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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200235248 審決 特許
無効200480273 審決 特許
無効200580231 審決 特許
無効200480272 審決 特許
無効200480147 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B01F
管理番号 1143848
審判番号 無効2005-80100  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-01-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-03-31 
確定日 2006-09-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第2090366号発明「現像原液の希釈装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2090366号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2090366号に係る発明についての出願は、昭和62年2月10日に特許出願され、平成8年9月18日にその発明について特許の設定登録がなされた。
その後、平成17年3月31日に、請求人株式会社ケミテックより、本件無効審判の請求がなされ、平成17年6月28日に被請求人より審判事件答弁書が提出され、平成17年10月6日に口頭審理が行われ、同日、請求人、被請求人双方からそれぞれ口頭審理陳述要領書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下、「本件発明」という)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項に記載された次のとおりのものである。
「ホトレジストを用いて微細加工を行う加工用設備に管路を介して所望濃度の現像液を送給するための現像原液の希釈装置であって、アルカリ系現像原液と純水とを混合する混合手段と、この混合手段からの混合液を受け入れ、所定時間強制攪拌する攪拌槽と、この攪拌槽内の混合液の一部を抜き出しその導電率を測定したのち攪拌槽内に戻す導電率測定手段と、前記導電率測定手段で測定した導電率に対して温度補償を行って基準温度における前記混合液の導電率を演算する温度補償手段と、前記温度補償手段からの出力信号にもとづき前記混合手段に供給されるアルカリ系現像原液または純水のいずれか一方の流量を制御する制御手段と、前記攪拌槽からの混合液を前記加工用設備に前記管路を介して送給する前に受け入れ貯留する貯留槽と、を備えたことを特徴とする現像原液の希釈装置。」
3.請求人及び被請求人の主張の概略
3-1.請求人の主張
請求人の主張は、以下の通りである。
「本件特許発明は、甲第1号証、甲第3号証乃至甲第8号証に記載された発明並びに甲第2号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許請求の範囲第1項に記載された特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。」
〈証拠方法〉
甲第1号証:特開昭62-11520号公報
甲第2号証:日本半導体製造装置協会編「半導体製造装置用語辞典」日刊工業新聞社 序文,審議に当たって,p162〜164,p173,174,p184〜188 (昭和62年11月20日)
甲第3号証:実願昭59-182709号(実開昭61-98527号)のマイクロフィルム
甲第4号証:実公昭59-29940号公報
甲第5号証:内藤正編「工業計測法ハンドブック」株式会社朝倉書店 第480〜481頁(昭和51年9月30日)
甲第6号証:工業計測技術大系編集委員会「工業計測技術大系7 工業分析(下)」日刊工業新聞社 p45〜53 (昭和40年1月30日)
甲第7号証:特開昭60-98624号公報
甲第8号証:特開昭60-223131号公報
甲第9号証:実公昭61-7786号公報

3-2.被請求人の主張
これに対して、被請求人の主張は、以下の通りである。
「本件特許発明は、甲第1号証乃至甲第9号証に記載された事項により特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものとはならず、特許法第123条第1項第2号によって無効とされるべきものではない。」

4.当審の判断
4-1.各甲号証の記載事項
(1)甲第1号証:特開昭62-11520号公報
(a)「設定値の濃度を有しかつ高清浄化された薬液を得るために1種または複数種の薬品原液と純水とを用いて調合を行う薬液調合方法であって、薬品原液と純水とを導入して調合を行う調合槽と、該調合槽の中の薬液を循環ろ過する薬液循環ろ過手段と、該薬液循環ろ過手段のろ過部を通過した薬液中の微粒子数を計測する液中微粒子モニタ手段と、薬液またはその各成分の濃度をモニタする薬液濃度モニタ手段とを設け、該薬液濃度モニタ手段による測定結果に基づき、薬液濃度が設定値になるように薬品原液または純水を補充するとともに、上記液中微粒子モニタ手段による測定結果に基づき、必要に応じ薬液中の微粒子数が設定値以下になるように薬液の循環ろ過を行うことを特徴とする薬液調合方法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「紫外部にある薬液中の化合物の紫外線吸収量または薬液中の化合物のイオン量を計測することによって薬液またはその成分の濃度をモニタすることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の薬液調合方法。」(特許請求の範囲第2項)
(c)「本発明は、設定値の濃度を有しかつ高清浄化された薬液を調合する薬液調合方法にかかわり、特に半導体素子製造の湿式処理工程で用いる処理液を調合するのに好適な薬液調合方法に関するものである。」(第1頁右下欄第7〜11行)
(d)「薬液またはその成分濃度をモニタする手段としては、半導体素子製造の湿式処理工程で用いる処理液等の場合は、紫外部にある薬液中の化合物の紫外線吸収量を計測する方法(紫外線吸収法)、または薬液中の化合物のイオン量を計測する方法(導電率法)を用いることができる。」(第2頁右上欄第2〜8行)
(e)「また、第3図において、曲線d,e,f,g,hは、それぞれ塩酸、硝酸、硫酸、アンモニア水、フッ化水素酸の導電率を示す曲線である。」(第2頁左下欄第2〜5行)
(f)「以下、本発明による薬液調合方法について、図面を参照して具体的に説明する。次に述べる実施例は、本発明による方法を適用し、マイクロコンピュータを用いて薬液濃度を所定濃度に制御するように構成した例である。第1図は、本発明の方法を用いて薬液濃度を制御しつつ調合を行うように構成した装置の一例を示す構成図である。」(第2頁右下欄第8〜15行)
(g)「そして、再び薬液循環ポンプ9を動かし、薬液貯蔵タンク11内の薬液を薬液調合タンク12に設定量送った後、電磁弁3を閉じ電磁弁5を開いて、液を循環ろ過する。その際、紫外線吸収計あるいは導電率濃度計からなる薬液濃度測定装置19により薬液濃度を計測し、薬液濃度が設定値より低い場合には、電磁弁5を閉じ電磁弁3を開いて薬液原液を追加補充し、薬液濃度が設定値より高い場合には、電磁弁7を開いて純水を補充する。これら一連の操作を繰り返して、薬液調合タンク12内の液が設定濃度、設定清浄度に達したら、薬液循環ポンプ9を停止し、電磁弁5,6を閉じた後、電磁弁6を開いて、N2ガスで薬液調合タンク12内を加圧する。その後、必要に応じて電磁弁8の開閉を行い、液を処理槽(図示せず)に圧送供給する。」(第3頁左上欄第7行〜右上欄第3行)
(h)「第5図は、第1図に示した装置をマイクロコンピュータで制御したときのフローチャートである。以下、本フローチャートに基づいて、薬液濃度を自動的に所定濃度に制御する方法の一例を説明する。まず、ステップAでスタートすると、電磁弁1,2,3を開き、電磁弁4,5を閉じる(ステップB)。薬液循環ポンプ9を作動させて、薬液を薬液貯蔵タンク11内に導入し、液面センサなどを用いて水位が所定値であるかを判定しながら所定量入れる(ステップC,D)。所定水位になると、電磁弁1が閉じられる(ステップE)。薬液貯蔵タンク11内の薬液中の微粒子数が設定値以下かを液中微粒子モニタ装置14で測定して薬液の清浄度を判定し、設定値以下になったら薬液を循環させていた薬液循環ポンプ9を停止する(ステップF,G,H)。ついで電磁弁2,5を閉じ、電磁弁3,4を開き(ステップI)、この状態で電磁弁7を開いて純水を薬液調合タンク12に導入し、液面センサなどで水位が所定値であるかを判定しながら所定量入れる(ステップJ,K)。所定水位になると、薬液循環ポンプ9を動かして、設定量の薬液を薬液調合タンク12に供給し、電磁弁3を閉じ、電磁弁5を開ける(ステップL,M,N)。供給後、紫外線吸収計、導電率濃度計を用いて薬液調合タンク12内の薬液の紫外線吸収量、導電率を測定し、第4図のフローチャートで説明した方法で薬液の濃度が算出され(ステップO)、測定値が設定濃度範囲内であるか否かが判定される(ステップP)。測定値が目標値から外れている場合、濃度が低すぎれば、電磁弁5を閉じ、電磁弁3を時間tだけ開けて薬液を補充し(ステップQ,R)、また濃度が高すぎれば、電磁弁7を時間t’だけ開けて純水を補充する(ステップS)。このようにして、薬液調合タンク12内の薬液濃度が制御され、薬液中の微粒子数が設定値以下かを判定し、設定値以下ならば薬液循環ポンプ9を停止する(ステップ(ステップV)。ついで、電磁弁5を閉じ、電磁弁6,8 を開いて(ステップW)、調合した薬液を処理槽(図示せず)へ設定量だけ送液する(ステップX)。送液後、電磁弁8を閉じて1サイクルを終了する(ステップZ)。」(第3頁左下欄第18行〜第4頁左上欄第20行)
(i)「本発明の方法により、半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程での処理液の安定調合が可能となった。」(第4頁右上欄第1〜4行)
(2)甲第2号証:日本半導体製造装置協会編「半導体製造装置用語辞典」日刊工業新聞社 序文,審議に当たって,p162〜164,p173,174,p184〜188 (昭和62年11月20日)
(a)「幸い,協会会員各社より広範囲に亘って専門知識を持った大勢の方々にご協力頂き,それぞれの専門分野について基本的な用語約2000語を厳選し,分類,整理をして取り込み,平易に解説して頂くことができた。内容については,それぞれの分野において極めてご造詣の深い諸先生方に審議委員をお願いし,内容の充実と正確さを期した。」(序文)
(b)「幸いなことに,その後の半導体製造装置産業の発展は目ざましいものであって,昭和60年3月には日本半導体製造装置協会が設立され,大変よろこばしいことと考えていた。昭和61年になって協会の方から半導体製造装置の用語辞典を作りたいのでその審議をしてほしいというお話があった。私はその主旨に賛成し,お引き受けすることにした。すなわち,新しい協会として,まず共通の用語を決めて行くことはその門出として適切であると考えたからである。言葉こそはもっとも素朴な基礎的共通的な手段なのである。まさに「はじめに言葉ありき」である。」(審議に当たって)
(c)「現像装置」の意味として、「レジスト処理装置の中で,ウエーハ上に塗布されたフォトレジストにパターンを露光した後現像するための装置。処理の仕方により,スピン式,ディップ式,スプレー式に分類される。」が記載されている。(第162頁)
(d)「エッチング装置」の意味として、「ウエーハ又はウエーハ表面上に形成された薄膜の全面または特定した場所を必要な厚さだけ食刻する装置。」が記載されている。(第173頁)
(e)「ウエットエッチング装置」の意味として、「液相中でウエーハなどをエッチングする装置の総称。」が記載されている。(第173頁)
(f)「湿式洗浄装置」の意味として、「薬品水溶液,有機溶媒,水など液体を使用して洗浄を行う装置。」が記載されている。(第184頁)
(g)「薬液貯蔵タンク」の意味として、「薬品または洗浄液を使用するまで貯蔵しておくタンク。」が記載されている。(第188頁)
(3)甲第3号証:実願昭59-182709号(実開昭61-98527号)のマイクロフィルム
(a)「薬液の原液を希釈水で希釈する薬液希釈機構と、この希釈機構で希釈された希釈薬液を貯留する希釈薬液貯蔵タンクと、貯留された希釈薬液を供給する希釈薬液注入ラインとを備えた薬液希釈装置において、希釈薬液貯蔵タンクに希釈薬液を分析する分析計を備えた分析計ラインと、上記貯蔵タンク内の希釈薬液を循環させ、撹拌させる循環ラインとを、設けたことを特徴とする薬液希釈装置。」(実用新案登録請求の範囲第1項)
(b)「本考案は発電プラントの給水や脱塩水等の水質調整を行う薬液を希釈する薬液希釈装置に係り、特に薬液の原液を希釈水で希釈して所定濃度の希釈薬液を得る薬液希釈装置に関する。」(第2頁第17行〜第3頁第1行)
(c)「本考案は上述した事情を考慮してなされたもので、希釈薬液貯蔵タンクに貯留された希釈薬液の濃度分析や撹拌均一化作業を積極的かつ自動的に行ない、薬液注入制御の安定化および省力化を確実に図るようにした薬液希釈装置を提供することを目的とする。」(第8頁第19行〜第9頁第4行)
(d)「薬液希釈機構20は、薬液の原液を貯溜した薬液貯蔵タンク21を有し、この薬液貯蔵タンク21は入口弁22を備えた薬液入口ライン23を介して軽量タンク24に接続される。軽量タンク24には、レベルスイッチ(図示せず)が設けられて、タンク内に供給される薬液量を軽量する一方、軽量タンク24からの薬液出口ライン25には出口弁26が設けられ、その先端はエジエクタ27に接続される。このエジェクタ27には希釈水としての純水が希釈水遮断弁28を介して流入され、流入された純水はエジエクタ27にて薬液を吸引し、この薬液を希釈・混合させながら、希釈薬液混合ライン29を通って、入口ノズル30から希釈薬液貯蔵タンク31に案内され、内部に貯留される。この貯蔵タンク31にも図示しないレベルスイッチが設けられ、このレベルスイッチからの出力信号により希釈水遮断弁28が開閉制御されるようになっている。」(第10頁第8行〜第11頁第6行)
(e)「また、希釈薬液貯蔵タンク31の底部から希釈薬液注入ライン33が延びており、この注入ライン33は途中に設けられた希釈薬液注入ポンプ34を経て火力発電プラントや原子力発電プラントの給水管35 に接続され、この給水管35に希釈薬液を注入するようになっている。」(第11頁第7〜12行)
(f)「希釈薬液貯蔵タンク31に貯溜された希釈薬液は注入ポンプ34により希釈薬液注入ライン33を経て注入されるが、その際、注入ポンプ34の吐出側から分析計ライン37が分岐されているので、注入される希釈薬液の濃度分析を迅速に行うことができる。」(第15頁第9〜14行)
(g)「循環ライン38の作動により、希釈薬液の濃度差が基準値の例えば±5%以内あるいは値を変えて±3%以内に達すると、これを分析計40が検出して、その検出信号をタイマTD2に入力させる。この入力信号を受けタイマTD2は所定時間後に、循環弁41を閉じる。したがって、希釈薬液貯蔵タンク31内の希釈薬液はほぼ基準値の濃度となるようにセットされる。」(第16頁第9〜16行)
(4)甲第4号証:実公昭59-29940号公報
(a)「円筒状ケーシングと、これに重油、水、乳化剤を供給するための手段と、前記ケーシングの内部に上下端部を開放して配置された内筒と、前記ケーシング内の内筒の下方位置に配置され、流体の流れ方向に並行な方向から直角をなす方向に亘る角度範囲で流体を変位させるよう推進させる回転ブレードと、これらのブレードを回転駆動する駆動手段とを備え、前記駆動手段により回転ブレードを回転させることにより流体を内筒およびケーシングに打ちつけて乱流を生ぜしめて重油を乳化するとともに乳化された流体を前記ケーシングおよび内筒間で周速均一に循環させるように構成したことを特徴とする重油乳化装置。」(実用新案登録請求の範囲)
(5)甲第5号証:内藤正編「工業計測法ハンドブック」株式会社朝倉書店 第480〜481頁(昭和51年9月30日)
(a)「図 6.87に示すよう、溶液の導電率特性は溶質の種類により大きな差異をもつが、ある条件のもとでは、濃度と導電率との間に対応関係をもち、溶液の導電率から濃度を測定することができる。」(第480頁第22〜27行)
(b)「また、溶液の導電率は温度により大きく変化するため、濃度測定に際しては、液温を一定に調節した状態で導電率の測定をするか、実用的には、測定状態における溶液の温度特性に合せた補償回路を設けて、基準温度に換算した導電率を出力とするようにしている。」(第480頁最終行〜第481頁第3行)
(6)甲第6号証:工業計測技術大系編集委員会「工業計測技術大系7 工業分析(下)」日刊工業新聞社 p45〜53 (昭和40年1月30日)
(a)「この導電率測定については古くより研究が始められ,Kohlrauschらによって電解質溶液の導電率測定が確率されている。そして標準溶液の作製と,これを用いておこなう測定セル(電極)のセルコンスタントの決定方法や測定に使用する純水の問題,あるいは電極として使用する有名な白金黒メッキ白金電極の考案がある。このようにして現在でもKohlrauschブリッジの名で周知されている交流による導電率測定法を確立した。その後多くの研究者によって改良,研究が続けられ,導電率測定法は広く実用されるにいたったが,とくにG.Jonesらは測定法および装置の各部について詳細な検討,研究をつづけ,現在でも精密な測定に用いられるJonesブリッジの完成,特性のよい導電率測定セルの設計,KCl標準溶液の絶対測定を行なって精密な導電率測定法を完成した。導電率測定の応用としては、古くよりイオン積,電離恒数の測定,錯塩構造の決定,導電率滴定などの分析法として広く試みられている。しかし、現在もっとも広い応用分野としては、溶液の濃度と導電率の関係が、温度が一定であれば精密に対応することを利用した工業的溶液濃度の測定、あるいは成分の検出方法として用いられている。たとえば化学工業におけるH2SO4,HCl,NaOHなどの濃度の測定、発電所、工場におけるボイラの給水、復水の水質測定、純水製造装置の純水の純度測定などのように導電率測定は現在pH測定と同様に広く普及し、プロセスの計装上必要欠くべからざるものとなっている。」(第45〜46頁)
(b)「導電率は溶液の濃度が一定であっても、その温度の上昇に伴って、一般に約2%の温度係数をもって増加する。この事柄は導電率測定において重要なことで、正確な導電率測定は、温度の正確な測定、あるいは調節によって得られるといわれるほどである。また同じ種類の電解質であっても、その濃度によって温度係数は多少異なり、表3.1に示したような値になっている。」(第51頁)
(7)甲第7号証:特開昭60-98624号公報
(a)「ポジレジスト現像液(以下、ポジデベロッパーと略記)の現像液供給タンクにパージされる不活性ガスが水分を含んでいることを特徴とする半導体製造装置。」特許請求の範囲第1項)
(b)「本発明はポジデベロッパーの現像液供給タンクに関するものである。近年、半導体装置の微細化により素子の寸法制御の技術が大きな問題になってきた。」(第1頁左下欄第13〜16行)
(c)「素子の寸法制御はフォトエッチング工程で行われているが、その中でもレジスト寸法を制御する事が最も大きな鍵となる。また用いられるレジストも従来のネガ型では寸法制御が困難なため、ポジ型が主流をなしてきた。ところが一般にポジ型レジストの現像は中和反応であるため現像液の濃度が反応速度に大きく影響を及ぼしてきた。第1図に現像液濃度とレジスト寸法の関係を示す。同図より現像液濃度はレジスト寸法に大きく影響を及ぼすことが明らかであり、現像液の濃度制御が寸法制御にとって欠かせないことは言うまでもないであろう。さて、従来のポジデベロッパーの現像液供給タンクを第2図に示す。同図において現像液供給タンクには窒素配管101と排気配管202が接続され、窒素パージにより現像液203の劣化を妨げている。」(第1頁左下欄第17行〜右下欄第18行)
(d)「本発明は、かかる欠点を除去したもので、その目的は、現像液の水分の蒸発を防ぐ、つまり現像液の濃度を一定にし、レジスト寸法の経時変化をなくすことにある。第4図には、本発明によるポジデベロッパーの現像液供給タンク(以下タンクと略記)を示す。同図において窒素は、窒素配管401、水402を含む加湿器403、窒素配管404を通りタンクに供給される。加湿機403を通るため窒素は水分を含み、この結果現像液405中の水分の蒸発が押えられ、現像液405の濃度は一定に保たれる。」(第2頁左上欄第5〜16行)
(8)甲第8号証:特開昭60-223131号公報
(a)「所要濃度の薬液を入れた薬液処理槽と、この処理槽内の薬液の濃度を検出するモニタ部と、前記処理糟内に原薬液を供給して濃度を復旧させる原液供給部と、前記モニタ部の濃度検出信号に基づいて前記原液供給部を制御して処理槽内の薬液濃度を制御する制御部とを備え、この制御部はモニタ時よりも先の時点における薬液濃度を予測する予測制御系と、この予測された濃度に基づいて必要な原液供給量を算出しかつ前記原液供給部により原液を供給させるフィードバック制御系とを有することを特徴とする薬液濃度制御装置。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「本発明は薬液処理槽の薬液濃度を所定濃度に管理する薬液濃度制御技術に関し、特に管理制度の向上を図った制御技術に関するものである。」(第1頁右下欄第9〜11行)
(c)「本半導体装置の製造工程では、例えばエッチング工程の後処理として超音波洗浄等の清浄工程が施され、半導体ウエーハを洗浄液等の薬液内に浸漬して洗浄を行なっている。ところで、この洗浄に限らず被処理物を薬液処理する場合、安定した処理を達成するためには薬液の濃度を一定ないし所定の範囲に管理制御することが必要とされる。」(第1頁右下欄第13〜19行)
(d)「第1図は本発明を半導体ウエーハの洗浄装置に適用した一実施例であり、図において1は内部に所定の濃度の薬液(洗浄液)を入れた薬液処理槽である。この薬液処理槽1上には例えば2種の原液C1,C2を処理槽1内に供給する原液供給部2を設けている。」(第2頁右上欄第6〜11行)
(e)「この濃度モニタ部6は処理槽1内の薬液をサンプリングするためのポンプ7と、モニタ8を有し、モニタ8は紫外線分光光度計やイオンメータで構成して薬液濃度を検出することができる。」(第2頁右上欄第17行〜左下欄第2行)
(f)「以上の説明では主として本発明者によってなされた発明をその背景となった利用分野である半導体ウエーハの洗浄装置に適用した場合について説明したが、それに限定されるものではなく、半導体装置の製造工程における種々の薬液ないし半導体製造以外の分野における種々の薬液の濃度制御に適用することができる。」(第3頁左下欄第7〜12行)
(9)甲第9号証:実公昭61-7786号公報
(a)「ポンプと恒温装置、電気伝導度測定装置からなるアンモニア水循環系を、アンモニア希釈タンクの外部に設けたことを特徴とするアンモニア水自動希釈装置。」(実用新案登録請求の範囲第1項)
(b)「本考案はボイラプラント等の水質調整において、pH値を一定に保持するために注入するアンモニア水の自動希釈装置に関する。」(第1頁第1欄第7〜9行)
(c)「18はアンモニアを希釈するタンクであり、このタンクに純水供給系1から制御弁2を介して純水が供給され、一定量になると水位測定器7の信号により制御器10が作動して制御弁2を閉じる。アンモニア供給系3から制御弁4を介してアンモニアを供給し、撹拌装置8を作動させると共に、開閉弁13,11を開にして循環ポンプ14を作動させアンモニア水循環系15にアンモニア水を循環させる。恒温装置17を作動させ、循環するアンモニア水の温度を一定に保持し電気伝導率測定手段9を用いて濃度測定を行う。この濃度測定の際、温度補償の必要はなく、より高精度の測定が行われる。」(第2頁第3欄第6〜18行)
(d)第1図には、撹拌装置8として、スクリュー(プロペラ)が図示されている。

4-2.対比・判断
刊行物1の上記(1)(c)には、「特に半導体素子製造の湿式処理工程で用いる処理液を調合するのに好適な薬液調合方法に関するものである。」と記載されている。 ここで、「湿式処理工程」は、上記(1)(i)の「本発明の方法により、半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程での処理液の安定調合が可能となった。」の記載からみて、「半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程」であることがわかる。
さらに、「薬液調合方法」は、上記(1)(a)から「設定値の濃度を有しかつ高清浄化された薬液を得るために1種または複数種の薬品原液と純水とを用いて調合を行う薬液調合方法であって、薬品原液と純水とを導入して調合を行う調合槽と、該調合槽の中の薬液を循環ろ過する薬液循環ろ過手段と、該薬液循環ろ過手段のろ過部を通過した薬液中の微粒子数を計測する液中微粒子モニタ手段と、薬液またはその各成分の濃度をモニタする薬液濃度モニタ手段とを設け、該薬液濃度モニタ手段による測定結果に基づき、薬液濃度が設定値になるように薬品原液または純水を補充するとともに、上記液中微粒子モニタ手段による測定結果に基づき、必要に応じ薬液中の微粒子数が設定値以下になるように薬液の循環ろ過を行うことを特徴とする薬液調合方法。」というものである。
ここで、「薬液またはその各成分の濃度をモニタする薬液濃度モニタ手段」は、「薬液中の化合物のイオン量を計測することによって薬液またはその成分の濃度をモニタする」(上記(1)(b))、「半導体素子製造の湿式処理工程で用いる処理液等の場合は、・・・薬液中の化合物のイオン量を計測する方法(導電率法)」(上記(1)(d))というものであり、「イオン量を計測する手段」は、具体的には「導電率濃度計」である(上記(1)(g))。
また、上記(1)(f)から、上記「設定値の濃度」は「所定濃度」である。
また、上記(1)(h)の「測定値が目標値から外れている場合、濃度が低すぎれば、電磁弁5を閉じ、電磁弁3を時間tだけ開けて薬液を補充し(ステップQ,R)」の記載から、薬品原液を薬液貯蔵タンク11から薬液調合タンク12へ補充することがわかり、「また濃度が高すぎれば、電磁弁7を時間t’だけ開けて純水を補充する(ステップS)。」の記載から、純水が薬液調合タンク12へ補充されることがわかる。すなわち、調合槽に薬品原液や純水のいずれか一方が補充されることがわかる。
また、上記(1)(g)の「その後、必要に応じて電磁弁8の開閉を行い、液を処理槽(図示せず)に圧送供給する。」の記載から、調合槽から処理槽へ薬液を管路を介して圧送供給していることがわかる。
これら記載を本件発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、
「半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程の処理槽に管路を介して所定濃度の薬液を送給するための薬液調合装置であって、半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程の薬品原液と純水とを導入して調合を行う調合槽と、該調合槽の中の薬液を循環ろ過する薬液循環ろ過手段と、該薬液循環ろ過手段のろ過部を通過した薬液またはその各成分の濃度をモニタする導電率濃度計と、該導電率濃度計による測定結果に基づき、薬液濃度が所定濃度の薬液になるように薬品原液または純水のいずれか一方を調合槽に補充する手段と、を備えた薬液調合装置」という発明(以下、「甲1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「薬液調合装置」は、薬品原液と純水を調合している点で希釈しているのと同義であるから、本件発明の「希釈装置」に相当する。
また、甲1発明の「薬液」、「導電率濃度計」は、本件発明の「混合液」、「導電率測定手段」にそれぞれ相当する。そして、甲1発明の「薬液循環ろ過手段のろ過部を通過した薬液またはその各成分の濃度をモニタする導電率濃度計」は、本件発明の「攪拌槽内の混合液の一部を抜き出しその導電率を測定したのち攪拌槽内に戻す導電率測定手段」に相当する。
してみると、両者は、「槽と、この槽内の混合液の一部を抜き出しその導電率を測定したのち槽内に戻す導電率測定手段と、を備えたことを特徴とする原液の希釈装置」という点で一致し、次の点で相違している。

相違点(イ):本件発明では、原液が「アルカリ系現像原液」であり、希釈装置が「ホトレジストを用いて微細加工を行う加工用設備に管路を介して所望濃度の現像液を送給するための現像原液の希釈装置」であるのに対して、甲1発明では、原液が「半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程の薬品原液」であり、希釈装置が「半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程の処理槽に管路を介して所定濃度の薬液を送給するための薬液調合装置」である点
相違点(ロ):本件発明では、「アルカリ系現像原液と純水とを混合する混合手段」を備え、槽が「混合手段からの混合液を受け入れ、所定時間強制攪拌する攪拌槽」であるのに対して、甲1発明では、「混合手段」については開示されておらず、槽が「原液と純水とを導入して調合を行う調合槽」である点
相違点(ハ): 本件発明では、「導電率測定手段で測定した導電率に対して温度補償を行って基準温度における混合液の導電率を演算する温度補償手段」を備え、制御手段が「温度補償手段からの出力信号にもとづき混合手段に供給されるアルカリ系現像原液または純水のいずれか一方の流量を制御する制御手段」であるのに対して、甲1発明では、温度補償手段が開示されておらず、制御手段が「導電率濃度計による測定結果に基づき、薬液濃度が所定濃度の薬液になるように薬品原液または純水のいずれか一方を調合槽に補充する手段」である点
相違点(ニ):本件発明では、「攪拌槽からの混合液を加工用設備に管路を介して送給する前に受け入れ貯留する貯留槽」を備えているのに対して、甲1発明では、その点が開示されていない点

先ず上記相違点(イ)について検討する。
甲1発明の「湿式処理工程の処理槽に管路を介して所定濃度の薬液を送給するための薬液調合装置」は、「湿式処理工程の処理槽」に管路でつながっているのであるから、本件明細書に云う「使用側においても現像原液さえ入手すれば所望濃度の現像液を精度よく迅速に製造することができ」(本件特許公告公報第2頁第3欄第42〜44行)るということと同じように、原液を使用側で希釈して使用するということを行っていると云える。
次に、確かに、甲1発明の「半導体素子製造において極めて広く使われているエッチングやウエハ表面洗浄などの湿式処理工程の処理槽」が、本件発明の「ホトレジストを用いて微細加工を行う加工用設備」と重複するとは直ちに云うことはできない。 しかしながら、甲1発明の半導体素子製造における湿式処理工程として具体的に例示されている「エッチング」や「ウエハ表面洗浄」と、本件発明の「ホトレジストを用いて微細加工を行う」とは、本件発明の「ホトレジストを用いて微細加工を行う」が、具体的には「本発明は半導体製造工程などでポジレジストを現像する」(本件特許公告公報第1頁第2欄第4〜5行)と半導体製造工程で現像液を使用するものであるから、両者は、半導体ウエハに液体で働きかける半導体素子製造工程のうちの一工程であるという点で共通性がある。 加えて、ウエハ洗浄液、エッチング液もそれなりの成分濃度の精度が要求されているから(被請求人提出平成17年10月6日付け口頭審理陳述要領書第5頁第23行〜第6頁第3行)、ホトレジスト現像液、ウエハ洗浄液、エッチング液の技術とも、半導体素子製造工程のうちの一工程として半導体ウエハに働きかける液体の濃度の管理の必要性という点でも共通している。
さらに、本件発明の「アルカリ系現像原液」にはきわめてありふれたアルカリである「カ性ソーダ」(本件特許公告公報第2頁第3欄第3行)が含まれており、その場合、NaOHの溶液の濃度と導電率の関係から濃度が測定できることは周知の事項であるから(甲第5号証第480頁 図6.87、甲第6号証第50頁 図3.3)、アルカリ系現像原液の希釈にあたって濃度管理に導電率測定手段を採用することも当業者にとって極自然のことと云え、アルカリ系現像原液の取り扱いを、ウエハ洗浄液、エッチング液と同じようにすることに対してのいわゆる阻害要件は見あたらない。
これらのことから、当業者が、甲第1号証に開示されている湿式処理工程における技術思想を、本件発明の「ホトレジストを用いて微細加工を行う加工用設備」に転用し、ホトレジスト用アルカリ系現像原液を使用側で希釈して使用することは当業者なら誰しも推考し得るものであると云える。
したがって、上記相違点(イ)の構成は、当業者が容易に想到し得るものである。

なお、被請求人は、平成17年10月6日付け口頭審理陳述要領書で概略次のとおり主張している。
(あ)ホトレジスト現像液に関する技術文献は多数存在し、それらの全部をあげるまでもなく、ホトレジスト現像液が一つの技術分野を形成していることは明らかである。ホトレジスト現像液の半導体素子のパターン幅の変化に対する露光均一性、ホトレジストの膜厚の変化に対する露光均一性、低コントラストの露光に対する露光選択性、レジストパターンの側面形状のシャープ性等の種々の性能は、いずれもホトレジスト現像液の微少な濃度の変化によって大きく左右される。ウエハ洗浄液は、ウエハを洗浄するのに十分な濃度があれば足りる。ウェハの洗浄液に含まれる成分濃度の精度は小数点以下1桁の粗さしか要求されない。また、エッチング液も露出したメタルを溶解させるのに十分な濃度があれば足りる。エッチング液中の薬液の濃度も精度が小数点以下1桁の粗さしか要求されない。これに対して、代表的なホトレジスト現像液であるテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)現像液の濃度管理は、通常、小数点以下3桁、すなわち2.380±0.005%レベルの精度で管理することが要求される。このように、ウエハ洗浄液やエッチング液は、微細な濃度の管理を要求されず、ホトレジスト現像液とまったく要求が異なる技術である。
(い)本件発明は、発明者の洞察と実験によって、当業者の常識や推察に反する(i)現像液の濡れ性を向上させるために通常加えられる添加剤は溶液中では電離しない、(ii)ホトレジスト現像液の溶媒(水)の中に溶液の導電率に影響を与えるイオンがほとんど存在しない、(iii)ホトレジスト現像液の実用の濃度帯域では、現像液の濃度と導電率の間に線形の関係があり、導電率から現像液の濃度を容易に算出することができる、(iv)ホトレジスト現像液の濃度測定の温度帯域では、現像液の濃度と導電率の間に線形の関係があり、導電率から現像液の濃度を容易に算出することができる、の各点が組み合わされて、ホトレジスト現像液の濃度管理に導電率測定手段を適用することができるという知見を得て、該知見を基に考案されたものである。
(う)ホトレジスト現像液の濃度は、ホトレジスト現像液の加工性能と緊密に関係し、わずかな濃度の誤差によって所望の加工性能を得られないことが知られていた。このため、ホトレジスト現像液の濃度測定については、信頼性が高いと考えられていた中和滴定の方法が一般に採用されていた。従来の中和滴定の方法では、ホトレジストの溶解に寄与する有効成分であるTMAHと、ホトレジストの溶解に寄与しない{(CH3)4N}2CO3 の濃度の総和が、TMAHの濃度として計測されていた問題があった。一定濃度の炭酸ガスを吸収したTMAH現像液は、中和滴定による見かけ上のTMAHの濃度より、ホトレジスト現像のための有効成分が少ないTMAH現像液となる。つまり、中和滴定によって測定された濃度では、TMAH現像液の真の性能を左右する有効成分((CH3)4NOH)の濃度が分からなかった。導電率測定手段を採用すれば、炭酸ガスを吸収しやすい性質を有するTMAH現像液に対して、たとえ炭酸ガスを吸収した状態でも、ホトレジストの溶解に寄与する有効成分である(CH3)4NOH(TMAH)のみの濃度を測定できる、という特有の効果を有する。なお、上記効果は、TMAH現像液において特に顕著であるが、他のホトレジスト現像液についても、TMAH現像液ほどではないが、中和滴定法よりも有効成分の濃度に近い値を示すことができる。

以下、順次検討する。
上記(あ)について検討すると、被請求人はホトレジスト現像液の微細な濃度の管理の必要性からウエハ洗浄液やエッチング液とは要求が異なる技術であると主張し、代表的なホトレジスト現像液すなわちTMAHは小数点以下3桁の濃度管理が必要である旨主張しているが、本件特許請求の範囲には「アルカリ系現像原液」と記載されているだけであり、明細書中には「ポジレジストの現像液材料としてはリン酸ソーダ、カ性ソーダ、ケイ酸ソーダ、またはその他の無機アルカリ等との混合物から成る無機アルカリ水溶液や、アルカリメタルの汚染が心配される場合にはメタルを含まないアミン系の有機アルカリ水溶液、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液、トリメチルモノエタノールアンモニウムハイドロオキサイド(コリン)水溶液等が用いられる。」(本件特許公告公報第2頁第3欄第2行〜9行)と明記されているとおり、本件発明の「アルカリ系現像原液」はTMAHに限られているわけではない。
加えて、被請求人が平成17年10月6日付け口頭審理陳述要領書で挙げた周知技術(特開昭62-32451号公報第1表、特開昭62-32452号公報第1表)の中には、濃度がTMAHは2.38%とされているが、コリンは4.2%であることからも明かなとおり、本件明細書に例示されたアルカリ系現像原液全ての希釈において小数点以下3桁の濃度管理が必要であるということはできない。
以上のとおり、本件発明のアルカリ系現像原液の希釈において小数点以下3桁の濃度管理が必ず必要であると云うことはできないから、ホトレジスト現像液は、微細な濃度の管理の必要性からウエハ洗浄液やエッチング液とは要求が異なる技術であると云うことはできない。

次に上記(い)について検討すると、先ず、被請求人が主張する(i)現像液の濡れ性を向上させるために通常加えられる添加剤は溶液中では電離しないという点について検討すると、そもそも、本件発明において添加剤については、特許請求の範囲には記載されていないし、明細書中にも「また、必要に応じて添加される各種添加剤の量も現像原液の量に比べて無視できる程度に少ないので、現像液の濃度と導電率との関係は、純水の性状や添加剤の種類、添加量には実用上無関係に一義的に定まる。」(本件特許公告公報第3頁第6欄第21〜25行)と、必要に応じて添加される任意成分であることが記載されているだけである。したがって、添加剤の量はもともと「現像原液の量に比べて無視できる程度に少ない」のであるから、添加剤が導電率測定手段を適用する上でのいわゆる阻害要件になるということはできない。
次に(ii)ホトレジスト現像液の溶媒(水)の中に溶液の導電率に影響を与えるイオンがほとんど存在しないという点について検討すると、ホトレジスト現像液にはホトレジスト現像に役立つアルカリイオンが存在しなければならないのであって、溶媒(水)にホトレジスト現像液としての役目を混乱させるような他のイオンが存在してはいけないということは、きわめて自明のことであり、また、甲1発明においても純水を使用しているから(上記(1)(a))、溶媒(水)の中に溶液の導電率に影響を与えるイオンがほとんど存在しないということが云え、この点では本件発明と甲1発明とでは共通している。してみると、上記(ii)の知見も格別のこととは云えない。
次に(iii)ホトレジスト現像液の実用の濃度帯域では、現像液の濃度と導電率の間に線形の関係があり、導電率から現像液の濃度を容易に算出することができるという点について検討すると、一般に濃度と導電率とは濃度が低い時に線形の関係にあることは周知の事項である(甲第6号証第50頁第3〜4行「低濃度においてはいずれも導電率が濃度に対して比例して増加しているが、」の記載、図3.3参照)。
そして、ホトレジスト現像液の実用の濃度帯域は低濃度と云えるから、現像液の濃度と導電率の間に線形の関係があることは明かである。したがって、この点も新たな知見というわけではない。
次に(iv)ホトレジスト現像液の濃度測定の温度帯域では、現像液の濃度と導電率の間に線形の関係があり、導電率から現像液の濃度を容易に算出することができるという点を検討すると、例えば、甲第5号証の「溶液の濃度と導電率の関係」を表した図6.87(第480頁)の液温が18℃であることや、甲第6号証の「表3.1に各種の水溶液の18℃における各濃度の導電率とその温度係数を示した」(第50頁第14〜15行)という記載などから知られる導電率測定における温度帯域は、ホトレジスト現像液の関与する温度帯域とかけはなれてはいない。したがって、この点も新たな知見というわけではない。
以上のとおり、上記(i)〜(iv)も当業者の常識や推察に反する知見というほどのことではない。

次に上記(う)について検討すると、被請求人の主張は、従来の中和滴定では、ホトレジストの溶解に寄与する有効成分であるTMAHと、ホトレジストの溶解に寄与しない{(CH3)4N}2CO3 の濃度の総和が、TMAHの濃度として計測されていたということを前提としているが、上記(あ)についての検討で述べたとおり、本件発明では現像原液を「アルカリ系現像原液」としており、TMAHに限定されているわけではない。加えて、被請求人の主張においても、TMAHの場合に顕著に効果が奏されるが、K-OHの場合はTMAHの場合より測定される有効成分の濃度は正確さに欠けるのであるから(被請求人提出平成17年10月6日付け口頭審理陳述要領書第11頁第11行)、本件明細書に例示されるアルカリ系現像原液の全ての場合において、TMAHほど有効成分が正確に測定できると云うことはできない。
また、請求人が平成17年10月6日付け口頭審理陳述要領書において、参考資料1(平野四蔵編著「化学分析法ハンドブック」産業図書格式会社 第84〜85頁 (昭和36年9月15日))を提示して主張しているとおり、アルカリの中和滴定において炭酸塩を区別して中和滴定することも可能であるから、従来、現像液の中和滴定において炭酸塩を区別する中和滴定を行っていなかったと断定することはできない。
以上のことから、被請求人の上記(あ)〜(う)の主張は採用することができない。

次に上記相違点(ロ)について検討する。
一般に、異なる液体を混合する際に、混合手段を連設した方が混合を確実に行えることは当業者が自然に想到することであるから、混合手段と、混合手段として周知の攪拌槽(甲第4号証参照)とを連設することは格別な創意力を要することとは認められない。
なお、被請求人は、平成17年10月6日付け口頭審理陳述要領書において、「本件特許発明の混合手段は、攪拌槽と貯留槽とともに小数点以下3桁のオーダーで濃度管理を行うホトレジスト現像液の希釈装置においては、現像液濃度のハンチングの平準化という面から重要な意義を有している。」と主張しているが、この主張は上記(あ)についての検討で述べたとおり、アルカリ系現像原液として、TMAHを採用した場合に成り立つ主張であり採用することはできない。
次に上記相違点(ハ)について検討する。
導電率を測定する際に、導電率が温度に影響されること(上記(6)(b))や、そのため溶液の温度特性に合わせた補償回路を設けて、基準温度に換算した導電率を出力すること(上記(5)(b))は、甲第5、6号証に明らかである。
したがって、相違点(ハ)の構成は、当業者が容易に想到し得るものである。

次に上記相違点(ニ)について検討する。
確かに、甲1発明には、「貯留槽」が開示されていない。しかしながら、薬液を希釈した後、貯蔵しておく希釈薬液貯蔵タンクを設けることは本件出願前周知の事項であるから(甲第3号証参照)、本件発明の相違点(ニ)の構成は、格別のこととは認められない。

以上のとおりであるから、本件発明は、甲1、3〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5.むすび
したがって、本件特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされてものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-10-13 
結審通知日 2005-10-18 
審決日 2005-10-31 
出願番号 特願昭62-30037
審決分類 P 1 113・ 121- Z (B01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石橋 和美  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 大黒 浩之
野田 直人
登録日 1996-09-18 
登録番号 特許第2090366号(P2090366)
発明の名称 現像原液の希釈装置  
代理人 吉武 賢次  
代理人 西尾 務  
代理人 吉武 賢次  
代理人 宮嶋 学  
代理人 永井 浩之  
代理人 吉武 賢次  
代理人 宮嶋 学  
代理人 宮嶋 学  
代理人 廣江 武典  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 岡田 淳平  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 岡田 淳平  
代理人 岡田 淳平  
代理人 永井 浩之  
代理人 永井 浩之  
代理人 勝沼 宏仁  

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