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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1142871
審判番号 不服2004-54  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-04-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-05 
確定日 2006-08-15 
事件の表示 平成 7年特許願第504505号「安全な皮下注射針」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 1月26日国際公開、WO95/02427、平成 9年 4月 8日国内公表、特表平 9-503400号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は1993年7月14日を国際出願日とする出願であって、その請求項15に係る発明は、平成14年12月18日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「下記の要素を備えている安全な皮下注射針。
a)液送用通路を有し、突き刺すために先端を尖らせてある針。
b)前記針の端部と接続され、注射器と係合しうるようになっており、かつ液が針を通過して注射器と針との間へ流れるようになっている受け口。
c)貫通孔または溝を有し、針の一部を覆い、かつ前記針は、前記貫通孔または溝を通過している中空体。
d)前記中空体と受け口との間にあるばね。
e)前記受け口と接続され、前方延長部を有し、かつ前記中空体と係合するようになっている少なくとも1つの支持部。
f)中空体を、ばねの張力に抗して、前記針の尖端から離して保持するようになっており、前記中空体が解放されると、前記中空体は、ばねの力で針に沿って前進し、少なくとも一部が前記針の尖端部を覆い、かつ前記支持部の前方延長部が中空体と係合して、中空体を、受け口の方へ後進させて、針の先端部を再露出することのないよう支持している保持手段。」
ただし、平成14年12月18日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項15には、上記f)について、「前記針の尖端から離して解放するようになっており」と記載されているが、本願明細書及び原文明細書の記載(「holding」)からみて、「解放」は、「保持」の誤りであることは明らかであるので上記のように認定した。

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用した、特表平4-501672号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。
ア.「本発明は注射器およびその付属品などの注射装置に関するものである。」(2ページ左下欄3〜4行)

イ.「第1図について述べれば、付属物は中空針2と一体的に形成された保護スリーブ1を含む。スリーブ1は、テーパ端部4を有する内側スリーブ部材3と、外側スリーブ部材5とから成る。外側スリーブ部材5はフランジ6を備え、このフランジが外側スリーブ部材5の端部の内側面の環状凹部7の中にスナップばめされている。さらに外側スリーブ部材5は連結部9を備え、この連結部の中を針2が通りまたこの連結部によってスリーブ1が注射器の出口に固着される。 外側スリーブ部材5の中に圧縮バネ8が収容され、このバネ8は、超音波溶接などによって固定された前記の連結部材9と、内側スリーブ部材3の内側面のショルダ10との間において作用する。注射を実施する事のできる程度に針2の先端を内側スリーブ部材3の末端のアパチュア11を通して突出させるように、しかし下記に詳細に述べるように注射が終了した時に針の先端を遮蔽するため内側スリーブ部材3を第1図に図示の伸長位置まで自動的に移動させる事ができるように、内側スリーブ部材3が外側スリーブ部材5の内部においてバネ8の作用で往復運動自在に外側部材3と内側部材5とが相互に嵌合されている。…(中略)…
さらに内側スリーブ部材3は外側突起14を有し(第1図の長手方断面に対して横方向の横断面において部材3を示す第4図を参照)、この突起が、フランジ6を含む外側スリーブ部材5の内側面に備えられた軌道14A(破線で示す)の中に係合する。」(3ページ左下欄8行〜右下欄13行)

ウ.「針2の尖端が所要の注射位置に配置された時、針2を患者の中に刺し込む動作により内側スリーブ部材3の末端を患者の皮膚に圧着する反動で内側スリーブ部材3が外側スリーブ部材5の中に入子運動させられる。これにより、突起14がフィンガ部材21を越えて移動させられ、フィンガは弾性的に片寄らされて突起14を自由に通過させ、外側スリーブ部材5の内側面のチャンネル16に沿って移動させる。チャンネル16は針の長さ方向に延在するので、この運動中に2つのスリーブ部材間の相対捻れは存在しない。
注射が実施された後に患者から針を除去すると、内側スリーブ部材3の末端と患者の皮膚との間の接触圧が解除されて突起14がバネ8の作用で自動的に軌道14Aに沿って戻り、同時に内側スリーブ部材3が外側スリーブ部材5の外部に出る。しかし突起14がフィンガ部材21と接触した時、このフィンガ部材21によって、位置22から角度的に片寄らされた最終位置23に向かって指向される。この突起14の最終位置においてスリーブ1はその完全に伸長された位置にあり、この位置において下記のように保持されて、針2の尖端を遮蔽し、この針の汚染された尖端が露出されてユーザを刺す危険を防止する。 前記の保持構造またはロック構造を第3図乃至第6図について説明する。第3図は、フランジ6の壁体の他の部分の切欠き26の中のロックタング25を示す。このロックタング25は弾性可撓性ネック30によってフランジ6の他の部分に連結され、切欠き26の中においてタング25を矢印31の方向に横方向に片寄らせる。…(中略)…
注射が実施された後に突起14が軌道14Aに沿って戻る際にフィンガ部材21と接触する時、外側スリーブ部材5に対する内側スリーブ部材3の角度移動の結果、内側スリーブ部材3のショルダ12がロックタング25の傾斜側面32と接触し、ロックタングを矢印31方向に横方向に移動させる。同時にフランジ6の内側面のリブ24が内側スリーブ部材3の外側面のグループ29の中に入る。突起14がその最終位置23まで移動する際に、ショルダ12がタング25のロックノーズ33を越えて移動するので、タング25が凹部28の中に弾性的に係合する。この凹部28は第5図に図示のように内側スリーブ部材3の内側末端から、ショルダ12の手前の位置まで延在する。ロックノーズ33は内側スリーブ部材3のショルダ34の下側面(第5図参照)に係合して、内側スリーブ部材3が外側スリーブ部材5の内部に移動する事を防止する。」(4頁右上欄3行〜右下欄12行)

エ.「さらに他の実施態様においては、内側スリーブ部材は外側スリーブ部材の中に完全短縮位置に一時的に保持され、この位置において針の尖端が露出される。これは例えば突起を軌道の特殊な部分の中にロックする事によって達成される。この場合、内側スリーブを捻って伸長位置を取らせ針の尖端を遮蔽する事によって前記のような一時的ロックが解除される。」(5ページ左上欄23行〜右上欄5行)

また、図1には、スリーブ6が外側部材5の先端部に嵌合された様子が図示されている。

上記記載事項ア〜エの特に下線を付した部分の記載及び図示内容から、引用例には次の発明が記載されていると認められる。
「中空針2と、それと一体の保護スリーブ1を備え、該保護スリーブ1は、内側スリーブ部材3と外側スリーブ部材5とから成り、外側スリーブ部材5はその中を中空針2が通る連結部9を備え、この連結部により保護スリーブ1が注射器の出口に固着されるものであり、かつ内側スリーブ部材3と連結部9の間に圧縮バネ8が収容される注射器の付属品であって、
内側スリーブ部材3の突起を外側スリーブ部材5の内側面に備えられた軌道の特殊な部分の中にロックするロック手段によって内側スリーブ部材3を外側スリーブ部材5の中に完全短縮位置に一時的に保持して針の尖端を露出させ、ロックを解除することにより、内側スリーブ部材3が外側スリーブ部材5の内側面に備えられた軌道の最終伸長位置まで自動的に移動し、その位置で、内側スリーブ部材3が外側スリーブ部材5の先端部のフランジ6のロックタング25により係合状態に保持されて外側スリーブ部材5の内部に移動する事を防止して、針の汚染された尖端が露出されてユーザを刺す危険を防止する注射器の付属品。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「中空針2」、「連結部9」、「内側スリーブ部材3」、「圧縮バネ8」、「外側スリーブ部材5」は、その機能及び構造からみて、それぞれ、前者の「針」、「受け口」、「中空体」、「ばね」、「支持部」に相当する。
そして後者の中空針2は、液送用通路を有し、突き刺すために先端を尖らせてあり、連結部9は、針の端部と接続され、注射器と係合しうるようになっており、かつ液が針を通過して、注射器と針との間へ流れるようになっていることは明らかである。
また、後者の内側スリーブ部材3が、針が通る貫通孔を有し、針の一部を覆っていることも明らかであり、後者の圧縮バネ8は、内側スリーブ部材3と連結部9の間にある。
更に、後者の外側スリーブ部材5は、連結部9と接続され、先端部のフランジ6に内側スリーブ部材3と係合するロック手段及びロックタング25を備えているから、「受け口と接続され、前方延長部を有し、かつ前記中空体と係合するようになっている」といえるし、外側スリーブ部材5の先端部のフランジ6に設けたロック手段は、圧縮バネ8の張力に抗して、内側スリーブ部材3を中空針2の尖端から離して保持するようになっており、内側スリーブ部材3が解放されると、内側スリーブ部材3は圧縮バネ8の力で中空針2に沿って前進し、少なくとも一部が中空針の尖端部を覆い、同じく外側スリーブ部材5の先端部のフランジ6に設けたロックタング25は、内側スリーブ部材3と係合して、内側スリーブ部材を、外側スリーブ部材5の内部に移動する事を防止しているから、後者の「ロック手段」及び「ロックタング25」は、前者の「中空体を、ばねの張力に抗して、前記針の尖端から、離して保持するようになっており、前記中空体が解放されると、前記中空体は、ばねの力で針に沿って前進し、少なくとも一部が前記針の尖端部を覆い、かつ前記支持部の前方延長部が中空体と係合して、中空体を、受け口の方へ後進させて、針の先端部を再露出することのないよう支持している保持手段」に相当するといえる。
そして、後者の注射器の付属品は、針の汚染された尖端が露出されてユーザを刺す危険を防止するものであり、皮下注射にも用いることができることは明らかであるから、安全な皮下注射針ということができる。
そうすると、引用発明は、「下記の要素を備えている安全な皮下注射針。
a)液送用通路を有し、突き刺すために先端を尖らせてある針。
b)前記針の端部と接続され、注射器と係合しうるようになっており、かつ液が針を通過して、注射器と針との間へ流れるようになっている受け口。
c)貫通孔または溝を有し、針の一部を覆い、かつ前記針は、前記貫通孔または溝を通過している中空体。
d)前記中空体と受け口との間にあるばね。
e)前記受け口と接続され、前方延長部を有し、かつ前記中空体と係合するようになっている少なくとも1つの支持部。
f)中空体を、ばねの張力に抗して、前記針の尖端から、離して保持するようになっており、前記中空体が解放されると、前記中空体は、ばねの力で針に沿って前進し、少なくとも一部が前記針の尖端部を覆い、かつ前記支持部の前方延長部が中空体と係合して、中空体を、受け口の方へ後進させて、針の先端部を再露出することのないよう支持している保持手段。」であるといえる。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-03 
結審通知日 2006-03-14 
審決日 2006-03-27 
出願番号 特願平7-504505
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 増沢 誠一
一色 貞好
発明の名称 安全な皮下注射針  
代理人 竹沢 荘一  

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