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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1142170
審判番号 不服2002-18223  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-09-19 
確定日 2006-08-17 
事件の表示 平成 9年特許願第 63452号「ゴム組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月25日出願公開、特開平10-226736〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成9年3月17日(優先権主張 平成8年12月10日)の出願であって、平成10年1月20日、平成11年9月1日に手続補正書が提出され、平成13年12月13日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成14年3月15日に意見書及び手続補正書が提出され、平成14年8月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成14年9月19日に審判請求がなされ、平成14年10月18日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。
本願請求項1乃至7に係る発明は、平成14年3月15日付けの手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
平均ガラス転移温度TgAが-120℃〜-15℃の少なくとも一種の原料ゴムAのラテックス50〜90重量部(但し固形分換算)、カーボンブラック40〜100重量部及び軟化剤70重量部以下を含むゴムラテックス混合物を凝固、脱水及び乾燥して得られるカーボンブラック含有ゴム組成物と、合計ゴム量が100重量部となる量のポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体又はスチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体から選ばれた原料ゴムB及び合計軟化剤量が80重量部以下となる量の軟化剤とを密閉式ミキサーで混練してなり、ゴムラテックス混合物中のゴムポリマーに対するカーボンブラック濃度FA と、密閉式ミキサーで混練後のゴムポリマーに対するカーボンブラック濃度FB との比FA /FB が1.2〜3.0であるゴム組成物。」

2.引用文献2の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
引用文献2:特開平5-112676号公報
ア.「【請求項1】 トレッド部が-60℃以下の温度領域にガラス転移点を有する第1のゴム組成物と-30℃以上の温度領域にガラス転移点を有する第2のゴム組成物との混合ゴム組成物からなり、前記第1のゴム組成物中にカーボンブラック全配合量の70重量%以上が配合されている空気入りタイヤ。
【請求項2】 -60℃以下の温度領域にガラス転移点を有する第1のゴム組成物にカーボンブラック全配合量の70重量%以上を予め配合しておき、これを-30℃以上の温度領域にガラス転移点を有する第2のゴム組成物に残りのカーボンブラックと共に混合した混合ゴム組成物でトレッド部を構成したグリーンタイヤを作り、このグリーンタイヤを金型を使用して加硫成形する空気入りタイヤの製造方法。」(特許請求の範囲)
イ.「【産業上の利用分野】本発明はウェットグリップ性能及び耐摩耗性能が優れた空気入りタイヤ及びその製造方法に関する。」(段落【0001】)
ウ.「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来の空気入りタイヤにおいては、耐摩耗性能及びウェットグリップ性能を両立させる効果が不十分であるので、トレッド部の溝深さを少なくして更に軽量化することができないという問題点がある。本発明の目的はウェットグリップ性能を低下させることなく、耐摩耗性能を向上させることができ、軽量化することができる空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することにある。」(段落【0005】)
エ.「本発明においては、ガラス転移点が低く耐摩耗性能が優れた第1のゴム組成物とガラス転移点が高くウェットグリップ性能が優れた第2のゴム組成物との混合ゴム組成物でトレッド部が構成される場合に、前記第1のゴム組成物中のカーボンブラックの配合量を多くすることにより、ウェットグリップ性能を低下させることなく、耐摩耗性能を向上させることができる。これにより、トレッド部のボリュームを小さくすることができるので、空気入りタイヤを軽量化することができる。この場合、第1のゴム組成物中のカーボンブラック配合量がその全配合量の70重量%未満であると、耐摩耗性能及びウェットグリップ性能を両立させることができない。このため、第1のゴム組成物中に配合するカーボンブラックはその全配合量の70重量%以上にする。」(段落【0008】)
オ.「本発明において、第1のゴム組成物のゴム成分としてはBR又は低スチレンコンテントのSBR等を使用することができ、第2のゴム組成物のゴム成分としては高スチレンコンテントのSBR等を使用することができる。また、これらの第1及び第2のゴム組成物には、カーボンブラックの他に通常のトレッドゴムに混合される亜鉛華(酸化亜鉛)、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、アロマティックオイル、硫黄及び加硫促進剤等のゴム薬品を適宜配合することができ、ウェットマスターバッチとして使用しても良い。なお、本発明において、ガラス転移点とはASTM D3417-75に規定された方法に準じて測定した値をいう。」(段落【0010】)
カ.「【実施例】ポリマーA(第1のゴム組成物)としてガラス転移温度が-100℃のBR(日本ゼオン社製“Nipol 1441”)を使用し、ポリマーB(第2のゴム組成物)としてガラス転移温度が-20.7℃のSBR(日本ゼオン社製“Nipol 9529”)を使用した。そして、上記ポリマーA,Bの配合比及びポリマーA,BへのHAFカーボンブラック(CB)の配合比を下記表1に示すように変化させて、ポリマーAに所定のカーボンブラックを配合した後に、残りのカーボンブラック、ポリマーB及びその他の配合剤を混合して配合物1〜6を作成した。このとき、その他の配合剤としては、ポリマーA,Bの総量の100重量に対して、30.0重量部のアロマティックオイル、2.5重量部の酸化亜鉛、1.7重量部のステアリン酸、2.0重量部の硫黄、1.7重量部の老化防止剤および1.5重量部の加硫促進剤を使用した。」(段落【0011】)
キ.「

」(段落【0012】)
ク.「【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る空気入りタイヤは耐摩耗性能が優れた第1のゴム組成物とウェットグリップ性能が優れた第2のゴム組成物との混合ゴム組成物でトレッド部が構成され、前記第1のゴム組成物中にカーボンブラック全配合量の70重量%以上が配合されているから、ウェットグリップ性能を低下させることなく、耐摩耗性能を向上させることができ、空気入りタイヤを軽量化することができる。また、本発明に係る空気入りタイヤの製造方法においては、第1及び第2のゴム組成物の混合時に、第1のゴム組成物にカーボンブラック全配合量の70重量%以上を予め配合しておくから,上述の空気入りタイヤを容易に製造することができる。」(段落【0014】)

3.対比・判断
3-1.引用文献2に記載された発明
引用文献2には、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性能が優れた空気入りタイヤ(摘示記載イ、ウ)の製造に関し、「-60℃以下の温度領域にガラス転移点を有する第1のゴム組成物にカーボンブラック全配合量の70重量%以上を予め配合しておき、これを-30℃以上の温度領域にガラス転移点を有する第2のゴム組成物に残りのカーボンブラックと共に混合した混合ゴム組成物」(摘示記載ア)が記載されている。
ここで、ガラス転移点(ガラス転移温度と同義)とは、高分子材料の特性を示すものであるから、ゴム組成物のガラス転移点とは、組成物中のゴム成分のガラス転移点を意味すると解するのが相当である。
したがって、引用文献2の「-60℃以下の温度領域にガラス転移点を有する第1のゴム組成物」、「-30℃以上の温度領域にガラス転移点を有する第2のゴム組成物」との記載における、ガラス転移点とは、ゴム組成物に含有されるゴム成分のガラス転移点を意味するものと認められる。
そして、引用文献2には「第1のゴム組成物のゴム成分としてはBR又は低スチレンコンテントのSBR等を使用することができ、第2のゴム組成物のゴム成分としては高スチレンコンテントのSBR等を使用することができる。」(摘示記載オ)ことが記載され、また、実施例には第1ゴム組成物のゴム成分BRがポリマーAとしてガラス転移温度とともに記載され、第2ゴム組成物のゴム成分SBRがポリマーBとしてガラス転移温度とともに記載されている。
さらに、実施例におけるポリマーA、Bの配合量は50:50、あるいは70:30であり、また、ポリマーAとBの総量100重量部に対しカーボンブラック100重量部を配合することが記載されている(摘示記載カ、キ)。
そうすると、引用文献2には、第1のゴム組成物のゴム成分:第2のゴム組成物中のゴム成分=50〜70重量部:50〜30重量部の配合が記載され、また、第1および第2のゴム組成物中のゴム成分の総量100重量部にカーボンブラック100重量部を配合することが記載されているといえる。
以上のことから、引用文献2には、「『-60℃以下の温度領域にガラス転移点を有するゴム成分』50〜70重量部を含有する第1のゴム組成物にカーボンブラック全配合量100重量部の70重量%以上を予め配合しておき、これを、合計ゴム量が100重量部となる量の『-30℃以上の温度領域にガラス転移点を有するSBR』を含有する第2のゴム組成物に残りのカーボンブラックと共に混合した混合ゴム組成物」の発明(以下、「引用文献発明」という。)が記載されているといえる。

3-2.本願発明との一致点、相違点
本願発明と引用文献発明とを対比する。
両者は、ウェットグリップ性能及び耐摩耗性能が優れた空気入りタイヤの製造に用いるゴム組成物に関する点で、軌を一つにする発明である。
そして、本願発明の「平均ガラス転移温度TgA」は、その文脈上、原料ゴムAに係る記載と解されるが、発明の詳細な説明にはその平均が何の平均を意味するかについては記載されていない。また、実施例においては、カーボンブラック含有ゴム組成物は、その原料ゴムAのガラス転移温度が記載されているだけで(段落【0022】〜【0026】)、平均ガラス転移温度TgAは記載されていない。
これらの記載に鑑みると、原料ゴムAのガラス転移温度をもって、平均ガラス転移温度TgAと称していると解さざるをえない。
そうであるから、引用文献発明の『-60℃以下の温度領域にガラス転移点を有するゴム成分』は、本願発明の「平均ガラス転移温度-120℃〜60℃の原料ゴムA」に相当する。また、『-30℃以上の温度領域にガラス転移点を有するSBR』は、スチレン-ブタジエン共重合体であるから、本願発明の原料ゴムBに相当する。

以上のことから、両者は、次の一致点を有し、相違点1、4で一応相違し、相違点2、3で相違する。
【一致点】
平均ガラス転移温度TgAが-120℃〜-60℃の原料ゴムA50〜70重量部(固形分換算)およびカーボンブラック含有ゴム組成物に、合計ゴム量が100重部となる量のスチレン-ブタジエン共重合体とを混合してなるゴム組成物。
【相違点1】
原料の配合に関して、本願発明は、「原料ゴムAのラテックス50〜70重量部(但し固形分換算)およびカーボンブラック40〜100重量部を含むゴムラテックス混合物に、合計ゴム量が100重量部となる量のスチレン-ブタジエン共重合体とを混合」するのに対し、引用文献発明は、「第1のゴム組成物50〜70重量部にカーボンブラック全配合量100重量部の70重量%以上を予め配合しておき、合計ゴム量が100重部となる量の第2のゴム組成物に残りのカーボンブラックを配合する」点。
【相違点2】
カーボンブラック含有ゴム組成物について、本願発明は、「ゴムラテックス混合物を凝固、脱水及び乾燥して得られるカーボンブラック含有ゴム組成物」であるのに対し、引用文献発明では、その製造方法は特定されていない点。
【相違点3】
ゴム組成物の混合方法に関し、本願発明は、「カーボンブラック含有ゴム組成物とスチレン-ブタジエン共重合体とを密閉式ミキサーで混練する」のに対し、引用文献発明では、その混合方法は特定していない点。
【相違点4】
カーボンブラックの濃度に関し、本願発明は、「ゴムラテックス混合物中のゴムポリマーに対するカーボンブラック濃度FA と、密閉式ミキサーで混練後のゴムポリマーに対するカーボンブラック濃度FB との比FA /FB が1.2〜3.0」と特定しているのに対し、引用文献発明ではかかる特定はなされていない点。

3-3.相違点に対する判断
【相違点1】について
引用文献発明は、第1のゴム組成物にカーボンブラック全配合量の70重量%以上を予め配合するものであるから、第1のゴム組成物に100重量%、すなわち100重量部配合する態様を包含するものである。したがって、この点は実質的な相違点とはいえない。
仮に、100重量%配合するまでは記載されていないとしても、引用文献2には「前記第1のゴム組成物中のカーボンブラックの配合量を多くすることにより、ウェットグリップ性能を低下させることなく、耐摩耗性能を向上させることができる。これにより、トレッド部のボリュームを小さくすることができるので、空気入りタイヤを軽量化することができる。」(摘示記載エ)と第1のゴム組成物中のカーボンブラックの配合量を多くすることによる効果が記載されているのであり、また、カーボンブラック全量を第1のゴム組成物に配合することを阻害するような事情も認められない。
したがって、第1のゴム組成物中のカーボンブラックの配合量を100重量%とすることは当業者が適宜試みる事項に過ぎない。

【相違点2】について
本願発明の「ゴムラテックス混合物を凝固、脱水及び乾燥して得られるカーボンブラック含有ゴム組成物」とは、ウエットマスターバッチであることは明らかである(この点は請求人の認めている事項である)。
引用文献2には、第1、第2のゴム組成物にカーボンブラックを配合する際に、ウェットマスターバッチとして使用しても良い(摘示記載オ)ことが記載されている。
また、ゴムにカーボンブラック等を配合し、マスターバッチとする技術において、ウェットマスターバッチとすることは周知の技術(特開昭48-96636号公報:原審での引用例1、特開昭60-108444号公報、特開昭61-255946号公報、特開平1-272644号公報)である。
そうであるから、引用文献発明の第1のゴム組成物を得るに際し、引用文献2にも記載された方法であるウェットマスターバッチ法を採用することは当業者が適宜行う事項であって、格別な困難は認められない。
また、その効果も格別とは認められない。

【相違点3】について
ゴム組成物の混合に際し、密閉式ミキサーで混練することは常套手段であ
り(例えば、「図解 プラスチック成形加工用語辞典」1990年1月10日発行、株式会社工業調査会、p.453〜454参照)、かかる手段をカーボンブラック含有ゴム組成物とスチレン-ブタジエン共重合体との混合に適用することは当業者が適宜行う事項である。
また、それによる格別な効果も認められない。

【相違点4】について
FAとは、ゴムラテックス混合物中のゴムポリマーに対するカーボンブラック濃度であるから、仮にカーボンブラックの配合量をCとし、ゴムラテックス混合物中のゴムポリマーの配合量をAとするとFA=C/Aと表せるものであり、FBは混練後のゴムポリマーに対するカーボンブラック濃度であるから、原料ゴムBの配合量をBとするとFB=C/(A+B)で表せるものである。
そうすると、FA/FB=(C/A)/[C/(A+B)]=(A+B)/(A)となり、原料ゴムA、Bの配合量にのみ影響される値である。
そうすると、引用文献発明においてはA=50〜70重量部であり、A+B=100重量部であるから、FA/FB=1.4〜2となる。
したがって、この点は実質的な相違点とはいえない。

3-4.まとめ
上記のように、本願発明は、引用文献発明および周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、引用文献2にはウエットグリップ性能、耐摩耗性能が優れた空気入りタイヤが製造されることが記載されており(摘示記載ク)、本願発明の効果と同質なものが開示されている。
さらに、本願明細書の実施例および比較例を対比しても、格別顕著な効果が奏されるものとは認められない。
したがって、本願発明の効果は、引用文献発明から予測される程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。

なお、出願人は審判請求書において、新たな実験結果を示して次のような主張をしている。
「第2のゴム組成物である原料ゴムBとしてNR及びIRを用いた場合(注:引用例1によれば第2のゴム組成物はNR及び/又はIRでなければならない旨の記載がある)には、所望の効果は得られず(注:本発明のようにラテックス混合した場合の方が従来の2段ドライ混合に比較して耐摩耗性及びtanδ勾配に劣り、特にラテックス混合では基準とした比較例の1段ドライ混合よりもむしろ劣っている)、本願発明のように、原料ゴムBはSBR,BR及びSIBRでなければ、本願発明の目的は達し得ないことは明らかであります。」
しかしながら、引用文献2には第2のゴム組成物のゴム成分としてSBRを用いることが記載されているのであり、NB、IRとの比較には意味がない。さらに、表VII(まとめ)において、例えば実験例8と9では2段混合とラテックス混合とを比較しても、その耐摩耗性、tanδ勾配に関し格別顕著な効果が得られているものとも認められず、本願発明全体において格別顕著な効果が奏されるものとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献発明および周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項2乃至7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-19 
結審通知日 2006-06-20 
審決日 2006-07-05 
出願番号 特願平9-63452
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 庸子原田 隆興  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 船岡 嘉彦
石井 あき子
発明の名称 ゴム組成物  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  

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