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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B42D
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B42D
管理番号 1144162
審判番号 不服2003-16008  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-08-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-20 
確定日 2006-09-21 
事件の表示 特願2000- 23854「パスポート」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月 7日出願公開、特開2001-213072〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年2月1日の出願であって、平成15年7月17日付で拒絶査定がなされ、同年8月20日付で拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成15年9月19日付で明細書についての手続補正がなされた。
これに対し、当審にて平成18年4月14日付で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知し、それに対し平成18年6月19日付で明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本願発明の認定

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、

「中央折線において二つ折りされたカバーシートと、中央折線において二つ折りされたビザシートと、両シートの略2分の1の大きさを有し且つその前小口と反対側の端縁に上記中央折線を越えて張り出された綴じ代を夫々有する透視可能なフェイスフィルム及びバックフィルムとを丁合し、該フェイスフィルム及びバックフィルムの綴じ代と上記カバーシートとビザシートとを上記中央折線に沿って綴じ糸により糸綴じして成るバージンパスポートと、入出国者本人の個人情報を記録した個人データカードとから成り、上記フェイスフィルムとバックフィルム間に上記個人データカードを挿入して該個人データカードの個人情報記録頁に上記フェイスフィルムを熱接着して貼り合わせると共に、同個人データカードの個人情報記録頁とは反対側の頁に上記バックフィルムを熱接着して貼り合わせ、更に上記個人データカードの後小口から張り出す上記フェイスフィルムとバックフィルムの上記糸綴じされた綴じ代を互いに熱接着し貼り合わせて貼り合わせ綴じ代を形成し、上記綴じ糸が該貼り合わせ綴じ代を貫いて上記糸綴じがなされた構成を有することを特徴とするパスポート。」

から

「中央折線において二つ折りされたカバーシートと、中央折線において二つ折りされたビザシートと、両シートの略2分の1の大きさを有し且つその前小口と反対側の端縁に上記中央折線を越えて張り出された綴じ代を夫々有する透視可能なフェイスフィルム及びバックフィルムを丁合し、該フェイスフィルム及びバックフィルムの綴じ代と上記カバーシートとビザシートとを上記中央折線に沿って綴じ糸により糸綴じして成るバージンパスポートと、入出国者本人の個人情報を記録した個人データカードとから成り、上記フェイスフィルムとバックフィルム間に上記個人データカードを挿入して該個人データカードの個人情報記録頁に上記フェイスフィルムを熱接着して貼り合わせると共に、同個人データカードの個人情報記録頁とは反対側の頁に上記バックフィルムを熱接着して貼り合わせ、更に上記個人データカードの後小口から張り出す上記フェイスフィルムとバックフィルムの上記糸綴じされた綴じ代を互いに熱接着し貼り合わせて貼り合わせ綴じ代を形成し、上記綴じ糸が該貼り合わせ綴じ代を貫いて上記糸綴じがなされた構成を有することを特徴とするパスポート。」

と補正された。
本件補正は、補正前の「フェイスフィルム及びバックフィルムとを丁合し」を「フェイスフィルム及びバックフィルムを丁合し」と補正する事項(以下、「本件補正事項」という。)を含むものである。

本件補正事項に関連して、請求人は平成18年6月19日付意見書中で補正の適法性について、

「「フェイスフィルム及びバックフィルムとを丁合し」は、正しくは「フェイスフィルム及びバックフィルムを丁合し」であるのでそのように補正し、明瞭でない記載の釈明を行ったものであり、実質的な構成は同じであります。」

と主張している。
しかしながら、補正前の請求項1について、明りょうでない記載についての拒絶理由は通知されていないことから、本件補正事項が請求人のいう「明瞭でない記載の釈明」であるとしても、特許法第17条の2第4項第4号に規定される「明りようでない記載の釈明」を目的としたものとはいえないこととなる。
また、前記主張の他に補正前の請求項1がどのように明りようでない記載であったのかは記載されていない。
本件補正事項は、「カバーシート」,「ビザシート」,「フェイスフィルム」及び「バックフィルム」を列挙の際に用いる最後の助詞「と」を省くものである。広辞苑第5版では助詞「と」の説明として「対等の資格の物事を列挙する。ただし、最後の「と」は省くことが多い。」と記載されている。このことからして、本件補正事項がその意味において請求項1の発明特定事項を実質的に変更するものでないことは明らかである。
よって、本件補正事項は明らかな誤記の訂正を目的としたものであるとも言えないが、本件補正事項により請求項1の発明特定事項を実質的に変更するものではないことに鑑み、本件補正事項はその目的を、特許法第17条の2第4項第3号の「誤記の訂正」と善解して補正却下をすることはしない。

したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。

第3 引用例
当審拒絶理由に引用された、特開2000-6558号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「上下に対向して配置されたヒートプレス盤と受圧盤とを備え、該ヒートプレス盤と受圧盤の対向面間に延在する上ベルトと下ベルトを備え、身分証明用冊子を上下ベルトの対向面間に介入しつつ間欠移送する冊子移送手段を備え、該冊子移送手段による身分証明用冊子の移送停止時に上記上下ベルトと該上下ベルト間に介在せる身分証明用冊子とを上記ヒートプレス盤と受圧盤の対向面間に一緒に加圧挟持しつつ加熱して上記身分証明用冊子に綴じ込まれている保護フィルムを該身分証明用冊子の個人データ記録面に熱接着することを特徴とする身分証明用冊子の個人データ記録面に保護フィルムを貼付する装置。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)

(イ)「身分証明用冊子、例えばパスポートは図1Bに示すように、データシート1、ビザシート2、表紙3等が丁合され、その中央折り線にてミシン綴じされている。4はミシン綴じ部を示す。上記データシート1の表面には個人データが記録され、該個人データ記録面5は熱可塑性の合成樹脂製保護フィルム6が貼布され、上記個人データ記録面5を閉鎖して偽造防止が図られている。
図1Aに示すように、バージン身分証明用冊子における上記保護フィルム6はその一端縁に連設した綴じ代8を以て上記データシート1、ビザシート2、表紙3等と共にミシン綴じ部4により綴じ込まれているが、上記データシート1には接着せずに同データシートへの個人データの記録を可能にしている。
そして該保護フィルム6はデータシート1への個人データの記録後、該個人データ記録面5へ重ねられて熱接着される。
上記保護フィルム6は上記個人データ記録面5(個人データ記録頁)の全面を覆って熱接着されているが、その綴じ代8はミシン綴じ部4から反対側へ遊離し張り出している。」(公報段落【0002】〜【0005】)

(ウ)「上記ヒートプレス盤は上ベルトを介して身分証明用冊子の全表面を加熱する熱盤を構成しており、上記受圧盤は下ベルトを介して身分証明用冊子の背に隣接する表面部分を加熱する熱盤を有している。即ちヒートプレス盤は主として身分証明用冊子の表表紙又は裏表紙に近い保護フィルムの全体を加熱し、上記受圧盤に付設した熱盤は上記身分証明用冊子の裏表紙又は表表紙に近い保護フィルムの綴じ代の全体を加熱する機能を有する。これによって保護フィルムはミシン綴じ部を含む綴じ代がデータシートののど部領域に確実に熱接着される。」(公報段落番号【0026】)

(エ)「上記のように身分証明用冊子11は閉本状態において熱プレスが与えられ、保護フィルム6は上ベルト14及び裏表紙19又は表表紙18を介してのヒートプレス盤12からの伝導熱により加熱され、個人データ記録面5に熱接着されて同記録面5を隠蔽する。個人データは透明又は半透明の保護フィルム6を通して透視される。」(公報段落【0031】)

(オ)「従ってこの綴じ代加熱用熱盤37はヒートプレス盤12の一部分と対向し、身分証明用冊子11のミシン綴じ部4に沿う領域、即ち綴じ代8の延在領域を身分証明用冊子11の上下から挟持し熱プレスを施す。よって図2A,Bに示すように、保護フィルム6はデータシート1のデータ記録面5の全表面に熱接着され、同時に同フィルム6の綴じ代8はミシン綴じ部4を含むデータシート1ののど部領域に亘って熱接着される。」(公報段落【0046】)

(カ)「保護フィルムは個人データ記録面5に強固に貼り合わせられると同時に、ヒートプレス盤12と綴じ代加熱用熱盤37間において綴じ代8がデータシート1ののど部に沿う領域に熱接着される。
この綴じ代加熱用熱盤37は綴じ代8の接着を確実に保証するためのものであり、この熱盤37を設けずにヒートプレス盤12の熱のみで上記綴じ代8の接着を行う場合を含む。」(公報段落番号【0085】)

(キ)また、図面第1図及び第2図によれば表紙3、ビザシート2及びデータシート1がミシン綴じ部4で二つ折りされて、表紙、ビザシートの略2分の1の大きさの保護フィルム6がその綴じ代8とともにミシン綴じ部で綴じられていること、また綴じ代8は前小口とは反対側の端縁(後小口)にミシン綴じ部4を越えて張り出されていることが看取される。

よって、引用例1の記載(ア)〜(キ)からみて、引用例1には以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明1」という。)。

「ミシン綴じ部において二つ折りされた表紙と、ミシン綴じ部において二つ折りにされたビザシートと、ミシン綴じ部において二つ折りされた個人データの記録可能なデータシートと、表紙、ビザシートの略2分の1の大きさを有し且つその前小口と反対側の端縁に上記ミシン綴じ部を越えて張り出された綴じ代を有する保護フィルムとを丁合し、該保護フィルムの綴じ代と上記表紙とビザシートとデータシートとをミシン綴じ部に沿ってミシン綴じしてなるバージン身分証明書用冊子と、データシートの個人データ記録面へ保護フィルムを重ねて個人データ記録面の全面を覆って熱接着して貼り合わされる身分証明書用冊子。」

当審拒絶理由に引用された、特開平2-164595号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ク)「1)複数のシートを含む、例えばパスポートなどのような本型の識別用文書の製造方法であって、前記複数のシートのうち、少くとも1つのデータシートが、例えば前記文書所有者の名前、生年月日等の個人データを載せており、そしてそのデータシートが少くとも1つの側を透明プラスチックフィルムで被覆された紙またはプラスチックの不透明シートから構成される前記製造方法において、データシートに透明プラスチックフィルムを施す第1の工程と、
前記データシートを他のシートと共に本型のユニットへと綴じ、そしてレーザービームを用いて個人データをデータシートに載せ、それによって少くとも紙またはプラスチックの透明シートを視覚的に認識できる様式で局部的に変色させる第2の工程のみから成ることを特徴とする製造方法。
2)個人データを載せる前に綴じることを行うことを特徴とする請求項1記載の製造方法。」(公報第1頁特許請求の範囲、請求項1及び2)

(ケ)「第1図は、前面カバー2aおよび後面カバー2bを有するプラスチックまたは布のカバー、両側をプラスチックフィルムで被覆された第1のデータシート3,第2のデータシート4,第3のデータシート5,および空シート6を含むパスポート1を示している。シート4,5および6、そして随意に他の空シート(図示しておらず)は、後の記入(更新、ビザ等)を可能ならしめる表面品質を有する紙または異なる材料から作られていることが好ましい。シート4は、前面(第1図ではかくれている)に、パスポート所有者の住所、身長、目の色についての情報、および随意にパスポート所有者に関する他の情報を含んでいる。一方、データシート4の後面にはパスポート所有者の子供についての情報が載せられている。データシート4の下端にはパンチングされたパスポート番号が記載されている。
第2図に断面図で示されているデータシート3は、保証プリントおよび透かしを備えたペーパーインレー(paper inlay)3dを間にはさんだ2つの透明プラスチックフィルム3aおよび3bを含んでいる。これら2つのプラスチックフィルム3aおよび3bの端は3eで結合されている。データシート3の上面にはエンボスされたパターン3cがある。第1図ではかくれているデータシート3の前面にはパスポート番号および発行国名がプリントされている。第1図からわかるように、積層データシート3の後面は外側端部に機械読み可能なデータラインのために確保されている平滑表面領域30を含んでいる。このデータ場に書込みがなされる際には、データシート、すなわち紙およびプラスチック層内の変色(discoloration)のみが生じ、外側のプラスチック表面は損傷されずに平滑のままであるようにレーザービームの強度および随意に他のパラメータ(走査速度等)が制御される。そのとなりには、偽造に対する保護が増すよう機能する表面レリーフ31を有する領域がある。左側上部コーナー(“上部”は本の形をしたパスポートの背の部分を意味する)には、これもレーザーで施されたパスポート所有者の写真33がある。スポート所有者の名前の下に生年月日および出生地が35および36に記載される。その下は、積層データシート3上にある所有者に関する他の全てのデータと同様にレーザービームによってペーパーインレー3dに焼き付けられた(ドイツ特許第2907004 号)パスポート所有者のサインを載せる領域37である。データシートのフォーマットは、パスポートのサイズをわずかに越え、よってパスポートの端で再現する端部領域38を形成するようにパスポートに綴じられるように選択される。」(公報第4頁左下欄第19行目〜第5頁右上欄第10行目)

当審拒絶理由に引用された、特開平1-301293号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(コ)「この発明は、IDカード及びこのIDカードを有するID冊子に係り、詳しくは、社員証、学生証等の個人の身分を証明するのに用いられるいわゆるIDカード及びこのIDカードを有するID冊子に関する。」(公報第1頁右下欄第19行目〜同左下欄第2行目)

(サ)「第4図はID冊子の出来上がり図の例であり、ID冊子は筆記可能な複数の頁からなる冊子部50と個人情報が記録されたIDカード部51から構成される。IDカード部51には個人の顔写真60や氏名、生年月日、住所、所属等の共通の事項70が適宜記載されている。第5図はID冊子を作成する状態を示す図であり、ID冊子の外装52は例えば容易に破損することがないプラスチックフィルムシート等で形成されている。このプラスチックフィルムシートを折り返して、一方が冊子部50の外装で、他方がIDカード部51の外装となっている。この冊子部50には鉛筆やペン等で筆記可能な頁を有する複数の頁53が設けられているが、この筆記可能な頁は特に設けなくてもよい。IDカード部51は冊子の外装を構成する部位80、画像記録された画像記録体90よりなっている。」(公報第5頁左下欄第11行目〜同右下欄第7行目)

(シ)「この面像記録体90は耐熱性支持体91と画像記録層92からなり、その画像記録層92と熱可塑性フィルム82が溶着され、この溶着される部分は前記したIDカードの実施例と同様で、この例ではIDカードの周辺に溶着部100が設けられ、さらに顔写真に割印に変えて溶着部101が設けられている。この場合、熱可塑性フィルム82と画像記録層92の全面が溶着されていることもできる。第6図はID冊子を作成する状態を示す他の実施例の図である。ID冊子の冊子部50の内側に形成される一頁部分の綴部から熱可塑性フィルム95が内側から余分に出ている。そして、画像記録体90は紙基材88上に設けられたホットメルト層89上に重ね合わせられた後、加熱処理される。次いで、熱可塑性フィルム95を、熱可塑性樹脂からなる画像記録層92と重ね合わせた後、この重ね合わせた部分をヒートシール等による溶着を行なって、この発明のID冊子を得る。」(公報第6頁左上欄第1〜20行目)

第4 対比

そこで、本願発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1においては、表紙、ビザシート及びデータシートはミシン綴じ部にて二つ折りされているが、該ミシン綴じ部が中央折り線部に当たっていることは明らかである。
また、引用発明1の「表紙」及び「保護フィルム」は、本願発明の「カバーシート」,「フェイスフィルム」にそれぞれ相当し、引用発明1の「データシート」は、本願発明の「個人データカード」にその機能の限度において相当する。
さらに、引用例1の記載事項(イ)には「身分証明用冊子、例えばパスポート」とあることから、引用発明1の身分証明用冊子はパスポートを包含している。そして、身分証明用冊子がパスポートであるなら、引用発明1の個人データは入出国者本人の個人情報であることも自明である。

してみれば両者は、

「中央折線において二つ折りされたカバーシートと、中央折線において二つ折りされたビザシートと、両シートの略2分の1の大きさを有し且つその前小口と反対側の端縁に上記中央折線を越えて張り出された綴じ代を有する透視可能なフェイスフィルムを丁合し、フェイスフィルムの綴じ代と上記カバーシートとビザシートとを上記中央折線に沿って綴じてなるバージンパスポートと、入出国者本人の個人情報を記録した個人データカードとからなり、個人データカードの個人情報記録頁に上記フェイスフィルムを熱接着して貼り合わせるパスポート。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点a]
本願発明では、フェイスフィルムとバックフィルムを有し、個人データカードの個人情報記録頁にフェイスフィルムを熱接着して貼り合わせると共に、個人データカードの個人情報記録頁とは反対側の頁にバックフィルムを熱接着して貼り合わせているのに対し、引用発明1では、個人データカードの個人情報記録頁にフェイスフィルムを熱接着して貼り合わせているのみで、バックフィルムは有していない点。

[相違点b]
本願発明では、個人データカードをバージンパスポートのフェイスフィルムとバックフィルムの間に挿入しているのに対し、引用発明1では、個人データカードに相当するデータシートはバージンパスポートにミシン綴じされている点。

[相違点c]
本願発明では、個人データカードの後小口から張り出す上記フェイスフィルムとバックフィルムの上記糸綴じされた綴じ代を互いに熱接着し貼り合わせて貼り合わせ綴じ代を形成し、上記綴じ糸が該貼り合わせ綴じ代を貫いて上記糸綴じがなされていると特定されているのに対し、引用発明1では、当該特定を有するか定かでない点。

第5 判断

[相違点a]について

引用例2の記載事項によれば引用発明1と同様、パスポートのデータシートに関するものであり、同一の技術分野に属することは明らかである。
そして、引用例2の記載事項(ケ)によれば、パスポートの所有者の情報が記録されるデータシート3としてペーパーインレー3dを間にはさんだ2つ透明プラスチックフィルム3aおよび3bが記載され、このデータシート3が綴じ代に相当する端部領域38を有していてパスポートに綴じられていることが記載されている。
ここで、データシート3の両面が透明プラスチックフィルムではさまれている理由は明記されていないが、引用例2の記載事項(ケ)の「第1図ではかくれているデータシート3の前面にはパスポート番号および発行国名がプリントされている。」との記載を考慮すれば、データシート3の両面に情報が記録され得ることが読み取れる。
そして、データシート3の表面を透明プラスチックフィルムで覆っているのは、偽造等から保護するためであることは明らかであるので、引用発明1において両面に情報を記録する等の必要があれば、フェイスフィルムのみならずバックフィルムを設けて、データシートの両面を保護するように構成することは当業者ならば容易になし得るものである。

[相違点b]について

引用例3の記載事項(サ)(シ)には、個人の情報が記録された画像記録体90を熱可塑性フィルム95と紙基材88上のホットメルト層89との間に挿入する技術が記載されている。
引用例3において画像記録体が挿入されるのはバージンパスポートではなく、社員証、学生証等の個人の身分を証明するのに用いられる予め用意されたID冊子である点で一応の差異がある。
しかしながら、パスポートにしてもID冊子にしても、個人の身分を証明する冊子である点に変わりがなく、両者の類似性からすればID冊子に関する技術をパスポートに適用することは当業者にとり容易の範疇である。
よって、引用発明1において、個人データカードをバージンパスポートに挿入するように構成することは容易になし得るものである。
引用例3に記載のID冊子は、個人データカードを熱可塑性フィルム95(その機能からして透明であることは自明である)と紙基材88(紙基材88は図面6図より最外装と一体となっていることが看取される)の間に挿入する構成をとっている。
該引用例3に記載の技術事項を引用発明1に適用した場合、引用例3記載の熱可塑性フィルム95は、その機能から本願発明のフェイスフィルムに相当することが明らかであり、引用例3記載の紙基材66(若しくはそれと一体化した最外装)は引用発明1の二つ折りされた表紙が相当すると見ることもできる。
しかしながら、前記[相違点a]で検討したごとく、個人データカードの両面の情報を保護するためにフェイスフィルムのみならずバックフィルムを設けるのであれば、個人データカードを挿入するに際し、引用発明1においてフェイスフィルムだけでなく反対側から挟むバックフィルムも必要である。
そして、個人データカードを挿入することは、その両面を挟み込む対象がバージンパスポートと一体化していることが前提となる(挟み込む対象がバージンパスポートと分離していれば、挿入する形態にはならない。)。
してみれば、フェイスフィルム、バックフィルムのいずれもが、バージンパスポートに一体に綴じられているように構成することも当業者ならば容易になし得るものである。

[相違点c]について

引用発明1においてバージンパスポートはミシン綴じされている。
このミシン綴じについて、引用例1には具体的説明をする記載はない。
しかしながら、例えば日本印刷学会編、印刷工学便覧、技報堂出版株式会社発行、1983年7月20日、第1版第2刷発行、第787頁には「(5)ミシン綴じ 中綴じの針金の代わりに糸で本の天地を連続して綴じる方式で,工業用ミシンが用いられる.」と記載され、また、特開平11-221978号公報段落番号【0011】には「ミシンユニット部30は、中綴じの針金の代わりに糸で刷本Bの背部をミシン綴じ(糸綴じ)するものである。」と記載される。
これらによれば、ミシン綴じとは糸綴じで特にミシンを用いたものを意図した表現であり、引用発明1におけるミシン綴じも綴じられた形としては糸綴じの形態をとっていると解釈することが自然である。
また、引用例1の記載事項(ウ)には「身分証明用冊子の裏表紙又は表表紙に近い保護フィルムの綴じ代の全体を加熱する機能を有する。これによって保護フィルムはミシン綴じ部を含む綴じ代がデータシートののど部領域に確実に熱接着される。」と記載され、同記載事項(オ)には「保護フィルム6はデータシート1のデータ記録面5の全表面に熱接着され、同時に同フィルム6の綴じ代8はミシン綴じ部4を含むデータシート1ののど部領域に亘って熱接着される。」と記載されている。
該記載事項によれば、保護フィルム6がデータシート1に熱接着されるのはミシン綴じが完了しているバージンパスポートであるから、それと同時に行われる綴じ代の熱接着はミシン綴じにより糸綴じされた綴じ代が形成されてから行われていると解される。
また、本願発明ではフェイスフィルムとバックフィルムが貼り合わされて貼り合わせ綴じ代を形成しているので、これについて検討する。
引用例2の記載事項(ケ)の「データシートのフォーマットは、パスポートのサイズをわずかに越え、よってパスポートの端で再現する端部領域38を形成するようにパスポートに綴じられるように選択される。」との記載と図面第1図を参照すると、データシート3の端部が綴じ代として端部領域38が形成されていることが看取される。
また、同(ケ)の「これら2つのプラスチックフィルム3aおよび3bの端は3eで結合されている。」との記載をあわせて考慮するとプラスチックフィルム3a,3bの結合された部分(の少なくとも一部)が綴じ代として利用されていると解釈するのが自然である。
該記載事項によれば、二つのプラスチックフィルムすなわちプラスチックフィルム3a,3bの結合部を綴じ代として利用し得ることが理解される。
さらに既に検討したごとく、引用発明1においてフェイスフィルムの糸綴じ(ミシン綴じ)された綴じ代が熱接着されていることも考慮すると、引用発明1においてフェイスフィルムのみならず、バックフィルムも用いて熱接着し貼り合わせ綴じ代を形成し、綴じ糸が綴じ代を貫いて糸綴じされた構成とすることは当業者ならば容易になし得るものである。

また、本願発明の効果も、引用発明1及び引用例2,3記載の技術事項の効果から容易に予測できる範囲内のもである。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用例2,3記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
 
審理終結日 2006-07-12 
結審通知日 2006-07-18 
審決日 2006-07-31 
出願番号 特願2000-23854(P2000-23854)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B42D)
P 1 8・ 573- WZ (B42D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 聡子  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 島▲崎▼ 純一
藤井 靖子
発明の名称 パスポート  
代理人 中畑 孝  

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