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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 B61B |
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管理番号 | 1143678 |
審判番号 | 無効2004-80114 |
総通号数 | 83 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1991-10-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2004-07-28 |
確定日 | 2006-07-24 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2771007号「台車搬送装置」の特許無効審判事件についてされた平成17年3月31日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項に規定する審決取消の決定(平成17年(行ケ)第10461号、平成17年9月7日付け決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2771007号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第2771007号(平成2年2月15日出願、平成10年4月17日設定登録:以下、「本件特許」という。)に係る上記審決取消の決定を受けて、被請求人は、特許法第134条の2第1項の訂正の請求を、同法第134条の3第2項の規定により指定された期間内である平成17年10月3日付けでした。 当審は、特許法第134条の2第2項の規定により、訂正の請求書及びこれに添付された訂正した明細書及び図面の副本を請求人に送達するとともに、相当の期間を指定して、弁駁書の提出の機会を与え、請求人は、指定された期間内である平成17年12月2日付けで弁駁書を提出した。 また、被請求人は、上記訂正の請求時に答弁書を提出せず、訂正後における本件特許の請求項1に記載された発明についての本審判事件の請求の理由に係る特許法第29条違反に関し、明確な反論をしていなかったため、当審より平成17年11月18日付け、及び平成18年1月5日付けで、この点について、被請求人及び請求人にそれぞれ審尋し、平成17年12月9日付け、平成18年1月20日付けで、それぞれ、その回答書が提出された。(当該回答書の副本は、平成18年1月5日付け、平成18年2月14日付けで、請求人及び被請求人に、それぞれ送付された。) 当審は、上記弁駁書及び各回答書の内容を検討の上、特許法第131条の2第2項の要件に関し、この弁駁書による請求の理由の補正については、審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものであり、かつ、同項第1号に該当する事由があるものと認め、平成18年2月14日付けで、当該補正を決定をもって許可し、同時に、同法第134条第2項の規定により、その補正に係る弁駁書の副本を被請求人に送達し、相当の期間を指定して、答弁書、及び同法第134条の2第1項の訂正の請求の機会を与えた。また、これと同時に、審理を職権により書面審理によるものとする旨、通知した。 そして、被請求人は、指定された期間内である平成18年3月20日付けで、答弁書を提出するとともに、再度、訂正の請求をしたものである。 第2 訂正の要件 被請求人は、平成18年3月20日付けでした訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の訂正事項について、平成17年10月3日付けでした訂正の請求に係る訂正後における明細書又は図面の内容を基準として、訂正要件に関する説明をしているが、この平成17年10月3日付けでした訂正の請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされるから、以下、本件特許設定登録時の明細書又は図面の内容を基準として、本件訂正請求に関する訂正事項が訂正要件に適合するか否かについて検討する。 本件訂正請求において、特許請求の範囲についての訂正の目的は、請求項1に記載した事項について、「台車に走行力を付与する台車駆動装置を設け」を、「台車に送りローラを圧接させ走行力を付与する台車駆動装置を設け」とし、「前記台車に接触して前記台車駆動装置より小さい制動力を付与するブレーキ装置を設け」を、「前記台車に前記送りローラとは反対側に回転駆動されているブレーキローラを圧接させ前記台車駆動装置より小さい制動力を付与するブレーキ装置を設け」とし、「昇降枠と」を、「下部にカム部が横方向への突条状に形成された昇降枠と」とし、「この昇降枠を昇降させる装置と」を、「前記カム部に下方から当接自在な受けローラと上方から当接自在な押えローラを一定経路の方向に移動させて前記カム部を介して前記昇降枠を昇降させる装置と」とし、「前記昇降枠に取付けられた操作レールとを有し、この操作レールは一定経路に沿い」を、「前記昇降枠の複数箇所から、左右方向の外方に向けて支持杆が連設され、これら支持杆の遊端間に取付けられた持上げ用レールとを有し、この持上げ用レールは一定経路に沿い」として、それぞれ減縮するものであって、「特許請求の範囲の減縮」に該当するものである。 そして、請求項1は、特許無効審判の請求がされていない請求項であるから、これに係る発明が、「特許出願の際独立して特許を受けることができる」ことは、訂正の要件ではない。 次に、発明の詳細な説明についての訂正は、上記特許請求の範囲についての訂正に、発明の詳細な説明の記載を整合させるもので、「明りょうでない記載の釈明」に該当するものである。 そして、訂正全般として、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされていない旨の事実は認められず、さらには、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものである旨の事実は認められない。 以上のとおりであるから、本件訂正請求については、その訂正事項は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合し、特許法第134条の2第5項において読み替えて準用する平成6年改正前特許法第126条第2項及び第3項の規定に違反しないものと認められるから、これに係る訂正を認める。 第3 本件特許発明 第2のとおり、本件訂正請求に係る訂正を認めたので、本件特許の請求項1に係る発明(以下、本件特許発明という。)は、訂正後の本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】台車が走行自在な一定経路の側方に、台車に送りローラを圧接させ走行力を付与する台車駆動装置を設け、この台車駆動装置の位置よりも一定経路の下流側に、前記台車に前記送りローラとは反対側に回転駆動されているブレーキローラを圧接させ前記台車駆動装置より小さい制動力を付与するブレーキ装置を設け、前記台車に被搬送物の支持装置を設け、この支持装置を、台車側に案内されて昇降自在な複数の昇降体と、これら昇降体の上端側に設けた被搬送物の受け具と、各昇降体の下端側に設けたローラとにより構成し、前記一定経路中の複数箇所に前記支持装置を昇降させるリフト装置を設け、このリフト装置は、下部にカム部が横方向への突条状に形成された昇降枠と、前記カム部に下方から当接自在な受けローラと上方から当接自在な押えローラを一定経路の方向に移動させて前記カム部を介して前記昇降枠を昇降させる装置と、前記昇降枠の複数箇所から、左右方向の外方に向けて支持杆が連設され、これら支持杆の遊端間に取付けられた持上げ用レールとを有し、この持上げ用レールは一定経路に沿い、前記昇降枠の昇降により、前記ローラに下方から作用して昇降体を上昇させることを特徴とする台車搬送装置。」 第4 請求人の主張と、その提出した証拠等 請求人は、本件特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件特許発明は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術分野に属する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから、本件特許は無効とすべきものであると主張して、甲第1号証ないし甲第6号証及び参考資料1ないし参考資料30(甲第5号証及び甲第6号証、及び参考資料27ないし参考資料30は、平成17年12月2日付け弁駁書において追加。)を提出している。 第5 被請求人の主張と、その提出した証拠 一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、」との審決を求め、「甲第1号証ないし甲第6号証の存在下において本件特許発明の進歩性を否定しうるものではない。」とし、請求人の主張を認めるべきではないとして、乙第1号証を提出している。 第6 証拠とその記載事項 各当事者が提出した証拠等と、その主要な記載事項は次のとおりである。 甲第1号証 : 西独国特許出願公開第3100159号明細書 甲第2号証 : 特公昭43-13437号公報 甲第3号証 : 特開昭54-149186号公報 甲第4号証 : 実願昭61-121552号(実開昭63-26629号)のマイクロフィルム 甲第5号証 : 特開昭58-36776号公報 甲第6号証 : 特開平2-11456号公報 参考資料1 : 特開平1-269661号公報 参考資料2 : 特公昭63-26223号公報 参考資料3 : 特開昭56-99112号公報 参考資料4 : 米国特許第1771404号明細書 参考資料5 : 特公昭50-25886号公報 参考資料6 : 特公昭40-4125号公報 参考資料7 : 特開昭53-11474号公報 参考資料8 : 米国特許第3861352号明細書 参考資料9 : 実願昭49-83431号(実開昭51-14212号)のマイクロフィルム 参考資料10 : 実公昭38-7421号公報 参考資料11 : 実願昭61-186872号(実開昭63-175615号)のマイクロフィルム 参考資料12 : 特開昭62-205870号公報 参考資料13 : 特開昭62-225476号公報 参考資料14 : 実公昭38-6025号公報 参考資料15 : 実公昭59-28974号公報 参考資料16 : 実公昭63-644号公報 参考資料17 : 実開昭52-59986号公報 参考資料18 : 実公昭55-36410号公報 参考資料19 : 実公昭53-33985号公報 参考資料20 : 特開昭54-140373号公報 参考資料21 : 英国特許出願公開第2197633号明細書 参考資料22 : 実開昭62-147617号公報 参考資料23 : 実公昭62-9186号公報 参考資料24 : 特開平1-181615号公報 参考資料25 : 実願昭56-36730号(実開昭57-151318号)のマイクロフィルム 参考資料26 : 参考資料1〜25の概要まとめ 参考資料27 : 特開昭58-152705号公報 参考資料28 : 実開昭63-183193号公報 参考資料29 : 実開昭53-129078号公報 参考資料30 : 実開昭54-11487号公報 乙第1号証 : 甲第1号証の訳文 1.甲第1号証の記載事項[(a1)-(a14)] 甲第1号証については、翻訳文として、被請求人より乙第1号証が提出されており、この翻訳文は、その内容について、基本的に当事者間に争いはなく、「または、駆動装置は流れ作業製造ラインの終端に設けることもでき」の部分についてのみ、請求人より「この代案として、駆動装置を流れ作業製造ラインの終端にも配置でき」との訳の方がより適切である旨主張されているが、この部分についても、乙第1号証記載のとおり認定しても、甲第1号証の認定にあたって本質的に相違するものではないと認められる。したがって、甲第1号証の記載事項の認定は、乙第1号証によるものとする。 (a1)「請求の範囲 1.例えば自動車の車体を組立てるため、車体を固定支持する装置、装備された台車および前記台車の駆動装置などを有する流れ作業製造ライン用搬送装置において、 台車(10)がレール(3)上を縦方向および横方向に正確に案内され、かつそれぞれの台車(10)は作業台として形成され固定支持装置(5)を有するプラットホーム(4)を備え、 隣接する台車(10)が共同して互いに押し進めおよび/または牽引し、 流れバンドラインに沿って1台の台車(10)を前方に移動させ前記移動させた台車によって他の台車を牽引または押し進める駆動装置(20)を設け、かつ 重なって続く台車(10)の前記プラットホーム(4)は互いに突き合うか、 わずかに重なり合う ことを特徴とする搬送装置。 2.前記駆動装置(20)は流れ作業製造ラインの始端に配置され、流れ作業製造ラインを通って台車(10)が押し進められることを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。 3.前記駆動装置(20)は流れ作業製造ラインの終端に配置され、流れ作業製造ラインを通って台車(10)が牽引されることを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。 4.前記駆動装置(20)は流れ作業製造ラインの始端と終端の間に配置され、直接駆動される台車によって駆動される台車の搬送方向前方の台車を牽引し、そして駆動される台車の後方の台車を押し進めることを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。 5.前記固定支持装置は車体(8)などを任意の組立高さに調整可能な昇降装置(5)であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の搬送装置。 6.前記昇降装置(5)は車体などを自動または手動で係止可能で高さ調整可能な支持アーム(7)を有する1または複数の支柱(6)を備えることを特徴とする請求項5に記載の搬送装置。 7.車体などをその縦軸および/または横軸の回りに回動させる手段によることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の搬送装置。」(第1頁第4行-第2頁第12行) (a2)「本発明は請求項1の序文部分に記載された流れ作業製造ライン、例えば自動車の車体組立のための搬送装置に関する。 車体組立のためのこの種の既知の搬送装置の場合、組立場の床に、組立ラインの全長にわたってエンドレス状の循環式牽引チェーンが敷設され、それに車体を担う台車が個々に結合される。作業者は組立ラインの側方に配置された歩道を、連続的あるいは間欠的に前方に移動している台車と一緒に歩く。このシステムには一連の欠陥がある。組立ラインの全長にわたって敷設されたエンドレス状の牽引チェーンを配設するには相当の費用がかかるほか、このような組立ラインの建て増しや改造がかなり困難となる。さらに循環する牽引チェーンは第1級の危険要因を形成する。組立作業の際に作業者が一緒に歩くことで肉体的負担が高まり、作業能率が損なわれる。固定あるいは台車と共に移動するハンドリング工具を使用した組立の半自動化または全自動化は、関係するハンドリング工具に対して車体の必要な位置付けを行うのに相当の費用をかけた場合のみ実施可能である。」(第2頁第16行-第3頁第3行) (a3)「本発明の課題は、簡単な構造面で際立ち、作業しやすく、高い費用をかけずに半自動製造あるいは全自動製造を可能とし、さらに高い作業安全性を有する、冒頭に述べた種類の搬送装置を作ることである。」(第3頁第4-6行) (a4)「この課題は請求項1の特徴部分に記載された特徴に従って解決される。 台車をレール上で正確に案内することにより、組立あるいは加工する部品、例えば車体が、組立あるいは加工工程を自動で実施できるようにするために、固定されるか部分的に共に移動するハンドリング工具あるいは加工機械に対し優れた精度で配置される。台車には作業足場としてのプラットホームが設けられているため、作業者は工具や場合によっては組立部品を持つて同乗することができるので、肉体的負担が減少して作業能率がかなり向上する。台車を1台だけ直接に駆動する毎に、その台車が製造ライン上で他の台車を連れて移動するので、組立専用領域の外部に配置可能で、そのため危険源とならない極めて簡単で省スペースの駆動装置が生まれる。駆動装置のスペース要求が減少するので、発明による搬送装置を備えた流れ作業製造ラインを後から追加したり、既設の構造を大きく変更せずに改造することが可能となる。隣接する台車のプラットホームを互いに突き合わせたりわずかに重ね合わせたりすることによって、組立場の床と面一の平面となる広いまとまった作業面が形成されるので危険が最小限に減少する。 駆動装置は流れ作業製造ラインの始端に配置することができ、この場合駆動装置で駆動される台車は他の台車を流れ作業製造ライン上を押し進める。または、駆動装置は流れ作業製造ラインの終端に設けることもでき、この場合直に駆動される台車は他の台車を流れ作業製造ライン上を牽引する。結局のところ、駆動装置は流れ作業製造ラインの始端と終端の間に配置することができる。この場合、直接に駆動される台車は流れ作業製造ライン上においてその台車の後方の台車を牽引し、そして前方の台車を押し進める。」(第3頁第7-27行) (a5)「駆動装置はローラの回りを案内されドッグを有するエンドレスバンドであり、1つまたは複数のストッパーで各台車を共同で作用する。このエンドレスバンドの長さ、すなわちローラ間の間隔は1台の台車の長さよりも長くする必要はない。先行あるいは後続の台車のストッパーと係合していない他のドッグが来ると、ドッグが台車のストッパーをほぼ結合することだけを配慮する必要がある。 その場合送りは連続的あるいは間欠的になされる。」(第4頁第1-6行) (a6)「台車を牽引によって前方に移動させる場合は、隣接する台車間に解除可能な連結器が当然必要となる。台車全体を支持しプラットホームの連続性を確保するため連結器は適切にできるが、単に押すことで前方に移動させる場合はこの連結器は必要でなくなる。連結器は必要な場所で通常の固定の当たりカムによって解除可能である。」(第4頁第7-11行) (a7)「とりわけ車体の組立では、支持固定装置が、車体を任意の組立高さに調整可能な昇降装置の一部である場合が有利である。それにより車体のすべての位置にアクセスできるので、他のシステムの場合、とりわけ下から行う組立作業の場合に存在する重労働がなくなることになる。昇降装置は調整可能な支持アーム付きの1または複数の支柱で構成され、そのアーム上に車体が自動あるいは手動で係止される。高さ調整は昇降台の場合に行われる通常の方法で行われる。昇降駆動用電動モータのスイッチは手動により、または組立ラインに沿った該当位置に固定配置された滑り接点によっても操作できる。」(第4頁第12-19行) (a8)「まず図1に関し、1は車体の組立場の床を表し、その床1に溝2が設けられ、後述する方法で台車を正確に案内する2条の平行レール3が溝2に敷設され、上面が組立場の床1と面-の平面となるプラツトホーム4が台車に支持される。図1から分かるように、隣接する台車のプラットホーム4は互いに鈍く突き合って移動するので、連続面が生じる。各プラットホーム4には、図示するように車体8を固定する高さ調整可能な支持アーム7を備えた例えば4本の垂直の支柱6で構成された昇降装置5が設けられる。このプラットホーム4は作業者が工具と一部の組立部品を持って搭乗する組立台として使用できるように計画されている。高さ調整が可能であることから組立作業の間に下からの作業も容易に実施できる。台車とそれに固定された車体が正確に案内されるため、組立ラインの近辺に固定配置されるか、あるいは区間ごとに台車とともに移動する図示しないハンドリング工具あるいは加工機械が全自動で使用できる。プラットホームが組立場の床と面一の平面となる連続面を形成することは、つまずく箇所が存在しなく、また駆動装置の運動部分が開放されていないので、労働災害の危険が減少することを意味する。」(第5頁第4-18行) (a9)「各プラットホームの昇降装置は通常電動モータによって駆動され、昇降台の場合に行われる通常の方法で、支持アームは4本のすべての支柱で均一に同時に垂直方向に移動する。電動モータのスイッチ操作は手動で行うことができる。しかし、台車が組立ラインに沿った該当位置に到着すると、その該当位置に電動モータをスイッチオンする固定の滑り接点を設けることによって、自動による高さ調整も可能となる。」(第5頁第19-24行) (a10)「図2から4まではレール3上に載置された発明による搬送装置の台車10を示す。台車10は横支持部材11および縦支持部材12からなる枠を備え、この枠上にプラットホーム4が取り付けられる。台車10にはレール3上を走行するローラ13および14が設けられる。図3でわかるように、ローラ14の側方には台車を横方向に正確に案内する車輪フランジ15が設けられる。各台車10には前方の横支持部材11には回動自在の連結フック16が、また後方の横支持部材には連結ピン17が設けられるので、図2の右側に示すように連続して続く台車は連結できる。連結は溝2の床に設けた図示しない通常の走行カムによって解除できる。」(第6頁第3-11行) (a11)「図1に示すように、台車の隣接するプラットホーム4は連続する帯体を形成する。この帯体を移動させるため図4に概略的に示される駆動装置20が使用される。この駆動装置20は、通常の他の搬送装置の場合のように各台車を個々に駆動するのではなく、1台の台車だけを直接駆動し、この駆動された台車で組立ライン上の他の台車が前方に移動する。概略的に示したこの駆動装置20は、2つの鎖車22の回りに案内され、2つのドッグを備えたエンドレスチェーン21を有する。いずれの台車10にも搬送方向に対し後方および側方に開く曲がり溝24が設けられるので、図4の右側の後続台車10に示されるように、第1の鎖車22のところのドッグ23が後から溝24に入ることができ、台車を第2の鎖車22のところまで移動させ、そのあと図4に示すように曲がり溝24から側方に出ていく。鎖車22とドッグ23の間隔は、ドッグ23が後続台車10の溝24を離れると、別のドッグ23が前記台車10の溝24に入るような間隔にされる。明らかなように駆動装置20の長さは台車の長さに比べて長くないので、組立領域の外、すなわち組立ラインの前方あるいは後方にも駆動装置20の収容は可能である。駆動装置は図4では組立ラインの横に配置されている。しかし、原則としてはレール3間の中心に設けられる。」(第6頁第12-27行) (a12)「図示する昇降装置は既知の方法で各支柱6にスピンドル25を備え、雌ネジが切られた支持アーム7の案内26がこのスピンドル25に取り付けられる。台車の各支柱のスピンドル25は図示しない昇降駆動装置によって一緒に、あるいは前述したように対にして回される。」(第6頁第28行-第7頁第2行) (a13)「本発明は示された実施例に限定されるものではなく、連続生産、詳しく言うと完成部品や部分集合体のようなものの流れ作業製造に共通して使用できる。示された昇降装置および駆動装置は単なる一例として理解されねばならない。もちろん、それに代って別の既知の昇降装置および駆動装置を使用することができる。最後に、プラットホームは直接隣接したり重なり合ったりする必要はなく、発明の原則を失うことなく、適当な中間構造部材を設けることが可能である。」(第7頁第3-8行) (a14)図1ないし図4には、上記記載事項(a1)ないし(a13)について、図示されている。 2.甲第2号証の記載事項[(b1)-(b3)] (b1)「一側(イ)を研摩側、他側(ロ)を戻し側としたチヤンネル状案内軌条1をそれぞれ一直線に設け、それらの両端は同形の円弧状案内軌条2,2′で連結し全体を無端状に設け、上記一直線状の案内軌条1,1の両側には被研摩硝子板支持台(以下単に硝子板台と略称す)3の支持軌条4,4を並設し、研摩側のチヤンネル状案内軌条1の入口(ハ)即ち硝子板台送込側(ハ)と出口(ニ)即ち硝子板台送出側(ニ)にはその両側もしくは片側にそれぞれ、硝子板台3の移送用駆動歯車5,5、6,6を設けこの駆動歯車は、出口(ニ)側の歯車6,6は入口(ハ)側の歯車5,5より遅れ気味に即ち歯車5,5による直線送り速度より歯車6,6による直線送り速度が僅か小さくなるような、さらに換言すれば歯車5,5と歯車6,6とが同形なれば歯車6,6の方の回転数を歯車5,5のそれより僅か小さくなるような特殊の関係に置かれている。その装置は電気的にも機械的にも種々容易に設計できるので省略する。なお入口側駆動歯車5,5は複数個設けられる。入口側の歯車5,5の前に硝子板台接続用駆動歯車5′,5′があり、この歯車5′,5′は前記入口側移送用駆動歯車5,5とこれに次いで設けられた硝子板台移行速度検出輪5″とで一つの硝子板台接続用駆動装置を形成する。なお23は硝子板台移行速度を検出し、接続用駆動歯車5′,5′の速度を制御する装置を示す。 上記円弧状案内軌条2,2′の両側には、上記した支持軌条4,4の代りに放射状にローラー7,7を設け適宜独立モーター8,8で駆動する。戻し側の硝子板台の駆動装置は特にむずかしい条件はないので適宜選定できるが、実施例のものはチヤンネル状案内軌条1の両側に硝子板台移送用駆動歯車9,9を設けたものを図示したが戻し側は硝子板台を接続することなく個々にローラーなりチェーン等にて円弧状案内軌条2の方に導いてもよく、この場合前記軌条1は戻り側だけ省くこともできる。 次に硝子板台3は、両側に硝子板台を一直線状にずれなく接合するための突起10,10と凹窩11,11を備え、これらは隣接の硝子板台の凹窩、突起にそれぞれ係合するようにし、裏面両側には上記支持軌条4,4あるいはローラー7,7に接する突条12,12を備え、中央にその両側に(駆動歯車が片側1個であれば1側に)前記硝子板台の移送用駆動歯車5,5,6,6と噛合するラツク13,13を備え、下面両端に前記チヤンネル状案内軌条1のチヤンネル状案内溝に嵌合する円形突起14,14を備えている。 なお15はローラー7,7により円弧状案内軌条2上を移送して来た硝子板台3の上記ラツク13,13と、上記硝子板台接続用駆動歯車5′,5′とを円滑静粛に噛合させるための噛合調整装置を示し、硝子板台3の一部に接する突起16がラツク17上に回動自在に設けられ、それが回動して硝子板台3との係合を解かれる時期はこの突起16の腕21が、別のカム溝22の規制を受けて行われる。今突起16が硝子板台3と共に移動するとピニオン18(第3図参照)を回転しこのピニオン18と上記硝子板台接続用駆動歯車5′,5′をしかる可き同期回転装置19を介して関連させ、別に上記ラツク13,13とラツク17とは突起16が硝子板台に接した時一定関係を取るように設けられていて、ピニオン18と接続用駆動歯車5′,5′とが同期回転すれば円滑に硝子板台裏面のラツク13,13と接続用駆動歯車5′,5′とは噛合にはいるように構成されている。」(第1頁左欄第31行-第2頁左欄第10行) (b2)「かくして硝子板台3は送り込まれ次いで前記接続用駆動歯車5′と同期回転する硝子板台移送用駆動歯車5,5で駆動される。次に次の硝子板台が同様に送り込まれて接続用駆動歯車5′,5′と噛合すると、この接続用駆動歯車5′,5′は速度検出輪5″で先の硝子板台の移行速度を検出してその速度より早めに回転するように、硝子板台移送速度検出、硝子板台接続用駆動歯車速度制御装置23でその回転を制御されているので先行する硝子板台に追いつく、そして追いつく寸前同じく同装置23で制御され、後続の硝子板台の速度は減速され先行する硝子板台に静かに接触し突起10,10と凹窩11,11とで係合し、横方向のづれを生じることなく一直線状に移送される。ところで研摩側のチヤンネル状案内軌条1の出口(ニ)付近に設けられた駆動歯車6,6は入口(ハ)付近に設けられた前述の駆動歯車5,5より前に説明した通りのいわゆる遅れ気味に回転しているため支持軌条4,4上に一直線状に連なつた硝子板台3は、入口側と出口側との双方より押圧された形で移送される。出口に達すると硝子板台は送り出し駆動歯車6′によりやや早めに移行され個々に離れて回動するので円滑に円弧状案内軌条2′により案内され方向を変えて戻り側に送られ、適宜最初の位置に送られる。」(第2頁左欄第37行-右欄第22行) (b3)第1図ないし第4図には、上記記載事項(b1)ないし(b2)について、図示されている。 3.甲第3号証の記載事項[(c1)-(c4):下線は当審で加入。] (c1)「図において、1は被搬送物、2は被搬送物1を保持する保持部材、3は保持部材2と係合させたガイド部材、4はガイド部材3を所定方向へ移動させるための移動手段、5は保持部材2を昇降させるための昇降レールである。上記保持部材2は下端で保持具2aを介して被搬送物1を保持し、上端でローラー2bを介して昇降レール5に係合支持させてある。昇降レール5は以下に述べるサイドレール6と同様搬送方向に、かつ保持部材2を昇降させるため任意の位置で傾斜させて高低に設置してある。5a,5bは昇降レール5を空間中に支持するための支持部材であり、必要に応じて昇降レール5を分割し、油圧シリンダー(図示せず)等により昇降可能に構成した支持部材5aで支持しても良い。上記ガイド部材移動手段4は、被搬送物1の搬送方向にかつほぼ水平に設置したガイドレール6と、ガイドレール6に沿つて配置したパワーレール7と、パワーレール7にローラ8aを介して係合支持させたチエーン8と、チエーン8に取り付けたフツク9とで構成してある。チエーン8はモーター(図示せず)等により矢印J方向に移動する。かかる移動手段4は支持部材10により支持してある。支持部材10に取り付けたローラー11は昇降レール支持部材5aの昇降ガイド用ローラーである。上記ガイド部材3は保持部材2と係合するH型係合部3aとガイドレール6に係合し支持される支持部3bとから成る。H型係合部3aには保持部材2を昇降可能に貫通させてある。12はローラーである。支持部3bはローラー13を介してガイドレール6に移動可能に支持されており、このローラー13部分にはチエーンに取り付けたフツク9と係合するフツク14を取り付けてある。15は降下時におけるフツク9とフツク14との脱離防止片である。」(第2頁右上欄第11行-右下欄第5行) (c2)「本発明に係るコンベアーは以上の様に構成されているので、被搬送物を常に水平状態に維持しながら搬送昇降させることができ、しかも揺動を防止することができる。従つて被搬送物の落下,損傷やコンベアーの損傷の恐れがない。またガイド部材移動手段を構成するパワーレール,チエーン,ガイドレール等を水平にのみ設置すれば良く、途中傾斜部分を設ける必要がないので設置工事が非常に簡単かつ安価に行なえる。さらに昇降位置や昇降量を変える場合昇降レールのみを取り換えればよいので非常に簡単であり、しかも昇降量のみの場合は前述した様に昇降レールを分割し、該分割レールを上下動可能に設けておけば何ら昇降レールを取り換える必要がない。」(第3頁右上欄第11行-左下欄第5行) (c3)「なお、本発明に係るコンベアーは図示した被搬送物を上方から保持するリフト形式のものに限らず、例えば下方から支持する形式のものにも適用可能である。」(第3頁左下欄第19行-右下欄第2行) (c4)第1図ないし第5図には、上記記載事項(c1)ないし(c3)について、図示されている。 4.甲第4号証の記載事項 甲第4号証には、「第1実施例では床側に配設したフロアコンベヤ形式を示したが、これは天井側に配設した吊下げコンベヤ形式でもよい」(明細書部分第7頁第3〜5行)という記載があり、<昇降体>に取り付ける<被搬送物の受け具(支持具)>と、<ローラ>との上下関係は、可逆的なものであることが示されている。 5.甲第5号証の記載事項[(e1)-(e3)] (e1)「即ちドアーハンガー(A)は(第3図参照)、キヤリヤレール(7)に案内されてコンベヤ(b″)で搬送されるキヤリヤ(8)を具えた上部ハンガ一部材(9)と該上部ハンガー部材に上下に動き得るように懸吊された下部ハンガー部材(10)とよりなつていて、該下部ハンガー部材(10)はその上端両側前後にカムローラ(11)-(第2,3図参照)を設けるとともに、回転装置(ボール軸受等)(12)を介して自動車のドアーを載置するドアー支持体(13)を回転自在に垂設してある。 そしてコンベヤライン(b)の自動車のドアーを取外したり又取付けたりする位置には、自動車ボデーの搬送コンベヤと同期運転するコンベヤ(b″)の下方両側に前記下部ハンガー部材のカムロ-ラ(11)を支持案内するカム(14)(14)を別に取付梁(2)に垂設した操作シリンダ(15)(15)によつて上下に昇降できるように吊下材(16)(16)に取付けてある。」(第2頁左下欄第1-19行) (e2)「更に又他の実施例(第6,7,8図)においては、ドアーハンガーの下部ハンガー部材(10)を上昇させるカム(14)を、その両側の吊材(17)(17)で天井の取付梁(2)の上部にある鋸歯状カム(18)に連結して一体とし、該鋸歯状カムの下方にこれと係止する各先端にロ-ラ(R)を有する突起(19)(19)を備えたフレ-ム(20)をシリンダ(21)によつて前後に移動できるように取付けて、該フレ-ムの突起(19)で鋸歯状カム(18)を昇降させて下部ハンガ一部材を昇降させてもよい。そして該フレ-ム(20)は第8図のように取付梁(2)の固定レ-ル(22)に案内されるローラ(23)とカム(18)に接する突起(19)に設けたロ-ラ(R)とを具えているものである。」(第3頁左上欄第8行-右上欄第1行) (e3)第1図ないし第9図には、上記記載事項(e1)ないし(e2)について、図示されている。 第7 発明の対比 以下、この「第7 発明の対比」、及び次の「第8 相違点の検討」においては、被請求人は、本事件平成17年3月31日付け審決(以下、「第1次審決」という。)が、本件訂正請求前の請求項1に係る発明を無効としたことに対して、その無効理由を回避するために必要であると認めて、本件訂正請求を行ったものと推定されるから、当該請求による訂正により影響を受けない事項、あるいは被請求人から特段の主張がない事項については、同審決の内容が援用されることがある。(なお、本件訂正請求については、被請求人が、この請求により取り下げられたものとみなされる先の平成17年10月3日付けでした訂正の請求の後、請求人が提出した平成17年12月2日付け弁駁書に応じて、この請求をした経緯も認められる。) 1.本件特許発明の構成事項と甲第1号証の記載事項との対比 甲第1号証記載の搬送装置は、記載事項(a1)の「流れ作業製造ライン」のためのものであるが、当該ラインは「一定経路」を構成するものといえる。そして、甲第1号証の「駆動装置(20)は流れ作業製造ラインの始端に配置され、流れ作業製造ラインを通って台車(10)が押し進められる」という記載と、図4及びその説明である記載事項(a10)からみて、「台車が走行自在な一定経路の側方に、台車に走行力を付与する台車駆動装置を設け」る点では、同号証記載の搬送装置も本件発明のものと変わるところがない。 次に、甲第1号証の記載事項(a8)及び(a11)の説明記載と図1〜3に示されるように、同号証記載の「雌ネジが切られた支持アーム7」は、台車側に設けたスピンドルの回転によって昇降する部材であるから、「台車側に案内されて昇降する(複数の)昇降体」といえるし、また、上記「支持アーム7」によって、「被搬送物の支持装置」を構成しているとみることができる。 さらに、甲第1号証において、その記載事項(a8)、図1等からは、複数の「支持アーム7」が「台車のプラットホーム4」上で昇降することが認められるから、上記「被搬送物の支持装置」が、「台車」上で昇降することが明らかであるし、「支持アーム7」が「昇降装置5」により高さ調整可能になっている旨の記載があるから、該「被搬送物の支持装置」を昇降させる「リフト装置」が設けられているものと認められる。 2.一致点と相違点 (1)上記の対比から、甲第1号証には次の発明が記載されていると認められ、これを本件発明との一致点とすることができる。 【一致点】「台車が走行自在な一定経路の側方に、台車に走行力を付与する台車駆動装置を設け、前記台車に被搬送物の支持装置を設け、この支持装置を、台車上で昇降する複数の昇降体により構成し、前記支持装置を昇降させるリフト装置を設けた台車搬送装置」に係る発明である点。 (2)また、本件発明と甲第1号証記載の発明とは、次の各点において相違している。 (N)本件特許発明の台車駆動装置が、台車に「送りローラ」を圧接させて走行力を付与しているのに対して、甲第1号証に記載の発明において対応する駆動装置は、ローラの周りを案内されドッグを有するエンドレスバンドである点。(甲第1号証の記載事項(a5)、(a11)、Figur4を参照。) (A′)本件特許発明が、「台車駆動装置の位置よりも一定経路の下流側に、前記台車に前記送りローラとは反対側に回転駆動されているブレーキローラを圧接させ前記台車駆動装置より小さい制動力を付与するブレーキ装置を設け」ているのに対して、甲第1号証に記載された発明においては、ブレーキ装置を有しない点。 (B′)本件特許発明の支持装置が、「台車側に案内されて昇降自在な複数の昇降体と、これら昇降体の上端側に設けた被搬送物の受け具と、各昇降体の下端側に設けたローラとにより構成」されているのに対して、甲第1号証に記載された発明の支持装置は、台車の各支柱に備えられたスピンドルに雌ネジが切られた支持アームの案内を取り付けて、(スピンドルの回転により)支柱に対して昇降可能とされており、被搬送物の受け具については特定がなく、昇降体の下端側にローラが設けられていない点。 (C′)本件特許発明の支持装置を昇降させるリフト装置が、一定経路中の複数箇所に設けられ、下部にカム部が横方向への突条状に形成された昇降枠と、前記カム部に下方から当接自在な受けローラと上方から当接自在な押えローラを一定経路の方向に移動させて前記カム部を介して前記昇降枠を昇降させる装置と、前記昇降枠の複数箇所から、左右方向の外方に向けて支持杆が連設され、これら支持杆の遊端間に取付けられた持上げ用レールとを有し、この持上げ用レールは一定経路に沿い、前記昇降枠の昇降により、ローラに下方から作用して昇降体を上昇させる構成を有するのに対し、甲第1号証に記載の発明のリフト装置においては、一定経路の複数箇所に設けられているのは、電動モータのスイッチを入りにする滑り接点であって、その駆動機構は、台車上において、支柱に備えられたスピンドルを電動モータで駆動することにより支持アームを昇降させるものである点。 なお、上記で認定した一致点については、第1次審決において認定したのと同じであって、同審決取消決定以降において、当事者間に争いがないものと認められる。 そして、相違点(N)及び相違点(A′)ないし相違点(C′)については、請求人が審判請求書(審判請求書第14頁下から7行目-第15頁第12行)で主張し、第1次審決においても同趣旨の認定をした相違点に関して、同審決取消決定以降において、被請求人は、この相違点自体については反駁せず、本件訂正請求において、訂正した事項を加味した上で、請求人の主張に対して反論を行っていることから、同審決で認定した相違点に、本件訂正請求の訂正事項を含めて、認定したものである。(本審決の相違点(N)は、第1次審決にはなく、本件訂正請求に伴い新たに認定したものであり、本審決の相違点(A′)ないし相違点(C′)は、第1次審決の相違点(A)ないし相違点(C)に、本件訂正請求の訂正事項で該当する事項があれば、それぞれ含めて認定したものである。) 第8 相違点の検討 1.相違点(N)について 台車に送りローラを圧接させて走行力を付与する技術は、本願出願前、周知技術(例えば、実公昭38-15817号公報、特公昭44-19565号公報、特公昭39-11104号公報に記載されている。)であることが認められ、甲第1号証記載の発明における駆動装置であるローラの周りを案内されドッグを有するエンドレスバンドに代えて、この周知技術を適用することに、構成上、格別の困難性はない。 また、本件特許明細書には、 「上記実施例では台車駆動装置7などが作用する部分として本体1の両側面2aを示したが、これは、たとえば本体1の下面中央から受圧体を垂設し、この受圧体の両側面を利用する形式であってもよい。また台車駆動装置7として送りローラ11を左右から圧接させる形式を示したが、これは一方側からのみ送りローラ11を接近離間自在とし、他方側には遊転ローラ群を定量式で配列してバックアップする形式でもよい。さらに台車駆動装置7としては、送りローラ11に代えてコンベヤベルトを圧接する形式、台車1側のラックに駆動ピニオンを噛合する形式などが考えられる。このような台車駆動装置7の変形構造は、台車搬入装置6、台車搬出装置8、ブレーキ装置9などにも採用し得る。」(本件特許平成18年3月20日付け全文訂正明細書第4頁第25-32行:以下、この明細書を「本件特許全文訂正明細書」という。) との記載があり、駆動装置の形式については、各種のものが採用し得ることが示唆されているのであるから、この周知技術の適用は、出願人自らが適宜選択し得る事項であったことを認識していた程度のものであり、当業者にとっても設計的事項に過ぎないことが認められる。 2.相違点(A′)について (1)甲第2号証の記載事項について 甲第1号証記載の搬送装置は、「隣接する台車のプラットホームを互いに突き合わせたりわずかに重ね合わせたりすることによって、組立場の床と面一の平面となる広いまとまった作業面が形成されるので危険が最小限に減少する」[記載事項(a4)]ことを企図するものである。 また、甲第1号証記載の発明の実施態様の一つとして、「駆動装置は流れ作業製造ラインの始端に配置」して、「駆動装置で駆動される台車は他の台車を流れ作業製造ライン上を押し進める」[記載事項(a4)]というものがあるが、このような態様のもとで、上記のように、台車を「互いに突き合わせたりわずかに重ね合わせたりする」状態を確実に実現するには、後方から駆動されて推し進められる台車に対して、先行する台車が何らかの制動作用を受けている方が好ましいことは明らかである。 一方、甲第2号証には、その記載事項からみて、「被研摩硝子板支持台(あるいは硝子板台)3が走行自在な一定経路上に、硝子板台3に駆動力を付与する移送用駆動歯車5,5を設け、この移送用駆動歯車5,5の位置よりも一定経路の下流側に、前記硝子板台3に接触して前記移送用駆動歯車5,5より小さい制動力を付与する移送用駆動歯車6,6を設け」た構成が開示されている。 また、同号証に「出口(ニ)付近に設けられた駆動歯車6,6は入口(ハ)付近に設けられた前述の駆動歯車5,5より・・・遅れ気味に回転しているため・・・一直線状に連なった硝子板台3は、入口側と出口側との双方より押圧された形で移送される」[記載事項(b2)]という記載があるから、硝子板台(台車)を「入口側と出口側との双方より押圧された」(互いに突き合わせる)状態とすることを目的として、経路の下流側に、「台車駆動装置より小さい制動力を付与するブレーキ装置」を設けることは、公知の技術である。 そして、甲第2号証における「被研摩硝子板支持台(あるいは硝子板台)3」、「移送用駆動歯車5,5」、及び「移送用駆動歯車6,6」は、それぞれ、本件特許発明の「台車」、「台車駆動装置」、及び「ブレーキ装置」に相当するものと認められるから、甲第2号証には、本件特許発明の相違点(A′)に係る構成のうち、「台車駆動装置の位置よりも一定経路の下流側に、前記台車に接触して前記台車駆動装置より小さい制動力を付与するブレーキ装置」に対応する技術的事項が開示されているものと認められる。 そして、これは、第1次審決における甲第2号証に関する認定事項と同じであるが、被請求人は、この認定事項自体については、第1次審決取消決定以降において反論はせず、本件訂正請求において、本件特許発明の「前記台車に接触して前記台車駆動装置より小さい制動力を付与するブレーキ装置」の構成要件を、「前記台車に前記送りローラとは反対側に回転駆動されているブレーキローラを圧接させ前記台車駆動装置より小さい制動力を付与するブレーキ装置」と減縮して訂正し、「前記送りローラとは反対側に回転駆動されているブレーキローラを圧接させ」ているという技術的事項を要点として、請求人の主張に反論している。 したがって、以下、上記の甲第2号証に係る認定事項については、当事者間に争いがないものと認め、この本件訂正請求に係る技術的事項に関して検討する。 (2)本件訂正請求に係る技術的事項について 被請求人の主張するとおり、甲第2号証においては、本件特許発明のブレーキローラに対応する移送用駆動歯車6,6は、本件特許発明の送りローラに対応する移送用駆動歯車5,5に対して、遅れ気味に回転駆動されていることが認められるのみで、反対側に回転駆動されているものとは認められないが、ブレーキローラの回転方向の差異については、課題を解決する手段としてみて、微差に過ぎないものと認められる。 すなわち、本件特許明細書には、 「一定経路5の始端部に供給された台車1は、その前端が台車搬入装置6に入るように手押しなどで投入される。そして台車1は一定経路5上を少し搬送されて台車駆動装置7に渡される。このとき両送りローラ11は互いに離間している。したがって搬入は何んら支障なく行われる。そして搬入後、両送りローラ11を互いに接近動させ、本体2の側面2aに圧接させるのであるが、このとき送りローラ11は回転駆動されている。すなわちサーボモータ10の駆動により減速機などを介して両送りローラ11を互いに逆方向に強制回転させている。したがって強制回転されている送りローラ11を側面2aに圧接させることで台車1に走行力を与えることになり、以って台車1は一定経路5上で搬送Cされる。 一定経路5の終端側に達した台車1に対してブレーキ装置9によってブレーキがかけられている。すなわち台車駆動装置7による台車1の搬送作業が停止しているとき、ブレーキ装置9におけるブレーキローラ13は互いに離間している。そして台車駆動装置7の搬入動に連動して、両ブレーキローラ13を互いに接近動させ、本体2の側面2aに圧接させるのであるが、このときブレーキローラ13は、送りローラ11とは反対側に回転駆動されている。すなわちトルクモータ12の駆動により減速機などを介して両ブレーキローラ13を互いに逆方向に強制回転させている。したがって強制回転されているブレーキローラ13を側面2aに圧接させたとき、その逆送り回転力Aによって台車1に逆搬送方向の推進力が作用するが、ここで送り回転力Bが逆送り回転力Aよりも大であることから、その差に相応してブレーキローラ13が送り回転側に回転され、そのときの負荷はトルクモータ12により吸収される。これにより下手の対応した台車1は、ブレーキ作用を受けた状態で搬送されることになり、したがって台車駆動装置7からブレーキ装置9までの間には、複数台の台車1が、その前後端間に隙間を生じめることなく密に後押し状態で整列されることになる。」(本件特許全文訂正明細書第3頁第19-39行) との実施例に関する記載がある。 この記載からは、本件特許発明のものも、ブレーキローラがブレーキ作用を及ぼしている間は、「送り回転力Bが逆送り回転力Aよりも大であることから、その差に相応してブレーキローラ13が送り回転側に回転され」るのであるから、ブレーキローラは、台車駆動装置より小さい制動力を付与しつつ、送りローラと同方向に回転しているのであり、刊行物2記載の発明と同様の動作を行うことが認められる。 したがって、 「一定経路の一部にのみ設置すればよくて残りの大部分は繁雑さを解消し得、さらに台車間に隙間が生じることなく搬送を行えるとともに、台車上からの作業は無理なく安全に行える台車搬送装置を提供する」(本件特許全文訂正明細書第1頁第36-38行) という本件特許発明の課題を解決するという観点からは、ブレーキローラの回転駆動方向を送りローラと反対側としても、同じ側としても、台車の搬送作業中、ブレーキローラはブレーキ作用を及ぼしながら、送りローラと同じ方向に回転するのであるから、本件特許発明と甲第2号証記載の発明との間に格別の差異は認められないし、本件特許発明明細書に記載された発明の効果に影響を与えるものでもない。 そして、被請求人は、台車駆動装置が停止しても、本件特許発明の台車は、ブレーキ装置より下流側へは押し出されることはないという効果を奏する旨の主張をするが、上記の本件特許明細書の実施例に関する記載によれば、「台車駆動装置7による台車1の搬送作業が停止しているとき、ブレーキ装置9におけるブレーキローラ13は互いに離間している。」のであり、台車の逸走の防止は企図されていないから、本件特許明細書又は図面の記載に基づかない主張であるといわざるを得ず、下流側に限っては押し出されることはないという効果自体も、特段のものであるという事情は認められない。 以上より、ブレーキローラの回転方向の差異については、課題を解決する手段としてみて、微差に過ぎないものと認められる。 また、甲第2号証に記載の移送用駆動歯車6,6を、ブレーキローラに置き換えることに関しては、ローラによる駆動装置が周知であり、その適用に困難性がないことは、1.における相違点(N)の検討で示したのと同様であって、ここでも、適用困難性は認められない。 そうすると、相違点(A′)に係る構成については、甲第2号証に開示されている事項、及び甲第2号証と比較して課題を解決する手段としての微差あるいは周知技術の適用に過ぎない事項からなるものと認められ、当業者が容易に想到し得たものであるといえる。 3.相違点(B′)について 甲第1号証記載の支持装置は、昇降体(支持アームの案内)を昇降させるためにスピンドル(ねじ棒)を回転させる昇降機構を利用するものである。 しかし、参考資料11、同15〜18によれば、コンベヤ等の本体に案内されて昇降自在とした昇降体の上端側に被搬送物の受け具を設け、昇降体の下端側にはローラを設けるようにした支持装置も、当該技術分野においては普通に利用されているものであることがうかがえる。 そして甲第1号証記載の支持装置に代えて、上記の普通に利用されているものを採用すれば、相違点(B′)に係る本件特許発明と同様の構成となるが、当該普通に利用されている支持装置を採用するのは、当業者にとって、特段の工夫を必要とすることとはいえない。 なお、この相違点(B′)に関しては、第1次審決における相違点(B)に対して、本件訂正請求による訂正による変更はなく、上述の検討事項に関しては、第1次審決の第6の2.における相違点(B)の検討事項と同一内容であるが、同審決取消決定以降において、被請求人が、支持装置に関しては、本件特許発明と甲第5号証の差異について主張した(平成18年3月20日付け答弁書第6頁第2-10行)のみであり、本件特許発明と甲第1号証とに関する本相違点(B′)については、他に具体的な主張はなく、当事者間に争いはないものと認める。 4.相違点(C′)について 甲第1号証には、支持アームの高さ調整を可能とするために「昇降駆動用電動モータのスイッチは手動により・・・操作できる。」旨の記載(a7)があるが、当該技術分野においては、非搬送物や作業の多様化に対処するために、(被搬送物を支持して昇降させる)支持装置の昇降量は、常に一定とするよりも、調節可能とする方が望ましい。(この点については、上述の参考資料11(明細書部分第5頁第9〜11行)にも、「単一の固定的な昇降量しか昇降できない昇降装置にあっては多様化するワーク1の組み付け作業レベル等に対応出来ない」という記載がある。) ところが、被搬送物の支持装置として、本件特許発明の上記相違点(B′)に係る昇降自在な昇降体(上端側に被搬送物の受け具を、下端側にローラを設けるもの。)を採用した場合、上記昇降量の調節を手動スイッチで行うことはできず、当該調節のための手段としては、例えば甲第3号証[(c1)、(c2)の下線部]にも開示があるように、ローラを支持案内しているレール等を昇降可能とすることが考えられる。 もっとも、甲第3号証に図示されているのは、昇降体の下端側にローラを設けるものではなく、昇降体の「上端側」にローラを設けるものであるが、「本発明に係るコンベアーは・・・(被搬送物を)下方から支持する形式のものにも適用可能である」(c3)という記載や、更に甲第4号証にも示されているとおり、昇降体の上下いずれの側にローラを設けるかは、技術上格別の意義をもつものではない。 第1次審決においては、リフト装置に関する本相違点(C′)に対応する当該審決の相違点(C)に対して、甲第3号証及び甲第4号証に基づいて、概ね、以上の見解を示し、さらに、「また、レール昇降手段についても、甲第3号証では『油圧シリンダー・・・等により昇降可能に構成した支持部材5a』(c1)というにとどまり、本件特許発明でいう、『(操作レールが取付けられた)昇降枠』を備えるリフト装置までは開示していないとみる余地はありうる」とした上で検討を加え、「このようなリフト装置も、参考資料11に開示があるように、特段珍しいものとはいえず、当該リフト装置をレール昇降手段とするのは通常の設計事項の範囲を出るものではない」との判断をした。 これに対して、被請求人は、本件訂正請求において、リフト装置の構成についてそれぞれ減縮して訂正した上で、本特許発明に係る相違点(C′)に関し、容易想到性を否定する主張をしているが、訂正後のリフト装置の構成についても、平成17年12月2日付け弁駁書において、請求人が追加提出した甲第5号証には、以下のとおり、対応する技術的事項の開示があるものと認められる。 すなわち、甲第5号証には、その記載事項からみて、「鋸歯状カム(18)が連結された吊材(17)と、前記鋸歯状カム(18)に下方から係止するローラ(R)を、前後に移動させて前記鋸歯状カム(18)を介して前記吊材(17)を昇降させる装置と、前記吊材(17)に連結されたカム(14)とを有し、このカム(14)は前後に沿い、前記吊材(17)の昇降によりローラ(11)に下方から作用して、下部ハンガー部材(10)(及びドア支持体(13))を上昇させる装置が記載されている。 ここで、甲第5号証記載の「鋸歯状カム(18)」、「吊材(17)」、「ローラ(R)」、「前後」、「カム(14)」、「ローラ(11)」及び「下部ハンガー部材(10)(及びドア支持体(13))」の各要素は、本件特許発明の「カム部」、「昇降枠」、「受けローラ」、「一定経路」、「持上げ用レール」、「ローラ」及び「昇降体」の各要素に、それぞれ相当すると認められ、甲第5号証記載の「鋸歯状カム(18)に下方から係止するローラ(R)」、及び「鋸歯状カム(18)が連結された吊材(17)」の各構成は、本件特許発明の「カム部に下方から当接自在な受けローラ」、及び「カム部が形成された昇降枠」の各構成に、それぞれ、実質的に相当するものと認められる。 したがって、甲第5号証には、「カム部が形成された昇降枠と、前記カム部に下方から当接自在な受けローラを一定経路の方向に移動させて前記カム部を介して前記昇降枠を昇降させる装置と、前記昇降枠に取付けられた持上げ用レールとを有し、この持上げ用レールは一定経路に沿い、前記昇降枠の昇降により、ローラに下方から作用して昇降体を上昇させる」装置、すなわち本件特許発明の昇降体のリフト装置に対応する事項が記載されているものと認められる。 そして、甲第3号証ないし甲第5号証には、本件特許発明のリフト装置の構成要件のうち、 (1)カム部が、昇降枠の下部に横方向への突条状に形成された点。 (2)カム部に上方から当接自在な押えローラ。 (3)昇降枠と持上げ用レールの取付け構造に関し、持上げ用レールが、昇降枠の複数箇所から、左右方向の外方に向けて連接された支持杆の遊端間に取付けられている点。 が、なおも記載されていない。 しかしながら、上記(1)ないし(3)に関しては、それぞれ、(1)昇降枠にどのような態様でカム部を形成するか、(2)カム部に当接するカムフォロアを、1つにする(甲第5号証)か、2つにする(本件特許発明)か、(3)昇降枠と持上げ用レールをどのような関係で配置するかは、いずれも、通常の設計的事項の範囲を出るものではないし、本件特許明細書に記載されている課題の解決あるいは発明の効果に対して、直接的に寄与する構成要件とも認められない。 また、当該リフト装置を、昇降体の昇降位置に合わせて、一定経路中の複数箇所に設けてもよいものであることは、当然のことである。 そうすると、甲第1号証記載の発明において、上記3.のとおり、被搬送物の支持装置として、普通に利用されている昇降自在な昇降体を用いるものとした場合に、甲第3号証ないし甲第5号証の上記記載事項に基づいて、相違点(C′)に関して本件特許発明と同様に構成することは格別困難とはいえない。 (なお、上記(3)の構成要件に関しては、発明の詳細な説明には、請求項の文言と同じ程度に記載されているだけであり、図面には、昇降枠、持上げ用レール、及び支持杆の位置関係について、正面図として明示されていない上、特に第1図ないし第4図の記載には、相互に矛盾があって不明瞭であるから、本件特許明細書又は図面に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されているかも疑問である。) 5.総括 上述のとおり、相違点(N)及び相違点(A′)ないし相違点(C′)は、いずれの点も格別な技術的意義を有するものとはいえない。 そして、上記各相違点、あるいは請求人及び被請求人の主張を、技術的常識を踏まえて総合的に検討しても、それらによって奏される効果は当業者が当然に予測できる範囲のものと認められるから、本願発明は、甲第1号証ないし甲第5号証記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。(甲第6号証については、言及の必要がない。) 第9 むすび 以上のとおりであるから、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 台車搬送装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】台車が走行自在な一定経路の側方に、台車に送りローラを圧接させ走行力を付与する台車駆動装置を設け、この台車駆動装置の位置よりも一定経路の下流側に、前記台車に前記送りローラとは反対側に回転駆動されているブレーキローラを圧接させ前記台車駆動装置より小さい制動力を付与するブレーキ装置を設け、前記台車に被搬送物の支持装置を設け、この支持装置を、台車側に案内されて昇降自在な複数の昇降体と、これら昇降体の上端側に設けた被搬送物の受け具と、各昇降体の下端側に設けたローラとにより構成し、前記一定経路中の複数箇所に前記支持装置を昇降させるリフト装置を設け、 このリフト装置は、下部にカム部が横方向への突条状に形成された昇降枠と、前記カム部に下方から当接自在な受けローラと上方から当接自在な押えローラを一定経路の方向に移動させて前記カム部を介して前記昇降枠を昇降させる装置と、前記昇降枠の複数箇所から、左右方向の外方に向けて支持杆が連設され、これら支持杆の遊端間に取付けられた持上げ用レールとを有し、 この持上げ用レールは一定経路に沿い、前記昇降枠の昇降により、前記ローラに下方から作用して昇降体を上昇させることを特徴とする台車搬送装置。 【発明の詳細な説明】 産業上の利用分野 本発明は、床側を走行自在な非駆動式の台車を一定経路上で搬送するのに利用される台車搬送装置に関するものである。 従来の技術 従来、非駆動式の台車を一定経路上で搬送するに、たとえば実公昭59-2865号公報に見られるように、台車の下部から引かけ片を垂設し、そして一定経路に沿ってチェンを配設するとともに、このチェンの複数箇所に、前記引かけ片に係合自在なプッシャ用突起を設け、そして台車上に車輌の支持具を立設した構成が提案されている。 発明が解決しようとする課題 上記のような従来形式によると、一定経路の全長に亘ってチェンを配設しなければならないことから、この一定経路の全長が繁雑となり、また台車には引かけ片を精度よく取付けなければならない。さらに台車の搬送ピッチはプッシャ用突起の取付けピッチに基づくことから、これら台車の前後端間に隙間が生じ、効率的な搬送を行えない。また台車を搬送しながら台車上の作業者が車輌に対して手作業を行うとき、前述した隙間によって軽落を招くなど安全に行えない。さらに支持具により支持された車輌は台車上に常に一定レベルであることから、作業箇所によっては作業者は無理な姿勢を取らなければならない。 本発明の目的とするところは、一定経路の一部にのみ設置すればよくて残りの大部分は繁雑さを解消し得、さらに台車間に隙間が生じることなく搬送を行えるとともに、台車上からの作業は無理なく安全に行える台車搬送装置を提供する点にある。 課題を解決するための手段 上記目的を達成するために本発明の台車搬送装置は、台車が走行自在な一定経路の側方に、台車に送りローラを圧接させ走行力を付与する台車駆動装置を設け、この台車駆動装置の位置よりも一定経路の下流側に、前記台車に前記送りローラとは反対側に回転駆動されているブレーキローラを圧接させ前記台車駆動装置より小さい制動力を付与するブレーキ装置を設け、前記台車に被搬送物の支持装置を設け、この支持装置を、台車側に案内されて昇降自在な複数の昇降体と、これら昇降体の上端側に設けた被搬送物の受け具と、各昇降体の下端側に設けたローラとにより構成し、前記一定経路中の複数箇所に前記支持装置を昇降させるリフト装置を設け、このリフト装置は、下部にカム部が横方向への突条状に形成された昇降枠と、前記カム部に下方から当接自在な受けローラと上方から当接自在な押えローラを一定経路の方向に移動させて前記カム部を介して前記昇降枠を昇降させる装置と、前記昇降枠の複数箇所から、左右方向の外方に向けて支持杆が連設され、これら支持杆の遊端間に取付けられた持上げ用レールとを有し、この持上げ用レールは一定経路に沿い、前記昇降枠の昇降により、前記ローラに下方から作用して昇降体を上昇させている。 作用 かかる本発明の構成によると、台車を一定経路上で台車駆動装置に対向して位置させる。そして台車駆動装置を台車側に作用させることで、この台車に大きな推進力を与えることになり、以って台車は一定経路上で搬送される。その際に台車は、先行し停止している台車群を後押しして搬送することになる。一定経路の下流側においては、ブレーキ装置が台車に作用していることから、この下流側の台車は、ブレーキ作用を受けた状態で搬送されることになり、したがって台車群は前後端間に隙間を生じめることなく密な後押し状態で搬送される。このように台車駆動装置とブレーキ装置との間では台車群が密に直列状となることから、台車上の作業者は転落などすることなく手作業や歩行を行える。そして台車が一定経路の所定箇所に達したとき、リフト装置における昇降枠を昇降させる装置の作動によって、昇降枠を介して操作レールを上昇させ前記ローラ群に下方から作用させることになり、ローラ群を介して、台車に対して昇降体群を上昇させて、受け具間で支持している被搬送物を上昇させ得る。これにより、台車上面に対する被搬送物のレベルを、この被搬送物を安定した姿勢で上昇させるとともに、この安定した姿勢を維持しつつ搬送させることになって、そのレベルに対応した手作業を行える。また複数箇所での上昇によるレベル量を変化させることによって、一定経路中で種々なレベルにおける手作業を行えることになる。 実施例 以下に本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。 1は床側を走行自在な台車で、本体2の下部に複数個の車輪3の遊転自在に有する。この台車1は、左右一対のレール4上に車輪3を介して載置され、以って一定経路5上で走行自在となる。この一定経路5の上流側に、一定経路5の方向に適当間隔を置いて台車搬入装置6と主搬送用の台車駆動装置7とが配設され、そして一定経路5の下流側に台車搬出装置8が配設されるとともに、これよりも少し上手にブレーキ装置9が配設される。ここで前記台車搬入装置6と台車駆動装置7と台車搬出装置8とは同様な構造であって、電気的に同期される左右一対のサーボモータ10に連動する送りローラ11を、前記台車1の両側面1aに当接離間自在として構成している。また前記ブレーキ装置9は、電気的に同期される左右一対のトルクモータ12に連動するブレーキローラ13を、前記台車1の両側面1aに当接離間自在として構成している。なおトルクモータ12は前記ブレーキローラ13に逆送り回転力Aを付与する。このトルクモータ12による逆送り回転力Aよりも、前記サーボモータ10による送りローラ11の送り回転力Bを大に設定している。 前記台車1には、被搬送物の一例であるボデイ14を支持する支持装置20が昇降自在に設けられる。すなわち支持装置20は前部支持体21Aと後部支持体21Bとからなり、それぞれ左右一対の昇降ロッド22A,22Bを有するとともに、左右のロッド上端間をフレーム23A,23Bにて連結している。前記本体2には昇降ロッド22A,22Bを案内する筒体24A,24Bが取付けられ、この筒体24A,24Bにフレーム23A,23Bを当接させることでフレーム23A,23B側の下降限が規制される。そしてフレーム23A,23Bの上面にボデイ14の受け具25A,25Bを設けるとともに、昇降ロッド22A,22Bの下端にローラ26A,26Bを遊転自在に取付けている。なお本体2の下面側には転倒防止用ローラ27が取付けられている。 前記一定経路5中の複数箇所には、前記支持装置20を昇降させるリフト装置30が各別に作動自在に配設してある。このリフト装置30は、ベース体31に左右一対のガイドレール32を有し、これらガイドレール32は一定経路5に沿った長さ方向において二分割されている。そしてガイドレール32に車輪33を介して支持案内され、かつ横規制ローラ34にて案内される前後一対の可動台35が設けられ、これら可動台35の隣接間がピン36とロッド37とを介して連結されている。一方の可動台35には、ベース体31上に取付けたシリンダ装置38が連結され、以ってシリンダ装置38の伸縮によって両可動台35を一定経路5に沿って一体的に移動自在としている。前記ガイドレール32の端部外方においてベース体31からはブラケット39が立設され、これらブラケット39の相対向する内面側に上下方向のガイド体40が取付けられている。そしてガイド体40にローラ41を介して案内される昇降部材42から、相対向する方向に昇降枠43が連設され、これら昇降枠43の相対向間は連結部材44で一体化される。さらに昇降枠43の複数箇所から、左右方向の外方に向けて支持杆45が連設され、これら支持杆45の遊端間に一定経路5に沿った持上げ用レール46が取付けられ、この持上げ用レール46は前記ローラ26A,26Bに下方から当接自在となる。前記昇降枠43の下部には、下流側ほど上位となるカム部47が横方向への突条状に形成され、このカム部47に下方から当接自在な受けローラ48と、上方から当接自在な押えローラ49とが、前記可動台35から立設したブラケット50に遊転自在に取付けられている。したがってシリンダ装置38を伸縮させ、可動台35などを介して両ローラ48,49を一定経路5の方向に移動させることによって、カム部47を介して昇降枠42を昇降させ、以って持上げ用レール46を上昇した作用位置と下降した非作用位置との間で昇降させ得る。なおリフト装置30の部分には前記転倒防止ローラ27が嵌合自在な転倒防止レール51が配設される。 一定経路5の始端部に供給された台車1は、その前端が台車搬入装置6に入るように手押しなどで投入される。そして台車1は一定経路5上を少し搬送されて台車駆動装置7に渡される。このとき両送りローラ11は互いに離間している。したがって搬入は何んら支障なく行われる。そして搬入後、両送りローラ11を互いに接近動させ、本体2の側面2aに圧接させるのであるが、このとき送りローラ11は回転駆動されている。すなわちサーボモータ10の駆動により減速機などを介して両送りローラ11を互いに逆方向に強制回転させている。したがって強制回転されている送りローラ11を側面2aに圧接させることで台車1に走行力を与えることになり、以って台車1は一定経路5上で搬送Cされる。 一定経路5の終端側に達した台車1に対してブレーキ装置9によってブレーキがかけられている。すなわち台車駆動装置7による台車1の搬送作業が停止しているとき、ブレーキ装置9におけるブレーキローラ13は互いに離間している。そして台車駆動装置7の搬入動に連動して、両ブレーキローラ13を互いに接近動させ、本体2の側面2aに圧接させるのであるが、このときブレーキローラ13は、送りローラ11とは反対側に回転駆動されている。すなわちトルクモータ12の駆動により減速機などを介して両ブレーキローラ13を互いに逆方向に強制回転させている。したがって強制回転されているブレーキローラ13を側面2aに圧接させたとき、その逆送り回転力Aによって台車1に逆搬送方向の推進力が作用するが、ここで送り回転力Bが逆送り回転力Aよりも大であることから、その差に相応してブレーキローラ13が送り回転側に回転され、そのときの負荷はトルクモータ12により吸収される。これにより下手の対応した台車1は、ブレーキ作用を受けた状態で搬送されることになり、したがって台車駆動装置7からブレーキ装置9までの間には、複数台の台車1が、その前後端間に隙間を生じめることなく密に後押し状態で整列されることになる。このような後押しにより直線状に整列された台車1群の本体上面によって平坦な作業スペースが形成され、以って作業者は台車1上からボデイ14に対して各種の手作業を行える。その際に作業者は、たとえ台車1群が搬送されていたとしても、台車1群が密な直線状であることから前後に転落することなく手作業や歩行を行える。 搬送中の台車1が特定箇所に達したとき必要に応じてリフト装置30が作動される。すなわち台車1の両ローラ26A,26Bが持上げ用レール46の始端に対向したときに検出信号が垂され、それに基づいて第2図に示すように収縮状態にあるシリンダ装置38が伸展される。これにより両可動台35が上流側に移動される。すると受けローラ48と押えローラ49とが一体に移動することから,カム部47を介して昇降枠43が上昇する。この上昇はガイド体40に案内されて真上に行われ、同時に支持杆45を介して持上げ用レール46が上昇する。この持上げ用レール46の上昇によって、第1図に示すようにローラ26A,26Bを介して昇降ロッド22A,22Bが押し上げられ、以って受け具25A,25B間で支持してなるボデイ14を上昇させ得る。これにより本体2の上面に対してボデイ14のレベルが上昇することになり、本体2上の作業者は、台車1の搬送中に上昇したボデイ14の所定箇所に手作業を行える。そして両ローラ26A,26Bが持上げ用レール46の終端に対向したときの検出信号によって、第1図に示すように収縮状態にあるシリンダ装置38が収縮される。これにより両可動台35が下流側に移動され、受けローラ48と押えローラ49とが一体に移動することからカム部47を介して昇降枠43が下降する。したがって持上げ用レール46が一体に下降することから昇降ロッド22A,22Bが押し下げられ、以って受け具25A,25B間で支持してなるボデイ14を下降させ得る。なおリフト作用部においては第3図の仮想線で示すように転倒防止用レール51に転倒防止用ローラ27が嵌合し、以って重心上昇などによる台車1の横倒などを防止している。 上記の作用は、リフト装置30を配設した複数箇所の全てで、あるいは必要とする一部の箇所で行われる。またシリンダ装置38の伸縮量を変えることでリフト量の調整を行え、また複数箇所でのリフト量に差をつけることもでき、以って作業内容や車種に応じて好適なリフト量を期待し得る。 前述のような後押しによってブレーキ装置9から押し出された台車1は、台車搬出装置8によって次工程へと搬出される。 なお台車駆動装置7での搬送において、或る送り量を検出したときに下手のブレーキ装置9によるブレーキ作用が停止される。 前記台車搬入装置6、台車駆動装置7、台車搬出装置8において、対応するサーボモータ10間、ならびにブレーキ装置9において、対応するトルクモータ12間は電気的に同期される。 上記実施例では台車駆動装置7などが作用する部分として本体1の両側面2aを示したが、これは、たとえば本体1の下面中央から受圧体を垂設し、この受圧体の両側面を利用する形式であってもよい。また台車駆動装置7として送りローラ11を左右から圧接させる形式を示したが、これは一方側からのみ送りローラ11を接近離間自在とし、他方側には遊転ローラ群を定量式で配列してバックアップする形式でもよい。さらに台車駆動装置7としては、送りローラ11に代えてコンベヤベルトを圧接する形式、台車1側のラックに駆動ピニオンを噛合する形式などが考えられる。このような台車駆動装置7の変形構造は、台車搬入装置6、台車搬出装置8、ブレーキ装置9などにも採用し得る。 発明の効果 上記構成の本発明によると、台車を一定経路上で台車駆動装置に対向して位置させたのち、台車駆動装置を台車側に作用させることで、この台車に大きな推進力を与えることができ、以って台車を一定経路上で搬送することができる。その際に台車は、先行し停止している台車群を後押しして搬送することができる。これにより、台車駆動装置は一定経路の一部にのみ位置すればよくて残りの大部分は繁雑さを解消できる。また一定経路の下手においては、ブレーキ装置が下流側の台車に作用していることから、この下流側の台車は、ブレーキ作用を受けた状態で搬送することができ、したがって台車群は前後端間に隙間を生じめることなく密な後押し状態で効率よく搬送することができる。そして台車駆動装置とブレーキ装置との間で台車群を密に直列状にできることから、台車上の作業者は転落などすることなく手作業や歩行を常に安全に行うことができる。そして台車が一定経路の所定箇所に達したとき、リフト装置における昇降枠を昇降させる装置の作動により、昇降枠を介して操作レールを上昇させ前記ローラ群に下方から作用させることで、ローラ群を介して、台車に対して昇降体群を上昇できて、受け具間で支持している被搬送物を上昇できる。これにより、台車上面に対する被搬送物のレベルを、この被搬送物を安定した姿勢で上昇できるとともに、この安定した姿勢を維持しつつ搬送でき、台車上の作業者は最適なレベルで被搬送物に対する手作業を無理なく容易に行うことができる。そして昇降量の調整や複数箇所の使い分けなどによって、作業箇所が被搬送物の型式に充分に対処することができる。 【図面の簡単な説明】 図面は本発明の一実施例を示し、第1図は支持装置が上昇状態での要部の側面図、第2図は支持装置が下降状態での要部の側面図、第3図は通常の搬送状態での正面図、第4図はリフタ装置における要部の正面図、第5図は全体の概略側面図、第6図は同概略平面図である。 1…台車、2…本体、2a…側面、5…一定経路、7…台車駆動装置、9…ブレーキ装置、10…サーボモータ、11…送りローラ、12…トルクモータ、13…ブレーキローラ、14…ボデイ(被搬送物)、20…支持装置、21A…前部支持体、21B…後部支持体、22A,22B…昇降ロッド、25A,25B…受け具、26A,26B…ローラ、30…リフト装置、35…可動台、40…ガイド体、43…昇降枠、47…カム部、48…受けローラ、49…押えローラ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2006-05-26 |
結審通知日 | 2006-05-30 |
審決日 | 2006-06-13 |
出願番号 | 特願平2-35326 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZA
(B61B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 石井 孝明 |
特許庁審判長 |
鈴木 久雄 |
特許庁審判官 |
ぬで島 慎二 田々井 正吾 |
登録日 | 1998-04-17 |
登録番号 | 特許第2771007号(P2771007) |
発明の名称 | 台車搬送装置 |
代理人 | 原田 洋平 |
代理人 | 笹原 敏司 |
代理人 | 笹原 敏司 |
代理人 | 原田 洋平 |
代理人 | 板垣 孝夫 |
代理人 | 森本 義弘 |
代理人 | 森岡 則夫 |
代理人 | 板垣 孝夫 |
代理人 | 森本 義弘 |
代理人 | 柳野 隆生 |