が前記他方に押圧されたとき、前記一方の摩擦要素は前記他方と圧接状態になる摩擦部分と非接触部分とから成り、前記摩擦板は複数個の凸状断面を有し、前記摩擦部分と前記非接触部分との面積を合計した前記摩擦板の全面積に対する前記摩擦部分の面積率を40%以下となるように構成されている乾式の摩擦式継手の摩擦板。」で一致しており、下記の点で相違している。 相違点1;本願発明では、摩擦板に形成する突出部を、その表面に内外周面を貫通する歪んだ扇形の凹部を刻み、心部から外周に向かって渦状に広がる形状とするか、または、多数の所定形状の小突起が分散した形状とするか、または、その表面上の直径が内環円周によって分断された線分を含み、また含まず、これに平行で外周から内周の環まで貫通する複数の突起と、これらの突起に平行で外環円周に対する複数の弦を構成する複数の突起を分散させた形状とするものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、円板6に添設した摩擦材82に形成する摩擦面(突起部)を、溝巾をさらに大きくし、接触面を3ヶ所および2ヶ所、等間隔に設けたものとしている点。 相違点2;本願発明では、摩擦板が発生トルクの経時的変動率が小さく、安定したトルクを得ることが可能にされているものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、金属性の回転板に突出した接触部を形成すれば摩擦材の寿命を縮めることなく鳴き防止効果が得られるものとするものではあるが、本願発明のように発生トルクの経時的変動率が小さく、安定したトルクを得ることが可能にされているものであるかどうかまでは不明である点。 上記相違点1について検討するに、本願発明において、摩擦板に形成する突出部の形状を、その表面に内外周面を貫通する歪んだ扇形の凹部を刻み、心部から外周に向かって渦状に広がる形状(本願明細書の図1(B)参照)とするか、または、多数の所定形状の小突起が分散した形状(本願明細書の図1(C)〜(E)参照)とするか、または、その表面上の直径が内環円周によって分断された線分を含み、また含まず、これに平行で外周から内周の環まで貫通する複数の突起と、これらの突起に平行で外環円周に対する複数の弦を構成する複数の突起を分散させた形状(本願明細書の図1(F)参照)とすることの技術的意義について検討しても、平断面が扇形の凹部を刻んで非接触部分とし、それよりほぼ平面形状が長方形で放射状に延在する突起部を摩擦部分とした形状(本願明細書の図1(A)参照)と対比しても、本願発明においてこれら3種類の突起部形状を採用したことには格別な技術的意義を認めることができないものであって、摩擦部分と非接触部分との面積を合計した摩擦板の全面積に対する摩擦部分の面積率を60%以下、好適には10%以下となるように構成することに技術的意義を認めることができるものである。 そして、刊行物1に記載された事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された摩擦板の形状で効果ありとされた表1のE、Fの形状は実施例の一つにすぎないものであって、接触面を約40%に減少させたものであれば、適宜な接触面(例えば、細かな突起を表1のE,Fの帯域に配置したもの)等を採用し得ることは容易に理解できる事項といいうるものである。 そうすると、突出部として心部から外周部に向かう突起、又は、多数の所定形状の小突起等を接触面を約40%とする範囲で分散配置して上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度のことであって、格別創意を要することではない。 上記相違点2について検討するに、本願明細書の記載を参酌すれば、摩擦板の全面積に対する摩擦部分の面積率を60%以下とすることによって、摩擦板の発生トルクの経時的変動率が小さく、安定したトルクを得ることが可能とされるものと認めることができるにすぎないものである。 そして、刊行物1に記載された発明でも、金属性(製)の回転板5に突出した接触部を形成すれば、摩擦材の寿命を縮めることがなく(「摩擦板の発生トルクの経時的変動率を小さく、安定したトルクを得ること」に実質的に相当)鳴き防止効果が得られるものである。 そうすると、刊行物1に記載された事項を知り得た当業者であれば、金属製の回転板5に突出した接触面を約40%形成することによって、上記相違点2に係る本願発明のように発生トルクの経時的変動率を小さくして、安定したトルクを得ることが可能なようにする(摩擦板として必要な制動機能又は動力伝達機能を果たすことのできる発生トルクを維持する)ことは、必要に応じて容易に想到することができる程度のことであって、格別創意を要することではない。 また、本願発明の効果について検討しても、刊行物1に記載された事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。 ところで、請求人は、平成18年5月10日(受付日)付け意見書で、概略「本願発明と引例1(上記刊行物1)の考案の目的は、顕著に相違しており、本願発明は引例1とは全く別個の目的で独立に創作が開始され、その結論において、摩擦部分の面積率の上限を規定するという共通する技術思想を偶然共有することになったものである。」(【意見の内容】の(6)対比・判断の認定に対しての(6-2)対比・判断の第2の認定に対しての項参照)旨主張している。 しかしながら、刊行物1に記載された発明でも、金属製の回転板5に突出した接触面を約40%形成すれば、摩擦材の寿命を縮めることなく鳴き防止効果が得られるものであって、刊行物1に記載された発明でいうところの「寿命を縮めることなく」とは、本願発明の用語に倣えば、摩擦材が所定の期間その発生トルクの経時的変化が小さく、安定したトルクが得られ、摩擦材としての必要な制動機能又は動力伝達機能を奏するものとなることであることは、上記のとおりである。 また、本願発明で特定した突起部の形状(本願明細書の図1の(B)〜(F)参照)と本願発明から排除した突起部の形状(本願明細書の図1の(A)参照)と対比しても、突起部の形状の相違に基づく格別な技術的意義を認めることができないものであり、さらに、刊行物1に記載された事項を知り得た当業者であれば、接触面を約40%とする範囲で、本願発明のような突起や多数の小突起とすることは格別創意を要することでないことも上記のとおりである。 よって、請求人の上記意見書中での主張は採用することができない。 4.むすび したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-05-26 |
結審通知日 | 2006-06-06 |
審決日 | 2006-06-19 |
出願番号 | 特願平7-302214 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤村 泰智 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
亀丸 広司 町田 隆志 |
発明の名称 | 摩擦式継手の摩擦板 |
代理人 | 斎藤 春弥 |
代理人 | 高橋 陽介 |