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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1142223
審判番号 不服2004-8320  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-10-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-22 
確定日 2006-08-17 
事件の表示 平成10年特許願第 72235号「同期信号分離回路」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月 8日出願公開、特開平11-275383〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成10年3月20日の出願であって、平成16年3月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月24日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成16年5月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年5月24日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「複合同期信号から垂直同期信号を分離する同期信号分離回路において、
前記複合同期信号を2値化する2値化手段と、
前記2値化された複合同期信号の値がLowの場合にはアップカウントを実行し、Highの場合にはダウンカウントを実行するアップ/ダウン・カウンタであって、前記カウントによってカウントされたカウント値が上限の規定値に達するとカウンタ出力としてキャリー信号を出力するとともに、前記上限の規定値または下限の規定値にカウントが達した後には前記アップカウントまたは前記ダウンカウントをしないアップ/ダウン・カウンタとを備えて、前記キャリー信号の出力によって分離した前記垂直同期信号を得、 前回の垂直同期検出から1TVラインに相当する所定の時間が経過する所定時間前に前記アップ/ダウン・カウンタに前記下限の規定値をプリセットして前記カウント動作を行わせ、前記所定時間、前記上限の規定値及び下限の規定値を、所定のビデオN/S以上の前記複合同期信号のアップカウント可能な期間において前記キャリー信号を出力できる時間及び値としたことを特徴とする同期信号分離回路。」
と補正された。
上記補正の目的については審判請求書には主張がないが、補正点(請求項1の上記記載のうち、アンダーラインを付した箇所)は、「アップ/ダウン・カウンタ」「上限の規定値」「下限の規定値」についての限定的減縮と解され特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものといえる。
そこで、補正後の前記請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討すると以下のとおりである。
上記補正のうち、「1TVラインに相当する所定の時間が経過する所定時間」及び「所定のビデオN/S以上の前記複合同期信号のアップカウント可能な期間」について、出願当初の明細書の発明の詳細な説明に記載がないし、またその内容が不明りょうである。
すなわち、「1TVライン」について出願当初の明細書の発明の詳細な説明に記載がない。そして、当該分野において例えば「ラインメモリ」が通常1H(1水平同期期間)メモリを指すことからして、「1TVライン」は1Hを指すものと解される余地があり、請求人の主張するように、「1TVライン」が525H(NTSCの場合)を指すことは自明とはいえない。してみると、1TVラインが525Hを指す場合があったとしても、1TVラインが1Hを指すと解される余地も大いにあることからすれば、「1TVライン」との記載は不明りょうともいえる。また、「所定の時間が経過する所定時間」における、「所定時間」について発明の詳細な説明に記載がない。このため、「所定の時間」が発明の詳細な説明にあるように525H(NTSCの場合)であったとしても、「所定の時間が経過する所定時間」とは如何なる技術事項であるか不明りょうともいえる。
また、「所定のビデオN/S以上の前記複合同期信号のアップカウント可能な期間」について、出願当初の明細書の発明の詳細な説明に記載がない。発明の詳細な説明には、実質的にカウント不可の状態の臨界値である13.6μsに対応するS/N比は、S/N=7.4dBであり、これより若干S/N比が高くなければならず、カウントを長く設定すると、S/N比は約8dB付近まで検出可能で、垂直同期の検出が可能となる旨の記載(段落【0038】ないし【0039】)があり、これによれば、S/N比が約8dB以上であれば垂直同期検出が可能と解されるが、「所定のビデオN/S以上の前記複合同期信号のアップカウント可能な期間」について記載されているわけではない。また、仮に「ビデオN/S」なる記載が上記「S/N比」の逆数を指しているとすると、「所定のビデオN/S以上の前記複合同期信号のアップカウント可能な期間」は「所定のビデオS/N比以下の前記複合同期信号のアップカウント可能な期間」ということになるが、このような記載が発明の詳細な説明にあるわけでもないし、発明の詳細な説明の記載と対応せず、その意味が不明りょうでもある。
してみると、「1TVラインに相当する所定の時間が経過する所定時間」及び「所定のビデオN/S以上の前記複合同期信号のアップカウント可能な期間」について、出願当初の明細書の発明の詳細な説明に記載がない(特許法第36条第6項第1号違反)し、不明りょうであるから、特許を受けようとする発明が明確でもない(特許法第36条第6項第2号違反)。
したがって、特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定に違反しているから特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(2)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第36条第6項第1号及び第2号の規定により特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものといえるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)平成16年5月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項及び平成16年2月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定される発明と認められるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という)は、以下のとおりのものである。
「複合同期信号から垂直同期信号を分離する同期信号分離回路において、
前記複合同期信号を2値化する2値化手段と、
前記2値化された複合同期信号の値の一方にアップカウントを対応させ他方にダウンカウントを対応させてカウントを実行するアップ/ダウン・カウンタであって、前記カウントによってカウントされたカウント値が下限の規定値に達すると、カウンタ出力としてボロー信号を出力するとともに、前記下限の規定値または上限の規定値にカウントが達した後には前記アップカウントまたは前記ダウンカウントをしないアップ/ダウン・カウンタと
を備えて、前記ボロー信号の出力によって分離した前記垂直同期信号を得ることを特徴とする同期信号分離回路。」

(2)刊行物
ア 原審拒絶理由で引用された、本願の出願日前である平成9年1月21日に頒布された「特開平9-23351号公報」(以下、「刊行物1」という)は、「同期分離回路およびその半導体素子」に関するものであって、その公報には図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「本発明の課題は、デジタル回路によって、アナログ回路を基本技術とする垂直同期分離回路と同じ程度の精度で、複合同期信号C・sync中の垂直同期信号V・syncを分離することができ、これによって分離精度を高めながら、回路のLSI化を容易にすることができる同期分離回路およびその半導体素子を提供することにある。」(3頁【0008】)
(イ)「図1は本発明による同期分離回路の一実施例を示すブロック図である。この図に示す同期分離回路1は、アップ/ダウンカウンタ回路2と、コンパレータ回路3とを備えており、テレビジョン放送波などに含まれている複合同期信号C・syncが供給されている状態で、システム側からサンプリングクロック信号が供給される毎に、アップ/ダウンカウンタ回路2によって前記複合同期信号C・syncの値に応じて、アップカウントまたはダウンカウントを行なうとともに、コンパレータ回路3によって前記アップ/ダウンカウンタ回路2のカウント結果をチェックし、これが予め設定されている条件を満たしているとき、垂直同期信号V・syncを発生する。
アップ/ダウンカウンタ回路2は、カウント値がオーバーフローしても、カウント値が“0”に戻らないように、かつカウント値がアンダーフローしても、カウント値がフル(Full)にならないように、カウント上限値αと、カウント下限値βとが設定され、システム側からサンプリングクロック信号が供給される毎に、テレビジョン放送波などに含まれている複合同期信号C・syncの値が“1”か、“0”かを判定し、前記複合同期信号C・syncの値が“1”であるとき、カウントアップし、また前記複合同期信号C・syncの値が“0”であるとき、カウントダウンする回路であり、カウント動作によって得られたカウント結果(カウント値)をコンパレータ回路3に供給する。
コンパレータ回路3は、ノイズマージンを高めるのに必要な立ち上がりしきい値aと、立ち下がりしきい値bとを持ち、前記アップ/ダウンカウンタ回路2から出力されるカウント値が立ち上がりしきい値aを越えているとき、値“1”を発生し、前記カウント値が立ち下がりしきい値bより小さくなったとき、値“0”を発生する回路であり、発生した値“0”を垂直同期信号V・syncとして出力する。」(3頁【0013】ないし【0015】、図1)
(ウ)「次に、図1に示すブロック図および図2、図3に示す波形図を参照しながら、この実施例の動作を説明する。まず、システム側からシステムクロック信号が供給されている状態で、図2(a)に示す如くテレビジョン放送波などに含まれている複合同期信号C・syncが供給されれば、この複合同期信号C・syncの等化期間が終了し、垂直同期期間に入ったとき、アップ/ダウンカウンタ回路2がダウンカウント動作を開始し、このカウント動作によって得られるカウント値が立ち下がりしきい値b以下になったとき、コンパレータ回路3によってこれが検出されて、図2(b)に示す如く垂直同期信号V・syncが出力される。
この際、図2(a)に示す如く、複合同期信号C・syncの等化期間中や垂直同期期間中に、ノイズが混入していても、図2の丸印部分を拡大した図3(a)に示す如くこれらノイズによってアップ/ダウンカウンタ回路2のカウント値が多少、アップ/ダウンするものの、複合同期信号C・syncが垂直同期期間となっている間、図3(b)に示す如くアップ/ダウンカウンタ回路2が主にダウンカウント動作を行ない、このダウンカウント動作によって得られるカウント値がコンパレータ回路3に設定されている立ち下がりしきい値b以下になったとき、コンパレータ回路3によってこれが検出されて、図3(c)に示す如く垂直同期信号V・syncが出力される。」(4頁【0016】【0017】、図1ないし3)

イ 原審拒絶理由で引用された、本願の出願日前である平成1年9月8日に頒布された「特開平1-226279号公報」(以下、「刊行物2」という)は、「クロック生成回路」に関するものであって、その公報には図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)「複合映像信号より水平同期信号を分離して出力する同期分離回路と、該分離された水平同期信号を入力して位相同期を行うPLL回路とを有し、該PLL回路は位相比較器及び電圧制御型発振器と、該位相比較器の出力を帯域制限する周波数特性の互いに異る第1及び第2の低域[濾]波器と、該2つの低域[濾]波器のうちいずれか一方を選択接続する切換えスイッチとを備えたクロック生成回路において、上記同期分離回路からの水平同期信号をプリセットパルスとして入力すると共に上記電圧制御型発振器からのクロック信号を入力して互いに異る所定数のクロック信号をカウントした後パルスを発生する第1及び第2のカウンタと、該第1及び第2のカウンタから交互に発生するパルスにより出力レベルを変化することにより水平同期信号と同じ周期の信号を生成する第1のフリップフロップ回路と、該第1のフリップフロップ回路の出力信号と上記水平同期信号とを相補的に論理演算して相補的なパルスを生成する第1及び第2の論理ゲート回路と、該第1及び第2の論理ゲート回路の出力を夫々ダウンカウントしてボローパルスを出力する第3及び第4のカウンタと、該第3及び第4のカウンタからボローパルスにより出力レベルを夫々高レベル及び低レベルに2値的に変化させることにより上記切換えスイッチを該出力レベルに応じて選択接続させるよう構成したことを特徴とするクロック生成回路。」(1頁特許請求の範囲)(なお原文中、さんずいへんに戸の字は誤記と解され、語意を考慮して[濾]と表記する)
(イ)「カウンタ13及び14では水平同期信号をプリセットパルスとして、夫々NORゲート回路19及びANDゲート回路からの出力信号をカウントダウンして、各カウンタの値が0になったときボローパルスを夫々NANDゲート回路17及び18に出力する。従って、フリップフロップ回路23においては、カウンタ13からのボローパルスをリセット信号とし、カウンタ14からのボローパルスをセット信号とした出力信号を生成して、スイッチ4a、4bの制御信号としているわけである。
以上のような原理により、カウンタ13は前記複合映像信号中に含まれるジッタが少い場合には、NORゲート回路19からの出力信号が多く出力されるので、カウンタ13によりカウントダウンされてボローパルスをフリップフロップ回路23のセットパルスとして出力し、その出力レベルをHレベルとする。逆に、複合映像信号中のジッタが多い場合には、ANDゲート回路20からの出力信号が多く出力されるので、カウンタ14によりカウントダウンされてボローパルスをフリップフロップ回路23のリセットパルスとして出力し、その出力レベルをLレベルとする。」(3頁左下欄16行ないし右下欄19行、第1図)

(3)対比・判断
ア 本願発明と刊行物1に記載された発明(以下、「刊行物発明」という)との対比
本願発明と刊行物発明を対比すると、
(ア)上記3(2)ア(ア)(ウ)によれば、刊行物発明のものは、複合同期信号中の垂直同期信号を分離する同期分離回路といえるので、本願発明と刊行物発明とは、「複合同期信号から垂直同期信号を分離する同期信号分離回路」であって、「分離した前記垂直同期信号を得ることを特徴とする同期信号分離回路。」である点で一致している。
また、上記3(2)ア(イ)によれば、刊行物発明のアップ/ダウンカウンタ回路は、複合同期信号の値が“1”か“0”かを判定し、前記複合同期信号の値が“1”であるとき、カウントアップし、“0”であるとき、カウントダウンする回路であるから、本願発明と刊行物発明とは、「前記複合同期信号を2値化する2値化手段と、前記2値化された複合同期信号の値の一方にアップカウントを対応させ他方にダウンカウントを対応させてカウントを実行するアップ/ダウン・カウンタ」を備える点で一致している。
また、刊行物発明のアップ/ダウンカウンタ回路は、カウント値がオーバーフローしても、カウント値が“0”に戻らないように、かつカウント値がアンダーフローしても、カウント値がフル(Full)にならないように、カウント上限値αとカウント下限値βとが設定されているので、本願発明と刊行物発明とは、「前記下限の規定値または上限の規定値にカウントが達した後には前記アップカウントまたは前記ダウンカウントをしないアップ/ダウン・カウンタ」を備える点で一致している。
(イ)したがって、両者は「複合同期信号から垂直同期信号を分離する同期信号分離回路において、前記複合同期信号を2値化する2値化手段と、前記2値化された複合同期信号の値の一方にアップカウントを対応させ他方にダウンカウントを対応させてカウントを実行するアップ/ダウン・カウンタであって、前記下限の規定値または上限の規定値にカウントが達した後には前記アップカウントまたは前記ダウンカウントをしないアップ/ダウン・カウンタとを備えて、分離した前記垂直同期信号を得ることを特徴とする同期信号分離回路。」である点で一致し、次の点で相違しているものと認められる。
a 本願発明は、「前記カウントによってカウントされたカウント値が下限の規定値に達すると、カウンタ出力としてボロー信号を出力」し、「前記ボロー信号の出力によって」分離した垂直同期信号を得るものであるのに対し、刊行物発明は、上記3(2)ア(ア)(ウ)によれば、カウントによってカウントされたカウント値が立下りしきい値に達するとその出力によって分離した垂直同期信号を得るものである点

イ 相違点aについての検討
上記3(2)イ(ア)(イ)によれば、刊行物2には、カウンタのボロー信号の出力によって、垂直同期信号に関連する信号を発生する点が記載されているように、カウンタのボロー信号の出力を採用することは常套のものにすぎない。
してみると、垂直同期信号分離のきっかけとして、ダウンカウントのしきい値としてボロー信号が出力される値を採用して、ボロー信号によって、分離した垂直同期信号を得ることは当業者が容易に推考し得る程度のものといえる。また本願発明の効果についてみても、上記構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるともいえない。
したがって、本願発明は、刊行物1,2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
したがって、本願発明(請求項2に係るもの)は、刊行物1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-01 
結審通知日 2006-06-06 
審決日 2006-06-30 
出願番号 特願平10-72235
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅原 道晴  
特許庁審判長 原 光明
特許庁審判官 松永 隆志
堀井 啓明
発明の名称 同期信号分離回路  
代理人 垣内 勇  
代理人 越智 浩史  
代理人 松村 貞男  
代理人 瀧野 秀雄  

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