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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01H
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01H
管理番号 1141223
審判番号 不服2003-20158  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-16 
確定日 2006-08-10 
事件の表示 特願2000- 92350号「フットスイッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月28日出願公開、特開2000-207992号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年3月29日の出願であって、平成15年9月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年10月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成15年11月14日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成15年11月14日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年11月14日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、次のように補正された。
「 【請求項1】 踏み動作を検出し得るようにシート状スイッチを含む複数枚のシートが積層されてなる遊技用のフットスイッチであって、最下層のシートは、実質的に少なくともそのシート表裏面が導電性を有する材料によって形成され、上記最下層のシートは、粉状のカーボンブラックが練り込まれてなるエチレン酢酸ビニルコポリマーを基材として形成され、上記カーボンブラックの上記エチレン酢酸ビニルコポリマーに対する練り込は量は、最下層のシートの1m当りの抵抗値が1×103〜1×104Ωになるように設定されていることを特徴とするフットスイッチ。
【請求項2】 上記最下層のシートは、表裏面に金属箔がラミネートされたものであることを特徴とする請求項1記載のフットスイッチ。
【請求項3】 上記金属箔は、アルミニウム箔であることを特徴とする請求項2記載のフットスイッチ。
【請求項4】 最下層のシートの表面側にクッション用のマット材が敷設されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフットスイッチ。」

(2)新規事項の追加の有無
上記補正は、平成15年5月26日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲(以下、「原査定時の明細書の特許請求の範囲」という。)の請求項1〜4に係る発明を統合して新たな請求項1と補正するとともに、原査定時の明細書の特許請求の範囲の請求項1の従属請求項であった請求項5を新たな請求項1の従属請求項として請求項2に繰り上げる補正である。
しかしながら、新たな請求項2に記載されるように、新たな請求項1に記載された組成及び抵抗値を有する「最下層シート」に、更に「表裏面に金属箔がラミネート」されているものについては、出願当初の明細書又は図面には記載されておらず(例えば、明細書【0142】〜【0145】欄、【0151】欄の記載を参照。)、また、これらの記載から自明な事項であるとも認められない。

(3)したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成15年11月14日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、原査定時の明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「 踏み動作を検出し得るようにシート状スイッチを含む複数枚のシートが積層されてなるフットスイッチであって、最下層のシートは、実質的に少なくともそのシート表裏面が導電性を有する材料によって形成されていることを特徴とするフットスイッチ。」
そして、本願発明は最下層のシートを実質的に少なくともそのシート表裏面が導電性を有する材料によって形成することにより、シート同士の摩擦による静電気を最下層を通して逃がすものである。

4.引用例の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、実願昭62-27646号(実開昭63-134413号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア.「下面に電極部8が形成された上シート4と、上面に電極部12aが形成された下シート5をシート状スペーサ6を挟んで重ね合わせ、上シート4の上部にカバーシート9を装着して成るマットスイッチにおいて、上記上シート4の電極部8と上記カバーシート9を接触させたことを特徴とするマットスイッチ。」(実用新案登録請求の範囲)
イ.「(考案の技術分野)
本考案はマットスイッチに係り、上シートの電極部とカバーシートを接触させることにより、シートとシートの間に静電気が発生するのを防止するようにしたものである。
(考案の背景)
上シートと下シートを、シート状スペーサを挟んで重ね合わせて成るマットスイッチが知られている。この種マットスイッチは、所定箇所を足で踏むなどして押圧すると、上シート下面の電極部と下シート上面の電極部が接触して導通するようになっている。しかしながら上シートや下シートあるいは上シートの上部に装着されるカバーシート等は、一般に合成樹脂などの誘電率の大きい素材にて形成されているため、押圧時などにシート同士が摩擦し合うと大きな静電気を生じやすく、この静電気のために電気素子が破壊されたり、あるいはこれを押圧する手足に電撃を受けるなどの問題点があった。
(考案の目的)
本考案は上記事情に鑑みてなされたものであって、シート同士の摩擦による静電気の発生を防止できるマットスイッチを提供することを目的とする。」(明細書、1頁13行〜2頁17行)
ウ.「上シート4と下シート5の縁部4a,5aはそれぞれカバーシート9,10側へ折り返されて、各電極部8,12aはカバーシート9,10の裏面に接触しており、各シート4,5と各カバーシート9,10を同電位に保持する。20は縁部に装着された縁テープであって、上記糸19により縫合されている。この糸19はカーボン,銅等の導電性の糸であり、該糸19により各シート4,5,9,10を電気的に接続している。また縁テープ20は、その内面に導電部21を設けたり、あるいは導電性の素材により形成されており、カバーシート9とカバーシート10を電気的に接続している。この足踏み式楽器1を床Fに敷いて足踏み部7,7・・・を足踏みすると、シート4,9とシート5,10は互いに摩擦し合い、これらの間に静電気を発生するが、その電荷は電極部8,12aを通して速やかに流出するから、足踏みする足に電撃を受けたり、本体部3内の電気素子が静電気により破壊されることはない。」(明細書、7頁12行〜8頁11行)

これらの記載によれば、引用例1には、
「所定箇所を足で踏むなどして押圧すると、上シート下面の電極部と下シート上面の電極部が接触して導通するようになっているマットスイッチであって、上シートと下シートはシート状スペーサを挟んで重ね合わされており、更に上シートと下シートには上カバーシートと下カバーシートが重ね合わされているマットスイッチにおいて、上シートの電極部と上カバーシート、下シートの電極部と下カバーシートを接触させたマットスイッチ。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認めることができる。
そして、この引用発明1は上シートの電極部と上カバーシート、下シートの電極部と下カバーシートを接触させて、シート同士の摩擦による静電気を電極部を通して逃がすものである。

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特公昭60-44468号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。
エ.「導電性糸をパイル糸とともに基布にタフティングして得られる制電性カーペットとアルミニウム合金パネルとを接着剤にて一体化してなる床ユニットに於いて、制電性カーペットは炭素繊維を混入せるバッキング層と面積空隙率が40〜70%の2次基布とを含み、接着剤は導電性を有し2次基布の空隙を充填するとともに、バッキング層と接着していることを特徴とする制電性床ユニット。」(特許請求の範囲)
オ.「導電性接着剤6は通常の接着剤に導電性物質を混入せしめてなる電気抵抗が5×103Ω程度のものを用いるのが良い。」(3欄15〜17行)
カ.「本発明の床ユニットはアルミ合金パネルにアースを施しめることによりカーペット表面の静電気を導電性糸から炭素繊維混入バッキング層、導電性接着剤、アルミ合金パネルへと、すみやかに漏洩せしめ帯電量を0にする」(3欄20〜24行)
キ.「グラファイトカーボンを混入せしめた5×103Ω・cmの導電性接着剤を使用してタテ40cm×ヨコ40cm×高さ20cmの箱型アルミ合金パネルに上記カーペットを接着せしめた。」(4欄17〜20行)

(3)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願平4-56218号(実開平6-10490号)のCD-ROM(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。
ク.「【従来技術とその問題点】
従来より手術室、有機溶剤を多量に使用する工場等では静電気によるスパークが大変危険なため、帯電防止処理が求められている。
このような場所では従来、床材自体とくにその裏打ち材に多量の導電性カーボンブラックを添加した帯電防止床タイルが床下地に敷設されていた。
しかしながら、裏打ち材中にカーボンブラックが多量に含有されているため、この裏打ち材がタイル表面や、施工現場の周囲に接触してこれらを汚染する等の問題があった。
また上記帯電防止タイルは製造工程中もカーボンブラックが飛散して作業環境を汚染しその対策が求められていた。
【問題点を解決する手段】
本願は上記問題点を解消した考案で、合成樹脂表面材裏面に、合成樹脂にカーボン粉以外の導電性材料が添加された導電性裏打ち材が積層されたことを特徴とする帯電防止床タイル、をその要旨とする。」(【0002】〜【0004】)
ケ.「1は好ましくは厚さ0.3〜5mmの表面材である。表面材は帯電防止性能を持った従来公知のコンポジションビニル床タイル、ホモジニアスビニル床タイル、その他のシート床材の一部でもよい。
またPVCシートに適宜印刷または着色したシートに、帯電防止剤や帯電防止可塑剤、および例えばスズ、モリブデン、ニッケル蒸着繊維の白色導電性繊維等の導電性材料を添加してもよい。
2は導電性裏打ち材であり、PVC、ポリウレタン、EVA等の樹脂、バインダー可塑剤、充填剤、安定剤、導電性材料等が配合され、好ましくは0.5〜4mmの厚さである。
この導電性裏打ち材組成物として、可塑剤はDOP、BBP、等が好適でバインダー100重量部に対して1〜50重量部好ましくは配合される。」(【0006】〜【0009】)
コ.「【考案の作用】
本願考案においては、裏打ち材全厚にわたって、カーボン粒子以外の導電材が均一かつ有効に分散されており、表面材で生じた静電気をその裏側よりすばやく逃すとともに何らタイル表面材等を汚染しない。」(【0015】)

(4)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特許第2657681号公報(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
サ.「【請求項1】ペースト用塩化ビニル樹脂100重量部、液状可塑剤30〜120重量部及び無機充填剤50〜400重量部からなる塩化ビニルプラスチゾル、比表面積が450m2/g以下であり、吸油量が250ml/100g以下の導電性カーボンブラツク5〜30重量部、有機カツプリング剤0.5〜3重量部及び第3級アミン及び/又は第4級アンモニウム塩を主成分とする帯電防止剤1〜15重量部を含有することを特徴とする、導電性カーペツト用裏打ち組成物。」(特許請求の範囲)
シ.「〔産業上の利用分野〕
本発明はカーペツト裏打ちに用いる導電性カーペツト用組成物に関する。」(1欄12〜14行)
ス.「〔発明が解決しようとする問題点〕
本発明は、裏打ち加工が充分可能な粘度で均一な加工が可能であり、かつ帯電防止効果が充分な塩化ビニル樹脂生成物を提供するものである。」(3欄7〜10行)
セ.「本発明に用いられる導電性カーボンブラツクは、比表面積が450m2/g以下好ましくは50〜250m2/gであり、吸油量が250ml/100g以下好ましくは100〜180ml/100gのものである。導電性カーボンブラツクは粒径20mμ以上のものが好ましい。これらの導電性カーボンブラツクは市販されており、容易に入手することができる。導電性カーボンブラツクの含有量は、ペースト用樹脂100重量部に対し5〜30重量部である。導電性カーボンブラツクの含有量がこれより少ないと充分な導電性を付与することができない。またこれより多いとペーストゾルの粘度が高くなり、カーペツトの裏打ち加工が困難となる。」(3欄41行〜4欄1行)
ソ.「〔発明の効果〕
本発明の組成物は、多量の導電性カーボンブラツクを含有しているにもかかわらず、粘度が低いため、カーペツトの裏打ち加工を容易に行うことができ、しかも加熱処理により得られる樹脂は良好な導電性を示す。また無機充填剤を多量に含有しているため製造費を大幅に低下させることができ、製品の風合を自由に調節することができる。」(4欄47行〜5欄4行)

5.対比
本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1は「上シート下面の電極部と下シート上面の電極部が接触して導通する」ものであるから、上シート、シート状スペーサ及び下シートからなる部分が本願発明の「シート状スイッチ」に相当し、引用発明1の「マットスイッチ」が本願発明の「フットスイッチ」に相当する。そして、引用発明1のマットスイッチも踏み動作を検出するものであり、また、引用発明1の上シートと下シートには上カバーシートと下カバーシートが重ね合わされているから、両者は、
「踏み動作を検出し得るようにシート状スイッチを含む複数枚のシートが積層されてなるフットスイッチ」の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
(相違点)
シートに発生した静電気を逃がすために、本願発明は最下層のシートを実質的に少なくともそのシート表裏面が導電性を有する材料によって形成しているのに対し、引用発明1は上シートの電極部と上カバーシート、下シートの電極部と下カバーシートを接触させている点。

6.判断
本願発明も引用発明1もいずれもフットスイッチにおいて、シートに蓄電した静電気を逃がすことによりシートへの蓄電を防止するものであり、その技術的課題は同一である。ところで、引用発明1では蓄電した静電気を電極部を通して逃がしているが、床に設置する部材に蓄電した静電気を、床と接する部分(面)を導電性を有する材料で形成してその部分を通して逃がすことは、例えば引用例2〜4に記載されているように周知の技術であるから、シートが積層されてなる部材において床と接する部材である最下層のシートを導電性を有する材料で形成して、その部分を通して帯電した静電気を逃がすことは当業者が容易になし得ることである。そして、最下層のシートを導電性を有する材料で形成すれば、最下層のシート表裏面が導電性を有することは明らかであるから、上記相違点に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、補正却下された平成15年11月14日付け手続補正書の請求項1に記載された「最下層のシートは、粉状のカーボンブラックが練り込まれてなるエチレン酢酸ビニルコポリマーを基材として形成され、上記カーボンブラックの上記エチレン酢酸ビニルコポリマーに対する練り込は量は、最下層のシートの1m当りの抵抗値が1×103〜1×104Ωになるように設定されている」という技術事項について請求人は進歩性を主張しているので検討すると、エチレン酢酸ビニルコポリマーのような合成樹脂基材に、カーボンブラックのような導電性材料を練り込んで導電性を与えることは、例えば引用例2〜4に示すように周知の技術であり、そして、シートの抵抗値は、シートに求められる導電性や強度、加工性等を考慮して適宜設定される事項(引用例4参照。)であって、かつ、「抵抗値が1×103〜1×104Ω」という範囲が特異なものでもない(引用例2参照。)ことから、上記技術事項は、当業者が設計事項として容易になし得たことであることを申しそえる。

7.むすび
したがって、本願発明は、引用発明1および周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-26 
結審通知日 2006-06-13 
審決日 2006-06-27 
出願番号 特願2000-92350(P2000-92350)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H01H)
P 1 8・ 121- Z (H01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 雅弘  
特許庁審判長 山崎 豊
特許庁審判官 一色 貞好
森川 元嗣
発明の名称 フットスイッチ  
代理人 伊藤 孝夫  
代理人 小谷 悦司  
代理人 樋口 次郎  

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