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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1143729
審判番号 不服2004-16370  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-05 
確定日 2006-09-14 
事件の表示 平成 8年特許願第182009号「排ガス脱硝方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 1月27日出願公開、特開平10- 24219〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年7月11日の出願であって、平成16年6月30日付で拒絶査定がされ、これに対し、平成16年8月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月2日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。

2.平成16年9月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年9月2日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「燃焼装置から出る燃焼排ガスをアンモニア還元脱硝装置に通して脱硝する方法において、排ガス流路の前記アンモニア還元脱硝装置の後流側に活性炭素繊維、酸化銅、Cuイオン交換Y型ゼオライト、Cu担持ポリアクリロニトリル、Cu-ポリフェニルポルフィリン又はCu-ポリフタロシアニンのいずれか1種以上の触媒を使用した低温脱硝装置を設置したバイパスを設け、燃焼装置の起動直後などの排ガス温度が前記アンモニア還元脱硝装置が十分機能しない低温時には、前記アンモニア還元脱硝装置を経由して排出される排ガスを前記バイパスに通して前記低温脱硝装置による脱硝を行い、前記アンモニア還元脱硝装置が十分機能するようになった時点でバイパスを閉じ、該アンモニア還元脱硝装置で脱硝を行うようにし、かつ前記バイパスが閉じられている間に前記低温脱硝装置の触媒の再生を行うようにすることを特徴とする燃焼排ガスの脱硝方法。」
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「バイパスに通して低温脱硝装置による脱硝を行う排ガス」について、「アンモニア還元脱硝装置を経由して排出される」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、特開昭57-204221号公報(以下、「引用例1」という。)、特開平5-103986号公報(以下、「引用例2」という。)特開昭52-21277号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。
(2-1)引用例1
(ア)「高温,高圧の燃焼ガスを用いて発電を行うガスタービンの排ガス中の窒素酸化物をアンモニアと触媒表面上で接触させ還元分解により除去する脱硝法において、前記ガスタービンの排ガスの排出側に最適反応温度領域が異なる複数の触媒とこれら各触媒に前記排ガスを導くダクトとを設け、前記ガスタービンの排ガス温度に応じて前記触媒を使い分けることを特徴とするガスタービン排ガスの脱硝法。」(特許請求の範囲)、
(イ)「従来発電用ガスタービンの排ガス中のNOxを低減除去する脱硝法は、排ガス中にアンモニアを注入し、排ガス中のNOxとアンモニアとを触媒表面上で化学反応させ、NOxを窒素と水とに分解するアンモニア乾式脱硝法が主流となっている。・・・即ち、現在開発されている脱硝触媒は、いずれも或る温度以下では反応活性が低下しNOxとアンモニアとの反応が遅く、また、或る温度以上においてはアンモニアと排ガス中の酸素とが反応してNOxを生成するため、脱硝性能が低下する。従って、ガスタービンの排ガス中のNOxを前記アンモニア乾式脱硝法によって除去するためには、脱硝触媒の反応活性が高い反応温度領域でNOxとアンモニアとを反応させる必要がある。」(1ページ左下欄17行〜右下欄14行)、
(ウ)「第1のグループは、最適反応温度領域が350〜600℃である、いわゆる高温触媒である。・・・第2のグループは、最適反応温度領域が250〜450℃である、いわゆる中温触媒である。・・・第3のグループは、最適反応温度領域が100〜300℃である、いわゆる低温触媒である。この触媒の例としては、貴金属,遷移金属錯体等を成分とするものが挙げられる。」(1ページ右下欄18行〜2ページ左上欄10行)、
(エ)「以上述べた脱硝法においては、使用する脱硝触媒が、高温触媒又は中温触媒のみを使用しているため、ガスタービン18が低部分負荷運転をし、排ガス温度が300℃以下になる場合、又はガスタービンの起動時のように、ガスタービンの排ガス温度が大気温度から500℃付近まで変化する場合には、高い脱硝性能を維持することができない欠点がある。」(2ページ左下欄4行〜11行)
(オ)「本発明は、前記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、2種類の触媒層を設けることによりガスタービンの全ての運転条件下における、ガスタービンからの排ガス中のNOxを除去できるガスタービン排ガスの脱硝法を提供することを目的とする。」(2ページ左下欄17行〜右下欄2行)、
(カ)「第2図は、本発明に係るガスタービン排ガスの脱硝法を、ガスタービンと蒸気タービンとから成る複合発電システムに適用した一実施例の系統図である。・・・ガスタービン18の排出口と排熱回収ボイラ22の入口との間は、メインダクト26で接続されており、このメインダクト26の中間部には弁28が設けられている。さらにメインダクト26には、弁28の上流側と下流側とにそれぞれ開口を有するバイパスダクト30が取付けられている。そして、このバイパスダクト30の入口(弁28の上流側の開口)近傍と出口(弁28の下流側の開口)近傍とには、それぞれ弁32,34が設けられており、また、バイパスダクト30の中間部には、低温触媒の低温脱硝触媒層36が設置されている。なお、メインダクト26の上流側でバスタービン18の排出口近傍には、排ガス20中のNOxと反応させるためのアンモニアを供給するアンモニア供給装置38が接続されていて、ガスタービン18を運転するときは、常にメインダクト26内にアンモニアが供給されている。」(第2ページ右下欄15行〜第3ページ左上欄16行)、
(キ)「まず、ガスタービン18を起動させるときは、ガスタービン18が冷えている状態から燃焼ガスによって暖められるまで、前記したように排ガス20の温度が、大気温度から500℃付近の高温まで急速に上昇する。そこで、この温度上昇過程において、排ガス20の温度が低く、低温触媒の最適反応温度領域の上限値以下である場合には、排ガス20がバイパスダクト30を通って排熱回収ボイラ22に供給されるように、メインダクト26に設けられている弁28を閉じ、バイパスダクト30に設けられている弁32,34を開ける。従って、排ガス20は、低温脱硝触媒層36を通り、低温脱硝触媒層36内で窒素と水とに分解され、脱硝されて排熱回収ボイラに供給される。そして、排ガス20の温度が、低温触媒の最適反応温度領域以上となったときは、排ガス20がメインダクト26を通るようにメインダクト26の弁28を開け、バイパスダクト30の弁32,34を閉じる。従って、排ガス20は、従来と同様に排熱回収ボイラ22中の中温脱硝触媒層24によって窒素と水とに分解されて脱硝が行なわれる。」(第3ページ左上欄19行〜右上欄19行)、
(ク)「なお、低温脱硝触媒層と中温脱硝触媒層とを直列に設置しなかったのは、低温触媒の劣化を防止するためである。即ち、一般に触媒活性の寿命は、使用温度が低い方が長い。従って、排ガスの温度が低温触媒の最適反応温度領域以上の場合にも低温触媒に排ガスを通すことは、早期に低温触媒が劣化し、触媒の寿命が低下することによる。」(第3ページ左下欄20行〜右下欄7行)、
(ケ)「前記実施例では、低温脱硝触媒層36をバイパスダクト30の中間に設けた場合について説明したが、低温脱硝触媒層を排熱回収ボイラの排ガスの出口に設けても前記実施例と同様の効果を得ることができる。また、前記実施例では、中温脱硝触媒層24を設けた場合について説明したが、中温脱硝触媒層24の代わりに高温触媒の触媒層をメインダクト26に設置してもよい。」(第3ページ右下欄8行〜15行)、
(コ)「上述のように本発明によれば、ガスタービンの排ガスダクトに低温脱硝触媒層を有するバイパスダクトを設け、ガスタービンの起動時や低負荷運転時のように、排ガス温度が低い場合には、低温脱硝触媒層で排ガスの脱硝を行うようにしたことにより、ガスタービンのあらゆる運転条件下でガスタービンの排ガス中のNOxを除去することができる。」(第3ページ右下欄20行〜第4ページ左上欄7行)、
と記載され、第2図には、ガスタービン排ガスの脱硝装置の系統図が図示されている。
(2-2)引用例2
(ア)「代表的な窒素酸化物還元浄化用触媒には、V2O5-TiO2に特定の金属を添加したもの、あるいはゼオライト・モレキュラーシーブがあるが、これらの触媒を用いて十分な脱硝率を得るためには、何れも反応温度として300℃以上の温度が必要であった。したがって、これらの触媒を用いるには、高温の場所に設置するか、または使用に際して加熱することが必要で、これは結果として利用範囲を極めて限定するものであった。」(第2ページ第1欄36〜44行)、
(イ)「また活性炭も200℃程度の低温で使用可能な触媒であったが、そのままでは活性が低いために、大流量のガスを処理することができなかった。」(第2ページ第2欄34〜36行)、
(ウ)「本発明は、金属銅と酸化銅からなる銅化合物を活性炭素繊維に添着してなる窒素酸化物還元浄化用触媒とするものである。本発明によれば、従来の触媒では不可能であった200℃以下の低温にて高い脱硝率を有する窒素酸化物還元浄化用触媒を容易に得ることができるものである。」(第3ページ第3欄5〜10行)、
(エ)「本発明の窒素酸化物還元浄化用触媒において、銅化合物の添着量は、最終的に得られる触媒において、銅に換算して0.1〜20重量%とする。その理由は、この範囲未満の添着量では充分な触媒活性が得られず、この範囲超の添着量では活性炭素繊維の表面を覆いつくしてしまうため活性炭素繊維が反応に寄与できず、やはり触媒活性が低下するからである。」(第3ページ第3欄15〜21行)、
と記載されている。
(2-3)引用例3
(ア)「(1) 並列に区割された多数の単位触媒層を有する接触反応装置を用い、大部分の単位触媒層に反応ガスを分割通過せしめ接触反応を行なわせ、残余の単位触媒層には触媒再生用ガスを限時的に通過せしめることを特徴とする接触反応と触媒再生を同時に行なう接触反応方法。」(特許請求の範囲)、
(イ)「たとえば火力発電所からの廃ガスには、その中に含まれる窒素酸化物の無害化処理を目的としてアンモニアを添加したのち、酸化鉄を主成分とする触媒層に通じて接触反応を行なわせ、無害な窒素と水蒸気とに分解して大気中に放出する場合がある。このような場合使用する触媒は排ガス中に存在する硫黄酸化物のごとき物質に起因して、その触媒活性が次第に低下してくるため、再生が必要となる。一方、先述の火力発電所からの廃ガス量は、一般に数十万立方米/時のごとき大量であるため、前記触媒層を2基以上準備して交互に切替する方式によっては触媒費、設備費等が莫大となり、工業的実施には極めて不利である。」(第2ページ左上欄4行〜18行)、
(ウ)「大型接触反応装置の触媒層を並列方向に多数区割して、各単位触媒層毎に反応ガスが分配供給されるように構成し、その大部分の単位触媒層には反応ガスを通過させ、残余の単位触媒層には触媒再生ガスを流通させることにより、接触反応率を実質的に低下させることなく、触媒再生を同時に行ない得て、安定した連続操業を可能ならしめるとともに、接触反応装置の寿命を半永久的にならしめうるとの知見を得て本発明に至った。」(第2ページ右上欄1行〜10行)、
と記載されている。
(3)対比
引用例1には、記載事項(ア)〜(キ)及び(コ)から、従来の脱硝法においては、使用する脱硝触媒が、高温触媒又は中温触媒のみを使用しているため、ガスタービンの起動時のように、ガスタービンの排ガス温度が大気温度から500℃付近まで変化する場合には、高い脱硝性能を維持することができなかったこと、発電用ガスタービンの燃焼排ガス中の窒素酸化物をアンモニアと触媒表面上で接触させ還元分解により除去する脱硝法において、前記ガスタービンの排ガスの排出側に最適反応温度領域が異なる2種類の触媒とこれら各触媒に前記排ガスを導くダクトとを設け、前記ガスタービンの排ガス温度に応じて前記触媒を使い分けること、最適反応温度領域が100〜300℃である低温触媒の例としては、貴金属,遷移金属錯体等を成分とするものが挙げられること、ガスタービンの排出口と排熱回収ボイラの入口との間は、メインダクトで接続され、このメインダクトの中間部には弁が設けられ、さらにメインダクトには、弁の上流側と下流側とにそれぞれ開口を有するバイパスダクトが取付けられ、このバイパスダクトの入口近傍と出口近傍とには、それぞれ弁が設けられており、バイパスダクトの中間部には、低温触媒の低温脱硝触媒層が設置されていること、ガスタービンを起動させるときに排ガスの温度が、大気温度から高温まで急速に上昇する温度上昇過程において、排ガスの温度が低く、低温触媒の最適反応温度領域の上限以下である場合には、排ガスがバイパスダクトを通って排熱回収ボイラに供給されるように、メインダクトに設けられている弁を閉じ、バイパスダクトに設けられている弁を開け、排ガスが低温脱硝触媒層を通り、低温脱硝触媒層内で窒素と水とに分解され、脱硝されて排熱回収ボイラに供給され、排ガスの温度が、低温触媒の最適反応温度領域以上となったときは、排ガスがメインダクトを通るようにメインダクトの弁を開け、バイパスダクトの弁を閉じ、排ガスが、従来と同様に排熱回収ボイラ中の中温脱硝触媒層によって窒素と水とに分解されて脱硝が行なわれることが記載されているものといえるので、引用例1に記載された事項を本願補正発明に即して整理し直すと、
「発電用ガスタービンの燃焼排ガス中の窒素酸化物をアンモニアと触媒表面上で接触させ還元分解により除去する中温脱硝触媒層を用いる脱硝法において、排ガスを排出するガスタービンの排出口と中温脱硝触媒層が中に設置された排熱回収ボイラとの間に、中間部に弁が設けられたメインダクトを接続し、メインダクトには、弁の上流側と下流側とにそれぞれ開口を有するバイパスダクトを取り付け、バイパスダクトの入口近傍と出口近傍とにそれぞれ弁を設けるとともに、バイパスダクトの中間部に最適反応温度領域が100〜300℃である貴金属,遷移金属錯体等を成分とする低温脱硝触媒層を設置し、ガスタービンを起動させるときに、排ガスの温度が低く低温触媒の最適反応温度領域の上限以下である場合には、メインダクトに設けられた弁を閉じるとともに、バイパスダクトに設けられた弁を開け、排ガスがバイパスダクト内の低温脱硝触媒層を通り、脱硝されて排熱回収ボイラに供給され、排ガスの温度が、低温触媒の最適反応温度領域以上となったときは、排ガスがメインダクトを通るように、メインダクトの弁を開け、バイパスダクトの弁を閉じ、排ガスが、排熱回収ボイラ中の中温脱硝触媒層によって脱硝されることを特徴とするガスタービン排ガスの脱硝法」の発明(以下「引用1発明」という)が記載されていると認められる。
そこで、本願補正発明と引用1発明とを対比すると、引用1発明に記載された「発電用ガスタービン」は、本願補正発明の「燃焼装置」に相当し、以下同様に、「窒素酸化物をアンモニアと触媒表面上で接触させ還元分解により除去する中温脱硝触媒層」は「アンモニア還元脱硝装置」に、「低温脱硝触媒層」は「触媒を使用した低温脱硝装置」に、「バイパスダクト」は「バイパス」に、「ガスタービンを起動させるときに、排ガスの温度が低く低温触媒の最適反応温度領域の上限以下である場合」は「燃焼装置の起動直後などの排ガス温度が前記アンモニア還元脱硝装置が十分機能しない低温時」に、「排ガスの温度が、低温触媒の最適反応温度領域以上となったとき」は「アンモニア還元脱硝装置が十分機能するようになった時点」に、それぞれ相当するから、両者は、
「燃焼装置から出る燃焼排ガスをアンモニア還元脱硝装置に通して脱硝する方法において、排ガス流路に触媒を使用した低温脱硝装置を設置したバイパスを設け、燃焼装置の起動直後などの排ガス温度が前記アンモニア還元脱硝装置が十分機能しない低温時には、排ガスを前記バイパスに通して前記低温脱硝装置による脱硝を行い、前記アンモニア還元脱硝装置が十分機能するようになった時点でバイパスを閉じ、該アンモニア還元脱硝装置で脱硝を行うようにすることを特徴とする燃焼排ガスの脱硝方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本願補正発明は、排ガス流路のアンモニア還元脱硝装置の後流側に触媒を使用した低温脱硝装置を設置したバイパスを設けているのに対し、引用1発明は、中温脱硝触媒層が中に設置された排熱回収ボイラの上流側に、中間部に低温脱硝触媒層を設置したバイパスダクトを接続している点。
[相違点2]
本願補正発明は、低温脱硝装置の触媒が活性炭素繊維、酸化銅、Cuイオン交換Y型ゼオライト、Cu担持ポリアクリロニトリル、Cu-ポリフェニルポルフィリン又はCu-ポリフタロシアニンのいずれか1種以上であるのに対し、引用1発明は、低温触媒が最適反応温度領域が100〜300℃である貴金属,遷移金属錯体等を成分とするものである点。
[相違点3]
本願補正発明は、低温脱硝装置による脱硝を行う排ガスが、アンモニア還元脱硝装置を経由して排出される排ガスであるのに対し、引用1発明は、低温脱硝触媒層による脱硝を行う排ガスが、中温脱硝触媒層を通る前の排ガスである点。
[相違点4]
本願補正発明は、バイパスが閉じられている間に低温脱硝装置の触媒の再生を行うものであるのに対し、引用1発明は、そのことが記載されていない点。
(4)判断
[相違点1]について
引用例1の記載事項(ケ)に、「前記実施例では、低温脱硝触媒層36をバイパスダクト30の中間に設けた場合について説明したが、低温脱硝触媒層を排熱回収ボイラの排ガスの出口に設けても前記実施例と同様の効果を得ることができる。」と記載されていることから、低温脱硝触媒層と排熱回収ボイラ内に設置された中温脱硝触媒層との位置関係についてみると、低温脱硝触媒層は、中温脱硝触媒層の上流側に設けることも、中温脱硝触媒層の下流側、すなわち後流側に設けることもできることは明らかである。
さらに、引用例1の記載事項(ク)に、低温脱硝触媒層と中温脱硝触媒層とを直列に設置しなかった理由として、「排ガスの温度が低温触媒の最適反応温度領域以上の場合にも低温触媒に排ガスを通すことは、早期に低温触媒が劣化し、触媒の寿命が低下することによる」ことが記載されていることから、低温触媒層を排熱回収ボイラの廃ガスの出口に設けた場合には、排熱回収ボイラによって排ガスの温度が低下することにより、低温触媒が劣化するおそれを低減できるものと解される。
そうすると、必ずしもバイパスダクトを設けて低温触媒層を並列に設置する必要がないようにもみれるが、引用例1の記載事項(ア)に、「ガスタービンの排ガスの排出側に最適反応温度領域が異なる複数の触媒とこれら各触媒に前記排ガスを導くダクトとを設け、前記ガスタービンの排ガス温度に応じて前記触媒を使い分けること」が記載されていることから、排ガス温度が中温脱硝触媒層の最適反応温度領域にあるときは、低温触媒層に排ガスを導くことを想定していないものとみれるから、引用1発明の低温触媒層を排熱回収ボイラの廃ガスの出口に設けた場合であっても、バイパスダクトを設けて低温触媒層を並列に設置することを阻害する要因になるとはいえない。
してみると、引用1発明の低温脱硝触媒層を排熱回収ボイラ内に設置された中温脱硝触媒層の上流側に設けるよりも後流側に設ける方が低温触媒の劣化を回避するために有利であり、かつ、低温脱硝触媒層を排熱回収ボイラ内に設置された中温脱硝触媒層の後流側に設けた場合に、低温触媒層をバイパスダクトの中間に設けることで、排ガス温度が中温脱硝触媒層の最適反応温度領域にあるときに、バイパスダクトの弁を閉じて、排ガスが低温触媒層を通過しないようにすることは、当業者が容易になし得ることであり、これにより奏される効果も当業者が予測できる範囲のものと認められる。
したがって、相違点1に係る本願補正発明の構成は、引用1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
[相違点2]について
引用例2の記載事項(ア)〜(エ)に、代表的な窒素酸化物還元浄化用触媒を用いて十分な脱硝率を得るためには、反応温度として300℃以上の温度が必要であること、活性炭が200℃程度の低温で使用可能な触媒であること、金属銅と酸化銅からなる銅化合物を活性炭素繊維に添着してなる窒素酸化物還元浄化用触媒は、従来の触媒では不可能であった200℃以下の低温にて高い脱硝率を有すること、活性炭素繊維が脱硝反応に寄与することが記載されていることから、低温触媒として酸化銅や活性炭素繊維を用いることは従来から知られていることといえる。
してみると、引用1発明の低温脱硝触媒層に用いる触媒として、 最適反応温度領域が100〜300℃である貴金属,遷移金属錯体等を成分とするものに換えて引用例2の酸化銅や活性炭素繊維を用いることは、両者が同様の温度範囲で触媒活性を有する低温脱硝触媒であることで利用分野が共通していることから当業者が必要に応じて容易に選択し得ることであり、本願補正発明の低温脱硝触媒自体は新規な触媒ではないことから、これらの触媒を選択したことにより格別の効果を奏するものとも認められない。
したがって、相違点2に係る本願補正発明の構成は、引用1発明及び引用例2に記載されたものに基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
[相違点3]について
上記相違点1で言及したように、引用1発明の低温脱硝触媒層を排熱回収ボイラの排ガス出口、すなわち中温脱硝触媒層の後流側に設けてもよいのであるから、引用1発明の低温脱硝触媒層を中温脱硝触媒層の後流側に設ければ、ガスタービンからの排ガス温度が中温脱硝触媒層の最適反応温度領域以下のときに、中温脱硝触媒層を通って排熱回収ボイラの出口から排出される排ガスをバイパスダクトの中間に設置した低温脱硝触媒層で脱硝することになるのは当然のことといえる。
してみると、本願補正発明の低温脱硝装置による脱硝を行う排ガスが、アンモニア還元脱硝装置を経由して排出される排ガスとしたことは、引用1発明の低温脱硝触媒層を排熱回収ボイラの排ガス出口、すなわち中温脱硝触媒層の後流側に設けてもよいことから当然に導き出されることであり、これにより格別の効果を奏するものとも認められない。
したがって、相違点3に係る本願補正発明の構成は、引用1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
[相違点4]について
引用例3の記載事項(ア)〜(ウ)に、火力発電所からの廃ガスに含まれる窒素酸化物の無害化処理をアンモニアを添加したのち、触媒層に通じて接触反応を行なわせ、無害な窒素と水蒸気とに分解して大気中に放出する場合、使用する触媒は、その触媒活性が次第に低下してくるため、再生が必要となること、触媒反応装置の触媒層を並列方向に多数区割して、各単位触媒層毎に反応ガスが分配供給されるように構成し、その大部分の単位触媒層には反応ガスを通過させ、残余の単位触媒層には触媒再生ガスを流通させることにより、接触反応率を実質的に低下させることなく、触媒再生を同時に行なうことが記載されていることから、触媒反応装置の触媒層を並列方向に多数区割し、並列に区割された触媒のうち、一部を再生するために廃ガスに換えて触媒再生用ガスを通過させる一方、それ以外の触媒に通常通り廃ガスを通過させて触媒脱硝と触媒再生とを並行して同時に行うことが記載されているものといえる。
そして、引用1発明の低温脱硝触媒層については、触媒活性が低下した際に再生することが明記されていないが、炭素質触媒や銅などの第1遷移金属の酸化物からなる活性成分を担持した触媒である低温脱硝触媒は、触媒活性が低下したときに高温の低酸素ガスなどの再生ガスによって触媒の再生を行うために、並列に複数設けられた低温触媒装置の一方で再生を行いながら他方で脱硝反応を行うことが当該技術分野における周知技術(例えば、特公昭58-41893号公報、特公昭61-47567号公報を参照のこと。)として知られているから、引用1発明の低温脱硝触媒層についても触媒活性が低下した際に、他の触媒装置による触媒脱硝と並行して触媒活性が低下した触媒の再生を同時に行うようにすることは、引用例3及び周知技術を参酌して当業者が容易に想到し得ることである。
さらに、相違点1で言及したように、引用1発明の低温脱硝触媒層を排熱回収ボイラ内に設置された中温脱硝触媒層の後流側に設けた場合、低温触媒層をバイパスダクトの中間に設けることで、排ガス温度が中温脱硝触媒層の最適反応温度領域にあるときに、バイパスダクトの弁を閉じて、排ガスが低温触媒層を通過しないようにすること、すなわち低温触媒層を排ガス経路から一時的に切り離しているものとみられ、触媒の再生を行うときには触媒を排ガス経路から切り離す必要があることから、低温触媒層を排ガス経路から一時的に切り離しているときに、低温触媒の再生を行うようにすることは、容易になし得ることであり、これにより奏される効果も当業者が予測できる範囲のものと認められる。
したがって、相違点4に係る本願補正発明の構成は、引用1発明及び引用例3に記載されたもの並びに周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
(5)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成16年9月2日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成16年6月9日付けの手続補正書により補正された明細書の、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「燃焼装置から出る燃焼排ガスをアンモニア還元脱硝装置に通して脱硝する方法において、排ガス流路の前記アンモニア還元脱硝装置の後流側に活性炭素繊維、酸化銅、Cuイオン交換Y型ゼオライト、Cu担持ポリアクリロニトリル、Cu-ポリフェニルポルフィリン又はCu-ポリフタロシアニンのいずれか1種以上の触媒を使用した低温脱硝装置を設置したバイパスを設け、燃焼装置の起動直後などの排ガス温度が前記アンモニア還元脱硝装置が十分機能しない低温時には、排ガスを前記バイパスに通して前記低温脱硝装置による脱硝を行い、前記アンモニア還元脱硝装置が十分機能するようになった時点でバイパスを閉じ、該アンモニア還元脱硝装置で脱硝を行うようにし、かつ前記バイパスが閉じられている間に前記低温脱硝装置の触媒の再生を行うようにすることを特徴とする燃焼排ガスの脱硝方法。」

4.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及び、その記載事項は、上記2.(2)に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明は、上記2.(1)で検討した本願補正発明から、「バイパスに通して低温脱硝装置による脱硝を行う排ガス」の限定事項である「アンモニア還元脱硝装置を経由して排出される」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.(3)(4)に記載したとおり、引用1発明及び引用例2、3に記載されたもの並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用1発明及び引用例2、3に記載されたもの並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1〜3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-13 
結審通知日 2006-07-18 
審決日 2006-07-31 
出願番号 特願平8-182009
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
P 1 8・ 575- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 繁田 えい子後藤 政博瀬良 聡機  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 斉藤 信人
松本 貢
発明の名称 排ガス脱硝方法  
代理人 萩原 亮一  
代理人 萩原 亮一  

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