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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1141251
審判番号 不服2004-11616  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-05-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-08 
確定日 2006-08-10 
事件の表示 特願2001-260871「インクジェットプリンタ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月 8日出願公開、特開2002-127401〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成7年1月11日に出願された特願平7-18674号(特許法第41条に基づく優先権主張 平成6年2月10日)の一部を平成13年8月30日に特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成16年5月10日付けで拒絶査定がなされ、平成16年6月8日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされた。

第2 本願発明の認定

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の通りのものであると認める。

「用紙を送る紙送りローラと、この紙送りローラにより送られた用紙の表面にインクを吐出して印字するインクジェットヘッドと、このインクジェットヘッドと対向する位置に設けられ、前記紙送りローラにより送られる用紙の先端をすくうようにして案内する傾斜面と、この傾斜面に設けられたインク溜溝と、を備えたことを特徴とするインクジェットプリンタ。」

第3 引用例

原査定の拒絶の理由に引用された、特開平4-341848号公報(以下、「引用例1」という)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「インクジェットプリンタにおいて、搬送した用紙にノズルから噴射させたインクを付着させて印字する印字領域を略平面状の給紙経路内に形成し、前記ノズルの用紙搬送方向の上流側に対の給紙ローラを、下流側に対の排出ローラをそれぞれ配設し、該ローラ間に少なくとも前記印字領域では該給紙ローラと排出ローラに共に挟持されて搬送されて搬送される用紙に案内面が離間した位置になる用紙先端誘導案内部材を設け、該部材を前記案内面とそこを通過する用紙の紙面との隙間が搬送下流側に向かって狭くなるように形成したことを特徴とするインクジェットプリンタ。」(公報第2頁【特許請求の範囲】請求項1)

(イ)「このインクジェットプリンタは、微小径の噴射口2aを下面に形成したノズル2からインクカートリッジ13内に貯留されるインクを噴射させ、それによって給紙経路3上を矢示A方向に給紙されて印字部1に達した用紙Pの上面の所定の位置に文字等を印字するインクジェット方式のプリンタである。
その構成は、印字部1に搬送した用紙Pにノズル2から噴射させたインクを付着させて印字する印字領域Parを略平面状の給紙経路3内に形成し、ノズル2の用紙搬送方向(図1の矢示A方向)の上流側に上下にローラが互いに圧接する対の給紙ローラ4を、下流側にローラが互いに圧接する対の排出ローラ5をそれぞれ配設している。
そして、その給紙ローラ4と排出ローラ5の間に少なくとも印字領域Parでは、その給紙ローラ4と排出ローラ5に共に挟持されて搬送される用紙Pに各案内面6aが離間した位置になる複数のフィン状の用紙先端誘導部案内部材6を、図2に示すように用紙Pの搬送方向Aに直交する矢示Bの紙幅方向に間隔を置いてそれぞれケーシング12内に固定して設け、その各用紙先端誘導案内部材6を、図1に示すように各案内面6aとそこを通過する用紙Pの紙面(下面)との隙間Sが、搬送下流側に向かって狭くなるようにそれぞれ傾斜角θに傾斜させて形成している。」(公報第3頁段落【0019】〜【0021】)

記載事項(イ)とともに、図面第1図を参照すれば、印字領域Parに用紙先端誘導案内部材6の案内面6aが位置しており、かつ印字領域Parと印字部1の用紙搬送方向の位置は一致しているので、印字部1と対向する位置に用紙案内部材6の案内面6aが設けられていることが看取される。

(ウ)「そして、その各用紙先端誘導案内部材6の図2に示す案内面6aと反対側の下端部6bにインク吸収部材7を図1に示すように印字領域Par以上の範囲に設け、その各下端部6bをそのインク吸収部材7にそれぞれ接触させている。
そのインク吸収部材7としては、例えば樹脂材によって形成した連続発泡体や、繊維質の集合体(タバコのフィルタに使用されているもの)等を用いる。」(公報第3頁段落【0023】【0024】)

(エ)「すなわち、このインクジェットプリンタでは、印字領域Parに搬送される用紙Pは、その先端が給紙ローラ4から抜け出るとその先端が僅かに下向きになりながらそのまま搬送、あるいはその先端のみが用紙先端誘導案内部材6の傾斜した案内面6aに接することによって案内されながら排出ローラ5のニップに搬送されていく。」(公報第4頁段落【0035】)

記載事項(エ)によれば、先端が僅かに下向きになった用紙Pが用紙先端案内部材6の傾斜した案内面6aに案内されることから、明らかに用紙Pの先端はすくうように案内されていると認められる。

(オ)「また、図1に示す用紙先端誘導案内部材6の案内面6aより下側のケーシング12内には、インク吸収部材7を印字領域Par以上の範囲に設けて、そこに図2に示すように用紙先端誘導案内部材6の案内面6aと反対側(下側)の端部6bを接触させているので、そこに噴射されたり用紙先端搬送案内部材6に付着したインクを、そのインク吸収部材7によって回収することができるため、ノズルから噴射されたインクによる用紙以外の装置本体内の各部へ汚れも防止できる。」(公報第4頁段落【0042】)

また、引用例1記載事項(イ)(ウ)及び図面第1,2図の記載によれば、用紙幅方向に複数設けられた各用紙先端誘導案内部材6の間には空間が設けられ、その用紙先端誘導案内部材6の下端部6bにはインク吸収部材7の上面が接しており、各用紙先端誘導案内部材6とインク吸収部材7の上面で囲まれる凹部が形成されていることが看取される。

よって、引用例1の記載(ア)〜(オ)を含む引用例1の全記載及び図示からみて、引用例1には以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明1」という)。

「用紙を送る給紙ローラと、この給紙ローラにより送られた用紙の表面にノズルから噴射させたインクを付着させて印字する印字部と、印字部と対向する位置に設けられ、前記給紙ローラにより送られる用紙の先端をすくうようにして案内する、用紙幅方向に複数設けられた用紙先端誘導案内部材に設けられた案内面と、この用紙先端誘導案内部材の案内面の反対側(下側)の端部に接触するインク吸収部材と複数の用紙先端誘導部材で囲まれた凹部、を備えたことを特徴とするインクジェットプリンタ。」

第4 対比(その1)

そこで、本願発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「給紙ローラ」及び「用紙の表面にノズルから噴射させたインクを付着させて印字する印字部」は、本願発明の「紙送りローラ」及び「用紙の表面にインクを吐出して印字するインクジェットヘッド」にそれぞれに相当する。

引用例1の図面第1,2図によれば、ケーシング12の上面(紙面に向かった面)は、ケーシング12でインク吸収部材7を全体として囲う縁部の上面(紙面に向かった面)と、複数の案内面6aとを合わせて傾斜角θを有したケーシング12の上面(紙面に向かった面)全体で面(以下、「全体傾斜面」という)を構成していると認められる。
さらに、この全体傾斜面は案内面6aを含むことから、全体傾斜面として見ても用紙の先端をすくうようにして案内することは明らかである。
また、引用例1の記載事項(カ)には用紙先端誘導案内部材に付着したインクを、インク吸収部材7で回収することが記載されており、これによればインク吸収部材7によりインク溜め機能を奏していることも明らかである。
そして、全体傾斜面を上面とするケーシング12内にインク吸収部材7が収容されており、そのインク吸収部材7の上面(紙面に向かう面)は全体傾斜面より一段低く構成されて凹部となり、その凹部が用紙先端誘導部材6で仕切られる形で複数の凹部が設けられていることから、引用例1においても全体傾斜面に複数の凹部が設けられ、その凹部は下部に収容されたインク吸収部材7により、インク溜めとして機能していると認められる。

よって、引用発明1の用紙幅方向に複数設けられた用紙先端誘導案内部材に設けられた案内面を含む全体傾斜面は、本願発明の傾斜面に相当する。
また、引用発明1の全体傾斜面に設けられた凹部は、本願発明の傾斜面に設けられたインク溜溝に、インク溜めの機能を有する限度において相当する。

してみれば両者は、

「用紙を送る紙送りローラと、この紙送りローラにより送られた用紙の表面にインクを吐出して印字するインクジェットヘッドと、このインクジェットヘッドと対向する位置に設けられ、前記紙送りローラにより送られる用紙の先端をすくうようにして案内する傾斜面と、この傾斜面にインク溜め機能を備えた手段を設けたことを特徴とするインクジェットプリンタ。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点(その1)]
「インク溜め機能を備えた手段」が本願発明では「インク溜溝」であるのに対し、引用発明1では「凹部」である点。

第5 判断(その1)

[相違点(その1)]について

前記相違点について検討する。

本願発明において「インク溜溝」と表現されているが、該「インク溜溝」の溝がどのような構造を有するか、傾斜面に対しどのような位置関係にあるか等、具体的に規定されていない。
そして、通常、溝といえば比較的幅の狭い凹部と想定することもできるが、前記のごとく具体的構造は規定されていない上、溝であれ凹部であれインク溜め機能を有する点では共通であり、溝であるが故のそれ以上の機能を認めることもできない。
してみれば、溝として構成するか否かは設計的事項の域を出ない。

したがって、上記認定によれば、本願発明と引用発明1に実質的な構成上の差異はなく、本願発明と引用発明とは同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

なお百歩譲って、本願発明の「溝」という文言からこれを幅の狭い凹部と解釈しても、引用発明1の「凹部」を幅の狭いものとすることに困難性は認められないので、本願発明は引用発明1に基づき容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 対比(その2)

出願人は審判請求書にて
「原査定において、審査官殿は、その備考欄において、
「刊行物1のものもインクによる汚れを防止する点で本願発明と同様な作用効果を奏するものである。」と認定しておられます。しかしながら、刊行物1のものは、傾斜面6aにインク溜溝が設けられておりませんので、ヘッドで空打ちされたインクが傾斜面6aを伝わって垂れ、紙送りローラ4等を汚してしまうおそれがあることは明らかであります。」

と主張する。

これは、引用発明1の「案内面」が本願発明の「傾斜面」に相当するとした場合の主張であるので、そのような対応づけをした場合について以下に検討しておく。

本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「給紙ローラ」及び「用紙の表面にノズルから噴射させたインクを付着させて印字する印字部」は、本願発明の「紙送りローラ」及び「用紙の表面にインクを吐出して印字するインクジェットヘッド」にそれぞれに相当する点は、第4 対比(その1)と同様である。

してみれば両者は、

「用紙を送る紙送りローラと、この紙送りローラにより送られた用紙の表面にインクを吐出して印字するインクジェットヘッドと、このインクジェットヘッドと対向する位置に設けられ、前記紙送りローラにより送られる用紙の先端をすくうようにして案内する傾斜面と、を備えたことを特徴とするインクジェットプリンタ。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点(その2)]
本願発明の傾斜面にはインク溜溝が設けられているのに対し、引用発明1の傾斜面(案内面)にはインク溜溝は設けられていない点。

第7 判断(その2)

引用例1記載事項(カ)には、用紙先端誘導案内部材6に付着したインクを、そのインク吸収部材7で回収することができることにより、装置本体内の各部の汚れを防止できる点が記載されている。
この用紙先端誘導案内部材6に付着したインクは当然「案内面6a」に付着したインクも含まれるものと認められる。
ここで、付着したインクがどのような過程を経てインク吸収部材7に導かれるかは明示されていないが、案内面6aから流下してインク吸収部材7へ到達せしめて回収し、それ以外の装置内各部へインクが付着して汚れないように構成されていることは当業者ならば容易に理解できるものである。
そして、インク吸収部材7を設けてまでインクを回収している以上、それ以外の場所に不用意にインクが付着もしくは、流れないように構成すべきであることは当業者ならば当然考慮する事項である。
さらに、一般に傾斜面を液体が流れ落ちることを妨げようとすれば途中に溝や凹みを設ければよいことは、雨樋などを例示するまでもなく一般に知られるところである。
してみれば、例えばインクが案内面6aに沿って不用意にインク吸収部材7以外の場所に流れ落ち難くすべく、案内面6aに溝を設ける程度のことは当業者が容易に想到し得たものと認められる。

また、本願発明の効果も、引用発明1の効果から当業者が容易に予測できる範囲内のものである。

したがって、本願発明は引用発明1に基づき容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第8 むすび

以上のとおり、本願発明は特許を受けることができない。
そして、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-13 
結審通知日 2006-06-13 
審決日 2006-06-27 
出願番号 特願2001-260871(P2001-260871)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 113- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁木 浩水野 治彦  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 藤本 義仁
島▲崎▼ 純一
発明の名称 インクジェットプリンタ  
代理人 佐渡 昇  

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