• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
異議199971488 審決 特許
異議199876214 審決 特許
審判19984525 審決 特許
異議199870511 審決 特許
審判199721136 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1142349
審判番号 不服2000-10396  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-02-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-07-07 
確定日 2006-08-23 
事件の表示 平成 8年特許願第505150号「Htkリガンド」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 2月 1日国際公開、WO96/02645、平成10年 2月17日国内公表、特表平10-501701〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1995年7月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1994年7月20日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1〜30に係る発明は、平成14年4月17日付け手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜30に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
(a)配列番号2の成熟マウスHtkリガンドのアミノ酸配列;
(b)マウスまたはヒト以外の動物種からの成熟Htkリガンドの天然のアミノ酸配列;
(c)表1に規定した好適な保存的アミノ酸の単一の置換を有する(a)または(b)の配列のアレリック変異型;および
(d)表1に規定した好適な保存的アミノ酸の単一の置換を有する(a)、(b)または(c)の配列;
よりなる群から選ばれるアミノ酸配列を含み、Htk受容体のリン酸化を引き起こし、そして/またはHtk受容体に結合する、単離したタンパク質分子。」

2.引用例
原審の拒絶理由に引用された引用例1(The Journal of Biological Chemistry (1994), Vol.269, No.19, p.14211-14218)には、次の事項が記載されている。

(a1)「PCRに基づいた戦略により、我々はヒトCD34+骨髄細胞とヒト肝がん細胞系であるHep3Bから新規な膜貫通チロシンキナーゼを同定した。この肝がん膜貫通キナーゼまたはHtkは、チロシンキナーゼのEPHファミリーとアミノ酸類似性を有するものである。HTK遺伝子はヒトの7番染色体上に位置している。Htkの推定987アミノ酸配列は、膜貫通領域とシグナル配列を含む。推定細胞外ドメインには、システインに富んだ領域とタンデムフィブロネクチンタイプ3リピートが存在し、細胞内ドメインには、ひとつの連続した触媒ドメインが存在する。これらの特徴は、Ephサブファミリーの他のメンバーにおいても保存されている。Htk細胞外ドメインに対する抗体は、インビトロで翻訳されたHtkまたはHep3B細胞から、Hep3B膜細胞亜フラクションに主として存在する120kDaタンパク質を免疫沈降する。精製されたインビトロで翻訳されたHtkは、酵素的に活性化しており、キナーゼアッセイによると、チロシン残基が自己リン酸化されていた。さらにHtk細胞外ドメインに対する抗体は、アゴニストであり、形質転換されたNIH3T3細胞において、Htkチロシンリン酸化を誘導するものであった。ノーザンブロット分析は、単一のHTK転写物が胎盤と広範囲の一次組織と悪性細胞系に豊富に存在することを示した。HTKは、胎児において発現しているが、大人の脳では発現されておらず、原始細胞、骨髄細胞では、発現しているが、リンパ性造血性細胞では、発現していない。この新規な膜貫通タンパク質Htkは、この発現パターンによると分化と進化を仲介する役割をもった受容体として機能しているのかもしれない。」(14211頁要約)

(a2)「ヒトの胎児組織のノーザンブロット分析によると、〜4キロベースの単一の転写物が、心臓、肺、肝臓、腎臓においてみられ、脳においては、より弱い検出可能なシグナルがみられた(図4A)。」(14216頁右欄1行〜3行)

(a3)「EPHサブファミリーの新しいメンバーであるHTKのチロシンキナーゼ活性は、Htkがシグナル伝達分子であるという仮説を支持するものである。細胞外ドメインに対する抗体がHtkのリン酸化を誘導する。これは、さらに、Htkは、キナーゼを活性化するきっかけとなるリガンドのための受容体として機能していることを支持するかもしれない。Htkのシグナル伝達経路の詳細は、さらに代理リガンドとして抗血清を使用して調査することができるかもしれない。」(14217頁右欄25行〜32行)

(a4)「Htkの構造的分析とそのリガンドの同定は、その生物学的役割をさらに明らかにするために必要とされるものである。」(14217頁右欄下2行〜下1行)

3.当審の判断
本願発明1は、請求項1に(a)〜(d)として規定されたアミノ酸配列を有するHtkリガンドに関するものであるが、典型的なHtkリガンドとして、「配列番号2の成熟マウスHtkリガンド」を包含しているので、まず、「配列番号2の成熟マウスHtkリガンド」を取得することが当業者にとって容易であったか否かについて以下検討する。

引用例1において、Htk受容体についてEPHサブファミリー内の膜貫通チロシンキナーゼであることが推定され、そのHtk細胞外ドメインに対する抗体がHtkチロシンリン酸化を誘導するアゴニストとして働くこと、即ち、「Htk受容体のリン酸化を引き起こし、そしてHtk受容体に結合する」活性を有することが確認されたことが記載されている(記載事項(a1))。さらに、当該抗体がHtkシグナル伝達経路における「代理リガンド」として使用される可能性(記載事項(a3))及びHtkリガンドの同定の必要性(記載事項(a4))も記載されている。
そうしてみると、当業者が引用例1のHtk受容体のリガンド自体もしくはそのcDNAを取得しようとすることは、極めて自然なことである。

ところで、膜貫通タンパク質である受容体に結合するリガンド又はそのcDNAを取得する方法として、リガンドと結合する領域である、受容体の細胞外ドメインを免疫グロブリンのFc領域と融合する等により可溶化したタンパク質をプローブとして使用して、リガンド自体又はそのcDNAを取得する方法は、周知技術である(Cell (1993), Vol.73, p.1349-1360、Journal of Biological Chemistry (1991), Vol.266, No.43, p.23060-23067、 Nature(Apr.1994), Vol.368,No.6471, p.558-560)。
また、一般に、受容体のリガンドとして、可溶性型と膜結合型が存在することは、よく知られていることであって、上記した周知技術を示す文献にも、両方の型のリガンドの探索方法が記載されており、例えば、Cell (1993), Vol.73, p.1349-1360には、受容体のリガンドが膜結合型タンパク質であることを仮定して、まず、可溶化した受容体融合タンパク質と、リガンドを発現している細胞との結合を確認し、該細胞のcDNAを発現させたライブラリーを、可溶化した受容体融合タンパク質でスクリーニングして、リガンドをコードするcDNAをクローニングすることが記載されており、Nature(Apr.1994), Vol.368, No.6471, p.558-560には、分泌型のリガンドの探索を目的として、可溶化した受容体タンパク質により、受容体のリガンドが発現している細胞の培養物の上清をスクリーニングしてリガンドを取得し、そのN末端配列を決定した後、リガンドをコードするcDNAをクローニングすることが記載されている。
そうしてみると、Htk受容体に結合するリガンドをコードするcDNAを取得しようとする場合に、該リガンドが可溶型であるか膜結合型であるか手がかりがない場合には、膜結合型のリガンドをコードするcDNAを取得する手法(例えば、Cell (1993), Vol.73, p.1349-1360)と、可溶型のリガンドをコードするcDNAを取得する手法(例えば、Nature(Apr.1994), Vol.368, No.6471, p.558-560)の両者を実施してみることは、当業者が容易に想起することであり、Htk受容体をコードするmRNAが腎臓で発現していることから(記載事項(a2))、そのリガンドをコードするmRNAも腎臓細胞において発現していることを予想して、可溶化した受容体によるスクリーニング対象細胞としてマウスの腎臓細胞系を選択し、マウスHtkリガンドをコードするmRNAを発現する細胞系を取得し、その細胞のcDNAの発現ライブラリーを可溶化した受容体でスクリーニングして、マウスHtkリガンドをコードするクローンを得て、そのcDNA配列を決定することは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、上記周知文献として示したCell (1993), Vol.73, p.1349-1360にも記載されているように、膜結合型タンパク質リガンドをコードするcDNAを哺乳動物細胞で発現すると、生物学的活性を有する成熟体のリガンドが膜表面に発現することは、当業者が十分に予測し得ることであるから、上記マウスHtkリガンドをコードするcDNAを、哺乳動物細胞で発現させて、成熟マウスHtkリガンドを単離することは、格別の困難性を有することとも認められない。
そうであるから、本願発明1の「配列番号2の成熟マウスHtkリガンドのアミノ酸配列」を含むタンパク質を取得すること自体は当業者が容易になし得ることである。
一方、本願明細書において、本願発明1の「配列番号2の成熟マウスHtkリガンド」の作用・機能については、Htk受容体に結合し、Htk受容体の自己リン酸化を誘導することを確認しているに留まるものであり、どのようなシグナル伝達経路を経由して、最終的に生体においてどのような生理活性作用を引き起こすものであるのかは、何ら明らかにされていない。単なるHtk受容体の自己リン酸化を誘導する性質については、Htk受容体の細胞外ドメインに対する抗体さえも有していたる公知のアゴニスト活性にすぎず、当該リガンドの本質的な作用・機能を解明したものと評価することは到底できない。即ち、本願発明1の効果として明細書に記載されたものは、当業者が引用例1から十分に予測できる範囲を超えるものではない。

したがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

当審が先に発した平成17年7月20日付けの審尋に対し、審判請求人は平成17年12月9日付けの回答書において、マウスのHtk受容体リガンドをクローニングする点に関し、下記の(a)〜(c)の点を主張している。

(a)当業者は、殆どの受容体のリガンドは可溶性で分泌性のものであると予測していたが、本願発明の発明者であるBenettはHtkリガンドは分泌性リガンドではなく膜結合タンパク質であることを確認したものであり、この知見は、Htkリガンドを非自明とするものである。

(b)Smith等のCell (1993), Vol. 73, p. 1349-1360は、本願でBenettが使用した発現クローニング法に類似した方法を開示しているが、発現クローニング法は、多くのクローニング法のうちの一つであり、発現クローニング法の使用はHtkリガンドを自明とするものではない。本件審尋で示された基準に従えば、すべてのリガンドは、当業者にとって自明になってしまう。発現クローニング法の使用はHtkリガンドを自明とするものではない。

(c)Smith等によりクローニングされたCD30タンパク質は、Htkリガンドに対し16.34%のホモロジーを有するものである。また、Bartley等のNature (Apr. 1994), Vol. 368, No. 6471, p. 558-560に記載されたECKリガンド(B61)は、Htkリガンドに対し23.08%のホモロジーを示すに過ぎない。Bartleyらの文献は、当業者がHtkリガンドについてのいかなる結論を出すには開示が十分でない。

主張(a)について
上述したように、一般に、受容体のリガンドとして、可溶性型と膜結合型が存在することは、よく知られていることであり、引用例1に記載のHtk受容体に結合するリガンドをコードするcDNAを取得しようとするときに、該リガンドが可溶型であるか膜結合型であるか手がかりがない場合には、膜結合型のリガンドをコードするcDNAを取得する手法と可溶型のリガンドをコードするcDNAを取得する手法の両者を実施してみることは、当業者が容易に想起することであり、その結果、該リガンドが膜結合型タンパク質であることが確認されたことは、当業者が予測し得た範囲のことである。

主張(b)について
上述したように、成熟マウスHtkリガンドを取得すること自体は、当業者が容易になし得ることである。その場合であっても、本願発明1の「配列番号2の成熟マウスHtkリガンド」が生体内でどのような情報伝達系に係わるのか、即ち、Htk受容体を有する細胞に対してどのような表現型を引き起こすのかを解明したのであれば、「格別な効果」と評価することができるから、進歩性は認められることになる。しかしながら、本願明細書において、本願発明1の「配列番号2の成熟マウスHtkリガンド」の作用・機能については、何ら本質的な作用・機能は明らかにされていないのであるから、請求人の主張は採用しない。

主張(c)について
両文献は、膜貫通タンパク質である受容体のリガンドを探索する方法が周知であることを示すために提示した文献であり、両文献に記載された受容体は本願のHtk受容体とは異なるものであるから、それらのリガンドが本願発明1のHtkリガンドとホモロジーが低いことは当然であり、このことは本願発明1の進歩性の有無を左右するものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の本願請求項に係る発明について検討するまでもなく、本特許出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-22 
結審通知日 2006-03-28 
審決日 2006-04-12 
出願番号 特願平8-505150
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深草 亜子鈴木 恵理子吉住 和之  
特許庁審判長 佐伯 裕子
特許庁審判官 種村 慈樹
冨永 みどり
発明の名称 Htkリガンド  
代理人 石井 貞次  
代理人 早川 康  
代理人 平木 祐輔  
代理人 大屋 憲一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ