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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1144499
審判番号 不服2004-25770  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2005-04-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-12-16 
確定日 2006-09-27 
事件の表示 特願2003-341712「抗真菌組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月21日出願公開、特開2005-104916〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成15年9月30日の出願であって、平成18年6月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜7のうち請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。

「[請求項1]
アリルアミン系抗真菌剤に、脂肪酸エステル、粉末成分1.5〜7.0重量%、アルコール系溶剤2.994〜7.49重量%(噴霧剤を含む)および鎮痒成分を配合してなる、湿潤型の表在性真菌症の治療効果に優れた抗真菌組成物。」 (以下、これを「本願発明」という。)

2.引用例の記載の概要

これに対し当審が拒絶理由通知書において引用した刊行物には以下の事項が記載されている。

・特開平8-12964号公報(以下引用例Aという。)
(a1) 従来より、色々な使用目的(例えば…制汗、・・消毒乾燥、水虫の治療など)に応じた粉末エアゾール組成物を、対象部位(皮膚や患部など)に噴射するエアゾール・スプレーが知られている。……このエアゾール組成物は、主として粉末剤とこの粉末剤を分散・溶解させて対象部位に付着させる油脂成分とを含有し、……使用の際には、前記粉末エアゾール組成物を……噴射すると、揮発成分が蒸発し、粉末剤と油脂成分が対象部位に付着・残留してその効用を発揮する。(【0002】〜【0003】)
(a2)本発明者は・・主として粉末剤と油脂成分と一価低級アルコールとを含有する粉末エアゾール組成物であって、噴射剤とともに用いられ、この粉末エアゾール組成物全量に対して前記粉末剤が約30重量%から約80重量%配合され、前記粉末剤と前記油脂成分との合計量に対して油脂成分が約2重量%から約60重量%配合されるとともに、前記油脂成分と前記一価低級アルコールとの合計量に対して一価低級アルコールが約10重量%から約90重量%配合されたこととすることにより、対象部位に付着せしめた粉末剤が従来よりも脱落しにくいことを見出し、この発明を完成したものである。(【0006】)
(a3)前記油脂成分と前記一価低級アルコールとの合計量に対して一価低級アルコールが約10重量%から約90重量%配合されたこととしたのは、約10重量%未満の場合には付着させた対象部位から従来と同様に粉末剤が脱落し易いからであり、約90重量%を超えると油脂成分の粘着作用を損ない粉末剤が対象部位に付着し難くなるからである。(【0009】)
(a4) この実施例では、粉末エアゾール組成物全量(粉末剤と油脂成分と一価低級アルコールの合計量であり、液化石油ガスは含まず)に対して前記粉末剤を64重量%配合している。ここで、粉末剤として配合したクロトリマゾールは抗真菌剤としての効用を発揮し、リドカインは局所麻酔剤としての効用を発揮し、グリチルリチン酸二カリウムは抗炎症剤としての効用を発揮し、酸化亜鉛は収斂剤としての効用を発揮し、タルクは吸湿剤として機能する。(【0023】)
(a5) この実施例の粉末エアゾール組成物は、効用の発現性及び持続性に優れるという利点がある。(【0030】)
(a6) 水虫を治療するための即乾性の粉末エアゾール組成物の組成例
粉末剤
有効成分
クロトリマゾール 0.1
リドカイン 0.2
グリチルリチン酸二カリウム 0.1
塩酸クロルヘキシジン 0.02
酸化亜鉛 1.0
基剤
タルク 5.58
油脂成分
ミリスチン酸イソプロピル 2.0
アルコール
イソプロピルアルコール 2.0
液化石油ガス 89.0
合計 100.0
(実施例11,表4)

・特開2000-229845号公報(以下、引用例Bという。)
抗真菌剤含有粉末エアゾール製剤に関する発明が記載され、その従来技術として
(b1) 皮膚における真菌感染症には、白癬、カンジタ症、澱風等があり、皮膚症状としては、紅斑と落屑からなる乾燥型と、紅斑、小水疱、浸軟、びらんを呈する湿潤型とがある。……そんな中で湿潤型のジュクジュクした患部を乾かし、治療を早めたり2次感染を防止する目的で、抗真菌剤と粉末成分を配合した粉末エアゾール製剤が開発されている(段落【0002】)ことが記載されている。

・特開2003-55205号公報 (以下、引用例Cという。)
(c1)一般に言われる水虫は皮膚表在性真菌症の一種で、真菌類に属する白癬菌が人体に寄生することによって生じる疾患である。(段落【0003】)
(c2)有効成分として(a)テルビナフィン及びその塩類からなる群から選ばれる1種及び(b)リドカイン、ジブカイン、プロカイン及びそれらの塩類からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有することにより、鎮痒効果が劇的に改善されたことを特徴とする抗真菌病組成物および該抗真菌病組成物はスプレー剤、……リニメント剤等の投与形態の製剤として用いるものであること(段落【0006】)

3.対比・判断

引用例Aの実施例11の即乾性の粉末エアゾール組成物(a6)の配合成分のうち、クロトリマゾール、リドカイン、酸化亜鉛及びタルク、イソプロピルアルコール、ミリスチン酸イソプロピルは、それぞれ本願発明の抗真菌剤、鎮痒成分、粉末成分、アルコール系溶剤、脂肪酸エステルに相当する(本願明細書【0009】〜【0012】の記載を参照)。
そうすると、引用例Aには、抗真菌剤クロトリマゾールに脂肪酸エステル(ミリスチン酸イソプロピル)、粉末成分(酸化亜鉛及びタルク)、アルコール系溶剤(イソプロピルアルコール)及び鎮痒成分(リドカイン)を配合してなる抗真菌組成物が記載されているものと認められる。 そして、噴射剤である液化石油ガスを含めた製剤全重量を基礎とした場合、実施例11において本願発明の粉末に相当する成分(タルク及び酸化亜鉛)の割合は6.68重量%であり、アルコール系溶剤(イソプピルアルコール)は2.0重量%である。
そこで、本願発明と引用例Aに記載の発明を対比すると、両者は抗真菌剤に脂肪酸エステル、粉末成分1.5〜7.0重量%、アルコール系溶剤及び鎮痒成分を配合してなる抗真菌組成物である点で一致し、以下の3点で相違する。

1.抗真菌剤が前者がアリルアミン系抗真菌剤であるのに対して、後者はクロトリマゾールである点、
2.前者はアルコール系溶剤2.994〜7.49重量%(噴霧剤を含む)であるのに対し、後者はイソプロピルアルコールが噴霧剤を含む全量に対して2.0重量%である点
3.前者は湿潤型の表在真菌症の治療効果に優れたと限定しているのに対して、後者は特にこの点について記載していない点

そこで、これらの相違点を検討する。

まず、1の点については、引用例Aの粉末エアゾール組成物は制汗、消毒乾燥、水虫治療など使用目的に応じ配合される粉末剤が脱落しにくくなるよう配合組成を調整したものであり(a1)、実施例11は水虫治療薬の処方の一例として示されているものである。したがって、クロトリマゾール以外の抗真菌剤を主薬としても同様に水虫治療用粉末エアロゾール組成物とすることが可能であることは当業者が容易に理解することである。
一方、アリルアミン系抗真菌剤の1種であるテルビナフィンもクロトリマゾールと同様に水虫治療薬としてよく知られ、引例Cに見られるように、これを主薬とし鎮痒成分であるジブカイン等と共にスプレー剤、外用粉剤(c2)として使用することができるものである。
そうすると、引用例Aの粉末エアゾール製剤につき、クロトリマゾールに代えてテルビナフィンを含む公知のアリルアミン系抗真菌剤を主薬として製剤化することは当業者ならば容易になしうることである。

次に2の点についてみるに、引用例Aには一価低級アルコールの配合量に関し、油脂成分と前記一価低級アルコールとの合計量に対して一価低級アルコールが約10重量%から約90重量%という範囲で配合できることの記載がある(a2、a3)。そして、引用例Aの表1(実施例1〜9)を見ると、これらの配合例では、油脂成分と前記一価低級アルコールとの合計量に対して約10重量%から約90重量%という一価低級アルコールの量は、噴霧剤を含む製剤全重量に対する割合としては0.2〜5.4重量%の範囲である。
そうすると、低級アルコールの配合量については、引用例Aの実施例11で採用されている2.0重量%に限られるものではなく、有効成分として使用する薬剤の分散・溶解が可能で且つ均一付着が実現できる範囲内で増減することが可能であるから、例えば2.994〜5.4重量%等の範囲で配合することも当業者が適宜なし得ることである。
さらに、「湿潤型の表在真菌症の治療効果に優れた」点について検討するに、引用例C(c1)にも記載のとおり、皮膚の真菌感染症は表在性真菌症に属し、引用例B(b1)によれば、皮膚の真菌感染症には乾燥型と湿潤型があり、粉末エアゾール製剤は湿潤型に対して開発された製剤である。
そうすると、本願発明において「湿潤型の表在真菌症の治療効果に優れた」との限定は粉末エアゾール製剤の特性を単に記載したにすぎず、この点にも格別の創意は存在しない。
そして、本願明細書には、使用感試験、スクラッチ試験及び有効性試験により本願発明の効果が示されているが、引用例Aには、粉末エアゾール組成物は揮発成分が蒸発し、粉末剤と油脂成分が対象部位に付着・残留してその効用を発揮すること (a1)、即乾性の粉末エアゾール組成物が発現性及び持続性に優れていること(a5)が記載され、リドカインを配合することで鎮痒効果が得られる点も自明であるから、上記試験による効果は当業者が予測しうる範囲のものであって、これを格別顕著と評価することはできない。

したがって、本願発明は、引用例A〜Cに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-04 
結審通知日 2006-07-11 
審決日 2006-08-08 
出願番号 特願2003-341712(P2003-341712)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 明子中木 亜希  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 吉住 和之
横尾 俊一
発明の名称 抗真菌組成物  
代理人 渡邊 彰  
代理人 日比 紀彦  
代理人 清末 康子  
代理人 岸本 瑛之助  

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