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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1142411
審判番号 不服2004-5309  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-04-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-16 
確定日 2006-08-24 
事件の表示 特願2000-309419「医療情報システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月19日出願公開、特開2002-117142〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成12年10月10日に出願されたものであって、平成16年2月12日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成16年3月16日に拒絶査定不服審判が請求されると共に平成16年4月15日に手続補正がなされたものである。

2.平成16年4月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年4月15日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
平成16年4月15日付けの手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は、

「【請求項1】複数の医療関連施設に夫々設置されブラウザが夫々稼動されると共に、電子カルテを含む所望のアプリケーションプログラムを要求する要求信号を夫々送信する複数のクライアント装置と、該複数のクライアント装置に通信手段を介して接続されており、前記電子カルテに加えて、医事会計機能に係るアプリケーションプログラムを含む複数種類の医療用アプリケーションが予め用意されており、前記各クライアント装置から送信された前記要求信号を前記通信手段を介して受信し、前記要求信号に対応する医療用アプリケーションプログラムを前記複数種類の医療用アプリケーションプログラムの中から選択して、前記各クライアント装置に提供する共有サーバー装置とを備えており、
前記複数のクライアント装置は夫々、前記共有サーバー装置より提供された医療用アプリケーションプログラムのブラウザを稼動して、前記電子カルテ上で各患者の医療に関する情報を示す患者医療データを入力及び参照可能であり、
前記共有サーバー装置は、前記入力および参照される患者医療データの少なくとも一部を患者毎に少なくとも一時的に保持すると共に、前記共有サーバー装置で保管すべき患者医療データを、少なくとも患者毎のサマリー情報として前記保持された患者医療データの中から抽出するか或いは前記保持された患者医療データに基づいて生成し、前記抽出或いは生成された患者医療データを患者毎に少なくとも一時的に保持し、
前記複数のクライアント装置のうち一のクライアント装置は、前記ブラウザ上で入力或いは指定される医事会計の算出根拠となる算出根拠データ及び医事会計オーダーを前記共有サーバー装置に対し送信し、
前記共有サーバー装置は、前記算出根拠データに基づいて所定種類の医事会計計算を行って会計結果を示す医事会計データを、前記一のクライアント装置或いは前記複数のクライアント装置のうち他のクライアント装置に送信し、
前記一のクライアント装置は、前記電子カルテ上で入力される患者医療データの中から前記算出根拠データを抽出して前記共有サーバー装置に対し送信することを特徴とする医療情報システム。」
と補正された。

前記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するための補正であり、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうかについて以下に検討する。

(2)引用刊行物
本件出願前に刊行された特開平9-55742号公報(平成9年2月25日出願公開。以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の各記載がある。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、病院における診療情報の登録、保管、保存および処理等を含む病院内情報処理方法およびシステムに関し、特に、院内における各患者の待ち時間の短縮、及び患者に対する医療情報サービスを行う病院内情報処理方法およびシステム,情報サブシステム,携帯情報端末に関するものである。
【0002】
【従来の技術】病院情報システムにおいては、例えば特開平4-318675号公報に示されているように、診療科および薬局等に配置した複数の情報サブシステムをネットワークで結合し、患者の診察時に、検査、処方等のオーダ情報を医師がオーダ入力装置から直接入力してオンラインで各部門に伝達することにより、業務効率の改善、及び患者待ち時間の短縮を図るようにしたものがある。」
なお、下線は審決において附された。以下同様。

(イ)「【0009】この場合、院内の情報処理とは、院内滞在者のうち各患者に対する呼出し、カルテの転送、患部の検査処方の転送、薬の処方の転送、医療費の精算に関する処理のいずれか1つまたは組合せである。
【0010】あるいは、院内滞在者のうち各患者の病状に関連する医学情報の提供、診察待ち時間の通知、院内職員に対する業務連絡に関する処理のいずれか1つまたは組合せである。」

(ウ)「【0016】例えば、診療室に配置した情報サブシステムにあっては、患者が診療室に入室したと同時に、診療に必要なカルテなどの情報をファイルサーバから医師の操作する端末に転送することにより、医師がカルテを取り寄せるなどの準備操作が不要になり、診療の待ち時間がほぼ「0」になる。
【0017】また、会計、薬局においても、患者の到着と同時に必要な処理を行うことにより同様のことが可能となる。
【0018】さらに、薬局における調剤時間、診療室における診療時間の延長等により、やむを得ず生じてしまう待ち時間においても、院内の任意の場所に滞在する患者に対し、患者毎の待ち時間の情報、患者の病状に対する医学情報を提供することにより、患者は無駄な待ち時間を過ごすことなく、院内の滞在時間を有意義に活用することが可能となる。」

(エ)「【0020】図1は、本発明の病院内情報処理システムの一実施例を示すシステム構成図である。図中、101は管理部門に配置され、病院内の全情報を管理する情報管理サーバ、102は病院内の全部門で使用するカルテ等の情報を記憶したデータベース、103は医事,会計に関する情報処理を行う医事・会計サブシステム、104、105はいくつかある診療科を代表した診療科サブシステム、106は種々の検査機器あるいはシステムを代表した検査室サブシステム、107は薬品の調剤及び患者への受渡しを行なう薬局サブシステム、108は放射線科の機能を代表した放射線科サブシステム、109は病院全体の管理情報を一元的に集中管理する管理情報システムで、病院内全体のモニタ機能を持ち、管理部門に配置される。
【0021】110は、上記の各サブシステムを相互に結ぶネットワーク(LAN)、111は上記の各サブシステム104〜108における支線LANを示している。
【0022】112は、情報管理サーバ101に接続され、院内に滞在する患者あるいは職員が携帯する複数の携帯情報端末113,114との間で無線波によって情報を交信する無線LAN用送受信機である。
【0023】115〜119は、医事・会計サブシステム103、診療科サブシステム104,105、検査室サブシステム106、薬局サブシステム107、放射線科サブシステム108に接続された無線LAN用送受信機であり、医事・会計部門、診療科、検査室、薬局、放射線科に滞在する患者あるいは職員が携帯する複数の携帯情報端末との間で無線波によって情報を交信する。」

(オ)「【0032】図3は、診療科サブシステム104の詳細構成を示すブロック図であり、診療科ファイルサバ301、科内ファイル302、医師用の診療端末303および無線LAN用送受信機116とで構成され、これらが支線LAN111で結合されている。
【0033】医師用の診療端末303および無線LAN用送受信機116は、通常、診療室毎に配置され、医師は診療端末303を操作して薬の処方や検査の処方等の指示を行う。科内ファイル302には、当該科の各種マスタファイル及びオーダファイル等が保管される。マスタファイルには、患者の症状に合わせた薬品や検査項目などの情報が格納され、またオーダファイルには、患者のカルテや投薬の履歴、検査処方、薬剤の処方などの情報が格納される。
【0034】ファイルサーバ301は、科内ファイル302および医師用診療端末303を通じて、オーダリング処理、すなわち医師の患者に対する投薬、検査等の指示をオンラインで各部門に伝送する。また、各診療端末303は、無線LAN用送受信機116を通じて、患者の診療室入室と同時に、患者の保持する携帯情報端末からの無線波により、これを検知する。」

(カ)「【0040】図4は、医事・会計サブシステム103の詳細構成を示すブロック図であり、医事会計サーバ401、医事ファイル402、プリンタ403、会計端末404、および無線LAN用送受信機115とで構成され、これらは支線LAN111で結合されている。
【0041】会計端末404は複数台、無線LAN用送受信機115は1台のみ配置され、会計端末404を医事課職員が操作するようになっている。
【0042】医事ファイル402には、当該科の各種マスタファイル及び各患者のオーダ情報を有する伝票ファイル等が保管される。
【0043】医事会計サーバ401は、医事ファイル402および会計端末404を通じて、会計計算、すなわち各患者に対する診療請求額を算出し、プリンタ403により請求書を出力する。また、各会計端末404および医事会計サーバ401は、無線LAN用送受信機115を通じて、患者の会計待合室到着と同時に、患者の保持する携帯情報端末からの無線波により、これを検知する。これは、診療科サブシステム104,105と同様の動作によるものである。」

(キ)「【0044】図5は、薬局サブシステム107の詳細構成を示すブロック図であり、薬局サーバ501、プリンタ502、自動調剤機503および無線LAN用送受信機119で構成され、これらは支線LAN111で結合されている。
【0045】自動調剤機503は複数台、無線LAN用送受信機1191台のみ配置される。
【0046】医事会計サーバ501は、診療科からオンラインで伝送されてきた処方オーダ情報に基づき、これに対応した調剤処理を自動調剤機503に指示する。また、プリンタ502を通じて薬袋の出力を行う。
【0047】また、薬局サーバ501は、無線LAN用送受信機119を通じて、患者の薬局待合室到着と同時に、患者の保持する携帯情報端末からの無線波により、これを検知する。これは、診療科サブシステム104,105と同様の動作によるものである。
【0048】検査室サブシステム106、放射線科サブシステム108においても、診療科サブシステム104,105と同様の動作により、患者の検査室到着と同時に、患者の保持する携帯情報端末からの無線波により、これを検知する。」

(ク)「【0055】図7に、診療科において、患者の到着から退室までの間に行われる情報処理の一例のフローチャートを示す。なお、本フローチャートでは、処理の流れを、診療端末303、医師および患者の保持する携帯情報端末毎に分けて示した。
【0056】以下、診療科における情報処理の一例を説明する。
(中略)
【0060】S704:診療科サーバ301は、無線LAN用送受信機116を通じて応答フレームをを受信したならば、その応答フレームに基づいて患者氏名を認識する。
【0061】S705:診療科サーバ301は、認識した患者氏名に基づき、当該患者の診療に必要なカルテなどの情報を診療端末303にダウンロードする。
【0062】S706:医師が診療端末303を通じて診療、すなわち各種オーダ入力を行う。
【0063】S707:診療終了後、入力されたオーダ情報が院内の各部門に対しオンラインで送信される。
【0064】S708:受診後、患者が退室する。
(中略)
【0066】図8に、会計課における情報処理の一例のフローチャートを示す。本フローチャートでは、処理の流れを、会計端末404およびサーバ401、患者および患者の保持する携帯情報端末601毎に分けて示した。以下、会計課における情報処理の例を説明する。【0067】S801:医事会計サーバ401は、会計端末404を通じて、各診療科から送られてきたオーダ情報及び医事マスタファイル402を参照して会計計算処理を行い、結果を伝票ファイルに格納する。
(中略)
【0072】S805:会計端末404及びサーバ401は無線LAN用送受信機115を通じて受信した応答フレームに基づき、患者氏名を認識する。
【0073】S806:サーバ401は、認識した患者氏名により、会計窓口に設置してあるスピーカーを通じて該当患者の自動呼出しを行う。また、プリンタ403により患者に対する診療費の請求書を出力する。
【0074】S807:患者が会計窓口で支払を済ませる。
【0075】本例によれば、上記S803〜S806のように、患者の到着と同時に、該患者に対する呼出し、および請求書の出力、提示がなされ、医療費の精算が実施されるので、会計部門での待ち時間が生じることがない。
【0076】図9に、薬局における情報処理の一例のフローチャートを示す。本フローチャートでは、処理の流れを、薬局サーバ501および自動調剤機503、患者および患者の保持する携帯情報端末113毎に分けて示した。以下、薬局における情報処理の一例を説明する。
【0077】S901:薬局サー501は、各診療科から送られてきた処方オーダ情報に従い、自動調剤機503に調剤の指示を行うと共に、プリンタ502により薬袋を出力する。自動調剤機503は、これに対応して調剤処理を行い、調剤終了後、その旨を薬局サーバ501に伝える。
(中略)
【0082】S905:薬局サーバ501は、無線LAN用送受信機119を通じて受信した応答フレームに基づき、患者氏名を認識し、モニタを通じて薬局職員に患者氏名を通知する。
【0083】S906:サーバ501は、薬局窓口に設置してあるスピーカを通じて該当患者の自動呼出しを行う。呼出し後、薬局職員が該患者用の薬袋を窓口に提示する。
【0084】S907:患者が薬局窓口で薬袋を受け取る。
【0085】本例によれば、上記S903〜S906のように、患者の到着と同時に、該患者に対する呼出し、および薬袋の提示がされるので、薬局での待ち時間が生じることがない。
【0086】以上、図7〜図9のフローチャートに示したように、患者の診療科、会計課、薬局への到着と同期して必要な情報処理が行われるので、各々の部門における待ち時間が最小になる。」

以上の記載から見て、引用例1には、次のような発明が記載されているものと認められる。
「病院内の全情報を管理する情報管理サーバ101と病院内の全部門で使用するカルテ等の情報を記憶したデータベース102とが、病院内の管理部門に配置され、そして前記情報管理サーバ101は、前記データベース102にアクセスして必要な医療データを読み出し又は書き込むように構成されており、 更にまた、病院内の各部門、すなわち、医事・会計科、診察科、検査室、薬局、及び放射線科には、それぞれ、各部門の情報サブシステムである医事・会計サブシステム103、診察科サブシステム104,105、検査室サブシステム106、薬局サブシステム107、放射線科サブシステム108が配置された病院内情報処理システムであって、
前記診察科サブシステム104,105にあっては、診療科サーバ301は、患者が診療室に入室したと同時に、診療に必要なカルテなどの情報を医師の操作する端末装置303にダウンロードし、医師の診療が済んだら、医師が入力したオーダ情報を院内の各部門にオンラインで送信し、
前記検査室サブシステム106にあっては、各診療科から送られて来た処方オーダに従い生化学検査を行い、
前記放射線サブシステム108にあっては、各診療科から送られて来た処方オーダに従いX線撮影または放射線治療を行い、
前記薬局サブシステム107にあっては、薬局サーバ501は、各診療科から送られて来た処方オーダに従い、自動調剤機503に調剤の指示を行うと共に、プリンタ502により薬袋を出力し、
前記医事・会計サブシステム103にあっては、医事会計サーバ401は、会計端末404を通じて、各診療科104,105から送られてきたオーダ情報及び医事マスタファイル402を参照し会計計算処理を行い計算結果を伝票ファイルに格納すると共に算出した各患者に対する診療請求額が記載された請求書をプリンタ403により出力するように構成された病院内情報処理システム。」

(3)対比
本願補正発明と引用例1に記載された発明を対比すると、引用例1に記載された発明の「病院内の医事・会計科、診察科、検査室、薬局、及び放射線科」は、本願補正発明の「複数の医療関連施設」に相当し、引用例1に記載された発明の「複数の情報サブシステム103〜108内に設けられた各サーバ及び各端末装置」は、本願補正発明の「クライアント装置」に相当し、引用例1に記載された発明の「管理サーバ101及びデータベース102」は、本願補正発明の「共有サーバー装置」に相当することは、明らかである。

そして、引用例1には、データベース102は、病院内の全部門で使用するカルテ等の情報を記憶していることが記載されており(段落【0020】参照。)、また引用例1には、診療科サーバ301は、無線LAN用受信機116を通じて応答フレームを受信したならば、その応答フレームに基づいて患者氏名を認識し、そして診療科サーバ301は、認識した患者氏名に基づき当該患者の診療に必要なカルテなどの情報を診療端末303にダウンロードし、その後医師が診療端末303を通じて診療すなわち各種オーダ入力を行い、診療終了後、入力されたオーダ情報が院内の各部門に対しオンラインで送信されることが記載されている(段落【0016】,【0060】〜【0065】参照。)。そして、世間一般の人が使うパーソナルコンピュータには、少なくともブラウザが搭載されていることは周知である(例えば、ブラウザを搭載した装置については、原審が拒絶の理由に引用した次の文献『株式会社ユニゾネット,「医療情報システム構築支援ツール SupportHL7」,医療とコンピュータ,株式会社日本電子出版,2000年7月20日,第11巻,pp.72-82』を参照されたい。)から、本願補正発明と引用例1に記載された発明とは、
「医療関連施設に設置されブラウザが稼動されると共に、電子カルテを要求する要求信号を夫々送信する複数のクライアント装置」
を備えている点で差異はない。

引用例1には、複数の情報サブシステム103〜108に設けられた各サーバが、ネットワーク110を介して中央の管理サーバ101及びデータベース102に接続され、データベース102には電子カルテ等の情報が予め用意されており、各情報サブシステム103〜108の各サーバから送信された要求信号を受信し、患者の電子カルテ等の情報を選択して、各情報サブシステム103〜108の各サーバに提供する管理サーバ装置101が記載されている(段落【0020】〜【0024】参照。)から、本願補正発明と引用例1に記載された発明とは、
「該複数のクライアント装置に通信手段を介して接続されており、前記電子カルテ等のデータが予め用意されており、前記各クライアント装置から送信された前記要求信号を前記通信手段を介して受信し、前記要求信号に対応するデータを選択して、前記各クライアント装置に提供する共有サーバー装置」
を備えている点で差異はない。

引用例1には、例えば、診療科サブシステム104,105を例にとると(他の情報サブシステムにおいても事情は同じである。)、診療科サーバ301は患者の診療に必要なカルテなどの情報を診療端末303にダウンロードし、医師が診療端末303を通じて診療に係る各種オーダ入力を行い、診療終了後入力されたオーダ情報が院内の各部門にオンラインで送信されることが記載されている(段落【0061】〜【0063】を参照。)から、本願補正発明と引用例1に記載された発明とは、
「前記複数のクライアント装置は夫々、ブラウザを稼動して、前記電子カルテ上で各患者の医療に関する情報を示す患者医療データを入力及び参照可能」
である点で差異はない。

引用例1には、データベース102は、病院内の全部門で使用するカルテ等の情報を記録し、情報管理サーバ101は、各情報サブシステム103〜108の要求を受けてデータベース102をアクセスし、患者医療データの少なくとも一部を患者毎に少なくとも一時的に保持することが記載されているから、本願補正発明と引用例1に記載された発明とは、
「前記共有サーバー装置は、前記入力および参照される患者医療データの少なくとも一部を患者毎に少なくとも一時的に保持」
している点で差異はない。

引用例1には、診療が終わりオーダ情報が院内の各部門に送信され、最後に会計計算の要求が発生すると、医事・会計サブシステム103の医事会計サーバ401は、会計端末404を通じて、各診療科104,105から送られてきたオーダ情報及び医事マスタファイル402を参照し会計計算処理を行い計算結果を伝票ファイルに格納し、また医事会計サーバ401は、医事ファイル402及び会計端末404を通じて、各患者に対する診療請求額を算出し、プリンタ403により請求書を出力することが記載されている(段落【0040】〜【0043】、【0067】〜【0073】参照。)から、本願補正発明と引用例1に記載された発明とは、
「前記複数のクライアント装置のうち一のクライアント装置は、前記ブラウザ上で入力或いは指定される医事会計の算出根拠となる算出根拠データ及び医事会計オーダーを医事会計処理可能装置に対し送信し、前記医事会計処理可能装置は、前記算出根拠データに基づいて医事会計計算を行う」
点で差異はない。

そうすると、本願補正発明と引用例1に記載された発明とは、
(一致点)
「複数の医療関連施設に設置されブラウザが稼動されると共に、電子カルテを要求する要求信号を送信する複数のクライアント装置と、該複数のクライアント装置に通信手段を介して接続されており、前記電子カルテ等のデータが予め用意されており、前記各クライアント装置から送信された前記要求信号を前記通信手段を介して受信し、前記要求信号に対応するデータを選択して、前記各クライアント装置に提供する共有サーバー装置とを備えており、
前記複数のクライアント装置は夫々、ブラウザを稼動して、前記電子カルテ上で各患者の医療に関する情報を示す患者医療データを入力及び参照可能であり、
前記共有サーバー装置は、前記入力および参照される患者医療データの少なくとも一部を患者毎に少なくとも一時的に保持し、
前記複数のクライアント装置のうち一のクライアント装置は、前記ブラウザ上で入力或いは指定される医事会計の算出根拠となる算出根拠データ及び医事会計オーダーを医事会計処理可能装置に対し送信し、
前記医事会計処理可能装置は、前記算出根拠データに基づいて医事会計計算を行う医療情報システム。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明においては、共有サーバー装置には医事会計機能に係るアプリケーションプログラムを含む複数種類の医療用アプリケーションが予め用意されており、各クライアント装置から送信された要求信号を通信手段を介して受信し、前記要求信号に対応する医療用アプリケーションプログラムを前記複数種類の医療用アプリケーションプログラムの中から選択して、前記各クライアント装置に提供しているのに対して、引用例1に記載された発明では、各情報サブシステム101〜108のサーバは、必要とするアプリケーションプログラムを予め保有しているから、医療用アプリケーションプログラムの転送要求をする必要がなく、したがって情報管理サーバ101は、診療科サーバ301に医療用アプリケーションプログラムの提供をしない点。

(相違点2)
本願補正発明では、共有サーバー装置で保管すべき患者データを、保持された患者データの中から抽出するか或いは保持された患者データに基づいて生成しているのに対し、引用例1に記載された発明では、病院内の全部門で使用するカルテ等の情報を記憶したデータベース102に、保管すべき患者データを、保持された患者データの中から抽出するか或いは保持された患者データに基づいて生成するとは明記しない点。

(相違点3)
本願補正発明は、電子カルテ上で入力される患者医療データの中から算出根拠データを抽出して共有サーバー装置に送信しているのに対し、引用例1に記載された発明は、医事会計の算出根拠となる算出根拠データを患者医療データの中から抽出して医事・会計サブシステム103に送信するとは明記しない点。

(相違点4)
本願補正発明では、共有サーバー装置が医事会計計算を行うのに対して、引用例1に記載された発明では、医事・会計サブシステム103が医事会計計算を行う点。

(相違点5)
本願補正発明では、共有サーバー装置は、医事会計計算結果を示す医事会計データを、医事会計計算を依頼したクライアント装置のほかに他の複数のクライアント装置に送信しているのに対し、引用例1に記載された発明は、医事会計計算結果を伝票ファイルに格納すると共にプリンタ403へ請求書として出力している点。

(相違点6)
本願補正発明では、複数の医療関連施設に設けられたクライアント装置が通信手段を介して共有サーバー装置に接続されているのに対して、引用例1に記載された発明は、病院内に設けられた複数の情報サブシステムが通信手段を介して中央の情報管理サーバ101及びデータベース102等に接続されている点。

(4)判断
(相違点1について)
上記相違点1について判断するに、
(i)一般に、軽装備のクライアント端末が自端末で保有しないが必要とするアプリケーションプログラムをサーバーからダウンロードして、クライアント端末でそのプログラムを動作させるようにすることは、例えば、次の刊行物1-9
【1】特開2000-010786号公報
【2】特開2000-122785号公報
【3】特開2000-163269号公報
【4】特開2000-194562号公報
【5】特開2000-194622号公報
【6】特開2000-222320号公報
【7】特開2000-236326号公報
【8】国際公開00/33217号パンフレット
【9】国際公開00/58809号パンフレット
にその旨が記載されているように当業者には周知な技術事項である。
なお、刊行物【8】は、原審が拒絶の理由に引用したものである。
(ii)更に、軽装備のクライアント端末が自端末で保有しないが必要とする医療用アプリケーションプログラムをサーバーからダウンロードして自端末でその医療用アプリケーションプログラムを動作させることは、例えば、次の刊行物10及び11
【10】登録実用新案第3067019号公報
【11】特開平10-143573号公報
にその旨の記載があるように当業者には、周知な技術事項である。
以上のことに鑑みると、引用例1に記載された発明に上記(i)及び(ii)に示される周知技術事項を適用して、本願補正発明の如く、共有サーバー装置が要求された医療用アプリケーションプログラムを軽装備のクライアント装置に提供するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)
上記相違点2について判断するに、
(i)診療科サブシステム104,105において医師及び看護師等が診療端末303から入力した医療行為に係わる情報のすべてを電子カルテに書き込む必要はなく、電子カルテを構成するために真に必要とする医療情報を抽出して書き込み、その後電子カルテをデータベース102に格納すれば良いことは自明な技術常識である。
(ii)また、次の刊行物12
【12】特開平10-91703号公報
には、遠隔歯科検診の実施において、仲介業者4は、被検診者の口腔写真画像と健康診断アンケートを基に、サーバ6上に電子カルテの検診データベース8を作成し、その後、予め契約している歯科医師がインターネット3を介して検診データベース8にアクセスし、被検診者の電子カルテを見て被検診者の歯科健康診断を行い、電子カルテを編集し直し完成させてから検診データベース8に格納することが記載されている。
(iii)そして、次の刊行物13
【13】特開平11-282936号公報
には、病院内の科(内科、外科、精神科、産婦人科等)や操作者である医師等の専門性の相違により、電子カルテに書き込む医療情報が異なるから、電子カルテのすべての入力項目を表示し担当医師に提示することは医療行為上の無駄であることについて、これを改善するために、電子カルテのすべての入力項目を表示することなく、操作者である医師の属性に応じて必要な入力項目を検索抽出して表示し担当医師に提示し、担当医師は、該表示された入力項目に関する医療データのみを入力することが記載されている。
以上のことに鑑みると、引用例1に記載された発明に上記(i)〜(iii)に示される周知技術思想及び周知技術事項を適用して、本願補正発明の如く、保管すべき患者データを、保持された患者データの中から抽出するか或いは保持された患者データに基づいて生成し、その後この保管すべき患者データを共有サーバー装置に保管することは、当業者が適宜なし得ることである。

なお、電子カルテを導入して電子カルテシステムを構築することにより、医療事務及び医療処理の統合化と迅速化を図ることは、例えば、特開平8-194756号公報、特開平9-305671号公報、特開平11-66213号、特開平11-316787号公報、特開平11-353404号公報、特開2000-148895号公報、特開2000-200314号公報、特開2000-137762号公報等にその記載があるとおり、当業者には周知な技術事項である。必要ならば参照されたい。

(相違点3について)
上記相違点3について判断するに、
(i)医事会計処理機能を有する装置又はサブシステムに診療請求額の計算を依頼すると共に会計計算に必要なデータを送信する時、医療計算上必要のない患者の病状等のデータまでも送信することは無駄であり、医事会計に真に必要な医療データすなわち点数・薬価等のみのデータを抽出して送信すれば良いことは自明な技術常識である。
(ii)そして、次の刊行物14〜17
【14】特開平03-36664号公報
【15】特開平07-85146号公報
【16】特開平11-53451号公報
【17】特開平11-15885号公報
には、レセプトすなわち診療報酬明細書を作成する際、レセプト作成に必要なデータを元ファイルから適切に抽出して、所定の診療報酬明細書を速やかに作成することが記載されている。
以上のことに鑑みると、引用例1に記載された発明に、上記(i)及び(ii)に示される周知技術思想及び周知技術事項を適用して、本願発明の如く、電子カルテ上で入力される患者医療データの中から医事会計の算出根拠データを抽出して医事会計機能を有する装置に送信することは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点4について)
上記相違点4について判断するに、
システム設計において、集中処理方式と分散処理方式の2つの方式があって何れもが周知であり、それらの何れを採用するかは、当業者が、置かれた技術的状況を考え、適宜選択すべき技術的事項である。
そして、引用例1に記載された発明は、医事会計処理機能を中央のコンピュータすなわちサーバーから切り離し、中央のサーバーとは独立の医事会計サブシステムとして設定し、医事会計処理を分散処理するものである。そして、前述したようにシステム設計においては、集中処理方式と分散処理方式のいずれもが周知であって、医事会計処理を中央のサーバーで集中して行うかまたは独立した専用のサブシステムで分散して行うかはシステム構築上の設計事項程度のことであるから、引用例1に記載された発明に上記周知技術思想を適用して本願発明の如く、共有サーバー装置で医事会計計算を実行するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。
なお、医事会計処理機能を中央のサーバーから切り離し、中央のサーバーとは独立の医事会計サブシステムとして設定し、医事会計処理を分散処理することは、原審が拒絶の理由に引用した次の刊行物18
【18】特開2000-222511号公報
にもその旨が記載されている。

(相違点5について)
上記相違点5について判断するに、医事会計計算結果は、それを依頼した依頼元の装置に送信することは当然のことであるが、複数の装置が医事会計計算を依頼している場合、それぞれの場合の個別の計算結果を、前記複数の依頼元装置に個別に返信すべきことは自明な技術常識であるから、引用例1に記載された発明にこの技術常識を適用して本願発明の如く、医事会計計算結果を示す医事会計データを、医事会計計算を依頼したクライアント装置のほかに他の複数のクライアント装置にも送信するようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。

(相違点6について)
上記相違点6について判断するに、
(i)引用例1に記載された発明の各サブシステム、すなわち、医事会計サブシステム103、検査室サブシステム106、薬局サブシステム107、放射線科サブシステム108は、院内に設けられ通信手段を介して中央の情報管理サーバ101や診療科サーバ301と接続されるものではあるが、これらの各サブシステムを通信回線等のネットワークを介して院外に設置し、院内にある中央の情報管理サーバ101や診療科サーバ301等が利用する構成とすることも可能であることは、当業者が熟知していることである。
(ii)また、本件出願前既に、県立及び国立の大病院、大学病院、そして財団の経営する記念病院等においては、通信回線等のネットワークを介して外部(国外を含む)の医療機関とを結び、互いに医療情報(カルテの他にX線画像情報等も含む)をデータ交換していたことは、病院関係者にとっては周知の事実である。
(iii)そして、規模の小さい個人病院や診療所では到底設備できないような高額の医療用ハードウエア資源やソフトウエア資源を、共同で購入設置し、複数の医療機関及び医療関連施設でこれら医療用資源を共同利用するようにして、地域医療や僻地の遠隔医療に資するという技術思想は、次の刊行物19-24
【19】株式会社ユニゾネット,「医療情報システム構築支援ツール SupportHL7」,医療とコンピュータ,株式会社日本電子出版,2000年7月20日,第11巻,pp.72-82
【20】特開平11-338950号公報
【21】特開平10-049608号公報
【22】特開平11-143956号公報
【23】特開平10-079770号公報
【24】特開2000-194789号公報
にその旨の記載があるように、当業者には周知である。
以上のことに鑑みると、引用例1に記載された発明に、上記(i)〜(iii)に示される周知技術事項を適用して、本願発明の如く、複数の医療関連施設に設けられた各クライアント装置が通信手段を介して共有サーバー装置に接続され、共有サーバー装置の医療資源を複数のクライアント装置が共同で利用するように構成することは、当業者が適宜なし得ることである。
なお、刊行物【19】及び【20】は、原審が拒絶の理由に引用したものである。

(5)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができるものではなく、特許法第17条の2第5項で準用する同法126条第5項の規定に違反するものであるから、平成16年4月15日付けの手続補正は、特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成16年4月15日付けの手続補正は、前記のとおり却下されるから、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年4月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】複数の医療関連施設に夫々設置されブラウザが夫々稼動される複数のクライアント装置と、該複数のクライアント装置に通信手段を介して接続されており前記複数のクライアント装置に電子カルテを含む医療用アプリケーションプログラムを提供する共有サーバー装置とを備えており、
前記複数のクライアント装置は夫々、前記医療用アプリケーションプログラムを前記ブラウザにより利用して前記電子カルテ上で各患者の医療に関する情報を示す患者医療データを入力及び参照可能であり、
前記共有サーバー装置は、前記入力及び参照される患者医療データの少なくとも一部を患者毎に少なくとも一時的に保持し、
前記複数のクライアント装置のうち一のクライアント装置は、前記ブラウザ上で入力或いは指定される医事会計の算出根拠となる算出根拠データ及び医事会計オーダーを前記共有サーバー装置に対し送信し、
前記共有サーバー装置は、前記算出根拠データに基づいて所定種類の医事会計計算を行って会計結果を示す医事会計データを、前記一のクライアント装置或いは前記複数のクライアント装置のうち他のクライアント装置に送信し、
前記一のクライアント装置は、前記電子カルテ上で入力される患者医療データの中から前記算出根拠データを抽出して前記共有サーバー装置に対し送信することを特徴とする医療情報システム。」

(1)引用例
原審の拒絶の理由で引用された引用例、及びその記載事項は、前記「2.(2)」項に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」項で検討した本願補正発明からその限定事項である
(a)「と共に、電子カルテを含む所望のアプリケーションプログラムを要求する要求信号を夫々送信する」
(b)「前記電子カルテに加えて、医事会計機能に係るアプリケーションプログラムを含む複数種類の医療用アプリケーションが予め用意されており、前記各クライアント装置から送信された前記要求信号を前記通信手段を介して受信し、前記要求信号に対応する」
(c)「前記複数種類の医療用アプリケーションプログラムの中から選択して、前記各クライアント装置に」
(d)「共有サーバー装置より提供された」、「を稼動して、」
(e)「すると共に、前記共有サーバー装置で保管すべき患者医療データを、少なくとも患者毎のサマリー情報として前記保持された患者医療データの中から抽出するか或いは前記保持された患者医療データに基づいて生成し、前記抽出或いは生成された患者医療データを患者毎に少なくとも一時的に保持し、」
を省いたものである。
そうすると、本願発明を特定する事項をすべて含み、さらに他の特定する事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」項に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-19 
結審通知日 2006-06-20 
審決日 2006-07-07 
出願番号 特願2000-309419(P2000-309419)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 貝塚 涼金子 幸一  
特許庁審判長 関川 正志
特許庁審判官 岡本 俊威
田中 幸雄
発明の名称 医療情報システム  
代理人 江上 達夫  

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