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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1141175
審判番号 不服2005-121  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-01-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-04 
確定日 2006-08-11 
事件の表示 平成 6年特許願第152395号「防虫剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 1月23日出願公開、特開平 8- 20503〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯及び本願発明
本願は、平成6年7月4日に出願され、拒絶理由通知に対し期間内に何らの応答もなく拒絶査定され、平成17年1月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成17年4月13日に審判請求書の手続補正書が提出されたものであり、その請求項1〜9に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜9に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は以下のとおりである。
「【請求項1】 常温揮散性の油性防虫液薬剤を含有せしめられた昇華性物質が収容手段内に収容されると共に、前記収容手段は揮散した薬剤の透過性が制御されていることを特徴とする防虫剤。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用文献及びその記載
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開昭61-83102号公報(刊行物2)及び実願昭57-198239号(実開昭59-21602号)のマイクロフィルム(刊行物8)には以下の事項が記載されている。
(1)特開昭61-83102号公報(刊行物2)
a 「常温揮散性の油性防虫薬液剤が昇華性物質の成形基材内に含有せしめられてなる構成を特徴とする昇華性物質を基材とする防虫材。」(特許請求の範囲第1項)
b 「さらに詳しくは、基材として適用される昇華性物質での昇華の際生じる作用によって含有する常温揮散性の油性防虫薬液剤の揮散量を均一化し効率的な防虫機能を発揮させ得る防虫材である。」(1頁右欄2〜6行)
c 「従来、昇華性の防虫材としては、パラジクロルベンゾール、ナフタリン、樟脳等の昇華性防虫薬剤をそのまま打錠又は顆粒化したものが一般的である。」(1頁右下欄8〜11行)
d 「本発明はこのような従来防虫材での欠点を解消し、僅かな用量で、しかも被防虫対象に対し接触的な用法を必要としない間接的な配置によって十分な効果を発揮し得る防虫材を提供することを目的としている。」(2頁左上欄6〜10行)
e 実施例1において、昇華性物質としての2,4,6-トリイソプロピル-1,3,5-トリオキサンの粉末900mgに、常温揮散性の油性防虫薬液剤としての4-メチル-4-ヘプテン-1-イン-3-イルd-シス、トランス-クリサンテマート油液100mgを混入混合して打錠し、防虫材(A)を1g得て、これを通気性の和紙によって包装し、洋服箪笥の引出し内に設置している(2頁右下欄12行〜3頁左上欄2行)。
(2)実願昭57-198239号(実開昭59-21602号)のマイクロフィルム(刊行物8)
f 「片面を透明なガス不透過性シートにて形成し、他面を透明な通気性シートにて形成して、この両シート間に防虫剤を収納し且つ両シートの周縁を溶着等して固着すると共に、上記通気性シートからのガス透過量を調整するべく該通気性シートの外側面にこの通気性シートの通気量を調整する他の透明シートを1枚若しくは複数枚剥離自在に積層してなることを特徴とする包装防虫剤。」(実用新案登録請求の範囲)
g 「衣類等の防虫用に使用されるパラジクロールベンゼン、ナフタリン、樟脳等の昇華性防虫剤は、従来透明なガス不透過性シート、例えばセロフアンにて密閉状態に包袋され、使用開始時にこの包装袋の四隅を切除開口して包装した防虫剤の昇華放散を可能としている。しかしながら、この包装防虫剤は使用開始時毎に包装袋の四隅を切除し通気開口を形成しなければならず、このことは大変煩雑であり、又切りくずが生じるという不都合がある。ところで、近時に至つて包装袋の四隅の切除開口を不要とする為に、包装袋全体を不織布、和紙、洋紙等の通気性シートにて形成したものが提案され実施されている。」(1頁下から6行〜2頁7行)
h 「しかしながら、前記包装袋にあっては、包装した防虫剤を透視できず、従つて防虫剤が昇華し切つてなくなつたか否かの看視ができず、なくなつたことを知らずに放置することがあり、防虫剤を使用していながら衣類等が虫に食われるという虞れがあった。」(2頁8〜13行)
i 「本考案は上述の点に鑑みてなされたもので、一方片面を透明なガス不透過性シートにて形成し、他方片面を透明な通気性シートにて形成して、この両シート間に防虫剤を収納し両シートの周縁を接着して構成したことにより、使用開始に当り四隅を切除し通気開口を形成する必要がなく、その上本考案包装防虫剤のいずれの片面を上面にしても収納した防虫剤を透視でき、従つて補充をする必要があるか否かの看視が可能で衣類等の食害を有効に防止できる包装防虫剤を提供することを目的とする。」(2頁14行〜3頁4行)
j 「又、本考案の他の目的は、包装袋の一片面を形成する通気性シートのガス透過量を例えばその面積に応じて適宜設定することにより、防虫剤の適度な昇華放散量が得られ、又持続性も良好な包装防虫剤を提供するにある。」(3頁5〜9行)
k 「上記包装袋本体1の片面を形成する透明な通気性シート3は、この通気性シート3外側面に他の透明シート(不通気性)を剥離可能に積層して、この通気性シートの通気目を閉塞しておき、使用時には、この透明シートを適宜量剥離することによつて上記通気性シート3の通気目の開口量即ち、通気量が調整されるようになっている。即ち、上記透明シートの剥離量を加減することによって、通気性シート3からのガス透過量が調整されるようになっている。」(4頁2〜11行)

3 対比・判断
刊行物2には、常温揮散性の油性防虫薬液剤を含有せしめられた昇華性物質である防虫材が記載されており(摘記a)、これを通気性の和紙によって包装することが記載されている(摘記e)から、刊行物2には、「常温揮散性の油性防虫液薬剤が含有せしめられた昇華性物質を、通気性の和紙によって包装した防虫材」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
本願発明と引用発明とを対比すると、「収容手段内に収容」されているということと「包装」されているということとは実質的に同じであり、また、「防虫剤」と「防虫材」も実質的に同じであるから、両者は「常温揮散性の油性防虫液薬剤を含有せしめられた昇華性物質が収容手段内に収容されてなる防虫剤」である点で一致し、収容手段が、本願発明においては「揮散した薬剤の透過性が制御されているもの」であるのに対し、引用発明においては「通気性の和紙」である点で相違する。
ところで引用発明は、従来のパラジクロルベンゾール、ナフタリン等の昇華性の防虫材の欠点を解消するためになされたもので(摘記c、d)、防虫薬液剤の揮散量を均一化したもの(摘記b)である。そこで、同様に揮散量が調整された昇華性防虫剤である刊行物8に記載の発明をみると、刊行物8には、パラジクロールベンゼン、ナフタリン等の昇華性防虫剤をセロファンや和紙等で包装した従来の防虫剤の欠点を改良するために(摘記g〜i)、片面を透明なガス不透過性シートにて形成し、他面を透明な通気性シートにて形成した収容手段が記載され(摘記f)、この収容手段である通気性シートは、「ガス透過量を例えばその面積に応じて適宜設定することにより、防虫剤の適度な昇華放散量が得られ」るものであるから(摘記j、k)、本願発明で特定されているところの「揮散した薬剤の透過性が制御されているもの」である。
そうしてみると、通気性の和紙により包装された防虫剤を、和紙での包装による欠点を解消し、さらに防虫剤の残存量が透視できる等、より使いやすいものとするために、刊行物8に記載されるような通気性シートとすることは当業者が普通に考え得るところと認められるから、刊行物8に記載の通気性シートを採用して「揮散した薬剤の透過性が制御されているもの」とする点に、格別の創意を要したものとすることはできない。
したがって上記の点は、刊行物2、8の記載から当業者が導ける程度のものである。

本願発明の効果について
本願発明の奏する効果は、明細書の段落【0050】に記載されるように「揮散した薬剤が無制約に拡散してしまうということがないので、防虫剤としての有効期間を設定し得る。」というものであるところ、これは、和紙によって包装した従来の防虫剤では、薬剤が通気性の和紙を通して無制約に拡散するので、その有効期間の設定がしにくく、防虫剤の終期の目安がつけにくいために、和紙で包装するのに替えて揮散した薬剤の透過性が制御されているものを採用し、防虫剤としての有効期間を設定し得るものとしたものである(本願明細書の段落【0004】、【0005】参照)。
しかしながら、刊行物8に記載された発明においても、従来の和紙等で包装した防虫剤にあっては、包装した防虫剤を透視できないために防虫剤がなくなったか否かの看視ができず(摘記h)、その改良のために包装すなわち収容手段を通気性シートで形成し(摘記i)、この通気部分のガス透過量を適宜設定することで防虫剤の適度な昇華放散量が得られる(摘記j、k)のであるから、通気性シートを用い、そのガス透過量を設定すれば、自ずと有効期間は決まるのである。
したがって、「防虫剤としての有効期間を設定し得る。」という効果は、刊行物8に開示されており、本願発明の効果も当業者の予測しうるところと認められる。

よって、本願発明は、刊行物2、8に記載の発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 請求人の主張
なお、請求人は、平成17年4月13日付けの審判請求書の手続補正書において、「本願発明は、(a)常温揮散性の油性防虫液薬剤を含有せしめられた昇華性物質(以下、これを固化薬剤という)を用いること、(b)上記固化薬剤が収容手段内に収容され、前記収容手段は揮散した薬剤の透過性が制御されていること、を特徴としており、引用例1〜8については、該構成(a)、(b)の双方を開示しているものはないし、双方を備えることを示唆するものもない。本願発明の効果は、構成(a)、(b)の双方を備えることにより、初めて得られるものである」旨、主張する。
しかしながら、請求人の主張する(a)、(b)の構成はそれぞれ刊行物2、8に記載され、これらの刊行物に記載された発明はいずれも昇華性の防虫剤を包装したものであって、薬剤の揮散量を制御することを目的のひとつにしているものであるから、互いに類似の課題を有する発明を組み合わせることに何ら困難性はない。そして、その効果が当業者の予測しうるものであることは、上記3.に述べたとおりである。
したがって、請求人の主張は採用できない。

5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、請求項2〜9に係る発明を検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-09 
結審通知日 2006-06-14 
審決日 2006-06-27 
出願番号 特願平6-152395
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星野 紹英  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 原田 隆興
鈴木 紀子
発明の名称 防虫剤  
代理人 眞下 晋一  
代理人 舘 泰光  
代理人 三枝 英二  

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