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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1142753
審判番号 不服2004-13160  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-03-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-24 
確定日 2006-08-30 
事件の表示 平成10年特許願第251385号「磁気ヘッドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月21日出願公開、特開2000- 82203〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成10年9月4日の出願であって、当審において拒絶の理由を通知したところ、平成18年5月29日付けで手続補正がなされたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年5月29日付け手続補正書で補正された明細書及び図面からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】基板上に複数の磁気ヘッド素子が形成されてなるワークの成膜面と反対側の裏面を、研削目が幅方向に一部重複するようワークをピッチ送りして直線方向に研削する工程と、
前記研削工程の後、前記ワークを複数の磁気ヘッド素子が配列されたバー状のスライダーブロックに切り出す工程とを備え、
前記ワークを複数の前記磁気ヘッド素子が配列されたスライダーブロックに切り出す方向と平行な方向に前記ワークの裏面を研削することを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。」

第2 特許法第29条第2項についての当審の判断
1 引用例
(1) 当審の拒絶の理由で引用した特開平6-76244号公報(以下「引用例1」という。)には、「薄膜磁気ヘッドの製造方法」に関して次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。)
(ア) 「【特許請求の範囲】【請求項1】 ウェハの表面に複数の磁気変換素子を形成した後、該磁気変換素子を含めて該表面を覆うべく保護膜を形成する工程を含む薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、前記保護膜形成の後に、前記ウェハの裏面を粗面に加工することを特徴とする薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項2】 前記粗面の加工がラッピングによって行われることを特徴とする請求項1に記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法。」
(イ) 「【0003】【発明が解決しようとする課題】(略)ウェハ30上にこのような保護膜31を形成すると、図3(B)に示すように、その膜応力によってウェハ全体が反ってしまう。(略)」
(ウ) 「【0008】【作用】保護膜形成のすぐ後に、ウェハの裏面をある程度の粗面にしておくと、保護膜の形成によってウェハの中心部30aがその周辺部30bに対して膜側に突出させる膜応力に対抗する応力が発生し、両者が釣り合って反りを補償することができる。」
(エ) 「【0013】保護膜21形成の直後に、図1のS3において、ウェハ20の裏面20bをラッピングしてその表面粗さをRa≒0.1μm程度に仕上げる。このように裏面を粗く仕上げることにより応力が発生し、この応力が保護膜21による膜応力と拮抗する。その結果、図2(B)に示すように、保護膜形成によるウェハの反りが補償され、ウェハ20は平坦に保たれる。実際には、GC#1000の砥粒で約2分間ラッピングすることによりRa≒0.1μmの表面粗さを得ている。ウェハ裏面のこの表面粗さは、保護膜21の厚さに応じて可変設定され、膜応力に拮抗する応力を発生するようになされる。
【0014】(略)
【0015】次のS5において、このウェハ20を、幾つかの薄膜磁気変換素子を列単位で含むように切断(フルカット)して棒状のヘッドブロックを得た後、溝加工等を行う。その後、各ヘッドブロックをさらに切断して各磁気ヘッド対応のヘッドピースを得る。」(「実施例」の項)
(オ) 「【0018】また、ウェハ20の裏面20bを粗面とする工程は、ラッピングの他に種々の公知の方法で実施してもよい。」
(カ) 「【0019】【発明の効果】以上詳細に説明したように本発明によれば、ウェハの表面に複数の磁気変換素子を形成した後、これら磁気変換素子を含めて表面を覆うべく保護膜を形成する工程を含む薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、保護膜形成の後に、ウェハの裏面を粗面に加工して応力の拮抗を図っているので、ウェハの反りを補償することができ、その結果、保護膜の厚さの均一性が確保でき、その後の工程の作業性が非常に良くなる。」

(2) 同じく当審の拒絶の理由で引用した特開平4-139608号公報(以下「引用例2」という。)には、「薄膜磁気ヘッドの製造方法」に関して次の事項が記載されている。
(キ) 「まずウェハの厚みを最終的に必要とするスライダ長を構成するウェハ厚みよりも厚く設定し、ウェハの裏面を鏡面状にし、ウェハの表面に薄膜プロセスを施し、その後ウェハ裏面を研削、切断または研磨のいずれかの加工手段によりウェハ厚みを最終的に必要な寸法にするとともに、その表面粗さを適切な粗さとしてスライダの流入端側面の各稜の最終的な加工工程を施す。」(公報2頁右上欄18行〜左下欄5行)
(ク) 「第7図は(a)(b)(c)にウェハ裏面の粗さを三段階に変えてスライダ加工を行った時の稜の欠け状態を示す。(中略)これらの加工条件を以下に示す。(1)砥石;メタルボンド砥石SD250番 (2)砥石の寸法;厚さ0.4mm、直径80mm (3)砥石回転数;12000回転/分 (4)テーブル速度;10mm/分」(公報2頁右下欄8行〜3頁左上欄13行)

2 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
引用例1には、特に上記1(ア)(エ)(下線部参照)に摘示した記載事項によれば、
「ウェハの表面に複数の磁気変換素子を形成した後、該磁気変換素子を含めて該表面を覆うべく保護膜を形成する工程を含む薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、
前記保護膜形成の後に、前記ウェハの裏面を粗面に加工する工程、
粗面に加工した後、ウェハを、幾つかの薄膜磁気変換素子を列単位で含むように切断して棒状のヘッドブロックを得る工程、
を含む薄膜磁気ヘッドの製造方法。」
の発明が記載されている。

引用例1に記載された発明の「ウェハ」「磁気変換素子」は、それぞれ本願発明の「基板」「磁気ヘッド素子」に相当している。
本願発明の「ワーク」は、「基板上に複数の磁気ヘッド素子が形成されてなるワーク」であるから、引用例1に記載された発明の「ウェハの表面に複数の磁気変換素子を形成した」ものが、本願発明の「基板上に複数の磁気ヘッド素子が形成されてなるワーク」に相当している。
引用例1に記載された発明の「ウェハの裏面」は、本願発明の「ワークの成膜面と反対側の裏面」に相当している。
本願発明の「研削する工程」は、明細書の記載(本願段落18等参照)によれば、ウェハの裏面を研削して粗面化することによりウェハの裏面の応力が制御され、これによってウェハの反りを調節するものであるから、粗面に加工する工程の一種である。
引用例1に記載された発明の「棒状のヘッドブロック」は、本願発明の「バー状のスライダーブロック」に相当し、引用例1に記載された発明の「ウェハを、幾つかの薄膜磁気変換素子を列単位で含むように切断して棒状のヘッドブロックを得る工程」は、本願発明の「ワークを複数の磁気ヘッド素子が配列されたバー状のスライダーブロックに切り出す工程」に相当している。
してみると、本願発明と引用例1に記載された発明は、
「基板上に複数の磁気ヘッド素子が形成されてなるワークの成膜面と反対側の裏面を、粗面に加工する工程と、
粗面に加工する工程の後、前記ワークを複数の磁気ヘッド素子が配列されたバー状のスライダーブロックに切り出す工程とを備える、磁気ヘッドの製造方法。」
である点で一致しており、以下の点で相違している。

(相違点1) 「粗面に加工する工程」について、本願発明では、「研削目が幅方向に一部重複するようワークをピッチ送りして直線方向に研削する」と特定され、「ワークを複数の磁気ヘッド素子が配列されたスライダーブロックに切り出す方向と平行な方向に前記ワークの裏面を研削すること」と特定されているのに対し、引用例1に記載された発明では、そのように特定されていない点。

(2)相違点についての判断
引用例1に記載された発明では、粗面に加工する工程の具体例として、ラッピング又は種々の公知の方法で粗面化を実施することが示されている(上記(オ)参照。)。
粗面化の方法として、公知の研磨や研削方法を採用しうるところ、引用例2には、ウエハの裏面を粗面化するために、回転砥石による研削により粗面化する技術(上記(キ)(ク)参照。)が、示されている。
また、砥石による研削において、テーブル及びワークを移動させて直線方向に研削させるとともにその反転時に所定のピッチ送りして、研削砥石の幅よりも大きな幅の研削面を有するワークの研削を行う方法は周知の事項であり(当審の拒絶理由で示した特開平3-234464号公報の従来技術の項の記載等参照。)、研削目が幅方向に一部重複するように研削することも研削加工における周知の事項にすぎない。
してみれば、引用例1に記載された発明において、その粗面に加工する工程として、引用例2に記載されたごとき研削方法を採用し、周知の研削方法であるところの、研削目が幅方向に一部重複するようにワークをピッチ送りようにして直線方向に研削することは、当業者が容易に想到しうることであり、研削方向は適宜選択し得る設計的事項にすぎない。
ここで、研削方向について、本願発明で「スライダーブロックに切り出す方向と平行な方向に」行うと特定されている点について以下詳細に検討する。
本願の明細書によれば、オリフラ側と直角方向に研削した場合に応力が開放され、反り量が小さくなること(段落20)や、スライダーブロックはオリフラ側に直角方向を長手方向として切り出しすること(段落20)が記載されているが、これらの記載からただちに、「スライダーブロックに切り出す方向と平行な方向に」研削を行うことにより効果があるとはいえない。
平成18年5月29日付け意見書によれば、請求人は、「ウェハは磁気ヘッド素子の間隔が広く、アルミナの量が多い行方向(オリフラの向きに直角方向)で反りが大きくなってしまいます。(中略)そこで、本願発明では、オリフラに対して列方向(オリフラの向きに平行方向)、すなわちスライダーブロックに切り出す方向と平行な方向に研削することで、ウェハに反りを生じさせている原因となっている行方向のアルミナ膜による応力を開放して、スライダーブロックの反り量を小さくしています。」旨、主張している。すなわち、オリフラの向きに平行な方向に研削することがよいこと、スライダブロックに切り出す方向はオリフラの向きに平行な方向であること、を根拠に、本願発明で「スライダーブロックに切り出す方向と平行な方向に」行うと特定されている点の作用効果を主張している。
そうすると、明細書の上記段落の記載は、上記意見書の記載の内容と矛盾しているので、信憑性のないものであり、作用効果があるとはいえない。
そして、方向によりアルミナ量の多少があること等は明細書に記載も示唆もないことであるが、意見書の主張のように、研削方向として、ウェハに反りを生じさせている原因となるアルミナの量が多い方向の応力を開放するような方向がよいとしても、そのことを特定することなく、単にスライダーブロックに切り出す方向との関係を特定することに、技術的意義がないことは明らかである。

したがって、総合的に検討しても、本願発明の効果は、引用例1に記載された発明及び周知の事項から当業者であれば予測される範囲内であり、格別顕著なものではない。

第3 特許法第36条第4項及び第6項についての当審の判断
1 当審の拒絶理由
当審における拒絶理由通知で通知した特許法第36条第4項及び第6項についての拒絶の理由は、以下のとおりである。
「本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

本願の請求項6に係る発明の構成が不明確である。また、発明の詳細な説明の項には、請求項6に係る発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(1)請求項6に係る発明に対応する明細書の記載の箇所が不明瞭である。段落20の後半「また、ウエハ10の裏面での研削目の方向を調節することによって、・・・。ウエハ10から一定方向にスライダーブロックを切り出しする場合のように、ウエハ10で特定の方向性を設定する必要がある場合には研削目の方向を適宜選択して加工することもできる。」であるのか?
(2)段落19の「オリフラ側」の意味が不明である。
(3)「スライダーブロックはオリフラ側に直角方向を長手方向として切り出しする。」(段落20の前半)と記載され、また、「オリフラ側と直角方向に研削した場合」に反り量が少ない(段落19後半、段落20前半)旨記載されている。これらの記載によれば、「オリフラ」との関係により反り量が変化するとしても、スライダーブロックの切り出し方向と研削方向との関係には特に技術的意義がないものと理解される。
(4)(略)」

2 請求人の主張
これに対して、請求人は、上記手続補正書により、補正前の請求項1の構成に、補正前の請求項6の構成を付加する補正を行うとともに、請求項の補正に対応した「課題を解決するための手段」の段落の補正を行い、上記意見書において、「ワークを複数の磁気ヘッド素子が配列されたスライダーブロックに切り出す方向と平行な方向に前記ワークの裏面を研削すること」について説明して、作用効果を主張している。

3 判断
しかしながら、補正された明細書の記載及び上記意見書を検討しても、上記拒絶の理由で指摘した以下の点は、依然として解消していない。以下、詳細に検討する。
[(1)について] 依然として、本願発明に対応する明細書の記載がないので、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
[(3)について] 本願明細書の段落19及び段落20の記載に対して、請求人は、意見書において、オリフラの向きに平行な方向に研削することがよいこと、及びスライダブロックに切り出す方向はオリフラの向きに平行な方向であること(上記第2の2の(2)参照。)を、根拠に主張している。これは、好ましい研削方向を、直角方向ではなく平行方向とし、またスライダブロック切り出し方向を、直角方向ではなく平行方向として、作用効果の根拠を説明するものであり、明細書の記載と意見書の主張は、全く違う研削方向がよいとするものである。よって、明細書には、作用効果の根拠となる記載がないことは明らかであり、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないものである。また、明細書又は意見書の主張のように、「オリフラ」又は「アルミナの量の多少」との関係により反り量が変化するとしても、スライダーブロックの切り出し方向と研削方向との関係には特に技術的意義がないことが明らかであり、本願発明の「ワークを複数の磁気ヘッド素子が配列されたスライダーブロックに切り出す方向と平行な方向に前記ワークの裏面を研削すること」の構成及びその作用効果が不明である。

第4 むすび
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-15 
結審通知日 2006-06-20 
審決日 2006-07-06 
出願番号 特願平10-251385
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G11B)
P 1 8・ 537- WZ (G11B)
P 1 8・ 121- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 重幸  
特許庁審判長 小林 秀美
特許庁審判官 片岡 栄一
中村 豊
発明の名称 磁気ヘッドの製造方法  
代理人 綿貫 隆夫  
代理人 堀米 和春  

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