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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1144379
審判番号 不服2004-19046  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-15 
確定日 2006-09-28 
事件の表示 平成11年特許願第322043号「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 5月25日出願公開、特開2001-144324〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年11月12日に出願された特許出願であって、原審において、平成16年2月3日付で拒絶理由が通知され、同年4月9日に手続補正がなされたところ、同年8月6日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月13日に手続補正がなされたものである。

2.平成16年10月13日付手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年10月13日付手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項4は、
「【請求項4】 基板上にn型窒化ガリウム系化合物半導体層、p型窒化ガリウム系化合物半導体層を含む積層構造が形成され、p型窒化ガリウム系化合物半導体層の上に透光性薄膜金属電極を形成する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法において、
透光性薄膜金属電極を形成する際に基板温度を10〜100℃に保ち、かつ前記透光性薄膜金属電極の蒸着レートを0.02〜0.05nm/secの範囲とし、かつ前記透光性薄膜金属電極はPd、Ni、Ptのいずれかからなることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法。」
と補正された。

上記補正は、請求項5に記載した発明を特定するために必要な事項である「透光性薄膜金属電極」について、さらに「前記透光性薄膜金属電極はPd、Ni、Ptのいずれかからなる」との技術的限定を付加したものであって、特許法第17条の2第4項第2号に規定された“特許請求の範囲の減縮”を目的とするものに該当する。
(なお、本件補正前の特許請求の範囲の請求項4は本件補正により削除されたので、本件補正の請求項4に係る発明は本件補正前の請求項5に係る発明に該当する。)
そこで、本件補正後の上記請求項4に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-256184号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、
a.「【0001】【発明の属する技術分野】
本発明は、p型窒化物半導体の電極および前記電極を有する半導体素子およびその製造方法に関する。」、
b.「【0022】図2は、上述したAu/Pd/(p型GaN)の電極構造を薄膜電極として採用した青色LEDチップの製造の各工程における縦断側面図である。以下、図2を用いてこのチップの製造方法を説明する。
【0023】同図(a)に示すように、サファイア基板1上にn型GaN層2、p型GaN層3をMOCVD法により形成する。そして、メサエッチングによりp型GaN層3等の一部を除去し、n-GaN層2の一部を露出する。なお、n型GaN層2とp型GaN層3との間には、発光層10が形成されている。
【0024】次に、同図(b)に示すように、発光観測面側となるp型GaN層3のほぼ全面に、Pd(膜厚20Å)とAu(40Å)の積層膜から成る透光性電極4を電子ビーム蒸着などの方法により形成する。Pdの成膜においては、成膜温度を室温、真空度を2〜5×10-6Torr、成膜速度を10Å/秒以下とした条件で行った。・・・」、
c.「【0027】・・・また、AuとPdから成る積層タイプの電極を示したが、当該Au以外の金属を用いることも可能である。更に、これら積層膜から成る電極に限らず、Pdのみからなる電極でもよいものである。なお、p型GaN層上に膜厚0.3μmのPdからなる単独膜を形成してそのI-V特性を調べたところ、図1(a)乃至(d)と同様の良好な結果が得られた。」、
が記載されている。

上記a〜cの記載事項からみて引用例には、
「サファイア基板上にn型GaN層、p型GaN層を形成し、発光観測面側となる上記p型GaN層のほぼ全面に、透光性電極となるPd(膜厚20Å)を蒸着により成膜するについて、成膜温度を室温、成膜速度を10Å/秒以下とした条件で成膜を行ったGaN系化合物半導体発光素子の製造方法。」
との事項が開示されていると認めることができる(以下、「引用例1発明」という。)。

同じく、特開平11-186599号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、
d.「【0001】【産業上の利用分野】
本発明は、窒化物半導体を備えた電子装置に関し、特にp型窒化物半導体に銀を含む電極をそなえて光学特性と光電気特性を改善した光電子装置とその製造方法とに関する。」、
e.「【0020】図2は、p電極を構成する第1層金属として銀(Ag)層21を蒸着した本発明の第1の実施例のGaN系LED20の断面図である。・・・図2のLEDは、基板2と該基板上のn型窒化物半導体層3と、n型窒化物半導体層上の窒化物半導体からなる活性層4と、活性層上のp型窒化物半導体層5と、p型窒化物半導体層上の銀層21と、を備えたLED部材をパッケージ8にボンディングしたLEDの一実施形態として窒化物半導体としてGaN系半導体を選択したものである。・・・」、
f.「【0025】Agを蒸着するときの蒸着速度、および蒸着中のサファイア基板2の温度を変えることにより形成されたLEDチップの特性が変化する。この特性変化を調べるためまずこれら蒸着速度と温度とを変えてLED部材を多数形成した。これらLED部材は、図3の工程36を終了した時点のLED部材でアニール1をおこなう前に得られる。各LEDチップを入力電流20mAで室温連続動作させその発光強度の時間変化を測定した。銀の蒸着時にサファイア基板2の温度を室温とし、蒸着速度を0.1nm/秒として形成したLEDチップの発光強度は連続動作開始後30分でに、連続動作開始時の発光強度の5%以下に減少した。
【0026】これに対して、サファイア基板2の温度を200℃にし、蒸着速度を0.03nm/秒として形成したLEDチップでは30分以上連続動作させても発光強度はまったく減少せず、長時間連続動作でも発光強度が減少しないことが確かめられた。サファイア基板2の温度を室温とし、蒸着速度を0.03nm/秒として形成したLEDチップでは30分以上連続動作させると発光強度が動作開始時の60〜80%になる。サファイア基板2の温度を200℃とし、蒸着速度を0.1nm/秒として形成したLEDチップでは30分以上連続動作させると発光強度が動作開始時の約90%になる。
【0027】極端な高温では蒸着された銀が島状になってしまうので電極として使用することはできない。サファイア基板2の温度を更に高くすると蒸着速度が0.03nm/秒でも400℃近くから銀の被着が不均一になりだし、蒸着速度が高いと更に低い温度でも銀の被着が不均一が生じる。この不均一が生じると銀層の抵抗値が上昇し、その光散乱が増加するとともにLEDの上記発光強度の経時減衰が速くなりLEDは実用に供し得ない。以下に詳細に述べるが実施例のLEDチップはアニール1、2の前後いずれにおいてもこのような測定結果となった。
【0028】このような実験の結果、銀層の蒸着は蒸着速度を約0.05nm/秒以下とし、サファイア基板2の温度を200℃以下とするのが好ましいと判明した。LED製造の効率を考えれば、蒸着速度は高い方がよいが、高速過ぎれば銀の層の品質がさがる。また、製造の容易さからサファイア基板2の温度を室温等のより低温とすれば、良好な銀層の品質を得るため蒸着速度をより低くする必要があり、0.03nm/秒以下にするのがよい。上記のようにサファイア基板2の温度を200℃近傍にし、蒸着速度を0.03nm/秒近傍に選ぶのが得策である。
【0029】また、銀層の蒸着速度とLED部材の基板温度とを可変して、発光強度を測定し製造プロセスに対するより適切な銀層の蒸着速度と基板温度とを決定するのがさらに好ましい。この場合、Ag層における出力光の輝度分布の均一性も良好であることが好ましい。」、
が記載されている。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用例1発明とを以下に対比する。
ア.引用例1発明の「サファイア基板」、「n型GaN層、p型GaN層を形成し」、「透光性電極」、「Pd」は、それぞれ本願補正発明の「基板」、「n型窒化ガリウム系化合物半導体層、p型窒化ガリウム系化合物半導体層を含む積層構造」、「透光性薄膜金属電極」、「Pd」に相当する。
イ.Pdの成膜条件について両者を比較すると、引用例1発明の「透光性電極となるPd(膜厚20Å)を蒸着により成膜するについて、成膜温度を室温」とした点については、「成膜温度」が成膜をする際の基板温度を意味することは技術常識であり、また、上記「室温」が、本願補正発明のPdの蒸着時の基板温度である「10〜100℃」の範囲内であることは明らかであるから、引用例1発明は、「透光性薄膜金属電極を形成する際に基板温度を室温に保ち、かつ前記透光性薄膜金属電極はPdからなる」点で本願補正発明と一致する。

したがって両者は、
「基板上にn型窒化ガリウム系化合物半導体層、p型窒化ガリウム系化合物半導体層を含む積層構造が形成され、p型窒化ガリウム系化合物半導体層の上に透光性薄膜金属電極を形成する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法において、透光性薄膜金属電極を形成する際に基板温度を室温に保ち、かつ前記透光性薄膜金属電極はPdからなる窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点]本願補正発明の蒸着レートは、「0.02〜0.05nm/secの範囲」であるのに対して、引用例1発明の成膜速度(蒸着レートに相当)は、10Å/秒(1nm/sec)以下であって、本願補正発明のような具体的な範囲ではない点。

(4)判断
上記引用例2には、p型窒化ガリウム系化合物半導体層の上に透光性薄膜金属電極を蒸着形成するに際し、基板温度と蒸着速度(蒸着レートに相当)とを変えることにより形成されたLEDチップの特性の変化を調べた点が記載されている(上記f.)。
それによれば、
1)サファイア基板の温度が極端な高温では蒸着された銀が島状になってしまうので電極として使用することはできない。
2)LED製造の効率を考えれば、蒸着速度は高い方がよいが、高速すぎれば銀の層の品質がさがる。
3)製造の容易さからサファイア基板の温度を室温等のより低温とすれば、良好な銀層の品質を得るため蒸着速度をより低くする必要がある。銀の場合、具体的には0.03nm/秒以下にするのがよい。
ことが理解できる。

そこで、上記1)〜3)の知見を本願補正発明における蒸着レートの選択に適用することが可能であるかについて検討するに、引用例2に記載された透光性薄膜金属電極材料はAgであって、本願補正発明のPdとは異なるとしても、基板温度の高低および蒸着速度の大小が成膜品質に及ぼす影響ないしはその技術的な意義については、上記1)〜3)の事項が蒸着材料に拘わらず適用可能な一般的技術知識であるといえるから、蒸着レートの選択に当たって上記1)〜3)は、当業者が当然考慮すべき技術事項であることは明らかである。

一方、本願補正発明において蒸着レートを「0.02〜0.05nm/secの範囲」と選択したことの理由ないしは意図については、本願明細書に明示の記載はない。
すなわち、「基板を加熱することなしに(50℃に保持し)、0.02〜0.05nm/secの範囲内の蒸着レートに制御して、トータルの平均膜厚が3nmとなるように蒸着時間を制御して形成した。」(段落【0030】(実施の形態1))、および、「基板を加熱することなし(50℃に保持)に、発光観測面上に蒸着レートが0.02〜0.05nm/secにて厚さ2.5nm形成する。」(段落【0044】(実施の形態2))と単に数値が記載されているのみであり、蒸着レートを「0.02〜0.05nm/secの範囲」と選択した根拠については何ら開示がない。
のみならず、同段落【0044】には、透光性薄膜金属電極5の上に形成するp型ボンディング電極6のNi膜についても同様な蒸着レートで成膜することが記載され、また、引用例2の上記3)には、Agの蒸着速度を0.03nm/秒以下にするのがよいと記載されていることからみて、係る蒸着レートの範囲がPd成膜に固有の特殊な値であるともいえない。

そうすると、本願補正発明の上記相違点に係る事項は、引用例1発明においてPdの蒸着レートを選択するについて、引用例2に記載された蒸着レートの選択に当たって当業者が当然考慮すべき技術事項を参酌しつつ、Pd以外の材料でも普通に採用されている蒸着レート範囲を選択したものにすぎないから、当業者が容易に想到し得たものである。

よって、本願補正発明は、引用例1および2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年10月13日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成16年4月9日付手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜10に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項5に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、次のものである。
「【請求項5】 基板上にn型窒化ガリウム系化合物半導体層、p型窒化ガリウム系化合物半導体層を含む積層構造が形成され、p型窒化ガリウム系化合物半導体層の上に透光性薄膜金属電極を形成する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法において、
透光性薄膜金属電極を形成する際に基板温度を10〜100℃に保ち、かつ前記透光性薄膜金属電極の蒸着レートを0.02〜0.05nm/secの範囲とすることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の製造方法。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、本願補正発明の「かつ前記透光性薄膜金属電極はPd、Ni、Ptのいずれかからなる」との構成を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(4)」に記載したとおり、引用例1,2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1,2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-18 
結審通知日 2006-07-25 
審決日 2006-08-15 
出願番号 特願平11-322043
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 道祖土 新吾  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 吉野 三寛
井上 博之
発明の名称 窒化ガリウム系化合物半導体発光素子及びその製造方法  
代理人 仲村 義平  
代理人 野田 久登  
代理人 深見 久郎  
代理人 酒井 將行  
代理人 堀井 豊  
代理人 森田 俊雄  

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