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審決分類 審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  C22C
審判 一部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
管理番号 1143214
異議申立番号 異議2003-72488  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-05-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-10 
確定日 2006-03-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第3395443号「高クリープ強度チタン合金とその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3395443号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許3395443号の請求項1乃至6に係る発明についての出願は、平成7年4月13日(優先日:平成6年8月22日 日本)に特許出願され、平成15年2月7日にその特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、新日本製鐵株式会社及び株式会社神戸製鋼所より本件請求項1及び2に係る発明について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成16年6月29日に訂正請求がなされたが、この訂正請求に対し平成17年10月24日付けで訂正拒絶理由通知がなされたところ、その指定期間内に特許権者から何ら応答がなかったものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)平成16年6月29日付け訂正請求書の内容
上記訂正請求書の訂正内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a乃至dのとおりのものである。
(a)訂正事項a:請求項1の「H:0.0050〜0.0500%、ただし」を、「H:0.0050〜0.0500%、ただし、H:0.0080%以下の場合は除き、また」と訂正する。
(b)訂正事項b:請求項1の「およびTi-Al-Mo-V-Si」を、「Ti-Al-Mo-V-Si、およびTi-Al-Sn-Zr-Mo」と訂正する。
(c)訂正事項c:請求項1の「高クリープ強度を示すチタン合金」を、「Fe:0.24%以上含む場合は除く、高クリープ強度を示すチタン合金」と訂正する。
(d)訂正事項d:段落【0013】の記載を、「よって本発明の要旨とするところは、質量%で、Al:4.0 〜7.0 %、ならびにSn:6.0 %以下、Zr:6.0 %以下、Mo:8.0 %以下、Si:0.6 %未満、C:0.10%以下、Hf:1.0 %以下、Nb:1.5 %以下、Ta:2.5 %以下、W:1.0 %以下、およびV:5.0 %以下から成る群から選んだ1種または2種以上、H:0.0050〜0.0500%、ただし、H:0.0080%以下の場合は除き、またTi-Al-V、Ti-Al-V-Si、Ti-Al-Mo-Si、Ti-Al-Mo-V-Si、およびTi-Al-Sn-Zr-Moの組合せのときにはH:0.02%以下は除く、残部Tiおよび不可避的不純物から成る合金組成を有する、Fe:0.24%以上含む場合は除く、高クリープ強度を示すチタン合金である。」と訂正する。

(2)訂正拒絶理由通知の概要
当審の上記訂正請求に対する平成17年10月24日付け訂正拒絶理由の概要は、次のとおりである。
上記訂正事項a乃至cの内容は、いずれも「除くクレーム」という新規事項に係る実務運用において例外的に認められている記載様式に基づいて訂正するものであるが、「除くクレーム」は、次の(イ)及び(ロ)のような場合に限り例外的に認められる記載様式であるから、上記訂正事項a乃至cの適否については、この観点から、以下検討する。
(イ)特許法第29条第1項第3号29条の2又は39条に係る先行技術として頒布刊行物又は先願の明細書等に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む)のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項である場合
(ロ)当該発明が先行技術と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する発明であるが、たまたま先行技術と重複するような部分を含む場合(i)訂正事項aについて
取消理由において先行技術として提示した引用刊行物1(異議申立人株式会社神戸製鋼所の甲第1号証)には、「H:0.008%」の例が、また引用刊行物11(異議申立人新日本製鐵株式会社の甲第1号証)にも、「H:0.008%」の例がそれぞれ記載されているにすぎず、これら引用刊行物には、「H:0.0080%以下の場合」が記載されているわけではない。また、他の引用刊行物にも、「H:0.0080%以下の場合」については記載されていない。
そうすると、上記訂正事項aの「H:0.0080%以下の場合は除き」とする「除くクレーム」は、先行技術である引用刊行物に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む)のみを除くものではなく、「H:0.0080%」以下のものをすべて除くものであるから、上記(イ)の場合に該当しないと云うべきである。
また、引用刊行物1及び2(又はその他の引用刊行物を含む)に記載された先行技術は、その成分組成が本件発明1及び2と極めて類似するものであるから、本件発明1及び2は、上記(ロ)の「当該発明が先行技術と技術的思想としては顕著に異なる」場合ではないし、これら刊行物には、本件発明1及び2の「H」の含有範囲を満足する具体例が多数記載されていることから、「たまたま先行技術と重複するような部分を含む」場合にも該当しないと云うべきである。
してみると、上記訂正事項aは、例外的に認められている「除くクレーム」の上記(イ)及び(ロ)の場合に該当するとは云えないから、特許明細書に記載された範囲内でなされたものではないし、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。
(ii)訂正事項bについて
訂正事項bは、「Ti-Al-Sn-Zr-Moの組合せのときにはH:0.02%以下は除く」という「除くクレーム」とするものであるが、取消理由において先行技術として提示した引用刊行物には、「Ti-Al-Sn-Zr-Mo」という包括的な組合わせの場合に「H:0.02%以下」とする合金例が記載されているわけではないから、上記訂正事項bも、例外的に認められている「除くクレーム」の上記(イ)及び(ロ)の場合に該当するとは云えない。
してみると、上記訂正事項bも、特許明細書に記載された範囲内でなされたものではないし、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。
(iii)訂正事項cについて
訂正事項cは、「Fe:0.24%以上含む場合は除く」という「除くクレーム」であるが、取消理由において先行技術として提示した引用刊行物13(異議申立人新日本製鐵株式会社の甲第3号証)の第2412頁のTable1には、「Fe:0.24%」の合金例が1例記載されているにすぎず、「Fe:0.24%以上含む場合」が記載されているわけではない。このTable1には、それ以外には「Fe:0.11%、0.07%、0.03%、0.02%」という0.24%以下の例も記載されているし、しかも、これら例の「H」含有量は、いずれも本件発明1及び2の含有範囲を満足するものである。
そうすると、上記訂正事項cの「Fe:0.24%以上含む場合は除く」とする「除くクレーム」は、先行技術である引用刊行物13に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む)のみを除くものではなく、引用刊行物13に記載されていない「Fe:0.24%」以上のものをすべて除くものであるから、上記(イ)の場合に該当しないと云うべきである。
また、引用刊行物13には、本件発明1及び2の「H」の含有範囲を満足する具体例が数例記載されていることから、本件発明1及び2は、上記(ロ)の「当該発明が先行技術と技術的思想としては顕著に異なる」場合に該当しないし、「たまたま先行技術と重複するような部分を含む」場合にも該当しないと云うべきである。
してみると、上記訂正事項cも、特許明細書に記載された範囲内でなされたものではないし、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書に違反するから、当該訂正は認められない。

(3)当審の判断
平成17年10月24日付け訂正拒絶理由通知に対し特許権者から何ら応答がなく、そして上記訂正拒絶理由通知は、妥当なものであるから、平成16年6月29日付け上記訂正請求は、認められない。

(4)むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書に違反するから、当該訂正は認められない。

3.本件発明
特許権者が求める上記訂正請求は、これを認めることができないから、本件請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1及び2」という)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】質量%で、
Al:4.0 〜7.0 %、ならびにSn:6.0 %以下、Zr:6.0 %以下、Mo:8.0 %以下、Si:0.6 %未満、C:0. 10%以下、Hf:1.0 %以下、Nb:1.5 %以下、Ta:2.5 %以下、W:1.0 %以下、およびV:5.0 %以下から成る群から選んだ1種または2種以上、H:0.0050〜0.0500%、ただし、Ti-Al-V、Ti-Al-V-Si、Ti-Al-Mo-Si、およびTi-Al-Mo-V-Siの組合せのときにはH:0.02%以下は除く、
残部Tiおよび不可避的不純物から成る高クリープ強度を示すチタン合金。
【請求項2】質量%で、
Al:4.0 〜7.0 %、ならびに Sn:6.0 %以下、Zr:6.0 %以下、Mo:8.0 %以下、Si:0.6 %未満、C:0.10%以下、Hf:1.0 %以下、Nb:1. 5 %以下、Ta:2.5 %以下、W:1.0 %以下、およびV:5.0 %以下から成る群から選んだ1種または2種以上、Cu:1.0 %以下、H:0.0050〜0.0500%、
残部Tiおよび不可避的不純物から成る高クリープ強度を示すチタン合金。」

4.特許異議申立てについて
4-1.取消理由の概要
当審による平成16年4月21日付け取消理由の概要は、次のとおりである。
(イ)本件出願の請求項1、2に係る発明は、株式会社神戸製鋼所が提出した特許異議申立書の第10頁第14行〜第13頁第1行に記載の理由及び新日本製鐵株式会社が提出した特許異議申立書の第14頁第14行〜第16頁第7行に記載の理由により、その出願前日本国内または外国において頒布された次の4-2.に示す(1)〜(15)、(17)〜(20)の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(ロ)本件出願の請求項1、2に係る発明は、新日本製鐵株式会社が提出した特許異議申立書の第16頁第10行〜第17頁第6行に記載の理由により、その出願前日本国内または外国において頒布された次の4-2.に示す(11)〜(15)、(17)〜(20)の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(ハ)本件特許明細書は、株式会社神戸製鋼所が提出した特許異議申立書の第13頁第3行〜第14頁第15行に記載の理由及び新日本製鐵株式会社が提出した特許異議申立書の第17頁第8行〜同頁第24行に記載の点で、不備であるから、特許法第36条第4項及び第6項の規定に違反する。

4-2.引用刊行物とその主な記載事項 (1)Materials Properties Handbook:Titanium Alloys(1994年6月、ASM International)からの抜粋(特許異議申立人株式会社神戸製鋼所の提出した甲第1号証)
(2)「TITANIUM SCIENCE AND TECHNOLOGY Proceedings of the Fifth International Conference on Titanium Congress-Center,Munich,FRG September 10-14,1984」第469〜476頁(特許異議申立人株式会社神戸製鋼所の提出した甲第2号証の1)
(3)「TITANIUM SCIENCE AND TECHNOLOGY Proceedings of the Fifth International Conference on Titanium Congress-Center,Munich,FRG September 10-14,1984」第2281〜2288頁(特許異議申立人株式会社神戸製鋼所の提出した甲第2号証の2)
(3a)第2281頁のテーブル1には、次の組成のチタン合金例が記載されている。
(a)「Ti-6246:wt%で、Al6.2、Sn1.9、Zr3.8、Mo6.1、Si0.07、Fe0.08、O0.088、H0.0058」
(b)「Ti-6242S:wt%で、Al6.0、Sn1.9、Zr4.0、Mo1.9、Si0.11、Fe0.10、O0.085、H0.0070」
(4)「TITANIUM SCIENCE AND TECHNOLOGY Proceedings of the Fifth International Conference on Titanium Congress-Center,Munich,FRG September 10-14,1984」第295〜302頁(特許異議申立人株式会社神戸製鋼所の提出した甲第2号証の3)
(5)「TITANIUM SCIENCE AND TECHNOLOGY Proceedings of the Fifth International Conference on Titanium Congress-Center,Munich,FRG September 10-14,1984」第515〜521頁(特許異議申立人株式会社神戸製鋼所の提出した甲第2号証の4)
(6)「TITANIUM SCIENCE AND TECHNOLOGY Proceedings of the Fifth International Conference on Titanium Congress-Center,Munich,FRG September 10-14,1984」第2411〜2418頁(特許異議申立人株式会社神戸製鋼所の提出した甲第2号証の5)
(6a)「Ti-6242S合金のクリープにおけるFeの有害な影響」と題して、その第2412頁のテーブル1の「Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0.1Si-xFe合金の化学組成とβ-トランシ」には、例えば次の(a)乃至(d)の組成のチタン合金例が記載されている。
(a)「No.1:wt%で、Al6.0、Sn2.0、Zr3.9、Mo2.0、Si0.092、Fe0.02、O0.089、H0.0072、N0.015、C0.010」
(b)「No.2:wt%で、Al5.9、Sn2.0、Zr3.9、Mo2.0、Si0.096、Fe0.03、O0.083、H0.0063、N0.012、C0.011」
(c)「No.3:wt%で、Al5.8、Sn2.0、Zr4.0、Mo1.9、Si0.091、Fe0.07、O0.073、H0.0058、N0.014、C0.010」
(d)「No.5:wt%で、Al5.8、Sn1.9、Zr4.0、Mo2.0、Si0.087、Fe0.24、O0.083、H0.0067、N0.018、C0.011」
(7)「鉄と鋼」第73年(1987)第10号、第1405〜1412頁(特許異議申立人株式会社神戸製鋼所の提出した甲第3号証)
(8)「TITANIUM’80 SCIENCE AND TECHNOLOGY Proceedings of the Fourth International Conference on Titanium Kyoto,Japan May 19-20,1980」第593〜594頁(特許異議申立人株式会社神戸製鋼所の提出した甲第4号証の1)
(9)「TITANIUM’80 SCIENCE AND TECHNOLOGY Proceedings of the Fourth International Conference on Titanium Kyoto,Japan May 19-20,1980」第1443〜1444頁(特許異議申立人株式会社神戸製鋼所の提出した甲第4号証の2)
(10)「TITANIUM’80 SCIENCE AND TECHNOLOGY Proceedings of the Fourth International Conference on Titanium Kyoto,Japan May 19-20,1980」第1363〜1364頁(特許異議申立人株式会社神戸製鋼所の提出した甲第4号証の3)
(11)C.E.Shamblenら著「Air Contamination and Embrittlement of Titanium Alloys」The Science,Technology and Application of Titanium,pp199-208,1970年、Pergamon Press発行(特許異議申立人新日本製鐵株式会社の提出した甲第1号証)
(11a)第202頁のテーブル1には、次の組成のチタン合金例が記載されている。
(a)Ti-6-2-4-2(V-3016):Al6.4、Sn2.0、Zr4.2、Mo2.0、Fe0.05、O20.082、H20.007、N20.006、C0.025、Ti Bal
(b)Ti-6-2-4-2(G-1427):Al6.0、Sn2.1、Zr3.9、Mo2.0、Fe0.06、O20.10、H20.006、N20.010、C0.025、Ti Bal

(12)S.Fujishiroら著「Studies on Crack Growth Rate of High Temperature Titanium Alloys」Titanium Science and Technology Vol.4,pp2281-2288,1984年,Deutsche Gesellschaft fur Metallkunde E.V.発行(特許異議申立人新日本製鐵株式会社の提出した甲第2号証)
(12a)第2281頁のテーブル1には、「Ti-6246」と「Ti-6242S」の組成について、「Ti-6246:wt%で、Al6.2、Sn1.9、Zr3.8、Mo6.1、Si0.07、Fe0.08、O0.088、H0.0058」及び「Ti-6242S:wt%で、Al6.0、Sn1.9、Zr4.0、Mo1.9、Si0.11、Fe0.10、O0.085、H0.0070」と記載されている。
(13)S.Ankem著「The Detrimental Effects of Iron on Creep of Ti-6242S Alloys」Titanium Science and Technology Vol.4,pp2411-2418,1984年,Deutsche Gesellschaft fur Metallkunde E.V.発行(特許異議申立人新日本製鐵株式会社の提出した甲第3号証)
(13a)「Ti-6242S合金のクリープにおけるFeの有害な影響」と題して、その第2412頁のテーブル1の「Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0.1Si-xFe合金の化学組成とβ-トランシ」には、例えば次の(a)乃至(d)の組成のチタン合金例が記載されている。
(a)「No.1:wt%で、Al6.0、Sn2.0、Zr3.9、Mo2.0、Si0.092、Fe0.02、O0.089、H0.0072、N0.015、C0.010」
(b)「No.2:wt%で、Al5.9、Sn2.0、Zr3.9、Mo2.0、Si0.096、Fe0.03、O0.083、H0.0063、N0.012、C0.011」
(c)「No.3:wt%で、Al5.8、Sn2.0、Zr4.0、Mo1.9、Si0.091、Fe0.07、O0.073、H0.0058、N0.014、C0.010」
(d)「No.5:wt%で、Al5.8、Sn1.9、Zr4.0、Mo2.0、Si0.087、Fe0.24、O0.083、H0.0067、N0.018、C0.011」
(14)J.D.Whittenbergerら著「Elevated Temperature Flow Strength,Creep Resistance and Diffusion Welding Characteristics of Ti-6Al-2Nb-1Ta-0.8Mo」Metallurgical Transactions A Vol.10A,1979年,pp1597-1605 (特許異議申立人新日本製鐵株式会社の提出した甲第4号証)
(15)W.A.Ossaら著「Material Characterization of Superplastically Formed Titanium(Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo)Sheet」NASA Technical Paper 2674,1987年,pp1-35(特許異議申立人新日本製鐵株式会社の提出した甲第5号証)
(15a)第10頁のテーブル3には、Ti6242の例えば次の(a)乃至(c)の組成が記載されている。
(a)「No.1:wt%で、Al6.13、Sn2.00、Zr3.92、Mo2.15、Si0.05、C0.02、N0.008、Fe0.04、O0.119、H0.0102、Y0.0006、Ti Balance」
(b)「No.4:wt%で、Al6.0、Sn2.0、Zr4.2、Mo2.0、Si0.070、C0.008、N0.009、Fe0.06、O0.10、H0.009、Y<0.001、Ti Balance」
(c)「No.5:wt%で、Al6.1、Sn2.1、Zr4.4、Mo2.2、Si0.080、C0.008、N0.004、Fe0.06、O0.10、H0.007、Y<0.001、Ti Balance」
(16)D.Eylonら著「Microstructure and Mechanical Properties Relationships in the Ti-11 Alloy at Room and Elevated Temperatures」Metallurgical Transactions A Vol.7A,1976年,pp1817-1826(特許異議申立人新日本製鐵株式会社の提出した甲第6号証)
(17)T.K.Moore著「Grain Coarsening in Ti-5Al-2.5Sn」Metallurgical Transactions Vol.5,No.5,1974年,pp1193-1198(特許異議申立人新日本製鐵株式会社の提出した甲第7号証)
(18)H.B.Bombergerら著「Titanium-A Histrical Perspective」Titanium Technology:Present Status and Future Trends,pp3-17,1985年,The Titanium Development Association発行(特許異議申立人新日本製鐵株式会社の提出した甲第8号証)
(18a)第7頁のテーブル5の「チタン合金の米国における商業的および準商業的規格」には、「Alpha and near-Alpha alloys」として、例えば次の(a)乃至(c)の組成のチタン合金例が記載されている。
(a)Ti-5Al-2.5Sn:不純物限界(Impurity limitswt%);N(max)0.05、C(max)0.08、H(max)0.02、Fe(max)0.5、O(max)0.20、公称合金成分(Nominal Composition、wt%);Al5、Sn2.5
(b)Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0.1Si:不純物限界(Impurity limitswt%);N(max)0.05、C(max)0.05、H(max)0.0125、Fe(max)0.25、O(max)0.15、公称合金成分(Nominal Composition、wt%);Al6、Sn2、Zr4、Mo2
(c)Ti-5Al-5Sn-2Zr-2Mo:不純物限界(Impurity limitswt%);N(max)0.03、C(max)0.05、H(max)0.0125、Fe(max)0.15、O(max)0.13、公称合金成分(Nominal Composition、wt%);Al5、Sn5、Zr2、Mo2、Si0.25
(18b)第7頁のテーブル5の「チタン合金の米国における商業的および準商業的規格」には、「Alpha -beta alloys」として、例えば次の組成のチタン合金例が記載されている。
「Ti-6Al-6V-2Sn:不純物限界(Impurity limitswt%);N(max)0.04、C(max)0.05、H(max)0.015、Fe(max)1.0、O(max)0.20、公称合金成分(Nominal Composition、wt%);Al6.0、Sn2.0、Cu0.75、V6.0」
(19)特開昭59-89744号公報(特許異議申立人新日本製鐵株式会社の提出した甲第9号証)
(20)特開昭63-118035号公報(特許異議申立人新日本製鐵株式会社の提出した甲第10号証の公告公報に対応する公開公報)
(20a)「(1)良好な高温性、特に510℃(950°F)から593.3℃(1100°F)の温度範囲で耐クリープ性により特徴づけられるチタン系合金において、該合金は本質的に重量%で、アルミニウム5.5から6.5、錫2.00から4.00、ジルコニウム3.5から4.5、モリブデン.3から.5、シリコン.35以上から.55、鉄.03以下、酸素.14まで、及び残りチタンと付随的不純物よりなることを特徴とするチタン系合金。」(特許請求の範囲)
(20b)「慣例的に、わずかに重量%でアルミニウム6%、錫2%、ジルコニウム4%、モリブデン2%、シリコン0.1%、鉄.08%、酸素.11%、残りがチタンであるチタン系合金(Ti 6242-Si)が、高温度クリープ性が重要であるガスタービンエンジンのための部品のように、これらの施工に使用されている。タービンエンジン設計者がエンジン性能を改良したので、操作温度は対応して増加している。したがって、例えば593.3℃(1100°F)までのより高操作温度で、及び/或は、合金Ti-6242-Siのような一般的合金で到達しているよりも高い応力レベルで、変形に抵抗するチタン系合金に対する必要性がある。」(第2頁左上欄第12行乃至右上欄第4行)
(21)特開平5-214469号公報(当審が提示する周知文献)
(21a)「【請求項1】重量%で、
Al:5.0〜7.0 %、Sn:2.0〜5.0 %、Zr:2.0〜5.0 %、Mo:0.10 〜1.00%、Si:0.20 〜0.60%、Hf:0.10 〜1.00%、残部Tiおよび不可避的不純物からなる耐熱チタン合金。
【請求項2】さらに、Nb:1.50 %以下、Ta:0.50 %以下、W:0.50%以下、Cu:1.00 %以下、またはC:0.10 %以下の一種または二種以上を含むことを特徴とする請求項1記載の耐熱チタン合金。」(特許請求の範囲)
(21b)「 ここに、本発明の目的は、従来合金よりも高温強度および高温クリープ強度、高サイクル疲労強度に優れた耐熱チタン合金を提供することにある。さらに、本発明のより具体的な目的は、常温における引張強度1060 MPa以上、600 ℃での引張強度640MPa以上、600 ℃引張伸び25%以上、クリープ歪量0.120 %以下(540℃,300MPa,100Hr)、疲労強度4.0 ×107 以上( 破断サイクル数,540℃,300MPa,R=0.1)を満足する耐熱チタン合金を提供することである。」(段落【0005】)
(21c)「Cu:
Cuはβ相共析型の安定化元素である。ごく微量の添加で疲労特性が向上する。添加量が1.00%を越えるとより金属間化合物が析出し脆化する。したがって添加量は1.00%以下に設定する。」(段落【0019】)

4-3.当審の判断
(1)本件発明1について
引用刊行物3、6、11、12、13、15及び18には、「Ti-6242」、「Ti-6242S」や「Ti-6246」という規格の周知の「チタン合金」が開示され、これら規格のチタン合金が例えば引用刊行物6、12、13、15及び20等の記載から明らかなように、高クリープ強度を示すチタン合金であることも周知の事項である。そして、「Ti-6246」と「Ti-6242S」の組成については、例えば引用刊行物12の上記(12a)に一例として「Ti-6246:wt%で、Al6.2、Sn1.9、Zr3.8、Mo6.1、Si0.07、Fe0.08、O0.088、H0.0058」及び「Ti-6242S:wt%で、Al6.0、Sn1.9、Zr4.0、Mo1.9、Si0.11、Fe0.10、O0.085、H0.0070」とそれぞれ記載されているから、これら組成の合金について、Ti-6246を「引用例発明1」と、またTi-6242Sを「引用例発明2」と、以下それぞれ称することとする。
そこで、本件発明1の「Sn:6.0 %以下、Zr:6.0 %以下、Mo:8.0 %以下、Si:0.6 %未満、C:0. 10%以下、Hf:1.0 %以下、Nb:1.5 %以下、Ta:2.5 %以下、W:1.0 %以下、およびV:5.0 %以下から成る群」から、選択成分として、「Sn:6.0 %以下、Zr:6.0 %以下、Mo:8.0 %以下、Si:0.6 %未満」を選択して、引用例発明1及び引用例発明2とそれぞれ対比すると、本件発明1と引用例発明1とは、「質量%で、Al:6.2%、ならびにSn:1.9%、Zr:3.8%、Mo:6.1%、Si:0.07%、H:0.0058%、残部Tiから成る高クリープ強度を示すチタン合金」という点で一致し、また、本件発明1と引用例発明2とは、「質量%で、Al:6.0%、ならびにSn:1.9%、Zr:4.0%、Mo:1.9%、Si:0.11%、H:0.0070%、残部Tiから成る高クリープ強度を示すチタン合金」という点で一致し、次の点で一応相違していると云える。
相違点:
本件発明1は、FeとOを含有しているか明らかではないのに対し、引用例発明1及び引用例発明2は、それぞれ「Fe:0.08%、O:0.088%」及び「Fe:0.10%、O:0.085%」含有している点
次に、この相違点について検討するに、引用例発明1及び引用例発明2に含まれる「FeとO」は、例えば引用刊行物18の上記(18a)に記載されたチタン合金例から明らかなように、チタン合金中の「不純物」として周知の元素であるから、本件発明1でいう「不可避的不純物」に該当するものである。
してみると、引用例発明1及び引用例発明2に係る上記相違点は、本件発明1の「不可避的不純物」に該当するものであるから、両者は、上記相違点において実質的な差異はないと云うべきである。
したがって、本件発明1は、引用刊行物12に記載された発明であると云えるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の成分組成にさらに「Cu:1.0%以下」というCu成分を添加するものであるが、チタン合金に「Cu:1.0%以下」添加することは、例えば引用刊行物18の上記(18b)に「Cu0.75%」を添加したチタン合金が記載され、また、上記周知文献の(21c)に「Cu:1.0%以下」添加することが記載され、さらには、「チタン合金破壊靱性値データ集」(社)日本鉄鋼協会発行、平成2年4月1日、第24頁の「表6化学成分(その6)」に0.499%Cuを含有するチタン合金例が記載されているように、周知の事項である。
してみると、周知の上記引用例発明1又は引用例発明2に「Cu:1.0%以下」添加することも上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到することができたと云える。
したがって、本件発明2は、引用刊行物12に記載された発明と上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件請求項1及び2に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2006-01-19 
出願番号 特願平7-87928
審決分類 P 1 652・ 113- ZB (C22C)
P 1 652・ 841- ZB (C22C)
P 1 652・ 121- ZB (C22C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 河野 一夫  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 徳永 英男
平塚 義三
登録日 2003-02-07 
登録番号 特許第3395443号(P3395443)
権利者 住友金属工業株式会社
発明の名称 高クリープ強度チタン合金とその製造方法  
代理人 内藤 俊太  
代理人 田中 久喬  
代理人 広瀬 章一  
代理人 植木 久一  

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