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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1141317
審判番号 不服2004-20541  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-12-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-05 
確定日 2006-08-09 
事件の表示 特願2002-152674「果実及び野菜の加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月2日出願公開、特開2003-339338〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本件発明

本件出願は、平成14年5月27日の特許出願であって、その請求項1乃至5に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項により特定されるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項1】果実又は野菜を、アルカリイオン水中に浸漬し、その後、当該アルカリイオン水から取り出して冷凍し、所定時間経過後に解凍・乾燥処理を行うことを特徴とする、果実及び野菜の加工方法。」

2.引用例記載事項

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本件の出願日前に頒布された刊行物である特開2000-189096号公報(以下、「引用例1」という。)には、(a)「【請求項1】皮剥きした渋柿を乾燥するための乾燥工程を有する干し柿の製造方法であり、前記渋柿を電解生成水にて水処理するための水処理工程を、前記乾燥工程前または前記渋柿の皮剥き工程前に備えていることを特徴とする干し柿の製造方法。・・・」(【特許請求の範囲】)が記載され、(b)「【発明の作用・効果】本発明に係る干し柿の製造方法においては、本乾燥前の渋柿を電解生成水で水処理するものであり、電解生成水は、電解生成酸性水にあっては強い殺菌作用を有し、かつ、電解生成アルカリ性水にあっては強い洗浄作用を有することから、渋柿は電解生成水による水処理工程において、電解生成水の殺菌作用または洗浄作用により、硫黄燻蒸およびオゾン処理と同等またはそれ以上に黴の発生や腐敗の発生を防止して品質を向上させることができる。」(段落【0010】)ことが、(c)「本発明に係る干し柿の製造方法における酸性水処理工程21またはアルカリ性水処理工程22では、皮付きの渋柿、皮剥き後の渋柿、皮剥きの予備乾燥後の渋柿、皮剥きの硫黄燻蒸後の渋柿を電解生成水で処理するもので、その処理手段としては、渋柿を電解生成水に浸漬する方法、渋柿に電解生成水を噴射または噴霧する方法が採られる。(段落【0019】)ことが記載されている。
同じく、特開2000-217536号公報(以下、「引用例2」という。)には、(d)「【請求項1】皮剥きされた渋柿の渋味を喪失させて甘みを増大させる渋柿の処理方法であり、皮剥きされた渋柿を乾燥処理する乾燥工程の前に、同渋柿を冷凍して保存する冷凍保存工程を備えていることを特徴とする渋柿の処理方法。【請求項2】皮剥きされた渋柿の渋味を喪失させて甘みを増大させる渋柿の処理方法であり、皮剥きされた渋柿を乾燥処理する第1の乾燥工程と、同第1の乾燥工程を経た渋柿を冷凍して保存する冷凍保存工程と、同冷凍保存工程を経た渋柿を解凍して乾燥する第2の乾燥工程を備えていることを特徴とする渋柿の処理方法。【請求項3】請求項2に記載の渋柿の処理方法において、前記第1の乾燥工程の前に予備乾燥工程を備えていることを特徴とする渋柿の処理方法。【請求項4】請求項3に記載の渋柿の処理方法において、前記予備乾燥工程の前に硫黄薫蒸工程を備えていることを特徴とする渋柿の処理方法。・・・」(【特許請求の範囲】)が記載され、(e)「【課題を解決するための手段】本発明は、皮剥きされた渋柿の渋味を喪失させて甘みを増大させる渋柿の処理方法に関するもので、当該処理方法は、皮剥きされた渋柿を乾燥処理する乾燥工程の前に、同渋柿を冷凍して保存する冷凍保存工程を備えていることを特徴とするものである。」(段落【0007】)こと、(f)「【発明の作用・効果】本発明に係る渋柿の処理方法においては、皮剥きされた渋柿を乾燥前または乾燥途中の段階で冷凍保存し、その後解凍して乾燥を完了する方法であり、所望の時期に冷凍保存を解除して乾燥を完了させて、干し柿を製造することができる。このため、本発明に係る渋柿の処理方法を採用すれば、干し柿を必要とする所望の時に製造することができるとともに製造直後に出荷でき、干し柿としての製品の状態での長期間の保存を解消することができる。これにより、干し柿を長期間保存することに起因する品質の低下を防止することができる。」(段落【0010】)ことが記載されている。

3.対比・判断

本件発明1は、果実又は野菜を、アルカリイオン水中に浸漬し、その後、当該アルカリイオン水から取り出して冷凍し、所定時間経過後に解凍・乾燥処理を行うことにより、本件明細書の段落【0033】に記載のとおり、短時間で、かつ、簡単に脱渋を行うことができ、簡単にカットできるほか、食材本来の食味、食感が損なわれることがなく、更に、脱渋処理に要する時間も短縮することができるものである。
これに対して、上記記載事項(d)乃至(f)によれば、引用例2には、「皮剥きされた渋柿を硫黄薫蒸し、その後冷凍して保存し、所望の時期に冷凍保存を解除して乾燥することにより、干し柿を製造し、渋柿の渋味を喪失させて甘みを増大させる」ことが記載されているといえる(以下、「引用例発明」という。)。
本件発明1と引用例に記載された発明とを対比すると、後者の渋柿は、果実であり、後者の「所望の時期に冷凍保存を解除」することは、所定時間経過後に解凍することに他ならないから、両者は、「果実を冷凍し、所定時間経過後に解凍・乾燥処理を行う果実の加工方法。」である点で一致し、
前者が、冷凍前に、果実をアルカリイオン水中に浸漬し、その後、当該アルカリイオン水から取り出しているのに対して、後者にはそのような特定がない点で相違する。
そこで、この相違点について検討する。
引用例1には、上記記載事項(a)乃至(c)によれば、干し柿の製造において、皮剥き後の渋柿を、電解生成アルカリ性水で処理することにより、その洗浄作用により、硫黄燻蒸と同等またはそれ以上に黴の発生や腐敗の発生を防止して品質を向上させることが記載されている。引用例1の「電解生成アルカリ性水」は、「アルカイオン水」に相当するから、引用例1には、皮剥き後の渋柿を硫黄燻蒸処理することに代えて、アルカイオン水処理することにより、干し柿の黴の発生や腐敗の発生を防止して、干し柿の品質を向上させることが記載されているといえる。
一方、引用例2には、上記記載事項(d)のとおり、皮剥きされた渋柿の予備乾燥工程の前に硫黄燻蒸処理することが記載されている。
ここで、引用例発明も引用例1に記載された発明も、何れも干し柿の製造技術に関するものであるから、皮剥きされた渋柿の黴の発生や腐敗の発生を防止を目的として、引用例発明において、皮剥きされた渋柿の乾燥工程前の硫黄燻蒸処理工程に代えて、引用例1に記載された皮剥きされた渋柿のアルカイオン水処理工程を採用して、干し柿をアルカリイオン水中に浸漬し、その後、当該アルカリイオン水から取り出すことに何等困難性はなく、それを妨げる特段の理由も見出せない。
そして、本件発明1の明細書記載の効果も、上記記載事項(b)、(e)及び(f)等から当業者が予期し得る効果にすぎない。
したがって、本件発明1は、本件の出願日前に頒布された引用例1乃至2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「本願発明1は、『アルカリイオン水で処理すること』という構成要件と、『その後に冷凍すること』という構成要件とを結び付けることによって、明細書の段落番号0015〜0020に記載されているような効果(このような効果は、引用例1、2のいずれにおいても期待することができず、異質な効果であり、極めて有利で、
顕著な効果である。)が得られる。」旨主張しているが、上記のとおり、本件明細書記載の効果は、引用例1乃至2の「電解生成アルカリ性水にあっては強い洗浄作用を有する」、「渋柿の渋味を喪失させて甘みを増大させる」、「干し柿を必要とする所望の時に製造することができる」との記載から当業者が予期し得るものであり、たとえ、その余の効果があったとしても、それは、「アルカリイオン水で処理すること」という構成要件と、「その後に冷凍すること」という構成要件とを結び付けた結果もたらされたものであるから、進歩性の判断を左右しない。

4. むすび

以上のとおり、本件発明1は、その出願前日本国内において頒布された上記の引用刊行物1乃至2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2乃至5に係る発明について判断するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-31 
結審通知日 2006-06-06 
審決日 2006-06-19 
出願番号 特願2002-152674(P2002-152674)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 騎見高  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 鈴木 恵理子
鵜飼 健
発明の名称 果実及び野菜の加工方法  
代理人 武田 賢市  
代理人 武田 明広  

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