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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1141299
審判番号 不服2002-7536  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-07-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-04-30 
確定日 2006-08-09 
事件の表示 平成 9年特許願第367784号「ネットワークを利用した育成シミュレーション装置とこれに用いられるサーバー」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月21日出願公開、特開平11-192384〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.出願の経緯
本願は、平成9年12月26日の出願であって、平成13年10月25日付で手続補正がなされた後、平成14年3月27日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月30日付で手続補正がなされたものである。

第2.平成14年5月30日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成14年5月30日付の手続補正(以下、本件補正という。)を却下する。

[理由]
1.請求項1に係る補正
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 下記の要件を備えたことを特徴とするネットワークを利用した育成シミュレーション装置。
(イ)ネットワークに接続されるサーバーを有すること。
(ロ)前記ネットワークに公衆回線又は専用線を介して接続される端末装置を有すること。
(ハ)前記端末装置は仮想生命体に関するデータを記憶する記憶部と、前記サーバーにアクセスするアクセス手段とを有すること。
(ニ)前記アクセス手段は、前記仮想生命体に関するデータを前記サーバーに伝送する伝送手段と、前記仮想生命体をネットワーク上のイベントに参加させるための要求を行う参加要求手段とを有すること。
(ホ)前記サーバーは、前記イベントに関するプログラムと、当該イベントに参加して活動する複数種類の仮想生命体を記憶する記憶手段を有すること。
(ヘ)前記ネットワーク上のイベントに参加して活動するそれぞれの仮想生命体は、前記端末装置から伝送された仮想生命体のデータと対応付けられていること。
(ト)前記サーバーは、前記端末装置から伝送された仮想生命体に関するデータを解読し、これと対応するネットワーク上の仮想生命体を特定する特定手段を有すること。
(チ)前記サーバーは、前記参加要求があったときに前記特定された仮想生命体を前記記憶手段から読みとってネットワーク上のイベントに参加させる参加手段を有すること。」
から
「【請求項1】下記の要件を備えたことを特徴とするネットワークを利用した育成シミュレーション装置。
(イ)ネットワークに接続されるサーバーを有すること。
(ロ)前記ネットワークに公衆回線又は専用線を介して接続される端末装置を有すること。
(ハ)前記サーバーは、ネットワーク上でのイベントに関するプログラムと、当該イベントに参加して活動する複数種類の仮想生命体を記憶する記憶手段を有すること。
(ニ)前記端末装置は前記サーバーにアクセスするアクセス手段を有すること。
(ホ)前記アクセス手段は、前記ネットワーク上のイベントに参加して活動するそれぞれの仮想生命体と対応付けられた仮想生命体に関するデータを前記サーバーに伝送する伝送手段と、前記仮想生命体を前記ネットワーク上のイベントに参加させるための要求を行う参加要求手段とを有すること。
(へ)前記サーバーは、前記端末装置から伝送された仮想生命体に関するデータを解読し、これと対応するネットワーク上のイベントに参加する仮想生命体を特定する特定手段を有すること。
(ト)前記サーバーは、前記参加要求があったときに前記特定された仮想生命体を前記記憶手段から読みとってネットワーク上のイベントに参加させる参加手段を有すること。」
に補正された。

2.補正の適否についての検討
本件補正により、本件補正前の請求項1に記載された「仮想生命体に関するデータを記憶する記憶部」という記載は、請求項1から削除されたので、本件補正後の請求項1において、端末装置が、仮想生命体に関するデータを記憶する記憶部を有することは、発明特定事項ではなくなった。
よって、上記削除は、請求項1に記載の発明特定事項を拡張するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当しない。

また、本件補正前の請求項1において、端末装置が、仮想生命体に関するデータを記憶する記憶部を有することは、明りょうな事項であって、この点は、拒絶の理由において指摘されるものでもない。
よって、上記削除は、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正に該当しない。

そして、上記削除が、請求項の削除及び誤記の訂正のいずれを目的とする補正にも該当しないことは、説明するまでもなく明らかである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第1号乃至第4号に掲げる何れの目的にも該当しない補正を含むものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3.本願発明に関する検討
1.本願発明
平成14年5月30日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成13年10月25日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 下記の要件を備えたことを特徴とするネットワークを利用した育成シミュレーション装置。
(イ)ネットワークに接続されるサーバーを有すること。
(ロ)前記ネットワークに公衆回線又は専用線を介して接続される端末装置を有すること。
(ハ)前記端末装置は仮想生命体に関するデータを記憶する記憶部と、前記サーバーにアクセスするアクセス手段とを有すること。
(ニ)前記アクセス手段は、前記仮想生命体に関するデータを前記サーバーに伝送する伝送手段と、前記仮想生命体をネットワーク上のイベントに参加させるための要求を行う参加要求手段とを有すること。
(ホ)前記サーバーは、前記イベントに関するプログラムと、当該イベントに参加して活動する複数種類の仮想生命体を記憶する記憶手段を有すること。
(ヘ)前記ネットワーク上のイベントに参加して活動するそれぞれの仮想生命体は、前記端末装置から伝送された仮想生命体のデータと対応付けられていること。
(ト)前記サーバーは、前記端末装置から伝送された仮想生命体に関するデータを解読し、これと対応するネットワーク上の仮想生命体を特定する特定手段を有すること。
(チ)前記サーバーは、前記参加要求があったときに前記特定された仮想生命体を前記記憶手段から読みとってネットワーク上のイベントに参加させる参加手段を有すること。」

2.刊行物に記載された発明
(1)刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-152999号公報(以下、刊行物1という。)には、以下の事項が記載されている。

・記載事項1-1
「図23は、このネットワークゲームシステムの構成を示し、図中1はホストコンピュータであり、2は通信網であり、3はそれぞれ端末T1、T2、……、Tnである。ホストコンピュータ1にはゲームを実行するためのプログラムが格納されている。また端末3は通信網2を介してホストコンピュータ1にアクセスすることができ、これにより通信ネットワークが構成されている。通信網2は一般的には電話回線が利用されるが、無線通信やインターネット等を用いるようにしても良い。このような通信ネットワークを利用してネットワークゲームシステムが構成されている。」(段落【0003】)

・記載事項1-2
「実施の形態2.この発明のネットワークゲームシステムの実施の形態2として、より具体的にネットワークロボット対戦ゲームシステムについて説明する。基本的なネットワークの形態は、図23と同じである。対戦ゲームの内容は端末15上で仮想ロボットを組み立ててホストコンピュータ11上で対戦させるものである。具体的には端末15上で武器、装甲、脚等のロボットユニットを選択し、さらに行動プログラムを与えることによりオリジナルロボットを作成する。そのロボットをネットワーク上のホストコンピュータ11に電子メールで送信する。ホストコンピュータ11は設定された対戦メニューに従ってロボット同士の対決を行い勝敗を競う。より強いロボットを作成し相手を倒すことが目的である。」(段落【0041】)

・記載事項1-3
「図4及び図5に、それぞれホストコンピュータ11と各端末15の構成を示す。このうちホストコンピュータ11は、データベース29、ユーザと課金管理モジュール21、システムサービス提供モジュール23、トーナメントサービス提供モジュール27、登録ロボットダウンロードサービスモジュール28、対戦実行モジュール24、対戦結果管理モジュール22、対戦データ等の送受モジュール26、暗号化モジュール25を含んで構成されている。
このうちデータベース29には、・・・各ユーザから送信されてきたロボットデータ、・・・が保存されている。・・・
・・・トーナメントサービス提供モジュール27は、対戦形式の一つである「トーナメント戦」を行うモジュールであり、対戦受け付け、対戦エントリ等の実行を行う。実際上トーナメントサービス提供モジュール27は、ゲーム参加者のゲーム参加登録として、大会当日のトーナメント戦の組み立て、このトーナメント戦の順序に基づいて、データベース29からデータを引き出し、これを対戦実行モジュール24に送り出し、その対戦結果を得る。」(段落【0042】〜【0044】)

・記載事項1-4
「また端末15は、図5に示すように、通信ソフトウェア30、ロボットバンク31、対戦結果ファイル32、対戦要求ファイル33、システムサービス回答ファイル34、システムサービス要求ファイル35でなるファイル群と、暗号化モジュール36、ロボット管理モジュール37、システムサービスの利用モジュール42、43、ゲームの実行モジュール38〜41でなるモジュール群を含んで構成されている。
通信ソフトウェア30は、ユーザが普段電子メールの送受信に使う電子メールソフトウェアであり、ファイル群31〜35は、ホストコンピュータ11と送受信するために暗号化した一時ファイルやローカルで利用するデータファイルである。このうちロボットバンク31は、自分で作ったロボットデータやホストデータバンクから得たロボットデータのファイル群であり、自分でロボットデータを作った場合ここにデータを保存する。ローカルに対戦を行うときはここからデータを呼び出す。」(段落【0048】〜【0049】)

・記載事項1-5
「暗号化モジュール36は、ロボットデータ作成モジュール39で作成されたメールの内容を通信経路上で容易に解読させないために暗号化するモジュールである。送られてきた暗号化メールを複合化し、ゲームの実行モジュール38〜41が解釈できる形にするものでもある。」(段落【0051】)

・記載事項1-6
「ゲームの実行モジュール38〜41は、ユーザが実際にゲームを行うためのモジュールであり、対戦実行/ビューモジュール38、ロボットデータ作成モジュール39、対戦申込作成モジュール40、対戦結果受領モジュール41からなる。ここでロボットデータ作成モジュール39は、仮想(※1)の戦闘ロボットを作成するモジュールであり、武器やエンジン等のパーツを組み合わせてロボットを作成し、自分でそのロボットに行動ロジックを与える。その結果はロボットバンクファイル31に保存され、対戦申込作成モジュール40を経由してホストコンピュータ11に送信される。
対戦申込作成モジュール40は、ロボットデータ作成モジュール39から作成されたロボットデータを受け取り、送信できるメールのフォーマット形式に作り直し暗号化モジュール36に引き渡すもので、対戦用ロボットの選定並びに送信用ファイルの生成を行う。」(段落【0053】〜段落【0054】、※1:当審において、公報の「仮装」は「仮想」の誤記と認める。)

・記載事項1-7
「第一段階としてロボットコンストラクション(S110)は、敵ロボットの破壊を目的とするロボットを作成するもので、ユニット選択と、ロボットプログラムを行う。まずユニット選択は、図7に示すように、制限(例えば費用)の範囲で武器、エンジン、装甲等を選択しロボットの装備、性能を決定する。図では、そのゲーム画面イメージであり、画面は装備の中の「攻撃用火器」を選択しているところである。71は武器(「ビームライフル」)のイメージであり、72はその能力を示し、73に現在の装備状況が表示されている。もちろんゲームのバランスをとるために、攻撃力が大きい火器ほど、重量が大きかったり、金額が高い等のデメリットを持っている。」(段落【0056】)

・記載事項1-8
「【図23】 ネットワークゲーム装置が用いられる通信ネットワークの一般的な構成を示すブロック図である。」(【図面の簡単な説明】)

これらの記載、ならびに、図4、図5、図7及び、図23によれば、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。

「電話回線が利用される通信網2を介して接続されたホストコンピュータ11と端末15からなるネットワークゲームシステムであって、
端末15は、通信ソフトウェア30、ロボットバンクファイル31、ロボットデータ作成モジュール39、及び、対戦申込作成モジュール40を含んで構成されており、
ロボットデータ作成モジュール39でロボットデータを作成し、作成したロボットデータはロボットバンクファイル31に保存され、対戦申込作成モジュール40を経由してホストコンピュータ11に送信されるものであり、
ホストコンピュータ11は、データベース29、トーナメントサービス提供モジュール27、対戦実行モジュール24、対戦データ等の送受モジュール26を含んで構成されており、
データベース29には、各ユーザから送信されてきたロボットデータが保存され、
トーナメントサービス提供モジュール27は、対戦受け付け、対戦エントリ等の実行を行い、大会当日のトーナメント戦の組み立て、このトーナメント戦の順序に基づいて、データベース29からデータを引き出し、これを対戦実行モジュール24に送り出して対戦結果を得るものであるネットワークゲームシステム。」(以下、「引用発明」という。)

(2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された登録実用新案第3043561号公報(以下、刊行物2という。)には、以下の事項が記載されている。

・記載事項2-1
「【請求項1】 下記の要件を備えてなることを特徴とする仮想生命体の育成シミュレーション装置。
(イ)仮想生命体の育成に係る処置を入力する入力手段を有すること。
(ロ)前記仮想生命体の育成に係る制御データを記憶した記憶部を有すること。
(ハ)前記入力手段から育成に係る処置を入力したときに、これと対応する制御データを前記記憶部から読み取り当該読み取った制御データに基づいて仮想生命体の育成に係る制御処理を行う制御部を有すること。
(ニ)前記育成した仮想生命体を表示する仮想生命体表示部を有すること。
(ホ)前記制御部は、仮想生命体が成長するに応じて1又は2以上の成長段階を設定する設定手段を有すること。
(ヘ)前記記憶部は、成長段階毎に少なくとも容姿の異なる複数種類の仮想生命体を記憶していること。
(ト)前記制御部は、前記仮想生命体が成長する過程で当該仮想生命体から呼出を行う呼出手段を有すること。
(チ)前記制御部は、前記仮想生命体が前記成長段階に達したときに、それまでの成長過程における前記呼出に対する処置の内容を判定する判定手段を有すること。
(リ)前記制御部は、前記判定手段の判定結果に基づいて前記記憶された複数種類の仮想生命体の中から一の仮想生命体を選択する選択手段を有すること。
(ヌ)前記制御部は、前記成長段階に達した仮想生命体を前記選択された仮想生命体に変化させる変化手段を有すること。
(ル)他の育成シミュレーション装置と電気的に接続するための接続手段を有すること。
(ヲ)前記制御部は、前記接続手段を介して入力した他の育成シミュレーション装置からの戦闘データと自己の戦闘データとに基づいて対戦を行う対戦手段を有すること。
(ワ)前記制御部は、前記対戦による勝敗を判定する勝敗判定手段を有すること。」(【実用新案登録請求の範囲】)

・記載事項2-2
「また、他の育成シミュレーション装置と電気的に接続するための接続手段52を有する。この接続手段52としては、双方の育成シミュレーション装置を嵌合させて接続する方式、双方の育成シミュレーション装置を単に接触させて接続する方式、又はコネクターにより接続する方式等が採用される。
そして、前記接続手段を介して入力した他の育成シミュレーション装置からの戦闘データと自己の戦闘データとに基づいて仮想生命体同士の対戦を行う対戦手段54と、この対戦による勝敗を判定する勝敗判定手段59を有する。
上記設定手段53、記憶部55、判定手段57、選択手段58、変化手段60、対戦手段54、勝敗判定手段59は図15に示す制御装置71内に設けられる。
上記設定手段53、記憶部55、判定手段57、選択手段58、変化手段60、対戦手段54、勝敗判定手段59は図15に示す制御装置71内に設けられる。」(段落【0015】)

これらの記載によれば、刊行物2には、以下の発明が記載されているものと認められる。

「育成シミュレーション装置において、仮想生命体を育成して、当該仮想生命体の戦闘データと、他の育成シミュレーション装置の仮想生命体の戦闘データとに基づいて仮想生命体同士の対戦を行う育成シミュレーション装置。」

3.本願発明と引用発明との対比
・対応関係1
引用発明の「通信網2」は、本願発明の「ネットワーク」に、以下同様に「トーナメント戦」は「ネットワーク上のイベント」に相当する。

・対応関係2
引用発明における「ネットワークゲームシステム」は、ネットワークを介して互いに接続されるホストコンピュータ11及び端末15から構成され、ネットワークゲームという全体としてまとまった機能を発揮するものである。
本願発明における「育成シミュレーション装置」は、ネットワークを介して互いに接続されるサーバー及び端末装置から構成され、育成シミュレーションという全体としてまとまった機能を発揮するものである。
そして、引用発明の「ホストコンピュータ11」及び「端末」が、細部の機能は別として、広い意味において、「サーバー」及び「端末装置」と称されるものであることは当業者にとって自明のことであり、
ネットワークを介して互いに接続されるサーバー及び端末装置により、全体としてまとまった機能を発揮するものが、「システム」と呼ばれていることも当業者にとって自明のことである。
また、電話回線が、公衆回線又は専用線という条件に該当するものであることは当業者にとって自明のことである。
してみれば、引用発明の「ネットワークゲームシステム」と本願発明の「ネットワークを利用した育成シミュレーション装置」とは、ネットワークを利用したシステムであって、ネットワークに接続されるサーバーを有する要件、及び、ネットワークに公衆回線又は専用線を介して接続される端末装置を有する要件を備えている点において共通する。

・対応関係3
引用発明は、サーバー(ホストコンピュータ11)において、ロボットデータを用いて、ネットワーク上のイベント(トーナメント戦)における対戦を行うものであり、引用発明において、ロボットは、ネットワーク上のイベントに参加する存在であり、一般にキャラクタと認識されるものである。
本願発明において、仮想生命体は、ネットワーク上のイベントに参加する存在であり、一般にキャラクタと認識されるものである。
よって、引用発明の「ロボット」と本願発明の「仮想生命体」とは、キャラクタである点において共通する。

・対応関係4
引用発明において、端末装置(端末15)に含まれる「ロボットバンクファイル31」は、作成したロボットデータを保存しておくものであり、上記対応関係3によれば、ロボットデータは、キャラクタに関するデータと表現できるものなので、引用発明は、端末装置が、キャラクタに関するデータを記憶する記憶部を有するといえる。

・対応関係5
引用発明において、端末装置(端末15)は、キャラクタに関するデータ(ロボットデータ)をサーバー(ホストコンピュータ11)に送信するものであり、データを送信するために送信先とアクセスする必要があることは当然のことなので、引用発明に、サーバーにアクセスするための手段、及び、データを送信するための手段、言い換えれば、データを伝送するための手段があることは当業者に自明のことである。
引用発明において、サーバーは、ネットワーク上のイベント(トーナメント戦)の対戦を受け付けるものなので、端末装置(端末15)の対戦申込作成モジュール40が、イベントに参加させるための要求を行っていることは当業者にとって自明であり、引用発明には、イベントに参加させるための要求を行う手段があるといえる。
そして、サーバーにアクセスしなければ、データを伝送することも要求を行うこともできないので、アクセスする手段に、データを伝送する手段、及び、イベントに参加させるための要求を行う手段が含まれると認識し得ることは、当業者にとって自明のことである。
してみれば、引用発明において、端末装置は、サーバーにアクセスするアクセス手段を有し、アクセス手段は、キャラクタに関するデータを前記サーバーに伝送する伝送手段と、キャラクタをネットワーク上のイベントに参加させるための要求を行う参加要求手段とを有しているといえる。

・対応関係6
引用発明において、サーバー(ホストコンピュータ11)は、トーナメントサービス提供モジュール27及び対戦実行モジュール24によって、ネットワーク上のイベント(トーナメント戦)を行うものである。
ここで、サーバーがコンピュータであることを考えれば、トーナメントサービス提供モジュール27及び対戦実行モジュール24が、プログラムによるものであることは、当業者にとって自明のことであり、また、プログラムは記憶手段に記憶されるものである。
してみれば、引用発明において、サーバーは、イベントに関するプログラムを記憶する記憶手段を有しているといえる。

・対応関係7
引用発明において、ネットワーク上のイベント(トーナメント戦)に参加するキャラクタ(ロボット)は、端末装置(端末15)から送信されてきたキャラクタに関するデータ(ロボットデータ)によって対戦がなされるものなので、引用発明は、ネットワーク上のイベントに参加して活動するそれぞれのキャラクタが、端末装置から伝送されたキャラクタに関するデータと対応付けられているといえる。

・対応関係8
引用発明において、サーバーは、ネットワーク上のイベント(トーナメント戦)の対戦を受け付け、端末装置(端末15)から送信されてきたキャラクタに関するデータ(ロボットデータ)によって対戦がなされるものなので、引用発明において、サーバーは、参加要求があったときにキャラクタをネットワーク上のイベントに参加させる参加手段を有しているといえる。

・一致点
本願発明及び引用発明は、
「下記の要件を備えたネットワークを利用したシステム。
ネットワークに接続されるサーバーを有すること。
前記ネットワークに公衆回線又は専用線を介して接続される端末装置を有すること。
前記端末装置はキャラクタに関するデータを記憶する記憶部と、前記サーバーにアクセスするアクセス手段とを有すること。
前記アクセス手段は、前記キャラクタに関するデータを前記サーバーに伝送する伝送手段と、前記キャラクタをネットワーク上のイベントに参加させるための要求を行う参加要求手段とを有すること。
前記サーバーは、前記イベントに関するプログラムを記憶する記憶手段を有すること。
前記ネットワーク上のイベントに参加して活動するそれぞれのキャラクタは、前記端末装置から伝送されたキャラクタに関するデータと対応付けられていること。
前記サーバーは、前記参加要求があったときにキャラクタをネットワーク上のイベントに参加させる参加手段を有すること。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1
システムが、本願発明は、育成シミュレーション装置であるのに対して、引用発明は、ネットワークゲームシステムである点。(以下、相違点1という。)

・相違点2
キャラクタが、本願発明は、仮想生命体であるのに対して、引用発明は、ロボットである点。(以下、相違点2という。)

・相違点3
本願発明は、サーバが、イベントに参加して活動する複数種類のキャラクタを記憶する記憶手段、及び、端末装置から伝送されたキャラクタに関するデータを解読し、これと対応するネットワーク上のキャラクタを特定する特定手段を有するものであって、参加要求があったときに、前記特定されたキャラクタを前記記憶手段から読みとってネットワーク上のイベントに参加させるのに対して、引用発明は、そのように構成されていない点。(以下、相違点3という。)

4.相違点についての検討
・相違点1及び2について
刊行物2には、育成シミュレーション装置において、仮想生命体を育成して、当該仮想生命体の戦闘データと、他の育成シミュレーション装置の仮想生命体の戦闘データとに基づいて仮想生命体同士の対戦を行う発明が記載されている。
引用発明及び刊行物2に記載された発明は、いずれも複数の装置におけるキャラクタに関するデータに基づいて対戦を行うものであり、刊行物2に記載された発明における、育成シミュレーション装置において育成された仮想生命体を対戦させるという思想を引用発明に適用することに格別の困難性はなく、前記相違点1及び2に係る本願発明の構成のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

・相違点3について
複数の装置の間で、データを通信し、当該データを処理するシステムにおいて、他の装置から伝送されたデータを解読して、自己の装置が記憶しているデータを特定して処理を行う手法は、例えば、特開平6-198076号公報(段落【0098】〜【0102】)、特開平8-309032号公報(段落【0036】)に記載されているように周知のものである。
そして、上記記載事項1-7によれば、引用発明において、キャラクタ(ロボット)は、「ビームライフル」等の名称で代表される武器等を選択することで、特性が定まるものである。
してみれば、引用発明において、キャラクタに関するデータ(ロボットデータ)をサーバー(ホストコンピュータ11)に伝送し、キャラクタをネットワーク上のイベント(トーナメント戦)に参加させるにあたって、端末装置からは、選択された「ビームライフル」等の名称を伝送し、サーバーに記憶されたデータを特定することで、具体的な性能を特定してイベント処理を行うようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、前記相違点3に係る本願発明の構成のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

・効果について
本願発明の効果が、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び、周知事項に基づく効果の総和以上の格別なものとは認められない。

5.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び、周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び、周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。


なお、本件補正後の請求項1に記載された発明は、実質的には、本願発明における、端末装置が「仮想生命体に関するデータを記憶する記憶部」を有するという限定を省いただけのものであるから、本件補正後の請求項1に記載された発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件が付加された本願発明が、上記第3.に記載したとおり、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び、周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件補正後の請求項1に記載された発明も同様の理由により、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び、周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
 
審理終結日 2006-06-08 
結審通知日 2006-06-12 
審決日 2006-06-26 
出願番号 特願平9-367784
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 仁之▲吉▼川 康史  
特許庁審判長 中村 和夫
特許庁審判官 宮本 昭彦
塩崎 進
発明の名称 ネットワークを利用した育成シミュレーション装置とこれに用いられるサーバー  
代理人 高田 修治  

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