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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B21B
管理番号 1142046
審判番号 無効2005-80299  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-12-03 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-10-17 
確定日 2006-06-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3552681号発明「冷間圧延での先進率制御方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3552681号の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯

本件特許第3552681号についての手続きの経緯の概要は、以下のとおりである。
平成13年 5月30日 特許出願(特願2001-163084号)
平成16年 5月14日 特許権の設定登録
平成17年10月17日 特許無効審判請求
平成18年 1月 6日 被請求人:答弁書提出
平成18年 1月 6日 被請求人:訂正請求書提出
平成18年 2月17日 請求人:弁駁書提出
平成18年 4月18日 請求人:口頭審理陳述要領書提出
平成18年 4月18日 被請求人:口頭審理陳述要領書提出
平成18年 4月18日 口頭審理

II.訂正の適否についての判断

1.訂正の内容
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に記載された「濃度を調整」を、「濃度を、ヘッダ内に配置されたミキサで調整」と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書の段落【0003】に記載された「圧延圧延」を、「圧延」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書の段落【0009】に記載された「濃度を調整」を、「濃度を、ヘッダ内に配置されたミキサで調整」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書の段落【0015】に記載された「先進率制御装置7」を、「先進率制御装置8」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書の段落【0029】に記載された「以上説明したきたように」を、「以上説明してきたように」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、圧延潤滑油の濃度調整について限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、この点は、明細書の段落【0028】の記載に裏付けられている。
上記訂正事項cは、上記訂正事項aによる訂正後の特許請求の範囲の記載と整合するように発明の詳細な説明の記載を訂正するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
上記訂正事項b、d、eは、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
そして、上記訂正は、いずれも願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

III.本件発明

本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、上記のとおり訂正が認められるから、平成18年1月6日付けの訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 冷間タンデムミルにおける最終スタンド出側の板速度と最終スタンドでのロール周速から当該最終スタンドでの先進率を算出し、その算出した先進率が、予め求めたチャタリング発生が抑えられる安全先進率の範囲から外れると、先進率が上記安全先進率の範囲内となるように上記最終スタンドで供給される圧延潤滑油の濃度を、ヘッダ内に配置されたミキサで調整することを特徴とする冷間圧延での先進率制御方法。
【請求項2】 冷間タンデムミルにおける最終スタンド出側の板速度と最終スタンドでのロール周速から当該最終スタンドでの先進率を算出し、その算出した先進率が、予め求めたチャタリング発生が抑えられる安全先進率の範囲から外れると、先進率が上記安全先進率の範囲内となるように上記最終スタンドで供給される圧延潤滑油の濃度を、ヘッダ直前あるいはヘッダ内に配置されたミキサで調整することを特徴とする冷間圧延での先進率制御方法。」

IV.請求人の主張

これに対して、請求人は、本件発明1、2の特許を無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件発明1、2は、本件出願前に頒布された甲第1号証または甲第3号証に記載された発明である、あるいは、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明の特許は、特許法第29条第1項第3号、あるいは、同条第2項の規定に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである旨主張し、その証拠方法として下記甲第1号証〜甲第4号証を提出している。

甲第1号証:第45回コールドストリップ分科会(昭和62年6月18日 /19日、(株)神戸製鋼所加古川製鉄所で開催)、共通議 題資料(資料番号:コ45-共-10、発表機関:新日本製 鐵(株)八幡製鐵所)、共同研究会提出資料抄録用紙及び1 /4〜4/4頁
甲第2号証:板圧延の理論と実際(昭和59年9月1日、社団法人 日本 鉄鋼協会発行)、第6〜11頁
甲第3号証:鉄と鋼VOL.72、NO.4(1986年3月、社団法人 日本鉄 鋼協会発行)、第S375頁
甲第4号証:改訂 わが国におけるコールドストリップ設備仕様と工場レ イアウト(昭和62年12月3日、社団法人 日本鉄鋼協会 発行)、第54、55頁

V.被請求人の主張

被請求人は、答弁書において下記乙第1号証を提出して、本件発明1、2は、甲第1号証または甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、当該発明の特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してされたものではなく、本件特許無効の審判は成り立たない旨主張している。

乙第1号証:鉄と鋼VOL.73、NO.10(1987年8月、社団法人 日本鉄 鋼協会発行)、第86〜93頁

なお、被請求人は、答弁書において、甲第1号証の成立については争う旨主張していたが、口頭審理の際に当該主張を撤回し、甲第1号証の成立を認めている(第1回口頭審理調書の被請求人側陳述の要領2を参照)。

VI.甲第1号証乃至甲第4号証の記載事項

1.甲第1号証:第45回コールドストリップ分科会(昭和62年6月18日/19日、(株)神戸製鋼所加古川製鉄所で開催)、共通議題資料(資料番号:コ45-共-10、発表機関:新日本製鐵(株)八幡製鐵所)、共同研究会提出資料抄録用紙及び1/4〜4/4頁

甲第1号証には、以下のように記載されている。
(1a)「安定した高速圧延を実現し、その高生産性機能を充分に発揮する事が連続化された高速薄手系ミルにおいては、主要なテーマの一つである。この安定した高速圧延を実現する為に制御すべき因子は多々あるが、現在最も定量的かつ高応答な制御の実現という面で開発の余地があると我々が考えたのは、潤滑の因子である。我々は、この目的達成の為にまず潤滑状態の指標として先進率の導入を検討した。次にこの指標を制御する操作端として圧延油の流量と濃度を高応答に変更できる供給装置の開発を行い、潤滑状態を安定圧延領域に高応答で制御するシステムを開発した。本報では、この操作端について主に述べ、次にこの操作端を用いた圧延潤滑制御の実施例について報告する。」(「1.緒言」の項)
(1b)「Fig.1にNo.6STDにおける、圧延異常の発生から板破断に至るまでの先進率挙動を示す。5コイル目よりNo.6STD上/下の先進率に急激な低下及び大きな変動がみられNo.6STD出側ゲージも大きく変動している事がわかる。模式的にこの現象をFig.2に示す。圧延不安定現象はある限界先進率(図中の点線)よりも小さな先進率になると発生するものと考えられる。
これより
i 先進率が圧延潤滑状態の指標として使用できる。
ii 先進率を、ある範囲内に制御する事で、安定圧延領域に制御できる
可能性がある。
以上2点を確認した。
不安定現象は5コイル目より急激に発生している。この急激な変動を制御可能な高応答操作端の開発について次章で述べる。」(「2.潤滑状態と先進率との相関について」の項)
(1c)「八幡4冷延ではダイレクト潤滑方式が用いられておりパーム油と温水が混合されて(8〜18%)O/W型エマルジョンとなったものがロールギャップ手前約2m位置にて鋼板上に噴射される。本装置の目的は、供給圧延油流量および濃度を高い応答性で制御する事である。従って通常ではFig.3に示すようにミキシングタンクにて、事前にかくはんされたパーム油エマルジョンが供給ヘッダーまで搬送されるのに対し、本装置ではFig.4に示すようにヘッダー直前までパーム油と温水は、別個に搬送されミル直前のスタティクミキサーとよばれる混合器にてエマルジョンが形成される。
Fig.5にスタティクミキサーの概要を示す。圧延油と温水が各エレメントで2分割され26回(約56分割)の分割を受ける事となる。圧延油流量の変更はPalm Oil Pump流量及びHot Water Pump流量を一率に増減させて行う。圧延油濃度の変更は、Palm Oil Pump流量及びHot Water Pump流量を互いにある比率で変更させて行う。ポンプ回転数の変更ロジックは、圧延速度(No.6STD速度)に追随し、マイコンにて計算し、制御する。流量制御の応答性はポンプ回転数の応答性そのものであり、数sec以下にて応答する。Fig.6に濃度応答性についての実験結果を示す。配管内流速100cm/secで約15secで応答し、通常の濃度変更には、その応答性に問題はない。」(「3.圧延油流量および濃度の可変装置」の「3-1.供給装置概要」の項)
(1d)「Fig.8に5〜6STD間のみ、圧延油流量は一定にして上/下の圧延油濃度を18%⇒16⇒13⇒10⇒6⇒4%と6段階に変更した実験結果を示す。この変更により潤滑状態が変化し圧延状態に変化が現れている。(圧延力、張力、ロール温度等)先進率にもその変化が現れ変動が小さくなり安定化に至っている。これより前節で述べた高応答な操作端を操作する事で潤滑状態が変化し、その指標としての先進率制御を実現でき、その有効性が確認された。次章に、この操作端を用いた圧延潤滑制御の実施例について報告する。」(「3.圧延油流量および濃度の可変装置」の「3-2.操作端の操作テスト」の項)
(1e)「実験は、八幡4冷延No.6STDにて行った。テスト条件をTable 1.に示す。圧延の不安定現象には、張力、形状、板厚、の変動等、種々の場合が考えられるが、ミル振動を伴うチャタリングはその代表的なものである。Fig.9に示すように硬質材にて圧延油供給量を増し先進率が-1.5〜-2.0%未満程度となった場合にチャタリングが発生している。チャタリングはNo.6STDの異音にて確認された。異音発生部はFig.10に示す板厚変動を示している。Fig.11にはテスト圧延時の上下の先進率を示す。
●はチャタリングの発生点であり、
○は安定圧延点である。チャタリングは硬質材について発生したが、圧延油の流量および濃度制御によってチャタリングが解消する過程がわかる(図中の矢印)。なお、図中の破線で示した部分は、圧延不安定領域である。」(「4.圧延潤滑制御の実験結果」の項)
(1f)「我々は、圧延潤滑制御実現の為に、指標として、先進率が有効である事を確認し、操作端として新しい圧延油供給装置により、安定した高応答な圧延潤滑制御を実現した。
その結果、以下の事が明らかになった。
i 圧延状態の指標として、実測先進率が適用出来る事。
ii 安定した高応答な圧延油供給装置としてスタティクミキサーを用い
たシステムが有効である事。
iii 圧延油供給量(流量および濃度)を操作量として、潤滑状態を制御
出来る事。
これにより、定量的・高応答な圧延潤滑制御の可能性を、確認した。」(「5.結言」の項)

2.甲第2号証:板圧延の理論と実際(昭和59年9月1日、社団法人 日本鉄鋼協会発行)、第6〜11頁

甲第2号証の「2.2均一変形モデルによる理論」の「2.2.1均一変形の仮定と幾何学的関係式」の項の「b.材料の速度分布と中立点」の項には、圧延時の先進について以下のように記載されている。
(2a)「これに対して材料の出側速度v0は一般にロールの周速度vRよりも大きく(この現象を先進と呼ぶ。)、入側速度v1はvRより小さい(後進)。先進、後進の程度は、次式で定義する先進率fsおよび後進率fbを用いて表される。(式(2.15):省略)」

3.甲第3号証:鉄と鋼VOL.72、NO.4(1986年3月、社団法人 日本鉄鋼協会発行)、第S375頁

甲第3号証には、以下のように記載されている。
(3a)「完全連続式タンデムミルにて、その高生産性機能を充分に発揮する為には、安定した高速圧延を実現することが必要である。極薄用冷延ミル・八幡4冷延では、圧延状態を実測先進率にて判定し、圧延油流量・濃度を高応答にて可変できる供給装置を用い、先進率を安定圧延領域に制御する先進率制御システムを開発した。本報では、このシステムを用いた実験結果を報告する。」(「1.緒言」の項)
(3b)「図1は、八幡4冷延No.6スタンドにおける通常操業中の先進率推移を示す。テストミルでの報告はあるが、実機でも先進率負にて安定圧延が可能な領域があることを示している。」(「2.先進率挙動」の項)
(3c)「先進率測定装置は、図2に示すように板速度をミル出側のガイドロールの回転数より得、上/下ロール周速をミルモータの回転数より得、先進率を算出するもので、測定は定常圧延中のみを対象とする。一方、圧延油流量・濃度可変装置は油供給ポンプ、温水供給ポンプの回転数を制御し、圧延油供給ヘッダ直前に設置したスタティックミキサーにて攪拌・乳化したエマルジョンを得るもので流量・濃度ともに高応答にて可変できる。制御量、即ち流量・濃度は実測先進率より第2報のモデルに基いて決められる。」(「3.先進率制御の方法」の項)
(3d)「No.6スタンドにて圧延油供給量(流量×濃度)を増減し、先進率を変化させることにより、チャタリングを発生・解消させた実験結果を図3に示す。チャタリング発生と上/下先進率の関係を詳細に示したものが図4であり、上/下先進率の危険領域が負領域に存在することがわかる。この危険領域、即ち限界先進率は、材料の変形抵抗、圧下率等により変わる。」(「4.テスト結果」の項)
(3e)「先進率測定装置、圧延油流量・濃度可変装置により、実測先進率を安定圧延の指標とし、圧延油流量濃度により圧延状態を制御するシステムを開発した。」(「5.結言」の項)

4.甲第4号証:改訂 わが国におけるコールドストリップ設備仕様と工場レイアウト(昭和62年12月3日、社団法人 日本鉄鋼協会発行)、第54、55頁

甲第4号証の「I.設備仕様」の「2.冷間圧延設備」の項の「2.1タンデムミル」の項には、「2.1タンデムミル(その1)」として、以下の事項が記載されている。
(4a)「会 社 名:新日本製鉄
工 場 名:八幡
基 名:No.4
複合型式:連続ミル
ミル形式:6スタンド(No.1,2・6重+No.3,4・4重)」

VII.当審の判断

1.本件発明1について
(1)甲第1号証記載の発明との対比・検討
上記摘記事項(1a)〜(1f)を総合すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「八幡4冷延のNo.6STDにおいて、実測先進率を圧延潤滑状態の指標として使用し、該圧延潤滑状態を安定圧延領域に高応答で制御すべく、供給ヘッダー直前に設置されたスタティクミキサーを有する圧延油供給装置を操作端とし、圧延油流量および圧延油濃度を操作量として、当該指標としての先進率をある範囲内に制御する方法。」(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)
そこで、本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比する。
甲第1号証記載の発明における「八幡4冷延のNo.6STD」は、摘記事項(4a)に照らせば、冷間タンデムミルの最終スタンドであることが理解できる。
また、「実測先進率」は、先進率の定義からも明らかなように、スタンド出側の板速度とロール周速から算出されるものであるから(摘記事項(2a)、(3c)参照)、甲第1号証記載の発明においても、実測先進率は、冷間タンデムミルにおける最終スタンドである八幡4冷延のNo.6STDの出側の板速度と該スタンドでのロール周速から算出されるものと解される。
そして、両者における先進率を制御する範囲についてみると、甲第1号証記載の発明においては、圧延の不安定現象としてチャタリングに着目し、Fig.11に図示されるように、該チャタリングが発生する領域に対応する先進率の範囲を圧延不安定領域としていることから(摘記事項(1e)、特にFig.11において破線で示された圧延不安定領域(Chattering area)を参照)、逆に、同図において、当該圧延不安定領域から外れ、チャタリングが発生しない先進率の範囲は、安定圧延領域として位置付けていることが認識できる(以下、この領域を「先進率の安定圧延領域」という。)。このようなチャタリング未発生と先進率の関係を表す「先進率の安定圧延領域」は、実験などで事前に得られるものとして、当該技術分野においても既に認知されているところであるが(請求人が提出した平成18年4月18日付け口頭審理陳述要領書に添付の参考文献2:特開2000-94013号公報の図17参照)、甲第1号証記載の発明が制御しようとしている先進率の「ある範囲」とは、まさしく、この「先進率の安定圧延領域」であるということができる。
一方、本件発明1における「予め求めたチャタリング発生が抑えられる安全先進率の範囲」に関しては、本件特許明細書をみるに、「安定先進率の範囲として、当該範囲を越えるとチャタリング発生する懸念がある領域を予め実験などから求めておき、この範囲内で安全先進率の範囲を設定する。・・・許容幅を見込んで安全先進率の範囲を設定することが、チャタリングをより確実に防止するという点で有利であるが、許容幅を見込まず、安全先進率を安定先進率と同じ範囲として設定しても良い。」(段落【0018】、【0019】参照)と説明されており、必ずしも、安定先進率の範囲と異なるものであるとはいい難い。
してみれば、上記「先進率の安定圧延領域」は、取りも直さず、この範囲を越えるとチャタリングが発生する懸念がある領域であり、本件特許明細書に記載された安定先進率の範囲に対応するものと考えるのが妥当であるから、結局のところ、本件発明1における「チャタリング発生が抑えられる安全先進率の範囲」は、甲第1号証記載の発明において先進率制御しようとしている「ある範囲」、すなわち「先進率の安定圧延領域」と重複する概念と解すべきである。
さらに、両者の圧延潤滑油の供給手法についてみると、甲第1号証記載の発明は、圧延油流量および圧延油濃度を操作量としているだけではなく、該操作量として、圧延油流量は一定にして圧延油濃度を変更することも予定しているものである(摘記事項(1d)あるいは摘記事項(1e)のFig.9の中段の図を参照)。一方、本件発明1は「圧延潤滑油の濃度を・・・調整する」ものであるが、これがただちに、圧延潤滑油の供給量を一定にし、その濃度のみを調整することを意味するとまではいえないし、本件特許明細書に記載された「上記構成の圧延油供給装置9における圧延油の濃度制御について説明すると、低濃度用タンク11から圧送される水あるいは低濃度の圧延油を一定の流量に制御しておく。そして、要求される目標濃度となるように、濃度コントローラ24によって精密ギアポンプ21の吐出流量が制御される。・・・上記構成の圧延油供給装置9では、低濃度用タンク11から供給される水又は低濃度の圧延油に対し、ヘッダ14直前にて必要な分だけの高濃度の圧延油を追加混合してヘッダ14に供給することで、目標とする濃度に調整された圧延油がストリップ2に供給される。」(段落【0023】〜【0025】参照)を参照すると、本件発明1は、圧延潤滑油の濃度のみならず、これに付随してその供給量をも調整することを実施の態様として包含するものである。これらを考え合わせると、本件発明1における「圧延潤滑油の濃度を調整する」とは、甲第1号証記載の発明のように圧延油流量および圧延油濃度を操作量とすることにほかならない。
これらの点を勘案すると、両者は、
「冷間タンデムミルにおける最終スタンド出側の板速度と最終スタンドでのロール周速から当該最終スタンドでの先進率を算出し、その算出した先進率が、予め求めたチャタリング発生が抑えられる安全先進率の範囲内となるように上記最終スタンドで供給される圧延潤滑油の濃度をミキサで調整する冷間圧延での先進率制御方法。」
である点で一致し、次の点で相違しているといえる。
相違点1:本件発明1においては、先進率が、予め求めたチャタリング発 生が抑えられる安全先進率の範囲から外れると、先進率が上記 安全先進率の範囲内となるように最終スタンドで供給される圧 延潤滑油の濃度を調整しているのに対して、甲第1号証記載の 発明は、最終スタンドで供給される圧延潤滑油の濃度を調整し ているものの、当該濃度調整を、予め求めたチャタリング発生 が抑えられる安全先進率の範囲から外れると行うことについて は明示していない点。
相違点2:本件発明1におけるミキサは、ヘッダ内に配置されているのに 対して、これに対応する甲第1号証記載の発明のスタティクミ キサーは、ヘッダ直前に配置されている点。

上記相違点について以下検討する。
相違点1について:
ある指標を許容範囲内に制御する場合に、その指標が当該許容範囲内にあるか否かに応じて、操作量を調整すること、すなわち、該指標が許容範囲内にある場合には、操作量の調整を行わず、許容範囲から外れた場合に操作量の調整を行うことは、制御手法として普通に採用されている技術である(要すれば、本件特許明細書の段落【0002】、【0003】に列記された特開昭62-72409号公報の第4頁左上欄第18、19行、特開昭61-199507号公報の第3頁右上欄第7〜12行、あるいは、特開平7-214119号公報の段落【0018】参照)。
また、甲第1号証記載の発明は、そもそも「先進率の安定圧延領域」への先進率制御を意図しているわけであるから、先進率が当該安定圧延領域から外れた場合には、操作量を操作し先進率制御を行い、以て当該領域への先進率の復帰を図ることは当然のことである。
さらに付言すれば、本件発明1は、算出した先進率が安全先進率の範囲から外れる場合については明確に示すものの、該先進率が安全先進率の範囲内にある場合に、圧延潤滑油の濃度を調整するか否かについては明示していないから、必ずしも、所定許容範囲外となったときにだけ圧延潤滑油濃度を変更するものとはいえない。
これらを考慮すると、甲第1号証記載の発明において、先進率が、上記「先進率の安定圧延領域」(本件発明1における「予め求めたチャタリング発生が抑えられる安全先進率の範囲」に相当)から外れたときに、圧延油濃度の調整を行うことは、上記周知技術に照らしながら、当業者が適宜なし得る事項であり、さらには、甲第1号証記載の発明が既に予定している事項にすぎないというべきである。
相違点2について:
ヘッダから供給される圧延潤滑油の濃度をより高応答に変更調整するためには、圧延油と水などを混合し所望の圧延潤滑油濃度とした後、即時にヘッダまで搬送する必要があることから、当該混合を行うミキサからヘッダまでの距離をできる限り短くした方がよいことは当然の帰結である。そして、究極的には、本件出願前既に周知のヘッダ構造(要すれば、本件特許明細書の段落【0004】に記載された特開平3-151106号公報の図2、あるいは、特開平5-84508号公報、特開平7-284819号公報参照)にみられるような、上記距離がゼロとなる、すなわち、ミキサがヘッダ内に配置されている形態が最良であることは、当業者であれば容易に想起し得るところである。よって、相違点2に係る発明特定事項により本件発明1が特許性を具備しているということはできない。

上記のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)甲第3号証記載の発明との対比・検討
上記摘記事項(3a)〜(3e)を総合すると、甲第3号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「八幡4冷延のNo.6スタンドにおいて、実測先進率を安定圧延の指標とし、圧延油供給ヘッダ直前に設置したスタティックミキサーを有し、圧延油流量・濃度を高応答にて可変できる圧延油流量・濃度可変装置により、当該先進率を安定圧延領域に制御する先進率制御方法。」(以下、「甲第3号証記載の発明」という。)
そして、本件発明1と甲第3号証記載の発明とを対比したときの両者の一致点及び相違点は、前記「(1)甲第1号証記載の発明との対比・検討」の項に示したものと同様であり、該相違点についても先に検討したとおりであるから、本件発明1は、甲第3号証記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の「最終スタンドで供給される圧延潤滑油の濃度を、ヘッダ内に配置されたミキサで調整する」なる発明特定事項を「最終スタンドで供給される圧延潤滑油の濃度を、ヘッダ直前あるいはヘッダ内に配置されたミキサで調整する」としているのみであるから、本件発明1に係る「冷間圧延での先進率制御方法」の構成をすべて含み、さらに、ミキサを「ヘッダ直前」に配置することをも選択的に包含するものである。
しかしながら、本件発明2において、ミキサの配置箇所として「ヘッダ内」を選択する場合には、本件発明1と同じ発明となるから、「1.本件発明1について」の項において示したごとく結論付けることができる。また、本件発明2において、ミキサの配置箇所として「ヘッダ直前」を選択する場合についてみても、本件特許明細書には、当該「ヘッダ直前」の意味するところが、甲第1号証記載の発明、あるいは甲第3号証記載の発明におけるものとは相違すると解すべき根拠は見い出せないから、「1.本件発明1について」の項において示した相違点1のみが、本件発明2と甲第1号証記載の発明、あるいは甲第3号証記載の発明との相違点となるところ、これについては先に検討したとおりである。
したがって、本件発明2も、本件発明1と同様の理由により、甲第1号証記載の発明及び周知技術、あるいは甲第3号証記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VIII.むすび

以上のとおりであるから、本件請求項1、2に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
冷間圧延での先進率制御方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】冷間タンデムミルにおける最終スタンド出側の板速度と最終スタンドでのロール周速から当該最終スタンドでの先進率を算出し、その算出した先進率が、予め求めたチャタリング発生が抑えられる安全先進率の範囲から外れると、先進率が上記安全先進率の範囲内となるように上記最終スタンドで供給される圧延潤滑油の濃度を、ヘッダ内に配置されたミキサで調整することを特徴とする冷間圧延での先進率制御方法。
【請求項2】冷間タンデムミルにおける最終スタンド出側の板速度と最終スタンドでのロール周速から当該最終スタンドでの先進率を算出し、その算出した先進率が、予め求めたチャタリング発生が抑えられる安全先進率の範囲から外れると、先進率が上記安全先進率の範囲内となるように上記最終スタンドで供給される圧延潤滑油の濃度を、ヘッダ直前あるいはヘッダ内に配置されたミキサで調整することを特徴とする冷間圧延での先進率制御方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷間タンデムミルによる鋼帯等の金属帯(以下「ストリップ」と称する)の冷間圧延に係り、特に硬質鋼帯等の板厚の薄い硬質な材料に見られる冷間圧延でのチャタリング(共振現象)の防止に有効な冷間圧延での先進率制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
先進率の制御方法としては、例えば特開昭61-199507号公報に記載されるものがある。
この先進率制御方法は、板厚、張力、板速度などから摩擦係数を求め、圧延潤滑油量を変数とする摩擦係数モデル式の影響係数を学習修正しながら、上記摩擦係数モデル式に基づき求めた先進率が許容範囲となるように、圧延因子(例えば、張力、入側板厚、圧延潤滑油量)を制御している。これによって、圧延条件が変わっても実用上十分な精度で先進率を予測できることで、安定した高速圧延を確保しようとするものである。
【0003】
また、特開昭62-292209号公報に記載の先進率制御方法では、先進率を、予め設定した目標先進率となるようにスタンド間張力を調整する。
また、特開昭62-72409号公報に記載の先進率制御方法では、目標先進率となる摩擦係数を推定し、その推定摩擦係数に基づく摩擦係数モデルから圧延潤滑油量を演算し、その演算量となるように圧延潤滑油量を制御することで先進率を目標先進率に制御している。
【0004】
また、特開平3-151106号公報では、現在の先進率を求め、その先進率から摩擦係数予測式を作成し、その摩擦係数予測式から目標先進率となる圧延潤滑油濃度を求め、その圧延潤滑油濃度となるように制御することで先進率を制御している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
一方、最近、母板要因により圧延中に変形抵抗が変化し、これがチャタリングを誘発していることが明らかになってきた。したがって、上記特開昭61-199507号公報記載の方法では、コイル長手方向の制御は難しく、変形抵抗変化に追従するように圧延荷重若しくは張力を変更すると、板厚変動を招いてしまうという問題がある。
【0006】
また、特開昭62-292209号公報では、スタンド間張力が一定になるように制御されるが、変形抵抗の変化は急激に起きるため、このような張力制御による先進率の制御では応答性が不足するという問題がある。
また、特開昭62-72409号や特開平3-151106号公報に記載の制御では、先進率から各スタンドでの摩擦係数を推定し、この推定した摩擦係数から圧延潤滑油供給量あるいは圧延潤滑油の濃度を制御する技術である。この技術では、推定された摩擦係数を用いて制御しようとしているが、当該推定摩擦係数は、必ずしも実際の摩擦係数と一致するものではなく、常に多少のズレが存在する分、精度が劣ると共に、変形抵抗の変化に起因する急激な圧延条件変化に追従できない場合があり、チャタリング発生の頻度を十分には低減できなかった。
【0007】
また、圧延潤滑油の供給量を制御して先進率を制御する場合には、供給量が制限されると均一にストリップに噴射することが困難となり、板幅方向での圧延状態が変化し、板の形状不良が発生する可能性がある。
なお、特開平3-151106号公報では、圧延潤滑油濃度を制御するものであるが、3頁右上欄に記載のように、濃度が高くなるほど油量が多くなることで摩擦係数を小さくしている。また、目標先進率に対応する目標濃度なるように常に制御するものである。
【0008】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、効率良くチャタリング発生を防止可能な冷間圧延での先進率制御方法を提供することを課題としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、冷間タンデムミルにおける最終スタンド出側の板速度と最終スタンドでのロール周速から当該最終スタンドでの先進率を算出し、その算出した先進率が、予め求めたチャタリング発生が抑えられる安全先進率の範囲から外れると、先進率が上記安全先進率の範囲内となるように上記最終スタンドで供給される圧延潤滑油の濃度を、ヘッダ内に配置されたミキサで調整することを特徴とする冷間圧延での先進率制御方法を提供するものである。
次に、請求項2に記載した発明は、冷間タンデムミルにおける最終スタンド出側の板速度と最終スタンドでのロール周速から当該最終スタンドでの先進率を算出し、その算出した先進率が、予め求めたチャタリング発生が抑えられる安全先進率の範囲から外れると、先進率が上記安全先進率の範囲内となるように上記最終スタンドで供給される圧延潤滑油の濃度を、ヘッダ直前あるいはヘッダ内に配置されたミキサで調整することを特徴とする冷間圧延での先進率制御方法を提供するものである。
【0010】
ここで、圧延潤滑油濃度を高くするにつれて先進率が下がることを確認しているので、例えば、上記安定先進率の上限値を越えた場合には、上限値からのオフセット分だけ圧延油濃度が高くなるように変更し、また、上記安全先進率の下限値よりも下回った場合には、下限値からのオフセット分だけ圧延油濃度が薄くなるよう変更すればよい。
【0011】
本発明者らが調査したところ、チャタリングの発生は、そのほとんどが、板厚が最も薄くなり、且つ、変形抵抗も高い圧延の最終スタンドであった。
この観点から、本発明では、冷間タンデムミルにおける最終スタンドだけを制御対象として制御の効率化を図っている。また、前段スタンドの圧延条件も変更するように制御すると、この前段の変化が最終スタンドの圧延状況にも影響を及ぼし、迅速な制御が困難となるおそれがあるが、本発明では、最終スタンドのみを制御対象とすることで、この問題も解決できる。すなわち、先進率の制御が従来よりも簡易となる。
【0012】
また、圧延潤滑油を制御することで上記先進率を調整する構成であるが、濃度制御で行うことで、当該制御によって供給される油量の変化が小さく抑えられ、圧延への悪影響が小さく抑えられる。
なお、後述の実施形態で示すように、供給量を変更するときの応答性に比べ、濃度を変更するときに応答性を高く設定することも可能となる。
【0013】
また、常時、圧延油濃度を調整するのではなく、所定許容範囲外となったときにだけ変更するため、この点からも圧延への悪影響を小さく抑えることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の圧延機設備を示す概略構成図である。すなわち、冷間タンデムミル1のスタンド1A〜1Fがストリップ2搬送方向に沿って複数配列して、図1中、ストリップ2は、左側から右側に向けて搬送されながら各スタンド1A〜1Fで順番に圧延されるようになっている。
【0015】
また、最終スタンド1Fの下流にはブライドルロール3及びコイラーが配置されていて、上記最終スタンド1Fから出たストリップ2は、上記ブライドルロール3によって所定の張力が付与されつつコイラー4に巻き取られる。
そして、上記最終スタンド1Fのワークロール5の回転数が、第1回転数センサ6によって検出され、該第1回転数センサ6は、先進率制御装置8に検出信号を出力する。また、上記ブライドルロール3の回転数が第2回転数センサ7によって検出され、該第2回転数センサ7は、検出信号を先進率制御装置8に出力する。
【0016】
また、先進率制御装置8は、先進率演算部8A、不感帯判定部8B、及び出力部8Cを備える。
先進率演算部8Aでは、上記第1回転数センサ6からの検出信号によって最終スタンド1Fのワークロール5の周速Vrを演算し、また、第2回転数センサ7からの検出信号によってブライドルロール3の周速すなわち板速Vsを演算して、下記(1)式によって先進率fを演算し、演算結果を不感帯判定部8Bに出力する。
【0017】

不感帯判定部8Bでは、入力した先進率fが、設定されている安全先進率の範囲外であるかどうかが判定され、先進率fが上記範囲の下限値Lより小さい若しくは上限値Hより大きいと判定すれば、図2に示すグラフに基づき、上記上限値H若しくは下限値Lからの相対値に応じた濃度変化量を算出して、出力部に出力する。
【0018】
ここで、上記安全先進率の範囲の上限値H及び下限値Lは、予め次のようにして求めておく。すなわち、安定先進率の範囲として、当該範囲を越えるとチャタリング発生する懸念がある領域を予め実験などから求めておき、この範囲内で安全先進率の範囲を設定する。
本実施形態では、上記安全先進率の範囲として1%以上4%以下としてある。ただし、許容幅として0.5%を見込んで、上記各境界値よりもそれぞれ0.5%小さな値を限界値として安全先進率の範囲を設定している。すなわち、1.5%を下限値L、3.5%を上限値Hとしている。
【0019】
なお、上記のように許容幅を見込んで安全先進率の範囲を設定することが、チャタリングをより確実に防止するという点で有利であるが、許容幅を見込まず、安全先進率を安定先進率と同じ範囲として設定しても良い。
出力部8Cでは、入力した濃度変化量を圧延油供給装置9の濃度コントローラ24に出力する。圧延油供給装置9では、入力した濃度変化量だけ目標濃度を変化させた濃度となるように制御を行いながら、各ヘッダ14のノズルから圧延潤滑油をストリップ2の表面に噴射する。
【0020】
次に、本実施形態の圧延油供給装置9の構成を説明する。図3は、本実施形態に係る圧延油供給装置9を示す構成概要図である。
すなわち、符号12は高濃度の圧延油を供給する高濃度用タンクであり、高濃度用供給路22を通じて、ヘッダ14直下に配置されたミキサ20に接続されている。その高濃度用供給路22には、上流側からブースタポンプ25及び精密ギアポンプ21が介装されて、ミキサ20に吐出する圧延油の供給流量を高応答で制御可能となっている。なお、符号17は戻り路を示している。
【0021】
また、符号11は、水あるいは低濃度の圧延油を供給する低濃度用タンクであり、低濃度用供給路23を通じて上記ミキサ20に接続され、当該低濃度用供給路23に介装された低濃度用ポンプ15によって水あるいは低濃度の圧延油をミキサ20に供給可能となっている。なお、低濃度の庄延油の濃度としては、例えば対象とするストリップに供給する圧延油として想定され得る最低の濃度とすればよい。
【0022】
上記ミキサ20は、ヘッダ14の直前に配置されて、タンク12から供給されてきた高濃度の圧延油と、タンク11から供給される水あるいは低濃度の圧延油とを連続的に混合してヘッダ14に排出する。ヘッダ14は供給されてきた所定濃度の圧延油を、最終スタンド1F入側のストリップ2表面に向けて噴射可能となっている。
【0023】
上記構成の圧延油供給装置9における圧延油の濃度制御について説明すると、低濃度用タンク11から圧送される水あるいは低濃度の圧延油を一定の流量に制御しておく。そして、要求される目標濃度となるように、濃度コントローラ24によって精密ギアポンプ21の吐出流量が制御される。但し、濃度コントローラ24は、先進率制御装置8から濃度変化量を入力した場合には、該濃度変化量だけ上記目標濃度を変化させた濃度値となるように精密ギアポンプ21の吐出流量を制御する。すなわち、濃度コントローラ24は、低濃度用タンク11からの供給流量、圧延油濃度、及び目標濃度(濃度変化量を入力した場合には該濃度変化量を加味した濃度値)に基づいて、ヘッダ14から供給される圧延油が目標濃度となる高濃度の圧延油の供給流量を求め、当該供給流量となるように精密ギアポンプ21に吐出量の指令を送る。なお、低濃度用タンク11からのミキサ20への供給流量は、例えばヘッダ14のノズルからの噴出流量が目標流量(濃度変化量を入力した場合には該濃度変化による流量変化を加味した流量)となるように設定すればよい。
【0024】
次に、上記設備における作用・効果などについて説明する。
ストリップ2は、各スタンド1A〜1Fで順番に圧延され、続いて最終スタンド1Fからブライドルロールを介してコイラに送られて巻き取られる。
そして、演算した最終スタンド1Fでの先進率が、設定されている安全先進率の範囲内であれば、チャタリングが発生しないと推定されるので、先進率制御のために圧延潤滑油濃度の調整を行わない。一方、演算した最終スタンド1Fでの先進率が安全先進率の範囲外であれば、上記図2に基づき、濃度変化量を求めて圧延油供給装置9に供給され、該圧延油供給装置9は、目標濃度から入力した濃度変化量分の濃度変化を生じさせるべく、高濃度用タンク12からの圧延油のミキシングタンクへの供給流量を変化する。
【0025】
このように圧延油潤滑油の濃度を調整することで、先進率が安全先進率の範囲内に入るように制御されて、一番チャタリングが発生しやすい最終スタンド1Fでのチャタリングの発生が防止される。
ここで、上記構成の圧延油供給装置9では、低濃度用タンク11から供給される水又は低濃度の圧延油に対し、ヘッダ14直前にて必要な分だけの高濃度の圧延油を追加混合してヘッダ14に供給することで、目標とする濃度に調整された圧延油がストリップ2に供給される。このようにヘッダ4直前で濃度の調整を行うために、圧延油の濃度調整の応答性が高い。つまり、高応答で先進率の制御を行うことができる。
【0026】
なお、ヘッダ14直前に配置されたミキサ20において、水と圧延油を混合して濃度調整をする場合、ミキシング不足からEMI(Emulsion Stability Index:乳化安定度)が低くなりやすく、ヘッダから供給されるエマルジョンの粒径が大きくなりやすい。特に、このような点が問題とされる場合は、低濃度用タンク11から低濃度の圧延油を供給すると、圧延油同士を混合することとなり乳化安定性が良く、また、粒径の拡大を伴うこともないので好ましい。
【0027】
なお、ここで、上記実施形態においては、安全先進率の上限値H若しくは下限値Lからの演算した先進率の変位量に一次比例した量だけ濃度変化させているが、これに限定されない。例えば階段状に上記変位量と濃度変化量とを対応付けておいてもよい。
なお、低濃度の圧延油の濃度は高いESIを確保する場合は1%以上とすることが好ましい。また、全てのストリップ2への対応を可能とするため、高濃度の圧延油の濃度の下限値は、想定している圧延油の最高の濃度を超える濃度とすることが好ましい。高濃度の圧延油の濃度の上限値は100%(圧延油の原油の濃度)である。高濃度の圧延油の少量の変化で高応答にミキサ20での圧延油の濃度を調整可能とするという観点からは、高濃度の圧延油は圧延油の原液とするのが好ましい。
【0028】
また、上記実施形態ではミキサをヘッダ直前に配置したが、このミキサをヘッダ内に配置してもよい。
【0029】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明の先進率制御によれば、効率良くチャタリングを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に基づく実施形態に係る冷間圧延設備を示す概略構成図である。
【図2】
本発明に基づく実施形態に係る先進率と濃度変化量との関係を示す図である。
【図3】
本発明に基づく実施形態に係る圧延油供給装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1 連続圧延機
1F 最終スタンド
2 ストリップ
3 ブライドルローラ
4 コイラー
5 最終スタンドのワークロール
6,7 回転数センサ
8 先進率制御装置
8A 先進率演算部
8B 不感帯判定部
8C 出力部
9 圧延油供給装置
11 低濃度用タンク
12 高濃度用タンク
14 ヘッダ
15 低濃度用ポンプ
20 ミキサ
21 精密ギアポンプ(高濃度用ポンプ)
22 高濃度用供給路
23 低濃度用供給路
24 濃度コントローラ
25 ブースタポンプ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-04-28 
結審通知日 2006-05-02 
審決日 2006-05-15 
出願番号 特願2001-163084(P2001-163084)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (B21B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 日比野 隆治
市川 裕司
登録日 2004-05-14 
登録番号 特許第3552681号(P3552681)
発明の名称 冷間圧延での先進率制御方法  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 森 哲也  
代理人 宮坂 徹  
代理人 亀松 宏  
代理人 永坂 友康  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 石田 敬  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 森 哲也  
代理人 古賀 哲次  
代理人 宮坂 徹  
代理人 西山 雅也  
代理人 青木 篤  

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