• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G11B
管理番号 1142586
審判番号 不服2004-4835  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-08-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-10 
確定日 2006-09-19 
事件の表示 特願2000- 19927「薄膜磁気ヘッド及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月10日出願公開、特開2001-216609、請求項の数(24)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年1月28日の出願であって、平成15年12月16日付けで手続補正がなされ、平成16年2月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年4月9日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明について
1.本願発明
本願の請求項1乃至24に係る発明は、平成16年4月9日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至24に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「下部コア層と、記録媒体との対向面で前記下部コア層にトラック幅Twで形成された非磁性のギャップ層、上部コア層、及び前記下部コア層と上部コア層に記録磁界を誘導するコイル層とが設けられた薄膜磁気ヘッドにおいて、
前記下部コア層には記録媒体との対向面からハイト方向に所定の長さ寸法にて下部磁極層が形成され、前記下部磁極層にはギャップ層と接する部分においてトラック幅Twと同じ幅寸法を有する隆起部が形成されてこの隆起部上にギャップ層が接しており、
前記下部磁極層と下部コア層との段差内には、コイル層及び前記コイル層の各導体部のピッチ間を埋めるコイル絶縁層が形成され、
下部磁極層とギャップ層との接合面を基準平面としたときに、前記コイル絶縁層の上面、あるいは前記コイル絶縁層の上面及びコイル層の上面が、前記基準平面と同一面上に位置し、前記基準平面のハイト方向後方には平坦化面が広がっており、
前記ギャップ層上には、トラック幅Twで形成され前面が記録媒体との対向面に露出する先端部と、前記先端部の基端からハイト方向に漸次的に幅寸法が広がる後端部とで構成された上部磁極層が形成され、
前記ギャップ層上であって前記上部磁極層のハイト方向後方には、前記コイル層と電気的に接続されて前記下部コア層および上部コア層に記録磁界を誘導する第2のコイル層と、前記第2のコイル層の各導体部のピッチ間を埋める第2のコイル絶縁層が形成され、
前記上部コア層は前記上部磁極層と重なる部分の前面全体が曲面であって幅寸法がトラック幅Twより大きく形成され、この上部コア層は前記上部磁極層の前記後端部上に記録媒体との対向面からハイト方向後方にずらされて接合されることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。」

第3 第29条第2項についての当審の判断
1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-314413号公報(以下、「引用例1」という。)には、「薄膜磁気ヘッド」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア)「【特許請求の範囲】【請求項1】 上コア,下コア,前部中間コア,後部中間コアによって磁気回路が平坦に構成されており、前部中間コア間に磁気ギャップが形成されている薄膜磁気ヘッドにおいて、前記前部中間コアのうち、少なくとも1層の後縁を、その前部中間コアに接続する上コア又は下コアの略変曲点よりも後側に延長したことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。」
(イ)「【0002】(略)これによれば、薄膜磁気ヘッドの磁気回路は、上下のコアの他にそれらを接続する中間コアによって構成されており、全体が絶縁層によって平坦に構成されている。このため、フォトリソグラフィなどの薄膜技術による各部のパターン形成を良好に行うことができ、優れた磁気特性を得ることができる。(略)」
(ウ)「【0015】<第2実施例>次に、図3及び図4を参照しながら本発明の第2実施例について説明する。図3はコア部分を示すもので、図4はコア部分の平面図である。これらの図に示すように、本実施例によれば、磁気ギャップ60を挟んで形成されている前部中間コア62,64は、第1実施例と同様に後縁が延長されており、かつ、この部分が上下コア16,32の形状に沿って扇状に広がった形状となっている。」
(エ)「【0016】前部中間コア62,64をこのような形状とすることで、上下コア16,32との接続部分の面積が増加する。これによって、磁気飽和しやすい変曲点Pの近傍部分の断面積が図3(C)に示すように更に増加するので、第1実施例における磁気飽和を緩和する効果を向上させることができる。」
(オ)【図1】には、前部中間コア52と下コア16との段差内には、コイル28とコイル間を埋める絶縁層が形成されること、前部中間コア52と磁気ギャップ50との接合面とコイル28の上面及び絶縁層の上面が、同一面上に位置し、接合面のハイト方向後方が平坦化されていること、磁気ギャップ上であって前部中間コア54のハイト方向後方には、コイル28とコイル間を埋める絶縁層が形成されること、が記載されている。
(カ)【図3】には、磁気ギャップ60がトラック幅で形成されること、前部中間コア62は磁気ギャップと接する部分がトラック幅と同じ寸法を有すること、が記載されている。

これらの記載事項、特に(ア),(ウ),(オ),(カ)(下線部参照)によれば、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「上コア,下コア,前部中間コア,後部中間コアによって磁気回路が平坦に構成されており、前部中間コア間に磁気ギャップが形成されている薄膜磁気ヘッドにおいて、前記前部中間コアのうち、少なくとも1層の後縁を、その前部中間コアに接続する上コア又は下コアの略変曲点よりも後側に延長したことを特徴とする薄膜磁気ヘッドであって、
磁気ギャップはトラック幅で形成され、
前部中間コア62は磁気ギャップと接する部分がトラック幅と同じ寸法を有し、
前部中間コア62と下コアとの段差内には、コイルとコイル間を埋める絶縁層が形成され、
前部中間コア62と磁気ギャップとの接合面とコイルの上面及び絶縁層の上面が、同一面上に位置し、接合面のハイト方向後方が平坦化されており、
磁気ギャップ上の前部中間コア64は、後縁が延長されており、かつ、この部分が上コアの形状に沿って扇状に広がった形状となっており、
磁気ギャップ上であって前部中間コア64のハイト方向後方には、コイルとコイル間を埋める絶縁層が形成される、
薄膜磁気ヘッド。」

2.対比
本願発明と引用例1発明とを比較する。
引用例1発明の「上コア」、「下コア」、「前部中間コア62」、「前部中間コア64」、「磁気ギャップ」は、それぞれ、本願発明の「上部コア層」、「下部コア層」、「下部磁極層」、「上部磁極層」、「ギャップ層」に相当する。
引用例1発明の「前部中間コア62と磁気ギャップとの接合面」は、本願発明の「下部磁極層とギャップ層との接合面」に相当し、引用例1発明は、「前部中間コア62と下コアとの段差内には、コイルとコイル間を埋める絶縁層が形成され、前部中間コア62と磁気ギャップとの接合面とコイルの上面及び絶縁層の上面が、同一面上に位置し、接合面のハイト方向後方が平坦化されて」いるので、本願発明の「前記下部磁極層と下部コア層との段差内には、コイル層及び前記コイル層の各導体部のピッチ間を埋めるコイル絶縁層が形成され、下部磁極層とギャップ層との接合面を基準平面としたときに、前記コイル絶縁層の上面及びコイル層の上面が、前記基準平面と同一面上に位置し、前記基準平面のハイト方向後方には平坦化面が広がっており」に相当する構成を備えている。
引用例1発明の「前部中間コア64」は、「後縁が延長されており、かつ、この部分が上コア32の形状に沿って扇状に広がった形状となって」いるので、本願発明の「上部磁極層」が「トラック幅Twで形成され前面が記録媒体との対向面に露出する先端部と、前記先端部の基端からハイト方向に漸次的に幅寸法が広がる後端部とで構成された」に相当する構成を備えている。
したがって、本願発明と引用例1発明は、
「下部コア層と、記録媒体との対向面で前記下部コア層にトラック幅Twで形成された非磁性のギャップ層、上部コア層、及び前記下部コア層と上部コア層に記録磁界を誘導するコイル層とが設けられた薄膜磁気ヘッドにおいて、
前記下部コア層には記録媒体との対向面からハイト方向に所定の長さ寸法にて下部磁極層が形成され、前記下部磁極層はギャップ層と接する部分においてトラック幅Twと同じ幅寸法を有しており、
前記下部磁極層と下部コア層との段差内には、コイル層及び前記コイル層の各導体部のピッチ間を埋めるコイル絶縁層が形成され、
下部磁極層とギャップ層との接合面を基準平面としたときに、前記コイル絶縁層の上面、あるいは前記コイル絶縁層の上面及びコイル層の上面が、前記基準平面と同一面上に位置し、前記基準平面のハイト方向後方には平坦化面が広がっており、
前記ギャップ層上には、トラック幅Twで形成され前面が記録媒体との対向面に露出する先端部と、前記先端部の基端からハイト方向に漸次的に幅寸法が広がる後端部とで構成された上部磁極層が形成され、
前記ギャップ層上であって前記上部磁極層のハイト方向後方には、前記コイル層と電気的に接続されて前記下部コア層および上部コア層に記録磁界を誘導する第2のコイル層と、前記第2のコイル層の各導体部のピッチ間を埋める第2のコイル絶縁層が形成され、
前記上部コア層は前記上部磁極層と接合される薄膜磁気ヘッド。」
である点で一致し、以下の点で主として相違している。

(相違点1) 本願発明は、上部コア層は上部磁極層と重なる部分の前面全体が曲面であるのに対し、引用例1発明は、上部コア層は、変曲点を有する形状で、上部磁極層と重なる部分の前面全体が曲面となっていない点。
(相違点2) 本願発明は、上部コア層は上部磁極層と重なる部分の幅寸法がトラック幅Twより大きく形成されるのに対し、引用例1発明は、上部コア層の上部磁極層と重なる部分の幅寸法がトラック幅Twと同じ部分がある点。
(相違点3) 本願発明は、上部コア層は上部磁極層の後端部上に記録媒体との対向面からハイト方向後方にずらされて接合されるのに対し、引用例1発明は、上部コア層の前面が記録媒体との対向面からずらされていない点。

3.判断
(1)相違点1について検討する。
上部コア層の上部磁極層と重なる部分の前面全体を曲面とすることは、原査定の拒絶の理由に引用された他の何れの文献(特開平11-250426号公報、特開平5-6514号公報、特開平6-68424号公報、特開平8-147625号公報、特開平10-143817号公報、特開平11-312303号公報)、及び前置審査において示された特開平3-46110号公報にも、記載されておらず、当業者にとって自明のものでもない。
(2)相違点2について検討する。
上部コア層の上部磁極層と重なる部分の幅寸法をトラック幅Twより大きく形成することは、薄膜磁気ヘッドにおいて周知の技術(原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-312303号公報(【図13】)や、例えば、特開平11-312304号公報(【図18】,【図24】)、特開平11-250415号公報(【図15】)、特開平11-288503号公報(【図11】,【図23】)等を参照。)である。
(3)相違点3について検討する。
上部コア層を上部磁極層の後端部上に記録媒体との対向面からハイト方向後方にずらして接合することは、薄膜磁気ヘッドにおいて周知の技術(原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-68424号公報(【図5】)や、例えば、特開平11-312304号公報(【図18】,【図24】)、特開平11-250415号公報(【図15】)、特開平11-288503号公報(【図23】)等を参照。)である。

(1)〜(3)を総合すれば、「上部コア層の上部磁極層と重なる部分の全面全体を曲面とすること」(相違点1)は、自明の形状でないうえ、本願発明は、上部コア層を上部磁極層の後端部上にハイト方向後方にずらして接合する(相違点3)ことを前提とする上部コア層の形状を、相違点1の形状にすることにより、本願記載の所定の作用効果を奏するものである。
よって、本願発明は、引用例1及び原審で示された文献に記載された発明並びに上記周知技術に基いて容易に想到し得たとすることはできない。

第4 第29条の2についての当審の判断
1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特願平11-284233号(特開2001-110006号)(以下、「引用例2」という。)には、「薄膜磁気ヘッドの製造方法」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア)「【特許請求の範囲】 互いに磁気的に連結され、記録媒体に対向する媒体対向面側において互いに対向する磁極部分を含み、それぞれ少なくとも1つの層を含む第1および第2の磁性層と、前記第1の磁性層の磁極部分と前記第2の磁性層の磁極部分との間に設けられたギャップ層と、少なくとも一部が前記第1および第2の磁性層の間に、前記第1および第2の磁性層に対して絶縁された状態で設けられた薄膜コイルとを備えた薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、(略)」
(イ)「【0034】次に、下部磁極層8の第1の層8aの上に、下部磁極層8の第2の層8bおよび第3の層8cを、約1.5〜2.5μmの厚みに形成する。第2の層8bは、下部磁極層8の磁極部分を含み、第1の層8aにおける後述する記録ギャップ層側(図2(a)において上側)の面に接続される。第3の層8cは、第1の層8aと後述する上部磁極層とを接続するための部分である。第2の層8bのうち上部磁極層と対向する部分におけるエアベアリング面(記録媒体に対向する媒体対向面)30とは反対側の端部の位置は、スロートハイトを規定する。(略)」
(ウ)「【0036】次に、図3に示したように、全体に、例えばアルミナよりなる絶縁膜9を、約0.3〜0.6μmの厚みに形成する。」
(エ)「【0037】次に、絶縁膜9の上に、フォトレジストをフォトリソグラフィ工程によりパターニングして、薄膜コイルの第1層部分をフレームめっき法によって形成するための図示しないフレームを形成する。次に、このフレームを用いて、フレームめっき法によって、例えば銅(Cu)よりなる薄膜コイルの第1層部分10を、例えば1.0〜2.0μmの厚みおよび1.2〜2.0μmのピッチで形成する。(略)」
(オ)「【0038】次に、図4に示したように、全体に、例えば低圧化学的気相成長法を用いて例えばアルミナよりなる絶縁層11を、約3〜4μmの厚みで形成する。低圧化学的気相成長法を用いて、薄膜コイルの第1層部分10の巻線間にアルミナ膜を形成することにより、薄膜コイルの第1層部分10の狭ピッチの巻線間に、キーホール等の空隙のない絶縁膜を形成でき、信頼性が向上する。次に、例えばCMPによって、下部磁極層8の第2の層8bと第3の層8cが露出するまで、絶縁層11を研磨して、表面を平坦化処理する。ここで、図4(a)では、薄膜コイルの第1層部分10は露出していないが、第1層部分10が露出するようにしてもよい。」
(カ)「【0043】次に、上部磁極層13の磁極部分層13aをマスクとして、ドライエッチングにより、記録ギャップ層12を選択的にエッチングする。このときのドライエッチングには、例えば、BCl2,Cl2等の塩素系ガスや、CF4,SF6等のフッ素系ガス等のガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)が用いられる。次に、例えばアルゴンイオンミリングによって、下部磁極層8の第2の層8bを選択的に約0.3〜0.6μm程度エッチングして、図5(b)に示したようなトリム構造とする。このトリム構造によれば、狭トラックの書き込み時に発生する磁束の広がりによる実効的なトラック幅の増加を防止することができる。」
(キ)「【0044】次に、記録ギャップ層12の上に、フレームめっき法によって、例えば銅よりなる薄膜コイルの第2層部分14を、例えば約1.0〜2.0μmの厚みおよび1.2〜2.0μmのコイルピッチで形成する。なお、図中、符号14aは、接続部10aの上に形成されたコンタクトホールを介して薄膜コイルの第2層部分14を第1層部分10に接続するための接続部を示している。薄膜コイルの第2層部分14は、上部磁極層13の磁性層13bの回りに巻回され、一部が上部磁極層13の磁極部分層13aの側方(図5(a)における右側)に配置される。」
(ク)「【0045】次に、全体に、例えば低圧化学的気相成長法を用いて例えばアルミナよりなる絶縁層15を、約3〜4μmの厚みで形成する。低圧化学的気相成長法を用いて、薄膜コイルの第2層部分14の巻線間にアルミナ膜を形成することにより、薄膜コイルの第2層部分14の狭ピッチの巻線間に、キーホール等の空隙のない絶縁膜を形成でき、信頼性が向上する。(略)」
(ケ)「【0052】上部磁極層13の磁極部分層13aは、エアベアリング面30側から順に配置された第1の部分13a1と、第2の部分13a2とを有している。第1の部分13a1は、記録ヘッドの記録トラック幅を規定する。すなわち、第1の部分13a1の幅は記録トラック幅Wに等しくなっている。第2の部分13a2の幅は第1の部分13a1の幅よりも大きくなっている。」
(コ)「【0053】上部磁極層13のヨーク部分層13cのエアベアリング面30側の端面は、エアベアリング面30から離れた位置に配置されている。また、ヨーク部分層13cのエアベアリング面30側の端部近傍の一部分は、磁極部分層13aの第2の部分13a2の上に重なっている。ヨーク部分層13cは、磁極部分層13aの第2の部分13a2と重なる部分では、第2の部分13a2の幅以上の幅を有し、エアベアリング面30から遠ざかるに従って幅が大きくなっている。」
(サ)「【0065】また、本実施の形態では、下部磁極層8の第2の層8bによってスロートハイトを規定するようにし、薄膜コイルの第1層部分10を下部磁極層8の第1の層8aの上であって第2の層8bの側方に配置し、薄膜コイルの第1層部分10を覆う絶縁層11の上面を下部磁極層8の第2の層8bの上面と共に平坦化し、この平坦化された面の上に記録ギャップ層12を介して、上部磁極層13の磁極部分層13aを形成している。従って、本実施の形態によれば、記録トラック幅を規定する上部磁極層13の磁極部分層13aを平坦な面の上に形成することができる。そのため、本実施の形態によれば、記録トラック幅を例えばハーフミクロン寸法やクォータミクロン寸法にも小さくしても、磁極部分層13aを精度よく形成することができ、記録トラック幅を正確に制御することが可能になる。」
(シ)「【0067】また、本実施の形態では、上部磁極層13のヨーク部分層13cのエアベアリング面30側の端面をエアベアリング面30から離れた位置に配置している。そのため、ヨーク部分層13aがエアベアリング面30に露出することがなく、その結果、いわゆるサイドライトやサイドイレーズの発生を防止することができる。」

これらの記載事項、特に(ア),(イ),(エ)〜(コ)(下線部参照)によれば、引用例2には、次の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「互いに磁気的に連結され、記録媒体に対向する媒体対向面側において互いに対向する磁極部分を含み、それぞれ少なくとも1つの層を含む下部および上部磁極層と、前記下部磁極層の磁極部分と前記上部磁極層の磁極部分との間に設けられたギャップ層と、少なくとも一部が前記下部および上部磁極層の間に、前記下部および上部磁極層に対して絶縁された状態で設けられた薄膜コイルとを備えた薄膜磁気ヘッドにおいて、
下部磁極層の第1の層の上に、下部磁極層の第2の層が形成されて、第2の層は、下部磁極層の磁極部分を含み、
上部磁極層の磁極部分層をマスクとして、ギャップ層を選択的にエッチングし、次に、下部磁極層の第2の層を選択的にエッチングして、トリム構造とし、
下部磁極層の上に、薄膜コイルの第1層部分及び薄膜コイルの第1層部分の狭ピッチの巻線間に絶縁層が形成され、
下部磁極層の第2の層が露出するまで、前記絶縁層を研磨して、表面を平坦化処理されており、
上部磁極層の磁極部分層は、エアベアリング面側から順に配置された第1の部分と、第2の部分とを有しており、第1の部分の幅は記録トラックに等しく、第2の部分の幅は第1の部分の幅よりも大きくなっており、
ギャップ層の上であって、上部磁極層の磁極部分層の側方(図5(a)における右側、すなわち、ハイト方向後方)に、薄膜コイルの第2層部分及び薄膜コイルの第2層部分の狭ピッチの巻線間に絶縁層が形成され、
上部磁極層のヨーク部分層のエアベアリング面側の端面は、エアベアリング面から離れた位置に配置され、ヨーク部分層のエアベアリング面側の端部近傍の一部分は、上部磁極層の磁極部分層の第2の部分の上に重なっており、ヨーク部分層は、上部磁極層の磁極部分層の第2の部分の幅以上の幅を有する、
薄膜磁気ヘッド。」

2.対比
本願発明と引用例2発明とを比較する。
引用例2発明の「下部磁極層の第1の層」、「下部磁極層の第2の層」、「上部磁極層の磁極部分層」、「上部磁極層のヨーク部分層」、「薄膜コイルの第1層部分」、「薄膜コイルの第2層部分」は、それぞれ、本願発明の「下部コア層」、「下部磁極層」、「上部磁極層」、「上部コア層」、「コイル層」、「第2のコイル層」に相当する。
引用例2発明は、「下部磁極層の上に、薄膜コイルの第1層部分及び薄膜コイルの第1層部分の狭ピッチの巻線間に絶縁層が形成され、下部磁極層の第2の層が露出するまで、前記絶縁層を研磨して、表面を平坦化処理されて」いるので、本願発明の「前記下部磁極層と下部コア層との段差内には、コイル層及び前記コイル層の各導体部のピッチ間を埋めるコイル絶縁層が形成され、下部磁極層とギャップ層との接合面を基準平面としたときに、前記コイル絶縁層の上面、あるいは前記コイル絶縁層の上面及びコイル層の上面が、前記基準平面と同一面上に位置し、前記基準平面のハイト方向後方には平坦化面が広がっており」に相当する構成を備えている。
引用例2発明の「上部磁極層の磁極部分層」は、「エアベアリング面側から順に配置された第1の部分と、第2の部分とを有しており、第1の部分の幅は記録トラックに等しく、第2の部分の幅は第1の部分の幅よりも大きくなって」いるので、本願発明の「上部磁極層」が「トラック幅Twで形成され前面が記録媒体との対向面に露出する先端部と、前記先端部の基端からハイト方向に漸次的に幅寸法が広がる後端部とで構成された」に相当する構成を備えている。
引用例2発明の「上部磁極層のヨーク部分層」は「エアベアリング面側の端面は、エアベアリング面から離れた位置に配置され、ヨーク部分層のエアベアリング面側の端部近傍の一部分は、上部磁極層の磁極部分層の第2の部分の上に重なっており、ヨーク部分層は、上部磁極層の磁極部文藻の第2の部分13の幅以上の幅を有する」ので、本願発明の「上部コア層」は「前記上部磁極層と重なる部分の幅寸法がトラック幅Twより大きく形成され」、「前記上部磁極層の前記後端部上に記録媒体との対向面からハイト方向後方にずらされて接合される」に相当する構成を備えている。
したがって、本願発明と引用例2発明は、
「下部コア層と、記録媒体との対向面で前記下部コア層にトラック幅Twで形成された非磁性のギャップ層、上部コア層、及び前記下部コア層と上部コア層に記録磁界を誘導するコイル層とが設けられた薄膜磁気ヘッドにおいて、
前記下部コア層には記録媒体との対向面からハイト方向に所定の長さ寸法にて下部磁極層が形成され、前記下部磁極層にはギャップ層と接する部分においてトラック幅Twと同じ幅寸法を有する隆起部が形成されてこの隆起部上にギャップ層が接しており、
前記下部磁極層と下部コア層との段差内には、コイル層及び前記コイル層の各導体部のピッチ間を埋めるコイル絶縁層が形成され、
下部磁極層とギャップ層との接合面を基準平面としたときに、前記コイル絶縁層の上面、あるいは前記コイル絶縁層の上面及びコイル層の上面が、前記基準平面と同一面上に位置し、前記基準平面のハイト方向後方には平坦化面が広がっており、
前記ギャップ層上には、トラック幅Twで形成され前面が記録媒体との対向面に露出する先端部と、前記先端部の基端からハイト方向に漸次的に幅寸法が広がる後端部とで構成された上部磁極層が形成され、
前記ギャップ層上であって前記上部磁極層のハイト方向後方には、前記コイル層と電気的に接続されて前記下部コア層および上部コア層に記録磁界を誘導する第2のコイル層と、前記第2のコイル層の各導体部のピッチ間を埋める第2のコイル絶縁層が形成され、
前記上部コア層は前記上部磁極層と重なる部分の幅寸法がトラック幅Twより大きく形成され、この上部コア層は前記上部磁極層の前記後端部上に記録媒体との対向面からハイト方向後方にずらされて接合される薄膜磁気ヘッド。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点ア]本願発明は、上部コア層は上部磁極層と重なる部分の前面全体が曲面であるのに対し、引用例2発明は、上部コア層の上部磁極層と重なる部分の前面全体が曲面となっていない点。

3.判断
相違点アについて検討する。
上部コア層の上部磁極層と重なる部分の前面全体を曲面とすることは、薄膜磁気ヘッドにおいて、周知の技術ではない(上記「第3」の相違点1についての検討を参照)。そして、本願発明が、所定の作用効果を奏するものであるから、本願発明が、引用例2発明と実質的に同一であるとすることはできない。

第5 むすび
したがって、本願発明は、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることができない。
本願の請求項2〜13に係る発明は、本願発明を引用する請求項であるので、本願発明と同様、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものとすることができない。
本願発明の製造方法に関する請求項14に係る発明及びこれを引用する請求項15〜24に係る発明も、本願発明と同様、原査定の拒絶理由によって拒絶すべきものとすることができない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2006-09-04 
出願番号 特願2000-19927(P2000-19927)
審決分類 P 1 8・ 16- WY (G11B)
P 1 8・ 121- WY (G11B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石坂 博明中村 豊  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 相馬 多美子
片岡 栄一
発明の名称 薄膜磁気ヘッド及びその製造方法  
代理人 野▲崎▼ 照夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ