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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1144417
審判番号 不服2003-22810  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-06-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-25 
確定日 2006-09-25 
事件の表示 平成 7年特許願第313014号「インク組成物により記録が行われる記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月17日出願公開、特開平 9-158083〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成7年11月30日に出願され、平成15年10月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年12月25日に手続補正がなされたものである。

第2.平成15年12月25日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成15年12月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成15年12月25日付けの手続補正(以下、「本件手続補正」という。)には、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする補正事項が含まれている。
「【請求項1】 インク組成物により記録が行われる不透明度がJIS P8138で規定される不透明度として70%以上である記録媒体であって、 記録面と非記録面とを識別するために非記録面の全面または一部が彩色されてなり、上記記録面の白色度がJIS P8123で規定されるハンター白色度として70以上であり、上記非記録面の彩色が、ギャップ剤および/または滑剤を含有するインク組成物を印刷することによって行われたものであり、かつ記録面と非記録面との間に色差ΔEとして5〜10の差異を設けてなる、記録媒体。」

2.補正の適否
上記補正事項は、補正前の請求項1に記載されていた、色差ΔEの範囲「2〜20」を「5〜10」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件手続補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。

(1)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開昭59-204593号公報には、図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「インク受容面を有する被記録材において、前記被記録材の表裏を識別するための記号を具備して成ることを特徴とする被記録材。」(特許請求の範囲)、
(b)「本発明はインク受容面を有する被記録材、とりわけ、インクジェット方式の記録装置に適用する被記録材に関する。」(1頁左下欄9行〜11行)
(c)「第1図及び第2図は、夫々、本発明に係る被記録材の一実施例を示す模式的外観図である。
図1において、1は紙、布、樹脂フィルム・・・等の素材から成る被記録材4の基体であり、2は基体1上に塗工若しくはラミネートしたインク受容層である。・・・第2図は、被記録材4の特に基体1側の詳細を示したもので、基体1面に識別(判別)用記号3を設けてある。従って、この裏面がインク受容層2の面になることが即時に判別できる。この記号3は基体1に印刷したり、刻設、・・・ことにより形成することができる。その他、記号3がその背景(…基体1の地)から識別可能になるならば、いかなる形成方法を採用しても良い。又、この記号3としては、任意の形状、そして着色又は無色のものを採用することができ、更に必要により、商標名等を表わすようにすることもできる。」(2頁左上欄19行〜左下欄2行)。
これらの記載によれば、刊行物1には、「インクジェット方式の記録装置に使用される被記録材であって、インク受容層面と裏面とを識別するために、裏面の一部に着色された記号を有し、裏面の着色が印刷によって行われる被記録材。」の発明が記載されていると認められる。

同じく特開平4-298379号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(d)「【請求項1】セルロースパルプを主成分とするサイズ度1〜15秒、白色度70〜85%及び不透明度70%以上の基紙の表面側に、白色度が前記の基紙より5ポイント以上大きくかつ不透明度が50%以上の層を設け、さらにその上に、白色度85%以上及び不透明度50%以下のインク受容性被覆層を1〜20g/m2の厚さで設けたことを特徴とするインクジェット記録用紙。」
(e)「本発明はインクジェット記録用紙に関し、さらに詳しく述べれば、優れた色彩の画像特性を持つインク受容性被覆層を表面に設けるとともに用紙の表裏の判別を容易にできるようにした水性インクジェット記録用紙に関する。」(段落【0001】)
(f)「本発明で使用する基紙は、白色度が70〜85%の範囲で不透明度が70%以上のものとする。白色度が70%未満では印刷後の見栄えが劣り、白色度が85%を超えるとインク受容性被覆層の白色度との差を5ポイント以上とすることができなくなるので不適である。基紙の不透明度は、填料の種類及び添加量との関係で決まり、不透明度の高い方がインクの発色が良くて好ましい。」(段落【0012】)

(2)対比、判断
補正発明と刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1に記載された発明の「インクジェット方式の記録装置に使用される」、「被記録材」、「インク受容層面」、「裏面」、「着色」は、それぞれ補正発明の「インク組成物により記録が行われる」、「記録媒体」、「記録面」、「非記録面」、「彩色」に相当するから、両者は、
「インク組成物により記録が行われる記録媒体であって、記録面と非記録面とを識別するために非記録面の一部が彩色されてなり、上記非記録面の彩色が、インク組成物を印刷することによって行われたものであり、かつ記録面と非記録面との間に色差に差異を設けてなる、記録媒体。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:補正発明では、記録媒体が「JIS P8138で規定される不透明度として70%以上」であり、「記録面の白色度がJIS P8123で規定されるハンター白色度として70以上」のものであるのに対し、刊行物1記載された発明は、記録媒体として、紙が例示されているものの、不透明度、記録面の白色度は限定されていない点。
相違点2:非記録面の彩色が、補正発明は、ギャップ剤および/または滑剤を含有するインク組成物を印刷することによって行われたものであるのに対し、刊行物1に記載された発明はどのようなインクにより印刷されたものか不明な点。
相違点3:補正発明は、記録面と非記録面との間に色差ΔEとして5〜10の差異を設けてあるのに対し、刊行物1に記載された発明は、記録面と非記録面との間に色差がどの程度であるか不明な点。

上記相違点について検討する。
相違点1についてみると、刊行物2には、記録面にインク受容層を設けたものにおいて記録面の白色度を70以上とすること、インクの発色性を良好にするために、記録媒体の不透明度を70%以上とすることが記載されており、記録媒体として「JIS P8138で規定される不透明度として70%以上」で、「記録面の白色度がJIS P8123で規定されるハンター白色度として70以上」のものを使用することは当業者が容易になしうることである。
相違点2についてみると、記録媒体の非記録面(裏面)に、ギャップ剤や滑剤を含む層を設け、記録媒体の搬送性を良好なものとすることは、本願明細書に従来技術として記載された特開昭62-163586号公報、特開平6-55830号公報に記載されているように本願出願前周知であり、非記録面に印刷する彩色の面積が大きく、記録媒体の搬送性に影響を与えるような場合に、インク組成物にギャップ剤や滑剤を含有させることは、当業者が適宜なしうる程度のことである。
相違点3についてみると、刊行物1に記載された発明は、彩色部を背景部から識別するものであるから(摘記事項c)、彩色部は背景部と識別可能な色差を有していることは明らかであり、刊行物1に記載された発明の記録媒体は、表裏とも白色であるから、彩色部の色は、非記録面だけでなく記録面とも識別可能な色差を有していることは明らかである。また、非記録部の彩色を記録面に裏写りしない程度とすることは当然のことである。そして、本願明細書の記載には、ΔEが2以上であれば識別が可能であり、20であれば裏写りしないことが記載されており、また、裏写りの程度は記録媒体の厚さや密度によっても異なるものであって、ΔEを特に5〜10に限定した点に格別の技術的意義は認められず、彩色を識別可能で、裏写りしないものとするため、記録面と非記録面との間の色差をΔE5〜10程度とすることは当業者が容易になしうることである。
なお、請求人は、審判請求の理由において、刊行物1に関して、記録媒体に実際に物理的に識別標識を設けて紙の表裏判別を行うことを特徴とするものであり、本願発明とは技術思想を異にするものであること、本願発明による記録媒体には、識別のための標識を設けるものではなく、記録面と非記録面との間に色差ΔEにより表裏の識別を容易としていると主張しているが、補正発明は、記録媒体に関する発明であって、識別手段は何ら限定されていない。また、請求項2及び明細書の段落【0014】には、非記録面の一部の彩色はバーコードでもよいことが記載されており、補正発明の非記録面の一部の彩色と、刊行物1に記載された識別用記号とはいずれも識別用の彩色である点で差異がない。
そして、刊行物2には、記録面と非記録面に白色度で5以上の差を設け、記録面と非記録面との間の色差ΔEにより表裏の識別することが記載されており、刊行物1に記載された発明において実質的に存在する識別用記号の色と記録面の色の差を利用して、表裏を識別することも適宜行い得ることであり、補正発明の効果は刊行物1、2に記載された発明から予測できる程度のことである。
したがって、補正発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件手続補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願の請求項に係る発明
平成15年12月25日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成15年7月15日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。
「【請求項1】 インク組成物により記録が行われる不透明度がJIS P8138で規定される不透明度として70%以上である記録媒体であって、 記録面と非記録面とを識別するために非記録面の全面または一部が彩色されてなり、上記記録面の白色度がJIS P8123で規定されるハンター白色度として70以上であり、上記非記録面の彩色が、ギャップ剤および/または滑剤を含有するインク組成物を印刷することによって行われたものであり、かつ記録面と非記録面との間に色差ΔEとして2〜20の差異を設けてなる、記録媒体。」

2.刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物1、2には、前記「第2.2.(1)」に記載したとおりの事項が記載されていると認める。

3.対比・判断
本願請求項1に係る発明は、補正発明で限定されていた、ΔEの範囲「5〜10」を、さらに広い「2〜20」の範囲にしたものである。
そうすると、請求項1に係る発明の特定事項を全て含み、さらにΔEの範囲を限定した補正発明が、前記「第2.2.(2)」に記載したとおり、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、請求項1に係る発明も、同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-02 
結審通知日 2006-08-04 
審決日 2006-08-15 
出願番号 特願平7-313014
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 秋月 美紀子
岡田 和加子
発明の名称 インク組成物により記録が行われる記録媒体  
代理人 紺野 昭男  
代理人 吉武 賢次  
代理人 横田 修孝  
代理人 中村 行孝  

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