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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B22F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22F
管理番号 1143752
審判番号 不服2004-2755  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-02-12 
確定日 2006-09-15 
事件の表示 特願2001-119214「金属球製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月31日出願公開、特開2002-317211〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年4月18日の出願であって、平成15年10月15日付けで手続補正がされ、同年12月11日付けで拒絶査定がされ、平成16年2月12日付けで拒絶査定に対する審判が請求されるとともに同日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成16年2月12日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年2月12日付け手続補正を却下する。

[理由]
1 平成16年2月12日付け手続補正(以下「本件補正」という。)により補正がされた特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである(下線部は補正箇所を示す。)。
「500〜1600℃の融点を有する金属の溶融物を噴出して分散させて金属球を製造する金属球製造方法において、
その底部にオリフィスを有する密閉性の坩堝と、前記坩堝の側面に設けられた第一の加熱手段と、前記オリフィスの近傍に設けられた第二の加熱手段を備えた装置を用意し、
前記坩堝内に仕込まれた前記金属を前記第一の加熱手段で加熱して前記溶融物を調製し、
前記溶融物を前記坩堝内に設けた振動棒で振動させ、前記溶融物を帯電させ、前記坩堝内にガスを注入し、
前記溶融物を前記オリフィスから噴出させる前に、前記溶融物の温度を前記第二の加熱手段によって調整し、
前記溶融物を前記オリフィスから噴出して分散させ、
しかる後に前記溶融物を凝固させて金属球を得るものであって、
前記振動棒がその上端部に取付けた圧電素子で振動するようになっており、該圧電素子は、振動棒の上部に取付けた断熱材で熱から保護されていること、
前記第一の加熱手段は高周波誘導加熱器であり、前記第二の加熱手段はカーボンリングまたは炭素繊維から成るものであり、前記第二の加熱手段は前記高周波誘導加熱器によって発生された高周波を受けて加熱すること、 前記第二の加熱手段は、前記オリフィスを取り囲むように、前記坩堝の下面に取り付けられていること、および
前記坩堝内における前記溶融物は前記融点よりも50〜150℃高い温度T1に加熱されるように設定されており、しかも前記オリフィスから噴出される前記溶融物の温度T2は(T1-30)℃≦T2≦(T1+30)℃になるように設定されていることを特徴とする金属球製造方法。」(以下、「本願補正発明」という。)
2 拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである。
「500〜1600℃の融点を有する金属の溶融物を噴出して分散させて金属球を製造する金属球製造方法において、
その底部にオリフィスを有する密閉性の坩堝と、前記坩堝の側面に設けられた第一の加熱手段と、前記オリフィスの近傍に設けられた第二の加熱手段とを備えた装置を用意し、
前記坩堝内に仕込まれた前記金属を前記第一の加熱手段で加熱して前記溶融物を調製し、
前記溶融物を前記坩堝内に設けた振動棒で振動させ、前記溶融物を帯電させ、前記坩堝内にガスを注入し、
前記溶融物を前記オリフィスから噴出させる前に、前記溶融物の温度を前記第二の加熱手段によって調整し、
前記溶融物を前記オリフィスから噴出して分散させ、
しかる後に前記溶融物を凝固させて金属球を得るものであって、
前記振動棒がその上端部に取付けた圧電素子で振動するようになっており、該圧電素子は、振動棒の上部に取付けた断熱材で熱から保護されていること、および
前記坩堝内における前記溶融物は前記融点よりも50〜150℃高い温度T1に加熱されるように設定されており、しかも前記オリフィスから噴出される前記溶融物の温度T2は(T1-30)℃≦T2≦(T1+30)℃になるように設定されていることを特徴とする金属球製造方法。」(以下、「本願発明」という。)
3 特許法17条の2第4項2号に規定する要件について
平成16年2月12日付けの請求項1についての補正は、本願発明における第一の加熱手段を「高周波誘導加熱器である」と限定する補正事項、及び、第二の加熱手段を「カーボンリングまたは炭素繊維から成るものであり」、「前記高周波誘導加熱器によって発生された高周波を受けて加熱すること」、および「前記オリフィスを取り囲むように、前記坩堝の下面に取り付けられていること」と限定する補正事項を含むものである。
前者の補正事項は、それぞれ第一、第二の加熱手段を限定するものであり、本願補正発明は、本願発明と発明の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められるから、上記請求項1についての補正は、特許法17条の2第4項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する(なお、これらの補正事項は本願当初明細書及び図面に記載した事項の範囲内のものであることも明らかである。)。
4 特許法17条の2第5項で準用する同法126条5号に規定する要件(独立特許要件)について
進んで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について検討する。すると、以下のとおり本願補正発明は、本出願前に頒布された刊行物である米国特許第5266098号、実願平4-36463号(実開平6-22336号公報)のCD-ROM(以下それぞれを「刊行物1」、「刊行物2」という。)に記載された発明及び周知事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。したがって、本願補正発明は、上記規定に適合するものではない。以下、詳述する。
(1) 刊行物の記載事項
ア 刊行物1には以下の記載がされている。
(ア-a)「本発明の目的は、一様な大きさを有する帯電金属小滴を製造する装置とプロセスを開発することである。」(1欄63〜65行)
(ア-b)「一様な大きさを有する帯電金属小滴の製造と維持のためのプロセスにおいて、以下のステップにより構成されるプロセス
(1)金属の通過を可能とする少なくとも一個のオリフィスを有する容器内に収められた多量の金属を液化し、
(2)前記容器内の液化金属を振動させ、
(3)振動している液化金属を少なくとも一個設けられたオリフィスから強制的に送り出す。
前述の方法は、さらに液化金属が少なくとも一個設けられたオリフィスを・・・出た後に液化金属に対して陽極または陰極の電荷を与えることを含み、振動によって前記液化金属が一様な大きさを有する帯電金属小滴に形成され、形成された小滴の平均直径からの変動量は、±25%程度以下であり、その帯電化により前記小滴が一様な大きさに維持されることを特徴とする。」(8欄56行〜9欄4行 請求項1)
(ア-c)「振動手段18は、機能発生器25、増幅器27、変換器29、オシロスコープ31、容器16と液化金属26内に延びるシャフト24およびディスク25に接続されるメタニオブ酸鉛圧電変換器のような圧電変換器22から構成される。振動手段は、オリフィス28を通して小さい規則的な振動を発生し、強制的にオリフィスを通過させられる液化金属のジェット流がオリフィスを出る時に、一様な金属の小滴に分解される。その後金属の小滴は、各々のジェット流またはジェット流群に対して適切な開口部を持つ帯電板40内を通過する。帯電板40は、金属のジェット流が個別の小滴に分解する位置に設けられる。機能発生器、増幅器、変換器は、1〜100kHz程度,最大300Vまでの信号によりにピエゾを励起させる。この電圧において、3.2mm厚さのメタニオブ酸鉛圧電変換器は、0.1μm程度の振幅で振動する。同じような大きさの振動を発生するいかなる圧電変換器も用いることができる。振動は、ディスク25を介してシャフト24に伝わり、液化金属26に伝達される。シャフトはピエゾを液化金属26の熱から防護しており、液化金属を介して伝達される振動は、液化金属がスプレイオリフィス28を出る時に、金属ジェット流を一様な小滴に分解する。ピエゾが作動するために、減極し振動を可能にする圧電特性を失わないように、ピエゾはキュリー温度より充分低い温度に維持される必要がある。したがって、シャフトの長さは、容器内の溶融金属温度と圧電結晶体のキュリー温度に依存している。シャフトは溶融金属の10cm上方まで延びているのが典型的である。」(3欄37行〜4欄1行)
(ア-d)「容器16は、溶融金属を保持するための適切な材料、例えば、より高い溶融点を持つステンレス鋼のような鋼、または溶融シリカ、黒鉛、アルミナのようなセラミックから製造される。容器にはその頂部において軟らかい銅のガスケットに対してナイフエッジの縁をもつ気密シール(図示されていない)が設けられている。容器16の底部には、複数のオリフィスを設けるのが好ましいが少なくとも一つのオリフィス28が設けられており、そのオリフィスを液化金属26がジェット流となり通過させられる。・・・製造される小滴の正確な大きさは、吹き出し口の直径(D)、ジェット流の流速(V),負荷される振動周波数(f)の関数である。」(4欄5行〜4欄36行)
(ア-e)「容器16内の金属26を溶融するための加熱手段33を含む温度制御システム30がある。図2に示すように、適切な温度制御システムが用いられる中で、二基の300W抵抗バンドヒータ、二つのサーモカップル35および37(一つは溶融金属26内、他はオリフィス28取り付け部)、デジタル温度制御器(図示されていない)および温度表示器(図示されていない)で構成されるシステムを採用するのが現在では好ましい。」(4欄45〜53行)
(ア-f)「図1、2の装置を用いたプロセスは、最初に容器16内にチップ、インゴット、あるいはショット状の金属材料を挿入することで実施される。いかなる適切な材料例えば、錫、亜鉛、鉛、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、またはそれらを混合したもの、あるいはそれらの合金は、最終用途への適用に依存して使用することができる。次に、容器とスプレイチャンバがシールされ・・・金属材料が溶融するまで加熱され、次に温度は個々の金属材料の融点かそれ以上に維持される。」(5欄63行〜6欄6行)
(ア-g)「一様な大きさを有する金属小滴の意味は、定義されたプロセスおよび装置の条件下で製造された小滴が、形状において本質的に球形であり、直径の変動が±25%程度以内、好ましいのは±10%程度以内、さらに好ましいのは±5%程度以内、さらに好ましいのは±3%程度以内、最も好ましいのは±1%程度以内であることを意味する。」(6欄30〜37行)
(ア-h)「【実施例I】
図1,2において本質的に示されている装置を用いて、錫の金属チップ(500g)が304ステンレス鋼製の容器内に収められた。錫は、溶解するために300℃の温度まで加熱された。錫は、プロセスの間この温度に維持された。スプレイチャンバ(流し込みアクリルチューブ製)と容器の両方にN2ガスが注入され、本質的に純粋なN2ガス雰囲気が共に維持された。容器とスプレイチャンバ間の圧力差を40psi・・・にし、容器底部に設けられたサファイヤ宝石の単一オリフィス(100μmの直径)を通過させて錫が送り出された。同時に、機能発生器、増幅器、変換器によってメタニオブ酸鉛圧電変換器が15kHz,300Vで励起された。このような条件で、3.2mm厚さの結晶体が10-7mの振幅で振動を始めた。この振動は、ディスクを通じてシャフトに伝わり錫に伝達された。ピエゾ結晶体は、溶融錫から20cm離れた位置に設置された。錫のジェット流は、容器底部のオリフィスを通過し、容器底部から2mm下方に設置された6.4mm厚さの帯電板内の穴(3.2mmの直径)を通過した。帯電板は、真鍮で作られ5cmの直径を有していた。帯電板は、錫のジェット流に対して400Vの電位差に保持された。錫のジェット流が帯電板の穴内を通過するときに一様な大きさの金属小滴に分解し、帯電化され10-12クーロンの電荷に保持された。小滴は、回収されるガラスの基板に向かって1.5m落下した。小滴は、基板に接したときには凝固した。」(7欄58行〜8欄20行)
イ 刊行物2の記載事項
(イ-a)「本考案は・・・、溶解金属が溶湯ノズルを通過するときの温度の低下を防ぎ、溶湯ノズル内の湯づまりが発生を防止することのできる粉末作製装置を提供することを目的とする。」(【0004】)
(イ-b)「上記目的を達成するため、請求項1に記載の粉末作製装置は、溶解るつぼ内の金属試料を誘導加熱により溶解し、前記溶解るつぼの底部に設けられた溶湯ノズルを介してガスアストマ法により噴射させて、金属粉末を作製する粉末作製装置において、前記溶湯ノズルの外周に高周波誘導加熱可能な環状部材を装着したことを特徴としている。
また請求項2に記載の粉末作製装置は、環状部材が黒鉛で形成されたことを特徴としている。」(【0005】〜【0006】)
(イ-c)「上記のように構成された粉末作製装置において・・・コイル22に高周波の電圧が印加されると溶解るつぼ24内の金属試料は誘導加熱されて溶解する。次に溶解室12に溶湯を出湯させるために加圧し、ゲート弁30を開くと同時に溶湯ストッパ28をエアシリンダ31を駆動することにより上昇させ、初湯出湯タイマにより初湯排出設定を行ない、ガスジェットノズル10から不活性ガスを供給し、噴射孔から溶湯ノズル27の下端外周に噴射する。この結果、溶湯はガスアトマイズ作用により粉末となり、噴射室2,3を通って回収ポット5内に回収される。・・・溶湯ノズル27の外周には本実施例の特徴である黒鉛で環状に形成された環状部材32が装着されており、コイル22に高周波電圧が印加されることにより誘導加熱され、溶湯ノズル27を保温するようになっている。」(【0013】〜【0014】)
(2) 引用発明
刊行物1は、「一様な大きさを有する帯電金属小滴の製造と維持のためのプロセスにおいて、以下のステップにより構成されるプロセス」であって、
「(1)金属の通過を可能とする少なくとも一個のオリフィスを有する容器内に収められた多量の金属を液化し、
(2)前記容器内の液化金属を振動させ、
(3)振動している液化金属を少なくとも一個設けられたオリフィスから強制的に送り出す。
さらに液化金属が少なくとも一個設けられたオリフィスを・・・出た後に液化金属に対して陽極または陰極の電荷を与えることを含み、振動によって前記液化金属が一様な大きさを有する帯電金属小滴に形成され、形成された小滴の平均直径からの変動量は、±25%程度以下であり、その帯電化により前記小滴が一様な大きさに維持されることを特徴とする」(摘示ア-b)方法について記載するものであって、図1,2の記載及び上記摘示事項によれば、その方法で得られた金属粒子は球状(ア-g)であると認められるから上記方法は「金属の溶融物を噴出して分散させて金属球を製造する金属球製造方法」であるといえ、その小滴発生器14はその底部にオリフィス28を有する密閉性の容器16と、前記容器の側面に設けられた加熱手段33を備えた装置(図1等)であり、その容器内に仕込まれた前記金属はその加熱手段33で加熱して溶融物26を調製し、前記溶融物を前記容器内に設けた振動棒24で振動させ、かつ、前記溶融物を帯電板40で帯電させ、前記容器内にガス供給32からガスを注入し、前記溶融物を前記オリフィス28から噴出して分散させ、しかる後に前記溶融物をスプレイチャンバ12で凝固させるものであるといえる。そして、その振動棒24はその上端部に取付けた圧電変換器22で振動するようになっており(摘示ア-c、h)、容器内における溶融物の温度は熱電対35により検出され融点よりも高い温度に加熱されるように制御されていると認められ、前記オリフィスから噴出される前記溶融物の温度は熱電対37により検出され、温度制御器30により所望の粒子が得られるような所定温度に調整されている(図1,2、摘示ア-e)と認められる。
すると、刊行物1には「金属の溶融物を噴出して分散させて金属球を製造する金属球製造方法において、その底部にオリフィスを有する密閉性の容器と、前記容器の側面に設けられた加熱手段を備えた装置を用意し、前記容器内に仕込まれた前記金属を前記加熱手段で加熱して前記溶融物を調製し、前記溶融物を前記容器内に設けた振動棒で振動させ、前記溶融物を帯電させ、前記容器内にガスを注入し、前記溶融物を前記オリフィスから噴出して分散させ、しかる後に前記溶融物を凝固させて金属球を得るものであって、前記振動棒がその上端部に取付けた圧電変換器で振動するようになっており、前記容器内における前記溶融物は前記融点よりも高い温度に加熱されるように設定されており、しかも前記オリフィスから噴出される前記溶融物の温度は所望の粒子が得られるような所定温度に調整されている、金属球製造方法。」(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(3) 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「容器」は本願補正発明の「坩堝」に、「圧電変換器」は「圧電素子」に相当すると認められるから、両者は、
「金属の溶融物を噴出して分散させて金属球を製造する金属球製造方法であって、その底部にオリフィスを有する密閉性の坩堝と、前記坩堝の側面に設けられた加熱手段を備えた装置を用意し、前記坩堝内に仕込まれた前記金属を前記加熱手段で加熱して前記溶融物を調製し、前記溶融物を前記坩堝内に設けた振動棒で振動させ、前記溶融物を帯電させ、前記坩堝内にガスを注入し、前記溶融物を前記オリフィスから噴出して分散させ、しかる後に前記溶融物を凝固させて金属球を得るものであって、前記振動棒がその上端部に取付けた圧電素子で振動するようになっていること、前記坩堝内における前記溶融物は前記融点よりも高い温度に加熱されるように設定されており、しかも前記オリフィスから噴出される前記溶融物の温度が所定温度に調整されている金属球製造方法」
の点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
ア 本願補正発明においては金属の融点が「500〜1600℃」であるのに対し、引用発明においては金属はそのような融点のものに限定されない点(相違点ア)
イ 本願補正発明においては加熱手段が坩堝の側面に設けられた加熱手段(第一の加熱手段)が「高周波誘導加熱器」であることに加え、さらに所定の(前記オリフィスを取り囲むように、前記坩堝の下面に取り付けられている、カーボンリングまたは炭素繊維から成るものであり、前記高周波誘導加熱器によって発生された高周波を受けて加熱するものである)第二の加熱手段を有し、第二の加熱手段によって溶融物をオリフィスから噴出させる前に溶融物の温度を調整するのに対し、引用発明においては加熱手段は坩堝の側面に設けられたもののみであり、その加熱手段は特定の種類の加熱器に限定されない点(相違点イ)
ウ 本願補正発明においては圧電素子は「振動棒の上部に取り付けた断熱材」で熱から保護されているのに対し、引用発明においてはそのような断熱材で熱から保護されてはいない点(相違点ウ)
エ 本願補正発明においては坩堝内における溶融物の温度(以下「T1」ともいう。)は金属の融点よりも50〜150℃高い温度に加熱されるように、また、オリフィスから噴出される溶融物の温度(以下「T2」ともいう。)は「(T1-30)℃≦T2≦(T1+30)℃」になるように、それぞれ設定されているのに対し、引用発明においてはT1及びT2は所定温度に制御されているものの、それらの温度が本願補正発明において特定されるような温度範囲に設定されているか不明である点(相違点エ)
(4) 当審の判断
ア 相違点アについて
刊行物1には、具体例(実施例)において錫(融点は約232℃)について実施した場合が記載されている(摘示ア-h)ものの、そこに開示された方法の対象金属について「いかなる適切な材料例えば、錫、亜鉛、鉛、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、またはそれらを混合したもの、あるいはそれらの合金は、最終用途への適用に依存して使用することができる」(摘示ア-f)と記載されている。例えばアルミニウムの融点は約660℃であるから、引用発明の方法には500〜1500℃の範囲の融点の金属を使用することができることが明示されているということができる。
さらに、金属溶融物を微細化して金属粒子を製造する方法、例えば、オリフィスからの金属溶融物に流体を吹き付けて微細化して金属粒子を製造する方法(ガスアトマイズ法)においては、融点が500〜1500℃程度の金属はごく普通に対象とされる金属であって格別のものではない(例えば、特開昭63-114908号公報(以下「周知文献1」という。)の「SUS316」の融点は1400℃弱である、等)。
このように、融点が500〜1500℃のものを含め多様な金属の粒子を製造しようとすることは金属粒子製造の技術分野において自明の課題であるから、引用発明の方法における金属を融点が500〜1500℃のものとすることは、当業者にとって適宜なし得ることに過ぎない。
よって、引用発明において、相違点アに係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者にとって適宜なし得ることである。
イ 相違点イについて
上記のとおり金属溶融物を微細化して金属粒子を製造する方法、例えば、ガスアトマイズ法、においては、融点が500〜1500℃の金属はごく普通の対象であり格別のものではなく、その金属がより高融点の場合においては、より低融点の場合に比し、ノズルの閉塞がより起こりやすいことも周知の事項であり、さらに、その場合にノズルの閉塞なく所期の金属粒子を製造するためにノズル近傍を加熱することもありふれた手段である(上記周知文献1のほか、特開平1-255608号公報等参照。)。
引用発明の方法において対象金属を具体例において開示された錫から融点が500〜1500℃のように高い金属に適用する場合においては、錫の場合よりノズルの閉塞が起こりやすいことは当然に予測されることであるから、ノズルの閉塞なく所期の金属粒子を製造するに適切な所定温度に調整するために、金属溶融物を微細化して金属粒子を製造する方法において周知のノズル近傍を加熱する手段を設けること、そして、その手段の一つとして知られた、坩堝の側面に設けられた加熱手段を高周波誘導加熱器とし、坩堝オリフィスを取り囲むように坩堝の下面に取り付けられた黒鉛リングをその高周波誘導加熱器によって発生された高周波を受けて加熱するという手段(刊行物2の摘示イ-a,b,c)を適用することは、当業者にとって適宜なし得る設計的事項と認められる。そして、引用発明において、加熱手段を特に上記のものとしたことにより、格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
よって、引用発明において、相違点イに係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者にとって何ら困難のこととは認められない。
ウ 相違点ウについて
刊行物1には、「シャフトはピエゾを液化金属26の熱から防護しており、・・・ピエゾが作動するために、減極し振動を可能にする圧電特性を失わないように、ピエゾはキュリー温度より充分低い温度に維持される必要がある」(摘示ア-c)圧電素子は熱から防護されるべきものであることが示唆されている。引用発明の方法を錫に用いた場合においては、距離を適当なものとすることで対処しているが(摘示ア-h)、金属を融点が500〜1500℃のような高いものに適用する場合においては、さらに何らかの熱からの防護手段が必要となることは当業者であれば容易に思い至ることであり、そのために例えば熱を遮断する断熱材を介在させる等周知の熱から防護する手段を適用することは、当業者にとって設計的事項に過ぎない。そして、引用発明において、熱から防護する手段を特に断熱材を介在させるものとしたことにより、格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
よって、引用発明において、相違点ウに係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者にとって何ら困難のことではない。
エ 相違点エについて
(ア)T1について
坩堝内の融解物の温度(T1)は、対象金属の融点以上の流動性のある溶融物とする温度以上であるがコスト、装置等から高過ぎない温度に設定されていると認められる。そして、引用発明の実施例1の錫(融点約232℃)の場合においてT1が300℃に設定されていることが認められる。このT1は錫の融点より68℃高い温度、すなわち金属の融点より50〜150℃高い温度である。したがって、坩堝内の溶融物の温度T1として金属の融点より50〜150℃高い温度程度とすることは、格別の温度条件であるとは認められず、当業者が金属の種類等に応じ適宜設定しうる温度条件であると認められる。
(イ)T2について
(i)本願補正発明の規定
本願補正発明においてT2(オリフィスから噴出される前記溶融物の温度)は「(T1-30)℃≦T2≦(T1+30)℃になるように設定され」る、すなわちT2は金属の溶融物の温度乃至±30℃の温度範囲に設定されるものである。
(ii)引用発明におけるT2
引用発明は所期の一様な粒径の球形の金属粒子が得られるものであるから、そのT2は、その装置及びその操作条件、対象金属に応じた所期の一様な粒径の球形の金属粒子が得られる好適な所定温度に設定されると認められる。その温度は、低過ぎればオリフィスの閉塞が生じやすく、高過ぎれば融合して大粒子となりやすく、粒子が変形しやすいことからすれば、T2もT1と同様、流動性を有しかつ高過ぎない温度であると認められるから、T2は溶融物の温度T1と同程度乃至その付近が通常は好適な温度であると認められる。すると、引用発明において、T2を融解物の温度乃至その付近の温度とすることは当業者が適宜なし得る事項に過ぎないといえ、その最適範囲は当業者が金属の種類等に応じ適宜設定しうる温度であると認められる。
そして、本願補正発明において融解物の温度乃至その付近の温度を特に融解物の温度±30℃と数値限定した点に格別顕著な効果が認められない。
すなわち、本願補正発明において、T2は坩堝内の溶融物の温度の±30℃の範囲の値とされているが、製造装置の詳細の限定もその操作条件も規定されるものではなく、さらに金属の種類も単に融点範囲でのみ限定される様々なものが包含される。実施例には好適な場合が示されているとしても、本願補正発明に規定される条件で、その全ての種類の金属に対してもT2が溶融物の温度±30℃であれば所期の一様な粒径の球形粒子を高収率で得るという効果を奏することができるとは到底考えられない。
(ウ)してみると、引用発明において、相違点エに係る特定事項とすることは当業者にとって格別困難なこととは認められない。そして、本願補正明細書及び図面を検討しても本願補正発明が、相違点エによって格別の効果を奏すると認めるに足るものはない。
(5) 小括
以上のとおり、引用発明に相違点ア乃至エに係る本願補正発明の特定事項を適用することは当業者が容易に想到し得たものであり、本願補正発明が格別の効果を奏するものと認めるに足ものではないから、本願補正発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認められ、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本願補正発明は特許法17条の2第5項において準用する同法126条5号に規定する要件に適合しない。
5 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合しない上記補正を含むものであるから、その余を検討するまでもまなく、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたから、この出願の発明は、拒絶査定時の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1の発明(本願発明)は「第2」の「2」に記載されたとおりのものと認める。
2 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、米国特許第5266098号(刊行物1)、実願平4-36463号(実開平6-22336号公報)のCD-ROM(刊行物2:なお、拒絶理由通知中の「マイクロフィルム」の記載は前記の誤記である。)等に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた、というものである。
3 当審の判断
(1) 刊行物の記載事項及び引用発明
刊行物1、2の記載事項及び引用発明は前記「第2」の「4」の(1)、(2)に記載したとおりである。
(2) 対比・判断
本願発明は、本願補正発明において上記相違点イに係る一部の特定事項がないものに相当するから、本願発明と引用発明の相違点は、上記相違点イに代え
イ’ 本願補正発明においては加熱手段が坩堝の側面に設けられた加熱手段に加え、さらに第二の加熱手段を有するものであって、溶融物をオリフィスから噴出させる前に、溶融物の温度を第二の加熱手段によって調整するものであるのに対し、引用発明においては加熱手段は坩堝の側面に設けられたもののみでであり、その加熱手段は特定の種類の加熱器に限定されるものではない点(相違点イ’)
であるといえる。
すると、本願発明と引用発明とは、相違点ア、イ’、ウ、エの点で相違すると認められるところ、それらの相違点が引用発明に基づき容易想到なものであることは前示のとおりである。
そして、本願発明がこれらの相違点に係る発明特定事項を引用発明に適用したものに比し格別顕著な効果を奏するものであるとも認められないことも前示のとおりである。
したがって、本願発明は、引用発明に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、その余を検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-13 
結審通知日 2006-07-19 
審決日 2006-08-01 
出願番号 特願2001-119214(P2001-119214)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B22F)
P 1 8・ 575- Z (B22F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 一正  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 高木 康晴
平塚 義三
発明の名称 金属球製造方法  
代理人 村田 紀子  
代理人 武石 靖彦  

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