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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03C
管理番号 1142894
審判番号 不服2003-20668  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-05-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-24 
確定日 2006-09-01 
事件の表示 平成 8年特許願第268772号「写真感光材料のカーテン塗布方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月 6日出願公開、特開平10-115890〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年10月9日の出願であって、平成15年9月18日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月21日付で手続補正がなされたものである。

2.平成15年11月21日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年11月21日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)手続補正後の本願発明
上記手続補正は、特許請求の範囲を
「【請求項1】 連続走行するウエブの表面に塗布液を自由落下液膜として衝突せしめて該塗布液に塗布する写真感光材料のカーテン塗布方法において、前記自由落下液膜のカーテンの塗布幅単位長さ当り塗布液流下量を2.5〜10cc/cm/sec の範囲とし、前記ウエブの搬送経路中に設けられた加熱ゾーンによって前記ウエブの表面の温度を30°Cから55°Cに調節して塗布することを特徴とする写真感光材料のカーテン塗布方法。
【請求項2】 請求項1において、塗布する前、或いは塗布時に前記ウエブの表面に静電気を印加し、塗布時の前記ウエブの表面電位を0.1〜0.8KVとして塗布することを特徴とする写真感光材料のカーテン塗布方法。」
とする補正事項を含むものである。
そして、この補正事項は、上記手続補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項であると共に、請求項1を引用して記載された上記手続補正前の請求項2に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記ウエブの表面の温度を30°Cから55°Cに調節」することについて、「前記ウエブの搬送経路中に設けられた加熱ゾーンによって」との限定を付加するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号で規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項2に記載された発明(以下、「補正発明2」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、以下に検討する。

(2)引用文献に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特表平3-501702号公報)及び引用文献2(特開平5-61151号公報)には、それぞれ、図面と共に以下の事項が記載されている。
〔引用文献1〕
(1a)「1.物体を経路に沿って塗布ゾーンを通って前進させ、及び1層又は複数層の液体塗布組成物からなりかつ前記経路を横切って延びる自由落下カーテンを前記塗布ゾーン内で前記移動物体上に衝突させて1層又は複数層からなる塗布物をその上に形成する、物体に液体塗布組成物を塗布する方法において、前記物体を少くとも250cm/secのスピードで前進させかつ前記塗布物を塗布する前記物体の表面上に静電気極性電荷を印加し、前記表面上の任意の点での、ボルトで測定された前記電荷の、cm/secで測定された前記スピードに対する比が少くともl:1となるように、前記物体のスピードに従って前記電荷の量を選択することを含んでなる改良方法。
2.前記比から得られる電圧より200ボルトの量大きい静電気極性電荷を印加することを含んでなる請求の範囲第1項の更なる改良方法。
3.経路に沿って塗布ゾーンを通って前進する物体がウェブであり、自由落下カーテンを形成する液体塗布組成物が液体写真塗布組成物である写真要素の製造用であり、前記ウェブが少くとも400cm/secのスピードで前進することを含んでなる請求の範囲第1項又は第2項の更なる改良方法。」(第17頁右下欄第2〜20行、当該公報において公開された平成2年6月2日付補正書の翻訳文提出書に添付された 請求の範囲1〜3)
(1b)「高レベルの静電気極性電荷は明らかに、適切な方向に、カーテンがウェブに突き当る領域中で作用し、それによりカーテンコーティングのメカニズムにより成功裡に塗布を行うことができるスピードを実質的に高める実質的吸引力に寄与している。」(第12頁右上欄第12〜16行)
(1c)「本発明が解決するカーテンコーティングの問題は極めて高い塗布スピードにおいて、例えば代表的には250cm/secより上のウェブスピードにおいてのみおこる。明らかに異なる目的、すなわち、塗布ビーズを安定化する目的のための静電気電荷の使用を含む、ビーズコーティングにおける静電気電荷の従来技術での使用と対照的に、本発明によれば、所定の高レベルの静電気極性電荷を利用して高速カーテンコーティングにおけるこれらの問題を解決する。塗布地点での静電気極性電荷は、高レベルの結合電荷又は極性電荷を有する支持体とアースされた塗布ロールを使用することにより得られるかもしれない。」(第13頁左上欄第1〜11行)
(1d)「本発明の高スピードカーテンコーティング法は、代表的には250cm/secより上のウェブスピードで行われる。約1,000cm/sec、又はそれ以上の高スピードは適切なレベルの静電気極性電荷の助けをかりて効果的に利用することができる。」(第13頁右上欄第1〜5行)
(1e)「本発明方法は、写真技術分野において多層写真要素、すなわち、複数個の写真塗布組成物重層を塗布した支持体からなる要素の製造に特に有用である。個々の層の数は10又はそれ以上という多数であってもよい。」(第13頁左下欄第2〜5行)
(1f)「第2図は、ゼラチンハロゲン化銀写真乳剤をウェブ表面上に塗布する代表的なカーテンコーティング法についての塗布スピードと、均一塗布を行うのに必要な静電気極性電荷のレベルを関連づけるものである。第2図に示された曲線は次の塗布条件(異る組合せの塗布条件では曲線移動が生じるであろうが)についての代表的なものである:
カーテンの高さ ― 12.5cm
カーテン流動速度 ― カーテン巾cm当り1.5〜6g/sec
塗布組成物の粘度 ― 60センチポアズ
ウェブ表面 ― 光沢ポリエチレン」(第15頁右下欄第16〜25行)

〔引用文献2〕
(2a)「連続走行する帯状可撓性支持体をバックアップローラで支持し、注液器より該支持体上に塗布液を塗布する方法において、該支持体を、塗布する前に35℃〜45℃に昇温させて、該バックアップローラ上での該支持体の表面電位を0.5〜2KVにして、塗布することを特徴とする塗布方法。」(特許請求の範囲)
(2b)「従来支持体に静電荷を与えて塗布する方法として、・・・等が開示されている。しかしながら、・・・。本発明の目的は上記従来の問題点を解消し、支持体表面の極性基数が比較的低い支持体の場合においても、支持体表面に均一に比較的高い表面電位を付加することが出来て、塗布限界速度を著しく向上することの出来る塗布方法を提供することにある。」(段落【0002】【0003】)
(2c)「本発明によれば塗布の限界速度を制限するエアー同伴現象(支持体に塗布液が濡れない現象)を防止し、塗布限界速度を向上させることが出来る。又、本発明における「塗布液」とは、その用途に応じて種々の液組成のものが含まれるが例えば、写真感光材料におけるような、感光乳剤層、下塗層、保護層、バック層、等の塗布液;その他接着剤層、着色層、防錆層、等の塗布液が挙げられ、それら塗布液は水溶性バインダー又は有機バインダーを含有して成っている。支持体上へ前記の塗布液を付与する方法としてはスライドコート、ローラービートコート、スプレーコート、エクストルージョンコート、カーテンコート等が利用出来、その他の方法も可能である。」(段落【0006】)
(2d)スライドビード方式を用いてウエブ(支持体)上に写真感光材料を塗布する実施例の結果を示す表1について、「表1においては、本発明の実施例はウエブ温度38℃,45℃、ウエブ電位0.5KV,1.0,KV,1.2KVの範囲である。表1に示すとおり、本発明の条件により従来の22℃,0.5KVの時の限界塗布速度200m/minが、38℃への加熱により240m/minに上昇し、従来の22℃,1.2KVの限界塗布速度203m/minが45℃においては270m/min迄上昇していることが判る。又本発明の実施例は面質は筋、段ムラ等の発生なく良好であった。」(段落【0010】)
(2e)「本発明の塗布方法により、支持体表面の極性基数が比較的低い支持体の場合においても、支持体表面に均一に比較的高い表面電位を付加することが出来て、塗布限界速度も著しく向上させることが出来た。」(段落【0011】)

(3)対比、判断
記載事項(1a)には、ウェブを少くとも250cm/secのスピードで前進させること、かつ、ウェブ表面上に静電気極性電荷を印加し、前記表面上の任意の点での、ボルトで測定された前記電荷の、cm/secで測定された前記スピードに対する比が少くとも1:1となるように、ウェブのスピードに従って前記電荷の量を選択することが記載されているから、引用文献1に記載された方法において、ウェブの表面上でのボルトで測定された静電気極性電荷は少なくとも250V、即ち0.25KVとなる。してみると、記載事項(1a)〜(1f)からみて、引用文献1には下記の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると云える。
「経路に沿って前進するウェブの上に液体塗布組成物からなる自由落下カーテンを衝突させて塗布する液体写真塗布組成物のカーテンコーティング法であって、前記自由落下カーテンの流動速度をカーテン巾cm当り1.5〜6g/secの範囲とし、前記ウェブの表面上に静電気極性電荷を印加し、塗布時の前記表面上でのボルトで測定された前記電荷を少なくとも0.25KVとして塗布する液体写真塗布組成物のカーテンコーティング法。」
そこで、補正発明2と引用文献1発明とを対比すると、後者における「ウェブ」、「液体塗布組成物」、「自由落下カーテン」、「液体写真塗布組成物」、「静電気極性電荷」、「表面上でのボルトで測定された静電気極性電荷」は、各々、前者における「ウエブ」、「塗布液」、「自由落下液膜」、「写真感光材料」、「静電気」、「表面電位」に相当し、後者で謂う「カーテンコーティング法」は「カーテン塗布方法」とも謂えるものである。そして、後者において「ウェブの表面上に静電気極性電荷を印加」する時点は、液体塗布組成物を塗布する前、或いは塗布時であることは明らかであるから、両者は、
「連続走行するウエブの表面に塗布液を自由落下液膜として衝突せしめて該塗布液に塗布する写真感光材料のカーテン塗布方法において、塗布する前、或いは塗布時に前記ウエブの表面に静電気を印加し、塗布時の前記ウエブの表面電位を0.25〜0.8KVとして塗布する写真感光材料のカーテン塗布方法。」
で一致し、下記の点で相違する。
(i)補正発明2は、自由落下液膜のカーテンの塗布幅単位長さ当り塗布液流下量を2.5〜10cc/cm/sec の範囲とするものであるのに対し、引用文献1発明は、自由落下膜の流動速度をカーテン巾cm当り1.5〜6g/secの範囲とするものではあるが、自由落下液膜のカーテンの塗布幅単位長さ当り塗布液流下量は特定されていない点。
(ii)補正発明2は、ウエブの搬送経路中に設けられた加熱ゾーンによって前記ウエブの表面の温度を30°Cから55°Cに調節して塗布するものであるのに対し、引用文献1発明は、ウエブを加熱することについて特定されていない点。

まず、相違点(i)について検討する。
補正発明2においても引用文献1発明においても自由落下液膜を構成する塗布液は写真感光材料であり、両者における塗布液の比重は1に近いことを考慮した上で、カーテン巾cm当りの自由落下膜の流動速度から、自由落下液膜のカーテンの塗布幅単位長さ当り塗布液流下量(cc/cm/sec)を算出すると、引用文献1発明において特定される、カーテン巾cm当りの自由落下膜の流動速度の範囲1.5〜6g/secから算出される自由落下液膜のカーテンの塗布幅単位長さ当り塗布液流下量は、補正発明2における自由落下液膜のカーテンの塗布幅単位長さ当り塗布液流下量の範囲である2.5〜10cc/cm/secと重複する。
よって、相違点(i)は実質的な相違点ではない。

次に、相違点(ii)について検討する。
引用文献2には、写真感光材料を連続走行する帯状可撓性支持体に静電荷を与えて塗布する方法において、支持体表面に均一に比較的高い表面電位を付加し、塗布限界速度を向上させるために、該支持体を塗布する前に35℃〜45℃に昇温させ、該支持体の表面電位を0.5〜2KVにして塗布する方法が記載されている。
引用文献2に記載された方法における「支持体」は補正発明2における「ウエブ」に相当するから、引用文献2には、写真感光材料をウエブに静電荷を与えて塗布する方法において、塗布する前にウエブを昇温させること、及び、それによってウエブ表面に均一に比較的高い表面電位を付加し、塗布限界速度を向上させることが記載されていると云える。
引用文献2には、実施例としては、スライドビード方式を用いて塗布した例しか記載されていないが、記載事項(2c)には、塗布液を付与する方法として「カーテンコート」即ちカーテン塗布方法が利用できることが記載されており、しかも、ウエブ表面に均一に比較的高い表面電位を付加することは、スライドビード方式を用いて塗布する場合のみならず、引用文献1発明のカーテンコート方式を用いて塗布する場合においても必要なことであるから、引用文献2に記載された事項を引用文献1発明に適用して、ウエブを昇温させてその表面の温度を所定の温度範囲に調節して塗布するようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。
その際、ウエブの昇温をウエブの搬送経路中に設けられた加熱ゾーンによって行うことは当業者が適宜為し得たことである。また、ウエブの表面の温度の範囲を30°Cから55°Cに限定することも、表面電荷の均一化及び写真感光材料の特性等を考慮して当業者が適宜定め得たことである。

そして、引用文献1発明の方法においても、ウエブの表面温度を上げることにより塗布限界速度を向上させることができることは、引用文献2の記載から当業者が予測し得たことと認められ、本願明細書及び図面の記載を検討しても、引用文献1発明においてウエブの表面温度を上げたことにより、さらに、ウエブの表面温度を上記の範囲に特定したことにより、当業者にとって予測し得ない格別な効果が奏されたものとは認められない。

したがって、補正発明2は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、上記手続補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成15年11月21日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、平成15年9月1日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項2】 請求項1において、塗布する前、或いは塗布時に前記ウエブの表面に静電気を印加し、塗布時の前記ウエブの表面電位を0.1〜0.8KVとして塗布することを特徴とする写真感光材料のカーテン塗布方法。」
引用された請求項1は、以下のとおりである。
「【請求項1】 連続走行するウエブの表面に塗布液を自由落下液膜として衝突せしめて該塗布液に塗布する写真感光材料のカーテン塗布方法において、前記自由落下液膜のカーテンの塗布幅単位長さ当り塗布液流下量を2.5〜10cc/cm/sec の範囲とし、前記ウエブの表面の温度を30°Cから55°Cに調節して塗布することを特徴とする写真感光材料のカーテン塗布方法。」

(1)引用文献に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、及び、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明2は、前記2.で検討した補正発明2から「前記ウエブの表面の温度を30°Cから55°Cに調節」することの限定事項である「前記ウエブの搬送経路中に設けられた加熱ゾーンによって」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明2の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明2が、前記「2.(3)」に記載したとおり、引用文献1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明2も、同様の理由により、引用文献1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明2は、引用文献1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、請求項1に係る発明についての判断を示すまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-03 
結審通知日 2006-07-05 
審決日 2006-07-20 
出願番号 特願平8-268772
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03C)
P 1 8・ 121- Z (G03C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大瀧 真理  
特許庁審判長 岡田 和加子
特許庁審判官 藤岡 善行
秋月 美紀子
発明の名称 写真感光材料のカーテン塗布方法  
代理人 本多 弘徳  
代理人 高松 猛  
代理人 小栗 昌平  
代理人 市川 利光  

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