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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1142638
審判番号 不服2006-3312  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2005-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-23 
確定日 2006-08-25 
事件の表示 特願2005-130570「半導体発光素子およびその製法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月22日出願公開、特開2005-354040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年4月27日の出願であって、同年12月19日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年2月23日付で拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年3月27日付で特許法第17条の2第1項第4号の規定による手続補正がなされたものである。

2.平成18年3月27日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年3月27日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を補正するものであるところ、補正前の請求項1である
「【請求項1】
基板と、該基板上に設けられる窒化物半導体からなるn形層およびp形層を含む半導体積層部と、前記n形層およびp形層にそれぞれ接続して設けられるn側電極およびp側電極とからなり、前記n側電極がn形の窒化物半導体層と直接接するように設けられ、かつ、該n側電極の前記窒化物半導体層と接する側の層が0.2〜1μmの厚さのAl層からなる金属層により前記n形の窒化物半導体層に拡散して該窒化物半導体層とオーミックコンタクトとなるように形成され、さらに該Al層の表面に、該Alの融点を超える融点を有する金属からなり、0.1〜0.2μmの厚さのバリアメタル層を介して、最表面にAu層が設けられてなる半導体発光素子。」は、
「【請求項1】
基板と、該基板上に設けられる窒化物半導体からなるn形層およびp形層を含む半導体積層部と、前記n形層およびp形層にそれぞれ接続して設けられるn側電極およびp側電極とからなり、前記n側電極が、n形の窒化物半導体層と直接接するように設けられ、かつ、該n側電極の前記窒化物半導体層と接する側からAl層と、Ni、Pt、V、CrおよびMoよりなる群れから選ばれる少なくとも1種の金属からなるバリアメタル層と、Au層とがこの順で連続して形成され、熱処理により前記Al層の金属のみが前記n形の窒化物半導体層に拡散して該窒化物半導体層とオーミックコンタクトとなるように形成されると共に、前記Au層が単独の層として残存するように設けられてなる半導体発光素子。」と補正された。

(2)当審の判断
上記補正は、要するに、請求項1において、
[1]Al層が「0.2〜1μmの厚さ」であるとの規定、
[2]バリアメタル層が「該Alの融点を超える融点を有する金属」からなるとの規定、
[3]バリアメタル層が「0.1〜0.2μmの厚さ」であるとの規定、及び、
[4]「最表面にAu層が設けら」れるとの規定
を削除するとともに、異なる規定を付すものである。

しかしながら、上記補正は、上記のとおり補正前の規定を削除するものであることは明らかであるから、特許法第17条の2第4項各号を目的とするものと認めることはできない。

この点に関し、審判請求人は、「審査官殿からも厚さの限定は技術的意義が不明である」との指摘があったことから、明りょうでない記載の釈明を目的として上記補正を行った旨主張するが、特許請求の範囲の数値範囲にもともと不明りょうな点はないから、明りょうでない記載の釈明には当たらない。
また、上記[2]の補正は材料限定に伴って不要になったとしても、補正後の請求項1において最表面がAu層かどうかは明確ではないのであるから、上記[4]の規定までも削除して良いことにはならない。
よって、審判請求人のこの点の主張は採用するに足らないものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成18年3月27日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成17年10月11日付手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項によって特定されるところ、請求項1に係る発明は次のものである。
「【請求項1】
基板と、該基板上に設けられる窒化物半導体からなるn形層およびp形層を含む半導体積層部と、前記n形層およびp形層にそれぞれ接続して設けられるn側電極およびp側電極とからなり、前記n側電極がn形の窒化物半導体層と直接接するように設けられ、かつ、該n側電極の前記窒化物半導体層と接する側の層が0.2〜1μmの厚さのAl層からなる金属層により前記n形の窒化物半導体層に拡散して該窒化物半導体層とオーミックコンタクトとなるように形成され、さらに該Al層の表面に、該Alの融点を超える融点を有する金属からなり、0.1〜0.2μmの厚さのバリアメタル層を介して、最表面にAu層が設けられてなる半導体発光素子。」(以下、「本願発明」という。)

(2)刊行物記載の発明
原査定の拒絶理由に引用した特開平8-274372号公報(以下、「引用例」という。)には、下記の事項が記載されている。
「【請求項1】3族窒化物半導体(AlxGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)から成るn伝導型のn層とp伝導型のp層とを少なくとも有した発光素子において、前記n層の電極として、前記n層に接合するアルミニウム(Al)層、その上に形成されたチタン(Ti)層、その上に形成された金(Au)層とを形成したことを特徴とする発光素子。
【請求項2】前記アルミニウム層の厚さは、100〜1000Åであり、前記チタン層の厚さは、1000Å〜1μmであり、前記金層の厚さは、0.5〜3μmであることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
・・・
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は青色発光の3族窒化物半導体発光素子の電極に関する。
・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】n層に関する電極は、半導体層に直接接合する側から順に、ニッケル(Ni)層、金層の2重構造であった。しかし、n伝導型のGaN系の化合物半導体層にニッケルを接合した場合に、安定性が良くなく、発光素子の寿命や、製品品質の低下が問題となっていた。
・・・
【0009】【作用及び発明の効果】上記のように、n層に直接接合する層をアルミニウム層としたので、従来のニッケルを用いたものに比べて、安定度の高いオーミック接触が得られた。さらに、最上層を金で構成したために、ワイヤボンデングが適切に実施することができる。さらに、アルミニウム層と金層との間にチタン層を介在させたために、3層の金属を蒸着した後に、合金化処理する時、アルミニウムと金とが反応することが防止される。
【0010】アルミニウム層はなるべく薄い方が良好なオーミック性が得られ、安定する。その望ましい厚さは、100〜1000Åである。又、合金化処理において、アルミニウムと金とを反応させないために、チタン層はなるべく厚い方が望ましい。その望ましい厚さは、1000Å〜1μmである。さらに、金層の厚さは、3層構造の電極の全体の上限厚さからアルミニウム層の厚さとチタン層の厚さとを引いた残りの厚さとなる。金層の望ましい厚さは、0.5〜3μmである。
【0011】
【実施例】図1において、発光ダイオード10は、サファイア基板1を有しており、そのサファイア基板1上に500ÅのAl0.1Ga0.83In0.07Nのバッファ層2が形成されている。そのバッファ層2の上には、膜厚約2.0μm、電子濃度2×1018/cm3のシリコンドープGaNから成る高キャリア濃度n+層3が形成されている。そして、電極8を形成する部分を除いた高キャリア濃度n+層3の上には、順に、膜厚約2.0μm、電子濃度2×1018/cm3のシリコンドープの(Alx2Ga1-x2)y2In1-y2Nから成る高キャリア濃度n+層4、膜厚約0.5μm、マグネウシム(Mg)、カドミウム(Cd)及びシリコンドープの(Alx1Ga1-x1)y1In1-y1Nから成るp伝導型の発光層5、膜厚約1.0μm、ホール濃度5×1017/cm3、マグネシウム濃度1×1020/cm3のマグネシウムドープの(Alx2Ga1-x2)y2In1-y2Nから成るp層61、膜厚約0.2μm、ホール濃度5×1017/cm3、マグネシウム濃度1×1020/cm3のマグネシウムドープのGaNから成る第2コンタクト層62、膜厚約500Å、ホール濃度2×1017/cm3、マグネシウム濃度2×1020/cm3のマグネシウムドープのGaNから成る第1コンタクト層63が形成されている。
【0012】そして、第1コンタクト層63に接続する電極7と高キャリア濃度n+層3の露出面に接続する電極8が形成されている。電極7は第1コンタクト層63上一様に厚さ20Åに形成されたチタン(Ti)から成る層71と厚さ60Åに形成されたニッケル(Ni)から成る層72を有しており、この2層は透明電極として機能する。又、層72の上の一部にはワイヤがボンディングされるパッドとして機能する厚さ1000Åのニッケル(Ni)から成る層73と厚さ1.5μmの金(Au)から成る層74とが形成されている。
【0013】又、電極8は、高キャリア濃度n+層3に接合する厚さ500Åのアルミニウム(Al)から成る層81と厚さ5000Åのチタン(Ti)から成る層82と厚さ1.5μmの金(Au)から成る層83との3層構造で構成されている。
・・・
【0024】次に、この発光ダイオード10に電極を形成する方法について説明する。この電極形成は、良く知られたように、真空蒸着、ホトレジスト塗布、フォトリソグラフ、エッチング工程により、形成することが可能である。
・・・
【0026】一方、高キャリア濃度n+層3の電極8として、厚さ500Åのアルミニウム(Al)層81と厚さ5000Åのチタン(Ti)層82と厚さ1.5μmの金(Au)層83とを形成した。
【0027】その後、温度600℃にて1分間合金化処理を施して、図1に示す発光ダイオード10を形成した。・・・
【0028】アルミニウム層81の最適な厚さは100〜1000Åである。1000Åを越えると上部の金とアルミニウムとが反応を起こし、100Å以下であると、オーミック接触が得られなくなり望ましくない。又、チタン層82の最適な厚さは1000Å〜1μmである。1000Å以下であると、合金化処理によりアルミニウムと金とが反応して、層83がボンディングパッドとして機能しなくなる。又、1μm以上であると、形成のために時間がかかり望ましくない。又、金層83の厚さは、0.5〜3μmである。0.5μm以下であるとボンディング性能が悪化し、3μm以上となると費用が高くなるので望ましくない。」

(3)対比
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
(イ)引用例の「サファイア基板1」,「高キャリア濃度n+層3,高キャリア濃度n+層4,p伝導型の発光層5,p層61,マグネシウムドープのGaNから成る第2コンタクト層62,マグネシウムドープのGaNから成る第1コンタクト層63」,「第1コンタクト層63に接続する電極7,高キャリア濃度n+層3の露出面に接続する電極8」,「3族窒化物半導体発光素子」は、それぞれ本願発明の「基板」,「窒化物半導体からなるn形層およびp形層を含む半導体積層部」,「前記n形層およびp形層にそれぞれ接続して設けられるn側電極およびp側電極」,「半導体発光素子」に相当することは明らかである。
そして、「高キャリア濃度n+層3の露出面に接続する電極8」が、「前記n側電極がn形の窒化物半導体層と直接接するように設けられ」ていることも明らかである。
(ロ)引用例には、「【0026】一方、高キャリア濃度n+層3の電極8として、厚さ500Åのアルミニウム(Al)層81と厚さ5000Åのチタン(Ti)層82と厚さ1.5μmの金(Au)層83とを形成した。【0027】その後、温度600℃にて1分間合金化処理を施して、図1に示す発光ダイオード10を形成した。・・・【0028】アルミニウム層81の最適な厚さは100〜1000Åである。・・・100Å以下であると、オーミック接触が得られなくなり望ましくない。」と記載されており、これから引用発明は、「該n側電極の前記窒化物半導体層と接する側の層がAl層からなる金属層により前記n形の窒化物半導体層に拡散して該窒化物半導体層とオーミックコンタクトとなるように形成され」に相当する技術的事項を有する。
(ハ)引用例には、「【0009】アルミニウム層と金層との間にチタン層を介在させたために、3層の金属を蒸着した後に、合金化処理する時、アルミニウムと金とが反応することが防止される。【0010】・・・アルミニウムと金とを反応させないために、チタン層はなるべく厚い方が望ましい。その望ましい厚さは、1000Å〜1μmである。」と記載されており、これから引用例の「チタン層」が「バリアメタル層」として機能していることが明らかであるとともに、引用発明は「該Al層の表面に、該Alの融点を超える融点を有する金属からなり、0.1〜0.2μmの厚さのバリアメタル層を介して、最表面にAu層が設けられてなる」に相当する技術的事項を有する。

したがって、引用例記載の発明は、「基板と、該基板上に設けられる窒化物半導体からなるn形層およびp形層を含む半導体積層部と、前記n形層およびp形層にそれぞれ接続して設けられるn側電極およびp側電極とからなり、前記n側電極がn形の窒化物半導体層と直接接するように設けられ、かつ、該n側電極の前記窒化物半導体層と接する側の層がAl層からなる金属層により前記n形の窒化物半導体層に拡散して該窒化物半導体層とオーミックコンタクトとなるように形成され、さらに該Al層の表面に、該Alの融点を超える融点を有する金属からなり、0.1〜0.2μmの厚さのバリアメタル層を介して、最表面にAu層が設けられてなる半導体発光素子」であると認めることができるから、両者は、この点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願発明は、Al層を「0.2〜1μmの厚さ」と規定しているのに対して、引用例記載の発明は、0.01〜0.1μmであり、上記数値範囲とは異なる点。

(4)判断
Al層を上記数値範囲内の厚みとしてオーミック接触を得ることは、例えば特開平7-240508号公報にも記載されるように周知のことにすぎない。
また、引用例記載のAl層が0.01〜0.1μmとの数値は、その上層をTiにした場合のものであって、引用例に記載されているような不具合が、他の材料を上層として採用した場合にも同様な厚さで生ずるとは必ずしもいえず、また上記のとおり電極層としてのAl層の厚みを0.2μm程度の値とすることは周知のことにすぎないから、上記相違点の事項とすることは材料の変更に伴い当業者が任意に設計し得る程度の事項である。

そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明および周知技術から予測し得る程度のものであり、格別とはいえない。

よって、本願発明は、刊行物1に記載された引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明および周知技術の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-17 
結審通知日 2006-06-06 
審決日 2006-06-19 
出願番号 特願2005-130570(P2005-130570)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 謙仁門田 かづよ  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 吉野 三寛
向後 晋一
発明の名称 半導体発光素子およびその製法  
代理人 河村 洌  

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