• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B21D
管理番号 1144266
審判番号 不服2004-13619  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-09-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-01 
確定日 2006-10-16 
事件の表示 特願2001- 71443「鋼板用クリーナ装置及び異物除去方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月17日出願公開、特開2002-263758、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本件出願は、平成13年3月14日の出願であって、本件出願の請求項1乃至2に係る発明(以下、「本件発明1」乃至「本件発明2」という。)は、平成16年7月1日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

「【請求項1】鋼板4を鋼板プレス機3にて成型を行う鋼板プレスラインに設置される鋼板用クリーナ装置に於いて、油分Gを含む塵Dが付着した鋼板4表面から油分Gを除去するための上流側の吸引ロール装置1と、油分Gが除去され塵Dのみが残った鋼板4表面から塵Dを除去するための下流側の吸塵装置2とが、上記鋼板プレス機3への送り手前側に設けられた一続きのコンベヤー5に沿って連続して配置され、水洗浄を行わないドライクリーニング式とされ、
上記吸引ロール装置1は、管壁に油分吸引口13となる貫通孔が複数設けられた中空の回転軸12と、該回転軸12に外嵌固着される油吸着体からなり上記コンベヤー5上を移動する鋼板4に押圧するよう配置される油分吸着ロール11と、を備え、また、該回転軸12の内空部と連結されて該油分吸着ロール11に吸着し浸透した油分Gを、該回転軸12の該油分吸引口13を通じて該回転軸12内部に吸引しさらに該回転軸12から吸い出す真空ポンプPを備え、
上記吸塵装置2は、上記鋼板4に接近した位置にて開口するエア吸入口17を有するエア吸入室18と、上記コンベヤー5上を移動する該鋼板4に摺接するよう該エア吸入室18の内部に配設される回転ブラシロール19と、該回転ブラシロール19に当接して該回転ブラシロール19に付着した塵Dを吸い込み除去するノズル20と、を備えたことを特徴とする鋼板用クリーナ装置。
【請求項2】鋼板表面に付着した油分Gを含む塵Dの除去に於いて、鋼板プレス機3への送り手前側に設けられた一続きのコンベヤー5上にて、該鋼板表面に油分吸着ロール11を接触させて油分Gを吸着させかつ該油分吸着ロール11の中に浸透させ、さらに、該油分Gを、該油分吸着ロール11の内方に有する中空の回転軸12の管壁に形成された油分吸引口13を通じて、外気圧に対して負圧状態の該回転軸12の内部へ吸引しさらに該回転軸12から吸い出して、先に油分Gを除去し、
その後、上記コンベヤー5上にて連続して、エア吸入口17を有するエア吸入室18の内部に配設される回転ブラシロール19により上記鋼板4の表面に残留する塵Dを掃き取ると共に該エア吸入室18のエアを吸引して該塵Dを吸い込み、さらに、該回転ブラシロール19に付着する塵Dを該回転ブラシロール19に当接するノズル20にて吸い込み、鋼板4の表面に残留する塵Dを吸引除去し、水洗浄を行わないドライクリーニング式として除去することを特徴とする鋼板用異物除去方法。」

なお、請求項1の第3段落における「吸入室18」は、「エア吸入室18」の誤記と認められるので、上記のように認定した。

2.引用刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平6-91327号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。

(イ)【請求項1】
「プレス加工を行うために予め所定形状に切断された切板ワークの表面に付着している異物を該プレス加工に先立って取り除くための清浄装置であって、
前記切板ワークを1枚ずつ連続的に搬送する搬送装置と、
前記切板ワークの搬送方向における上流側部分に配設され、該切板ワークの表面に押圧されつつ該切板ワークの移動に伴って回転させられることにより、該切板ワークの表面に付着している油分を吸着除去するオイルカットロールと、
前記切板ワークの搬送方向において前記オイルカットロールよりも下流側に配設され、該切板ワークの表面に押圧されつつ該切板ワークの移動に伴って回転させられることにより、該切板ワークの表面に付着している異物を粘着して除去する粘着ロールとを有することを特徴とするプレス用切板ワークの清浄装置。」

(ロ)【請求項3】
「前記切板ワークの搬送方向において前記オイルカットロールと前記粘着ロールとの間の部位に配設され、該切板ワークの表面に付着している異物を吸引して除去する吸引装置を有する請求項1または2に記載のプレス用切板ワークの清浄装置。」

(ハ)段落【0001】
「本発明は、プレス加工に先立ってプレス用切板ワークに付着している異物を取り除くための清浄装置に関するものである。」

(ニ)段落【0010】
「このように、本発明の清浄装置は粘着作用で異物を除去するものであるため、洗浄油を用いて研磨洗浄する従来装置に比較して作業環境が大幅に改善されるとともに、洗浄油の回収タンクや濾過機等が不要で装置がコンパクトとなり、据付スペースが節減される。・・・」

(ホ)段落【0036】
「・・・上記切板ワーク14は、本実施例では自動車の外板等に用いられるメッキ鋼板で、防錆用の油は塗布されていないが切断装置等の切削油が付着しており、この切削油に埃や塵,切屑等の異物が付き易いのである。・・・」

(ヘ)段落【0040】
「前記搬送装置による切板ワーク14の搬送方向において最も上流側、すなわち入口側である図1の左側に配設されたオイルカットロール34a,34bは、外周部が不織布等にて構成され、切板ワーク14の表面に押圧されつつ回転させられることにより、その切板ワーク14を搬送しつつ表面に付着している切削油を吸着して除去する。・・・」

(ト)段落【0042】
「上記クリーナーヘッド38bの開口面72には、それぞれ切板ワーク14の上面に接するようにブラシロール78およびワイパーゴム80が配設されている。ブラシロール78はナイロンブラシ等にて構成され、切板ワーク14の搬送方向において吸込口82よりも上流側部分、すなわちピンチローラ36b側の部分に回転自在に取り付けられており、切板ワーク14の移動に伴って連れ廻りさせられることにより表面に付着している異物を吸込口82側へ跳ね上げるようになっている。・・・」

(チ)段落【0060】
「・・・。オイルカットロールの芯に吸引通路を設け、不織布等に吸い取られた油をバキュームにより吸引することもできるし、オイルカットロールによる吸着除去に先立ってブロワ等で油を吹き飛ばしても良い。」

上記記載事項からみて、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「プレス加工を行うために予め所定形状に切断された切板ワークの表面に付着している異物を該プレス加工に先立って取り除くために、
前記切板ワークを1枚ずつ連続的に搬送する搬送装置と、
前記切板ワークの搬送方向における上流側部分に配設され、該切板ワークの表面に押圧されつつ該切板ワークの移動に伴って回転させられることにより、該切板ワークの表面に付着している油分を吸着除去するオイルカットロールと、
前記切板ワークの搬送方向において前記オイルカットロールよりも下流側に配設され、該切板ワークに接近した位置にて開口する開口面を有する吸込口と、該切板ワークの表面に押圧されつつ該切板ワークの移動に伴って回転させられるブラシロールとを有し、ブラシロールにより跳ね上げられた異物を吸引して除去する吸引装置とを備え、
前記切板ワークの表面にオイルカットロールを接触させて油分を吸着させて先に油分を除去し、その後、吸引装置により切板ワークの表面の異物を除去する、プレス用切板ワークの清浄装置又は清浄方法。」

3.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と刊行物1に記載の発明を対比すると、後者における「オイルカットロール」は前者における「吸引ロール装置」に相当し、以下同様に、「吸引装置」は「吸塵装置」に、「異物」は「塵」に、「ブラシロール」は「回転ブラシロール」に、「開口面」は「エア吸入口」に、「吸込口」は「エア吸入室」にそれぞれ相当する。
刊行物1に記載の発明における「切板ワーク」は、実施例としてメッキ鋼板が挙げられており(摘記事項(ホ)参照)、「鋼板」ということができるものである。
そして、刊行物1に記載の発明における「搬送装置」は、回転駆動されるピンチローラを含み、切板ワークをプレス装置へ送り出すものであるから、プレス機への送り手前側に設けられた一続きのコンベヤーをなしているということができる。
また、刊行物1に記載の発明におけるオイルカットロール及び吸引装置は、鋼板を鋼板プレス機にて成型を行う鋼板プレスラインに設置されるものであるとともに、刊行物1に記載の発明が、水洗浄を行わないドライクリーニング式として異物を除去することも明らかである。
さらに、刊行物1に記載の発明における「プレス用切板ワークの清浄装置」は「鋼板用クリーナ装置」と表現することもできるものである。
したがって、両者の一致点と相違点は次のとおりと認められる。
[一致点]
「鋼板を鋼板プレス機にて成型を行う鋼板プレスラインに設置される鋼板用クリーナ装置に於いて、油分を含む塵が付着した鋼板表面から油分を除去するための上流側の吸引ロール装置と、油分が除去され塵のみが残った鋼板表面から塵を除去するための下流側の吸塵装置とが、上記鋼板プレス機への送り手前側に設けられた一続きのコンベヤーに沿って連続して配置され、水洗浄を行わないドライクリーニング式とされ、
上記吸引ロール装置は、上記コンベヤー上を移動する鋼板に押圧されるように配置され、鋼板表面の油分を吸着除去し、
上記吸塵装置は、鋼板に接近した位置にて開口するエア吸入口を有するエア吸入室と、コンベヤー上を移動する鋼板に摺接するように配置される回転ブラシロールを有し、鋼板表面の塵を吸引除去する鋼板用クリーナ装置。」である点。
[相違点1]
本件発明1では、吸引ロール装置について、「管壁に油分吸引口となる貫通孔が複数設けられた中空の回転軸と、該回転軸に外嵌固着される油吸着体からなる吸着ロールとを備え、該回転軸の内空部と連結されて該油分吸着ロールに吸着し浸透した油分を、該回転軸の該油分吸引口を通じて該回転軸内部に吸引しさらに該回転軸から吸い出す真空ポンプとを備え」るのに対し、刊行物1に記載の発明では、当該構成について特定されていない点。
[相違点2]
本件発明1では、吸塵装置について、「エア吸入室の内部に配設される回転ブラシロールと、該回転ブラシロールに当接して該回転ブラシロールに付着した塵を吸い込み除去するノズルを備え」るのに対し、刊行物1に記載の発明では、当該構成について特定されていない点。

まず、上記相違点2について検討する。
原査定において従来周知の技術として引用された実願昭55-18319号(実開昭56-120565号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。
「画像担持体1に接近した位置にて開口するケース9と、ケース9内に配設されるブラシ12、13と、ブラシに付着したトナーを掻き落とすフリッカー板14と、掻き落とされたトナーを吸引するファン19を備えた画像担持体のクリーニング装置。」
上記刊行物2に記載された発明における「トナー」は本件発明1における「塵」に、以下同様に、「ケース」は「エア吸入室」に、「ブラシ」は「回転ブラシロール」にそれぞれ相当しており、刊行物2には、「エア吸入室内に回転ブラシロールを配設する」構成が記載されていると認められる。
しかしながら、刊行物2には、「回転ブラシロールに当接して該回転ブラシロールに付着した塵を吸い込み除去するノズル」の構成(以下「構成A」という。)が記載されていない。
当該構成Aが周知の技術手段と認めるに足る証拠はないから、刊行物1に記載された発明において、吸塵装置として刊行物2に記載された技術的事項を採用したとしても、鋼板クリーナ装置における回転ブラシロールに付着した塵をノズルにより吸い込み除去することが、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
本件発明1は、上記構成Aを具備することにより、回転ブラシロールに付着した塵を直接的に除去することができ、鋼板やブラシロールに再付着することを防ぐことができるという格別の作用効果を奏するものと認められる。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1に記載された発明及び従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

(2)本件発明2について
本件発明2と刊行物1に記載の発明とを対比すると、両者間には本件発明1について示した対応関係があり、さらに、刊行物1に記載の発明における「プレス用切板ワークの清浄方法」は「鋼板用異物除去方法」と表現することもできるから、両者の一致点と相違点は次のとおりと認められる。
[一致点]
「鋼板表面に付着した油分を含む塵の除去に於いて、鋼板プレス機への送り手前側に設けられた一続きのコンベヤー上にて、該鋼板表面に油分吸着ロールを接触させて油分を吸着させかつ該油分吸着ロールの中に浸透させて、先に油分を除去し、
その後、上記コンベヤー上にて連続して、回転ブラシロールにより上記鋼板の表面に残留する塵を掃き取ると共にエア吸入口を有するエア吸入室のエアを吸引して該塵を吸い込んで鋼板の表面に残留する塵を吸引除去し、水洗浄を行わないドライクリーニング式として除去する鋼板用異物除去方法。」である点。
[相違点3]
本件発明2では、「油分を該油分吸着ロールの内方に有する中空の回転軸の管壁に形成された油分吸引口を通じて、外気圧に対して負圧状態の該回転軸の内部へ吸引しさらに該回転軸から吸い出し」ているのに対し、刊行物1に記載の発明では、当該事項について特定されていない点。
[相違点4]
本件発明2では、「エア吸入室内に配設される回転ブラシロールにより塵を掃き取ると共に、該回転ブラシロールに付着する塵を該回転ブラシロールに当接するノズルにて吸い込」んでいるのに対し、刊行物1に記載の発明では、当該事項について特定されていない点。

相違点4については、相違点2と実質的に同じであるので、上記相違点2について検討したとおり、「回転ブラシロールに当接するノズル」により塵を吸い込み除去することは、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明2は、刊行物1に記載された発明及び従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件出願の請求項1、2に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることができない。
また、他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2006-09-22 
出願番号 特願2001-71443(P2001-71443)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 堀川 一郎鈴木 敏史  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 菅澤 洋二
中島 昭浩
発明の名称 鋼板用クリーナ装置及び異物除去方法  
代理人 中谷 武嗣  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ