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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1142566
審判番号 不服2004-10422  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-05-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-19 
確定日 2006-08-21 
事件の表示 平成10年特許願第346961号「薄膜磁気ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成12年5月16日出願公開、特開2000-137902〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明

本願は、平成10年12月7日(優先権主張 平成10年8月28日)の出願であって、その請求項1乃至18に係る発明は、平成16年3月8日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の、請求項1乃至18に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】 平坦面を有する第1の磁性層と、
この第1の磁性層と分割して形成されると共に記録媒体に対向し、かつ前記第1の磁性層の一部領域に磁気的に結合された第1の磁極と、
無機系材料により形成されると共に、前記第1の磁性層の前記第1の磁極に隣接する領域上に形成された第1の絶縁層と、
前記第1の絶縁層上に前記第1の磁極に隣接して形成されると共に、前記第1の磁極と実質的に同じ高さを有し、その表面が前記第1の磁極の表面と共に平坦面を構成する薄膜コイルと、
前記第1の絶縁層上の前記薄膜コイル間に形成されると共に、前記薄膜コイルと同じ高さを有する第2の絶縁層と、
前記第1の磁極、前記薄膜コイルおよび前記第2の絶縁層上に形成された記録ギャップ層と、
記録媒体に対向する第2の磁極部分を含み、前記第2の磁極部分が前記第1の磁極と前記記録ギャップ層を間にして磁気的に結合されると共に、前記記録ギャップ層の平坦面上に沿って形成された第2の磁性層と
を備えたことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。」

2.引用例
(1)第1引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、特開平6-68424号公報(以下、「第1引用例」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。

(a)
「下コア,上コア,これらを接続する中間コアが絶縁層中の磁性体により構成され、前記各コアの接続面を含む前記各絶縁層の表面が略平坦であって、前記コアの接続部にギャップを形成してなる薄膜磁気ヘッド(以下略)。」(特許請求の範囲【請求項1】)

(b)
「【0009】
【実施例】本発明になる薄膜磁気ヘッドの一実施例を以下図面と共に詳細に説明する。本薄膜磁気ヘッドは、絶縁層にエッチングによりコア形状の溝を形成し、その溝に磁性体を充填し表面を平坦化し、それを積み重ねて磁気回路を形成するものであり、さらに、複数のコア(層)のうち(磁気)ギャップ(層)を挟んだ2層のみを媒体対向面に露出させ、ギャップ層を挟んだ2層のコア以外のコアは媒体対向面から引っ込んだ構造としたものである。
【0010】[実施例1]第1図は本発明になる薄膜磁気ヘッド1を示す概略断面図である。同図に示すように、基板2上には平坦な下部絶縁層3形成されており、この下部絶縁層3に形成された溝に磁性材が充填され、前記下部絶縁層と段差なく平坦に形成された下コア4を形成している。
【0011】下部絶縁層3上には中間絶縁層5が形成されており、この中間絶縁層5の端部(記録媒体対向面6)には(磁気)ギャップ7を介して、磁性材からなる中間コア8aが下コア4と近接するように埋設され、この中間コア8aと距離を隔てた内側には磁性材からなる中間コア8bが下コア12と直接接合するように埋設されている。中間絶縁層5の内部には、平面的なコイルパターン10が前記中間コア8bを取り巻くように螺旋状に埋設されている。コイルパターン10の一端部は、上部絶縁層11に穿設されたスルーホール内に埋められた導体12を介して、外部のリード線13と接合し、外部装置と電気的な接続が可能となっている。
【0012】また、前記中間絶縁層5の上には上部絶縁層11が形成され、この上部絶縁層11には両端部が中間コア8a及び8bと接合するように上コア9が形成され、前記下コア12と共に磁気回路を形成している。さらに、複数のコア4,8a,8b,12のうちギャップ7を挟んだ下コア4及び中間コア8aのみを媒体対向面6に突出(露出)し、ギャップ7を挟んだコア以外の上コア9は媒体対向面6から引っ込んでいる(lは、記録媒体対向面からの離間距離である)。
【0013】このように、本発明になる薄膜磁気ヘッド1においては、平坦な3つの絶縁層、すなわち、下部絶縁層3、中間絶縁層5、上部絶縁層11が積み重ねられ、これら絶縁層内の所定の個所に形成された磁性層が接続され磁気回路を形成しているため、段差のない各絶縁層面でフォトリソグラフィが可能となる。よって、寸法精度の優れた小型のコイルパターン・磁気コアが得られるので、磁気抵抗が低く、性能の良い薄膜磁気ヘッドを得ることが可能となる。
【0014】さらに、ギャップ7を挟んだコア以外の上コア9の接合面が媒体対向面6に出ることがない。よって、従来の薄膜磁気ヘッドように剥離が生じることがない。また、第2図(A)及び(B)に示すように、ギャップ7を挟む下コア4及び中間コア8aの接合面とギャップ7を挟むコア以外の上コア9の接合面とが、媒体対向面6において向かい合うことがなく、コアの合わせずれによる擬似ギャップの影響がなくなるため分解能の低下がない。
【0015】[実施例2]第3図は、(磁気)ギャップ7を上コア9と中間コア8aの間に設定した薄膜磁気ヘッド14である。この薄膜磁気ヘッド14では、媒体対向面6に上コア4,中間コア8aが突出(露出)させた構造とし、ギャップ7を挟んだコア以外の下コア4は媒体対向面6から引っ込んだ構造としている。」

(c)
「【0017】[実施例4]第5図は、2層のコイルパターン10-1,10-2、2層の下中間コア8a-1,8b-1,上中間コア8a-2,8b-2からなり、(磁気)ギャップ7を下中間コア8a-1と上中間コア8a-2の間に設定した薄膜磁気ヘッド16である。この薄膜磁気ヘッド16では、媒体対向面6に下中間コア8a-1,上中間コア8a-2が突出(露出)させた構造とし、ギャップ7を挟んだコア以外の上コア9,下コア4は媒体対向面6から引っ込んだ構造としている。」
上記記載事項及び図面、特に実施例2(図3参照)を中心に、他の実施例(主に実施例1、図1参照)からも共通する技術事項を援用すると、上記第1引用例には、結局、次の発明が記載されている(以下、「引用発明」という)。
「下コア,上コア,これらを接続する中間コアが絶縁層中の磁性体により構成され、絶縁層にエッチングによりコア形状の溝を形成し、その溝に磁性体を充填し表面を平坦化し、前記各コアの接続面を含む前記各絶縁層の表面が略平坦であって、前記コアの接続部にギャップを形成してなる薄膜磁気ヘッドであって、
基板2上には平坦な下部絶縁層3形成されており、この下部絶縁層3に形成された溝に磁性材が充填され、前記下部絶縁層と段差なく平坦に形成された下コア4を形成し、
下部絶縁層3上には中間絶縁層5が形成されており、この中間絶縁層5の端部(記録媒体対向面6)には、磁性材からなる中間コア8aが、また、この中間コア8aと距離を隔てた内側には磁性材からなる中間コア8bが、それぞれ下コア12と直接接合するように埋設され、
中間絶縁層5の内部には、平面的なコイルパターン10が前記中間コア8bを取り巻くように螺旋状に埋設され、
前記中間コア8a、中間絶縁層5,及びコイルパターン10の上に磁気ギャップ7が形成され、
上コア9が、媒体対向面に露出して前記中間コア8aと前記磁気ギャップを挟むように形成された、
薄膜磁気ヘッド。」

(2)第2引用例
また、同じく原査定の拒絶理由で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、特開昭60-113312号公報(以下、「第2引用例」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。

(d)
「本発明の一実施例を第3図に示す。第3図は本発明の磁気ヘッドの断面を示したものである。高透磁率薄膜8及び9により閉磁路が形成され、10がギャップ部になる。高透磁率薄膜8は断面がコの字のような形状をしている。コイル11はコの字の内側に電気絶縁膜12,13により他と絶縁されて配置されている。」(2頁右上欄第2行〜第8行)

3.対 比
本願発明と引用発明とを対比する。
両者は「薄膜磁気ヘッド」に関するものである点で一致している。
引用発明における「平坦に形成された下コア4」は、本願発明における「平坦面を有する第1の磁性層」に相当する。
引用発明における「中間コア8a」 は、本願発明における「第1の磁極」に相当する。
引用発明における「中間絶縁層5」と、本願発明における「第1の絶縁層」とを比較すると、「中間絶縁層5」は、下コア4が段差なく平坦に形成された下部絶縁層3上に形成され、その端部(記録媒体対向面6)に磁性材からなる中間コア8aが埋設されているのであるから、本願発明において「第1の絶縁層」が「前記第1の磁性層の前記第1の磁極に隣接する領域に形成された・・・絶縁層」であることと共通している。
引用発明における「コイルパターン10」が前記中間絶縁層に埋設されていることは、本願発明において「薄膜コイル」が、「絶縁層・・・に前記第1の磁極に隣接して形成される」ことと共通している。
引用発明における「中間絶縁層5」と、本願発明における「第2の絶縁層」とを比較すると、「中間絶縁層5」は、その内部に、平面的なコイルパターン10が埋設されているのであるから、本願発明において、「第2の絶縁層」が「前記薄膜コイル間に形成される」ことと共通している。
引用発明における「磁気ギャップ7」が中間コア8a、中間絶縁層5,及びコイルパターン10の上に形成されていることは、本願発明において「記録ギャップ層」が「前記第1の磁極、前記薄膜コイル及び・・・絶縁層上に形成された」ことと共通している。
引用発明における「上コア9」は、媒体対向面に露出する部分においては磁気ギャップを挟んで中間コア8aと磁気的に結合していることが明らかであるから当該部分は磁極部分と称しうるものであり、ギャップ層に沿って形成されている点においても本願発明における「第2の磁性層」と共通している。

そうすると、本願発明と引用発明とは次の点で一致する。
(一致点)
「 平坦面を有する第1の磁性層と、
この第1の磁性層と分割して形成されると共に記録媒体に対向し、かつ前記第1の磁性層の一部領域に磁気的に結合された第1の磁極と、
前記第1の磁性層の前記第1の磁極に隣接する領域上に形成された絶縁層と、
前記絶縁層に前記第1の磁極に隣接して形成される薄膜コイルと、
前記薄膜コイル間に形成される絶縁層と、
前記第1の磁極、前記薄膜コイルおよび前記絶縁層上に形成された記録ギャップ層と、
記録媒体に対向する第2の磁極部分を含み、前記第2の磁極部分が前記第1の磁極と前記記録ギャップ層を間にして磁気的に結合されると共に、前記記録ギャップ層に沿って形成された第2の磁性層と
を備えた薄膜磁気ヘッド。」

一方、次の各相違点において相違する。
(相違点1)
本願発明においては、絶縁層は、「無機系材料により形成されると共に、前記第1の磁性層の前記第1の磁極に隣接する領域上に形成された第1の絶縁層」と、「前記第1の絶縁層上の前記薄膜コイル間に形成されると共に、前記薄膜コイルと同じ高さを有する第2の絶縁層」とからなり、記録ギャップは前記第2の絶縁層上に形成されるとしているのに対し、引用発明では絶縁層に関して特段「第1」及び「第2」の区別のない点。また、第1の絶縁層が無機系材料であること、及び、第2の絶縁層が薄膜コイルと同じ高さを有することについて言及のない点。

(相違点2)
本願発明においては、薄膜コイルは、「前記第1の絶縁層上に前記第1の磁極に隣接して形成されると共に、前記第1の磁極と実質的に同じ高さを有し、その表面が前記第1の磁極の表面と共に平坦面を構成する」としているのに対し、引用発明にはこのような点に関して特段の開示がない点。

(相違点3)
本願発明においては、第2の磁性層が「記録ギャップ層の平坦面上に沿って形成された」としているのに対し、引用発明では記録ギャップ層が「平坦面」との明示がない点。

4.判 断
そこで、上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明の薄膜磁気ヘッドにおいて、コイルパターンが各コア及び隣接するコイルパターンに対して絶縁される必要があることは自明な事項にすぎないところ、そのための絶縁層を、下コアの上に形成される「第1の」絶縁層と、前記「第1の」絶縁層の上であり、かつコイルパターンの間に形成される「第2の」絶縁層とで構成することは、例えば、前記第2引用例(電気絶縁膜12,13を参照)、特開平9-69207号公報(以下、「周知例1」という。実施例の説明及び図3参照。「絶縁膜3」と「非磁性材料7」とで「薄膜コイル5」の下側及びコイル間を絶縁している。)等に開示されていることからすると、本願優先権主張の日前、既に周知の事項にすぎないことが明らかであるから、引用発明の中間絶縁層5を、「第1」及び「第2」の各絶縁層に分けて形成することは当業者が容易に想到しうるものである。
絶縁層を「第1」及び「第2」の各絶縁層として形成する場合には、前記第2引用例及び周知例1にも開示されるように、第1の絶縁層の上にコイルパターンと第2の絶縁層とが形成される配置となることは当然であるから、絶縁層を平坦化する際にはコイルパターンも併せて平坦化することは、例えば特開平5-128441号公報(以下、「周知例2」という。第13段落及び図5参照。)に開示されるように、ごく自然な処理にすぎないもので、そうすることにより第2の絶縁層とコイルパターンの高さは、必然的にほぼ等しくなることが明らかで、この点には格別な技術事項が含まれているわけではない。
なお、絶縁層をこのように「第1」及び「第2」の各絶縁層として形成しても、周知例1の第8段落に記載されているように、形成された絶縁層を「平坦化」することに特段の支障がないことは明かである。
また、第1の絶縁層が無機系材料より形成される点は、例えばアルミナAl2O3のような無機系材料が薄膜磁気ヘッドにおいて用いられることは周知の事項にすぎず(周知例1においても、前記「絶縁膜3」において使用している)、当業者が適宜選択しうる材料にすぎない。
すると、相違点1として摘記した事項は、第2引用例、周知例1及び2に例示される周知事項を参酌することにより当業者が容易に想到しうるものであり、その作用効果も当業者が予測しうるものにすぎない。

(2)相違点2について
相違点1について検討したように、絶縁層を「第1」及び「第2」の各絶縁層として形成する場合には、コイルパターンが第1の絶縁層の上に形成される配置となることは当然である。
第1引用例には、上記摘記部分(b)の第9段落に「絶縁層にエッチングによりコア形状の溝を形成し、その溝に磁性体を充填し表面を平坦化し、それを積み重ねて磁気回路を形成する」ことが開示されているのであるから、絶縁層を「第1」及び「第2」の各絶縁層として形成した場合であっても、絶縁層の表面を前記中間コア8a、コイルパターンと共に平坦面とすることは自然なことである。この点は、相違点1の検討において、周知例2によっても示したことである。
また、絶縁層を「第1」及び「第2」の各絶縁層として形成する場合には、第1の絶縁層を充分薄いものとすることが可能であるから(周知例1にも、薄膜コイルの厚さが4μmに対して、「絶縁膜3」をわずか0.3μmとする例が記載されている。)、コイルの抵抗をできるだけ小さくするために、コイルの厚さをその配置において可能な限り大きく、すなわち中間コア8aに実質的に同じ高さを有する程度にまで厚くすることは、当業者が容易に想到しうるものであり、その作用効果も当業者が予測しうるものにすぎない。

(3)相違点3について
引用発明の薄膜磁気ヘッドは、下コア,上コア,これらを接続する中間コアが絶縁層中の磁性体により構成され、前記各コアの接続面を含む前記各絶縁層の表面が略平坦であるもので、上記摘記部分(b)の第9段落に「絶縁層にエッチングによりコア形状の溝を形成し、その溝に磁性体を充填し表面を平坦化し、それを積み重ねて磁気回路を形成する」ことが開示されているのであるから、磁気ギャップ7が形成される中間コア8a、絶縁層及びコイルパターンを含め、全体として平坦化するものと解されるか、乃至は、そのように平坦化することは当業者が容易に想到しうるものであり、したがってそのように平坦化された面上に形成される磁気ギャップ層も当然、平坦面となるにすぎない。

5.むすび
以上のとおりであって、本願の請求項1に係る発明は、第1引用例に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願はその余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-26 
結審通知日 2006-06-26 
審決日 2006-07-10 
出願番号 特願平10-346961
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 豊  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 片岡 栄一
川上 美秀
発明の名称 薄膜磁気ヘッド  
代理人 藤島 洋一郎  
代理人 三反崎 泰司  

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