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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08J 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C08J |
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管理番号 | 1142777 |
審判番号 | 不服2002-1092 |
総通号数 | 82 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-03-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-01-21 |
確定日 | 2006-08-23 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第521740号「水性流体を獲得および分配するための有用な高内部相エマルジョンから作られた吸収性フォーム」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 7月18日国際公開、WO96/21681、平成11年 3月23日国内公表、特表平11-503177〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
[1].手続きの経緯 本願は、1996年1月11日にした国際出願(優先日 1995年1月10日 米国)であり、平成12年12月14日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成13年6月21日に手続補正書及び意見書が提出されたが、平成13年10月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成14年1月21日に審判請求がなされ、平成14年2月20日に手続補正書が提出され、平成17年8月25日付けで審尋がなされ、平成17年11月30日に回答書が提出されたものである。 [2].補正却下の決定 [結論] 平成14年2月20日付けの手続補正を却下する。 [理由] 平成14年2月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は拒絶査定不服の審判の請求の日から30日以内にしたものである。 本件補正には、補正前の特許請求の範囲の請求項10を請求項9に繰り上げ、以下のようにする補正が含まれている。 「水性流体を獲得および分配し得る吸収性ポリマーフォーム材を製造するための方法であって、 A)50℃以上の範囲の温度および低い剪断攪拌下で、 1)油相であって、 a)35℃以下のTg値を有する共重合体を生成し得るモノマー成分にして、 i)25℃以下のTgを有するアタクチック非晶質ポリマーを生成し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性モノマー約30ないし約80重量%、 ii)スチレンによって提供される粘り強さとほぼ同等の粘り強さを付与し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性コモノマー5ないし40重量%、 iii)ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、ジビニルアルキルベンゼン、ジビニルフェナンスレン、ジビニルビフェニル、ジビニルジフェニルメタン、ジビニルベンジル、ジビニルフェニルエーテル、ジビニルジフェニルスルフィド、ジビニルフラン、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホンおよびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる第1の実質的に水不溶性の多官能性架橋剤5ないし25重量%、および iv)多官能性アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる第2の実質的に水不溶性の多官能性架橋剤0ないし15重量% を含むモノマー成分85ないし98重量%、および b)該油相中に可溶であり、かつ安定な油中水型エマルジョンを生成するに適した乳化成分であって、(i)線状不飽和C16〜C22脂肪酸のジグリセロールモノエステル、分枝C16〜C24脂肪酸のジグリセロールモノエステル、分枝C16〜C24アルコールのジグリセロールモノ脂肪族エーテル、線状不飽和C16〜C22脂肪アルコールのジグリセロールモノ脂肪族エーテル、線状飽和C12〜C14アルコールのジグリセロールモノ脂肪族エーテル、線状不飽和C16〜C22脂肪酸のソルビタンモノエステル、分枝C16〜C24脂肪酸のソルビタンモノエステル、およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれ、該乳化成分の少なくとも40重量%を有する一次乳化剤と二次乳化剤との組合わせを包含するか、または(ii)該乳化成分の少なくとも約20重量%を有する一次乳化剤と、長鎖C12〜C22ジ脂肪族、短鎖C1 〜C4 ジ脂肪族第四アンモニウム塩、長鎖C12〜C22ジアルコイル(アルケノイル)-2-ヒドロキシエチル、短鎖C1〜C4ジ脂肪族第四アンモニウム塩、長鎖C12〜C22ジ脂肪族イミダゾリニウム第四アンモニウム塩、短鎖C1 〜C 4ジ脂肪族、長鎖C12〜C22モノ脂肪族ベンジル第四アンモニウム塩、およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる二次乳化剤との組合せであって、一次乳化剤対二次乳化剤の重量比が約50:1ないし約1:4である組合わせを包含する乳化成分2ないし15重量% を包含する油相、並びに 2) (a)水溶性電解質0.2ないし20重量%、および(b)効果量の重合開始剤を含有する水相 であって、 3)該水相対該油相の重量比が、12:1ないし125:1である ものから油中水型エマルジョンを生成させる工程、および B)該油中水型エマルジョン中の該モノマー成分を重合させてポリマーフォーム材を生成させる工程 を含むフォーム材の製造方法。」 上記補正は、補正前の請求項10の、 「水性流体を獲得および分配し、以下の特性(A)〜(F): (A)120秒未満内で5cmの高さまで合成尿を垂直に吸い上げる能力、 (B)5ないし25cmの毛管吸収圧、 (C)8ないし40cmの毛管脱着圧、 (D)5.1kPaの閉じ込め圧下で測定したとき、5ないし85%の耐圧縮たわみ性、 (E)12ないし125g/gの自由吸収容量 (F)少なくとも60%の湿り圧縮からの回復 を有する吸収性ポリマーフォーム材を製造するための方法であって、」を 「水性流体を獲得および分配し得る吸収性ポリマーフォーム材を製造するための方法であって、」 と補正するものであるが、これにより「吸収性ポリマーフォーム材」は(A)〜(F)の特性を有しないものをも包含することとなり、このような補正が発明を特定するために必要な事項を限定するためのものということはできないから、当該補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、また、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするもの)のいずれかを目的とするものでもない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [3].本願発明 上記のとおり平成14年2月20日付けの手続補正は却下された。 本願の請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、本件補正前に提出された平成13年6月21日付けの手続補正書によって補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「水性流体を獲得及び分配し、以下の特性(A)〜(F): (A)120秒未満内で5cmの高さまで合成尿を垂直に吸い上げる能力、 (B)5ないし25cmの毛管吸収圧、 (C)8ないし40cmの毛管脱着圧、 (D)5.1kPaの閉じ込め圧下で測定したとき、5ないし85%の耐圧縮たわみ性、 (E)12ないし125g/gの自由吸収容量 (F)少なくとも60%の湿り圧縮からの回復 を有する吸収性ポリマーフォーム材を製造するための方法であって、 A)50℃以上の範囲の温度および低い剪断攪拌下で、 1)油相であって、 a)35℃以下のTg値を有する共重合体を生成し得るモノマー成分にして、 i)25℃以下のTgを有するアタクチック非晶質ポリマーを生成し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性モノマー約30ないし約80重量%、 ii)スチレンによって提供される粘り強さとほぼ同等の粘り強さを付与し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性コモノマー5ないし40重量%、 iii)ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、ジビニルアルキルベンゼン、ジビニルフェナンスレン、ジビニルビフェニル、ジビニルジフェニルメタン、ジビニルベンジル、ジビニルフェニルエーテル、ジビニルジフェニルスルフィド、ジビニルフラン、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホンおよびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる第1の実質的に水不溶性の多官能性架橋剤5ないし25重量%、および iv)多官能性アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる第2の実質的に水不溶性の多官能性架橋剤0ないし15重量% を含むモノマー成分85ないし98重量%、および b)該油相中に可溶であり、かつ安定な油中水型エマルジョンを生成するに適した乳化成分であって、(i)線状不飽和C16〜C22脂肪酸のジグリセロールモノエステル、分枝C16〜C24脂肪酸のジグリセロールモノエステル、分枝C16〜C24アルコールのジグリセロールモノ脂肪族エーテル、線状不飽和C16〜C22脂肪アルコールのジグリセロールモノ脂肪族エーテル、線状飽和C12〜C14アルコールのジグリセロールモノ脂肪族エーテル、線状不飽和C16〜C22脂肪酸のソルビタンモノエステル、分枝C16〜C24脂肪酸のソルビタンモノエステル、およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれ、該乳化成分の少なくとも40重量%を有する一次乳化剤を包含するか、または(ii)該乳化成分の少なくとも約20重量%を有する一次乳化剤と、長鎖C12〜C22ジ脂肪族、短鎖C1 〜C4 ジ脂肪族第四アンモニウム塩、長鎖C12〜C22ジアルコイル(アルケノイル)-2-ヒドロキシエチル、短鎖C1 〜C4 ジ脂肪族第四アンモニウム塩、長鎖C12〜C22ジ脂肪族イミダゾリニウム第四アンモニウム塩、短鎖C1 〜C 4ジ脂肪族、長鎖C12〜C22モノ脂肪族ベンジル第四アンモニウム塩、およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる二次乳化剤との組合せであって、一次乳化剤対二次乳化剤の重量比が約50:1ないし約1:4である組合わせを包含する乳化成分2ないし15重量% を包含する油相、並びに 2) (a)水溶性電解質0.2ないし20重量%、および(b)効果量の重合開始剤を含有する水相であって、 3)該水相対該油相の重量比が、12:1ないし125:1である ものから油中水型エマルジョンを生成させる工程、および B)該油中水型エマルジョン中の該モノマー成分を重合させてポリマーフォーム材を生成させる工程 を含むフォーム材の製造方法。」 [4].原審の拒絶理由 原審において平成12年12月14日付けで通知された特許法第29条第1項第3号違反の拒絶理由1.には、次の文献(以下、「引用例」という。)が引用され、引用例には以下の点が記載されている。 引用例:特表平6-510075号公報 <引用例の記載事項> (ア)「水性体液を吸収し且つ保持するのに特に好適な高分子フォーム材料(ここで、該フォーム材料は好ましくは37℃の合成尿での飽和時に少なくとも1サイクルの曲げ値を示し且つ相互連結連続気泡の親水性可撓性構造物からなる)であって、該構造物が、吸収剤としての使用の時点において、 A)細孔容積12〜100、好ましくは20〜70ml/g; B)毛管吸引によって測定した時の比表面積0.5〜5.0、好ましくは0.75〜4.5m2 /g;および C)閉込圧力5.1kPaが表面張力65±5ダイン/cmを有する合成尿で37℃において自由吸収能力に飽和する時に15分後に構造物の圧縮5%〜95%、好ましくは5〜75%のひずみを生ずるような耐圧縮撓み性 を有することを特徴とする高分子フォーム材料。」(請求の範囲の請求項1) (イ)「(A)フォーム材料の構造物が a)(i)実質上水不溶性の単官能ガラス状単量体成分(ただし、好ましくは1種以上のスチレンをベースとする単量体型を含む)3〜41重量%、好ましくは7〜40重量%; (ii)実質上水不溶性の単官能ゴム状コモノマー成分(好ましくはアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、ブタジエン、イソプレンおよびこれらのコモノマー型の組み合わせから選ばれるコモノマー型を含む)27〜73重量%、好ましくは27〜66重量%; (iii)油相中の単官能ガラス状単量体成分対単官能ゴム状コモノマーのモル比が好ましくは約1:25から1.5:1の範囲内であり; (iv)実質上水不溶性の架橋剤成分(好ましくはジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジアリルフタレート、ポリオールの1種以上のジアクリル酸エステルまたはこのような二官能単量体型の組み合わせから選ばれる二官能単量体型を含み、最も好ましくはジビニルベンゼンを含む)8〜30重量%、好ましくは10〜25重量%; (v)油相に可溶性であり且つ安定な油中水型乳濁液を調製するのに好適である乳化剤成分(ただし、該乳化剤成分が好ましくはソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセロール脂肪酸エステル、ポリオキシエレン脂肪酸およびエステルおよびこのような乳化剤の組み合わせから選ばれる乳化剤からなり、最も好ましくはモノオレエート対トリオレエートの重量比2:1から5:1のソルビタンモノオレエートとソルビタントリオレエートからなる)2〜33重量%、好ましくは4〜25重量%、 を含む油相;および (b)水溶性電解質(好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の1種以上の水溶性塩を含み、最も好ましくは塩化カルシウムを含む)0.2〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%を含有し且つ好ましくは水溶性遊離基重合開始剤0.02〜0.4重量%、好ましくは0.1〜0.2重量%を更に含有する水溶液を含む水相(ただし、前記乳濁液を調製する前記水相対前記油相の重量比は12:1から100:1、好ましくは20:1から70:1である) から調製される油中水型乳濁液を重合するとによって(註:「とによって」は「ことによって」の誤記と認める。)製造し;且つ B)フォーム材料の構造物は構造物が表面張力65±5ダイン/cmを有する合成尿を吸収する時に15〜65、好ましくは20〜65ダイン/cmの接着張力を示す程度まで親水性である ことを特徴とする、請求項1に記載のフォーム材料。」(請求の範囲の請求項2) (ウ)「技術分野 本発明は、材料をおむつ、成人失禁用ガーメント、ベッドパッド、パンティーライナー、スエットバンド、靴ライナーなどの体液(例えば、尿)吸収性物品で使用するのに特に好適にさせる流体吸収/保持特性を有する可撓性微孔性連続気泡高分子フォーム材料に関する。」(第3頁右下欄5〜10行) (エ)「C)分配 本発明の吸収性フォーム構造物は、しばしば、排泄された体液を獲得し、分布し且つ/または貯蔵する際に関与してもよい他の種類の吸収性構造物と一緒に吸収性物品で利用されるであろう。本発明のフォーム構造物が主として吸収性物品で流体貯蔵/再分布部品として役立つべきである文脈においては、このようなフォームが体液を吸収してもいる他の吸収性部品から体液をフォーム構造物内に引く傾向を有することが望ましい。他の吸収性物品部品からの流体を水切りするこのような傾向は、技術上「分配」として既知である。」(第12頁左上欄11〜21行) (オ)「A)HIPE乳濁液の調製 本発明の好ましいフォーム吸収性材料へのHIPE乳濁液前駆体は、前記のような油相を前記のような水相と合わせることによって調製できる。水相対油相の重量比およびこのような組み合わせは、一般に、約12:1から100:1、より好ましくは約20:1から70:1であろう。」(第15頁右下欄2〜8行) (カ)「HIPE乳濁液は、油相と水相との組み合わせを剪断攪拌に付すことによって、合わせた水相および油相から調製できる。剪断攪拌は、一般に、合わせた油相および水相から安定な乳濁液を調製するのに必要な程度まで且つ必要な時間適用する。」(第15頁右下欄17〜21行) (キ)「・・・重合条件は、HIPE乳濁液を約55〜90℃、より好ましくは約60〜66℃の高温に・・・維持することを含むであろう。」(第16頁右上欄15〜18行) (ク)「A)耐圧縮撓み性 耐圧縮撓み性は、閉込圧力0.74psi(3.1(註:第20頁左上欄末行及び第24頁表Iの記載からみて、「3.1」は「5.1」の誤記と認められる。)kPa)の形の応力を試料に適用した後に、合成尿で飽和されたフォーム試料で生ずるひずみの量(カリバー減少率)を測定することによって本発明の目的で定量化できる。-中略- 篩上の飽和フォーム試料は、閉込圧力0.74psi(5.1kPa)に15分間付す。」(第19頁右下欄21行〜第20頁左上欄末行) (ケ)「C)圧縮撓みからの回復 圧縮撓みからの回復を試験するために、・・・フォーム試料が、使用される。このような試料は、横断面円形面積6.45cm2(1平方インチ)を有する0.8cm厚のシリンダーである。-中略- ダイヤル型ゲージを使用して、乾燥または湿潤のどちらかの試験試料は、10秒以内で元の厚さの50%に圧縮し、圧縮状態を1分間維持する。次いで、圧力は解除し、且つフォームは厚さを1分間回復させる。回復率は、非圧縮フォームの元の高さに基づく。」(第20頁右上欄20行〜同頁左下欄8行) (コ)「A)吸収能力 -中略- この試験においては、フォーム試料は、合成尿試験液体で飽和してフォーム試料の非荷重または自由吸収能力を測定する。-中略- ii)・・・フォーム試料を1平方インチ(6.5cm2)×0.3インチ(0.8cm)厚のシリンダーに切断する。-中略- d)自由吸収能力(FAC,g/gを次の通り計算する。 FAC=飽和フォーム中の合成尿重量/フォーム乾燥重量」(第20頁左下欄16行〜第21頁左上欄20行) (サ)「B)垂直灯心作用速度および垂直灯心作用吸収能力 垂直灯心作用速度および垂直灯心作用吸収能力は、流体を溜めから垂直に灯心作用する乾燥フォームの能力の尺度である。-中略- 2)垂直灯心作用速度 ・・・iii)流体フロントが5cmに達するのにかかる時間を記録する。」(第21頁左下欄9行〜同頁右下欄18行) (シ)「実施例 HIPE吸収性フォーム材料の調製、このようなフォーム材料の特性および使い捨ておむつでのこれらのフォーム吸収剤の利用は、すべて下記の例によって例示する。 例 I 半パイロットプラント規模での好ましいHIPEフォーム吸収剤の調製は、本例によって例示する。 乳濁液調製 塩化カルシウム(320g)および過硫酸カリウム(48g)を蒸留水32リットルに溶解する。これは、HIPE乳濁液を調製するために使用する水相を与える。 スチレン(420g)とジビニルベンゼン(660g)とアクリル酸2-エチルヘキシル(1920g)とからなる単量体組み合わせにソルビタンモノオレエート(スパンR80として450g)およびソルビタントリオレエート(スパンR85として150g)を加える。混合後、これは、HIPE乳濁液の調製で使用する油相を構成する。 55℃〜65℃の範囲内の液体温度において、油相および水相の別個の流れを動的混合室に供給する。動的混合室内での合わせた流れの十分な混合は、ピン羽根車によって達成される。-中略- 羽根車は、900rpmの速度で操作する。 静的ミキサー・・・は、動的混合室から更に下流に装着して若干の背圧を与えるのを助長する。このことは、ピン羽根車を有する円筒状スリーブを具備する動的混合室を完全に保つのを助長する。このことも、油相と水相との適当な完全な混合を保証するのを助長する。 水相対油相の必要な比率を有する乳濁液に徐々に近づく。最初に、流量は、水相3重量部および油相1重量部がピン羽根車を有する動的混合室に入るように調整する。水相12〜13部対油相1部の比率が動的混合室内に15ml/秒の速度で通過するまで、水相対油相比を多少の分にわたって増大する。徐々に、油流量は、水相/油相重量比が25:1に近くなるように減少する。この段階で、静的ミキサーから流れ出る乳濁液の粘度は、低下する(目視的に、やや白い混合物は、この時点でより半透明になる)。 その後、油相の流量は、水相/油相重量比が30〜33:1である点まで更に減少する。目視的に、この段階の乳濁液は、ホイップクリームのコンシステンシーで静的ミキサーオリフィスから流れ、クリーム状ヨーグルトを思い出させるコンシステンシーに「セット」する。 乳濁液の重合 この時点で、静的ミキサーから現われ出る乳濁液は、硬化の準備ができている。乳濁液を、ポリエチレン製であり且つ長さ38cm、幅25cm、深さ22cmの寸法を有する一般に長方形の型に供給する。各型が硬化すべき乳濁液約20,000mlを含有するまで、乳濁液を空にしてこのような型に入れる。 硬化は、乳濁液含有型を60℃の温度で硬化オーブンに約16時間入れることによって行う。硬化後、得られた固体重合フォーム材料は、水98%までを含有し且つ手ざわりが柔軟であり且つびしょぬれである。」(第22頁左下欄18行〜第23頁右上欄12行) (ス)「例III 本例においては、例IおよびIIの一般法に従って調製されたHIPEフォーム試料を構造的性質、機械的性質および流体取扱性について試験する。-中略- このような試験の結果を次の通り表Iに総括する。」(第23頁右下欄21行〜第24頁左上欄4行) (セ)表Iには、「閉込圧力5.1kPa下でのひずみ:第Iフォーム=52%、第IIフォーム=31%」、「圧縮50%からの回復率:第Iフォーム=95%、第IIフォーム=94%」、「所定圧力下での吸収能力 0.0kPa(0.0psi):第Iフォーム=35.9ml/g、第IIフォーム=31.5ml/g(註:第21頁左上欄17〜20行の記載からみて「ml/g」は「g/g」の誤記と認める。)」及び「5cmへの垂直灯心作用時間:第Iフォーム=105ml/g、第IIフォーム=120ml/g(註:第21頁右下欄11〜18行の記載からみて「ml/g」は時間の単位である「秒」の誤記と認める。)」とのデータが示されている。 [5].対比・判断 引用例には、その請求の範囲の請求項1に 「水性体液を吸収し且つ保持するのに特に好適な高分子フォーム材料(ここで、該フォーム材料は好ましくは37℃の合成尿での飽和時に少なくとも1サイクルの曲げ値を示し且つ相互連結連続気泡の親水性可撓性構造物からなる)であって、該構造物が、吸収剤としての使用の時点において、 A)細孔容積12〜100、好ましくは20〜70ml/g; B)毛管吸引によって測定した時の比表面積0.5〜5.0、好ましくは0.75〜4.5m2 /g;および C)閉込圧力5.1kPaが表面張力65±5ダイン/cmを有する合成尿で37℃において自由吸収能力に飽和する時に15分後に構造物の圧縮5%〜95%、好ましくは5〜75%のひずみを生ずるような耐圧縮撓み性 を有することを特徴とする高分子フォーム材料」(摘示記載(ア)) が記載されており、同請求項2には、 「(A)フォーム材料の構造物が a)(i)実質上水不溶性の単官能ガラス状単量体成分(ただし、好ましくは1種以上のスチレンをベースとする単量体型を含む)3〜41重量%、好ましくは7〜40重量%; (ii)実質上水不溶性の単官能ゴム状コモノマー成分(好ましくはアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、ブタジエン、イソプレンおよびこれらのコモノマー型の組み合わせから選ばれるコモノマー型を含む)27〜73重量%、好ましくは27〜66重量%; (iii)油相中の単官能ガラス状単量体成分対単官能ゴム状コモノマーのモル比が好ましくは約1:25から1.5:1の範囲内であり; (iv)実質上水不溶性の架橋剤成分(好ましくはジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジアリルフタレート、ポリオールの1種以上のジアクリル酸エステルまたはこのような二官能単量体型の組み合わせから選ばれる二官能単量体型を含み、最も好ましくはジビニルベンゼンを含む)8〜30重量%、好ましくは10〜25重量%; (v)油相に可溶性であり且つ安定な油中水型乳濁液を調製するのに好適である乳化剤成分(ただし、該乳化剤成分が好ましくはソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセロール脂肪酸エステル、ポリオキシエレン脂肪酸およびエステルおよびこのような乳化剤の組み合わせから選ばれる乳化剤からなり、最も好ましくはモノオレエート対トリオレエートの重量比2:1から5:1のソルビタンモノオレエートとソルビタントリオレエートからなる)2〜33重量%、好ましくは4〜25重量%、 を含む油相;および (b)水溶性電解質(好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の1種以上の水溶性塩を含み、最も好ましくは塩化カルシウムを含む)0.2〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%を含有し且つ好ましくは水溶性遊離基重合開始剤0.02〜0.4重量%、好ましくは0.1〜0.2重量%を更に含有する水溶液を含む水相(ただし、前記乳濁液を調製する前記水相対前記油相の重量比は12:1から100:1、好ましくは20:1から70:1である) から調製される油中水型乳濁液を重合するとによって(註:「とによって」は「ことによって」の誤記と認める。)製造し;且つ B)フォーム材料の構造物は構造物が表面張力65±5ダイン/cmを有する合成尿を吸収する時に15〜65、好ましくは20〜65ダイン/cmの接着張力を示す程度まで親水性である ことを特徴とする、請求項1に記載のフォーム材料」(摘示記載(イ))が記載されている。 また、引用例には、引用例に係る発明のフォーム構造物が、排泄された体液を獲得し、分布し且つ/または貯蔵する際に関与し得る他の種類の吸収性構造物と一緒に吸収性物品で利用されること、及び、他の吸収性物品部品からの流体を水切りする「分配」として既知である傾向を有することが望ましいこと(摘示記載(エ))も記載されている。 そうすると、引用例の請求の範囲には、水性流体を獲得及び分配し、特定の性質を有する吸収性ポリマーフォーム材を製造するための方法であって、モノマー成分及び乳化剤成分を含有する油相及び水溶性電解質及び開始剤を含有する水相から調製される油中水型エマルジョン中のモノマー成分を重合する方法である点で本願発明と軌を一にする発明が記載されているものということができる。 そこで、より詳細に以下の点について本願発明と引用例に記載された発明とを対比する。 (1)油相 本願発明においては油相について 「a)35℃以下のTg値を有する共重合体を生成し得るモノマー成分にして、 i)25℃以下のTgを有するアタクチック非晶質ポリマーを生成し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性モノマー約30ないし約80重量%、 ii)スチレンによって提供される粘り強さとほぼ同等の粘り強さを付与し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性コモノマー5ないし40重量%、 iii)ジビニルベンゼン・・・およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる第1の実質的に水不溶性の多官能性架橋剤5ないし25重量%、および iv)多官能性アクリレート・・・およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる第2の実質的に水不溶性の多官能性架橋剤0ないし15重量%を含むモノマー成分85ないし98重量%、および b)該油相中に可溶であり、かつ安定な油中水型エマルジョンを生成するに適した乳化成分であって、(i)・・・線状不飽和C16〜C22脂肪酸のソルビタンモノエステル、分枝C16〜C24脂肪酸のソルビタンモノエステル、およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれ、該乳化成分の少なくとも40重量%を有する一次乳化剤を包含するか、または(ii)該乳化成分の少なくとも約20重量%を有する一次乳化剤と、長鎖C12〜C22ジ脂肪族、短鎖C1 〜C4 ジ脂肪族第四アンモニウム塩、・・・およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる二次乳化剤との組合せであって、一次乳化剤対二次乳化剤の重量比が約50:1ないし約1:4である組合わせを包含する乳化成分2ないし15重量% を包含する油相」 と規定されているが、a)iv)の「第2の実質的に水不溶性の多官能性架橋剤」は0%の場合を含むから必須の成分ではなく、また、b)については(i)及び(ii)の内から、一次乳化剤を少なくとも40重量%含有する(i)の乳化成分を選択し得るものである。 一方、引用例には油相について、 「a)(i)実質上水不溶性の単官能ガラス状単量体成分(ただし、好ましくは1種以上のスチレンをベースとする単量体型を含む)3〜40重量%、好ましくは7〜40重量%; (ii)実質上水不溶性の単官能ゴム状コモノマー成分(好ましくはアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、ブタジエン、イソプレンおよびこれらのコモノマー型の組み合わせから選ばれるコモノマー型を含む)27〜73重量%、好ましくは27〜66重量%; (iii)油相中の単官能ガラス状単量体成分対単官能ゴム状コモノマーのモル比が好ましくは約1:25から1.5:1の範囲内であり; (iv)実質上水不溶性の架橋剤成分(好ましくはジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジアリルフタレート、ポリオールの1種以上のジアクリル酸エステルまたはこのような二官能単量体型の組み合わせから選ばれる二官能単量体型を含み、最も好ましくはジビニルベンゼンを含む)8〜30重量%、好ましくは10〜25重量%; (v)油相に可溶性であり且つ安定な油中水型乳濁液を調製するのに好適である乳化剤成分(ただし、該乳化剤成分が好ましくはソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセロール脂肪酸エステル、ポリオキシエレン脂肪酸およびエステルおよびこのような乳化剤の組み合わせから選ばれる乳化剤からなり、最も好ましくはモノオレエート対トリオレエートの重量比2:1から5:1のソルビタンモノオレエートとソルビタントリオレエートからなる)2〜33重量%、好ましくは4〜25重量%、 を含む油相」 と記載されている。 この内、(i)の「実質上水不溶性の単官能ガラス状単量体成分」は「好ましくは1種以上のスチレンをベースとする単量体型を含む」とされているようにスチレンを適例とする単量体であるから、本願発明における「ii)スチレンによって提供される粘り強さとほぼ同等の粘り強さを付与し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性コモノマー」に相当するものであり、配合量範囲も重複している。 (ii)の「実質上水不溶性の単官能ゴム状コモノマー成分」はアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のモノマーであり、本願明細書の請求項13に「モノマー(i)が、ブチルアクリレート、・・・、2-エチルヘキシルアクリレート、・・・、およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれることを特徴とする請求項12記載の方法」と記載されているところからみて、本願発明における「i)25℃以下のTgを有するアタクチック非晶質ポリマーを生成し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性モノマ」に相当するものであり、配合量範囲も重複している。 (iv)の「実質上水不溶性の架橋剤成分」はジビニルベンゼンが好適例とされているところから本願発明の「iii)ジビニルベンゼン・・・およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる第1の実質的に水不溶性の多官能性架橋剤」に相当するものであり、配合量範囲も重複している。 (v)の「油相に可溶性であり且つ安定な油中水型乳濁液を調製するのに好適である乳化剤成分」はモノオレエート対トリオレエートの重量比2:1から5:1(即ち、両者の合計に対してモノオレエートが66.7〜83.3重量%)のソルビタンモノオレエートとソルビタントリオレエートからなるものが好ましいとされているところから本願発明のb)の「該油相中に可溶であり、かつ安定な油中水型エマルジョンを生成するに適した乳化成分であって、(i)・・・線状不飽和C16〜C22脂肪酸のソルビタンモノエステル・・・およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれ、該乳化成分の少なくとも40重量%を有する一次乳化剤」に相当するものであり、油相中の乳化剤成分の配合量範囲も重複している。 そして、上記のように、引用例に(i)、(ii)及び(iv)の成分として具体的に記載されたスチレン、アクリル酸2-エチルヘキシル及びジビニルベンゼンは、それぞれ本願発明の「ii)スチレンによって提供される粘り強さとほぼ同等の粘り強さを付与し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性コモノマー」、「i)25℃以下のTgを有するアタクチック非晶質ポリマーを生成し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性モノマー」及び「iii)ジビニルベンゼン、・・・、およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる第1の実質的に水不溶性の多官能性架橋剤」に該当するものであり、これらの成分の組合せは引用例の例I(摘示記載(シ))及び本願明細書の例1のいずれの実施例においても用いられているから、引用例の(i)、(ii)及び(iv)は、本願発明における「a)35℃以下のTg値を有する共重合体を生成し得るモノマー成分であって」という構成要件を満たすものということができる。 (2)水相 本願発明においては水相について 「(a)水溶性電解質0.2ないし20重量%、および(b)効果量の重合開始剤を含有する水相」と規定されている。 一方、引用例には水相について 「(b)水溶性電解質(好ましくはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の1種以上の水溶性塩を含み、最も好ましくは塩化カルシウムを含む)0.2〜40重量%、好ましくは0.5〜20重量%を含有し且つ好ましくは水溶性遊離基重合開始剤0.02〜0.4重量%、好ましくは0.1〜0.2重量%を更に含有する水溶液を含む水相」 と記載されている。 そうすると、いずれの水相も、水溶性電解質及び重合開始剤を含有する点で一致しており、水溶性電解質の配合量範囲も重複している。また、引用例に記載された水溶性遊離基重合開始剤の「0.02〜0.4重量%」という配合量が重合開始剤としての効果を発現し得る量範囲を規定したものであることは明らかであるから、重合開始剤を「効果量」用いる点でもこれらの間に差異はない。 (3)油中水型エマルジョンの生成 本願発明においては、油中水型エマルジョンの生成について「50℃以上の範囲の温度および低い剪断攪拌下で」、「該水相対該油相の重量比が、12:1ないし125:1であるものから生成させる」ことが規定されている。 この点について引用例には、「乳濁液を調製する前記水相対前記油相の重量比は12:1から100:1、好ましくは20:1から70:1」と記載されており、水相と油相の重量比範囲は重複している。そして、水相と油相からの乳濁液の調製について引用例には「剪断攪拌は、一般に、合わせた油相および水相から安定な乳濁液を調製するのに必要な程度まで且つ必要な時間適用する」(摘示記載(カ))ことが記載されており、この剪断攪拌は「安定な乳濁液を調製するのに必要な程度の剪断攪拌」であるという点で、本願発明における「低い剪断攪拌」と同程度のものを意味するものと解される。また、剪断攪拌における温度条件は、引き続く重合反応の処理条件と密接な関連性を有するものであり、引用例の「重合条件は、HIPE乳濁液を約55〜90℃、より好ましくは約60〜66℃の高温に・・・維持することを含むであろう」(摘示記載(キ))との記載からみて剪断攪拌における温度は本願発明と同様「50℃以上の範囲の温度」が採用されるものと解され、このことは、引用例の実施例Iにおいて「55℃〜65℃の範囲内の液体温度において油相および水相の別個の流れが動的混合される」ことによっても裏付けられている。 以上のとおり、本願発明と引用例に記載された発明とは、ともに、水性流体を獲得及び分配し、特定の性質を有する吸収性ポリマーフォーム材を製造するための方法であって、モノマー成分及び乳化剤成分を含有する油相及び水溶性電解質及び開始剤を含有する水相から調製される油中水型エマルジョン中のモノマー成分を重合する方法であり、油相及び水相の成分及び配合量について一致し、更に、50℃以上の範囲の温度および低い剪断攪拌下で水相対油相の重量比が12:1ないし125:1であるものからエマルジョンを生成させる点でも一致している。 しかしながら、吸収性ポリマーフォーム材が以下の(A)〜(F)の特性を有するという本願発明の構成について引用例には明示されていない点で、本願発明と引用例に記載された発明との間には相違が認められる。 「(A)120秒未満内で5cmの高さまで合成尿を垂直に吸い上げる能力、 (B)5ないし25cmの毛管吸収圧、 (C)8ないし40cmの毛管脱着圧、 (D)5.1kPaの閉じ込め圧下で測定したとき、5ないし85%の耐圧縮たわみ性、 (E)12ないし125g/gの自由吸収容量 (F)少なくとも60%の湿り圧縮からの回復」 この点について検討すると、上記のように原料及び製法において本願発明と一致している引用例に記載された発明のフォーム材は、物性においても本願発明のフォーム材と同等のものと解されるから、本願発明における(A)〜(F)の特性は、引用例に記載された発明も当然備えているものというほかはない。 このことは、引用例の実施例のより具体的な記載からも明らかである。 即ち、引用例の例I(摘示記載(シ))には、本願発明の「水溶性電解質」及び「重合開始剤」にそれぞれ相当する塩化カルシウム(320g)及び過硫酸カリウム(48g)を蒸留水32リットルに溶解して水相とし、また、本願発明の「a)i)25℃以下のTgを有するアタクチック非晶質ポリマーを生成し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性モノマー」、「a)ii)スチレンによって提供される粘り強さとほぼ同等の粘り強さを付与し得る実質的に水不溶性の少なくとも1種の一官能性コモノマー」、「a)iii)ジビニルベンゼン、・・・、およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれる第1の実質的に水不溶性の多官能性架橋剤」及び「b)(i)・・・線状不飽和C16〜C22脂肪酸のソルビタンモノエステル、・・・、およびそれらの混合物からなる群の中から選ばれ、該乳化成分の少なくとも40重量%を有する一次乳化剤」にそれぞれ相当する「アクリル酸2-エチルヘキシル(1920g)」、「スチレン(420g)」、「ジビニルベンゼン(660g)」及び「ソルビタンモノオレエート(スパンR80として450g)およびソルビタントリオレエート(スパンR85として150g)」を混合して油相を調製することが記載されている。 水相における水溶性電解質の配合量、油相におけるモノマー、コモノマー及び多官能性架橋剤の配合量についてみると、引用例の例Iに記載されたものは本願発明で規定された範囲に含まれている。ただ、ソルビタンモノオレエートとソルビタントリオレエートからなる乳化剤成分については、これらをもたらす「スパンR80(450g)」と「スパンR85(150g)」の合計量は油相成分中の16.7重量%((450+150)/(1920+420+660+450+150)=0.167)であり本願発明の「2ないし15重量%」という範囲をわずかに逸脱するが、「スパンR80」及び「スパンR85」は製品名であってそれぞれソルビタンモノオレエート及びソルビタントリオレエートそのものではなく、これら以外の成分も若干包含するものと解されるから、引用例の例Iにおいて、ソルビタンモノオレエートとソルビタントリオレエートの合計量、即ち乳化剤成分の油相中の配合量は、実質的に本願発明と重複するものというべきである。 また、混合及び重合について引用例の例Iには、「55℃〜65℃の範囲内の液体温度において、油相および水相の別個の流れを動的混合室に供給する。動的混合室内での合わせた流れの十分な混合は、ピン羽根車によって達成される。水相対油相の必要な比率を有する乳濁液に徐々に近づく。最初に、流量は、水相3重量部および油相1重量部がピン羽根車を有する動的混合室に入るように調整する。水相12〜13部対油相1部の比率が動的混合室内に15ml/秒の速度で通過するまで、水相対油相比を多少の分にわたって増大する。徐々に、油流量は、水相/油相重量比が25:1に近くなるように減少する。・・・その後、油相の流量は、水相/油相重量比が30〜33:1である点まで更に減少する。・・・乳濁液を・・・型に供給する。・・・硬化は、乳濁液含有型を60℃の温度で硬化オーブンに約16時間入れることによって行う」(摘示記載(シ))と記載されており、このような工程は、本願発明における「50℃以上の範囲の温度および低い剪断攪拌下」で「該水相対該油相の重量比が、12:1ないし125:1であるものから油中水型エマルジョンを生成させる工程、および、該油中水型エマルジョン中の該モノマー成分を重合させてポリマーフォーム材を生成させる工程」と一致している。 そして、引用例には、このようにして得られたポリマーフォーム材について構造的性質、機械的性質および流体取扱性について試験した結果が示されており(摘示記載(ス)、(セ))、それによれば、流体を溜めから垂直に灯心作用する乾燥フォームの能力の尺度であり、流体フロントが5cmに達するのにかかる時間である「垂直灯心作用速度」(摘示記載(サ))が105(註:単位は「秒」と解される。)、閉込圧力0.74psi(5.1kPa)の応力を試料に適用した後に、合成尿で飽和されたフォーム試料で生ずるひずみの量(カリバー減少率)である「耐圧縮撓み性」(摘示記載(ク))が52%、合成尿試験液体で飽和して測定したフォーム試料の自由吸収能力である「吸収能力」(摘示記載(コ))が35.9g/g(非荷重)、及び乾燥または湿潤のフォーム試料を10秒以内で元の厚さの50%に圧縮し、圧縮状態を1分間維持した後に圧力を解除しフォーム厚さを1分間回復させて測定した元の高さに対する回復率である「圧縮撓みからの回復」(摘示記載(ケ))が95%であるものと認められる。 これらの、「垂直灯心作用速度」、「耐圧縮撓み性」、「吸収能力」及び「圧縮撓みからの回復」の各特性は、その測定方法からみてそれぞれ本願発明における「(A)5cmの高さまで合成尿を垂直に吸い上げる能力」、「(D)5.1kPaの閉じ込め圧下で測定したときの耐圧縮たわみ性」、「(E)自由吸収容量」及び「(F)湿り圧縮からの回復」に相当するものと認められ、引用例に記載された数値はいずれも本願発明のこれらの特性値の範囲に包含されるものである。 引用例には例Iで得られたフォーム材が本願発明で規定する「(B)5ないし25cmの毛管吸収圧」及び「(C)8ないし40cmの毛管脱着圧」を満たすか否かについて記載されていないが、上記のように該フォーム材は原料及び製法の具体的レベルにおいて本願発明のフォーム材と一致しており、しかも、本願発明で規定する(A)、(D)、(E)及び(F)の特性を満たすものである以上、(B)及び(C)の要件を満たす蓋然性はきわめて高いものといわざるを得ない。 したがって、引用例に本願発明が記載されていることは、実施例の記載によっても裏付けられているものということができる。 ゆえに、本願発明は引用例に記載された発明である。 [6].むすび 以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-03-22 |
結審通知日 | 2006-03-28 |
審決日 | 2006-04-10 |
出願番号 | 特願平8-521740 |
審決分類 |
P
1
8・
572-
Z
(C08J)
P 1 8・ 113- Z (C08J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 邦彦 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
藤原 浩子 佐野 整博 |
発明の名称 | 水性流体を獲得および分配するための有用な高内部相エマルジョンから作られた吸収性フォーム |
代理人 | 橋本 良郎 |
代理人 | 風間 鉄也 |
代理人 | 白根 俊郎 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 坪井 淳 |