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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 A23D 審判 全部無効 2項進歩性 A23D |
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管理番号 | 1143667 |
審判番号 | 無効2005-80350 |
総通号数 | 83 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2001-09-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2005-12-02 |
確定日 | 2006-07-03 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3526803号発明「水中油型乳化油脂組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許3526803号の請求項1乃至2に係る発明についての出願は、平成12年3月23日に特願2000-82887号として出願され、平成16年2月27日に特許の設定登録がなされた。 これに対して、田辺 尚矩より平成17年12月2日付けで本件無効審判の請求がなされ、指定期間内である平成18年3月6日付けで被請求人雪印乳業株式会社より訂正請求がなされたが、請求人より弁駁書の提出はなされなかった。 II.訂正請求について 1.訂正の内容 (1)訂正事項1 訂正前の特許請求の範囲の【請求項1】を削除し、項数を繰り上げ、訂正前の特許請求の範囲の【請求項2】を【請求項1】に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の特許請求の範囲の【請求項2】における「ソルビタトリオレエート」の記載を、「ソルビタントリオレエート」と訂正する。 2.訂正の適否 (1)訂正事項1について 上記訂正事項1は、特許請求の範囲の【請求項1】を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、これが願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 (2)訂正事項2について 上記訂正事項2は、誤記の訂正を目的とするものに該当し、また、これが願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.当事者の主張 1.請求人の主張 請求人は、「特許第3526803号の請求項1乃至2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証乃至甲第7号証を提出し、その理由として、(1)訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第1号証刊行物に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項の規定により無効とすべきであり、(2)訂正前の本件請求項1乃至2に係る発明は、甲第1号証乃至甲第7号証刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項の規定により無効とすべきである、旨主張している。 甲第1号証:雪印乳業研究所報告、第79号、昭和59年3月、第1〜10頁 甲第2号証:第一工業製薬株式会社のショ糖脂肪酸エステルDKエステルシリーズ資料、第1〜9頁 甲第3号証:特開昭52-56106号公報 甲第4号証:特開平2-308766号公報 甲第5号証:特開平7-184578号公報 甲第6号証:特開昭62-118855号公報 甲第7号証:特開昭58-86056号公報 2.被請求人の主張 一方、被請求人は、請求人の提出した証拠方法によっては、本件特許を無効にすることができないと主張し、乙第1号証の実験成績証明書を提出している。 IV.本件発明 訂正後の本件請求項1に係る発明は、訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。) 「【請求項1】レシチン0.1〜0.3重量%及びクエン酸モノグリセリドに、グリセリン脂肪酸ジエステル、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種以上を含有させることを特徴とする水中油型乳化油脂組成物。」 V.当審の判断 1.甲号証の記載事項 甲第1号証乃至甲第7号証には、以下の事項が記載されている。 甲第1号証:雪印乳業研究所報告、第79号、昭和59年3月、第1〜10頁 (1-1)ホイップクリームのための油脂・乳化剤配合の研究(表題) (1-2) 乳化物に使用した乳化剤組成を示したTable3には、クリーム番号6として、レシチン(LE)0.1%と、シュガーエステル(SE)0.3%とを組み合わせたもの、クリーム番号7として、レシチン(LE)0.2%と、シュガーエステル(SE)0.2%とを組み合わせたもの、クリーム番号8として、レシチン(LE)0.3%と、シュガーエステル(SE)0.1%とを組み合わせたものが示され、SEとしては第一工業製薬のDK-F160を用いたことが記載されている。(第2〜3頁) (1-3)・・・LE、MGを含む領域は乳化安定性が良いが、SE、PGは乳化安定性に欠ける。SEは耐熱性に問題があるため、またはPGは界面から蛋白質がはがれやすいためと考えられる。(第8頁左欄下1行〜第9頁左欄3行) (1-4)ホイップ時間の結果をFig.15に示した。図中ホイップ時間が9分以上の領域に横線を入れた。ホイップ時間は、PG<SE<LE<MGの順に増加した。PG、SEのホイップ時間が短かいのはPGが脂肪を凝集させやすいことSEの解乳化性が高いことが原因と考えられる。(第9頁左欄10〜15行) (1-5)以上の結果から、ホイップドクリームは各乳化剤により固有の物性を持つことが解ったが、最適な乳化剤配合は各物性のバランスの上で決めなければならない。(第9頁右欄11〜13行)。 甲第2号証:第一工業製薬株式会社のショ糖脂肪酸エステルDKシリーズ資料、第1〜9頁 (2-1) DKエステルは当社が1971年に製造・販売を開始しました食品添加物「ショ糖脂肪酸エステル」です。(第1頁1〜2行) (2-2)第2頁には、製品名F160のものは、その構成脂肪酸の約70%が飽和脂肪酸であるステアリン酸であり、約70%がモノエステルであることが示されている。 甲第3号証:特開昭52-56106号公報 (3-1)・・・乳化剤として、蔗糖脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン脂肪酸エステル0.1〜2.0%とグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンより選ばれた1種以上0.1〜2.0%とからなる系を使用し、更に卵黄0.1〜1.0%の存在下で乳化せしめることを特徴とする加熱に対し安定な起泡性水中油型乳化脂の製造法。(特許請求の範囲) (3-2)・・・流通過程における温度変化や長期間保管に対しても粘度上昇等の物性変化をきたさない安定性を具備し、・・・(第2頁左上欄11〜13行) (3-3)蔗糖脂肪酸エステルとは炭素原子数12〜24個の飽和および/不飽和の脂肪酸と蔗糖とのモノ-、ジ-、トリ-、ポリ-エステル・・・(第2頁右下欄9行〜12行) (3-4)・・・ソルビタン脂肪酸エステルは炭素原子数12〜22個の飽和および/または不飽和の脂肪酸とソルビタン・・・とのトリ-・・・エステル・・・(第2頁右下欄18行〜第3頁左欄10行) (3-5)・・・グリセリン脂肪酸エステルとは、炭素原子数12〜22個の飽和および/または不飽和の脂肪酸とグリセリンの・・・ジ-エステルであり、・・・(第3頁左上欄11行〜14行)。 (3-6)・・・乳化剤の組み合わせとして好ましいものは、蔗糖脂肪酸エステルとソルビタン脂肪酸エステルとモノグリセリドとの組み合わせあるいはさらにこれにレシチンを組み合わせたものであり・・・(第3頁右上欄8行〜12行) (3-7)第1表の実験No.6〜10では、乳化剤として蔗糖脂肪酸エステル(HLB4)0.25%+ソルビタン脂肪酸エステル(HLB5.5)0.2%+ヨウ素価75のモノグリセライド0.15%+大豆レシチン0.25%とを組み合わせて用いたことが示されている。 甲第4号証:特開平2-308766号公報 (4-1)・・・(2)乳化剤としてレシチン0.1〜1.0%(重量%、以下同じ)、および構成脂肪酸が飽和脂肪酸から成るコハク酸モノグリセリド0.005〜0.5%を使用し、さらに、構成脂肪酸が飽和脂肪酸から成るグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、・・・ソルビタン脂肪酸エステル・・・の中から乳化剤を1種以上選択し・・・起泡性を有する水中油型クリーム状組成物の製造法。(特許請求の範囲) (4-2)本発明によって得られる水中油型クリーム状組成物は、長期保存での液状安定性、温度変化に対する安定性、及び振動に対する安定性に優れ、・・・(公報第3頁右下欄第13〜15行)。 甲第5号証:特開平7-184578号公報 (5-1)【請求項1】油脂、蛋白質、乳化剤及び水を含み、3〜50重量%のトリグリセリドを主成分とする油相と50〜97重量%の水相とからなる起泡性水中油型乳化物であって、該油相中に構成脂肪酸残基のうちの40重量%以上がラウリン酸残基であり、上昇融点20℃以上のグリセリンジ脂肪酸エステルが1〜50重量%含有されていることを特徴とする起泡性水中油型乳化物。(特許請求の範囲) (5-2)本発明で使用される乳化剤としては、例えば、クエン酸あるいは乳酸等の有機酸モノグリセリド、・・・ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン類・・・を挙げることができる。・・・乳化剤は、通常乳化物中に0.1〜1.0重量%含有されている。(段落【0015】)。 (5-3)実施例1及び実施例2では、乳化剤として0.4%のレシチンと0.1%のステアリン酸モノグリセリドと0.4%のショ糖脂肪酸エステルとを併用した例が示されている。 甲第6号証:特開昭62-118855号公報 (6-1)(1)少なくとも60%(重量)の10℃における固体脂比率の油脂と少なくとも9.5のHLBのポリグリセリン脂肪酸エステル、2.1以下のHLBのソルビタン脂肪酸エステル及びそれらの混合物からなる群より選択される乳化剤とからなり、最終製品の20%(重量)以下の油相成分、及び少なくとも10.0のHLBのポリグリセリン脂肪酸エステルの乳化剤と水とからなり、最終製品の少なくとも80%(重量)の水相成分からなり、脂肪球の平均粒径が 0.7μ以下であって、泡立てにより100〜150%のオーバーランが得られることを特徴とするホイップ用低脂肪クリーム。・・・(特許請求の範囲) (6-2)本発明は低脂肪でしかも水分含量が多い水中油型乳化物であるにもかかわらず、通常のホイップ用高脂肪クリームと同様の泡沫特性、すなわち、適度なオーバーラン、良好な造花性及び保型性を有するホイップ用低脂肪クリーム・・・(第2頁右下欄11〜15行) (6-3) ソルビタン脂肪酸エステルは、・・・ソルビタントリオレエート・・・が望ましい。(第4頁右下欄19行〜第5頁左上欄5行) 甲第7号証:特開昭58-86056号公報 (7-1)上昇融点15〜45℃の油脂25〜55重量%、乳固形分を含有する水溶液7〜45重量%、クエン酸モノグリセリド0.05〜4重量%およびグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチンからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の乳化剤0.05〜4重量%とを混合乳化し均質化後殺菌して得られるクリーム状起泡性油脂組成物。(特許請求の範囲) (7-2)・・・均質化し、次いで80℃15分間(または140℃、4秒のような高温短時間でもよい)殺菌後冷却し、冷蔵庫中で1晩エージングを行うと良好なクリーム状起泡性油脂組成物であるトッピング用クリームが得られる。(第2頁右上欄8〜12行) (7-3)本発明者らは乳化安定性、特に耐熱乳化安定性に優れた特性を有するクエン酸モノグリセリドに着目し、・・・適度なオーバーランとホイップ時間を与えるために前記乳化剤の1種以上との併用をすることによって本発明の目的が達成される。・・・クエン酸モノグリセリドを含む系ではそれ自身の持つ耐熱乳化安定性の優れている事から、実際上使用されている殺菌工程即ちバッチ式、直接加熱法、間接加熱法の種類に関係なく乳化安定性が優れボテが起こり難い。・・・(第2頁右下欄9行〜第3頁右上欄1行) (7-4)実験No.7では、乳化剤としてクエン酸モノグリセリドを0.6%とレシチンを0.4%配合した油脂組成物と脱脂粉乳水溶液を混合してクリーム状起泡性油脂組成物を製造したことが、実施例2では、121℃、15分間でクリーム状起泡性油脂組成物の耐熱テストを行ったことが、実施例3では、乳化剤として、クエン酸モノグリセリドを1.6重量%とポリグリセリンエステル0.8重量%とレシチンを0.4重量%配合した油脂組成物と脱脂乳を混合してクリーム状起泡性油脂組成物を製造したことが示されている。 2.対比・判断 本件発明は、「一般にホイップ用クリームは、クリームに起泡性及び保形性を付与するためにレシチンが0.4重量%以上添加されている。このようにレシチンを添加すると、ホイップ時の起泡性、ホイップ後の保形性が向上するものの、流通又は保存中の温度変化に対する安定性が劣ったものとなる。一方で、レシチンを添加しないと、流通又は保存中の温度変化に対する安定性は高くなるものの、ホイップ時に造花可能な硬さまで組織を形成せず起泡性に劣り、またレシチンの添加量を減らすと、ホイップ時に造花可能な硬さまで組織を形成するものの、ホイップ後に造花しても離水及び変形が生じ、保形性が著しく低下する。」(特許明細書段落【0006】)という従来技術が有する問題点を解決するためになされたものであり、水中油型乳化油脂組成物にレシチン0.1〜0.3重量%及びクエン酸モノグリセリドに、グリセリン脂肪酸ジエステル、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種以上を含有させることにより、流通又は保存中の温度変化に対して安定性を有し、特に配合油脂の融点近くの温度まで上昇しても従来のホイップ用クリームのように凝集、固化が生じることがなく、ホイップ時の起泡性及びホイップ後の保形性が良好な水中油型乳化油脂組成物を提供することができるものである。 これに対して、甲第1号証には、レシチン0.1〜0.3%と飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルを含有させたホイップクリームが記載され、甲第2号証には、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルが記載され、甲第3号証には、卵黄0.1〜1.0%、ショ糖脂肪酸エステルおよび/またはソルビタン脂肪酸エステル0.1〜2.0%を必須成分とし、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンから選ばれた1種以上を選択成分として含有させた熱に対し安定な起泡性水中油型乳化脂が記載され、甲第4号証には、レシチン0.1〜1.0%重量%及び構成脂肪酸が飽和脂肪酸からなるコハク酸モノグリセリドを必須成分として含有し、構成脂肪酸が飽和脂肪酸から成るグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル1種以上を選択成分として含有させた温度変化及び振動に対して安定な水中油型クリーム状組成物が記載され、甲第6号証には、ソルビタントリオレエートを含有させたホイップ用低脂肪クリームが記載されている。 次に、甲第5号証には、グリセリンジ脂肪酸エステルとレシチンを含有させた起泡性水中油型乳化物が記載され、グリセリンジ脂肪酸エステルとともに使用される乳化剤としてレシチンやクエン酸あるいは乳酸等の有機酸モノグリセリドが挙げられているが、実施例1及び実施例2では0.4%の量のレシチンと0.1%のステアリン酸モノグリセリドを使用しており、レシチンとクエン酸モノグリセリドとを組み合わせた実施例はない。 また、甲第7号証には、クエン酸モノグリセリド必須成分とし、これに、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチンより選ばれた1種以上の乳化剤を配合したクリーム状起泡性油脂組成物が記載されているが、甲第7号証には、実験No.7或いは実施例3としてクエン酸モノグリセリドとレシチンとの組み合わせが示されているだけである。 そこで、本件発明と甲第1乃至6号証に記載された発明とを対比すると、両者は、レシチン、グリセリン脂肪酸ジエステル、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種以上を含有させる水中油型乳化油脂組成物である点で一致するものの、前者がクエン酸モノグリセリドを含有しているのに対して、後者はクエン酸モノグリセリドを含有していない点で相違する。 次に、本件発明と甲第7号証に記載された発明とを対比すると、両者は、クエン酸モノグリセリドを含有する水中油型乳化油脂組成物である点で一致するものの、前者が、クエン酸モノグリセリドとレシチンそしてグリセリン脂肪酸ジエステル、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種から選ばれる乳化剤の合計3種以上の乳化剤を使用し、レシチンを0.1〜0.3重量%含有するのに対して、後者の実験No.7及び実施例3のクリーム状起泡性油脂組成物は、グリセリン脂肪酸ジエステル、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種から選ばれる乳化剤を含有しない点で相違する。 そして、本件発明は、斯かる構成の相違により、本件明細書記載のとおり、レシチンを、0.3重量%以下の含有割合に減少させても、流通又は保存中の温度変化に対して安定性を有し、しかもホイップ時の起泡性及びホイップ後の保形性が良好であるという、甲第1乃至7号証に記載された発明からは予期し得ない格別の効果を奏するものである。 また、被請求人が提出した乙1号証の実験成績証明書によると、甲各号証に記載された乳化油脂組成物は、本件発明の実施例と比べ、流通又は保存中の温度変化に対する安定性に関して良好な結果を示していないか、また、流通又は保存中の温度変化に対する安定性において良好な結果を示したものでも、ホイップ時の起泡性及びホイップ後の保形性などの評価が悪いことが具体的に示されているところ、本件発明が、甲第1乃至7号証に記載された発明からは予期し得ない格別の効果を奏することは、乙1号証の実験成績証明書からも明らかである。 無効審判請求人は、「甲第7号証にはクエン酸モノグリセリドを、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等の少なくとも1種と組み合わせて起泡性油脂乳化物に使用することが記載され、クエン酸モノグリセリドは乳化安定性、特に耐熱乳化安定性に優れた特性を有することが記載されているから、甲第7号証の記載に基き、甲第1及び3乃至6号証記載の乳化物、特に甲第1号証記載の乳化物に対して、その乳化物の乳化安定性、特に耐熱安定性を向上させる目的でクエン酸モノグリセリドを併用することは当業者にとって容易なことである。」旨主張しているので検討する。 甲第1号証は、合成クリームをモデルとした基礎的知見を得る実験が記載されており、実験で使用されるLE(レシチン)、MG(ステアリン酸モノグリセライド)、SE(シュガーエステル)及びPG(プロピレングリコールステアリン酸エステル)の4種の乳化剤以外のものを使用することは想定されていないものと解される。そして、上記記載事項(1-3)のとおり、甲第1号証の実験結果によれば、乳化安定性についてはFig.13に示されるようにLE(レシチン)、MG(ステアリン酸モノグリセライド)を含む領域は安定性が良いが、SE(シュガーエステル)、PG(プロピレングリコールステアリン酸エステル)は安定性に欠け、SE(シュガーエステル)は耐熱性に問題があるとされているから、乳化物の乳化安定性を向上させるのであれば、当業者は、LE(レシチン)かMG(ステアリン酸モノグリセライド)の配合量を増やすか、耐熱性に問題があるとされるSE(シュガーエステル)の配合量を減らすことを考えるのが普通である。 そうであるから、甲第1号証記載の乳化物に対して、その乳化物の耐熱安定性を向上させる目的でクエン酸モノグリセリドを併用することは当業者にとって容易なことであるとする審判請求人の主張は採用できない。 また、甲第7号証における、耐熱安定性は、上記記載事項(7-2)乃至(7-4)のとおり、140℃、4秒での殺菌あるいは、121℃、15分間での耐熱テストのような、高温においても安定なことを意味している。一方、本件発明でいう「流通又は保存中の温度変化に対して安定性」とは、冷蔵状態から高くても35℃に保存された製品の温度変化に対する安定性を維持することを意味し、甲第7号証における耐熱安定性とは異なる性質であることは明らかである。 そうすると、クエン酸モノグリセリドを併用することによって、冷蔵状態から高くても35℃に保存された場の製品の温度変化に対する安定性を維持することができることは、甲第7号証に記載された発明から、当業者が予測できるとは到底言えないから、甲第7号証の記載に基づき、クエン酸モノグリセリドを併用することは当業者にとって容易なことであるとする審判請求人の主張は採用できない。 したがって、本件発明は、甲第1号証刊行物に記載された発明であるとすることはできないし、また、甲第1号証乃至甲第7号証刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 VI.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1に係る発明の特許を無効とすることができない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 水中油型乳化油脂組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】レシチン0.1〜0.3重量%及びクエン酸モノグリセリドに、グリセリン脂肪酸ジエステル、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種以上を含有させることを特徴とする水中油型乳化油脂組成物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、ホイップ用の水中油型乳化油脂組成物に関する。本発明の水中油型乳化油脂組成物は、流通又は保存中の温度変化に対して安定性を有し、ホイップ時の起泡性及びホイップ後の保形性が良好であるという特徴を有する。 【0002】 【従来の技術】水中油型乳化油脂組成物とは、水相を連続相とし、ここに油相が分散している状態の乳化物のことであり、例えば、クリーム、牛乳、ドレッシング、マヨネーズ等がある。このうちクリームは、牛乳を遠心分離して得られる生クリームと油脂、乳成分、乳化剤、水等を主原料として調製される合成クリームとに分類される。合成クリーム(以下、クリームという。)は、使用する油脂、乳成分、乳化剤等の種類やその添加量を適宜調整することにより使用目的に合わせて調製することができ、コーヒー用クリーム、ホイップ用クリーム等がある。ホイップ用クリームには、流通又は保存中の温度変化に対する安定性、ホイップ時の良好な起泡性及びホイップ後の良好な保形性が求められている。クリームを調製する際には、口溶けを良好にするために口中温度より少し低い融点(約35℃)を持つ油脂が使用されている。このような油脂を使用して調製されるクリームは、何らかの原因で使用している油脂の融点付近まで一旦温度が上昇してしまうと、その後冷却しても増粘、固化が生じやすくなる。また、温度が上昇した後、振動が加わると、より増粘、固化が生じやすくなるといった報告がある(野田ら:日本食品工業学会誌,Vol.41,No.5,P.327-334)。このように、クリームは、温度変化による影響を受けやすいため、通常冷蔵(約5℃)状態で流通又は保存される。しかしながら、遠隔地等流通に長時間を要したり、夏場のように外気温が高い場合には、輸送中に製品の温度が上昇したりして、クリームが増粘、固化することがある。また、消費者がクリームを購入し、家庭に持ち帰る間に温度が上昇したり、冷蔵せずに放置されて温度が上昇したりして、クリームが増粘、固化することがある。 【0003】そこで、常温で安定であって、常温流通又は常温保存が可能な水中油型乳化油脂組成物を製造する方法として、10〜40重量%の油相と60〜90重量%の水相とを乳化する際に、乳化剤としてジアセチル酒石酸モノグリセリドと、レシチン及び/又はソルビタン脂肪酸エステルを配合する技術(特開平4-370072号公報)、温度変化や振動に対して増粘、固化を起こさない水中油型乳化油脂組成物を製造する方法として、乳化剤としてカルボキシル基を有する有機酸モノグリセリド、レシチン及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、かつ乳タンパク質を配合する技術(特開平11-276106号公報)等が開示されている。この他にも乳化時に使用する乳化剤や乳成分の種類や組み合わせ、その添加量を検討し、流通又は保存中の温度変化に対する安定性を付与した水中油型乳化油脂組成物を製造する技術について、多くの検討がなされている。しかしながら、これらの水中油型乳化油脂組成物は、ホイップしても造花可能な硬さまで組織を形成せず起泡性が悪かったり、造花可能な硬さまで組織を形成しても、すぐに変形し、離水しやすく、保形性が悪いといった問題がある。 【0004】一方、レシチンや不飽和系のモノグリセリドを配合することにより、良好な起泡性や保形性が付与されることが知られている(「食品用乳化剤」,P.203-204,光琳書房発行)。さらに、ホイップ時の起泡性及びホイップ後の保形性に優れた水中油型乳化油脂組成物を製造する方法として、安定剤としてアラビアガムを0.3〜10重量%配合する技術(特開平9-37715号公報)、固体脂含有指数(SFC)が10℃で70%以上、20℃で50%以上、35℃で20%以下である分別パーム硬化油を30重量%以上含む、融点が20〜40℃の油脂を配合する技術(特開平10-75729号公報)等が開示されている。この他にも乳化時に使用する乳化剤や乳成分の種類、組み合わせ、その添加量を検討し、ホイップ時の起泡性とホイップ後の保形性に優れた水中油型乳化油脂組成物を製造する技術について、多くの検討がなされている。しかしながら、これらのクリームは流通又は保存中の温度変化により増粘、固化しやすいといった問題がある。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】このようにホイップ用クリームには、流通又は保存中の温度変化に対する安定性、ホイップ時の良好な起泡性及びホイップ後の良好な保形性が求められているが、これらすべてを満たすクリームは未だ提供されていないのが現状である。したがって本発明は、流通又は保存中の温度変化、特に配合油脂の融点近くまでの温度上昇に対する安定性、ホイップ時の起泡性及びホイップ後の保形性の良好な水中油型乳化油脂組成物を提供することを課題とする。本発明において、温度変化とは、流通又は保存中に水中油型乳化油脂組成物の温度が上昇したり、低下したりすることをいい、例えば、流通又は保存中に冷蔵温度(約5℃)から外気温(25℃〜35℃)へ温度が変化したり、消費者が購入してから家庭に持ち帰る間に温度が上昇し、家庭で冷蔵庫に入れた時に温度が低下するといった温度変化のことである。本発明において、水中油型乳化油脂組成物が安定性を有するとは、温度変化によって生じる増粘、固化が抑制された状態のことをいう。本発明において、良好な起泡性とは、ホイップ時に短時間で造花可能な硬さまで組織を形成することをいい、また良好な保形性とは、造花後に変形したり離水しづらいことをいう。本発明において、水中油型乳化油脂組成物とは、油相と水相を乳化剤や乳成分を介して乳化させたクリームのことをいう。 【0006】 【課題を解決するための手段】一般にホイップ用クリームは、クリームに起泡性及び保形性を付与するためにレシチンが0.4重量%以上添加されている。このようにレシチンを添加すると、ホイップ時の起泡性、ホイップ後の保形性が向上するものの、流通又は保存中の温度変化に対する安定性が劣ったものとなる。一方で、レシチンを添加しないと、流通又は保存中の温度変化に対する安定性は高くなるものの、ホイップ時に造花可能な硬さまで組織を形成せず起泡性に劣り、またレシチンの添加量を減らすと、ホイップ時に造花可能な硬さまで組織を形成するものの、ホイップ後に造花しても離水及び変形が生じ、保形性が著しく低下する。本発明者らは、流通又は保存中の温度変化に対する安定性、ホイップ時の起泡性及びホイップ後の保形性の良好な水中油型乳化油脂組成物を得るべく、鋭意研究を重ねた結果、水中油型乳化油脂組成物を製造する際に、レシチン0.1〜0.3重量%に、グリセリン脂肪酸ジエステル、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種以上を配合することにより、流通又は保存中の温度変化に対する安定性、ホイップ時の良好な起泡性及びホイップ後の良好な保形性を付与できることを見出し、本発明を完成させるに至った。さらに、上記の配合にクエン酸モノグリセリドを配合することにより、温度変化に対する安定性をより良好にできることを見出した。 【0007】 【発明の実施の形態】本発明の水中油型乳化油脂組成物は、次のようにして調製することができる。すなわち、レシチン、及びグリセリン脂肪酸ジエステル、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種以上を油脂に添加して含有させ、70〜80℃に加温して油相を調製する。一方、乳タンパク素材と、必要に応じて香料、着色料、安定剤、乳化剤等を水に溶解し、60〜70℃に加温して水相を調製する。次いで、水相に油相を少量ずつ添加し、ホモミキサー等を用いて予備乳化を行い、その後、2段式均質機等の均質機を用い、均質圧50〜700kg/cm2で均質処理を行って乳化物とし、急速冷却した後、容器に充填して5℃で1日以上エージングを行う。なお、乳化時には油相が20〜50重量%、好ましくは30〜40重量%となるように調製する。油相が20重量%未満ではホイップ時に造花可能な硬さまで組織を形成しないことがあり、起泡性が悪くなるため好ましくなく、50重量%を超えると流通又は保存中の温度変化に対する安定性が付与できないため好ましくない。 【0008】本発明において用いる油脂としては、食用油脂であればいずれの油脂でもよく、例えば、乳脂、ラード、牛脂、魚油等の動物性油脂、なたね油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、サフラワー油、コーン油等の植物性油脂、これらの硬化油、エステル交換油、分別油等を挙げることができる。また、これらの油脂を任意の割合で混合した油脂を用いてもよい。なお、口溶け等の食感を考慮すると、融点が35℃付近である油脂を用いることが好ましい。本発明において用いるレシチンとしては、粉末状、顆粒状又はペースト状の大豆由来又は卵黄由来のレシチン、ケファリン、イノシトール、リン脂質、これらの混合物等を挙げることができる。レシチンは、水中油型乳化油脂組成物に対して0.1〜0.3重量%含有するように添加することが好ましく、特に0.15〜0.25重量%含有するように添加することが好ましい。含有量が0.1重量%未満では、ホイップ時に造花可能な硬さまで組織を形成しないことがあり、起泡性が悪くなるため好ましくなく、0.3重量%を超えると流通又は保存中の温度変化に対する安定性が付与できないため好ましくない。本発明ではレシチンとともに、グリセリン脂肪酸ジエステル、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種以上を用いることが好ましく、グリセリン脂肪酸ジエステルとしては、乳脂肪又は植物性油脂由来の天然あるいは合成のものを用いることが好ましい。飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステルとしては、飽和脂肪酸としてパルミチン酸又はステアリン酸を70重量%以上結合し、HLBが1以下であるものを用いることが好ましい。これらについては、水中油型乳化油脂組成物に対して0.05〜0.5重量%、特に0.1〜0.2重量%含有するように添加することが好ましい。含有量が0.05重量%未満では、造花後に変形したり離水が生じ、保形性が低下することがあるため好ましくなく、0.5重量%を超えると風味が低下することがあるため好ましくない。また、これらとともに、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド等を併用してもよい。有機酸モノグリセリドのうちクエン酸モノグリセリドは、温度変化に対する安定性をより良好にすることができるため、クエン酸モノグリセリドを用いることが特に好ましい。 【0009】本発明において用いる乳タンパク質素材としては、脱脂粉乳、カゼインナトリウム、ホエータンパク質濃縮物等を挙げることができる。乳タンパク質素材は、水中油型乳化油脂組成物に対して1.0〜5.0重量%、特に2.0〜4.0重量%含有するように添加することが好ましい。含有量が1.0重量%未満では、乳風味が弱くなるため好ましくなく、5.0重量%を超えると粘度が上昇しすぎることがあるため好ましくない。さらに本発明では、乳化安定性を高める目的で、グアガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アラビアガム、キサンタンガム、タラガム等の天然水溶性高分子、あるいはカルボキシルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等の合成水溶性高分子等の安定剤、及びHLBが10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤を添加してもよく、またpHを調整する目的で、リン酸塩、クエン酸塩等を添加してもよく、さらに風味や外観を向上させる目的で、香料、着色料等を添加してもよい。 【0010】 【実施例】以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。 実施例1 以下の配合で試作品1〜25を2kgずつ調製した。 試作品1:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%及びグリセリン脂肪酸ジエステル(HLB1.5)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。水55.33重量%に、脱脂粉乳4.0重量%、ヘキサメタリン酸ナトリウム(太平化学工業社製)0.1重量%及びショ糖脂肪酸エステル(HLB11、第一工業製薬社製)0.2重量%、グアガム(シグマ社製)0.07重量%を添加、溶解し、65℃まで加温して水相を調製した。水相に油相を少量ずつ添加し、ホモミキサーを用いて高速剪断して予備乳化を行い、直ちに均質機を用いて均質圧120kg/cm2で均質処理を行って水中油型乳化油脂組成物を得た。得られた水中油型乳化油脂組成物を5℃まで急速冷却し、その後ゲーブルトップタイプの紙パック(500ml)に充填し、5℃の冷蔵庫で保存した。 試作品2:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%及び飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル(HLB1.0、三菱化学フーズ社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品1と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品3:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%及びソルビタントリオレエート(HLB1.8、三菱化学フーズ社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品1と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品4:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及びグリセリン脂肪酸ジエステル(HLB1.5)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、水55.23重量%とする他は試作品1と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 【0011】試作品5:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及び飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル(HLB1.01、三菱化学フーズ社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品4と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品6:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及びソルビタントリオレエート(HLB1.0、三菱化学フーズ社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品4と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品7:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.1重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及びグリセリン脂肪酸ジエステル(HLB1.5)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品1と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品8:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.1重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及び飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル(HLB1.0、三菱化学フーズ社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品1と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品9:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.1重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及びソルビタントリオレエート(HLB1.8花王社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品1と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 【0012】試作品10:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.3重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及びグリセリン脂肪酸ジエステル(HLB1.5)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、水55.13重量%とする他は試作品1と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品11:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.3重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及び飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル(HLB1.0、三菱化学フーズ社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品10と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品12:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.3重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及びソルビタントリオレエート(HLB1.8花王社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品10と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品13:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%、グリセリン脂肪酸ジエステル(HLB1.5)0.1重量%及び飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル(HLB1.0、三菱化学フーズ社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品10と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品14:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%、グリセリン脂肪酸ジエステル(HLB1.5)0.1重量%及びソルビタントリオレエート(HLB1.8、花王社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品10と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 【0013】試作品15:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル(HLB1.0、三菱化学フーズ社製)0.1重量%及びソルビタントリオレエート(HLB1.8、花王社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品10と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品16:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにクエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及びグリセリン脂肪酸ジエステル(HLB1.5)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、水55.43重量%とする他は試作品1と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品17:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにクエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及び飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル(HLB1.0、三菱化学フーズ社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品16と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品18:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにクエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及びソルビタントリオレエート(HLB1.8、花王社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品16と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品19:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.4重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及びグリセリン脂肪酸ジエステル(HLB1.5)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、水55.03重量%とする他は試作品1と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 【0014】試作品20:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.4重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及び飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル(HLB1.0、三菱化学フーズ社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品19と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品21:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.4重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及びソルビタントリオレエート(HLB1.8、花王社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品19と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品22:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及び不飽和脂肪酸結合型モノグリセリン脂肪酸エステル(HLB3.5、花王社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品4と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品23:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(太陽化学社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品4と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品24:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及び飽和脂肪酸結合型ソルビタン脂肪酸エステル(HLB2.5、理研ビタミン社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品4と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 試作品25:なたね硬化油30重量%及びパーム核硬化油10重量%を混合して混合油脂(融点35℃)を調製し、これにレシチン(レシチンDX、日清製油社製)0.2重量%、クエン酸モノグリセリド(HLB9.5、太陽化学社製)0.1重量%及び飽和脂肪酸結合型ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB3.5、太陽化学社製)0.1重量%を加えて75℃まで加温して油相を調製した。また、試作品4と同様にして水相を調製し、さらに水中油型乳化油脂組成物を調製した。 【0015】試験例1実施例1で調製した試作品1〜25について、温度変化に対する安定性及びホイップ時の起泡性試験を行い、さらにホイップ後の保形性を評価した。温度変化に対する安定性試験:5℃で1日保存した試作品1〜25を紙容器ごと25℃又は35℃に調整した恒温水中にそれぞれ1時間浸漬し、その後、再度5℃の冷蔵庫で1日保存した。品温を5℃のままで保持した試作品1〜25、25℃の恒温水中に浸漬した試作品1〜25、35℃の恒温水中に浸漬した試作品1〜25について、振動試験を行い、温度変化に対する安定性を評価した。振動試験は、各試作品200mlを紙容器(容量250ml)に入れ、振動機(SA-31型、ヤマト社製)を用い、100回/37秒で水平方向に振動させ、クリームが流動性を失うまでの振動回数を測定した。なお、振動回数が多いほどクリームは凝集、固化しづらく温度変化に対する安定性を有することを示す。また、振動回数0回は温度処理のみで流動性を失ったことを示す。ホイップ時の起泡性試験:5℃で1日保存した試作品1〜25をGEミキサー(GENERAL ELRCTRIC社製)でホイップし、起泡性試験(野田ら:日本食品科学工学会誌,vol.43,P.896-903)を行った。なお、この時、ホイップ終点を最適造花性を示す荷重に設定し、この終点に達するまでの時間を測定した。ホイップ後の保形性の評価:上記ホイップ時の起泡性試験でホイップ終点に達したホイップクリームを10/7口金付絞り袋で、直径3cm、高さ3cmとなるように絞り出し、35℃で15分間放置後のホイップクリームの変形率を下記の式により算出した。 変形率(%)={(絞り出し直後の高さ-35℃で15分間放置後の高さ)/絞り出し直後の高さ}×100さらに、35℃で15分間放置後のホイップクリームの離水を目視にて観察し、-:離水がほとんどない、±:離水が多少ある、+:離水が多い、の3段階で評価した。これらの結果を表1に示す。 【0016】 【表1】 【0017】レシチンを添加せずに、飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル又はソルビタントリオレエートを添加した試作品17及び18は、振動回数が最も多く、温度変化に対する安定性を有していたが、ホイップ時の起泡性が悪かった。また、レシチンを添加せずにグリセリン脂肪酸ジエステルを添加した試作品16は振動回数が多く、起泡性も良好であったが、ホイップ後に変形し、離水も生じた。レシチンを0.1重量%添加して、さらに飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種を添加した試作品7〜9は、振動回数も多く、温度変化に対する安定性を有し、ホイップ時の起泡性も良好であり、ホイップ後も比較的良好な保形性を有していた。レシチンを0.3重量%添加して、さらに飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種を添加した試作品10〜12は、振動回数は若干少なかったものの、製品の品質に問題のない程度であり、ホイップ時の起泡性も比較的良好であり、変形しづらく保形性も良好であった。レシチンを0.4重量%添加して、さらに飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種を添加した試作品19〜21は、変形しづらく保形性は良好であったが、振動回数が最も少なく、特に油脂の融点近くの35℃で保持したものは、振動回数が非常に少なく、温度変化に対する安定性がなく、ホイップ時の起泡性も悪かった。 【0018】レシチンを0.2重量%添加して、さらに不飽和脂肪酸結合型モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、飽和脂肪酸結合型ソルビタン脂肪酸エステル、飽和脂肪酸結合型ポリグリセリン脂肪酸エステルのいずれか1種を添加した試作品22〜25は、振動回数が多く、温度変化に対する安定性を有し、起泡性も良好であったが、ホイップ後に変形し、離水が見られた。レシチンを0.2重量%添加して、さらに飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種以上、又はこれらに加えてクエン酸モノグリセリドを添加した試作品1〜6、試作品13〜15は、温度変化に対する安定性を有し、ホイップ時の起泡性も良好であり、ホイップ後も良好な保形性を有しており、全ての点で良好であった。特に、クエン酸モノグリセリドを配合すると、温度変化に対する安定性がより良好であった。以上の結果から、レシチンを0.1〜0.3重量%含有するように添加し、さらに飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種以上を添加することにより、温度変化に対する安定性、ホイップ時の起泡性及びホイップ後の保形性の良好な水中油型乳化油脂組成物が得られることを確認した。また、レシチンを0.1〜0.3重量%を含有するように添加し、クエン酸モノグリセリドを添加して、さらに飽和脂肪酸結合型ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、ソルビタントリオレエートのいずれか1種以上を添加することにより、温度変化に対する安定性がより良好で、ホイップ時の起泡性及びホイップ後の保形性の良好な水中油型乳化油脂組成物が得られることを確認した。 【0019】 【発明の効果】本発明によれば流通又は保存中の温度変化に対して安定性を有し、特に配合油脂の融点近くの温度まで上昇しても従来のホイップ用クリームのように凝集、固化が生じることがなく、ホイップ時の起泡性及びホイップ後の保形性が良好な水中油型乳化油脂組成物を提供することができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2006-05-10 |
結審通知日 | 2006-05-12 |
審決日 | 2006-05-23 |
出願番号 | 特願2000-82887(P2000-82887) |
審決分類 |
P
1
113・
113-
YA
(A23D)
P 1 113・ 121- YA (A23D) |
最終処分 | 不成立 |
特許庁審判長 |
河野 直樹 |
特許庁審判官 |
鵜飼 健 種村 慈樹 |
登録日 | 2004-02-27 |
登録番号 | 特許第3526803号(P3526803) |
発明の名称 | 水中油型乳化油脂組成物 |
代理人 | 石井 良夫 |
代理人 | 石井 良夫 |
代理人 | 後藤 さなえ |
代理人 | 吉見 京子 |
代理人 | 藤野 清也 |
代理人 | 吉見 京子 |
代理人 | 後藤 さなえ |
代理人 | 藤野 清也 |