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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B32B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 取り消して特許、登録 B32B
管理番号 1142661
審判番号 不服2002-24344  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-09-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-18 
確定日 2006-09-12 
事件の表示 平成 7年特許願第 44439号「積層体及びその製法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 9月17日出願公開、特開平 8-238711、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成 7年 3月 3日の出願であって、平成14年 7月17日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成14年 9月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成14年10月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成14年12月18日に拒絶査定に対する審判請求がされ、その後、平成15年 1月17日付けで手続補正がされたものである。

2.平成15年 1月17日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成15年 1月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正事項
平成15年 1月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、次の補正事項を含むものである。
平成14年 9月30日付けで補正された明細書(以下、「本件補正前の明細書」という)の、
「【0020】 珪酸アルカリ金属塩の膜厚は任意であるが、例えば0.01〜10μm、好ましくは0.1〜5μmである。膜厚が数μm以下でもガスバリヤー性の充分な改良が認められるが、あまりに薄くなりすぎるとガスバリヤー性に問題が生じたり、均一な膜形成ができなかったりするので、重合体成形品の種類によっても異なるが、少なくとも上記のような膜厚とするのが好ましい。一方膜厚が厚くなりすぎると、膜割れを起こしやすくなるので、適当な膜厚に調整することが望ましい。とくに成形品がフィルムの場合、折り曲げ等による膜割れを防止するため、膜厚は10μm以下、とくに5μm以下とするのが好ましい。」との記載を、
「【0020】 珪酸アルカリ金属塩の膜厚は、5μm以下、好ましくは0.1〜5μmである。
膜厚は5μm以下でもガスバリヤー性の充分な改良が認められる。
然し、あまりに膜厚が薄くなりすぎるとガスバリヤー性に問題が生じたり、均一な膜形成ができなかったりするので、重合体形成品の種類によっても異なるが、少なくとも上記のような膜厚とするのが好ましい。
一方膜厚が厚くなりすぎると、膜割れを起こしやすくなるので、適当な膜厚に調整することが望ましい。
とくに成形品がフィルムの場合、折り曲げ等による膜割れを防止するため、膜厚は5μm以下とする。」と補正する。
(なお、各下線は、当審が便宜上付したものである。)
(2)当審の判断
本件補正前の明細書の段落【0020】の記載について、本件補正は、上記(1)のとおり、本件補正前の「膜厚が数μm以下でもガスバリヤー性の充分な改良が認められる」との記載を、「膜厚は5μm以下でもガスバリヤー性の充分な改良が認められる」と、また、本件補正前の「とくに成形品がフィルムの場合、折り曲げ等による膜割れを防止するため、膜厚は10μm以下、とくに5μm以下とするのが好ましい」との記載を、「とくに成形品がフィルムの場合、折り曲げ等による膜割れを防止するため、膜厚は5μm以下とする」と、補正するものである。
つまり、本件補正後の明細書の段落【0020】には、「膜厚」の上限値を「5μm」と定めること、更に、その上限値に係る数値限定条件の点に作用・効果に関し臨界的な技術的意義があること、が明記されていると認められる。
しかし、本件補正前の明細書の同段落の記載事項を検討してみるに、「膜厚」は「10μm以下」とすればよいと解されることから、上記のとおり、本件補正後の段落【0020】に記載されている、「膜厚」を「5μm以下」とする点に臨界的な技術的意義があるとする旨の技術的事項は、本件補正前の明細書に記載されていたものであるとはいえないし、自明なものともいえない。
そして、本件補正前の明細書の段落【0020】の記載は、本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という)の同段落においても同じである。
したがって、本件補正は、当初明細書に記載されていない事項を追加するものであって、当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものではない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第2項で準用する同法第17条第2項に規定する要件を満たしていないので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下されるべきものである。
よって、上記結論のとおり決定する。

3.本願発明
平成15年 1月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されるので、本願の請求項に係る発明は、平成14年 9月30日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という)の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。(以下、「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)
「【請求項1】 重合体成形品の少なくとも一部の表面に、SiO2/M2O(モル比、Mはアルカリ金属)が2以上の珪酸アルカリ金属塩とアルコキシ基を有するシランカップリング剤とを含有する水性液を塗布し、薄膜を形成させて成る積層体に於いて、
前記アルコキシ基を有するシランカップリング剤が、シランカップリング剤のアルコキシ基と珪酸アルカリ金属塩の比率(アルコキシ基/アルカリ金属(モル比))で1/100〜100/100の範囲になるように配合されていることを特徴とする積層体。
【請求項2】 成形品がフィルム又はシートである請求項1記載の積層体。
【請求項3】 珪酸アルカリ金属のSiO2/M2O(モル比、Mはアルカリ金属)が2.5〜4.8である請求項1又は2記載の積層体。
【請求項4】 前記アルコキシ基を有するシランカップリング剤が、更に、エポキシ基又はアミノ基を有するものである請求項1乃至3の何れかに記載の積層体。
【請求項5】 前記薄膜の厚みが5μm以下である請求項1乃至4の何れかに記載の積層体。
【請求項6】 前記重合体成形品の塗布面の濡れ張力が、50dyne/cm以上である請求項1乃至5の何れかに記載の積層体。
【請求項7】 重合体成形品の少なくとも一部表面に、SiO2/M2O(モル比、Mはアルカリ金属)が2以上の珪酸アルカリ金属塩とアルコキシ基を有するシランカップリング剤とを、アルコキシ基/アルカリ金属(モル比)が1/100〜100/100の範囲となるように配合してなる水性液を塗布し、120℃以下で乾燥させることを特徴とする積層体の製造方法。」

なお、請求項7の「アルコキシ基/アルカリ金属(モル比)が1〜100/100の範囲となるように配合してなる水性液」との記載中の「1〜100/100の範囲」との記載は、上記請求項1の記載中において対応する「1/100〜100/100の範囲」との記載と一致していないが、当該数値範囲は比率をアルコキシ基/アルカリ金属(モル比)と標記するものであることに加え、請求項7の記載では「1〜1(100/100)」ということになり比率の範囲を標記することになっていないこと、さらには請求項7は、請求項1に係る物の発明の製造方法の発明に相当すると認められることから、上記請求項7の記載は、上記請求項1の記載と同じ「アルコキシ基/アルカリ金属(モル比)が1/100〜100/100の範囲となるように配合してなる水性液」との誤記と認められる。

4.原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、概略、本願発明1ないし7は、引用文献1(特開昭63-57674号公報)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

5.当審の判断
5-1.引用文献1の記載事項
引用文献1には、次のとおり記載されている。
イ.「(1)(a)アルカリ金属シリケート、
(b)アミノアルコール、及び
(c)水溶性樹脂及び/又は水溶性シランカップリング剤
を含有することを特徴とする親水性皮膜形成用処理剤。」(特許請求の範囲、第1項)
ロ.「特許請求の範囲第1項に記載の親水性皮膜形成用処理剤において、前記アルカリ金属シリケートのSiO2/M2Oがモル比で0.5〜3であることを特徴とする親水性皮膜形成用処理剤。」(特許請求の範囲、第2項)
ハ.「アルミニウム材料に耐食性皮膜を形成した後、
(a)アルカリ金属シリケート、
(b)アミノアルコール、及び
(c)水溶性樹脂及び/又は水溶性シランカップリング剤
を含有する処理液にて親水性皮膜を形成することを特徴とするアルミニウム材料の処理方法。」(特許請求の範囲、第11項)
ニ.「本発明はアルミニウム材料の表面処理剤及び処理方法に関し、さらに詳しくは熱交換器のアルミニウムフィンに耐食性及び持続的親水性を有するとともに臭気を発生しない皮膜を形成せしめる親水性表面処理剤及び処理方法に関する。」(第2頁右下欄11〜15行)
ホ.「水溶性シランカップリング剤は水溶性樹脂と同様の作用をする。・・・
式(1)により表されるシランカップリング剤として、具体的にはN-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等があげられ、後二者が特に好ましい。
水溶性樹脂及び/又は水溶性シランカップリング剤の添加量は処理剤に対して0.1〜5重量%である。0.1重量%未満だと臭気抑制効果が小さく、また5重量%を超えても添加量に見合う効果が得られず、経済的でない。好ましい添加量は0.2〜2重量%である。」(第5頁左上欄7行〜左下欄2行)
ヘ.「浸漬法は20〜70℃の処理剤に耐食性皮膜を形成した被塗物を0.5〜5分間浸漬することにより行う。浸漬後、150〜240℃で15〜60分間乾燥することにより親水性皮膜を得る。」(第6頁3〜6行)

5-2.対比・判断
(1)本願発明1について
引用文献1には、上記イ.ロ.ハ.及びホ.のとおり、「SiO2/M2Oがモル比で0.5〜3」の「アルカリ金属シリケート」及び「N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン」等の「水溶性シランカップリング剤」を含有する「処理剤」(処理液)が記載されており、また、「アルミニウム材料に耐食性皮膜を形成した後」に前記「処理剤」(処理液)を塗布して「親水性皮膜を形成する」ことも記載されていると認められることから、
「アルミニウム材料に耐食性皮膜を形成した後、(a)SiO2/M2Oがモル比で0.5〜3のアルカリ金属シリケート、(b)アミノアルコール、及び(c)水溶性樹脂及び/又はγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどの水溶性シランカップリング剤を0.1〜5重量%含有する処理液にて親水性皮膜を形成したアルミニウム材料」の発明(以下、「引用文献1に記載の発明」という。)が記載されている。
そこで、本願発明1(前者)と引用文献1に記載の発明(後者)とを対比するに、両者は、「SiO2/M2O(モル比、Mはアルカリ金属)が2〜3の珪酸アルカリ金属塩とアルコキシ基を有するシランカップリング剤とを含有する水性液を、塗布対象の被塗面に塗布して、薄膜を形成させて成る積層体」の点において、一致していると認められる。
一方、以下の点で相違している。
相違点1:塗布対象が、前者では「重合体成形品の少なくとも一部の表面」であるのに対して、後者では「アルミニウム材料」である点、また、
相違点2:水性液が、前者では「前記アルコキシ基を有するシランカップリング剤が、シランカップリング剤のアルコキシ基と珪酸アルカリ金属塩の比率(アルコキシ基/アルカリ金属(モル比))で1/100〜100/100の範囲になるように配合されている」ものであるのに対して、後者では、上記のとおり、「水溶性シランカップリング剤の添加量は処理剤に対して0.1〜5重量%」とされており、「水溶性シランカップリング剤」の使用量が、前者のように、「珪酸アルカリ金属塩」との関係で規定されていない点。

そして、両者は、相違点1に記載のとおり塗布対象が異なるから、積層体として、基本的に異なり、その上、本願発明1に係る積層体を構成する薄膜は、本願明細書、段落【0009】等に記載のとおり「ガスバリアー性」のものであって、重合体フィルム等の酸素透過度を大きく低減させる作用・効果を奏するものと認められるのに対し、引用文献1に記載の積層体の発明では、「処理剤」の塗布対象が重合体成形品である態様について記載されておらず、示唆もなく、そして、上記ニ.のとおり、「アルミニウム材料」の表面処理、特に「熱交換器のアルミニウムフィンに耐食性及び持続的親水性を有するとともに臭気を発生しない皮膜を形成せしめる親水性表面処理剤及び処理方法」に関するものであるから、引用文献1には、本願発明1に係る「ガスバリアー性」の薄膜を形成させることに関する記載も示唆もない。
したがって、本願発明1と引用文献1に記載の発明とは、その目的、構成及び作用・効果において基本的に相違しているから、本願発明1が、引用文献1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし6について
請求項1を引用する本願発明2ないし6は、上記「(1)本願発明1について」において記載したのと同様の理由により、引用文献1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本願発明7について
本願発明7は、本願発明1の積層体を製造する方法の発明であって、「重合体成形品の少なくとも一部表面に、SiO2/M2O(モル比、Mはアルカリ金属)が2以上の珪酸アルカリ金属塩とアルコキシ基を有するシランカップリング剤とを、アルコキシ基/アルカリ金属(モル比)が1〜100/100の範囲となるように配合してなる水性液を塗布し、120℃以下で乾燥させることを特徴とする積層体の製造方法」である。
本願発明7と引用文献1に記載の発明との一致点及び相違点については、上記「(1)本願発明1について」において記載ように、少なくとも上記相違点1,2で相違し、更に、本願発明7において「120℃以下で乾燥させる」としている点に対して、引用文献1に記載のものでは、上記ヘ.のとおり、「150〜240℃で15〜60分間乾燥する」とされている点においても、両者は相違していると認められる。
そして、本願発明7における塗布対象、及び形成される薄膜の作用・効果については、上記「(1)本願発明1について」において記載したとおり、引用文献1に記載されておらず、示唆もない。
したがって、積層体の製造方法に係る本願発明7についても、引用文献1の記載の発明とは、その目的、構成及び作用・効果において基本的に相違しているから、本願発明1が、引用文献1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6.むすび
以上のとおりであるから、原査定を維持することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2006-08-30 
出願番号 特願平7-44439
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B32B)
P 1 8・ 561- WY (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 野村 康秀
鴨野 研一
発明の名称 積層体及びその製法  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  

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